2018年4月24日 (火)

隠れたユーモア短編集-63- 海老(えび)で鯛(たい)を…

 ━ 海老(えび)で鯛(たい)を釣る ━ と、世間ではよく言われる。小さな元手(もとで)で大きな利益を得るような意味で使われる場合が多いが、僅(わず)かな知恵や物で美人を仕留めたり、小さな損失を覚悟で出資し、大利益を得る商売などの場合でも使われる。だが孰(いず)れにしても、そこにはデメリット[不利益]となる隠れた魔が潜(ひそ)んでいることを当の本人達は知らない。目先の利得で、ついセコいことを考えるのが人だが、世の中はそんなに甘くはない。しっぺ返しが忘れた頃、不意に訪れ、当の本人達にデメリットを与えることになる。
 一攫千金(いっかくせんきん)を夢見て、思いどおり競馬の万馬券で法外な金を得た鹿口(しかぐち)は、それ以降、競馬場に入り浸(びた)りとなっていた。懸命に働いた挙句が借金苦となり、なんとかしようと初めて買った馬券で得た金で借金苦から逃れた・・まではよかったのだ。だが、この万馬券には隠れた魔が潜んでいたのである。実は、この万馬券は魔が釣りをして仕掛けた餌(えさ)で、態(てい)よく鹿口は鯛のように釣られたのである。競馬場がよいで、いつの間にか工場は倒産し、邸宅さえ抵当に取られた鹿口は、生き作りの刺身に調理され、魔によって美味(うま)そうに食べられようとしていた。だが、世の中とは、よくしたものである。働き者だった鹿口は、ありがたい仏さまの救いで怪我をした。救いで怪我をした・・というのは矛盾しているようだが、実はそうではなかった。競馬場へ日参(にっさん)できなくなった鹿口から魔は退散したのである。退院して以降、鹿口はまた懸命に働き、小さいながらも工場を再開できたということである。
 皆さんも鹿口のように釣られないよう、くれぐれも用心を怠(おこた)りなく! ^^ 鯛を釣ろうと、海老は巷(ちまた)に五万と撒(ま)かれているのだ

                          完

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2018年4月23日 (月)

隠れたユーモア短編集-62- 予定

 予定は不確実な未来の約束ごとである。しかもそれは予定を考えるその人自身やグループ、組織にだけ分かる内容であり、赤の他人や部外者にはまったく感知できない隠れた決めごとなのだ。だから、予定は周辺の事態により変更されたり取り消されたりする不確実なものとなる。
「さて…どうしたものか」
 早朝の校庭である。全天(ぜんてん)灰色の空を眺(なが)めながら一人の男が腕組みをしながら呟(つぶや)いた。
「天気予報は下ると言ってましたが…」
 その男の右に立つ別の男も空を眺めながら返した。
「そうか…まあ、なんとかなる! 花火を上げてもらってくれ!」
「分かりましたっ!」
 別の男は慌(あわただ)しく駆け出し、校庭から消えた。その日は馬毛(うまげ)小学校の運動会だった。予定は変えられない以上、実施か雨天順延かは即断しなければならなかった。あと少しすれば、体育委員の生徒達が登校してくる予定だった。
「なせばなるか…」
 男は少し偉(えら)ぶって、また腕組みをした。何を隠そう、この男こそ万年平(まんねんひら)の体育教師、活力(かつりょく)満(みちる)である。
「予定は未定であって確定にあらず・・かっ。ははは…」
 活力は、誰もいないのに、笑いながらまた偉そうに言った。そのとき、花火の空砲がズッド~~~ン!! と轟音(ごうおん)を響かせて灰色の空に打ち上がった。その途端、小粒の雨が降り出した。と同時に、活力の顔から笑顔が消えた。
 このように、予定は未定で確定ではなく、飽(あ)くまでも予定なのである

                           完

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2018年4月22日 (日)

隠れたユーモア短編集-61- 向上(こうじょう)

 今ある状態から、より以上の状態に進むことを向上(こうじょう)と言う。その言葉が使われるのは人の場合もあり、物の場合もある。ただ、向上ということ自体は目には見えず、捉(とら)えようのない隠れた雰囲気的な存在だ。
 とある会社の部長室である。
「最近、君の課では、ものすごく営業成績がアップしているが、何か特別な指導でもやっとるのかね?」
「はあ、これといっては…」
 課長の麦踏(むぎふみ)は部長の鋤牛(すきうし)のご機嫌を窺(うかが)うかのように小声で首を傾(かし)げた。
「そうか…。いやなに、何か・・あるのなら他の課でも・・と思ってね」
 鋤牛は次期常務の昇格候補の一人で、何がなんでも役員達に好印象を与(あた)えようと密(ひそ)かに目論(もく)んでいたのである。ところが、麦踏は別の部の鍬堀(くわほり)部長派だったから、当然、何か・・の策を言う訳がなかった。実のところ、何か・・の策は、あるにはあった。それは課員達のやる気を向上させる策だった。その向上策とは、一契約ごとに麦踏が一回、驕(おご)りの自腹(じばら)で飲み食いへ連れて行く・・というシステムだった。無料の招待だったから、誰も奮闘(ふんとう)して営業成績が向上する訳である。
「他にご用がございませんでしたら、これにて…」
「おっ! 悪かったね。つまらんことで呼んでしまった…」
「いえ…」
 丁寧(ていねい)に頭を下げ、麦踏は部長室を出た。部長室を出た途端、麦踏の顔は向上して天井(てんじょう)を見ていた。その顔はニンマリと緩(ゆる)んでいた。

         
                   完

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2018年4月21日 (土)

隠れたユーモア短編集-60- 闇に潜(ひそ)む

 よい場合でも悪い場合でも、大ごとと思えるような出来事は世間の闇に潜(ひそ)む。要は、見えないところで動いて暗躍する訳だ。
 ここは、とある柔道の道場である。オリンピックに向けて選手二人による激しい練習試合が行われていた。
「ダメだっダメだっ、お前達!! それじゃ、相手が指導差と時間切れで勝っちまうっ! 今の世界柔道は柔道であって柔道じゃないっ!」
「はあ? どういうことですか?」
「分からんやつだっ! 本来の柔道は、双方が堂々と組み手を取り合って技(わざ)を競(きそ)うものだっ! 今の世界柔道は柔道レスリングと言ってもいいっ!」
「コーチ、上手(うま)いこと言いますねっ」
 もう一人の選手が笑顔で言った。
「俺をおだてて、どうするっ!」
「ど、どうも、すみません…」
「…そうは言っても、勝たねばならん! お前達も金メダルが欲しいだろ?」
「ええ! そりゃもう!」「もちろん!」
 それを聞いた瞬間、コーチは、こいつ達は無理だな…と思った。闇に潜むオーラが二人の選手には寸分も感じられなかったからである。
「まあ、そういうことだ。二人とも、頑張れ…」
 そのとき、コーチの目に、別の一角で乱どり[練習方法の一つ]する二人の選手が目に入った。コーチは二人に闇に潜むオーラの動きを感じ取った。
「おお! そこの二人、いいぞっ!!」
 コーチは近づくと、二人を激励した。
 オリンピックが始まり、二人は金メダルを取った。
『やはりな…』
 コーチには闇に潜む何ものかの動きが見えたのである。コーチはニンマリと北叟笑(ほくそえ)んだ。

                           完

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2018年4月20日 (金)

隠れたユーモア短編集-59- 皮算用(かわざんよう)

 儲(もう)けてもいないのに、儲けがあった計算をする・・これが皮算用(かわざんよう)と呼ばれるものである。猟師が狸を獲ったつもりで見入りの金を当てにしたことを[獲らぬ狸の皮算用]と比喩(ひゆ)したことに始まるらしい。思わずニンマリとして、隠れた利得の喜びに北叟笑(ほくそえ)む訳だが、実際に利得があった訳ではないから、その結果にガックリと肩を落とすことになる。まあ、一時(いっとき)の儚(はかな)い夢ともいえる。
 経営者の金有(かねあり)は労働者派遣法を利用して人件費を減らすことで当期純利益を増やそうと、皮算用で考えた。最初のうち収益は改善されたが、企業を考えず、金のためにだけ働く労働者を増す結果となり、企業の力は衰微した。外国資本傘下に身売りする大手企業も出始めた。金有は利益の少なさに、私は金有だが、金が無いなあ…と、儲けの出ないことを馬鹿のように思った。だが、上には上があった。国は世に流通する通貨や紙幣量を増やすことでデフレを克服しようとした。しかし、このデフレはデフレではない隠れた国力の衰微(すいび)に起因していた。分かりやすく言えば、先行き不透明な不安に伴う国民の購買力低下によるものだったのである。正常な市場(しじょう)の経済状況における需給バランスの崩れに伴うデフレではなかったのだ。その結果は明々白々(めいめいはくはく)、国民は物価高に苛(さいな)まれ益々(ますます)、息苦しくなっていった。ところが、国はこれで景気回復による財源確保が…と獲れない皮算用をした。金有が考えたのは、ほんの小さい皮算用に過ぎなかったということだ。夢を見るのはいいが、皮算用はよくない。

                             完

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2018年4月19日 (木)

隠れたユーモア短編集-58- 時(とき)の風

 上手(うま)い具合に時流に乗れたのか、串丸(くしまる)が出した店は受けに受け、客が押しかけて大繁盛した。串丸は、いい風が吹いたな…と思った。だが、そう長くいい風は吹いてはくれなかった。時(とき)の風は、隠れた流れで社会に吹いている。だから、誰もその姿を見ることはできない。そして、その風に乗れるか乗れないか・・は、人それぞれなのだ。時の風は気が変わりやすく、不意に止まったり、他へ流れていってしまうから、繋(つな)ぎ止めることは至難(しなん)の業(わざ)だ。
「えっ!? そんな馬鹿な…。昨日(きのう)まであんなに売れてたじゃないかっ!」
「それはそうなんですがね。ばったり、客足が止まっちまって…」 
「原因は?」
「さあ、それが…」
 串丸が店へ出勤すると、店長の平岩が急ぎ足で串丸に近づいて訴(うった)えた。
「何か原因があるはずだ。ともかく、その原因を探せっ!」
「分かりましたっ!」
 平岩は串丸に軽く頭を下げると店員達の方へ去った。時の風はそのとき、串丸の斜め後ろで昼食を食べていた。当然、時の風の食事風景は人に見えないが、霞(かすみ)が今朝(けさ)のメイン・ディッシュだった。時の風は串丸を見ながら、ふと思った。
『原因は、もう私しかいないからですよ。仲間は他の国へ流れちまいましたからね…』
 串丸は、おやっ? と後ろをふり向いた。
「…気のせいか。ははは…そんな訳ないよな」
 誰もいないフロアを見ながら、串丸は事務室へと消えた。
『いやいやいや、気のせいじゃない。ここにいますよ』
 皆さんの周(まわ)りでは、今日も時の風が、囁(ささや)きを漏(も)らしているのです。
聞いていただけないのが実に残念です。

                           完

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2018年4月18日 (水)

隠れたユーモア短編集-57- 隠れた主張

 鋤焼(すきやき)がキッチンで妻に命じられた洗いものをしていると、中国の防空識別圏は…とガナっているテレビの声が聞こえてきた。鋤焼は思わず振り向くと、テレビ画面を見た。そこには、まあそれなりにそれなりな学者、評論家、大学の偉(えら)い先生方が討論を行っていた。鋤焼は茫然(ぼうぜん)と、ああ、そうなのか…と思った。
 洗いものを終えてテーブル椅子にドッカと座ったとき、鋤焼の脳裏に、ふと、ある思いが浮かんだ。それは、国々の隠れた主張である。それぞれの国がそれぞれに隠れた主張をすれば、隠れたところで見えない軋轢(あつれき)が生じるのは必然だ。それが、よろしくない事態だということは誰しも分かる事実なのだが、なにせ相手は見えない隠れた主張なのだから、始末が悪い。鋤焼は、予算編成会議に似ているな…と、改めて思った。鋤焼の職場では今、総務部長の鋤焼と財政部長の水滝(みずだき)が予算取りで丁々発止(ちょうちょうはっし)の渡り合いを予算編成会議で演じているところだった。今日はその途中の日曜だったのである。隠れた主張は主張力オーラが強い方が有利だな…と思えた鋤焼は、キッチン椅子から立ち上がると、その場で関係のない体力増強のスクワットを始めた。

                           完

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2018年4月17日 (火)

隠れたユーモア短編集-56- 戦国医者

 ここは再入会病院の診療内科である。
 アナウンスされた一人の中年男が病室へ入ってきた。担当医の美景(びけい)は、その男をチラ見した。これといって何の変哲(へんてつ)もない、フツゥ~の中年男だった。
「どうしました?」
「少し身体が、けだるいんです…」
「けだるい? いつ頃からですか?」
「…おととい、あたりです」
「なにか思い当たるようなことはありませんか?」
「思い当たること? 最近、仕事が忙(いそが)しく、残業続きで…」
「ははは…そういうの、よくあります。軽い過労ですねっ!」
「そういうの、よくあるんですか?」
「はい。最近、そういう方、よく来られます。疲労は上手(うま)く隠れるんですよ。隠れて蓄積(ちくせき)し、過労となってあなたの城を攻める訳です」
「城を攻める?」
「ええ、その軍勢、およそ数百」
「数百ですか?」
「ええ…。点滴とお薬をお出ししておきますから、迎え撃ちましょう!」
「はいっ!」
 二人は笑顔で固く握手した。美景は病院内で戦国医者として誰もに知られた名医だった。

                           完

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2018年4月16日 (月)

隠れたユーモア短編集-55- 組織

 一人の人間では、そう大したことも出来ないが、これが多人数となると大きなことが出来るようになる。この集団化した隠れた存在が組織である。この組織と呼ばれる人の集合体は、良いにつけ悪いにつけ、強い強制力を持ってその組織に加わる者を支配している。病院、学校、役場、消防署、警察…などのインフラ[社会資本]で働く人々は申すに及ばず、会社、工場、店など、すべての組織で働く人々を含む。当然、軍事組織もそうだ。これらは良い場合で、悪い場合はテロ集団や邪心的宗教団体、暴力的団体などが含まれる。良い悪いを問わず強制力を伴うから、人は組織には弱い。
「また、遊んでるっ! 夏休みの宿題、早くやってしまいなさいよっ!!」
「分かってるよっ!」
 学校組織の一生徒である謙太は、遊んでいて母親に叱(しか)られた。
「竹川さん、明日までに資料、頼みますよっ!!」
「はいっ! 必ず…」
 会社組織で働く次長の竹川は、部長の松山に厳(きび)しく念を押された。
「出動!!」
「はっ!!」
 消防組織の隊長である平林は、消防指令の縦池から出動を命じられた。
「あなたっ!!」
「すみませんっ!」
 夫婦組織に加わる均(ひとし)は妻の和子に帰りが遅かったことを、こっぴどく窘(たしな)められた。
「キ、キィ~~!!」
「…」
 猿組織のボス、グルムに威嚇(いかく)された二番ボスのポロは、無言で高台にある群れの見張り位置から遠退(とおの)いた。
 組織には隠れた威圧感が秘められているのだ。

                            完

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2018年4月15日 (日)

隠れたユーモア短編集-54- そうだね…

 芋貝(いもがい)は職場で隠れた仲裁名人として名を馳(は)せていた。芋貝が騒ぎの中に入れば、大よそのことは解決した。日常の職場ではそれほどの技量があるようには、とても見えない男だった。というのも、仕事のポカはよくやったし、先だっても予算書の印刷原稿をひと桁(けた)、間違えて印刷会社へ渡し、すべて議会で差し替えるという離(はな)れ技(わざ)を演じたのである。出来の悪さでは随一の大物だった芋貝が、なぜ隠れた仲裁の技量があるのか? と、財政課長の泥地(どろち)は不思議に思っていた。そんなある日、芋貝が仲裁する模様を遠目に見ていた泥地は、あることに思い当たった。芋貝は腕組みし、対立して言い合う双方を前に、「そうだね…」と頷(うなず)くのである。すると、「でしょ?!」と、頷かれた相手は味方を得たように、どうだ! とばかりに相手を見据(みす)える。すると、相手は「なに言ってるっ! コレコレシカジカでしょうがっ!」と反論する。そこで芋貝はその相手にも「それも、そうだね…」と、[そうだね…]を繰り返し、ふたたび頷くのである。結果、うなずかれた相手は「でしょ?!」と見方を取り戻(もど)したかのように、どうだっ! と、見据え返すのだ。この双方の繰り返しが幾度か続くうちに、別の仕事が双方に入り、言い争いは、いつも立ち消えるのだった。
 世の中には、聞き上手という言葉があるが、芋貝は「そうだね…」と反論せず頷く技量を持つ、隠れた達人(たつじん)だったのである。

                           完

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