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2011年10月

2011年10月31日 (月)

特別寄稿(シナリオ) コント(1) ━ バナナを見続ける男 ━

 ━ バナナを見続ける男 ━    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

  男…中年男性
  バナナ… N(男声、女声、どちらでも構わない)

○ 安アパート とある部屋 夜

 うす汚れた部屋。机の上。ただ黒ずんだひと房のバナナだけがある。それをじっと腕を組んで見続け、考え込む一人のうらぶれた男。男を照らす吊り下げられた電球一個の灯り。

○ メインタイトル「バナナを見続ける男」

○ 同 部屋 夜

 両手を合掌して、食べようとするが、ふと思いとどまる男。そして突然、絶叫し、ブツブツと呟き始める男。

男「なんでや! なんでお前は黒うなるんや。一週間はいけると思てたんや! いや、十日はな(涙声で)。お前は生命線なんやで…あかん! 黒うなったらあかん! あかんにゃで~(言い聞かせるように)」
 
 突然、語りだすバナナ。

バナナ「私はバナナです」

男「えっ? (自分の耳を、指で擦りながら)ええ~っ! それは分かったるにゃ。分かったるにゃでぇ~~。お前はバナナや。(バナナが話すということ自体を疑うように、バナナを覗き見て)」

バナナ「私は黒くならなければダメなのです。それが生命線なのです。私は食べられてナンボのものなのです。分かって下さい~(懇願するように)」

男「いや、いやいやいや、それはおかしいわ。それはあまりにもワガママや。自分勝手や。そんなら、このワイはどうなる? どうなるんやいな? 云うて! 云うてんか!(やや切れぎみに)」

バナナ「わ、私にどうしろと云われるんですか?」

男「そんなん…。今、云うたやないか。黒う、黒うならんとってくれたらそれでええんや。簡単なことやないか。バナナな君なら分かるやろ。…バナナな君か・・、これは自分でも上手いこと云えたな。ほめてあげたい。自分をほめてあげたい。なんや、こんなこと云うてたマラソン選手いたなぁ~」

バナナ「何を云っておられるんですか?」

男「なんや! なんにもないわい! 馬鹿にしくさって…(泣いて)」

バナナ「馬鹿になんぞしておりません。ただ、私は私の存在価値を述べたまでです」

男「ほなら、ワイの存在価値はどこへ行ってしもたんや? わいはバナナ以下かい! バナナ以下ならなんやねん!」

バナナ「…知りません」

男「まあ、ええわ。…百歩、譲って黒うなるのは我慢しよやないかい! (急に懇願調の声になり)ほんでいったい、どれだけもってくれんにゃいな? 十日はいけるんか? 三日は、かなんでぇ~。ほれはあかん。きつい」

バナナ「分かりました。こうしてお話ししてても、切りがありません。何とかしましょう」

男「えっ!? どないすんにゃいな?」

 バナナ、突然、純金に変身する。

男「かなんなぁ~。これでは食えんがなっ!(悲しそうに)

 バナナを見続ける男


○ エンド・ロール

 スタッフ、出演者等

 T「おわり」

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2011年10月30日 (日)

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(2)

≪脚色≫

      夏の風景

       特別編
(下)怪談ウナギ(2) 

  登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ C.I とある野原の道 早朝 
   ポチと散歩する正也。
  正也M「ポチを散歩させ、(①に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 早朝
   首から出席カードをぶら下げ、玄関から走り出る正也。
  正也M「(①)ラジオ体操へ行き、(②に続けて読む)」

○ C.I 玄関 内 朝
   ポチに餌をやる正也。
  正也M 「(②)帰って、ポチや(③に続けて読む)」

○ C.I 台所 朝
   小忙しく朝食の準備をする道子。タマに餌をやる正也。
  正也M「(③)タマに餌をやって、朝食となる」

○ 台所 朝
   食卓を囲み、食事をする四人。
  恭一  「父さんに聞いたんだが、悪い夢を見たんだってな、正也」
  正也  「んっ? まあね…」
   沈黙して食べる四人。
  正也M「夢の話は既に、じいちゃんから父さん、母さんへと伝わっていた。ここは云わザルだな…と思え、単に一語で片付けることにした」
  恭一  「ふ~ん、そうか。寝苦しかったからな…」
   箸で胡瓜のお新香を摘み、バリバリっと噛る恭一。

○ C.I 玄関 外 朝
   背広姿の恭一が出勤していく。見送る道子。
  正也M「父さんが出勤し、(③に続けて読む)」

○ C.I 子供部屋 朝
   机で夏休みの宿題をする正也。
  正也M「(③)僕は宿題を済ます(④に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 朝
   畑の見回りに出る恭之介。
  正也M「(④)じいちゃんは家の前の畑の見回りだ」

○ 台所 朝
   炊事場で雑用を熟(こな)す道子。テーブル椅子に座り、道子の様子を見遣る正也。
  正也M「母さんは? と見ると、家の雑用をしている。僕は、夢で見た小川へ早速、行ってみることにした」
   椅子を立つ正也。下にいたミケが美声でニャ~と鳴く。玄関へ向かう正也。

○ 玄関 内 朝
   靴を履く正也。台所から道子の声。
  [道子] 「暑くならないうちに戻るのよぉ~!」 
  正也  「は~~い!(可愛く)」
   戸を開ける正也。ポチがクゥ~ンと鳴く。戸を閉める正也。
  正也M「目敏(ざと)い母さんは、レーダーで僕を見ているよう
       だった」

○ とある小川 朝
   子鰻(うなぎ)を探す正也。干上がりかけた水溜りにいる子鰻。気づく正也。両手で掬(すく)い本流へと逃がしてやる正也。泳ぎ去る子鰻。
  正也M「夢に現れた小川へ行くと、確かに…お告げのように一匹の子鰻が、干上がりかけた水溜りにいた。僕は急いで本流の方へと、その子鰻を両手で掬うと逃がしてやった。勢いよく子鰻は泳ぎ始め、そのうち、、どこかへ姿を消した」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座る恭之介と正也。話す二人。
  恭之介「そうか…、まあ、いいことをした訳だな。正夢だったか、ワハハハハハ…(豪快に笑い飛ばして)」
  正也  「それはいいけどさ、枕元が濡れてたのが…」
   今朝、起きた時の超常現象について語る正也。近くで洗濯機を回す道子の声。
  [道子] 「あらっ! それ、私なの。うっかり、掃除をした時、バケツをね…慌てて…」
  恭之介「そうでしたか…(大笑いして)」
   釣られて笑う正也と道子。道子の携帯が鳴り、出る道子。
   電話の恭一と話す道子。笑って電話を切る道子。  
  恭之介「恭一からでしたか…」
  道子  「『なんだ、そうだったか…』って、笑ってましたわ」
   笑う恭之介、道子、正也。三人の続く雑談。
  正也M「これが、この夏、起きた我が家の怪談ウナギである。ただ一つ、夢の子鰻は確かに小川にいた…」
○ エンド・ロール
   炎天下の青空。湧水家の遠景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


   
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ」 をお読みさい。

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2011年10月29日 (土)

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(1)

≪脚色≫

      夏の風景
      
特別編
(下)怪談ウナギ(1)        

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・猫の
タマ、犬のポチ、妖怪鰻(うなぎ)[正也の夢に登場]

○ 湧水家の全景 昼
   灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。


○ 洗い場 昼
   日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷水。


○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
  正也M「今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十五度はある。僕は洗い場で水浴びをした
後、昼寝をしよとしている。滾々と湧き出る冷水のお蔭で僕の体温は、かなり低くなり、生温かい畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて読む)」
   熟睡する正也。


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編
(上) 怪談ウナギ


○ 書斎 昼 
   書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。スイッチの入ったままのクーラー。
  正也M「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れた
まま読みかけの本を顔に宛行いつつ、長椅子で寝ている筈だ(◇に続けて読む)」

○ 離れ 昼
   うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之介。時折り、流れる汗を手拭いで拭
く。
  正也M「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう」


○ 玄関 内 朝 回想
   出かけようと靴を履く盛装した道子。見遣る正也。犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
  道子  「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼むわね(バタついて)」
  正也  「うん…」
  正也M「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出たが、御苦労なことだ」
   玄関を出た道子。閉じられた表戸。
   O.L


○ 玄関 内 昼
   O.L
   開けられる表戸。玄関を入る道子。台所から走ってくる正也。
  正也M「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを
袋に入れて持っていた」
  正也  「お帰り!(可愛く)」
  道子  「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
  正也M「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕のせいじゃない。まあ、そんな
ことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘れたのだが…」

○ 子供部屋 夜
   リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
  正也M「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見や
すい状況だったと推測される。状況は兎も角として、夢の内容は実に怖いものだった。今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである」

○ ≪正也の夢の中≫ 武家屋敷 玄関 夕方
   江戸時代。侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿の恭一。
  正也M「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武
士の出で立ちで、城から戻った風だった。じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のように、これも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた」
  恭之介『今、立ち戻った!』
   出迎える武家の奥方の容姿の道子。稚児姿の正也。
  道子  『お帰り、なさいまし…』
  正也  『お帰り、なさい? …』 


○ ≪正也の夢の中≫ 同 部屋 夜
   膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
  恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
   楽しそうな四人。


○ ≪正也の夢の中≫ 同 子供部屋 夜
   布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚
かす妖怪鰻。
  妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化け
て出たぁ~』
  正也  『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
   問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪鰻。
  正也M 「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だか
ら仕方がない」
  正也  『ど、どうすれば許して貰えるの?』
  妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上がりかけているから、助けてくれるな
らば一命は取らずにおいてやろう…(偉そうに)』
  正也  『そ、そう致します…』
  正也M「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思ったが、息苦しかったので、そう致しま
す…などと敬語遣いで命乞いをしたようだった。怖かったのは、その小川を僕が知っていたことである」

○ もとの子供部屋 夜
   うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団
を被る正也。眠る、布団の中の正也。
   O.L


○ 子供部屋 早朝
   O.L
   目覚める、布団の中の正也。
  正也M「その後、寝つけなかったものの、早暁には、まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせい
か、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」

○ 洗面所 早朝
   パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提げて現れる恭之介。
  恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
  正也  「なんか、よく寝られなかったんだ…」
  恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、こ
ねくり回し)」
  正也  「それにさ、怖い夢を見たよ…」
  恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
   昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
  正也M「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語っ
た」
  恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲フガフガガした方が◆★フガだろう」
  正也M「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。入れ歯語の通訳
をすれば、『ほう…、それは怖かったろうな。そのお告げのようにした方がいいだろう』と、なる」

                                   ≪つづく≫

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2011年10月28日 (金)

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(2)

 ≪脚色≫

      夏の風景
 

      特別編
(上)平和と温もり(2) 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   
その他   ・・恭一の上司と同僚社員、猫のタマ、犬のポチ

○ 洗い場  昼
   空に広がる入道雲。日蔭で涼んで寛ぐタマとポチ。水浴びを終え、衣類をつける正也。滾々と
湧く水。蝉しぐれ。
  正也M「入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現すと、もう夏本番である」


○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で横になる正也。蝉しぐれ。
  正也M「恒例となってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済ませ、昼寝をした。恒例になって
しまったのは二年前のリフォーム工事からのことで、母屋では工事音が五月蠅くて寝られず、じいちゃんの離れで寝る破目に陥ったせいだ。リフォーム工事が済んだ去年の夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。…その訳は、味をしめたからである(最後の一節は可愛く)」
   片手で団扇を扇ぎながら部屋へ入る恭一。もう片方の手に持つラジコンの模型セットを枕元
へ置く恭一。
  恭一  「よく寝てるな…(小声で呟いて)」
  正也M「未だ眠っていないとも知らず、父さんは約束したラジコンの鉄道模型セットを僕の枕
元へ置いた。冬のサンタじゃあるまいし、シャイで直接、手渡せない性格が父さんを未だに安定したヒラとして存続させている原動力なのだろう。出世、出世と人は云うけれど、そんな人ばかりじゃ、偉い人だけになってしまうから、父さんは貴重な存在だと僕は思っている。それに…(◎に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 料亭 夜
   頭へネクタイを巻き、得意の踊りを披露する、赤ら顔の恭一。その芸に浮かれる膳を囲む同
僚社員や上司。
  正也M「(◎)自分の父親を弁護する訳ではないが、適度に優しい上に宴会部長だし…、(◇
に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 台所 昼
   勢いよく、包丁で西瓜を一刀両断する恭之介。それを怖々と見る恭一。
  正也M「(◇)今一、じいちゃんのように度胸がない点を除けば素晴らしい父親なのだ(△に
けて読む)」
   隣で小皿をテーブルへ置く道子。
  正也M「(△)勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだから、文句なくそれ以上に素晴
らしい」
   西瓜を見事に切り割った恭之介。恭之介の光る頭。
  正也M「更には、光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、失われた日本古来の精神を重
んじる抜きん出た逸材で、そうはいないと思える」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で熟睡する正也。蝉しぐれ。目覚める正也。枕元に置かれた鉄道
模型セットの箱に気づく正也。手に取り、喜ぶ正也。駆けだす正也。
  正也M「気にはなったが、枕元の箱はそのままにして寝入ってしまい、起きると欲しかった鉄
道模型セットの箱が存在した。ここはひと言、愛想を振り撒かねば…と思えた」

○ 居間 昼
   長椅子に座り、本を読みながらカルピス・ソーダを飲む恭一。喜び勇んで駆け入る正也。
  正也  「父さん…有難う!(笑顔で、可愛く)」
  恭一  「ん? ああ…(シャイに)」
   離れから着替えを持って現れた恭之介。正也が持つ箱に気づく恭之介。足を止める恭之
介。   
  恭之介「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな(弱々しく)」
   ふたたび歩き出し、洗い場へ向かう恭之介。
  正也M「じいちゃんは、洗い場で身体を拭く為に来たのだが、それだけを流れる汗で弱々しく
云うと、父さんには何も云わず、通り過ぎた」
   台所から声を投げる道子。
  [道子] 「お父様、お身体をお拭きになったら、西瓜をお願いしますわ」
  恭之介「オッ! 道子さん。それを待っていました(元気な声に戻り)」
  正也M「俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。やはり、達人はどこか違う…と思っ
た。平和と温もりを感じる我が家の一コマである」

○ エンド・ロール
   
よく冷えた西瓜。
   
テーマ音楽
   
キャスト、スタッフなど
   
F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」 をお読み下さい。

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2011年10月27日 (木)

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1)

≪脚色≫

      夏の風景

       特別編
(上)平和と温もり(1) 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

○ 湧水家の遠景 昼
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

○ 洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマとポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭。心地よく眠るタマ。正也を、『元気なお方だ…』と云わんばかりに見遣るポチ。灼熱の太陽。蝉しぐれ。
  正也M「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、夏なのである。じいちゃんが剣道で僕に云う、“自然体”って奴だ。…少し違うような気もするが、まあ、よしとしよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水に浸けて拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(上) 平和と温もり」

○ 台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブルに乗る切り分けられた俎板上の西瓜。賑やかに展開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったですから…。当時は涼しかったですよね」
  道子  「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西瓜を手にして)」
  恭之介「はい…。道子さんの云う通りです」
  正也M「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜塩”である。夏休みの到来は、今年も僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそうである。その予兆が先だっても湧き上った」
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)
   O.L

○ (回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄関へ向かう恭一。   
  道子  「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  道子  「あら、そうだったわ…」
  正也M「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り替わった。汗掻きの父さんは大層、喜んでいる」

○ (回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。靴を履く正也。
  正也M「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃される…と、読んでいる節がある。縁台将棋で二手先を必死に読む程度の父さんにしては大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外から引き返した恭一が戸を開ける。犬小屋のポチが、『何事だ! 朝っぱらから…』と云わんばかりに、薄目を開けて、ワン! と、ひと声、小さく吠え、また目を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒り口調の大きめの声で)…おお、いたか。(冷静になって)この前、云ってたラジコン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買ってやるからなっ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

○ (回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  正也M「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。しかし半面には、夏休みが始まっても買って貰えないといった不吉な事態も有り得る訳で、油断は禁物なのだった」

○ (回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホームルームで何やら話している。生徒達の中にいる正也。    
  正也M「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれているのだ。両親とも、そのことは知っているから、成績のことは諄々(くどくど)とは云わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のように云うのだが…。好成績でも、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう」

                              ≪つづく≫

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2011年10月26日 (水)

シナリオ 夏の風景(第十話) 昆虫採集

 ≪脚色≫

      夏の風景

      
(第十話)昆虫採集 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   
その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 子供部屋 朝
   机に向かい、夏休みの宿題をしている正也。蝉の声。手を止め、窓向こうの庭を見遣る正
也。
  正也M「まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも、もう残り少な
い」
   畑から恭之介が帰ってくる。手に西瓜を持つ恭之介、麦わら帽子を頭から取り、木の枝に吊
るす。笑顔で西瓜を撫でる恭之介。出来のいい西瓜と恭之介の頭。双方ともに、太陽光線を
受けて、眩しく光る。思わず噴き出す正也。子供部屋に響く正也の大笑いの声。そうとは知ずに西瓜の出来に満足そうな笑みを湛える恭之介。T 「0」→「09」→「09:」→「09:0」→「09:00」(SE[タイプライターで打ち込む音])

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第十話) 昆虫採集


○ 洗い場 昼
   水浴びを終え、離れに向かう正也。


○ 離れ 昼
   洗い場から離れに入る正也。
  正也M「昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は決して両親や、じいちゃんに強制
されたものではない。自然と僕の習慣となり、小さい頃から慣れのように続いてきた。だが、この夏に限って、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している
(◎に続けて読む)」
   恭之介の部屋へ入る正也。いつもの場所で眠り始める正也。T 「1」→「14」→「14:」→
「14:1」→「14:10」(SE[タイプライターで打ち込む音])
   
正也の寝顔。
   O.L


○ 離れ 昼
   O.L
   正也の寝顔。
   熟睡する正也の少し離れた所で熟睡する恭之介。T 「1」→「15」→「15:」→「15:0」→
「15:00」(SE[タイプライターで打ち込む
   音])
  正也M「今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言ブツブツや団扇バタバタ、がなかったから、
割合、よく眠れた」
   O.L


○ 離れ 昼
   O.L
   目覚めて半身を起こす正也。両腕を伸ばし欠伸をする正也。少し離れた所で熟睡する恭之
介。T 「1」→「15」→「15:」→「15:4」
   →「15:40」(SE[タイプライターで打ち込む音])


○ 玄関 外 昼
   麦わら帽、水筒、長靴姿の正也。昆虫採集網を持って走り出る正也。聞こえてくる道子の注
意を喚起する声。T 「1」→「16」→「16:」
   →「16:1」→「16:10」(SE[タイプライターで
打ち込む音]) 
  [道子] 「帽子かぶったぁ~! 熱中症に気をつけなさい!」
  正也  「はぁ~~い!(戸を閉めながら、可愛く)」
   やや離れた日陰の洗い場に見えるミケとポチが涼む姿。心地よく眠るミケ。身を伏せた姿勢
で目だけ開け、『このクソ暑い中を、どこへ行かれる…』という目つきで、出かける正也を見
守る少しバテぎみのポチ。
  正也M「四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た」


○ 雑木林 昼
   慣れたように雑木林に分け入る正也。数本のクルミの木。半ば朽ちたクルミの木の前で立
ち止まり、木を見上げる正也。T 「1」→「16」→「16:」→「16:3」→「16:30」(SE[タ
プライターで打ち込む音]) 
  正也M「虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。夜に懐中電灯を照らして採集するの
が最も効率がいいのだが、日中も薄暗い
       雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろう
と判断していた」
   木を眺めながら、クワガタを探す正也。草むらがザワザワと動く。ギクッ! と驚いて草むら
を見遣る正也。姿を現す恭之介。
  正也  「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ(安心して)」
  恭之介「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったん
で、後(あと)を追って持ってきてやった。ホレ、これ(虫除けを示し)」
   正也の首に外出用の虫除けを掛けてやる恭之介。
  恭之介「どうだ…、いそうか?」
  正也  「ほら、あそこに二匹いるだろ(木を指し示し)」
  恭之介「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」
   恭之介の話を無視して動き出す正也。
  正也M「じいちゃんには悪いが、昔話に付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した」
   静かに木へ近づき、やんわりと虫を掴む正也。その虫を籠の中へポイッと入れる正也。
  恭之介「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
   恭之介の云う通り、樹液で半ば朽ちた木端を取り、虫籠へ入れる正也。雑木林に響く蝉し
ぐれ。


○ とある畔道 昼
   とある田園が広がる中の畔道を歩く帰宅途中の恭之介と正也。T 「1」→「17」→「17:」→
「17:0」→「17:00」(SE[タイプライターで打ち込む音])
  恭之介「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうす
る。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼
       ってやれ。飼う気がなくなったら、元へ戻
してな…」
  正也M「じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている」


○ 台所 夜
   食卓のテーブルを囲む四人。夕食中。T 「1」→「19」→「19:」→「19:0」→「19:00」(S
  
E[タイプライターで打ち込む音])
  恭之介「ははは…、正也も、なかなかやるぞぉ~」
  恭一  「そうでしたか…(小笑いし)」
  恭之介「お前の子供の頃より増しだ」
   しまった! と、口を噤(つぐ)んで下を向く恭一。
  正也M「じいちゃんは手厳しい。父さんは返せず、口を噤んで下を向いた。今年の夏が終わろ
うとしていた」
   SE[タイプライターのチーン!という音])


○ エンド・ロール
  湧水家の夜の全景。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第十話」 をお読み下さい。

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2011年10月25日 (火)

シナリオ 夏の風景(第九話) ナス

夏の風景                       
      
(第九話) ナス               
    登場人物

   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・大工の留吉

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛暑。
  正也M「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。
今でいうリフォームってやつで、請負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入りをしている(◎に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
    金槌で釘を打つ留吉。かなり散らかった子供部屋。
  正也M「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠できないからだ(◇に続けて読む)」


○ (フラッシュ) 母屋の各部屋 昼
   湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…などの光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
  正也M「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は
防ぎようがないのだ(△に続けて読む)」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
  正也M「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使
わないものだから、大層、迷惑していた」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「(第九話) ナス」


○ 台所の裏口 朝
   裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留
吉。 
  留吉  「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
  道子  「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」  
  留吉  「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」
   台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。


○ 改造中の子供部屋 朝
   子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、
茶菓子が乗った盆を運ぶ道子。道子の尻について入る正也。
  道子  「ここへお茶、置いときますから…」
  留吉  「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
  道子  「あと、どのくらいかかりますの?」
  留吉  「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつも
       りでおりますが…(手を止め)」
  道子  「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
   台所へ去る道子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。正也を見遣る留吉。
  留吉  「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作
       りな(正也の手に渡し)」
  正也  「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
   渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。


○ 台所 朝
   畑から帰ってきた恭之介が道子と話している。台所へ入る正也。
  恭之介「道子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…(汗をタオルで拭きながら)」
   籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢して道子に見せる恭之介。籠の中を見
遣る正也。
  道子  「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…(少し、持ち上げて)」
   正也を見て、笑顔から真顔に戻る道子。
  道子  「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
  恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…(賑やかに笑って)」
   収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。ふと、何か思い出したように、離れへ向かう
恭之介。
  恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」
   恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
  正也M「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃ
んの頭ナスが、たくさんあり、僕を見ていた」

○ エンド・ロール
   つやつやとしたナスの山。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、 「短編小説 夏の風景☆第九話」  をお読み下さい。

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2011年10月24日 (月)

シナリオ 夏の風景(第八話) 西瓜[すいか]

≪脚色≫

      夏の風景
 
     
(第八話)西瓜[すいか] 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母[(主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


○ 洗い場 昼
   洗い場に浸けられた西瓜。麦わら帽子を被り、水浴びをする正也。離れから出てきて洗い
場を覗き込む恭之介。恭之介を見遣る正也。溢れ出た水を浴び、身体を冷やすポチ。水しぶ
きの冷気が漂う日陰で涼んで眠るタマ。 
  恭之介「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
   タマが、そら、そうでしょう、と云わんばかりに、ニャ~と鳴き、欠伸する。


○ (フラッシュ) 洗い場 朝
   畑から帰り、洗い場へ、手に持つ西瓜を浸ける恭之介。
  正也M「朝早く、じいちゃんは、家に昔からある湧き水の洗い場へ西瓜を浸けておいた」


○ もとの洗い場 昼
   洗い場近くの樹々に蝉が集く。冷水が滾々と湧く水中の西瓜。水に浸かり、また上がる、を
繰り返し水と戯れる正也。上手い具合に、日影になっている洗い場。
  恭之介「どれ、力仕事の前に、ひとつ、身体でも拭くか…」
   湧き水に濡らした手拭いで、身体を拭き始める恭之介。

  
恭之介「ふぅ~、気持ちいいのう…(誰に云うでなく)」
   
気持ちよさそうな洗い場の二人。灼熱の輝く太陽。


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   
「(第八話) 西瓜[すいか]」


○   同  昼  
   水浴びを止め、タオルで身体を拭き始める正也。
  正也M「僕は昼間、洗い場で水遊びをするのが日課となっている。というのも、これからじい
ちゃんの離れで昼寝をしなければならないからだ。別にどこだって寝られるじゃないか…と思うだろうが、じいちゃんの離れへ行かねばならないのには、それなりの理
由がある。それについては、後日、語ることにしよう(◎に続けて読む)」
   身体を拭き終え、衣類を身に着けている正也。
  正也M「(◎)で、そうなると、じいちゃんは電気モノ嫌いという困った癖があるから、体を充
分に冷やしておかないと眠れない訳だ。そこで、昼寝前の水遊びが日課となった…
とまあ、そういうことだ」
   衣類を身に着け終え、家へ入ろうとする正也。
  恭之介「おい、正也。お前も食べるな?」
   立ち止まって振り返る正也。日陰の洗い場に腰を下ろした流れる汗姿の恭之介。
  正也  「うん!(可愛く、愛想をふり撒いて)」


○ C.I 離れ 昼
   汗だらけで団扇を忙しなくバタバタと動かす恭之
介。
  正也N「じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと信じている節がある」


○ 洗い場 昼
   滾々(こんこん)と湧く水が勢いよく流れる。澄んだ水。
  正也M「この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるのだろう…と、いつも僕は不思議に思
っている。知ってる限り、枯れたことはな
       く、滾々と湧き続けているのだ」


○ 台所 昼
   食卓テーブルに置かれた俎板。俎板の上の西瓜。包丁で今にも西瓜を切ろうとしている恭
之介。恭之介を取り囲んで見守る恭一、正也。見事に切る恭之介。
  正也M「家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! 
っと、凄まじい声を出して切り割った。流石、剣道の猛者(もさ)だけのことはある…と
思った」
  恭一  「父さん、私は一切れだけでいいですよ…( 遠慮ぎみに)」
  恭之介「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐらいいはガブッといけ!(手に持った
包丁で、切った西瓜を示して)」
   テーブルより、少し避難して離れる正也。
  正也M「じいちゃんは、包丁を持ったまま御機嫌が斜めだ。弾みでスッパリ切られては困る
が、その危険性も孕む」
   炊事場から道子が近づく。
  道子  「お父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ(遠慮ぎみに)」
  恭之介「道子さん、あんたも、たんと食べなさい」
   笑って首を縦に振る道子。


○ 台所 昼
   食卓テーブルで西瓜を食べる四人。上品に頬張る恭一。わずか四、五口で一切れ食べ尽く
す恭之介。普通に食べる道子と正也。恭之介の食いっぷりに見とれる三人。
  恭之介「恭一、お前が買ってきた殺虫器な。アレは実にいい、よく眠れる…(五切れ目を手
しながら)」
  恭一 「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確か…(暗に殺虫器は電気式だと強調
して)」
  恭之介「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、いいんだ!(怒り口調で)」
   顔を赤らめて怒る恭之介。恭之介を見遣る正也。
  正也M「じいちゃんも現金なもんだ…と、僕は思った。猛暑日は、今日で四日も続いている」


○ エンド・ロール
   青空に炎天下の太陽。集く蝉の声。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は 
「夏の風景 ☆第八話」  をお読み下さい。

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2011年10月23日 (日)

シナリオ 夏の風景(第七話) カラス

≪脚色≫

      夏の風景

     
 
(第六話)肩叩き   

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


 (回想) 玄関 外 早朝
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出
る道子。
  道子  「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。玄関戸を閉め、家を出ていく道子。玄関の外景。
   O.L


○ もとの玄関 外 早朝
   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた道子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い道子。
  正也M「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由
来する」


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第七話) カラス


○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める道子。何
やら呟いて愚痴っている。耳を欹(そばだ)てる正也。
  正也M「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さん
は、様相が一変していた」
  [道子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [道子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで、正也を見据える道子。
  道子  「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  正也M「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱
が原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「道子さん、飯はまだかな…(炊事場の道子を見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う道子。
  道子  「はい、今すぐ…」
  正也M「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠った、と表現した
方がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハム
エッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、焼き魚などを次々に運ぶ道子。それを次々に手際よく並べる正
也。無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
  道子  「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながらトーストを齧って)」
   箸を止める恭之介。
  道子  「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅
子に座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方で
なんとかするだろう…」
  道子  「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、道子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やってるんじゃないぞ。熊野辺りでは、カラスを神の遣(つか)いとして崇(あが)めると聞く。まあ、見なかったこと
にしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  正也M「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  正也M「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」


○ エンド・ロール
   逃げるようにそそくさと立ち上がり、出勤していく恭一。食事を続ける三人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は「短編小説 夏の風景☆第七話」 をお読み下さい。

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2011年10月22日 (土)

シナリオ 夏の風景(第六話) 肩叩き

≪脚色≫

      夏の風景

      
(第六話)肩叩き 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 庭 夕方
   庭に打ち水をしている正也。縁台に座って肩を摩(さす)る恭之介。縁側の床板の上で心地よく寝
ているタマ。その横で二人を見つめるポチ。ひと息、入れる正也。
  正也M「じいちゃんが、珍しく肩を摩っている。じっと見ていると、今度は首を右や左に振り始めた。縁
台に座るじいちゃんと庭の風情が、実によくマッチしていて、どこか、哀愁を感じさせる」
   西山へ帰っていく鴉の鳴き声。オレンジと朱色に染まった空。白色に近い煌めきの光線を放ち、西
山へ近づく夕陽。


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「(第六話) 肩叩き」


○ 庭 夕方
   バケツを片づけ、恭之介に近づく正也。
  正也  「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
  恭之介「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。ハハハ…わしも歳だな(少し気弱に云い、小
笑いして)」
  正也M「気丈なじいちゃんの声が、幾らか小さかった」
   恭之介の後ろに回り、肩を叩き始める正也。
  恭之介「ん…よく効く…効く(気持よさそう)」
   暫(しばら)く叩く正也。
  恭之介「すまんが今度は軽く揉んでくれ(優しい声で)」
   素直に、叩きから揉みへと動作を移行する正也。
  恭之介「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
  正也  「へへっ…(照れて、可愛く)」
   揉み続ける正也。心地よさそうな表情の恭之介。
  正也M「僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃんは大物に違いない。案の定、ひと通り終えた
頃、じいちゃんの方から仕掛けてきた。これには参った」
  
恭之介「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」
   ギクッ! として、動作を止める正也。
  正也  「うん、まあ…(可愛く、暈し口調で)」
  恭之介「男らしくはっきり云え。買ってやるから…」
  正也M「僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲しいと云った」
  恭之介「では、明日にでも一緒に店へ行ってみるか…」
  正也  「ほんと?(可愛く)」
  恭之介「武士に二言はない!(厳しく)」
   廊下のガラス戸を開け、呼ぶ道子。
  恭之介「夕飯ですよ~、お父さん。正也も早く手を洗いなさい」
   すぐに窓を閉め、引っ込む道子。
  恭之介「さあ飯だ、飯だ」
   縁台を勢いよく立つ恭之介。恭之介の頭に止まる一匹の蚊。
  恭之介「コイツ!」
   自分の頭をピシャリと叩く恭之介。スゥ~っと飛び去る蚊。
  恭之介「殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…
       (声高に笑い)」
   山へ沈む夕陽と、夕陽を受けて輝く恭之介の頭。
  正也M「僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。夕陽とじいちゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかった」


○ エンド・ロール 
   庭の夕景とオレンジ、朱色に染まる夕空。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第六話」 をお読み下さい。

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2011年10月21日 (金)

シナリオ 夏の風景(第五話) アイス・キャンデー事件

≪脚色≫

      夏の風景
      
(第五話)アイス・キャンデー事件
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 洗い場 昼
   ポチが、水が湧く洗い場から流れ落ちる水を利用して水浴びしている。タマも日陰で涼んでいる。うだるような炎天下。五月蠅いほどの蝉の集き。快晴の蒼い空。湧き立つ雲。

○ 離れ 昼
   団扇をバタバタやるが、咽返る暑気に、おっつかず、萎え気味の恭之介。その傍で昼寝する正也。外戸は開け放たれているが、風が全くない。
  正也M「今日は、朝から気温がグングン昇り、昼過ぎには、なんと、36度を突破した。いつもは気丈なじいちゃんでさえ、流石に萎えている」
   灼熱の太陽。湧き上る入道雲。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   
(第五話) アイス・キャンデー事件」

○  同  昼
   外戸のある廊下側へ移動して座る恭之介。
 恭之介「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」
   声で目覚め、恭之介の方へ寝返りをうって薄目を開ける正也。
 正也M「隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言に、安眠を妨害され目覚めた。声がした方へ首を振ると、じいちゃんは団扇をパタパタやっている。じいちゃんが電気モノが嫌いなので、僕はいい迷惑をしている」
 恭之介「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、猛暑日だとかテレビが云っとったな(呟いて)」
   ヨッコラショと立ち上がる恭之介。一瞬、足元の正也を見る恭之介。二人の目と目が偶然、合う。
 恭之介「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」
 正也  「…でもないけど(小声で可愛く)」
 正也M「そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パタパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪(おか)しい」
   一瞬の無言の間合い。
 正也  「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがあるよ。朝、二本買っといたから、一本やるよ」
 恭之介「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃあ、浴びてから戴くとするかな(笑って)」
   母屋の方へ遠ざかる、廊下を歩く恭之介。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   母屋の方から近づく、廊下を歩く恭之介。
 正也M「しばらくして、僕がまた眠りかけた頃、シャワーを終えたじいちゃんが、また戻ってきた」
   寝ている正也を覗き込む恭之介。
 恭之介「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」
 正也  「えぇーっ! そんなことないよ。ちゃんと二本、買っておいたんだからっ(少し驚いて)」
 恭之介「いや、確かになかった…」
   跳ね起きる正也。冷蔵庫のある母屋へと廊下を走り去る正也。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   冷蔵庫のある母屋から、廊下を走って近づく正也。手にキャンデーを持つ正也。    
 正也  「じいちゃんの云う通りだった…」
 恭之介「だろ?」
   無言で首を縦に振り、頷く正也。しぶしぶ手に持つキャンデーを恭之介に手渡す正也。受け取る恭之介。
 恭之介「いいのか? 悪いなぁ…(小笑いして)」
 正也M「僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残りの一本をじいちゃんにやった。消えたアイス・キャンデー。犯人は誰なのか…、僕は刑事として捜査を開始した」

○ 台所 夕方
   食事時の団欒。食卓のテーブルを囲む四人。
  恭一「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、手が出たんだが…。すまんな」
   談笑する四人。
  正也M「夕方、呆気なく犯人が判明した。犯人は父さんだった。今日は日曜で、一日中、書斎へ籠りパソコンと格闘していたのだ。僕は、まず母さんを疑っていた。あとは母さんだけと思い、父さんを忘れていたのだから、まあ、父さんもその程度のものだ」
  恭一  「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しかし正也、買った食い物は早く食べんとな」
  恭之介「そうだ、それは父さんの云う通りだぞ、正也」
   機嫌よく笑う恭之介。唐突に話しだす道子。
  道子  「今日はゴキブリ出ないわねぇ(恭一を見て)」
  恭一  「そりゃそうさ。昨日、仕掛けといたからなぁ(自慢げに)」
   得意そうに解説する恭一。仕方なく聞く三人。
  正也M「罠にかかったゴキブリが、『馬鹿馬鹿しい…』と云った。…これは飽く迄も想像だが…」

○ エンド・ロール
   台所の片隅で大きな欠伸をするタマ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第五話」 をお読み下さい。

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2011年10月20日 (木)

シナリオ 夏の風景(第四話) 花火大会

≪脚色≫

      夏の風景
 
     
(第四話)花火大会 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 台所 朝
   朝食後。食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観る恭之介と正也。沈黙が続くテーブル。テレビの
音と炊事場で道子が片づけをする
   音のみが響く。
  正也M「僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催される。とは云っても、これは、どこの家でも
出来る程度の小規模なものなの
       だが…」
   急須の茶を湯呑みに注ぎ、一気に飲み干す恭之介。
  恭之介「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
  正也  「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」
  恭之介「ん? いやぁ…。道子さんが買うと云ってたからな…(表情を少し曇らせて)」
   急に温和(おとな)しくなる恭之介。ふたたび、沈黙が続くテーブル。テレビの音のみが響く。タマが
急に、ニャ~と美声で鳴く。椅子
   を立って、子供部屋へ向かう正也。


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第四話) 花火大会」


○ 玄関 朝
   出勤しようと、框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
  正也M「花火を買ってくるのは父さんの場合もあり、母さんになるときもあった。じいちゃんも買ってく
れたとは思うが、僕の記憶では一
       度こっきりだった。僕も主催者の手前、なけなしの小遣い
をはたいて買い足し、花火大会を楽しむのが常だった」
   子供部屋へ行く途中、恭一に気づき、立ち止まる正也。
 正也  「今日は、花火大会だからね(可愛く)」
 恭一  「そうだったな…。じゃあ、早く帰る(無愛想に)」


○ 台所 夜
   食後の団欒。恭之介、正也、道子が食卓テーブルを囲む。テレビが賑やかに鳴っている。
 正也M「毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間に近くの玩具屋で、お気に入りの花火を少し
買っておいた。そして何事もなく、
      いよいよ八時近くになった」
 正也  「花火はどこ? 母さん(可愛く)」
 道子  「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買ってないの」
 正也  「云ってたのに !(怨みっぽく云った後、グスンと少し涙して)}
   涙目の正也を見遣る恭之介。
 恭之介「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするんじゃない!(顔を赤くして立って叱り」
   涙ぐんだ目を擦る正也。恭之介を見上げる正也。
 正也M「僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。でも、その蛸はすぐにグデンと柔らかくなった」
 恭之介「まあ、いいじゃないか、今日でなくても…(優しく笑って)」
   蕭々と現れる風呂上がりの恭一。
 恭一  「フフフ…。正也も、まだ子供だな(ニヤリとし)」
   黙って恭一を見遣る正也。
 正也M「云われなくたって僕は子供さ、と思った」
   片隅に置いた袋を手に取る恭一。
 恭一  「お父さん。こういうこともあろうかと、ほら、今年は私が買っておきましたよ(少し自慢げに)」
 恭之介「おぉ…珍しく気が利くな、お前(笑顔で)」
 恭一「ついでにコレも買っときました(さも自慢げに)」
   殺虫剤を袋から取り出し、恭之介に見せる恭一。
 恭之介「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ(喜んで)」


○ 庭 夜
   水の入った防火バケツ。縁台と庭先に座り花火を観賞する四人。闇に綺麗な火花を落とす花火。
浮き上がる四人の姿。小さな歓声と
   談笑。時折り、ウトウトする恭之介。少し離れた芝生で、四人の様
子と花火を鑑賞するタマとポチ。
 正也M「しばらく経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱舞が広がり、四人の心を癒していった。でも、じ
いちゃんは半分、ウトウトしてい
   た」


○ エンド・ロール
   他愛もない人々だ…という目線で見る、猫のタマと犬のポチ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「短編小説 夏の風景☆第四話」 をお読み下さい。

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2011年10月19日 (水)

シナリオ 夏の風景(第三話) 疑惑

≪脚色≫

      夏の風景
      
(第三話)疑惑  

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 子供部屋 夕方
   椅子に座り、机上で絵日記を書く正也。蝉が集く声。開けられた窓から入る夕映えの陽射し。目を細める正也。
  正也M「夏休みは僕たち子供に与えられた長期の休暇である。ただ、多くの宿題を熟(こな)さねばならないから、大人のバカンスとは異質のものだ、と解釈している」
   一通り、書き終え、両腕を上へ広げて背伸びする正也。
  正也M「今日の絵日記には、父さんと母さんの他愛もない喧嘩の様子を描いた。まあ、個人情報保護の観点から、詳細な内容は書かなかったのだが、先生に知られたくなかった…ということもある」
   絵日記を閉じる正也。遠くで道子が呼ぶ声。
 [道子] 「正也~! 御飯よぉ~!」
 正也  「はぁ~い!(可愛く)」
   席を立ち、部屋を出ようとする正也。ふと、窓を閉め忘れたことに気づき、戻って閉め、溜息をつくと、また椅子に座る正也。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第三話) 疑惑」


○  同  夕方
  正也M「二人の他愛もない喧嘩の経緯を辿れば、既に三日ほど前に前兆らしき異変は起きていた」

○ 玄関 夕方
   誰もいない玄関。
   O.L

○(回想) 玄関 夕方
   O.L
   誰もいない玄関。T 「三日前」
   玄関戸を開け、バットにグラブを通して肩に担いだ正也が帰ってくる。正也が戸を閉めた途端、ふたたび戸が開き、恭一がハンカチで汗を拭きながら入ってくる。
  恭一  「ふぅ~、今日も暑かったな…」
  正也  「うん!(可愛く)」
   靴を乱雑に脱いで上がる恭一。バットにグラブを通して肩に担いだまま、恭一に続いて上がる野球服姿の正也。一瞬、立ち止まり、正也の顔を見る恭一。
  恭一  「ほぉ~、正也も随分、焼けたなぁ! (ニコリと笑い)」
  正也  「まあね…(可愛く)」
  恭一  「今月は俺が一番だったな、助かる助かる…(ネクタイを緩めながら)」
   ふたたび慌ただしく歩きだし、正也に目もくれず、足早に奥へと消える恭一。

○ (回想) 居間 夕方
   居間へ入った途端、乱雑に衣類を脱ぎ捨てる恭一。浴室へと消える恭一。
  正也M「帰ったのは僕の方が早かったのに、逆転された格好だ。父さんは乱雑に衣類を脱ぎ 散らかして浴室へと消えていた」
   居間へ入る正也。台所から居間へ入る道子。
  道子  「あらまあ、こんなに散らかして…。ほんとに困った人ねぇ(衣類を片づけながら)」
   片づけ中、ふと、ズボン横に落ちた一枚の名刺らしきものに気づく道子。クーラーで涼みながら、その様子を見ている正也。
  正也M「落ちていた紙片がどういうものなのかは子供の僕には分からないが、どうも二人の関係を阻害する、よからぬもののようだっ
       た」
   浴室から出て居間へ入ってくる恭一。クーラーで涼む正也。恭一に詰め寄る道子。
  道子  「あなた、コレ、なによ!(膨れ面で)」
  恭一  「ん  いやぁ…(正也に気づいて、曖昧に濁し)」
   正也の顔を垣間見る恭一。道子もチラッ! と、正也を見る。押し黙る二人。よからぬ雰囲気を察して、居間から退去し、子供部屋へ向かう正也。

○(回想) 子供部屋 夕方
   子供部屋へ入る正也。机椅子に座った正也。
   O.L

○もとの子供部屋 夕方
   O.L
   机椅子に座った正也。
  正也M「その後、夫婦の間にどういう会話の遣り取りがあったか迄は定かでない。三日が経った今も、二人の会話は途絶えている。息子の僕を心配させるんだから、余りいい親じゃないように思う」
   突然、子供部屋へ入ってきた恭之介。
  恭之介「正也~、すまんがな…わしの部屋へコレをセットしといてくれ」
   蚊取り線香を正也に手渡す恭之介。
  正也  「じいちゃん、電気式の方がいいよ(蚊取り線香を受け取り)」
  恭之介「それは、わしも知っとる。だが、こいつの方がいいんだ(小笑いして)」
  正也  「ふぅ~ん…(何故かが、よく、分からず)」
   話題を変え、徐に(おもむろ)に訊く恭之介。
  恭之介「父さんと母さん、その後はどうなんだ?」
  正也  「えっ? …(恭之介の顔を見上げて)」
   沈黙する正也。それ以上は訊かない恭之介。   
  正也M「僕はスパイじゃないぞ…と思った」

○ エンド・ロール
   暮れ泥む夏の夕景。湧水家の全景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第三話」 をお読み下さい。

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2011年10月18日 (火)

シナリオ 夏の風景(第二話) 馬鹿騒ぎ

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第二話)馬鹿騒ぎPhoto

    
登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 庭 早朝
   庭の樹木で鳴く蝉。早朝の陽射し。


○ 子供部屋 早朝
   布団で眠る正也。蝉の鳴き声に薄眼を開ける正也。徐(おもむろ)に枕元の目覚ましを眠そ
うに見る正也。なんだ、こんな時間か…もう少し眠っていよう・・と、また布団を被る正也。が、辺りの明るさに半身を起こして両手を広げ、欠伸をする正也。蝉の鳴き声。窓から入る
陽射しの明るさ。
  正也M「蝉が唄っている。それも暗いうちからだから、寝坊の僕だって流石に目覚める。それ
に五時頃ともなれば冬とは違って外は明るいから尚更だ」

○ メインタイトル

   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「(第二話) 馬鹿騒ぎ」


○ 庭 早朝
   半身裸の着物姿で木刀を振るい、剣道の稽古をする恭之介。恭之介の周りを元気に駆け
巡るポチ。

○ 渡り廊下 早朝
   歯を磨き終え、ラジオ体操に出ようと廊下を歩く正也。ガラス越しに見える恭之介。聞こえる
恭之介の掛け声。立ち止まり、稽古の模様を窺う正也。
  [恭之介]「エィ! ヤァー!(竹刀を振るいながら)」
   正也に気づく恭之介。
  [恭之介]「どうだ、正也も振ってみるか!」
  正也  「僕はいいよっ! ラジオ体操があるから!…」
   稽古を中断し、足継ぎ石に近づく恭之介。ガラス戸を開け放つ恭之介。
  恭之介「まっ、そう云うな、気持いいぞぉ、ほれっ!(正也の眼前へ竹刀をサッっと突き出
し)」
   恭之介の勢いに押され、竹刀を手にする正也。
  正也M「こういう主体性がないところは、父さんの子なんだから仕方がない」
   恭之介の指導通り、何回か竹刀を振るう正也。
  正也  「もう行くよ。遅れると、子供会で怒られるから…(急いでいる、と云いたげに)」
  恭之介「そうか…。じゃあ、行きなさい(素直に)」
   解放されたかのように、竹刀を置くと駆けだす正也。
   正也の後ろ姿に声を投げる恭之介。
  恭之介「帰ったら飯が美味いぞぉ~」


○ 台所 朝
   ラジオ体操を終えて台所へ入る正也。恭之介の腕を揉む道子。傍らには、起きたパジャマ
姿のまま見守る恭一。恭之介の横へ座る正也。
  恭一  「年寄りの冷や水なんですよ、父さん…」
  恭之介「なにを云うか! (激昂して)ちょいと、捻っただけだっ」
  正也M「じいちゃんが気丈なのはいいが、父さんも、もう少し話し方を工夫した方がいいだろ
う。僕の方が、じいちゃんの気性を知り尽くしているように思える」
  道子  「でもね、お父さんも、もうお歳なんですから、気をつけて下さい…(揉みながら)」
   急に、顔が柔和になる恭之介。
  恭之介「ハハハ…、お二人にそう云われちゃなぁ。まあ、これからは考えます、道子さん…」
   三人の様子を、椅子に座って見遣る正也。
  恭之介「さあ、飯にしましょう、道子さん」
   隣に座る正也に気づく恭之介。
  恭之介「おぅ! 正也も帰ってたか…。虫に刺されなかったか?」
  正也  「うん、虫除け持ってったし」
  恭之介「ああ…、アレはよく効くからなぁ」
   台所の片隅で四人を窺うタマが、馬鹿な話はやめて夕飯にしませんか? とばかりに、ニ
ャ~と鳴く。
  恭之介「さあ、飯にしよう。飯だ飯だ、飯…飯(立ちながら)」
   呆れたように恭之介を見遣る三人。
  正也M「何かに憑かれたように、じいちゃんは母さんの手を振り解(ほど)いて、勢いよく立ち
上がった」

○ エンド・ロール
   夕食風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第二話」 をお読み下さ い。

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2011年10月17日 (月)

シナリオ 夏の風景(第一話) 夕涼み

≪脚色≫

      夏の風景

      
(第一話)夕涼み 


    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 庭先 夕方
   風呂から上がり、庭先の縁台で涼む恭一。団扇で手足の蚊を払う浴衣姿の恭一。
  正也M「今年も暑い夏がやってきた。父さんは、のんびり縁台で涼んでいる。時折り、手や足
をパチリパチリとやるのは、蚊のせいだ(◎に続けて読む)」

○ 子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに恭一を眺める正也。
  正也M「(◎)僕は、その姿を勉強机から見ている(△に続けて読む)」


○ 台所 夕方
   夕食準備のため、炊事場で小忙しく動く道子。
  正也M「(△)母さんは、と云うと、先ほどから台所付近を夕餉の支度で、小忙しく動き回って
いる (◇に続けて読む)」


○ 庭 夕方
   軒(のき)に吊るされた風鈴が楚々と鳴る。ビールを縁台で飲む恭一。
  正也M「(◇)父さんは風呂上りの生ビールを枝豆をアテに味わっているから上機嫌である。
庭の風鈴がチリン…チリリンと、夕暮れの庭に涼しさを撒く」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「(第一話) 
夕涼み」

○ (フラッシュ) 庭 昼
   麦わら帽子を被り、ランニングシャツ姿の恭一。首に手拭いを巻き、高枝バサミで樹木の選
定をする恭一。 
  正也M「今日は土曜だったので、父さんは庭の手入れ、正確に云えば剪定作業をやっていた
(* に続けて読む)」


○ もとの庭 夕方
   ビールを縁台で飲む恭一。


○ 子供部屋 夕方
   勉強机から窓の網戸越しに、庭の恭一を眺める正也。
  正也M「(*)だから一汗かいたあとのビールなんだろうが、実に美味そうにグビリとやる。そ
の喉越しの音が、机まで聞こえてきそうだ」
   開いた戸から、突然、、風呂上がりの恭之介が入り、正也の背後に立って机上を覗き込
む。
  恭之介「おう! 頑張っとるじゃないか…(云いながら正也の頭を撫でつけ、笑顔で)」
   驚いて、振り返る正也。
  正也M「急に後ろから頭を撫でつけた無礼者がいる。振り返れば、じいちゃんが風呂上りの
赤く茹であがった蛸になり、笑顔で立っていた」
  正也  「なんだ、じいちゃんか…(笑顔で、可愛く)」
  恭之介「正也殿に、なんだと申されては、埒(らち)もない」
  正也  「…(意味が分からず、無言の笑顔)」
   そのまま、ただ笑いながら居間へ立ち去る恭之介。


○ 居間 夕方
   居間へ入る恭之介。庭先の足継ぎ石へ下りる恭之介。
  正也M「僕の家には風呂番という一ヶ条があり、今日は、じいちゃんが二番風呂だった。この
順はひと月ごとに巡ぐるシステムになっている。提案したのは僕だが、母さんにはすまないと思っている。終いの湯があるから…と、母さんは笑いながら僕の提案を抜けると宣言したのだ。男女同権の御時世からすれば、時代遅れも甚(はなは)だしいことは、小
学生の僕にだって分かる」

○ 庭 夕方
   徐(おもむろ)に縁台へ座る恭之介。二人の間に置かれている将棋盤と駒箱。
  恭之介「恭一、また…どうだ」
  恭一  「お父さん、もう夕飯ですから…(やや迷惑顔で、遠慮しながら、残ったビールを飲み
干し)」
  恭之介「いいじゃないか。お前…確かこの前も負けたな。もう勝てんと音をあげたか?(フフフ
ッ・・・と笑いながら、縁台上の殺虫剤をブシューっとやり)」
  恭一「違いますよ!」
  恭之介「なら、いいじゃないか(即座に返し)」
  恭一「分かりました。受けて立ちましょう(やや依怙地になり、即座に返し)」
   慣れた手つきで、瞬く間に駒を並べ終え、盤上に視線を集中させる二人。


○ 子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに二人を眺める正也。突然、道子が現れ、正也の背後に立つ。
机上に置かれた蚊取り線香から流れる
   煙。
  道子  「正也!…早く入ってしまいなさい (やや強く)」
  正也M「母さんの声が背後から飛んできた。僕は勉強をやめ、風呂へ入ることにした。蚊が
机の上へ無念そうにポトリと落ちた」


○ エンド・ロール
   将棋を指す恭之介と恭一。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は 「短編小説 夏の風景☆第一話」  をお読み下さ

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2011年10月16日 (日)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹(3)

         春の風景       水本爽涼 Photo_5

    特別編 僕に妹(3)       

 前回、軽く匂わせた、あの、後日談である。あの、の、あのは、愛読者の方にはもう分かって戴けたと思うが、初めて読まれる方の中には、どういうことだ? と、首を傾げる方もおられると思うので、改めて大まかに説明させて貰うことにしたい。
 いろんなことがあって大変だったが、漸(ようや)く無事に妹が生まれ、その顔を僕が…だと思ったところ迄が前回であった。
 さて、その顔なのだが、後から人に聞いたところによれば、生まれたての赤ん坊は大概、梅干しのような赤ら顔で、皺くちゃの顔が普通だということである。と、いうことは、取り分けて僕の妹だけが…だった、ということではないらしいのだ。それは兎も角として、今迄はじいちゃん、父さん、母さんそして僕の四人で巡っていた湧水家の風景が、生まれた妹を含んで五人で巡ることになったということだ。さてそうなると、僕が描いてきたこれまでの風景は、妹を含めて新たに書き直さねばならないのではないか…という素朴な疑問が生まれてくるのである。勿論、『何を云っとるんだ! これ迄はこれ迄。これからは、これからなんだから、新たに書き足せばいいじゃないか』と仰せの方も多くおられると思う。確かに僕もそう思えてきている。そういうことで今後、新たに書き足すという展開になることも予想され、その辺りは期待を含めて見守って欲しいと云っておきたい。
 生まれて暫くは産院にいた母さんも漸く我が家に戻り、家は一応の安定を取り戻したのだが、何かにつけて今迄とは変化が生じ始めた。まず第一は、じいちゃんが父さんに対して少し怒らなくなった・・ということである。その二は、今迄、家事などには見向きもしなかった父さんが、陰ながら母さんを手助けし始めた・・という大変化だ。これには僕も正直なところ少し驚いたが、僕が今迄してきた手助けが減って楽になるというメリットもあるので、これはこれでいいと思えた。妹への世話、具体的にはオムツの替えとか、ミルクとか、入浴と着替えとかの母さんの負担が極端に増えたこともあり、父さんと僕も何かと細やかに気遣いするようになっていった。
 全く変わらず、泰然自若と我が人生を謳歌している大物は、ご存じの、じいちゃんである。じいちゃんは、やはり神々しい頭を照からせ、光背のような輝きで家族を見守る、有難いお方なのである。                                             
                                   完

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2011年10月15日 (土)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹(2)

         春の風景       水本爽涼 Photo_4

    特別編 僕に妹(2)       

 さて、その後である。何のその後なんだ! と、おっしゃられる方もおられると思うが、分かる人には分かって戴けると思うから、敢えてその後として、深く追及しないで欲しいと思う。
 で、その、その後は、家族みんなが母さんに気を遣うことが多くなっ
た。特に、お産が迫った年末から年始にかけては気遣うという域を超え、それはもう、針が転(こ)けてもビクッ! とする日々の連続だった。とは、少しオーバーな云い方なのだが…。産院のサービスが悪いのか、なかなか入院させて貰えないといった事情もあった。大盛況といえば云い方は悪いけれど、混んでいたということもある。結果オーライだったから、よかったものの、そんなことで、母さんは大きなお腹を抱えて大変だった。当然、父さんは痩せ細るほどの気の遣いようだから大変で、じいちゃんも大層、気遣って大変だった。勿論、僕もよく分からないまま、大変だった。大変、大変で日々が過ぎ、春が春になっていた。えっ? また、分からん! と、お叱りを頂戴すると思うが、要は、春遅くの報告で始まった気遣いが年を越し、結果として初春の誕生までずれ込んだ・・ということである。だから、春が春になった訳だ。即ち、そのことは、やはりこの話が、春の風景だということに他ならない。その過程は、はしょるが、お知りになりたい方もおられると思うので、これはまたこれで、後日談で語らせて戴きたいと思う。
 さて、母さんのお腹が元通りの大きさに戻り、その中にいたと思われる僕の妹に、初めて僕が顔を合わせたのは、父さんに産院へ連れて行かれた時だった。父さんは、お産の時は無論、産院にいて、母さんに添っていた。勤めが休みだったこともあるが、出勤していたとしても、たぶん休めただろうと思う。父さんは、まあその程度の安定したヒラなのだ。これは、云っておくが、父さんの悪口ではない。安定ほど素晴らしいものはないと思えるのである。偉い人になる人は、それはそれで結構なことだが、また苦も増えると聞く。大金持ちが、挙句の果てに不幸になった、なんて話もよく耳にする。結局、小さな幸せの方が大きな幸せより本当は幸せなんじゃないかな…と、思える。僕は丘本先生に褒められる迄もなく、頭がいいように自分でも思う。だから、━ ませたガキ ━と云われないよう、直接の場合は小さく語ろうと思う。しかし、間接には存念を披歴したいと思えるから、ツイッターではないけれど、皆さんに対して呟いていきたいと思う。
 話は元へ戻るけれど、妹は実に可愛かった…というのは、世間一般で云う常套句だが、現実はもっとシビアーで、可愛くなかったといえば差し障りがあるが、…であった、と報告しておこう。…の部分の詳細は、前段と同じく、後日談に譲ることにさせて貰いたい。

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2011年10月14日 (金)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹

         春の風景       水本爽涼 Photo_3

     特別編 僕に妹       

 おめでたいことは、なにもお正月ばかりではない。なんと! 僕に妹が出来ることになったのである。勿論、この時は妹なのか弟なのかは分からなかったのだが…。ただ、僕にもそれが父さんと母さんの相互力による賜物だと、その辺りまでは分かった。しかし、それ以上のことについては、今一だった。妹が出来るというより家族が増えるということは、我が湧水家にとって、この上もない吉事と云えるだろう。じいちゃんに至っては、スキップして喜んでいた。…というのは、ちょっと誇張した失礼な云い方だが、大層、喜んでいたのは紛れもない事実である。
 夕食を食べながら僕が、「いつ、生まれるの?」と何気なく母さんに訊くと、母さんは少し、はにかみながら、「年末か来年…」とトーンをやや落として、モジモジと云った。
「ははは…、正也もこれで少し、威張れるなあ!」
 神々しく照かる蛸頭のじいちゃんは、相変わらず遠慮知らずでくったくなく、横に座る僕に云った。父さんや母さんは、何か悪いことでもしたように、そのことについては一切、触れたがらず、ただ黙って、楚々と笑うばかりだった。いつ頃? と、もう一声、訊きたかったが、そこはそれ、敢えて訊くのは止した。罰が悪そうにしている母さんをこれ以上、苦しめるのは如何なものか…と思えた、云わば子心だ。親心は一般家庭に見られる光景だが、子心のある孝行息子を持つ家は、世間広しと云えど、この湧水家だけではあるまいか。妹が生まれたその後の逸話については、後日談で語ることにしたい。
 後から思えば、その夜のみんなは少なからず意識していたようで、早めにテーブル椅子から立ったのだ。じいちゃんは離れへ戻るんだろうな…と勝手に思っていると、その剣道の猛者は居間へと入り、ヨッコラショ! と庭側の座布団へ座り込んだ。いつもの、アレか…と思えた。所謂(いわゆる)、父さんと暗黙の了解が成り立つ二人の世界の開幕である。かといって、じいちゃんは催促するでなく、自然体で徐(おもむろ)に庭の夜景を見ている塩梅(あんばい)である。そのじいちゃんに、台所の父さんも気づいたのか、これも催促された風でもなく、自然体でテーブル椅子から立ち上がると居間へ入っていった。母さんは、炊事場で後片付けの食器を洗っていた。
「正也! 早く寝なさいよ」
 テーブルに座ってテレビを観ている僕に、彼女は遠目で目敏(ざと)く云った。この辺りは、全く油断がならない母さんなのだ。僕は、「はーい!」と、可愛く愛想を振り撒いて、彼女が投げた小柄(こづか)をヒラリ! と躱(かわ)した。その時、居間から、大一番が始まる将棋の駒音と二人の笑い声が聞こえた。それに春も、ヒタヒタと音をさせて、二人が指す将棋を見物していた。

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2011年10月13日 (木)

シナリオ 春の風景 特別編(下) コラボ(2)

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編(下)コラボ(2) 

        登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 台所 夜
   
食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観ながらコップのジュースを飲む正也。廊下から聞こえる声に振り返る正也。立ち話をする恭一と道子。
  正也M「テレビを見ながら、風呂上がりのジュースを賞味していると、廊下で父さんと母さんが云い合っているのが見えた。云い合うとは、両者が相応の力を有する場合だが、いつも父さん蛞蝓(ナメクジ)は母さん塩(ジオ)にすぐ溶かされるから、この表現は少し誤
っているだろう」
   風呂上がりの恭之介が浴衣姿で台所へ入り、廊下の二人を覗き見る。
  恭之介「ん? …どうした? 恭一!(声を投げ掛け)」
   恭一は即答、出来ない。取り繕う道子。
  道子  「あら、お父様。別に大したことじゃないんですよ。うっかり、私が銀行へ寄るのを忘れ
てたもんですから!。明日のお財布が…(恭之介の方を向き)」
  恭之介「えっ? …ああ、恭一は明日、出張らしいですな」
  道子  「ええ…それで費用は会社から出るんですけどね、いつも給料加算の後払いでし
て…」
   浴衣の腹に手を入れ革財布を取り出し、中から二十枚以上、新札の一万円札を取り出す恭之介。
  恭之介「立て替えて自腹の仕組みですか…。なるほど、粗方(あらかた)は分かりました。いいでしょう! 一両ほど持って行きなさい」 
   慣れた手つきで取り出した札を指で数え、十枚ほどを道子に手渡す恭之介。

  正也M「一両? 僕は首を捻った。そ
の財布は、遠目からはブランド物のようで、高級ぽかった」
  道子  「お父様…、こんなことを、なさっちゃ…」
  恭之介「いいんです、道子さん。普段、お世話になっておるんですから…(少し照れて)。そ
れにしても、手持ちがあり、まあ、よかった…(呟いて)」
   バツが悪いのか、軽く笑いながら、場を離れる恭之介。、
  二人  「…どうも、すいません!(二人同時に恭之介の後ろ姿へ声を投げ掛けて)」
   無言でテーブル椅子へ近ずき、正也の隣へ座る恭之介。
  正也  「じいちゃんは、お金持ちなんだね?(小声で)」
  恭之介「ははは…何をおっしゃる。正也殿の足元にも及びませぬ(豪快に笑いながら)」
  正也M「訊きたかったということもあるが、僕は少々、ベンチャラぎみの言葉をじいちゃんに云
った。じいちゃんは笑いながら、お武家言葉で斬り返した」
   しまった、とばかりに頭を掻く正也。沈黙。テレビの音。


○ (フラッシュ) 台所 夜
   財布から新札の一万円札を取り出す恭之介。慣れた手つきで取り出した札を指で数え、十枚ほ
どを道子に手渡す恭之介。
  正也M「それは兎も角として、じいちゃんの金が父さんの旅費となったのだ。早い話、母さんを介して間接的に、じいちゃんと父さんがコラボした、と考えることが出来るだろう(◎に続けて読む)」


○ もとの台所 夜
   食卓テーブルの椅子に、座りテレビを観ながらコップのジュースを堪能する正也。正也の隣
で、つまみを食べながら、酒燗をチビリチビリ堪能する恭之介。
  正也M「(◎)また、じいちゃんの光る禿げ頭は、仏様の光背のような神々しい輝きなのである。これは、じいちゃんと金ピカのコラボなのかも知れない(◇に続けて読む)」


○ (フラッシュ) 茶の間 昼
   櫓炬燵を囲み、茶菓子を食べながらお茶を啜る、四人の談笑する姿。
  正也M「(◇)その輝く光に囲まれて、僕達家族は長閑な春の陽気の中を、日々、お互いにコラボしつつ暮らしている」


○ エンド・ロール
   畑でほころぶ梅の花。囀るウグイス。湧き水家の全景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は「春の風景 特別編(下) コラボ」 をお読み下さい。 

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2011年10月12日 (水)

シナリオ 春の風景 特別編(下) コラボ(1)

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編(下)コラボ(1) 


    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


○ とある小川 昼
   レンゲ、タンポポの花が咲く野原と草の生えた土の道。小川と呼ぶには細過ぎる畦のせせ
らぎで遊ぶ正也。そよ風が吹いている田園風景。ポカポカとした陽気。広がる青空。輝く太
陽。
  正也M「風が流れていた。心地いい、そよ風だった。文明が進んで科学一辺倒の世の中にな
った光景が、日々、テレビ画面に溢れる時代になったが、僕からすれば、まるで絵空事で、♪ 春のぉ小川はぁ~さらさら行くよぉ~ ♪ (唄って)なのだ」


○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編(下) コラボ」


○ 玄関 内  夕方
   玄関の戸を開けて入る正也。上り框(かまち)に腰を下ろし、靴を磨く恭一。犬小屋で熟睡中のポ
チ。
  正也  「…ただいま!」
  恭一  「おお、正也か…」
  正也M「家に入ると、父さんが珍しく革靴を磨いていた。まあ、商売道具の一つであろうし、一
応は父さんも人の子で、世間体が気になるとみえ、磨いているようだった。まさか
出世に差し障りがあるから…と考えてのことではないだろうと思う」
   上り框へ近づく正也。黒い靴クリームを革靴に塗る恭一。
  恭一  「もうじき、夕飯だぞ(靴クリームを塗りながら)」
  正也  「うん…(可愛く)」
   上り框へ上がろうと、靴を脱ぎかける正也。
  恭一  「お前はいいなあ…(ボソッと)」
  正也  「えっ? 何が、いいの?(可愛く)」
  恭一  「だって、そうだろ? お前の靴は運動靴だし、汚れて幾ら、のもんじゃないか。磨かな
くてもいいんだからなあ…(ボヤき口調で)」
   聞かなかった素振りで居間へ向かう正也。それ以上は語らず、黙ってブラシで靴を磨く恭
一。


○ 居間 夕方
   居間へ入り、長椅子に座る正也。庭を見ながら畳上の座布団に座っている恭之介。畳上の
座布団で背を上下させて熟睡しているタマ。
  恭之介「おお正也、帰ってきたか…。今日は鰆(さわら)の味噌焼らしいぞ。道子さんが、そう
云っていた…(嬉しそうな声で)」
  正也  「えっ? 鰆がいいの? 味噌焼は銀鯥(むつ)が一番だって、いつか云ってたじゃな
い、じいちゃん」
  恭之介「ははは…(笑って)。まあ、そう云うな。銀鯥は銀鯥。だが、鰆も鰆だけのことはあ
る…」
   靴を磨き終え、居間へ入る恭一。
  恭一  「まあ、革靴と運動靴の違いみたいなもんだ、正也(小声で笑いながら長椅子へ座
り)」
   恭一の言葉と同時に大笑いする恭之介。
  恭之介「ほう、恭一…。少し意味は違うが、お前にしては上手く云った」
  恭一  「それはないですよ、父さん(恐縮して)」
   互いに顔を見合わせて大笑いする恭之介と恭一。黙って二人を交互に見遣る正也。
  正也M「靴と味噌焼が妙なところでコラボして、父さんとじいちゃんを仲よくさせたのだった。
こういうことは結構よくある。先だっても、こういうことがあった」


○ 渡り廊下 夜
   身を潜めるように、ひそひそ話をする恭一と道子。
  恭一  「お前は、そう云うがなあ…」
  道子  「そんなに気にすることはないわよ。高(たか)が一日のことじゃない。使わなきゃ、い
いのよ」
  恭一  「ああ…そりゃまあ、そうだが…」

                          ≪つづく≫

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2011年10月11日 (火)

シナリオ 春の風景 特別編(上) 麗らか(2)

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編
(上)麗らか(2) 

    
登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


○ 玄関 外 朝
  家を出て歯医者へ向かう恭之介。
  正也M「(◇)仕方なく歯医者で入れ歯を修理することにして出かけた」


○ 居間 昼
   長椅子に座り、新聞を読む正也。歯医者から帰ってきた恭之介。長椅子に座る。
  正也M「帰ってきたじいちゃんは、僕とは逆に、滅法、テンションを下げていた」
  恭之介「フガフガフガ…[一本で行きゃよかった…]。フガガガフガガ…[これだけ抜けると暫く
かかるそうだ…]。フガガフガフガ[それに金もな]」
  正也  「ふぅ~ん」
  正也M「じいちゃんは抜け歯語でそう語った。僕は、つれない返事を返した。ここは余り出しゃ
ばらない方が得策のように思えたのだ」


○ 湧水家の庭  早朝
   早朝稽古をする恭之介と正也。口をモガモガと動かし、今一、いつもの精彩がない声の恭
之介。いつもの元気な正也の掛け声。稽古を続ける二人の姿。春の庭。
  正也M「それからというもの、じいちゃんの身には春だというのに、辛くて冷たい口元の日々
が続くことになったのである。剣道の猛者も、怪談・牡丹燈籠のお武家のように、すっかり元気がなくなってしまった。そうは云っても、僕には何故、このお武家が元気をなくしたか…という、その辺りのところは、よく分からないのだが…」

○ 玄関 朝
   山行きの姿の恭之介と正也。持ち物の点検をする恭之介。靴を履く二人。
  正也M「まあ、そんな中にも、春の息吹きを感じさせる恒例の蕨採りが近づいていた。勿論、このイベントは、じいちゃんなしに語れないのである。じいちゃんも、イベントの主役が
自分であるという自負心が芽生えて入る為か、俄かにアグレッシブになったのだ」
  恭之介「フガガ ! フガガガ [ よしっ ! 正也]、フガガッ ! [ 行くぞっ ! ] (玄関の戸を開けながら)」
   大声に驚いて台所へ逃げ去るタマ。薄眼を開け、また閉じると、ふたたび、悠然と寝る犬小
屋のポチ。


○ 山の中 朝
   朝日を浴びる樹々。手際よく、蕨を採り、籠へ入れる恭之介。それなりに採る正也。 
  正也M「師匠は達人で、瞬く間に腰の籠は一杯に溢れた。僕は…といえば、まあ、それなり
に採った…と報告しておこう」


○ C.I 山道  昼
   平坦な山道を下る恭之介と正也。


○ C.I 畑  昼
   たき火を囲む恭之介と正也。消えかかった火。出来た木枝の灰。
  正也M「その後、下山して次の作業にかかった。木枝を燃して灰を作ったのだ」


○ C.I 台所 昼
   鍋で蕨を湯がく道子。萎えた蕨の加減を見た後、水に蕨を晒す道子。
  正也M「ここで母さんの出番となる。灰は、水に溶かされ、その中へ採ってきた蕨は浸けら
れ、湯がかれた。そして、水に晒(さら)され
       た蕨は、すっかり萎え、アクは抜け出たよ
うだった」


○ 台所 夜
   食卓テーブルを囲む家族四人。笑顔の恭之介。
  正也M「上手くしたもので、じいちゃんの入れ歯の修理が終わった電話が歯医者から掛か
り、じいちゃんのテンションは持ち直し、いつ
       もの笑顔が戻った。母さんお手製の蕨
の煮物が安心して食べられるから、その喜びにうち震えた笑顔だったのだろう」
  道子  「どうです? お父様、お味は?」
  恭之介「いやあ・・いつもながら絶品です、道子さん」
  恭一  「なかなかの味だ…」
  恭之介「やかましい! 部外者がっ!」
   恐縮して身を竦め、氷になる恭一。
  正也M「じいちゃんが落雷した。まあ、そんなことが起こることは滅多とない訳で、我が家には
麗らかな春の平和な日々が続いている」


○ エンド・ロール
   恭之介が落雷した後の家族の談笑風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景 特別編(上) 麗らか」 をお読み下さい。

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2011年10月10日 (月)

シナリオ 春の風景 特別編(上) 麗らか(1)

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編(上)麗らか(1) 

○ 湧水家の庭  昼
   快晴の昼。軒の庇から伝い落ちる雪解け水。綺麗に咲いたオウバイ、紅梅の庭木。手入
れされた日本庭園。
  正也M「雪解け水がポタッ・・ポタッと屋根から伝って落ちる。オウバイは黄色い蕾を開け始
め、紅梅も負けまいと、両者は競っていい勝負だ(◎に続けて読む)」

○ 家前の畑 昼
   積雪の上に所々、顔を出した蕗の薹(とう)。
  正也M「(◎)今年は珍しく名残りの雪が遅く降ったのだが、そうは云っても、今日からは、もう
三月だ。すぐに姿を消すであろう所々の雪の敷布。その上に、黄緑色の蕗の薹が楚々と顔を出している」

○メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(上) 麗らか」

○ 玄関 外  昼
   元気よく、下校してきた正也。玄関戸前で立ち止まり足の長靴を見る。泥まみれになった長

   靴。
  正也M「中途半端な雪で、長靴がすっかり泥んこになりサッパリだ。しかし、この程度の雪が
景観としては一番、情緒があるようにも思え、僕は好きだ。要は一勝一敗なのである。僕に好かれても雪は困ってしまうだろうし、雪女となって肩を揉みに来られても、ちと困ってしまうのだが…」
   玄関戸を開け、外へ出てきた恭之介。
  恭之介「おお…正也、お帰り。ど~れ、蕗の薹でも取って、道子さんに味噌にして貰おう…。美
味いぞぉ~」
   云った後、ワハハハ…豪快に笑う恭之介。その恭之介を見上げる正也。
  正也M「確かに、この時期の蕗の薹味噌は、熱い御飯の上へ乗せて食べると絶妙の味を醸
し出すのである。しかし、じいちゃんの笑顔は、後日、湿っぽい顔になった」

○ 庭  早朝
   剣道の稽古をする恭之介と正也。響く二人の声。
  正也M「僕は日曜なので当然、家にいた。起きると、いつもの早朝稽古でじいちゃんと一汗、
掻いた」

○ 台所 朝
   食卓テーブルで朝食を食べる家族。がっつりと食べている恭之介と正也。突然、手を止
め、顔を顰める恭之介。
  道子  「お父様、どうかされました?(斜向かいの恭之介を見遣って)」
  恭之介「えっ? …いや、なに…、大したこっちゃありません…」
   咀嚼を止める恭之介。見遣る恭一、道子、正也。徐(おもむろ)に箸と茶碗をテーブルへ置
き、手を口へと運ぶ恭之介。次の瞬間、口から指に摘まんだ一本の歯を取り出し、即座にポケットへ入れる恭之介。
  正也M「決してマジックなどではない。じいちゃんの入れ歯の一本が離脱したのだった(△に
続けて読む)」   
   残った茶碗の飯を、茶漬けにして口へ流し込む恭之介。最後に長い舌を出し、フリカケを舐
める。早々と席を立つ恭之介、無言で離れへと急ぐ。唖然として恭之介の後ろ姿を見遣る三人。

○ 離れ 朝
   部屋前の渡り廊下で、入れ歯を外して注視する恭之介。一本、抜けおちた入れ歯。ガラス
越しに陽に翳(かざ)す恭之介。
  正也M「(△)じいちゃんは前回の餅の時で懲りたのか、歯医者へは行かない日が続いた。僕
も、まあ一本くらい抜けたって入れ歯だし不都合もないだろう…と、軽く踏んでいた」

○ 台所 朝
   食卓テーブルで朝食を食べる家族。T 三日後。テンション高く食事する正也。テンション
が低い恭之介。急に咀嚼を止める恭之介。口へ手を遣り、数本の抜け歯を取り出す恭之介。三日前と同じように、茶漬けで食べ急ぐ恭之介。
  正也M「物事は、しっかりと帳尻を合わせておかないと、偉い事になるようだ。僕はそのこと
を、入れ歯から思い知らされた格好だ。じいちゃんの入れ歯は、ボロボロッと抜け落ちた」
  正也  「じいちゃん、大丈夫?(心配そうに)」
  恭之介「フガッ、フガガッ! [なにっ、大事ない ! ](少し、怒り口調で云い、席を急いで立ち)」
   離れへ去る恭之介。恭之介を見遣る三人。
  正也M「こうなっては流石のじいちゃんも放ってはおけない(◇へ続けて読む)」

                              
≪つづく≫

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2011年10月 9日 (日)

シナリオ 春の風景(第十話) 小さな幸せ

 ≪脚色≫

      春の風景

      
(第十話)小さな幸せ             

    登場人物 
                           
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   
その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ とある田園風景 早朝
   晴れた空。水田の田植え作業の風景。
  正也M「今年も、あちこちで田植えが始まっている。まずは田の中に水が張られ、耕運機がコネクリ回して水田化し、秘密レシピの肥料等も播(ま)かれる。それが終わると、暫くは水稲苗の到着を待つ。勿論、苗は苗で、苗作り作業がある。昔は手作業で一株ずつ植えられたようだが、昨今は機械で瞬く間だ」
   田植えの終った水田。春風に戦(そよ)ぐ苗。


○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第十話) 小さな幸せ」


○ 洗い場 早朝
   木刀片手に、湧き水で身体を拭く恭之介。ポチの散歩へ出る前の正也。
  恭之介「賑やかな音がし出したな。もう、こんな時期になったか…。一年は早い(独り言)」
   バタバタして玄関を飛び出してきた恭一。
  恭一  「お父さん、行ってきます!(忙しなく)」
   後ろ姿の恭一へ言葉を投げ掛ける恭之介。
  恭之介「おっ、恭一。今朝は偉く早いじゃないか。何かあったのか?! 飯、食ったか?!」
  恭一  「はいっ! 会社の急用でして…!(玄関戸を開けて)」
   息を切らしながら言葉を返す恭一。玄関戸を閉め、家外に消える恭一。
  恭之介「なんだ、あいつは…(呆れて)。正也、それにしても珍しいな、恭一の奴がこんな早く出るとは」
  正也「そうだね…(ポチのリードを持ったまま、可愛く)」
   ポチの散歩で、家を出る正也。
  正也M「僕も学校があるから、そう長くはじいちゃんの話に付き合ってられない(◎に続けて読む)」

○ C.I 玄関 内 朝 
   ポチのリードを犬小屋へ繋いだ後、餌をやる散歩帰りの正也。美味そうに食べるポチ。クゥ~ンとひと声、正也を見て鳴く。ニンマリして靴を脱ぎ、玄関を上がる正也。
  正也M「(◎)ポチの散歩を終え、小屋へ繋いだ後、餌をやる(△)に続けて読む」


○ C.I 台所 朝
   片隅に置かれた猫食器に餌を入れる正也。タマが食器を見遣り、ニャ~と鳴く。ニンマリする正也。
  正也M「(△)当然、タマにも餌をやる。餌代はお年玉とお小遣等の収益で賄われている。歳入歳出の決算や監査がない、云わば勝手気儘(まま)なものだ」


○ 台所 朝
   食卓を囲む恭一を除く三人。朝食を食べている三人。
  恭之介「道子さん、珍しいですな。恭一が、こんな時間から…(手を止め、斜向かいに座る道子を見て)」
  道子  「ええ、…よくは分からないんですけど、社内旅行の幹事の打ち合わせだとか…」
  恭之介「えっ! 仕事じゃないんですか? …このご時世に、結構なことだ!(半分、あきれ顔で)」
  道子  「はい。でも、あの人、会社での人望は厚く、評判は、いいようですよ」
  恭之介「そりゃ、そうでしょう。旅行部長、歓送迎会の宴会部長と、偉いお方なんですから…」
   苦笑いして話題を変える道子。
  道子  「田植えのようですね…」
  恭之介「はい、今年も始まったようです」
   急に、対面の正也をギラッ! と見る道子。
  道子  「正也! 急がないと遅刻するでしょ!」
   急いて食べ終え、立つと食器を炊事場へ運ぶ正也。炊事場から恭之介の後ろを通り、子供部屋へ向かう正也。正也を見て、無言でニタリと笑う恭之介。
  正也M「僕に、とばっちりが飛んできたので、緊急避難を余儀なくされた。じいちゃんの頭の照りは今朝も健在で、少しオーバーぎみの表現だが、光り輝いて眩いばかりだ。何気ない、春の朝の小さな幸せと、輝く頭…。そんな情景が僕の春を祝福している」


○ エンド・ロール
   春の湧水家の遠景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第十話) 小さな幸せ」 をお読み下さい

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2011年10月 8日 (土)

シナリオ 春の風景(第九話) 講談

 ≪脚色≫

      春の風景
      (第九話)講談   Photo_2
         

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 台所 夜
   連休の夜。テーブル椅子に座っている恭之介、恭一、正也。熱弁を、ふるう恭之介。仕方なく聞い
ている恭一と正也。隅の寝床で五月蠅いなあ…とばかりに、頭を布に突っ込んで眠るタマ。
  恭之介「やあやあ、心あらん者は、聞いてもみよ! 我が祖先、今を遡(さかのぼ)らんこと四
百と有余年。三河守、徳川家康公の家臣にて、四天王にその人有りと謳(うた)われし、赤の備えも麗しき、井伊が兵部直政公!(パパン、パンパン! と張り扇風に手でテーブルを叩き)。
その御(おん)殿に名を賜りしは…」
  正也M「僕が訊ねたのが拙(まず)かった。じいちゃんは勢いづいて、得意中の得意をひと節、
ドウタラ、コウタラ…と長々、ガナリだした。こうなれば、誰だって止めることは不可能
だ。恐らくは、天皇陛下や総理大臣が頼み込んでも、やめないのではないか…」
   一瞬、首を恭之介の反対へ振り、小さな欠伸をする正也。一瞬、テーブル上の新聞に眼を遣
る恭一。台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額。炊事をする道子。講談調の恭之介。聞
かされる破目に陥った恭一と正也。

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第九話) 講談」


○ (回想) 台所 夜
   夕食後。食卓テーブルを囲む恭之介、恭一、正也。炊事場で洗い物をしている道子。
 正也M 「さて、何故こんな講談を聞かされる仕儀に立ち至ったのかという経緯を、冷静に解
説しよう」
   恭之介へ何やら語っている恭一。見遣る他の三人。
  恭一  「…そんなことで、他の人の不幸を尻目にのんびりした湯治をさせて戴いたというよう
なことで…」
  恭之介「それは、なによりだ」
  恭一  「地方道をバスで走ったのが、よかったみたいです。高速はバス事故で渋滞、それも
私らと同じ温泉の宿泊客の団体でして…(勇んで話しをして)」
  恭之介「ほうほう…(関心ありげに)」
  恭一  「更に、その団体客が旅館をキャンセルしましてね。余った料理を只(ただ)、同然のサ
ービスで戴いたというようなことで…(得意満面に)」
   会話する二人。聞く道子と正也。
  正也M「そこ迄は、じいちゃんの講談とは何の関係もないのだが、次のじいちゃんのひと言が
引き金となった」
  恭之介「ほお…、不幸を尻目に幸せ旅か…。まあ、夫婦水入らずで、結構なことだ」
  恭一  「なんか嫌味に聞こえるんですよね、父さんの云い方は…。仕方ないじゃないです
か」
  恭之介「儂(わし)は何も云っとりゃせんだろうが…。だいたい、我が血筋にはな、そんな小事
をやっかむような者は、おりゃせんのだっ!」
  正也  「じいちゃん、僕ん家(ち)は、そんなに古いの?」
  恭之介「古いの? だと、正也殿。では、前にも聞いたと思うが、じいちゃんがその辺りを語って進ぜよう…」

   長々と語り出す恭之介。
  正也M「そんな流れで、十分程は延々と講談が語られることになった訳である」
   聞かされる二人。
   O.L


○ もとの台所 夜
   O.L
   聞かされ少し、だれている二人。
  正也  「そうか…(可愛く相槌を打つように)」
  正也M「じいちゃんは喉が渇いたのか、一気に湯呑みのお茶を飲み干した。僕は、じいちゃんを労(ねぎら)わないと、また機嫌を損ねるのではと感じたので、分かりもしないのに
一応の相槌を打っておいた。風邪予防のワクチン注射のようなものだ」
   饅頭を入れた菓子鉢を持ってテーブルへ近づく道子。
  道子  「お父様、お土産の温泉饅頭でも摘まんで下さいな」
  恭之介「いやあ…。丁度、甘いものが欲しいと思っておったところです、道子さん(満面に笑みをたたえ、道子を見ながら蛸のような頭を
手で、こねくり回し)」
  正也M「光を放つじいちゃんの頭は、云わば、仏様の光背にも似て、その衰えるところを知らない。僕は危うく、その有難い頭に合掌するところだった」


○エンド・ロール
   饅頭を食べながら談笑する四人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第九話) 講談」  をお読み下さい。

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2011年10月 7日 (金)

シナリオ 春の風景(第八話) ♪ 鯉のぼり ♪

≪脚色≫

      春の風景

     (第八話)♪ 鯉のぼり ♪  
      Photo

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 湧水家の外景 朝
   風に靡いて泳ぐ鯉のぼり。
  正也M「宙天にヒラヒラと泳いでいるのは僕の家の鯉のぼりだ。勿論、鯉のぼりは僕の
家だけでなく、ご近所のあちこちでも泳いでいるのだが…」


○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第八話)♪ 鯉のぼり♪」


○ 離れ 朝
   宙天高く翻る、庭に立てられた鯉のぼり。渡り廊下に座りガラス戸から眺める恭之介と正
也。
  正也  「じいちゃん、この鯉のぼりは、いつ頃からあるの?(単に、鯉のぼりを見上げて)」
  恭之介「ああ、これなあ…(鯉のぼりを、しみじみと見上げて感慨深そうに)。そう、あれは正也が、まだ二つの時だっ
たなあ、確か…」
  正也  「フ~ン…(興味なさそうに)」
   云った後、チマキを美味そうに頬張る正也。
  正也M「最近の都会ではチマキなどというものは食べないのだろうが、僕達の田舎では普通
に作られ、普通に食す。よ~く考えれば、
       自然の息づく田舎で人間は育てられてきた
ように思える」
   恭一が庭で吹く、下手なハーモニカの音がする。
  正也M「父さんが上手いと自負して吹くハーモニカの音が、♪ 鯉のぼり ♪の小学唱歌を奏
でて庭から流れてくる」
  恭之介「あいつは、ちっとも上達せんなあ。アレ、ばっかりだ!」
   離れと母屋の取り合い廊下の方から聞こえる道子の声。
  [道子] 「お父様! お茶、置いときます…」
  恭之介「ああ…、道子さん、すみません!(声高に)」
  正也M「じいちゃんは母さんに星目風鈴・中四目を置いている。一目、置く…とは、よく云うが、
これだけ置く人はそうざらにはいないだろうと思える。伊達に蛸頭を照からせている
訳ではないな…と、敬いつつ見上げた」
   ハーモニカの音が止む。道子が廊下に置いた茶盆を持って離れへ入り、渡り廊下に座る恭
一。
  恭之介「おお、恭一か…」
  恭一  「バスで行ったのが正解でした。出歩いた日中は多少、暑かったですがね。渋滞とか
詰め込みは関係なかったですから…」
  恭之介「ほお、そりゃよかったな。たまには、夫婦水入らずも、いいもんだろう」
  正也M「今日のじいちゃんはチマキが効いて機嫌がいい。これなら、じいちゃんにチマキを毎
日、食わせておきゃ…とも考えられるが、
       とても実現はしないだろう」
   恭一が運んだ茶をフゥーフゥーと冷ましつつ飲む恭之介。真似てフゥーフゥーと飲む正也。
得意満面にポケットからハーモニカを取り出す恭一。それに気づく恭之介。
  恭之介「恭一、もういいから、やめてくれ!」
   真顔に戻り、ハーモニカをポケットに入れる恭一。
  正也M「懇願するようなじいちゃんのひと言に、父さんは真顔に戻り、テンションを下げた」


○ エンド・ロール
   はためく鯉のぼり。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第八話) ♪鯉のぼり♪」 をお読み下さい。

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2011年10月 6日 (木)

シナリオ 春の風景(第七話) 美味いもの

 ≪脚色≫

        
春の風景

      (第七話) 美味いもの 

 
   
登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 玄関 内 朝
   晴れた日。旅行に出る恭一と道子。テンションが上がる恭一。旅行の服装で鞄を持つ玄関
下の二人。玄関上で見送る恭之介と正也。無頓着に犬小屋の中で寝ているポチ。
  恭一  「じゃあ、行ってきまぁ~す!(テンション高く)」
   恭一を横目で見る、迷惑顔の道子。
  恭之介「気をつけてなっ!(笑顔で)」
   無言の笑顔で見送る正也。玄関戸を開ける恭一。外へ出る二人。はしゃぐ恭一。
  正也M「夫婦、水入らずで一泊二日の観光旅行に出かける父さんは、出がけから偉くテンシ
ョンを上げている。まるで小学生の僕のような、はしゃぎようで、とても見られたものではない」


○ 玄関 外 朝 
   玄関を出る二人。遠ざかる二人。


○ 湧水家 門外 朝
   湧水家の外景。晴天の清々しい田園風景。会話をしながら歩く恭一と道子。次第に遠ざかる二人。野道のタンポポ。


                    

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第七話) 美味いもの」


 居間 
   見送りから居間へ入った恭之介と正也。静まり返った居間。話すこともないまま無言で長椅子に座っている二人。新聞を読み始める正也。庭へ下り、盆栽弄りを始める恭之介。開け放たれた、庭と居間の間のガラス戸。庭から声を掛ける恭之介。渡り廊下の陽だまりで、心地よく眠るタマ。
  正也M「じいちゃんは剪定鋏を取り出すと、盆栽を弄りだした。僕はじいちゃん役になって、そ
のまま居間で新聞を読んでいた。じいちゃんの盆栽弄りは年相応だが、新聞を老人
のように読む僕…。これはもう、はっきり云って末恐ろしい未来を予感させる」
  恭之介「正也! 今日は久しぶりに、美味いものでも食いに行くか?」
  正也  「いいよっ!(喜び勇んで即答し)」
  恭之介「そうか…。じゃあ、戸締まりをするから、出られる格好をしてきなさい」
  正也  「じいちゃんは?」
  恭之介「儂(わし)か? 儂はこの格好で充分じゃ」
  正也M「じいちゃんは時折り、僕に食事を奢ってくれる有難いスポンサーなのだ。最近は出歩
く機会に恵まれていなかった。その矢先である」
   新聞を乱雑に畳むと子供部屋へ駆けだす正也。


○ (フラッシュ) バスの中 昼
   座席に座る恭之介と正也。賑やかに楽しく話し合う二人。バスの窓から流れる外景。
  正也M「それから二人してバスに乗り、隣の町まで出た。バスに乗れば、しめたもので、既に
僕の頭の中には予定表が出来上がっている(◎に続けて読む)」


○ (フラッシュ) 名店街 昼
   食べもの店が軒を連ねる街を楽しそうに歩く恭之介と正也。うららかな陽気。


○ (フラッシュ) とある食べもの店 昼
   豪華な御馳走。客席に座り、美味そうに料理を食べる恭之介と正也。
  正也M「(◎)・・事実、その通りのコースを辿って僕達は春の味覚を堪能した」

○ 湧水家 外 夕方 
   暮れ泥む空。家に戻ってきた恭之介と正也。家門を潜り家に入る二人。
  恭之介「美味かったなあ…(笑顔で正也を見ながら)」
  正也  「うん!(相好を崩し)」


○ 台所 夜
   風呂上がり後の恭之介と正也。食卓テーブルの椅子に座って食事する二人。道子が作った
手料理の皿が並ぶ食卓。テレビの音。
  正也M「この日は陽気も麗らかで幸せな一日となった。じいちゃんの機嫌を損なわないように
単に発した僕の言葉から、この連休は両親の水入らずの旅行となり、更に僕には美味いものを食べられる結果となったのだ。だから、世の中が、ひょんなことで良くも悪くもなる不安定なものだということだ。変わらず有り続けるのは、じいちゃんの光る頭だけだろうか…」


○  エンド・ロール
   食事をする団欒風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第七話) 美味いもの」 をお読み下さい。

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2011年10月 5日 (水)

シナリオ 春の風景(第六話) ブロンズ・ウイーク

≪脚色≫

      春の風景
      
(第六話) ブロンズ・ウイーク   

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 居間 昼
   日曜の昼。長椅子に座りゴルフのクラブを磨く恭一。台所で料理をする道子。
  正也M「毎年のことながら、ゴールデン・ウイークが近づいた。この場合のゴールデンは、僕達
子供に対してではなく、サラリーマンの一部大人に限ってのみ有効な、云わば、贔屓(ひいき)言葉ではあるまいか。夏休みのような連続ではなく、祝祭日と日曜の休みが多い…だけで、金には届かないブロンズぐらいに思える」


○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「(第六話) ブロンズ・ウイーク」


○  同  昼   
   クラブにワックスを塗って磨き続けるゴルフの腕前が今一の恭一。グリップを握って光が射す庭側へ透かし、照り具合を見ながら、
  恭一  「去年は渋滞で難儀したからなあ…。今年は遠出は控えるか…。ETCの値引きで、
恐らく高速は滅茶、混むんじゃないか?(台所の方へ首を向け)」

○ 台所 昼
   炊事場で料理をする道子。食卓テーブルの椅子に座って新聞を読む正也。
  道子  「ええ…。私もそう思うわ(居間を見て)」
   恭之介が離れから台所へ入る。
  恭之介「なんだ? 偉く賑やかじゃないか。何か、いいことでもあったのか? 恭一(居間を見
て)」

○ 居間 昼   
   怖いものを見た…という目つきで恭之介をチラッ! と見る恭一。出来るだけ怒らせまいと、ゴルフのクラブを一心に磨き、やんわりと、
  恭一  「いえ、そうじゃないんです、お父さん。連休の遠出はやめようか…と、道子と話してた
んですよ」

○ 台所 昼
   食卓テーブルの椅子に座って新聞を読む正也。正也の隣の席へ座る恭之介。
  恭之介「ほぉ…。儂(わし)とは関係ない世界の話か…(卑屈になって)」
  正也M「僕は、何とかその場の雰囲気を和らげようと、健気(けなげ)にも画策した」
  正也  「僕は、どうだっていいよ…。じいちゃんと遊ぶから」
  恭之介「そうだな、正也! じいちゃんと遊ぼう(不機嫌な顔から俄かに笑顔となり)」
  正也M「僕のひと言はクリーン・ヒットとなり、センター前へ転がった。じいちゃんが俄かに元
気を取り戻したのだ」
  恭之介「よし、正也。じいちゃんの離れへ来い! 美味い菓子をやろう(笑顔で、機嫌よく)」
  正也  「うん!(愛想よく、釣られた振りをして)」
   椅子を立つ二人。離れへ向かう二人。


○ 離れ 昼
   広間(道場仕立ての間)へ入る二人。中央祭壇の刀掛けに飾られた大小二刀。側板の上
に飾られた『銃砲刀剣類登録証』の額(がく)。警察の表彰状の額。剣道師範免許状の額。部屋隅に置かれた菓子折りから菓子を取り出す恭之介。菓子を正也に手渡す恭之介。
  恭之介「なっ! 武士に二言はないだろうが(笑って)」
  正也  「…(意味が分からず、笑って無言で受け取り)」
   刀に打ち粉をする作務衣、袴姿の恭之介。菓子を頬張り、その様子を傍らに座って観る正
也。
  正也M「じいちゃんは微笑みながら刀に打ち粉をして紙で拭く。これこそ武士のゴールデン作
法だ…と思いつつ僕は見ていた。じいちゃんの禿げ頭が蛍光灯の光を浴びて金色に輝く。じいちゃんとの休みは、正しくゴールデン・ウイークとなりそうで、決してブロンズではないだろう」

○ エンド・ロール
   道場仕立ての部屋に飾られた表彰状等の額。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第六話) ブロンズ・ウイーク」 をお読みください。

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2011年10月 4日 (火)

シナリオ 春の風景(第五話) あやふや

 ≪脚色≫

      春の風景
 
     
(第五話)あやふや 


    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 庭 昼
   庭に置かれた、陽光が射すスイレン鉢。鉢を観察する正也。鉢の中で泳ぐオタマジャクシ。
  正也M「最近、ツチガエルのオタマジャクシがスイレン鉢で元気な姿を見せ始めた。去年の秋
からご無沙汰しているので知らぬ態で挨拶だけしておいた。ただ、寒の戻りがあるかも知れないから、今一、あやふやな泳ぎ方をしていて覇気もなく、あまり動かないばかりか時折り姿を隠して、あやふやだ」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第五話) あやふや

○ 居間 夜
   渡り廊下近くの庭側の畳へ座布団を敷き、将棋を指す恭之介と恭一。盤面を注視し、凍結
状態の二人。ジュースが入ったコップを持って、風呂上がりの正也が居間へ入る。徐(おもむろ)
に長椅子へ座る正也。ジュースを飲みながら、二人の様子を窺う正也。
  正也M「どこの家でもそうだと思うが、あやふやな言葉でその場を取り繕う、ということはあると思う。“あやふや”は、曖昧とも云われるが、外国に比べると僕達の日本は随分、表現法が緻密で豊かなことに驚かされる」おもむろに顔を上げ、恭一を見る恭之介。
  恭之介「お前な、休みぐらい家のことをな…(あやふやに云って、駒を指しながら)」
  恭一  「えっ? 何です(盤面を見る視線を恭之介に向けて)。家がどうかしましたか? お父さ
ん(あやふやに云い返して、駒を指す)」
  恭之介「そうじゃない! お前は、直ぐそうやって話の腰を折る。逃げるなっ!」
  恭一  「別に逃げてる訳じゃ…(微細な小声で呟いて)」
   将棋の駒を持つ恭之介の手が少し震え、怒りを露(あらわ)にしている。
  恭之介「道子さんがな、そう云っとったんだ。道子さん、腰痛(こしいた)だそうじゃないか」
  恭一  「ええ…、まあ、そのようです」
  恭之介「そのようです、だと?! そ、そんなあやふやなことで夫婦がどうする!!」
   一瞬、顔を背(そむ)けて顰(しか)め、舌打ちする恭一。
  正也M「久々に、じいちゃんの眩い稲妻がピカピカッと光り、父さんを直撃した。父さんは逃
げ損ねた自分に気づいたのか、思わず顔を背(そむ)けて顰(しか)め、舌打ちした」
  恭之介「まあ、大事ない、ということだから…いいがな。家のことを少しは手伝ってやれ」
  恭一  「…はい」
   恭一の態度に溜飲を下げ、穏やかになる恭之介。
  正也M「父さんは観念したのか、今度はあやふやに暈さず、殊勝な返事で白旗を上げた。だ
が次の瞬間、不埒(ふらち)にも、じいちゃんに逆らった」
  恭之介「大したこと、なさそうですしね…」
   顔を茹で蛸にして、対面の恭一の顔を睨みつける恭之介。
  恭之介「なにっ! ウゥ…ウウウ… … …(激昂して) 」
  正也M「じいちゃんは、激昂し過ぎた為か、声が上擦って出ず、後は黙り込んでしまった。高血
圧で薬を飲んでいて、自らの体調の危険を感じたからに違いない」
   風呂上がりの道子が居間へと入り、恭之介に近づく。
  道子  「マッサージに行ってから、すっかり楽になりました。御心配をおかけして…」
  恭之介「ほう…それはよかった、道子さん(笑顔を道子に向け、心を込めた口調で)」
  恭一  「うん、よかったな…(盤面に視線を落したまま、上辺だけの口調で)」
   盤面から、ギロッ! と、視線を恭一に向ける恭之介。
  恭之介「お前の云い方はな、心が籠っとらん!!」
  正也M「母さんを見て微笑み、父さんを見ては茹で蛸にならねばならない、じいちゃんは、実
に忙しい。でも、それを見事に演じきるのだから、じいちゃんは名優であろう」
   笑いながら居間を去りかけた道子、立ち止まる。
  道子  「風呂用洗剤Yは、よく落ちるわねえ、あなた」
  恭一  「だろ? また買っとく…」
  恭之介「某メーカーの奴だな。…お前も、もっと光れ、光れ」
   氷結して沈黙する恭一。
  正也M「じいちゃんの嫌味が炸裂し、父さんは木端微塵になった」


○ エンド・ロール
   談笑する家族。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第五話) あやふや 」 をお読み下さい。

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2011年10月 3日 (月)

シナリオ 春の風景(第四話) 催花雨

 ≪脚色≫

      春の風景
      (第四話)催花雨  


    登場人物

   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 台所 夜
   夕食後。食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜向かいの正也。画面の気象予報官
の声。


○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第四話) 催花雨」


○ 同  夜
    食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜め向かいの正也。画面の気象予報官の声。
  正也M「某局のテレビニュースが、いつもの天気予報を流した。その中で、予報官が、催花雨(さいかう)という文言(もんごん)について説明した(◎に続けて読む)」
   テレビを消し、席を立つ恭一。居間へ向かう恭一。


○ 居間 夜
   居間へ入る恭一。庭側の畳上の座布団で将棋盤を前に、待つとはなしに待つ風呂上がりの恭之介。
その対面の座布団へ、待たした風でもなく座る恭一。居間へ入る正也。
長椅子に座り、新聞を大人びて読む正也。
  正也M「(◎)何でも、花の開花を促す雨だそうで、なんだか日本情緒がヒタヒタと感じられる最高の
言葉のように思えた。最高雨(サイコウウ)と僕には聞こえたこともある」
   どちらからともなく、駒を盤上に並べ始める二人。
  恭一  「今年は、もう桜が咲き始めたようですよ(駒を並べながら)」
  恭之介「…だなあ。次の雨で上手くいくと咲くか(庭を見て、駒を並べながら)」
  正也M「最近、二人の将棋は急に駒を並べることで始まり、無言で駒を仕舞い始めて終わることが多い。今夜もその類(たぐ)いで、どうも二人には暗黙の了解とかいう意思の疎
通が出来ているようなのだ」
   炊事場で洗い物をしながら話す道子。
  [道子] 「正也! 早く入ってしまいなさい!(少し声高に)」
  正也  「… …うん(新聞を読みながら渋々、立って)。無言で将棋を指し始めた恭之介と恭
一。恭之介と恭一の前を通り、縁側の渡り廊下へ出る正也。盤面に釘づけの二人。
  正也M「二度目の催促だから、母さんの声はやや大きさを増した。『催花雨じゃなく、催促湯
だな…』と不満に思いつつも僕は風呂場へと向かった。二人の横を通り過ぎると、既に大一番は佳境に入ろうとしていて、じいちゃんの顔は、風呂上りということもあるが、茹(ゆだ)った蛸のように真っ赤で美味そうた゜った。父さんは? と見ると、いつもの白い顔が、逆に蒼みを帯びていた」

   真っ赤な恭之介の顔と蒼白い恭一の顔。


○風呂場 夜
   ゆったりと心地よく、浴槽の湯に浸かる正也。終い湯で風呂の掃除をする正也。
 正也M 「風呂番は僕の月だった。去年と変わった点は、母さんも風呂番に加入したことだ。
そして、最後の者が風呂掃除をする仕組みだ。この議案は僕が提案し、採決の結果、全員一致の承認を得た案件だから、今月の僕は終い湯の後、掃除という労働に汗している」


○ 台所 夜
   風呂を上がり、台所へ入る正也。冷蔵庫を開け、ジュースをコップへ注いで飲む正也。
  正也M「さて、掃除を終えて風呂場を出ると、唯一の楽しみのジュースが僕を待っている」
   飲みながら、居間へ向かう正也。

○ 居間 夜
   居間へ入り、長椅子に座る正也。
  正也M「居間へジュースを飲みながら戻ると、二人は未だ盤面に釘づけだった」
  正也  「今日は、どう? じいちゃん」
  恭之介「ははは…、一勝一敗で、これだっ…(盤面を見据えたまま)」
  正也  「ふ~ん…(無表情で、立ちながら)」
   コップを持ったまま立つ正也。二人を横切り、渡り廊下から子供部屋へ向かう正也。正也の
背後から声を掛ける恭一。
  恭一  「(正也を見て)おい正也、ビールのツマミを冷蔵庫から…。(恭之介を見て)ちょっと、
これ…待って下さい(頼み込んで)」
  恭之介「いや、待てん! 武士なら切腹ものだっ!」
   二人が云い合っている隙に、忍び足で居間を抜ける正也。
  正也M「じいちゃんも、かなり依怙地になっていて、一歩も譲らない。僕はその隙に忍び足で居間を退去した」


○ エンド・ロール
   いつの間にか笑い合う恭之介と恭一の姿。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第四話) 催花雨」 をお読み下さい。

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2011年10月 2日 (日)

シナリオ 春の風景(第三話) 探しもの

≪脚色≫

      春の風景
 
     
(第三話)探しもの 
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  

   その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関(内)  朝
   起きた直後の恭一が、何やら探している。気配と物音に迷惑顔の犬小屋の中のポチが目
の開け閉じを繰り返す。靴箱、その他の場所をガサゴソとシラミ潰しに探す恭一。台所から出てきた道子。洗面所から様子を見に現れる歯ブラシを口に含んで磨く正也。また戻る正也。
  正也M「朝から父さんの大声が玄関でしている。母さんと二人で何やら探している様子だが、
それが何なのか僕には分からない」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「(第三話) 探しもの」

○   同 (内) 朝 
  道子  「どこか、他に置いたんじゃない?(疑わしい目つきで)」  
  恭一  「違う違う! 絶対にここへ置いたんだ。それは百パーセント自信がある!(自信あり
げに)」
   台所から、痺れを切らした恭之介の声がする。
  [恭之介]「道子さん、飯にして下さらんかぁ~」
     道子  「すみません! すぐ食事にしますから…(台所の方角へ、バタバタと小走りし
て)」
   ふたたび、バタバタと玄関へ戻る道子。

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、食事を待つ恭之介と正也。すっかり諦めた様子で力なく台所
へ入る恭一。その後ろに道子。
  恭一  「怪(おか)しい…実に怪しい。確かに昨日、帰って置いたんだ!(声高に)」
  道子  「いいえ、そんなもの、戸締まりした時はありませんでしたっ!(声高に)」
   賑やかに、声の火花を散らす恭一と道子。寝床の布団で、いい加減にして貰えませんか…とばかりにニャ~と鳴くタマ。

  恭之介「道子さん、飯を!(御飯茶碗を手に持って差し出し、やや声高に)」
  道子  「あっ、はいっ!」
   慌てて恭之介が差し出した御飯茶碗を手にする道子。話は途絶え、全員、沈黙。

  正也M「台所はパン食い競争の様相を呈してきた。僕は黙ってその様子を、さも第三者にで
もなったつもりで眺め、『春から運動会やってりゃ、ざまねえや…』と少し悪ぶって思った。結局、その日の朝は、父さんが何を探していたのかは分からずじまいだった」
   いつしか静音となる、殺風景な食事風景。
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額(が
く)。
   O.L


○ 台所 夜
   O.L
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額。
   炊事場で準備する道子。食卓テーブルの椅子
に座る三人。テレビを見る恭之介と正也。新聞を読む恭一。
  恭之介「おい恭一、庭先にこれが落ちてたぞ…(手渡して)」
  恭一  「えっ? そうでしたか、庭に…(新聞を読むのを止め)。ははは…。見つからない筈
だ。どうも、すみません(受け取って)」
   新聞を置き、体裁が悪いのか、頭の後ろを手で掻く恭一。テレビを切る恭之介。食器や料理を運ぶ道子。  
  正也M「じいちゃんが手渡したもの、それはループ・タイだった」
   新聞を読む恭一。
   O.L

○ 料亭(内) 夜[回想]
   広間の宴会風景。得意の踊りを披露する恭一。酒も入り、赤ら顔の恭一。頭に巻いたループ・タイが踊りで揺れて簪(かんざし)風。なかなかの宴会芸。

  正也M「昨夜の宴会部長で活躍した父さんだったが、(◎に続けて読む)」

○ 庭先(外) 夜[回想]
   酔っ払って帰り、玄関へ直ぐに入らず庭をうろつく、恭一。首からループ・タイを、かなぐり外
し、落とす。
  正也M「(◎)酔いに紛れて玄関先の庭でループ・タイを外して落としたのを忘れ、それを玄
関へ置いたと思い込んだ節(ふし)がある(△に続けて読む)」

○ 玄関(内)  朝[回想]
   起きた直後の恭一が、何やら探している。
  正也M「(△)でも、そのループ・タイが何故、朝に小さな運動会をしなければならないほど重
要だったのかが今もって分からない(◇に続けて読む)」

○ もとの台所 夜
   O.L
   新聞を読む恭一。
  正也M「(◇)携帯とか財布、定期の類いなら、僕にも分かるのだが…。(×に続けて読む)」
   道子が運んだ食器や料理を、手際よく並べる正也。
  正也M「(×)要は、全くもって笑止千万で馬鹿な父親だということだろうか。じいちゃんがい
つか云った、『お前もピカッ! と光.る存在になれ』という言葉は、残念ながら彼には絵空事に思える。だから、そんな父さんを父親に持つ僕自身も、大して期待出来ない代物(しろもの)のようだ…」

○ エンド・ロール
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第三話) 探しもの」 をお読み下さい。

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2011年10月 1日 (土)

シナリオ 春の風景(第二話) 春の葱

≪脚色≫

      春の風景

      
(第二話)春の葱 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水道子  ・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  

    その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関  内 朝
   慌ただしく恭一が出勤しようとしている。框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
  正也M「今日から春休みに入ったので、僕としては非常に喜ばしい。だから、有意義に楽し
ませて戴こうと思っている」
   玄関を開けて、出ていく恭一。ポチが一瞬目を開けるが、正也とは明らかに愛想の振り撒
き方が違う態度で、そのまま眼を閉じる。

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「(第二話) 春の葱」

○ 洗い場 朝
   玄関を出て、洗い場の前の正也に気づく恭一。葱を洗っている正也。
  恭一  「正也はいいなあ…。ああ、父さんもゆったり休みたいよ。じゃあ、行ってくる(バタバタ
と表戸へ)」
  正也 「行ってらっしゃい! (洗いながら愛想よい笑顔で)」
   後ろ姿のまま手を振り、表戸を出ていく恭一。
  正也M「家計に生活費を運び入れる唯一の貴重な存在だから、必要上、そう云って愛想をふ
り撒く。この時、僕は家に昔からある湧き水の洗い場にいて、じいちゃんから母さんに手渡された野菜、正確には葱なのだが、それを洗っていたのだ。僕は誠に感心で親孝行な息子なのだ。…と云いたいが、それほどの者でもない」
   進み具合を見に来た恭之介。恭之介に付いて現れ、陽だまりに寝そべり、日向ぼっこをす
るタマ。
  恭之介「おう、やっとるな。葱は身体にいい。味噌汁によし、葱味噌もよし、ヌタにも合う。そ
れ に、焼き飯やラーメン、うどんには欠かせんしなあ…(悦に入って)。だが、惜しいことに、葱坊主が出来る時期になったから、種を取る分だけ残して全部、スッパリ切っ
てきた。ハハハ…(賑やかに笑って)」
  正也  「ふ~ん(葱を洗いながら、恭之介を見上げ)」
   恭之介の禿げ頭が朝日を浴び、ビカッと光る。その眩しさに眼を細める正也。裏戸を開け、
現れる道子。
  道子  「食べきれない分は、刻んで乾燥葱にします。…だと、日持ちしますから」
  恭之介「そうですねえ、道子さん。食べ物を粗末にすりゃ、罰(ばち)が当たります」
  道子  「ええ、そうですわ」
   軽く笑い合う恭之介と道子。葱を洗いながら、二人を窺う正也。
  正也M「両者は相性がいいので、僕は大層、助かっている」

○ とある野原 昼
   そよ風に揺れる土筆が生えた野原。長閑に晴れ渡った青空。
  正也M「陽気も麗らかだし、(○に続けて読む)」

○ 恭一の会社のオフィス 昼
   時折り眠りそうになり、目を擦りながら机上の書類に目を通す恭一。
  正也M「(○)父さんは異動もなくこの不況下でも安定したヒラだし、(◇に続けて読む)」

○ 湧水家の畑 昼
   葱坊主を切られた後の畑。農作業に精を出す恭之介。
  正也M「(◇)じいちゃんの葱坊主の頭もよく光ってるし、(△に続けて読む)」

○ 子供部屋 昼
   鼻歌を唄いながら、庭に陽気に洗濯物を干す道子。机に座り窓からそれを見る正也。
  正也M「(△)母さんの機嫌もよさそうだし、僕は春休みだし、みんなほぼ健康だし…まあ、小
さいながらも幸せな家庭だから、有難いと感謝しよう」
   窓から視線を机上に移し、欠伸をする正也。

○ エンド・ロール
   畑の菜の花と湧水家の遠景。麗らかな陽気。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「春の風景(第二話) 春の葱」 をお読み下さい。

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