2017年12月15日 (金)

困ったユーモア短編集-33- 発言の成果

 言うは安く、行うは難(がた)し・・とは、よく言われる。困ったことに、よく言われるほどには行われることが少なく、成果はなかなか得られないのが実情である。となれば、まあ、言わないよりは言った方がいい・・くらいに期待せず思っているのが発言の成果ということになる。要は、あまり期待しない方がいいぞ・・ということだ。
「消費税の風来坊のやつ、暴れるんでしょうか?」
 西部劇好きの野々原は時代劇好きの土手川(どてがわ)に訊(たず)ねた。
「ははは…もう、上げてる勘定なんじゃないか、お上(かみ)の方では」
 土手川は朴訥(ぼくとつ)に返した。
「そうですか…。やはり、荒野の決闘になるのか…」
「誰と誰が?」
「保安官と政界の野郎どもですよっ!」
 野々原は西部劇風に息巻(いきま)いた。
「保安官? お役人だろ?」
 土手川は和風に言い直した。
「ええ、まあ…」
 野々原は一応、言うべきことは言ったと土手川の顔は立てた格好で矛(ほこ)を収(おさ)めた。発言の成果はあった・・と思った訳だ。土手川は土手川で、荒野の決闘と準(なぞら)えた野々原の発言にはあえて突っ込まず、聞き流した。ひとまず、発言の成果はあった・・と感じたからだ。
 昼となり、二人は和風でも西洋風でもない中華風のラーメンで、発言の成果を共有した。

                            完

|

2017年12月14日 (木)

困ったユーモア短編集-32- 食べ物

 御津池(みついけ)が冷蔵庫を開けると、困ったことに食べ物がなかった。確か、記憶では買い置きして冷蔵庫の中は満杯のはずだった。それが、空腹状態で心勇んで開けてみれば、ほぼ空(から)に近かった。そんな馬鹿なことはないっ! と少し腹が立った御津池だったが、愚痴ったところで空のものは仕方がない。ないものはないのだ。これほど食べ物がないことを意識して思ったのは御津池にとっては初めての経験だった。今の世は飽食の時代である。お金さえ出せば、食べ物がいくらでも手に入る有り難い時代なのだ。
「ぅぅぅ…どこへいったぁ!」
 腹ペコもあり、御津池は思わず叫んでいた。叫んだあと、ふと、御津池は思った。今日は確か、土曜だったよな…と。部屋へ戻(もど)った御津池は机に置かれた小ぶりなカレンダー立てを手にした。今日は日曜だった。ということは…と、御津池は考えた。ああっ! と御津池は口走った。御津池は一週間前に買い物をしたことを頭に描いていたのである。それから買い物は今日までしていなかったのだ。当然、食べ物は御津池によって食べつくされた訳だ。昨日、御津池は、そろそろ買い物に…と思っていた矢先だった。それがどういう訳か今日になり、思い込み違いをしたのだった。そう分かったが、家の中に食べられそうな物はなかった。
「ぅぅぅ…」
 御津池は財布を手にして家を走り出ていた。向かうは本所(ほんじょ)松坂(まつざか)町! 吉良(きら)の屋敷・・ではなく、家近くにあるコンビニだった。そのとき、御津池は飢えに苦しむ他国の人々のことを、偉そうに思った。そして日本はいい国だ…と有り難さを実感しながら、通行人も気にせず買ったパンに齧(かじ)りついていた。さもしく齧る御津池の姿は、困ったことに難民そのものだった。

                          完

|

2017年12月13日 (水)

困ったユーモア短編集-31- 軽はずみ(2)

 後日談(ごじつだん)を語らないと、やはり無責任にも思え、その後の小松のパソコン対応と、その結果について語りたいと思う。別に語ってもらわなくてもいいっ! と思われる方は、お読みにならず寛(くつろ)いでいただいても構わない。
 話は前話のハプニングが起きた三日前に遡(さかのぼ)る。小松はその朝、とうとう朝食を食べず、パソコンと格闘していた。妻の直美は「変った人ねっ!」と嫌(いや)みをポツリと、ひと言、呟(つぶや)くと、出かけて行った。とうとう、『どこへ行くんだっ?』とも言えず、小松はパソコンの人になり果てたのである。なり果てた・・とは、パソコンに弄(もてあそ)ばれた・・ということだ。
 昼を過ぎると、さすがに小松も腹が減ってきたので、ひと呼吸おいて昼食にした。直美はすでに昼食の準備もしておいてくれたのだが、いい嫁だ! とも思うことなく、ガッついて食べ、無性に空(す)いた腹を満たした。人間とは妙なもので、腹が満ちると、いい発想が湧(わ)くようだ。━ 腹が減っては戦(いくさ)は出来ぬ ━ とは、まさにそれで、小松は急に閃(ひらめ)いたのだった。そして、そのとおりパソコンを操作すると、あれほど弄(いじく)っても、ウン! ともスン! とも言わなかったパソコンが、微(かす)かな音を発し復帰したのだった。それからは、アレヨアレヨという間に、元の状態へ戻っていた。腕をみると、すでに夕方近くになっていた。直美はとっくに帰り、夕飯の支度(したく)をしているようだった。小松の一日は完全にパソコンに支配されて身動きが取れず、関ヶ原の戦いに間に合わなかった徳川秀忠公のような哀(あわ)れな状態に立ち至ったのだった。
 というのがコトの経緯と結果である。小松は、物事は慎重にやらねば…と己(おの)が心を戒めた。ただ一つ、軽はずみで困った結果、やり遂げた充足感だけは小松の心に残ることになった。

                            完

|

2017年12月12日 (火)

困ったユーモア短編集-30- 軽はずみ

 思いつくまま深く考えもせず物事を何げなくやった結果、思いもよらぬ困った事態に立ち至ることがある。人は、それを軽はずみと言い、お小言(こごと)を漏らして愚痴ることになる。
 朝からゴチャゴチャとパソコンを弄(いじ)くっていた小松は、とうとうパソコンを怒らせてしまった。要は、フリーズ[凍りついたように動かなくなる状態]させてしまったのである。最初のうちは軽く弄くっていた小松だったが、「ウン!」とも「スン!」とも言わず、画面も消えて黒くなったパソコンを前に焦(あせ)りだした。そして20分後、顔つきは必死の形相(ぎょうそう)へと変化した。
「何してるの? もう朝ごはんよ?」
 キッチンから現れた妻の直美は、そんな小松を遠くから窺(うかが)い、訝(いぶか)しげに声をかけた。
「んっ? ああ…。今、いくよ」
 そして、また15分ばかりが過ぎた。
「今、いくって、全然こないじゃないっ! 先に食べるわよっ!! 私、今日、出かけるんだからっ!」
 膨(ふく)れっ面(つら)の直美がキッチンからまた現れて愚痴った。この声を聞きながら、俺としたことが軽はずみだった…と小松は後悔した。
「ああ、食べて…」
 心、ここにない小松は、パソコンのキーをああでもない・・こうでもない・・と叩(たた)きながら、感情のない言葉を返した。
 それから数日後、そのパソコンがどうなったか? は読者のご想像にお任せしたい。^^ 軽はずみは保険を付けないと危険をともなうのである。

                           完

|

2017年12月11日 (月)

困ったユーモア短編集-29- 夢という現実

 重要な明日の予定を立て、竹原は眠った。
 さて、次の日の朝である。竹原が目覚めると、予定したことは記憶していたが、困ったことに肝心の内容を忘れてしまっていた。さて、どうしたものか…と竹原は善後策を考えながら必死に思い出そうとした。
 竹原はまず、前夜のことを頭に思い描いた。歯を磨(みが)いて…寝室へ入り…メモを見たっ! そうだっ! メモだっ!! と、竹原は、これですべてが解決したぞ…とニンマリした。だが、その予想は見事に外(はず)れていた。確かにメモは走り書かれていたが、その内容は今日、予定していることとは、まったく関係のない内容に思えた。竹原は今までにも思い出せない人の顔や事物はあったが、そういうときは、あいうえお順に言葉の先頭から順々に追って思い出すことにしていた。今回は予定だから内容が大きく、忘れるはずがなかった。だが、竹原はすっかり忘れていた。時間は刻々と過ぎていく。竹原は焦(あせ)った。しかし、思い出せない。ともかく落ち着こう! とテーブル椅子へドッカ! と座った竹原だったが駄目だった。そのうちいつしか竹原はウトウトと眠気に沈んでいった。
 ハッ! と気づくと、時間はそう経(た)っていなかった。こうなっては仕方がない。食べてからにしようと、軽い朝食をとりあえず済ませた竹原は、ふたたび思い出すことに専念した。そして、小一時間が経過していった、だがやはり、竹原は予定を思い出せなかった。すると、また竹原は眠くなった。
 ハッ! として腕を見ると、時間はそう経っていなかった。というか、眠ってしまった時間よりも逆に早い時間だった。そんな馬鹿なっ! と思ったが、それは現実だった。いや、現実のようだった。まあ、いいか…と竹原は、また予定を思い出すことに専念した。だがそのとき、腹がグゥ~~っと鳴り、竹原は腹が空(す)いていることに気づいた。これは、いくらなんでも怪(おか)しいぞ…と竹原は気づいた。というのも、朝食は軽いながらも済ませた記憶があった。それは間違いなく現実に思えた。だが、夢で朝食を食べた・・とも考えられた。そう考えれば、現実に空腹な今の状況の説明がつく。夢か現実か…と竹原が思い倦(あぐ)ねたとき、竹原はハッ! とした。昨日、思い描いた予定を思い出したのである。予定は、明日の夜の献立に使う材料の買出しだった。ははは…なにも必死に思い出すほど重要なことじゃない…と竹原がニヤリとしたとき、重要な来客が来ることを思い出した。それで、材料を買うことが重要になるのか…と竹原は得心した。そしてまた、竹原は眠気に襲われた。
 気づくと、竹原は寝室で眠っていた。朝だった。夢という現実が始まろうとしていた。

                            完

|

2017年12月10日 (日)

困ったユーモア短編集-28- 甘くない

 生まれてきたのはよかったが、世の中がそう甘くないと深酒(ふかざけ)が分かったのは、困ったことに年金生活に入る少し前のことだった。神話の邇々杵(ににぎの)命(みこと)じゃないから、深酒の降臨はそうスンナリと上手(うま)くはいかず、時すでに遅し・・だったのである。ひとえに世の中を甘く見て、お供(とも)の者も少数で、整えず生まれ落ちた報(むく)いなのだが、深酒自身の責任でもなんでもなかった。だが、今更(いまさら)死んだ両親を呼び出し、愚痴(ぐち)る訳にもいかず、深酒は日々、ことあるごとに世の中は甘くない…と苦慮(くりょ)していた。そして今朝も、縁遠かった身の上を愚痴りながら、コーヒーを啜(すす)ると、口に含んだコーヒーの味は、やはり甘かった。深酒は散々、心を弄(もてあそ)ばされビターだった甘くない人生を振り返っていた。供揃(ともぞろ)えは、生まれる場合、かなり重要なのだな…と。そんな馬鹿なことを思いながら腕組みをし、「あああ…」と愚(おろ)かな溜め息を一つ吐(つ)いている間に、楽しみにしていたカップ麺がのび過ぎていた。
「あああ…」
 深酒は、また一つ、溜め息を吐いた。

                               完

|

2017年12月 9日 (土)

困ったユーモア短編集-27- 見えざる敵

 コトを運ぶ場合、それがよい場合でも悪い場合でも、はっきりと見えるならいい。だが、相手や事物が見えない場合、これが厄介(やっかい)なのである。世で生きる人々は日夜(にちや)、この見えざる敵と戦っているといっても過言ではない。雰囲気がその一例だが、目に見えないプレッシャーを肌にヒシヒシと感じるのは、見えざる敵に四方八方を囲まれ、危機に陥(おちい)っている状況を指す。
「穴場(あなば)さん、なにかいい策はないでしょうか?」
「ははは…それを私に言われても!」
 業務部長の穴場は、営業部長の行楽(こうらく)に相談されていた。実をいえば、この二人は次の人事異動でどちらが常務に昇格するか・・という出世レースの真っ最中だったのである。そのさなか、行楽が穴場に相談した・・というのは妙な話だが、これは探りをいれるために仕掛けられた口実(こうじつ)で、穴場の出方を知る様子見(ようすみ)という手法だった。相手の様子見の手法は、プロの囲碁や将棋でもよく打たれたり指されたりする。穴場はこの見えざる敵を、一刀両断で見事に払い除(の)けたのである。
「それもそうですな。お忙(いそが)しいところを失礼しました」
 行楽は笑顔で業務部長室から退去したのだが、内心は『クソッ!』っと、怒りで煮えくり返っていた。実は、見えざる刺客(しかく)を放って穴場を討ちとろうとしたのだが、ことごとく返り討ちに合った格好で、内心で渋面(しぶづら)を作った訳である。見えざる敵は、日夜、指示されたとおり、ミッション・インポッシブルで暗躍(あんやく)しているのである。

                            完

|

2017年12月 8日 (金)

困ったユーモア短編集-26- ひとつづつ

 困ったことに、一度にアレコレと諸事の仕事が舞い込み、町役場の生活環境課に勤め始めた垢毛(あかげ)は弱りに弱り、テンションを下げていた。アレもコレも…と焦(あせ)れば焦るほど、益々、捗(はかど)らず、垢毛は困った。
「どうした、垢毛?!」
 動きを止め、茫然(ぼうぜん)と立つ垢毛を見かねた先輩職員の洗湯(せんとう)は、やんわりと訊(たず)ねた。
「アレとコレ、ああ今、ソレも入って…」
 垢毛は住民から依頼があった机上の依頼書を指さした。
「ははは…馬鹿だな、お前は! こんなもの、誰だって一度にゃ出来んさ。ひとつづつ、やればいいんだ。そのうち、片づくっ!」
 自信ありげに洗湯は垢毛の頭を洗い流すかのように撫(な)でつけた。
「先輩! ありがとうこざいますっ!」
 垢毛はやる気を取り戻(もど)し、下がったテンションを上げた。急がば回れ・・とは、よく言うが、ひと纏(まと)めに諸事をやれば早いようだが、それだけ雑で間違いも生じ、結果、ひとつづつ完全に熟(こな)した方が早い・・ということになる。

                            完

|

2017年12月 7日 (木)

困ったユーモア短編集-25- 旅

 誰にでも旅心はあるだろうし、旅に出てみたいと思うことがあるはずだ。ところが困ったことに、この男、不精(ぶしょう)は一歩も家から出たがらない男だった。まあ、仕事が絵描きだった・・ということもあるが、不精は心の中で世界中を駆け巡っていたのだ。そんな訳で、不精は旅に出たがらなかったのである。いや、正確に言えば、出たがらなかったのではなく、出る必要がなかったのだ。なんといっても心の中で世界中を旅していたからだった。不精は心で旅した世界の光景を絵に描いた。ところが困ったことに、いつも心に浮かんで光景を描こうとすると、肝心の絵の具が切れているのである。さすがに何度もそういうことがあると、予備を買っておくものだ。しかし妙なことに、いつも描こうとする色が切れているのだった。そんなこともあろうかと…と、不精は絵の具の色をすべて買い揃(そろ)えておいた。結果、上手く描けた・・となりそうなところだが、そうではなかった。今度はその絵の具を置いたはずのところに絵の具がなかった。探し回った挙句、ようやく見つかった絵の具をキャンバスに搾(しぼ)り出そうとしたとき、肝心の心に浮かんだ光景は消えていた。よしっ! 今度は手元に置いたぞっ! と不精は意固地(いこじ)になったが、そのとき、握ろうとした筆が見つからなかった。そして、筆も手元にあるぞ…と不精が息巻いたとき、目が覚めた。すべてが夢だった。不精はそういういろいろがあったことで心ならずも初めて旅に出たのだが、列車の中でウトウトとし、そんな夢を見ていたのだ。ややこしい困った話である。

                            完

|

2017年12月 6日 (水)

困ったユーモア短編集-24- 決め手

 いつもいいところまで契約を纏(まと)めかけるが、困ったことに決め手を欠いて、ご破算にするという男がいた。その名を甘爪(あまづめ)という。名のとおり窮地(きゅうち)に立つと爪を噛(か)む癖(くせ)があり、某戦国武将によく似ている…と、社内では言われていた。一方、甘爪のライバルに、決め手である最後の詰(つ)めが上手(うま)く、油揚げを、かっ攫(さら)う鳶(とんび)のような男もいた。その名を皿居(さらい)という。甘爪は決め手に欠き、いつも皿居に契約を攫われていたから、ネガティブ思考になりがちだった。そこへいくと、皿居は会社のホープとして持て囃(はや)され、OL達にも人気が高かったから、いつもポジティブだった。誰の目にも、二人の出世レースは皿居で決着か・・と見えた。ところが、である。課長の内示が発表される前日、皿居は急病に襲われ、病院へ攫われていった。そして、思いもしない課長の椅子が甘爪に舞い込んだのである。出世レースの決め手は甘爪の方が一枚上だった。健康が決め手になった・・という話である。

                            完

|

«困ったユーモア短編集-23- 愚(おろ)か