« 2011年9月 | トップページ | 2011年11月 »

2011年10月

2011年10月31日 (月)

特別寄稿(シナリオ) コント(1) ━ バナナを見続ける男 ━

 ━ バナナを見続ける男 ━    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

  男…中年男性
  バナナ… N(男声、女声、どちらでも構わない)

○ 安アパート とある部屋 夜

 うす汚れた部屋。机の上。ただ黒ずんだひと房のバナナだけがある。それをじっと腕を組んで見続け、考え込む一人のうらぶれた男。男を照らす吊り下げられた電球一個の灯り。

○ メインタイトル「バナナを見続ける男」

○ 同 部屋 夜

 両手を合掌して、食べようとするが、ふと思いとどまる男。そして突然、絶叫し、ブツブツと呟き始める男。

男「なんでや! なんでお前は黒うなるんや。一週間はいけると思てたんや! いや、十日はな(涙声で)。お前は生命線なんやで…あかん! 黒うなったらあかん! あかんにゃで~(言い聞かせるように)」
 
 突然、語りだすバナナ。

バナナ「私はバナナです」

男「えっ? (自分の耳を、指で擦りながら)ええ~っ! それは分かったるにゃ。分かったるにゃでぇ~~。お前はバナナや。(バナナが話すということ自体を疑うように、バナナを覗き見て)」

バナナ「私は黒くならなければダメなのです。それが生命線なのです。私は食べられてナンボのものなのです。分かって下さい~(懇願するように)」

男「いや、いやいやいや、それはおかしいわ。それはあまりにもワガママや。自分勝手や。そんなら、このワイはどうなる? どうなるんやいな? 云うて! 云うてんか!(やや切れぎみに)」

バナナ「わ、私にどうしろと云われるんですか?」

男「そんなん…。今、云うたやないか。黒う、黒うならんとってくれたらそれでええんや。簡単なことやないか。バナナな君なら分かるやろ。…バナナな君か・・、これは自分でも上手いこと云えたな。ほめてあげたい。自分をほめてあげたい。なんや、こんなこと云うてたマラソン選手いたなぁ~」

バナナ「何を云っておられるんですか?」

男「なんや! なんにもないわい! 馬鹿にしくさって…(泣いて)」

バナナ「馬鹿になんぞしておりません。ただ、私は私の存在価値を述べたまでです」

男「ほなら、ワイの存在価値はどこへ行ってしもたんや? わいはバナナ以下かい! バナナ以下ならなんやねん!」

バナナ「…知りません」

男「まあ、ええわ。…百歩、譲って黒うなるのは我慢しよやないかい! (急に懇願調の声になり)ほんでいったい、どれだけもってくれんにゃいな? 十日はいけるんか? 三日は、かなんでぇ~。ほれはあかん。きつい」

バナナ「分かりました。こうしてお話ししてても、切りがありません。何とかしましょう」

男「えっ!? どないすんにゃいな?」

 バナナ、突然、純金に変身する。

男「かなんなぁ~。これでは食えんがなっ!(悲しそうに)

 バナナを見続ける男


○ エンド・ロール

 スタッフ、出演者等

 T「おわり」

|

2011年10月16日 (日)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹(3)

         春の風景       水本爽涼 Photo_5

    特別編 僕に妹(3)       

 前回、軽く匂わせた、あの、後日談である。あの、の、あのは、愛読者の方にはもう分かって戴けたと思うが、初めて読まれる方の中には、どういうことだ? と、首を傾げる方もおられると思うので、改めて大まかに説明させて貰うことにしたい。
 いろんなことがあって大変だったが、漸(ようや)く無事に妹が生まれ、その顔を僕が…だと思ったところ迄が前回であった。
 さて、その顔なのだが、後から人に聞いたところによれば、生まれたての赤ん坊は大概、梅干しのような赤ら顔で、皺くちゃの顔が普通だということである。と、いうことは、取り分けて僕の妹だけが…だった、ということではないらしいのだ。それは兎も角として、今迄はじいちゃん、父さん、母さんそして僕の四人で巡っていた湧水家の風景が、生まれた妹を含んで五人で巡ることになったということだ。さてそうなると、僕が描いてきたこれまでの風景は、妹を含めて新たに書き直さねばならないのではないか…という素朴な疑問が生まれてくるのである。勿論、『何を云っとるんだ! これ迄はこれ迄。これからは、これからなんだから、新たに書き足せばいいじゃないか』と仰せの方も多くおられると思う。確かに僕もそう思えてきている。そういうことで今後、新たに書き足すという展開になることも予想され、その辺りは期待を含めて見守って欲しいと云っておきたい。
 生まれて暫くは産院にいた母さんも漸く我が家に戻り、家は一応の安定を取り戻したのだが、何かにつけて今迄とは変化が生じ始めた。まず第一は、じいちゃんが父さんに対して少し怒らなくなった・・ということである。その二は、今迄、家事などには見向きもしなかった父さんが、陰ながら母さんを手助けし始めた・・という大変化だ。これには僕も正直なところ少し驚いたが、僕が今迄してきた手助けが減って楽になるというメリットもあるので、これはこれでいいと思えた。妹への世話、具体的にはオムツの替えとか、ミルクとか、入浴と着替えとかの母さんの負担が極端に増えたこともあり、父さんと僕も何かと細やかに気遣いするようになっていった。
 全く変わらず、泰然自若と我が人生を謳歌している大物は、ご存じの、じいちゃんである。じいちゃんは、やはり神々しい頭を照からせ、光背のような輝きで家族を見守る、有難いお方なのである。                                             
                                   完

|

2011年10月15日 (土)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹(2)

         春の風景       水本爽涼 Photo_4

    特別編 僕に妹(2)       

 さて、その後である。何のその後なんだ! と、おっしゃられる方もおられると思うが、分かる人には分かって戴けると思うから、敢えてその後として、深く追及しないで欲しいと思う。
 で、その、その後は、家族みんなが母さんに気を遣うことが多くなっ
た。特に、お産が迫った年末から年始にかけては気遣うという域を超え、それはもう、針が転(こ)けてもビクッ! とする日々の連続だった。とは、少しオーバーな云い方なのだが…。産院のサービスが悪いのか、なかなか入院させて貰えないといった事情もあった。大盛況といえば云い方は悪いけれど、混んでいたということもある。結果オーライだったから、よかったものの、そんなことで、母さんは大きなお腹を抱えて大変だった。当然、父さんは痩せ細るほどの気の遣いようだから大変で、じいちゃんも大層、気遣って大変だった。勿論、僕もよく分からないまま、大変だった。大変、大変で日々が過ぎ、春が春になっていた。えっ? また、分からん! と、お叱りを頂戴すると思うが、要は、春遅くの報告で始まった気遣いが年を越し、結果として初春の誕生までずれ込んだ・・ということである。だから、春が春になった訳だ。即ち、そのことは、やはりこの話が、春の風景だということに他ならない。その過程は、はしょるが、お知りになりたい方もおられると思うので、これはまたこれで、後日談で語らせて戴きたいと思う。
 さて、母さんのお腹が元通りの大きさに戻り、その中にいたと思われる僕の妹に、初めて僕が顔を合わせたのは、父さんに産院へ連れて行かれた時だった。父さんは、お産の時は無論、産院にいて、母さんに添っていた。勤めが休みだったこともあるが、出勤していたとしても、たぶん休めただろうと思う。父さんは、まあその程度の安定したヒラなのだ。これは、云っておくが、父さんの悪口ではない。安定ほど素晴らしいものはないと思えるのである。偉い人になる人は、それはそれで結構なことだが、また苦も増えると聞く。大金持ちが、挙句の果てに不幸になった、なんて話もよく耳にする。結局、小さな幸せの方が大きな幸せより本当は幸せなんじゃないかな…と、思える。僕は丘本先生に褒められる迄もなく、頭がいいように自分でも思う。だから、━ ませたガキ ━と云われないよう、直接の場合は小さく語ろうと思う。しかし、間接には存念を披歴したいと思えるから、ツイッターではないけれど、皆さんに対して呟いていきたいと思う。
 話は元へ戻るけれど、妹は実に可愛かった…というのは、世間一般で云う常套句だが、現実はもっとシビアーで、可愛くなかったといえば差し障りがあるが、…であった、と報告しておこう。…の部分の詳細は、前段と同じく、後日談に譲ることにさせて貰いたい。

|

2011年10月14日 (金)

短編小説 春の風景 特別編 僕に妹

         春の風景       水本爽涼 Photo_3

     特別編 僕に妹       

 おめでたいことは、なにもお正月ばかりではない。なんと! 僕に妹が出来ることになったのである。勿論、この時は妹なのか弟なのかは分からなかったのだが…。ただ、僕にもそれが父さんと母さんの相互力による賜物だと、その辺りまでは分かった。しかし、それ以上のことについては、今一だった。妹が出来るというより家族が増えるということは、我が湧水家にとって、この上もない吉事と云えるだろう。じいちゃんに至っては、スキップして喜んでいた。…というのは、ちょっと誇張した失礼な云い方だが、大層、喜んでいたのは紛れもない事実である。
 夕食を食べながら僕が、「いつ、生まれるの?」と何気なく母さんに訊くと、母さんは少し、はにかみながら、「年末か来年…」とトーンをやや落として、モジモジと云った。
「ははは…、正也もこれで少し、威張れるなあ!」
 神々しく照かる蛸頭のじいちゃんは、相変わらず遠慮知らずでくったくなく、横に座る僕に云った。父さんや母さんは、何か悪いことでもしたように、そのことについては一切、触れたがらず、ただ黙って、楚々と笑うばかりだった。いつ頃? と、もう一声、訊きたかったが、そこはそれ、敢えて訊くのは止した。罰が悪そうにしている母さんをこれ以上、苦しめるのは如何なものか…と思えた、云わば子心だ。親心は一般家庭に見られる光景だが、子心のある孝行息子を持つ家は、世間広しと云えど、この湧水家だけではあるまいか。妹が生まれたその後の逸話については、後日談で語ることにしたい。
 後から思えば、その夜のみんなは少なからず意識していたようで、早めにテーブル椅子から立ったのだ。じいちゃんは離れへ戻るんだろうな…と勝手に思っていると、その剣道の猛者は居間へと入り、ヨッコラショ! と庭側の座布団へ座り込んだ。いつもの、アレか…と思えた。所謂(いわゆる)、父さんと暗黙の了解が成り立つ二人の世界の開幕である。かといって、じいちゃんは催促するでなく、自然体で徐(おもむろ)に庭の夜景を見ている塩梅(あんばい)である。そのじいちゃんに、台所の父さんも気づいたのか、これも催促された風でもなく、自然体でテーブル椅子から立ち上がると居間へ入っていった。母さんは、炊事場で後片付けの食器を洗っていた。
「正也! 早く寝なさいよ」
 テーブルに座ってテレビを観ている僕に、彼女は遠目で目敏(ざと)く云った。この辺りは、全く油断がならない母さんなのだ。僕は、「はーい!」と、可愛く愛想を振り撒いて、彼女が投げた小柄(こづか)をヒラリ! と躱(かわ)した。その時、居間から、大一番が始まる将棋の駒音と二人の笑い声が聞こえた。それに春も、ヒタヒタと音をさせて、二人が指す将棋を見物していた。

|

« 2011年9月 | トップページ | 2011年11月 »