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2011年11月

2011年11月30日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第一回☆悪徳商法(2)

    影車      水本爽涼
     第一回 悪徳商法(2)

6.  長屋・留蔵の家(中)・昼

     留蔵が鋳掛けの仕事をしている。赤橙に熱せられた鍋底を叩く。
     戸口から
仙二郎、入る。
    仙二郎「又から聞いたか?」
    留蔵  「いいや…」

    仙二郎「あの野郎! …まあいい。次の手筈は大黒屋だ。三日
    後、委細は、
お蔦の投げ文(ぶみ)だ」

     そう告げて戸口を出ようとする仙二郎。鍋を叩きながら、仙二郎
     
には目もくれない留蔵。
    留蔵  「今度の道具は、いいのがあるぜ(ニタリと嗤い)」

     背に留蔵の言葉を受け、一瞬、立ち止まる仙次郎。

7.  同 (外)・昼

     入口の戸を静かに開け、出た仙二郎。辺りの気配を窺った後、
     去る。

8.  飛脚屋の店前・夕方
     ごった返している。
飛脚仕事から戻った伝助。入口で待ち構え
     ていた
又吉。汗を拭く伝助。そっと近づく又吉。
    又吉  「獲物は大黒屋だとよ…」
     とだけ小さく言い捨てて、去ろうとする。
    伝助  「言伝(ことづて)は、それだけかい?(又吉を見ずに)」
    又吉  「三日後、また来る」

     後ろ姿のまま、そう云い残して走り去る又吉。伝助、その姿を
     汗を拭きなが
ら見る。
9.  大黒屋の店内(座敷)・夜
     嘉兵衛が寛(くつろ)いで茶を飲んでいる。
10. 同 (渡り廊下・座敷前)・夜
     番頭の喜助が座敷前まで歩いて座る。
    喜助  「旦那様、お言いつけ通(どお)りに…」
11. 同 (座敷)・夜

    嘉兵衛「そうかい、ご苦労だったね。あとはいいから、休んでお
         くれ」

12. 同 (渡り廊下・座敷前)・夜
     障子越しに喜助、軽く礼をして去る。
13. 同 (座敷)・夜

    嘉兵衛「ふふふ…、これで孰(いず)れは上総(かずさ)屋の身代
         (しんだい)も…

     と、憎々しげに嗤う。

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2011年11月29日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第一回☆悪徳商法(1)

    影車      水本爽涼
     第一回 悪徳商法(1)

    あらすじ
 大黒屋嘉兵衛はワルを絵に描いたような男だった。同業の加賀屋を戸田源之丞と結託して潰した経緯がある。戸田も出世を目論む大ワルだ。嘉兵衛が次に狙っている上総屋は、入札(いりふだ)の商業権を独占する上で邪魔な最大の、お店(たな)だった。仙二郎は定廻り中に悪事を働く大黒屋の行いを小耳に挟む。お蔦を忍ばせ、悪事の情報を入手する。そして遂には、許せねぇ奴らだ…と判断し、手筈することを決断する。五人の仲間と実行した後、無惨にも晒される悪党たち。今回は描かれていないが、もちろん運んだのは、足速やな飛脚屋伝助である。

    登場人物
 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)            
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人) 
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍) 
      (※ 以下 略)

1. 江戸の街通り(一筋の広い道)・晩秋の深夜
    
タイトルバック
    
寝静まった街。誰も通らない道を仙二郎が歩く。(木枯らし S.E)土埃
    が舞う。S.E=ヒューヒューと時折り、風が吹く音。
   仙二郎「ふう…、冷えやがるぜ…(揉み手で震え、両肩を寄せる)
    カメラ、近づいて通り過ぎる仙二郎をパンして追う。仙二郎の姿、次

    
第に闇へと消える。
   N  「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南も       
       ワル次 第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
       タイトル「影 車」、テーマ音楽など
2. 江戸の街通り(一筋の広い道と蕎麦屋の屋台)・深夜
    F.I
    闇から現れた仙二郎。遠くから次第にカメラへ近づく姿。
3. 蕎麦屋の屋台・深夜
    中で小忙しく働く又吉。仙二郎、立ち止まって辺りを注視しながら屋
    台へ入り、座る。
   仙二郎「一杯(いっぺぇ)、掛けで貰おうか…」
   又吉  「へいっ!」
     何食わぬ顔で蕎麦を作る又吉。
   又吉  「お待ちっ!」 
     仙二郎、手馴れた感じで割り箸をとり、啜り始める。そして急に、
   仙二郎「大黒屋の連中だぜ…次は」 
   とだけ呟くように低く云う。又吉、頷く。勘定(銭、十数文)を置いて、
   仙二郎「三日後、また来る。伝えろよ」
    と意味深に吐いて立ち上がり、一朱銀(こつぶ)一枚を加えて置き、
    屋台の暖簾を出る。
   仙二郎「おお、今夜は冷えるなあ…」
    誰に云うでなく口に出し、去る。
4. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    お蔦が三味線(都々逸)を弾いている。
   二階客「ありがとよ。姐さん、もういいよ。ほれっ(障子戸の隙間から        
        紙包みの金子を下へ投げる)」
   お蔦  「どうも…。またご贔屓(ひいき)に」
    愛想笑いをし杖で探り、紙包みを拾って場を去る、お蔦。そこへ通
    り掛かった仙二郎。すれ違いザマ。
   仙二郎「ちょいと、顔、貸してくれ」
    囁くように云う。方向を変え、少し距離を置いて従う、お蔦。一瞬、
    目を開く。
5. 長屋横丁(井戸端、近く)・昼
    仙二郎と、お蔦がやって来る。
   仙二郎「又の奴にゃ云ったがな、次は大黒屋の嘉兵衛だ。お店(た
        
な)の探り、頼んだぜ(小声で)」
   お蔦  「あいよっ(片手を差し出して)」
   仙二郎「なんだ?(怪訝な表情)」
   お蔦  「こまった人だねぇ、この人(ひた)ぁ…。い、つ、も、の…」
   仙二郎「ちっ、しっかりしてるぜ、おめえはよぉ(渋々、財布を取り
        
出し、一朱銀を一枚を手渡す)」
   お蔦  「もう一枚」
   仙二郎「・・・」
    苦い顔で、もう一枚、一朱銀を取り出し、荒く手渡す。受け取って、
   お蔦  「そいじゃあねぇ~」
    お蔦、笑った後、瞽女(ごぜ)に戻って去る。その後ろ姿に、
   仙二郎「三日後の夕刻、今の茶屋でな」


                影車(挿入歌) 

     流れ唄   水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

          なんにも 知らない 初(うぶ)な星…                  
          健気に 生きてる 幼(おさな)星…
            汚れ騙され 死ねずに生きる
              悲しい女の 流れ唄

            酒場で 出逢った 恋の星…
           捨てられ はぐれて 夜の星…
             いつか倖せ 信じてすがる
            寂しい女の 流れ唄

          あしたは 晴れるか 夢の星…
          それとも しょぼ降る なみだ星…
            辛い宿命を 嘆いて越える
              儚い女の 流れ唄


※ 歌はタイトルをクリックしてお聴き下さい。

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2011年11月28日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車☆ 予告編

     影車      水本爽涼

      (予告編)     

     ━ こんな奴らは生かしちゃおけねぇ…━

 影車(かげぐる)が走る時…それは子(ね)の下刻であった。
 町奉行所すら、番屋から大八車の走る音を聞いたという知らせを、当方は与(あずか)り知らぬこと、と無碍(むげ)にうち捨て、その実は恐れ戦(おのの)く、といった有りさまであった。
 世は、時の老中、水野忠邦が執った天保の改革が頓挫した頃のこと、徳川の幕藩体制にも、その翳(かげ)りが色濃く見え始めていた。
 何者が車を走らせるのか、その人数が如何ばかりのものなのか…それは誰も知らない。ただ、影車が走った明け方には、決まって死骸が道端へ晒(さら)され、立て札がその横にあるという厳然とした事実があった。人はそれを、影車の仕業…と、もて囃(はや)した。

「留よぉ、また噂が立ってるようだぜ…」
 木戸越しに留蔵へ声をかける男がいる。 留蔵は聞かぬ風に鋳掛(いか)けを続けている。鞴(ふいご)の火で赤橙に熱せられた鍋底を叩きながら、
「用が、ねえんなら、帰(けえ)ってくんな。手筈以外(いげぇ)は、顔を見せねえ決まりだろうが…」
 と留蔵は低く呟いた。
「そりゃそうだがよぉ…。ま、いいじゃねえか」
「よかぁねえだろう。伝え向きなら話は別だが…。又よぉ、仙さんが怒るぜ、フフフ…」
 留蔵は又吉に冷たくそう云うと、あとは黙々と鋳鉄を叩く。そして、ふたたび口を開こうとはしなかった。

 影車と世間から噂されるこの組織には、四人の男と一人の女が加担していた。鋳掛け屋の留蔵、流し蕎麦(そば)屋の又吉、御家人の板屋仙二郎、飛脚屋の伝助、そしてもう一人、瞽女(ごぜ)の、お蔦である。
 又吉は辻へ屋台を出し、仙二郎が手筈の相手を告げに来るのを待つ。そして、皆に相手が誰かを伝える。武器は鉄製の大丼鉢だ。実態は元浪人。お蔦は仙二郎の指図で門付けし、人家や店内(みせうち)の情報を得る。そうして、得た情報を仙二郎や皆へ伝える役回りもする。武器は仕込み三味線である。実態は、くの一の抜け忍。留蔵は鋳掛け職人だが、その裏で手筈に必要な武器はその都度、作り、ワルを仕留める。実態は元浪人。伝助は手筈の後始末をする。皆が仕留めた死骸を大八車で運び、辻へ晒(さら)す。更には、札を立てて消える。実態は、根っからの町人。当然、仙二郎は元締めとして手筈の全てを仕組む。武器は刀以外にはない。実態は、北町奉行所・同心・定町廻りと聞こえはいいが貧乏御家人。…と、まあ、五人には、それぞれの役割が決まっていた。
 狙う獲物は、というと…、世の民を泣かせる悪い奴ら、だ。悪徳商人もいれば、高名な御役人もいた。加えて、民を泣かせる代貸し、強欲医者、儲け坊主に強欲神主などは申すに及ばなかった。要は、庶民が晴らせぬ、あらゆる怨みに敢然と立ち向かった。それ故か、江戸の町人は、こぞって影車を、もて囃(はや)したのである。
 
       ━はらせぬ怨み、はらします━

   ━手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…━

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2011年11月27日 (日)

短編童話 麻紀ちゃんと赤い靴 最終回

   麻紀ちゃんと赤い靴     水本爽涼
      最終回                     
 それに、その難敵に協力しようと言うママの心が麻紀ちゃんには分かりません。でも、老いた佑吉さんが一生懸命、頼むのを見ているうちに、麻紀ちゃんの心の中にも、ゴロはお利口な犬なのかも知んない…という心が、少しずつ大きくなっていきました。それで遂(つい)なんとなく、「どうすればいいの?」と麻紀ちゃんは口走ったのでした。
 その次の日、麻紀ちゃんとママは佑吉さんの家へ行きました。家の中からは、ゴロが尻尾(しっぽ)を小忙(こぜわ)しく振る姿が見えます。三人はゴロが赤い靴に夢中だと思っていますが、ゴロは大好きな麻紀ちゃんが来てくれたことに有頂天で、ニコニコしているのです。お互いの想いは違うのですが、それでも三人はゴロの方へと近づいていきました。
「ぜんぜん怖(こわ)くないからね」と佑吉さんが言いました。
 麻紀ちゃんはママと佑吉さんに守られるようにゴロの前へ来ました。ゴロも麻紀ちゃんに嫌われたくはありませんから、吠(ほ)えずに尻尾(しっぽ)を振るだけにしておこう…と思いました。
 麻紀ちゃんが恐(おそ)る恐(おそ)るゴロの頭を撫(な)でますと、ゴロは「クゥ~ン」と嬉しい気持を伝えました。“ボクはゴロ、よろしくね”って…。
「こいつは、この赤い靴が気に入ってるんですよ。さあ、歩いてやってください」
 佑吉さんとママに促(うなが)され、麻紀ちゃんはゴロの回りをヨチヨチと歩きます。ママは少し心配です。
「ははは…、ゴロが喜んでます」と佑吉さんが、ポッツリといいました。
 確かにゴロは嬉しかったのですが、それは赤い靴のせいではなく、麻紀ちゃんに逢(あ)えたからでした。
                                        

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短編童話 スワンの涙 最終回

     スワンの涙     水本爽涼
   最終回 
 勇太の消息は、その日を境に消えました。
 次の朝、両親は警察に捜索願を出しました。警察は誘拐、或いは事故の可能性があるとして、必死に捜査をしました。しかし、二日たち、三日たっても手がかりになるようなものは何ひとつ見つかりません。警察は家族に対しても内偵を始めました。そして、泣き崩れて話し始めた泰代から、捜査員達は、その一部始終を知らされました。━たぶん、この子は虐待されていたのだろう。だとすれば、自殺の可能性だってあるじゃないか…━、と。
 捜査は勇太の行動を中心に進められました。しかし、一週間を過ぎても勇太が発見されることはありませんでした。聞き込みはは学校にも及びました。
「勇太ちゃんなら帰る途中、いつも湖にいたわよ」 
 同じクラスの女の子の有力な証言から、捜査員達は湖を中心に捜索を展開しました。しかし、努力も虚(むな)しく、勇太は見つかりませんでした。
「課長! 子供の服とランドセルが発見されました」
「なにっ! すぐ周辺を、くまなく探すんだっ!」
 数十人の捜査員が湖畔に集まって勇太を捜しました。でも、やはり見つからなかったのでした。
 勇太が遊んでいたという、その水辺には、二羽の子白鳥が楽しそうに泳いでいるだけです。それは紛(まぎ)れもなく、"寂しがりやのポツリ”と、白鳥になった勇太でした。
━人間たちが君をさがしてるよ━
━そうみたいだね…━
 クワッ! と小さく啼いたその白鳥の瞳には、いっぱい涙があふれていました。
                                        

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シナリオ 「影踏み」

≪創作シナリオ≫

    影踏み    

  登場人物
黒木浩二(22) ・・公務員(回想シーン 学生)
本山美沙(20) ・・会社員(回想シーン 学生)
老婆   (83) ・・鹿煎餅売り

○   興福寺境内 五重塔前 夜[現在]
  十六夜の朧月。微かな巻雲。煌々とした蒼い月に照らされる五重塔、境内。 

○ メインタイトル
  「影踏み」

○    同   五重塔前 夜[現在]
  月光にくっきりと浮き上がる五重塔を見上げ、立ち止まる浩司。十六夜の朧月。辺りに人の気配はあるが、割合、静穏である。
 浩司M「あれは…、そう、去年のこんな夜だった」

○    同   五重塔前 夜[現在]
  十六夜の朧月、五重塔の夜景。
  O.L

○    同   五重塔前 夜[回想 去年]
  O.L
  十六夜の朧月、五重塔の夜景。
  現在と同じアングルで見上げ、佇む浩司。後方から静かに女性が近づいてくる。
 美沙「あのう…、すみません」
  突然、背に声を受け、驚いて振り向く浩司。目と目が合う二人。見つめ合う二人。一目惚れ。束の間の無言。
 浩司「…はい、なにか?」
 美沙「なんか、言いにくいな…(照れて)」
 浩司「けったいな人や。…どないしたん?」
 美沙「(はにかんで)この辺りに財布、落ちてませんでした? …やっぱ、恥しいな。(気を取り直して)鹿のストラップがついてるんですけ
     ど…。(浩司を窺うように見て)馬鹿(ばっか)みたい!(突然、自分に切れて苦笑)」
 浩司「かなり怪(おか)しいで、あんた。どもないか?(笑いをこらえて)」
 美沙「(少し膨(ふく)れて)あんたってなによ! 本山さんとか美沙さんとか言ってよね!」
 浩司「言(ゆ)うてて…。初めて会(お)うたんやで、僕ら(笑えてくる)。そんな興奮せんでもええがな。第一、君の財布も知らんし…」
 美沙「アッ! そうでした、すみません」
 浩司「(大笑いして)マジ、怪(おか)しいわ、あんた。…いや、あんたやない。本山さんとか言(ゆ)うたな?」
 美沙「はい、そうですぅ~(少し拗(す)ねて)」
 浩司「ほやけど、財布がなかったら困るな。昼間、落としたんか? 昼間なら、ここら人が多いで、あかんで」
 美沙「そうなのよね。一応、交番には届けたんだけど…(月明かりの地面を窺い)」
 浩司「駐在はん、どう言(ゆ)うてた?」
 美沙「出たら連絡しますって。…でも、ほとんど出ないそうよ」
 浩司「ほやろな…(月明かりの地面を窺い)」
  二人、探しつつ歩き始める。十六夜の朧月に照らされた興福寺五重塔。

○  奈良公園 夜[回想 去年]
  十六夜の朧月。鹿が所々にいる。月明かりに遠景の五重塔が映える。歩く二人。
 浩司M「僕達は諦(あきら)めて、ふらふらと歩き、いつの間(ま)にか、興福寺の外へ出ていた」
 浩司「黒木いいます。二十一。地元の学生なんやけどな」
 美沙「なんだぁ、親のスネカジリか…」
 浩司「あんた口悪いな。…いや、本山さんやったな」
 美沙「口悪いのは生まれつきですぅ~(“あっかんべえー”をして)。で、名前は?」
 浩司「なんやいな、警察みたいに…(少し、むくれて)。浩司や」
  二人、小さく笑い、芝生へと座る。月の光で結構、辺りは明るい。鹿も何頭かいる。
 浩司「…本山さんも学生はんかいな?」
 美沙「はい。ずう~っと向こうの(東を指さして)ほうですぅ~」
 浩司「(小さく笑い)ほんま、面白(おもろ)い娘(こ)や…」
  二人、意気投合し、互いの顔を見て笑う。
 浩司「(急に真顔に戻り)ほやけど、どないするん? 今晩」
 美沙「それは問題ないんだけどね。(指さして)ほん其処(そこ)の友達ん家(ち)泊まるから…」
 浩司「ほうか…。そりゃ、よかったわ。…で、今日は、まだ時間あるんか?」
 美沙「うん。…ありは、ありね」
 浩司「ほなら、一寸(ちょっと)戻らなあかんけど、猿沢の池、案内しとくわ」
 美沙「(立ちながら)上から目線がムカつくなあ。まっ、
いいか(勝手に歩き始め)」
  浩司も立つと、後を追って歩く。

○  同 猿沢の池 夜[回想 去年]
  十六夜の朧月に映える池の遠景。池の後方に蒼白く浮き上がる五重塔。
 浩司M「僕達は猿沢の池に出た」
  池堀の周辺を並んで歩く二人の遠景。十六夜の朧月。微かな巻雲。

○  同 猿沢の池 夜[回想 去年]
  朧月に照らされた柳が春の微風に戦(そよ)ぐ。笑顔で語らい、池堀を並んで歩く二人の近景。
 美沙「しばらく忘れてた…、こんな感じ」
 浩司「どうゆうことや?」
 美沙「ん? …別に意味はないの…」
 浩司「やっぱ、どっか怪(おか)しいで、本山さん、…とか言(ゆ)う人」
 美沙「なによ、それ(微笑んで)。馬鹿にしてんでしょ、私のこと」
 浩司「そんなことないがな。(空を眺めて)それにしても、ええ月やわ。…なあ、影踏みしよか?」
 美沙「なに? それ」
 浩司「かなんなあ。影踏み、知らんのかいな。ほやで困るにゃ、都会の娘はんは…」
 美沙「馬鹿(ばっか)みたい。それくらい、知ってるわよ(少し向きになって)。でも、あれって、昼間の遊びじゃなかったっけ?」
 浩司「そんな決まりはないで。…ほな、僕が鬼になるわ。はよ、逃げんと、踏むでぇ~(小さく笑い、冗談で脅かす)」
  『キャ~』と奇声を発しながら笑って走り出す美沙。その後を走る浩司、美沙の影を踏もうと、おどけて追う。しばらく戯れて走り、息が切
  れた二人、立ち止まる。浩司、息を切らせながら思わず空の月を眺める。釣られて眺める美沙。十六夜の朧月。月に照らされる柳。見上
  げる二人の姿(近景)。
 美沙「久しぶりに子供の頃に戻ったみたい…(荒い息を抑えながら、月を眺め)」
 浩司「ああ…(荒い息を抑えながら、月を眺め)」

○  二人の歩く姿と空に浮かぶ月(遠景) 夜[回想 去年]

○  興福寺境内 夜[回想 去年]
 浩司M「僕達は興福寺へ戻り、別れた。いや、そうするつもりだった」
  歩く二人、立ち止まる。煌々とした蒼い月に照らされる五重塔の夜景。
 浩司「じゃあな…。ええ旅してや。アッ、本山のメルアド訊いとこか。財布、出てきたら連絡するさかい…」
 美沙「(小さく笑い)おいおい、今度は呼び捨てかい。プラス、相変わらずの上から目線」
 浩司「悪(わり)ぃー悪(わり)ぃー(頭を手で掻きながら、悪びれて)」
  美沙、膨れながらも微笑む。携帯のメールアドレスを交換する二人。
 浩司「友達の家て、どこや?」
  二人、歩き出す。
 美沙「ほん其処(そこ)…(指さし)」
 浩司「なんや…、ほなら送ってくわ。女性の一人歩きは物騒やでな」
 美沙「フフフ…(笑って)、黒木の方が物騒」
 浩司「本山も結構言(ゆ)うなあ(小さく笑い)、きつぅ~。…ほやけど、名前覚えてくれたんは嬉しいなぁ」
 美沙「不覚じゃ! 喜ばせてしもうたかぁー。(笑って)」
 浩司「やっぱ、僕には手におえんわ、本山は(笑って)」
 美沙「(真顔で)美沙でいいよ…」
  佇(たたず)んで見つめ合う二人。十六夜の朧月。また歩き出す二人。


○ とある家の前 夜[回想 去年]       
 美沙「んじゃ、ここで…」
 浩司「ああ…(微笑んで)」
  月明かりが射す、とある家前で別れる二人。

○  同 境内 夜[回想 去年]
  五重塔の遠景。
  O.L

○  同 境内 夜[現在]
  O.L
  五重塔の遠景。
  煌々と照らす十六夜の朧月に、くっきりと浮き上がる五重塔の近景。去年と同じアングルで見上げ、佇む浩司。
 浩司M「あれから美沙と数度逢い、僕達は婚約した。勿論、結婚は、僕が卒業して社会人になる前提だった」
  ふと我に帰り、歩き出す浩司。
 浩司M「それが、急に美沙は姿を消した」
 浩司「もう一年か…(ふたたび五重塔を見上げ、嘆くように)」
 浩司M「会社に勤めた美沙と役場に勤めた僕。二人の結婚は、何の障害もない筈だった。…でも、それっきり逢えなかった」
  その時、斜め前方より、時代を感じさせるリヤカーを引いた鹿煎餅売りの老婆が、のろのろと浩司に近づく。
 老婆「あんた…、黒木さんか?(しわがれ声で)」
 浩司「…」
  白い乱れ髪の下から嘗(な)めるような視線で浩司を見上げる背の曲がった老婆。立ち止まり、老婆を見下ろす浩司。おどろおどろしい
  風貌の老婆に、少し引きぎみの浩司。
 浩司「そうやけど…(少し気味が悪いと感じながら)。お婆さん、なんぞ僕に用か?」
 老婆「昼間、娘はんがな。黒木、言(ゆ)う人に会うたら、…これ渡してくれて、預かったんやわ…(しわがれ声で)」
  汚れた服のポケットから半折れになった白封筒を取り出し、浩司へ手渡す老婆。
 浩司「(受け取って、朴訥に)おおきに…」
  老婆、頷き、ふたたび、のろのろと、何もなかったかのようにリヤカーを引いて去る。

○  同  境内 夜[現在]
  老婆が去ったのを見届け、白封筒の中に入った便箋を取り出し、黙読し始める浩司。朧月に美沙の姿が重なる。
 美沙M『たぶん、あなたが、この手紙を開く頃、私は外国へ旅立っていると思います。黙って姿を消したこと、まず先に誤らせて下さい。
      親の決めた結婚相手を断れなかった私。全て私が弱かったのです。どうか、こんな私のことは早く忘れて幸せになって下さい。
      遠い、遙か彼方から、あなたの幸せを祈っています。 
美沙』
  黙読し終えた浩司。心なしか項垂(うなだ)れ、便箋を封筒へ入れる。
 浩司「(思わず泣けてきて、涙を拭い)美沙の馬鹿野郎!(咽びながら小声で)」
  その時、浩司の肩を後ろから突っつく者がある。浩司、ビクッと驚いて振り向く。涙顔の美沙が立っている。
 美沙「(他人行儀に)…あのう、どうかされました?(言葉をかけた後、真顔から笑顔になって)」
 浩司「アッ! …なんやお前、戻ってきたんか…(意固地になり)」
 美沙「なんや、とは、なによ!(膨れぎみ)戻ってきてあげたんだからね…(真顔に戻って)」
 浩司「(素直になり)ほうか…、おおきに。そやけど、書いたーることと違うやん(微笑みながら白封筒を突き出し)。プラス、ここで今、会う
     のは、出来過ぎた話と違うか?」
 美沙「(恋する真顔になり)行けなかったの…。それで、あの時に戻りたくなって…」
 浩司「…」
 美沙「…」
  互いに見詰め合う二人。どちらからともなく抱擁し交わすキス。空の朧月。静かに離れる二人。暫しの沈黙。浩司、空の朧月を眺める。
  美沙も釣られて眺める。
 浩司「み空行く、月の光に、ただ一目、相(あい)見し人の、夢(いめ)にし見ゆる…か」
 美沙「どんな意味?」
  二人、歩きだす。自然と手をつなぐ二人。
 浩司「…空を行く月の光の中で、ただ一度、お逢いした人が、夢に出てらっしゃるんです…ぐらいの意味やろ」
 美沙「ふ~ん、そうなんだ(反発せず素直)」
 浩司「なんや、それだけかいな。やっぱり怪(おか)しいわ、美沙は」
  美沙、立ち止まる。浩司も立ち止まる。手を離す二人。
 美沙「なぜ?」
 浩司「ほやかて、そやろが。僕が万葉の恋歌を、しみじみ詠んでんねんで。もっと、弄(いじ)ってもらわんと…」
 美沙「(小さく笑って)お笑いじゃあるまいし…。で、どう言って貰いたいの?」
 浩司「じれったいなあ、もう…。こんなこと、僕に言わすんかいな。…好、き、や、って言(ゆ)うてんねん」  
 美沙「分かってたよ、ずっと前から…。だから結婚するんでしょ? 私達」
 浩司「(怪訝な表情で)えっ? ほやかて、外国、行くんやろ? そやないんか?」
 美沙、ふたたび歩きだす。浩司も歩きだす。
 美沙「馬鹿(ばっか)じゃない。じゃあ、なぜ私、今ここにいるの? さっき出会ったとき、何も思わなかった?」
 浩司「アッ! そうや。そうやわな。そらそうや…。ほんで、いつかの財布は?」
 美沙「(小さく笑い)可笑(おか)しな人…」
  釣られて、笑う浩司。そこへ前方から近づくリヤカーを引いた鹿煎餅売りの老婆。浩司、近づくにつれ、先ほどの老婆だと気づく。擦れ違
  いざま、
 浩司「さっきは、どうも…」
  と、老婆へ徐(おもむろ)に声を掛ける浩司。老婆、少し行き過ぎた所で立ち止まり、振り返る。
 老婆「…ああ、 昼間のお人と先(さっき)のお人か。上手いこと出逢えたようやな、お二人さん。よかったよかった…(二人を笑顔で見上
     げ、しわがれ声で)」
 浩司「はあ…(軽く会釈)」
 老婆「わてにも、こんなことがあったなぁー。そうそう、もう六十年以上、前の話やけんどなぁ。戦争で出逢えんかったんや、とうとう…(しわ
     がれ声で悲しそうに空の月を見上げて)」
  ふたたび何もなかったように寂しげにリヤカーを引いて立ち去る老婆。一瞬、立ち止まり、後ろ姿のまま、
 老婆「わての分も幸せになんにゃでぇ~!(声を幾らか大きくして)」
  と、やや叫び口調の声で離れた所からそう言い、遠ざかる老婆。次第に闇の中へ紛(まぎ)れる老婆。

○ 十六夜の朧月に照らされる興福寺五重塔

○  興福寺境内 夜[現在]
 美沙「訳ありか…、可哀そう。でも、一寸(ちょっと)キモイね」
 浩司「(不気味な言い方で)そういや、あの婆さん、影がなかったでぇ~(老婆が立ち去った後方の闇を振り返り)」
 美沙「(驚いた高い声で)キャ~っ!」
 浩司「嘘や、嘘やがなぁ~(笑って肩に手を掛け)」
 美沙「驚かさないでよ(フゥ~っと、溜息を吐き)」
 浩司「それにしても、よい月夜やったな」
 美沙「ん、そうね…。結果、オーライ」
 浩司「み空行く~、月の光に、ただ一目~」
 浩司、横を歩く美沙の手をさりげなく握る。
 二人「相(あい)見し人の、夢(いめ)にし見ゆる~(笑う)」
  美沙も握り返す。握り合った手を振って歩きだす二人。前方に十六夜の朧月。煌々とした蒼い月に浮かぶ五重塔。微かな巻雲。

○  (フラッシュ) 奈良公園 夜
  月の光が射し、鹿が所々にいる芝生。     

○  (フラッシュ) 猿沢の池 夜
  十六夜の朧月に照らされる池。池の後方に浮かび上がる興福寺五重塔。

○ もとの興福寺境内 夜
  十六夜の朧(おぼろ)月に照らされる五重塔。
  その前を雑談をしながら去っていく浩司と美沙の手をつないで歩く姿。次第に二人の姿、遠ざかる。空の朧月。

○ エンド・ロール
  奈良公園と朧月。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど
  F.O

               (2008/ NHK奈良 投稿作を推敲)

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2011年11月26日 (土)

短編童話 麻紀ちゃんと赤い靴 第三回

  麻紀ちゃんと赤い靴     水本爽涼
      第三回                    
 佑吉さんは目を凝(こ)らして二人を見つめます。ゴロは今日も「ワンワン!…」と、吠えはじめました。しかし、そんなことに気をとられている場合ではありません。佑吉さんは、なおもジイ~っと目を集中させました。すると、どうでしょう。ママに隠れる麻紀ちゃんの赤い靴が、偶然にも目が止まったのです。それは、忙(せわ)しく小刻みに動いていました。正確に佑吉さんの目から見れば、二つの赤い斑点のようなものが、チラチラと交互に歩んでいたのでした。佑吉さんは、「あっ! これだ」と、思いました。よく見れば、麻紀ちゃんのアンヨだということが、老眼の佑吉さんにも見てとれました。
━あれを、なんとかできないか…━
 ふと、佑吉さんの頭に、そんな想いが巡ったのでした。ゴロを元気にするのは、これだ! と佑吉さんは軽く思いました。
 いったいその赤い靴に対して、どのようにしようというのでしょうか。ゴロは別に赤い靴が好きだというわけではないのですが、佑吉さんは、その赤い靴とゴロを結びつけて考えているのです。
 ある日、佑吉さんは思い切って麻紀ちゃんの家を訪ねました。そしてゴロのことを包み隠さずお話しました。麻紀ちゃんのママは、それはお気の毒に…と、思ったものですから、「できることがありましたら、お手伝いさせて戴(いただ)きますわ」と佑吉さんへ協力を申し出ました。麻紀ちゃんにすれば、あの怖(こわ)いのがゴロなんだ…ぐらいの気持です。
                                       

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短編童話 スワンの涙 第三回

            スワンの涙     水本爽涼
   第三回                    
  あるものは数羽をグループとして、そしてまたあるものは二羽を番(つが)いに泳いでいるのです。ところが一羽だけが妙なことに、他の群れとは明らかに違った場所でじっとしていたのでした。次の日も、また次の日も、その同じ状態は続きました。勇太は恐る恐る近づいて、その白鳥の子供に給食で取っておいたパンの耳をちぎり与えました。水辺にフワリフワリ浮かぶそのパンの耳を、白鳥は嘴(くちばし)で啄(つい)ばみました。そして、勇太の方をじっと見つめたのです。勇太も白鳥を見ていましたから、互いの視線が、ぴったり合ってしまったのです。勇太の悲しげで虚ろな視線と、白鳥の寂しげな視線は暗黙のうちに一つに繋がりました。
━お前も一人ぼっちなの?━
━ああ、そうだよ。でも僕は今こうして自由にスイスイ泳げるし、好きなところへ飛んでいくことも出来るから…━と、その白鳥が言ったように勇太には思えました。
━僕は帰れば怒られるし、夕飯も食べられないんだ…━
  そうだったのです。勇太が白鳥に与えたパンの耳は、実は夕食用にと勇太が給食で残しておいたものだったのです。最近は、ほとんど夕食を食べさせてもらえない勇太でした。
━僕なんか生まれてこなけりゃ、よかったんだ…━そんな悲しい想いが、勇太の全身を包んでいたのです。
━僕のところへ、おいでよ━
 クワッ! と一声、白鳥が啼(な)いたとき、勇太はそう思いました。
                                       

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短編小説&シナリオ 笹百合の峠

     笹百合の峠      Photo

「咲と申します」
「どこぞで、お会いしたことが…?」
 市之進は、咲と名乗る年若な女に訊ねた。
 既に辺りの人気は失せ、宿を探そうとて、この山越えの峠道では如何(
いかん)ともし難く思えた。そこへ、この咲である。夕陽に浮かぶ咲の姿の、なんと白く手弱かなことか。そうでなければ市之進は、悪霊か何ぞに、とり憑かれた…と、逃げだしたに違いない。ただ、咲という女が、どうも市之進には想い出せないのだ。
「もう、お忘れになって、ございますか?」
 古めかしい云い回しをする女だ…と、妙に思ったが、想い出せない以上は仕方がない。
「お咲さん…、とか申されましたね? 私も旅の途中、どこぞでお逢いしたのならば、これも何かのご縁と申すものでございましょう」
 とだけ返した。その後、暫(しばら)くは、鬱蒼(うっそう)と樹々が茂る山道を連れ添って歩いた。市之進の算段では小諸宿へ疾(と)うに着いている筈であったが、峠越えををするどころか益々、足元は険しさを増していく。そうこうしている内に、日はとっぷりと暮れ果てた。仕方なく、市之進は焚き火を頼りに野宿をすることにした。
 咲は少しも話そうとはしない。市之進も、余りの咲の美しさに意識が先立ち、話せない。夜は深々と更けてゆく。幸い季節は初夏の匂いの漂い始める候で、寒くはなかった。市之進は疲れもあってか、いつしか微睡(まどろ)んでいた。
 ふと、現れた世界は幻なのであろうか…。市之進には分からない。だがその情景は、確かに見憶えのある辿った遠い過去であった。━━子供が数人いる。その中に自分の姿もある。子供の一人が棒切れで白い笹百合の花を斬ろうとした。それを自分と思しき子供が必死に両手を広げ、止めている…━━
 小鳥達の囀りに、ふと目覚めれば、辺りはもう早暁であった。瞼を開け、冷えた半身を起こした市之進は驚かされた。消えた焚き火の跡は確かにあった。が、咲はいない。何者かに連れ去られたか…と、全身を奮い起こして立つと、咲がいた場所には一輪の白い笹百合が咲いていた。その花は、市之進の夢に現れた花に違いなかった。幼い頃の…あの時の…。その花の株下に置かれた一枚の守り札…。その木札を手にしたとき、市之進の脳裡に、何故か懐かしい想いが駆け巡るのであった。
 その後、市之進はその守り札を片時も手離さず、破格の出世をしたそうである。

                                       完
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  ≪創作シナリオ≫

     笹百合の峠Photo

    登場人物
  市之進・・・年若な武士
  咲   ・・・笹百合の化身

 ○ とある山の細道(中腹) 夕暮れ前
   F.I
   タイトルバック
   とある山中。鬱蒼と茂る山林。山の細道を辿る年若な武士。夕暮れの木漏れ日。小鳥の囀り。
   前方の山道から近づく咲。擦れ違いざま立ち止まり、市之進を見上げる咲。
  咲  「あのう…市之進様? わたくし、咲と申します」
   訝しげに立ち止まり、振り返る市之進。じっと咲を見つめる市之進。
  市之進「はあ…。どこぞで、お会いしたことが…?」
  咲  「もう、お忘れになって、ございますか?」
   訝しげに咲を見つめる市之進。想い出せない市之進。
  市之進「お咲さん…、とか申されましたね? 私も旅の途中、どこぞでお逢いしたのならばこれも何かのご縁と申すものでございましょ
       
う」
  咲  「有難う存じます…(軽く会釈して)」
   連れ添い、歩き出す二人。語らう二人。遠退く二人の姿。鬱蒼と茂る山林。
   テーマ音楽
   タイトル「笹百合の峠」
   
出演者、制作スタッフなど。

 ○ 山の細道(中腹) 夕暮れ
   鬱蒼と茂る山林。険しくなる足元。辺りを見回す市之進。不気味な梟の鳴き声。
  市之進「…妙です。もう峠越えして、小諸宿が見える筈なのですが…(少し息切れしながら)」
   険しくなる一方の山道。息切れしながらも進む二人。日没。
  市之進「これ以上は無理なようです…。仕方ありません、野宿すると致しましょう。夜道は危険ですから…」
  咲  「はい…」

 ○ 山中の平地 夜
   漆黒の闇。焚き火を囲む二人の遠景。楽しく語らう二人。
  市之進「少し…疲れたようです…」
   次第に眠気が市之進を襲う。微睡(まどろ)む市之進。焚き火。

 ○ ≪夢の中≫
   山中で遊ぶ子供達。咲く白い笹百合。棒きれで笹百合を叩き斬ろうとする子供。それを必死に両手で止める幼少期の市之進と思し
き子供。

 ○ 山中の平地 早暁
   消えた焚き火。朝靄が漂う山中の平地。目覚めて半身を起こす市之進。寒さに身を竦める市之進。咲がいないことに気づき、辺りを見
回す市之進。全身を奮い起こして立つ市之進。咲のいた場所に咲く一輪の白い笹百合。花に気づく市之進。
   O.L

 ○ ≪幼少期の追憶≫ 回想
   白い笹百合。微笑んで笹百合を見る幼少期の市之進と思しき子供。

 ○ 山中の平地 早暁
   O.L 咲のいた場所に咲く一輪の白い笹百合。花の株下に置かれた一枚の守り札。木札を手に取る市之進。懐かしい想いに浸る市之進の近景。市之進の遠景。朝靄に煙り、欝蒼茂る山林。
   テーマ音楽
   朝靄に煙り、欝蒼と茂る山林。
   T 「終」
   F.O
                                                           
 完

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2011年11月25日 (金)

短編童話 麻紀ちゃんと赤い靴 第二回

   麻紀ちゃんと赤い靴     水本爽涼
      第二回                    
  でも、最近になって、ゴロが元気をなくすときというのが、決まってお昼の三時間ほどのあいだに起こることに気づきました。それで、今日こそは、そのわけを探ってやろうと、佑吉(ゆうきち)さんはお昼ごはんも食べず、物陰(ものかげ)からコッソリとゴロの様子を窺(うかが)っていたのでした。
「なんだ…、そうだったか」
 佑吉さんは今日やっとそのわけを、つきとめたのです。お買い物に行くママと麻紀ちゃんが通ったあと、俄(にわ)かにゴロの元気がなくなるということを…。
 ゴロはもちろん悩んでいますが、今度は佑吉さんがそれ以上にどうしたらいいんだろう…と、悩み始めたのでした。
 とりあえずは二人の後(あと)をつけて、住み家(か)だけでも知っておこう…と佑吉さんは思いました。
それで今度は、
ママと麻紀ちゃんがお買い物を終えて帰るのを待つことにしました。まさか、別の道を通っては帰らないだろう…と、そう思ったからです。
 二人がお買い物から帰ってきました。佑吉さんは怪(あや)しまれてはいけないなあ…と思いましたから、二人の後ろを少し離れて跡をつけました。幸(さいわ)い二人には発見されずに、佑吉さんは二人の家をつきとめることに成功しました。
 さて、問題はここからです。ママと麻紀ちゃんの家が分かったからといって、ゴロを元気にするにはこうすればいい、という名案が浮かびません。
 次の日もお昼過ぎになると、ママと麻紀ちゃんは、いつものようにお買い物に出ました。佑吉さんは今日も物陰に潜(ひそ)んでいますが、ゴロの様子を見るためではありません。今日は二人の様子を窺(うかが)って、何かいい解決策はないものかと、探るつもりなのでした。
 佑吉さんは、もう歳をとっていますから、耄碌(もうろく)しているわけではありませんが、もうひとつ、いいアイデアが浮かばないのです。
 暫(しばら)くして、佑吉さんが物思いに耽(ふけ)り潜(ひそ)んでいると、いつものようにママと麻紀ちゃんが佑吉さんの家の前を通りました。
                                         

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短編童話 スワンの涙 第二回

      スワンの涙     水本爽涼
   第二回                          
  勇太は弾(はず)みで、拓次からその玩具(おもちゃ)を取り返しました。すると、幼い弟は大声をあげて泣き始めたのです。
   台所では母の泰代が洗い物をしていました。急に泣き叫ぶ拓次の声が聞こえます。泰代は拓次に走り寄って…次の瞬間、勇太は左頬に激しい痛みを感じました。続けて泰代の小言が勇太の頭へ降りそそぎます。自分は叱られているんだ…ということは分かる勇太ですが、その訳がどうしても理解できません。何故、自分は頬を叩かれたのかが不明なのでした。勇太は寂しくなり、落ち込んでしまいました。
 夕暮れどき、養父の努が工場から帰ってきました。泰代は今日の些細な出来事のあらましを努に話しました。努はその時は聞き流して、子供のやることじゃないか…と、敢(あ)えて叱ることはありませんでした。
 その後、それに似たようなことが二、三度あり、努の勇太を見る眼差(まなざ)しは次第に冷たくなっていったのです。
 家族の中で、少しずつ孤独になっていく自分を勇太は感じていました。勇太は、すごく悲しい気持でした。
 暑い夏が終り二学期が始まりました。元々、寂びしがりやで温和(おとな)しい勇太には、これといった友達がいません。でも、家へ帰れば、冷ややかな母親の視線があるだけです。勇太は学校が終わると道草をするようになりました。いつも立ち寄るのは湖の辺(ほとり)でした。湖はキラキラと輝いて、湖底の様子を水族館のように見せてくれます。その色は透明に澄み切った水色で、勇太の心を和(なご)ませるのでした。
 月日は流れ、翌年の冬が巡りました。この年も白鳥は、遠いシベリアから忘れずにやって来ました。
この頃、勇太を取り囲む環境は、ますます悪くなっていました。家の中では露骨な苛(いじ)めが勇太を待ち構えていたのです。勇太が湖畔で過ごす時間は、日に日に長くなっていきました。
 その日も、勇太はいつもの日課のように、湖の辺(ほとり)で時を過ごしていました。白鳥の群は数十羽…、いや百羽以上があちらにも、そしてこちらにも、優雅に泳いでいます。
                                       

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シナリオ 「見つめていたい」

≪創作シナリオ≫

    「見つめていたい」より

○車の中(運転席)・夕方[現在]

   車を走らせる男。
  N「知り合いの結婚式に出席した妻を迎えに、近くの駅まで車を走らせた」
   前方に駅のロータリー。改札口が視界に入る。車を停車させる男。降り出した雨。ワイパーを始動
し、ぼんやり改札口を見つめる男。窓ガラス
から見た駅の風景。
   O.L

○車の中(運転席)・夕方[11年前]・回想

   O.L
   窓ガラスから見た駅の風景。T 「11年前」。降る雨。空虚に動くワイパ-。ぼんやり改札口を見つめる男。
  N「そういえばボクが二十二歳のときだ今日と同じように、ひとりの女性を待ちわびた時間がある。あの日も雨で、こうして車の中からOK
をもらい、その日は朝からウキウキ三昧で、雨も街灯に照らされて銀色に輝いていた
   改札口から散らばって降り立つ多くの客。次第に疎らとなる客。
  男「……いない…(寂しく)」
   意識を集中させ、女を探す男。

   フラッシュ(到着する列車、改札口を出る客。到着する列車。改札口を出る客。……)
  N「結局、降り立った乗降客の中に、彼女の姿はなかった」

   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。

  N「それから十五分おきに列車は到着したが、どの列車からも彼女が降りることはなかった」
   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。車のシートを倒し、暗い車中でポカンと口を開けている
男。空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡ら
す雨。
   O.L

○車の中(運転席)・夕方[現在]

   O.L

   空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡らす雨。
  N「雨足は強くなり、なんの望みもなく時間が流れていた」

   傘をさし、突然、早足で車へ近づく女(バタバタと)。ドアを開ける11年後の老けた女(妻)。
  妻「ゴメン、遅くなっちゃった…(息を切らして)」
  男「いいんだ、メグちゃん! 予約したレストランも、まだ間に合うから…(昔に想いを馳せ)」
   唐突に、シートから身を起こす男。

  N「ボクは、弾んだ声で身を起こした」
   
助手席を見る男。結婚式の引き出物を持ち、訝しげな表情で助手席に座っている妻。

  男(M)「十一年か。フフフ…、メグちゃんも玉手箱、開けたなっ(ニヤッと笑い)」
    小さく咳払いする妻。カーラジオを入れ、とぼけ顔で車を発進する男。流れる曲     

   S.E(男にとって懐かしい曲)。音楽を聴きながら運転し、過去へ想いを馳せる男。男を横目に見て、訝しげな表情の妻。微笑を浮かべ、家路を急ぐ男。流れる外景。
                                       完

 ※ 坂本博氏 「徒然雑記」内記事より脚色

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2011年11月24日 (木)

短編童話 麻紀ちゃんと赤い靴 第一回

     麻紀ちゃんと赤い靴     水本爽涼
      第一回                
  麻紀ちゃんは今日もママとお買い物にいきます。いき先はいつも決まっていて、近所にあるコンビニです。おきにいりの赤い靴を必ず履(は)いて出るのが楽しみです。
  天気もいいし、申し分のない爽(さわ)やかな風も流れています。だから、歩けるようになった麻紀ちゃんには、すごく楽しい気分が訪れています。
 ルンルンの麻紀ちゃんに、今日は手がかからないこともあってか、ママもすごく機嫌(きげん)がいいのです。むずかる麻紀ちゃんには、ママも手こずって機嫌が悪くなるのです。
  少し前にパパが買ってくれた赤い靴は、私にはピッタリ…と、麻紀ちゃんは思っています。だから、おきにいりなのです。
  ママと二人で細い路地(ろじ)をぬけると、車が行(ゆ)き交(か)う賑(にぎ)やかな大通りに出ました。出たところの左側の家には、麻紀ちゃんにとって最大の難敵(なんてき)、秋田犬のゴロが、のっそりいます。体の大きさが麻紀ちゃんよりずっと大きいのです。でもコンビニへいくには、その道を進まなければなりません。麻紀ちゃんは、いつもこの家の前を通り過ぎるとき、ママの姿に隠れるようにして、ゴロが「ワンワン!」と吠(ほ)えても怖(こわ)くないようにします。でも、ゴロは麻紀ちゃんが嫌いでもなんでもないのです。それは逆で、"今日もママとお使いかい? いいねえ”と言っているのですが、麻紀ちゃんにはそれが分かりません。ゴロは麻紀ちゃんの赤い靴を、"可愛(かわい)いし、よく似合(にあ)うよ”と思っていますが、伝える術(すべ)がありません。話をしようとすると、返って麻紀ちゃんは怯(おび)えるので、"どうしたら、いいんだろう…”とゴロは悩んでいます。
  今日もゴロは麻紀ちゃんの姿が見たいのに、麻紀ちゃんがママに隠れてしまうものだから、とうとう可愛(かわい)い姿を見ることができませんでした。それで、ゴロはすっかり元気を失(な)くしてしまいました。飼い主の佑吉(ゆうきち)さんは、最初のうちは、それが不思議でしかたありませんでした。
                                      

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短編童話 スワンの涙 第一回

          スワンの涙     水本爽涼
   第一回                      
 少年はその白鳥をポツリと名づけました。
 なぜポツリなのかといいますと、いつも水辺の淵を、一羽だけ群から離れて泳いでいたからでした。心の中で、"寂しがりやのポツリ”と少年は呼んでいました。
 少年は勇太(ゆうた)といいました。両親が勇気のある子に育つようにと名付けたのですが、小学一年の勇太には返ってそれが心の負担になっていました。自分はどちらかというと控えめで、温和(おとな)しい性格だということを、当の勇太自身は分かっていました。
 今日も塾へ行かねばなりません。勇太は学校から帰ると、決まりごとのように二十分後には、また家を出て、塾へ向かうのです。親の期待に答えねばなりません。幼い勇太には、それが自分に課せられた当然の仕事のように思えていました。でも勇太は、やはり幼い子供です。何にも束縛されず、自由に遊びたいなぁ…と、心の奥底では思ったことが度々ありました。
 勇太の母の泰代(やすよ)は、一年ほど前に今の父と再婚しました。幼い勇太には、なぜ父親が変わったのか・・という難しいことは分かりません。
 その年の春、拓次(たくじ)という弟ができました。父が亡くなったから母が再婚したんだ・・という道理さえ浮かばない勇太です。新しい弟ができ、何か倖せがやってきたような気分に彼はなりました。ところが本当は、決してそのようなものではありませんでした。
 弟が生まれて二年目の夏、それはとっても暑い一日でした。養父の努(つとむ)は勤めに出ていて家にはいません。家の中には幼い拓次と母の泰代、それから今年、三年になった勇太の三人です。勇太は幼い弟を相手に遊んでいました。努が拓治のために買い与えたロボットの玩具(おもちゃ)が相手でした。それは勇太が欲しいものでした。勇太が説明書どおり玩具を弄(いじ)っていると、突然、拓次がむずかり、勇太からその玩具を取りあげたのです。
                                       

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シナリオ 「ターゲット」より

≪創作シナリオ≫Photo

     ターゲットより
                              


○  車の中(真夜中)

  高速道路を走る一台の車。運転する女。車線の左右に流れる銀光の照明灯。照明灯に照らされ銀光に浮かぶアスファルトの道。固定
  して流れ続ける道。カーラジオから流れる音楽。車窓から入る照明灯に照らされ浮かぶ女の顔。助手席をチラッと見る女。
 女「もう少し待っててね。そしたら、あなたの出番よ…(カメラに言い聞かせるように)」
  助手席に置かれたデジタルカメラが銀光に浮かぶ。黙
って運転する女。前方にインターチェンジの案内板。ウィンカーを出し、左へ車線
  変更をする女。

○  車の外(真夜中)・外景
  車線変更する車。
  *       *       *       *       *       *             
  減速し、走行する車。
  O.L

○  車の外(真夜中)・外景
  O.L
  減速し、走行する車。
  *       *       *       *       *       *           
  一般道を走る車。

○  車の中(真夜中)
  山並みを走る車。木々がヘッドライトの光でアンバーイエローに浮かび、流れていく。自動ウインドウを開ける女。微かな風に目を細め
  る女。窓から入る穏やかな潮騒の音。さらに、車を走らせる女。

○  車の外(早暁)・外景
  山並みを抜け、海岸沿いの小道に出て走る車。

○  車の中(夜明け前)
 女「着いたわよ…(カメラに言い聞かせるように)」
  車を停める女。サイドブレーキを引き、エンジンを切る女。助手席のデジタルカメラを手にする女。

○  車の外(夜明け前)・外景
  車を降り、小道から一歩一歩とゆったり歩を進める女。海が一望できるところを目指す女。その場所に至り、佇む女。
  薄暗い水平線を、ただじっと眺める女。
  O.L

○  車の外(夜明け)・外景
  O.L
  日の出前の水平線を、ただじっと眺める女。
  カメラを構える女。静かにオレンジ色の円を描いて姿を見せる太陽。陽光を浴びながらシャッターを切り続ける女。

○  エンド・ロール
  次第に昇り往くオレンジ色の太陽。その真ん中に黒影に映える女の姿。シャッターを切り続ける女。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど

         ※ 坂本博氏 「徒然雑記」内記事より脚色

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2011年11月23日 (水)

亡景(ゴースト・ビュー) 最終回

   亡景(ゴースト・ビュー)   水本爽涼
    最終回             
  母のことはいいとしても、私には淡い思いへの郷愁が、やはり忘れられなかった。あの娘にはもう逢えないのだろうか…と、想えさえした。
  慈照寺の楼閣が雲間がかりの蒼天に浮上している。私は、ただじっと、銀閣と寒の空域を見つめる。
  暫(しば)し時が流れて、上空を見遣る私の眼も、そして首も、流石に疲れて視界を落とした。そのときである。一瞬ではあるが、頬に何やら冷たさのような感触を覚えた。よく見れば、空域のあちらこちらに風花が舞っていた。
 ━私が今いることを、あの娘(こ)も分かっているのか…━
  想いの途切れ途切れには、彼女にふたたび巡り逢えた感慨がある。昂まる喜びが溢れた。
  私は動くことをやめ、なおもその場に佇んだ。すると、どうだろう。夢か幻か、ふたたびあの頃の情景が…、赤子から小児へ、そして娘へと変貌を遂げて私に逢いに来ている。だが、妙なことに貴婦人にまでは変貌を遂げない。私にはその訳が計りえなかった。想えることといえば、彼女の含羞(はにか)みだが…、いや、私を励ましてくれているのだろうか…、やはりその意が汲み取れない。だがもう、亡景(ゴスート・ビュー)でないことは確かなのだ。彼女は現実に逢いに来てくれた…、来てくれている。空は蒼く晴れているというのに…。

  私は幸せの絶頂の佇んで、慈照寺銀閣の楼閣を見上げていた。いや、その実は、彼女を見上げていたのに違いない。何故そうした行為をしていたのかは分からないが、何故か愛しい想いに駆られていたことは疑う余地がなかった。
                                                           

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2011年11月22日 (火)

亡景(ゴースト・ビュー) 第四回

     亡景(ゴースト・ビュー)   水本爽涼
    第四回             
「…、そなら仕方おせんな。またお寄り、やしとくれやす」
 それから私は、母の弟夫婦の家で暮らし高校までを過ごした。叔父の家でも、厳寒になると雪が確かに舞った。しかし私は、その舞う雪に彼女を想い描かなかった。いや、描けなかったのだろう。古都で出逢ったその時とは、何かが違った。
 今思うと、本来、降る雪に性(さが)などないのだ。男でもなければ女でもない。中学生の私が古都で出逢った淡雪は、私の中でのみ彼女だったのである。
 母は取り分けて父を憎んではいなかったようだ。私が高校を終え、ハワイのカレッジに留学すると、彼女との逢瀬は、全くの亡景(ゴ-ストビュ-)となってしまった。あの、フワリフワリと漂う彼女を忘れ去った訳ではない。ただ、運命というよりか、宿命ともいえる時の流れが、私をふたたびハワイへと引き戻し、彼女との仲を引き裂いたように思えるのである。
 父は農園の後継者として、既に私を決めていた。その手段として、私立カレッジにそれ相応の資金を供給したのだろうし、事実、私は何の困難もなくカレッジへ入学し、充実した大学生活を送った。そして、父の農園を手伝いながら、父の経営をも学ぶことになった。ハワイへ戻った時点で、彼女との接点は完全に途絶えてしまっていた。何故か、それが侘しかった。
 母は私が留学した一年後、いい男ができたのか、再婚した。一通のメ-ルで、そのことを知らされた私は、男女とはそんなものなんだ…と、若く思った。ただ、いつ男と女のかかわりが母にあったのだろう…と、そのことの方が私の心に蟠(わだかま)った。
 それには、もう一つの理由(わけ)があった。その相手、つまり母の再婚相手というのは、あのときの、そう…徳山栄吉だった。今辿れば、中学自分の私は、男女のそういった細やかな情念の世界が解らなかったのだろう。既にあの頃から…下卑た言い方だが、母と徳山はできていたのかも知れない。そういえば、妙に馴れ馴れしい二人の遣り取りがあったではないか…と、思えたりもした。

                                        

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2011年11月21日 (月)

亡景(ゴースト・ビュー) 第三回

  亡景(ゴースト・ビュー)   水本爽涼
    第三回              
 宿泊するということになったから、時の余裕はたっぷりとあった。私は二人の会話を抜けると、木戸を開け表へと出た。やはり、私が想い描いた女性のような雪が舞っていた。歳の頃は私の妹ぐらいか…などと、今となれば恥しくなるようなことを考えていた。ハワイでは目にすることもない雪という存在そのものが、妙に不思議なものに思え掌(てのひら)を広げてみる。舞い落ちたその一片は、身体の温もりに永く姿を留めてはいない。すぐ水滴へと化身する。十四の私と彼女との初めての出逢いだった。
 十四の学生が淡雪に乙女を想う。歳のわりに、ませていたように思うが、ハワイで育ったゆえか、全てに対して感性が大人びていたのだろう。
 ゆったりと過ごし、心の籠った持て成しを受けた母と私は、翌朝、徳山の案内で慈照寺を訪れた。昨夜の雪が枯山水の庭に絶妙の景観を与えていた。だが当時の私は、このときも、綺麗な所だな…と思う程度であった。ただ一点、雪に対する感性だけが昂ぶっていた。
 夜来、降りしきった雪は、既にその気配を残さず、ほとんど止みかけていた。もう、小児の趣ほどに勢いを弱めている。私は単純に雪という存在を好きになった。雪に恋していた。
 ハワイで農園を営む父は、今でも頑(かたく)なに農園を守っている。当時の私が、何故、日本へ来ることになったのか、それは話が長くなるので端折るが、父は日系二世で母は日本人である。二人は母がハワイへ旅したときに結ばれたらしいが、父に別の女性ができて別れた…と、まあそういうことだ。しかし中学生の私には、何故、日本へ行かねばならないのかが理解できなかった。ハワイで一生を過ごすもの、と思い込んでいたからだが、その想いが、私の成長後の人生を大きく左右することになるのである。
「有難うございました。いい想い出になりますわ」
「もうちょっと、ゆるりとしやはったら、よろしいおますのにな・・・」
「いえ、そうも出来ませんの。弟には今日のうちに着くと云ってますし、…それに明日は、この子の学校のこともございますから…」

                                      

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2011年11月20日 (日)

亡景(ゴースト・ビュー) 第二回

    亡景(ゴースト・ビュー)   水本爽涼
    第二回                 
  古くから住まいする人々には至極ありきたりの添景なのだろうが、 訪う母と子にすれば、初めて遭遇する冬の風情なのだ。
「雪のようですわね…」と、母も気づいたらしくポツリと徳山に云った。
「? ああ…、明日は積もりますやろな、この凍てつきやと…」 徳山は意に介せず、チロチロと燃える火の具合を 母の隣で加減している。自在鉤(じざいかぎ)に釣られた鋳物製の鉄瓶、これも今辿れば茶釜だったか? とも思えるのだが、それが、シュンシュン…と音を主張して蒸気を吐いている。
「荒れてきましたさかい、今夜はお泊りやして、明日ゆっくりお帰りやす…、大したお持て成しはできぃしまへんけどな。ははは…、急がれしまへんのやろ? 明日はここのほん近(ちこ)うに在ります銀閣を案内(あない)しますよって…」
 柔和な笑みを浮かべた徳山が、母のほうへ首だけ回して云う。私はというと、それどころの話ではなくなっていた。座布団はあるものの、悴(かじか)む足先と手指、この処理を如何したものかと思い倦(あぐ)ねていた。ひとまず手先は擦り、囲炉裏へと近づける。足はどうしよう…と思うのだが、まさか行儀悪く囲炉裏端へ投げ出す訳にもいかないな…などと、子供心をつまらなく巡らせていた。正座が長い為に疲れも加わり、既に足先の感覚は失っている。それに冷えも手伝い、次第に息苦しくなっていた。そんな私は、見られていたのだろうか。
「おぼっちゃん、足を崩しておくれやす。そない借り物(もん)の猫みたいに遠慮なさらんと」と、徳山が笑った。
 渡りに舟、やっとお許しが出た…と思った。取り分けて正座を強制されていた訳でもなかったのだが…。母は一瞬、私の顔を見遣った。
「そうさせて、お貰い…」
 許しと同時に私は足を崩していた。急に天上の人の心地となった。そして、ふくよかに笑う母の顔に安堵した。
 そんなこんなで四方山(よもやま)話が続き、瞬く間に夕刻が迫っていた。昼前から舞いだした雪は、赤子から小児へ、そしていつの間にか、娘から貴婦人へと変貌を遂げていた。子供心に私はこの雪が女性だと思い込んでいたようである。吹雪く猛々しい男性ではないのだと…。
                                       

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2011年11月19日 (土)

亡景(ゴースト・ビュー) 第一回

    亡景(ゴースト・ビュー)   水本爽涼
    第一回             
 そうか、あの娘はもういないんだ…、と私は過去を巡っていた。
 慈照寺に訪れたあの日、そう…確か十年ばかり前になる。厳寒の古都に降り立った風景が、今、私の深層にくすぶり、揺らめいている。それは当時への郷愁にもなるのだが、何故か切なさをも含んでいる。ふと、回想の場面が脳裏を過ぎった訳は何故なのか、…分からない。
「ははは…、冬場は底冷えしますんで、余(あんま)りお勧めできぃしまへんけど、一度、よろしぃおしたら、おこしやす」
 母の知人で徳山栄吉と名乗る還暦近い男が、いつだったか家へ寄り、そう云っていたのを私は記憶している。とはいえ、当時の私は、日本の中学へ転校したばかりだった。徳山と母がどういった関係だったのか…、その辺りのところが私の記憶回路に残片を留めていない。その年の冬、母に連れられ初めて古都へ旅した場面へ記憶が短絡して飛翔する。
「よう、おみえやしたなぁ、お寒いところを…。さあさあ、早(はよ)う、お上がりやして…」
 徳山は、私と母を愛想よく迎え入れた。この辺りの場面は、私の脳裏に鮮明に残っている。
 上がって通されたのは、昔造りの薄暗い部屋であった。梁(はり)、鴨居、柄(つか)、敷居、それに刻み柱などのあらゆる木々は、紅殻(べんがら)に墨子(すみこ)を雑ぜたものが塗られているのだろう。見るからに黒々しく、部屋は不気味さを漂わせて冷んやりと暗い。しかも陰鬱であった。無論、当時の私は、気持が悪い部屋だと単に思っただけで、それが墨子を含んだ紅殻の所為(せい)だとは気づいてはいなかった。
 案内されて座った囲炉裏端の位置からは、恐らくこの部屋で唯一と思われる切子細工の丸窓があり、光が差し込んでいた。採光の為なのだろうが、何故か違和感があったように記憶する。
 座っている床(ゆか)板を凍てつかせる冷気が流れ、外では淡雪が舞いだしたのだろう。それは、丸窓の周囲が、ふんわりと白く縁どられて気づいた。
                                      

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2011年11月18日 (金)

凡太の憂鬱[メランコリー]  最終回

  凡太の憂鬱(メランコリー)    水本爽涼
   最終回          
  何のことはない。要は、凡太がストレスを発散していた例の場所とは、二匹のデートの場所だったのである。テンションを下げた彼が、単に例の場所で憩(いこ)ってハイに戻ってきたのも得心がいくし、私が何故だろう…と、疑問に思っていた点も頷(うなず)ける。つまりは、ミーちゃんと会っていたのか…と思えて、凡太の方をチラッと垣間(かいま)見た。彼は注視されていることなど気にも留めず、器用に手をナメナメし、その手を顔に擦りつけて男前になる。
「親の責任ってのは、どうなんだろうねぇ。放っておけば、ミーちゃんも孕んじまうんじゃないか?」と、テレビに釘付けのカミさんに云うと、「仕方ないじゃない、それはそれで…。凡ちゃんが悪い訳でもないし、ミーちゃんが悪いということもないんだから…」と、返された。私は、「……」である。
  また雪が舞いだしていた。庭は、既にうっすらと白いベールに覆われている。いつのまにか主役の凡太は部屋へ戻ってきていて、温風ヒーターの近くで心地よい寝息を立てている。
  宅のミーになにを! ってなことに、ならなきゃいいがなあ…と私は馬鹿馬鹿しくも思った。世の中それだけ平和だってことか…、有り難く思わにゃいかんな…、と私はまた思う。凡太はゆったりと毛並みを揺らして寝入っている。カミさんは煎餅を齧(かじ)りながら、テレビに見入っている。私はガラス越しに深々(しんしん)と降りしきる粉雪を眺(なが)めている。
                                               

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2011年11月17日 (木)

凡太の憂鬱[メランコリー]  (四回)

     凡太の憂鬱(メランコリー)    水本爽涼
   第四回        
 ハイテンションの彼は、ミャーミャーと愛想を振り撒(ま)くのだが、ロウのときは、ひと声も発せず寝入っている。近づくと、気配を察知してか、スクッと立ち上がり、例の場所へと去ってしまうのだ。つまり、例の場所というのは、彼が安楽を得るのに好都合の場所だ、ということになる。そこでロウをハイにしているのかは定かでないが、とにかく彼はそこへ行く。
「…、心地いい場所ですか? それは人にもあるでしょう。猫だって同じですよ」
 凡太が食欲不振に陥ったとき、動物病院へ連れて行ったのだが、そこの先生に訊くでもなくそう云うと、先生は笑いながら、そう答えた。
「四齢といえば、人間なら三十は、いってます。まあ、ストレスも出てくるでしょうしねぇ」
 付け加えて先生はそうも云ったが、私からすれば、彼にストレスを与えたこともなかったし、また彼がストレスを溜めているようにも思えなかった。
 粉雪が、また直下している。上空からサラサラと篩(ふるい)で粉を落とすように…。
 凡太は例の庭角(すみ)の窪地に身を委ね、毛繕いをしている。幸い、雪はかからないのだが、寒いことに変わりはないだろう。なにせ、屋外なのだから…。
「 あらっ、お隣のミーちゃんだわ」
 カミさんが、不意に口にしたのを、偶然にも私は小耳にした。急いでガラス戸へ近づくと、確かに隣の三毛猫だ。カミさんがミーちゃんと呼ぶのだからそうなのだろうが、それまで私は彼女に一面識もなかった。二匹は何やら猫語でニャゴニャゴとやっている。
「随分、仲がいいじゃないか…」
「あら、あなた知らなかった? 私は、ちょくちょく見るんだけど」
「凡太もなかなかやるじゃないか、彼女を通わせるとは…」
 凡太は白の一毛だが、ミーちゃんは蕪(かぶら)猫と表現できる、ふっくらした容姿の三毛である。
 これが、全ての疑問を一度に払拭する出来事となった。
                                      続

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2011年11月16日 (水)

凡太の憂鬱[メランコリー]  (三回)

    凡太の憂鬱(メランコリー)    水本爽涼
   第三回         
 名前の由来は、彼が一齢になった頃に遡(さかのぼ)る。
 それまで名前がなかったのか? という疑問に敢えて答えれば、あることはあった。それも、カミさんの命名、私の命名が、とっ換えひっ換え、実に数度にも及んだのだ。一年が巡った頃、他愛もないことが理由で、彼は凡太として華々しくデビューすることになった。
 動作に敏捷性が全くない。最初は子猫の所以(ゆえん)かとも思ったが、「ニャーニャーよく鳴くわりには動きが鈍いわねぇ…」とカミさんが愚痴り、「猫ってのはそんなもんだよ、なあオイ!」白い物体にそうは云ったが、目と目が逢って彼はニャーと云うだけで、まったく要領を得ない。
「ボーンとしていて、風格があるじゃないか。凡太ってのはどうだ?」
「ボンタ? さあ、どうかしら…。なんか猫らしくない気もするけど…」
「いいじゃないか、凡太。平凡の凡に太るで凡太。いい名前だ…」
「どうでもいいけど…。この子もさ、いつまでも名無しの権兵衛じゃ可哀想だし…」
「そうだよ、今度こそ決まりだな」
 という訳で、彼は凡太と名乗ることになったのである。
 彼にはお気に入りの場所がある。その場所というのは裏手にある庭の一角なのだが、彼はそこが大層ご満悦なのだ。私とカミさんが口喧嘩していると、彼は良からぬ雰囲気を未然に察知して身の逃避を図る。そして、裏手へ回ると、まず間違いがない程の確率で、庭のその隅の一角にユッタリと座り瞼を閉じる。やがて私達の喧嘩が終わると、何故それが分かるんだ…という正確さで、また部屋へこっそり戻ってくる。
 去年と同じように、厳寒の冬がやって来た。凡太は? というと、寒さが気にならぬ風情で、冷気が舞う中、例の場所にドッカと身を委ねている。まあ、幾分か風除けのような窪地ということもあるのだが、彼がそこに存在するときは、一定の法則めいた決まりがあることに初めて私は気づいた。彼は四齢になろうとしていた。
                                     続

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2011年11月15日 (火)

凡太の憂鬱[メランコリー]  (二回)

   凡太の憂鬱(メランコリー)    水本爽涼
   第二回          
  このグルーミングという行為は、私が買い求めた動物飼育本によれば、猫本来の重要作業の一つだそうである。家(うち)の凡太も例に漏れず、片足を上げた妙な姿勢で毛並みをナメナメしている。この仕草が私は好きだ。思わず愛しくなったりする。
  凡太が捨てられていたのは、凍て尽くした外気が肌を刺す、厳寒の夕方だった。その日、私は外套の襟を立てながら勤めの帰路にあった。漸(ようや)く我が家の外灯が見える。疲れからか両足の運びも重く、しかも垂直に落下する砂状の粉雪が、冷たく体のあちこちに纏わりつく。雪は好きだからいいとしても、疲れた身体に、冷えは流石(さすが)にきつい。
 玄関へ回ると一つのダンボール箱が置かれている。誰かの悪戯(いたずら)か…とも思えたが、とにかく中を開けてみた。すると、中には一匹の子猫が蠢(うごめ)いていた。小さくニャーと愛想を振り撒(ま)く。彼? にしても必死なのだ、と思えた。局所を確認して彼であり、彼女ではないことが判明した。
 雪はサラサラと、無言に降っていた。
「おい! 今、戻ったぞ…」
 いつもより、やや大きめの声で、私は帰宅を告げた。
「お帰りなさい。あらっ? どうしたのよ、それ…」
「いや、俺もな、それを訊こうと思ってさ。外に置いてあったんだが…」
「捨て猫? まあ嫌だわ。態(わざ)と玄関に捨てたりする? 普通」
 私は黙ったまま、中途半端に頷(うなず)いていた。
 白く蠢(うごめ)く物体は大人しく鳴りを潜(ひそ)めている。真っ白な外観に、雪の落とし子か…と、淡い思いが、ふと浮かんだ。
「これも何かのご縁だ。なあ、飼ってやろうや、俺が面倒見るからさぁ」
 そう私が云うと、「私は別にいいわよ、猫は嫌いじゃないし…」とカミさんは、あっさり応諾した。
「じゃあ、これで決まりだ。よかったな、おい」小さく人差し指でつつくと、またニャーと可愛い声で微かに鳴いた。
 こうして私達夫婦と、か弱き子猫一匹の生活が始まったのである。
                                         

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2011年11月14日 (月)

凡太の憂鬱 [メランコリー] (一回)

   凡太の憂鬱(メランコリー)    水本爽涼
   第一回      
  いつの間にかウツラウツラとしてしまい、しくじったか…と、私は思った。それで、咄嗟(とっさ)の勢いで目覚ましを掴(つか)む。昨晩、眠気を封じるためにコーヒーを啜ったのがいけなかった。結果として、夜が更けても寝つけず、ええい、もう朝まで起きていてもいいや…と自棄(やけ)気味発想に及んだのだが、人間の生理的欲求というのは妙なもので、いつしか微睡(まどろ)んでしまったのだ。起こされたのは凡太によってである。無意識でアラームを止めていたのか、空が白々と夜明けを主張しているのに、私は目覚めてはいなかった。
 凡太は家(うち)の飼い猫である。今年で三齢になる雄猫だ。ミャーミャー(アメリカだとミューミューなんだろうが…)と呼ぶ声は朝の餌を求めていたのだろうが、私にとっては至極、幸いであった。彼が目覚ましの代役を立派に果たしてくれたからだが、私には期待していない出来事だった。それは、特に休日の場合だが、私が、ぐっすり寝入っていると、彼もまた深い眠りの中にいる。それが、である。
「……、……!」私は、ガラス戸を両前足の爪で掻きながらミャーミャ-と啼く声に、はっ! と目覚めた。目覚ましは七時半を既に回っている。何もかもを半散らかしにして、私は慌ただしく着替え、台所へ行く。
「あらっ? あなた…、今日は休みじゃなかったの?」と、威風堂々、家の主(ぬし)とでも云えそうなカミさんが、私を怪訝(けげん)な目つきで見る。「……」思わず私は、停止した時計となった。アッ! 何のことはない。今日は土曜だったのだ。昨日は…と辿ると、明日は土、日の休みだからというので寝つけぬまま調べ物をして…、つい寝入ってしまった。そうそう、そうだった。
「凡ちゃんの食事、お願いね。今、手が離せないから…」と云いつつ、カミさんは朝食の準備をする。
 先ほどまで寝室のガラス戸を相手に爪研(つめと)ぎをしていた凡太だが、今はもう、うざったい表情で、台所の片隅で毛繕(づくろ)いをしている。
                                        続

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2011年11月13日 (日)

創作落語・台本「粗忽な夫婦(みょうと)」[10] 5

夫「今年も終いやなあ…(感慨深そうに年越し蕎麦を啜る仕草。扇子を箸に見立てた演技)」
妻「また、ひとつ歳をとるんよ…(不満げに同じ仕草で蕎麦を啜りながら)」
夫「そう云うな。しゃーないこっちゃ。一年一年、こないして人生の深みが増すんや」
妻「あんたは毎年、変わらんように思うけどな。確かに、体重は増えたぁーるけど…」
夫「…(箸を止め、妻の顔をジーッと見て)」
「旦那、一言もありません。あとは黙々と蕎麦を啜り続けます。そこへ、除夜の鐘が…」
(舞台の袖から除夜の鐘の音[テープ音])
「(舞台の袖を見て嬉しそうに)今度は気が利いてますな…(正面席を見て微笑んで)。まあ、こうして年も暮れて参ります。…さて、晴れて明けました、お正月!」

 (久々に、小拍子を見台へ打つ)

「別に願いごとなど御座居ませんが、恒例の惰性というやつで、お二人さん、初詣でに、やって参ります」
妻「あんたぁ…、偉い人出やなあ…(左右を見回す仕草をしながら)」
夫「ん? ほやな…。去年は景気が、も一つやったさかい…。世界同時不況やからなあ。皆、思うことは同じや」
妻「あんたも、も一つやったしなあ…」
夫「…(返せず、黙って境内を早足で歩く仕草)」
「(笑って)まあ、全てに旦那、負けてますわな」
妻「帰りに、何か食べていかへん?」
夫「そやな、久しぶりやでな。そないしよか」
「鳥居を出ますと、丁度、頃合いの鰻屋がありまして、二人、そこへと入ります」
主「毎度! (お茶を素早く淹れ、運ぶ仕草)何にしまひょ?」
夫「(店内の品書きを見る仕草)そやな…。肝吸い付きの特上、二つ(椅子に座る仕草)」
主「へい!」
妻「あんた、偉い奮発したなあ(驚きながら椅子に座る仕草)」
夫「(小笑いして)たまのこっちゃがな」
「やがて、店の主が運びます鰻重を、二人、美味そうに食べ始めます。そして食べ終えまして…」
夫「ふぅ~、美味かったなあ。久しぶりに美味い鰻、食ったわ。ほな、お前、払といてくれ(立ち上がって、出ようとする仕草)」
妻「ええっ! あんた、お金、持ってえへんの!(驚く仕草)…わても、そない持ってえへんで…。どないしょ?」
夫「どないしょ? て、お前。今更、食べたもん、元に戻せえへんやないか…。弱ったなあ…。…しゃあない。事情云うて、儂が残るさかい。お前、取りに帰れ」
「そこへ、店主が出て参ります」
主「話は聞かさして貰いました」
妻「そしたら、この人置いて、すぐ戻りますんで…」
主「いいえ奥さん。旦那はんよりは、あんさんの方が宜しいおま。食い逃げで、このぶん払て貰うとしても、旦那ではなぁ~」
夫「なんでだす? 儂やとあきまへんか?」
主「へえ、あきまへんな。このぶん働いて貰うとしても、おたくでは色気が、おせんさかい」
「嫁さん、少し、シタリ顔になり喜びます」
妻「そうですやろかぁ?(はにかむ仕草)」
主「奥さん、勘違いしたらあきまへんでぇ。男より女の方が…、という程度の話でっさかいな」
「これには、旦那に続いて、嫁さんも項垂れます。すると、店の主が…」
主「どっちも、ほどほどに粗忽で、よう合うたはりますな。長続き、しまっせ」
「二人、喜んで良えのか、悲しんで良えのか分からず、思わず、『わぁ~(泣く仕草)』っと、泣き崩れます。店主、それを見まして、小声で、『やっぱり粗忽やわ…』」
   

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2011年11月12日 (土)

創作落語・台本「粗忽な夫婦(みょうと)」[10] 4

夫「昨日、食べた残りもんの刺身が悪かったんやなあ…。すぐ、医者へ行け」 妻「違うがな、あんた。この前、商店街で貰た福引が…」
夫「ほん、福引が?…」
妻「当たったんやがな。一泊二日の温泉旅行やでぇ~」
夫「なんや、そうやったんかいな。そら、よかったがな。ほやけど、温泉旅行くらいでそない喜ぶかい?」
「と、旦那が訊きますと、嫁さん、ジロッと旦那の顔を見て」
妻「三十年ぶん、やでなあ~」
「(笑って)新婚旅行から、いっぺんも連れてって貰えまへんにゃろなぁ~、どうも…。これにも旦那、答えられず、意気消沈ですが、そうは云いましても、この二人、当たった一泊二日の観光チケット持って出かけます。旦那が云ってました新聞のクーポンとは違いまして、交通費、宿泊費などは只ですから、その分で土産やら何やらと使える訳です。やはり、この点でも嫁さんの方が一枚も二枚も上手のようで…」

(小拍子を見台へ打つ)

「(笑って)そろそろ、叩きたかったんですわ~(笑顔)」
夫「ほぉ~、あれが屏風岩か?」
妻「違うやろ…あれは坊主岩で、そっちのが屏風岩やで…」
夫「どっちでもええやないか。『坊主が屏風に上手に坊主の絵を書いた』とか云うんやさかい…」
「嫁さん、それを耳にしまして…」
妻「あんたにしては、上手いこと云うな~」
「と、関心いたします。(笑って)…お客さんも、そない思わはりますか?」

 (小拍子を見台へ打つ)

夫「ふう~、やっと帰ってきたなあ…。なんにも無うても、家はやっぱり、ええな?」
妻「そら、そうやがな。高いローン、やっと返し終えたんやさかい。ほれくらいの良さがないと、元が取れんわ」
夫「お前らしい発想やが、よう考えたら、そらそうかも知れんなあ…」
「と、また、嫁さんの口車に乗る旦那です。決して、皆さんのお家が、こんな塩梅や、と云うてる訳やないんですで…(笑って)。さて、そうこう云っておりますと、季節は、どんどん巡ってゆきまして…」

  (小拍子を見台へ打つ)

妻「寒うなってきたな…。あんた、エアコンのスイッチ、入れて」
「と、嫁さん、台所で片づけをしながら旦那に声を掛けます。旦那、テレビを見ながら食卓兼用の櫓炬燵に入っておりますが、いやいや、卓の上のリモコンを手にします」
夫「ウォーム・ビズとか云うらしいが、なるべく厚着して、エアコンは使わん方がええらしいで…」
妻「そらまあ、そうやけど…」
「珍しく、旦那の口車に乗った嫁さん…。旦那は、シタリ顔で老眼鏡をかけると、新聞を手にして読み始めます。と、間髪入れず其処へ!(扇子を見台へ激しく叩く)」
妻「あんたも新聞読むんなら、テレビ切って読まんと…」
「テニスで云うリターン・エースってとこですわな。決して、嫁さん、負けてまへん。そうこう云うておりますと、また月日だけが流れて行きまして、クリスマスが巡り、早くも除夜の鐘が…(お囃子が舞台の袖でチ~ンと小鉦を鳴らす)」
「(舞台の袖を見ながら)ちょっと! …それは仏壇の鉦でっしゃろ…、テープとか使うて貰わんと…(舞台の袖を見ながら不満げに)。と、まあ、これは冗談ですが(小笑いして、ふたたび、正面の客席を見回しながら)」

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2011年11月11日 (金)

創作落語・台本「粗忽な夫婦(みょうと)」[10] 3

(小拍子を見台へ打つ)

「とか、云うて、早速、叩いておりますが…(小笑いして)。…それからひと月ほど経った真夏の夕方のこと…、旦那が珍しく早う会社から帰って参ります。家の中は、ムッとする熱気でして…」

夫「今、帰ったでぇ~。なんや、おらへんのかいな。わぁ~サウナやがな、これは…」

「返事がないもんで、仕方なく汗だらけのワイシャツを脱ぎながら、クーラーを入れます。そこへ、奥から嫁さんが現れます。しかし、その表情の涼しげなこととゆうたら…。旦那、不審に思えて訊ねます」

夫「どないしたんや、クーラーもつけんと。暑うないんかい、お前。…ちょっと怪しいで。熱で脳、やられたんか?」

妻「何云うてんの、あんた。そんな発想やから、出世でけへんのやがな」

夫「どうゆうこっちゃ?(脹れて)

妻「つまり、あんたみたいに常識でモノゴトを考えたらアカンの。私なんか、この蒸し風呂みたいに暑い部屋で充分に暖まっとうて、水風呂に浸かるんや。数十分も浸かって出ると、涼しいと云うより寒いくらいや。まあ、逆転の発想、とかゆう奴ちゃな。あんた、分かった?」

「嫁さんの勢いに押された旦那、答えに窮して黙ってしまいます。それでも、暫くすると、“これは、いけるで”と、旦那、思います」

夫「ほやな…。よいかも分からんなあ。電気代も安うつくし、第一、エコやしなあ」

妻「そない思うやろ。会社で皆さんに云うてみたら? それにしても、あんた。よう、エコってな言葉、知ってたなあ」

夫「アホ。それくらい、儂かて知ってるわい。とにかく、云うてみるわ…」

「(笑って)嫁さんも嫁さんなら、旦那も旦那。どうしようもない夫婦でして…。それからも、こういう粗忽な日々が続いて参ります。味覚や行楽の秋がやって来まして、そんなある日のこと…」

夫「オッ、これは、ええなあ。お前、新聞に安い旅行クーポンのチラシが入ったーるぞぉ~」

「旦那、まるで一億円の宝クジを引き当てたような、はしゃぎようでして…」

妻「なんやいな。今、ハンバーグ作ってんにゃ。料理の邪魔せんといて…」

夫「(ニッコリと笑い)ハンバーグか…。やっぱり手作りは美味いでなぁ~」

妻「ほんな、ええもんやないの。チンして解凍五分、それで、お終いの奴…」

「旦那、クーポンの話は忘れてもうて、ガックリ項垂れ、返す言葉を持ちまへん。それでも、上手うしたもんで、十日ほど経った、ある日のこと…」

妻「あんた、やったでぇ~」

夫「どないしたんや、そないに喜んで…。けったいな奴ちゃなあ~」

妻「当たったんやがな、当たった当たった」

「と、部屋を走り回る嫁さん。旦那、座ったまま、首を傾げております」

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2011年11月10日 (木)

創作落語・台本「粗忽な夫婦(みょうと)」[10] 2

 (小拍子を見台へ打つ)

「前のお客さん。小拍子、よう叩く奴ちゃな~、てな顔したはりますが、せっかくある道具でっさかいな、使わんと。…と、いうことでもないんですが、そこはそれ、懲りんとお付き合いの程を御願い申します。初めにも云いました通り、粗忽に日本語を使い、人柄を笑われたとゆう話は、昔も今も変わらんようでしてな、いろいろ残っておりますけれども、これは今のお話でございます」

 (小拍子を見台へ打つ)

「(笑って)…。パソコンやら携帯電話てなもんが、大概のご家庭で見られるようになりました。この家でも朝から早速、やっております」

妻「帰りは遅うなるの?」

夫「ん? (片手で鞄を持つ仕草をして)どうやろな…、会社から電話する」

妻「そんなこと云うて…。昨日も、せえへんかったやないの(脹れて)」

夫「しゃーないやないか。会議が長びいたんやさかい。かけられぇへなんだんや」

妻「ちょっと、トイレとか抜け出して、かけられるやないの」

夫」ああ…! 出かけに五月蝿い奴ちゃなあ~。もう行くで(怒って玄関の戸を開けて出る仕草)」

妻「行ってしもうた…。あっ、あの人、わての買い物篭もって…。ほんまにもう! 粗忽な人やわあ~(呆れて後を、急いで追う仕草)」

「と、まあ、旦那を追って飛び出したまでは良かったんですが、通り掛かる人が皆、笑うもんやさかい、ふと、自分の恰好を見て見ますと、寝起きのまま…。どんな恰好やったかは、皆さん方の想像にお任せするとして…。(小笑いして)はは…どっちも、どっちですわな」

(小拍子を見台へ打つ)

夫「ただいま…」
妻「なんやの、今時分。電話なかったし、もう食べてしもたで…」
夫「ほうか…。残りもんでもええわ…。飯は残ってるか?」
妻「あるよ。少しやけど…」
「旦那、残り飯を茶漬けにして掻き込みます。嫁さんは奥の間で、見かけのテレビの続きを見ております」
夫「おい! この缶詰、美味いな。おかずに丁度よいわ。また買うといてくれ」
妻「そんなん、買うといたかいなあ? どこにあったん?」
夫「冷蔵庫の上や…」
妻「ええ~! それ、ミケの缶詰ちゃう?」
夫「(吐きかける仕草で)…何を食わすんや、お前は!」
妻「あんたが勝手に食べたんやろ。わては知らんがな…。そんな暗いとこで食べてるさかい、猫のラベルが見えへんのやがな」
夫「ほやけど、思たより美味いんやなあ…
「すると、嫁さん、何と云うたと思わはります? 前の、お人(小笑いして)」
妻「次から、多めに買うとくわ」
「…(小笑いして)、ちょっとしたブラック・ユーモアですが…。これで終わりと思いきや、話は、どんどんエスカレートして進んで参ります。ここからは、ちょっと小拍子、叩くのも少のうなります…」

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2011年11月 9日 (水)

創作落語・台本「粗忽な夫婦(みょうと)」[10] 1

「え~、仰山のお運び、厚く御礼申し上げます。…最近、テレビや新聞なんかを見ておりますというと、いろんなことが日々、起こってますな。どれ一つ取ってみましても、全てに付き纏う因縁とゆうもんがあるそうで…。上手に世渡り出来るお人というのは、過去にされました善い施しの因縁によるのだそうでございます。それでも、大概のお人は、善し悪しトントンてなところで、粗忽に日々を暮らしておられるようでしてな。…今日、お見えのお客さまも、ずう~っと見回しますというと…、(小笑いして)失礼致しました(頭を下げて)。まあ、いろいろ、いやはると…、この辺に暈させてもろて話を進めさせて戴きますが…。今、眼の合うたお人、そう気にしやはらんと(小笑いして)…、ゆったり楽しんで帰って貰いたいと、思うようなことでございます…」

 (小拍子を見台へ打つ)


 (扇子を手で握り、片耳に宛がうと、電話で話す仕草をする)


A「なんでんねんな、あんさん。そやから、もう宜しいと云うてますやないか」


B「はは…(愛想笑いして)そう邪険にしなはらんと、もうちょっと聞
いとくんなはれ。決して悪い話や、おせん」

A「ほやかて、アレのアレがアレで、アレですにゃろ?」


B「違いますがな。アレのアレはアレで、アレのコレがソレでんがな」


A「すると、なんでっか? アレのアレがアレやのうて、アレのアレはアレで、アレの
コレがアレでっか?」

B「分からんお人や。アレのアレはアレで、アレのコレがアレやなしに、アレのコレは
ソレでんがな…。ああ、しんど…」

「すると、電話の遣り取りを聞いてた子が」


子「お父ちゃん、アレコレ云うてんと、早よ、お風呂に入ってんか。あとが支えた~るさ
かい」

「(笑って)…。日本語ほど、ええ加減で、また、よう出来た言葉はないそうでして…。ボ
キャブラリーって云うんでっか? 表現する方法が細やかで、幾通りもある。それに、正確に相手さんへ伝える力も強力にあるんですなぁ…」

 (小拍子を見台へ打つ)


 (ふたたび、扇子を手で握って片耳に宛がうと、電話で話す仕草をして)

A「はい? はいはい、はい!」

「これはですな、今の世の中で、よう使われる“はいはい問答”ですが、暫く前までです
と、『なんでっか?』とか、『えっ?』とか訊いて、相手さんが云うことを復唱し、最後に、『はい!』とは略さずに、『分かりました!』などと云うよう教えられたといいますか、それが世間相場の時代でございました。え~、“唄は世に連れ、世は唄に連れ”とか申しますが、言葉も世に連れて…ということになりますかな…(小笑いして)。日本語の衰退は、誠に嘆かわしい限りではございますけれども…。さて、ここ迄が実例を二つ挙げて語らせて貰いました導入部。ここからが、いよいよ、本日のメイン・テーマ、粗忽な夫婦の物語へと入って参る訳でございます」

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2011年11月 8日 (火)

特別寄稿(シナリオ) コント台本[9] ━ ばったりと ━

 ~ ばったりと ~    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

   若い

   若い女


 
二人、舞台袖から登場。舞台正面の中央で斜めに立ち、客席を向く。
   男「一分間の恋のドラマ」
   女「ばったりと」
 二人、正反対から歩いて近づき、擦れ違う。擦れ違って一瞬立ち止まる二人。振り向く二人、互いの顔を見て佇む。
   男「あゆみ、じゃない?!(明るく)」
   女「やだぁ~、はじめ?!(明るく)」
  近づく二人。思わず手を取り合う二人。
   男「ああ…(明るく)」
  握った手に気づき、照れて離す二人。
   女「久しぶり!(明るく)」
   男「ほんと、ほんと!(明るく)で、コレは?(手の親指を立てて)」
   女「んっ? なに云ってんのよ。決まってるでしょ~。
     もう三人の子だくさん。幸せ幸せ!(明るく)」
 女、180度回転し、男に背を向け
   女『心! 云ってやったわ(ネ暗に)』
 女、元のように男に向かい、明るい笑顔。
   男「そう…。俺だって二人の子持ち。ははは…幸せ幸せ!(負けん気に明るく)」
 男、180度回転し、女に背を向け
   男『心! 云ってやったぜ(ネ暗に)』
 男、元のように女に向かい、明るい笑顔。負けん気に笑い合う二人。女、180度回転し、男に背を向け

   
女『心! みじめ! ほんとのことを云おう(素で)』
 女、元のように男に向かい、明るい笑顔。
   女「嘘! まぁ~だ、ひとり!(明るく)」
   男「えっ! 俺も…(愛おしく、女を見つめ)」
   女「そうなの…(愛おしく、男を見つめ)」
 見つめ合う二人。
   男「じゃあ、これから…」
  二人「Yes,Fall in love!( 斜めに立ち客席を向き[
人でハートマークを作って ] )」

            END   

 ※ 下線部は適宜(例えば、タンゴ風に腕を組み、正面を向く)

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2011年11月 7日 (月)

特別寄稿(シナリオ) コント[8] ━ くつろげる場所 ━

 ━ くつろげる場所 ━    水本爽涼

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

  
登場人物

  パパ … 30代 キャスト表による
  ママ … 20代 キャスト表による
   娘 … 小学生 キャスト表による

○ 浴室 前廊下  夕方

 娘がやってくる。

 娘「パパッ! 早く上がってね!(内に向けて)」

○ 同 中  夕方

 浴槽に浸かるパパ。

パパ「んっ? ああ!(外に向けて) …」
パパM「くつろげんな…」

 白い湯けむり。

○ メインタイトル「くつろげる場所」

○ 台所 食事風景  夜

 家族三人が食事をしている。娘、食事を終え、食器を持って立ち、洗面台へと歩く。

パパ「おおっ! 感心だな(食べながら娘の方を向き)」
 娘「だって、これしないとママがお小遣い上げてくれないもん!(食器を洗いながら、淡白に)」
パパ「…」
ママ「…、早く寝なさい(取り繕うように)」
 娘「はぁ~い(上辺だけ返して)」

 洗い終わった娘、台所の二階への階段を登り始める。台所の側壁にかけられた時計が七時頃を指している。パパが食べ終え、立つとそのまま去ろうとする。

ママ「パパッ!!(強く)」

 パパに一瞬、目線を遣るママ。振り向くパパ。合う目線と目線。ママの目線がパパの食器に落ち、ふたたびパパを威圧ぎみに見る。

ママ「…」
パパ「はい…(抵抗できず)」

 後戻りし、食器を洗面台へと運ぶパパ。

○ 同 洗面台  夜

パパM「ここも、だめか…(食器を洗いながら)」

○ 日の出と家の外景 朝

 小鳥のさえずり。地平線から昇る朝日 

○ トイレ 前廊下  朝

 娘がパパが出るのを忙しく待っている。

 娘「パパ、遅刻するから早く出てよっ!(内に向けて)」

○ 同 中   朝

 便座に腰を下ろしたパパ。

パパ「んっ? ああ…(外に向けて)」
パパM「やはり、だめか。くつろげる場がない…(テンションを下げて)」

○エンド・ロール

 スタッフ、出演者等

 T「おわり」

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2011年11月 6日 (日)

特別寄稿(シナリオ) コント[7] ━ 困った人 ━

    ━ 困った人 ━    水本爽涼Photo_2

 登場人物

  老 人 A … キャスト表による 
  老 人 B … キャスト表による
  喫茶店主  …
    N   … 男声、女声、どちらでもよい  

○ とある喫茶店内 近景 昼

 ご近所の茶飲み仲間、老人AとBがボックス席に腰を下ろし、コーヒーを飲みながら対面で話している近景。

老人A「それは悪いでしょう!(声高に否定して)」
老人B「いえ、そんなことないです(納得させるように)」
老人A「そうですかねえ?(窺うように)」
老人B「ええ、そんなものは当然のサービスですから…」

 云い返せず、黙り込むA。テーブル上のコーヒーカップを手に持ち、啜り始めるしたり顔のB。

○ 同 喫茶店内 遠景 昼

 二人が話す遠景。      

N 「この二人、いつも極上のスイーツを目当てにこの店へ来ては食べて帰っていく常連客である」 

○ メインタイトル「困った人」

○ 同 喫茶店内 近景 昼

 二人が話す近景。

老人A「だって、スイーツですよ?(腑に落ちず訊き)」
老人B「ええ、そうですよ。ただのスイーツです」
老人A「いつもは悪いですよ、ご主人に…」
老人B「いやあ、ご主人は納得されとるんですから…」 

 至極、当然といった態度のA。盆上にサービスのスイーツを乗せて現れる、二人と同年配の店主。

店 主「えらく盛り上がってますなあ、おふた方(盆からスイーツ皿を二人の席に置きつつ微笑み)」
老人B「ああ、いつも、すいませんな(さも当然、と云わんばかりに)」
店 主「ははは…、お気にされず。お二人がみえられると、なぜか心が安らぐんですな、これが不思議と」

 Aは申し訳なさそうに、ただ黙って恐縮し、頷くだけ。片や、Bは動じず、強気である。

老人B「おお、そうですか。そりゃ、よかった! 話は変わりますが、いつもいただくこのスイーツ、なかなか美味いですな」
店 主「そうですか? そりゃ、よかった。お口に合ったようですな。まあ、たかだか数千円のもんですから…」
AとB「エエ~~ッ!(声を合わせて驚き)」
店 主「そんなに驚かれずとも…。代金はちゃんと、奥様方から、いただいとりますから…(軽く嗤って)」
AとB「エエ~~ッ!!(再度、声を合わせて驚き)」  
  
○ エンド・ロール

 スタッフ、出演者等

 T「おわり」

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2011年11月 5日 (土)

特別寄稿(シナリオ) コント[6] ━ あわてなさんな ━

━ あわてなさんな ━    水本爽涼
             
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

  頑強そうな浮浪者 … 中年男(キャスト表による) 
  セレブでひ弱そうな子 … 小学生(キャスト表による)  

○ とある公園 昼下がり

 枯れ葉が時折り舞い落ちる。ベンチにうらぶれたボロ着を纏い、座っている頑強そうな浮浪者の男。木漏れ日が暖かく男に降り注いでいる。サッカーボールを一人で蹴り、無心に遊ぶ蝶ネクタイをしたセレブな身なりの小学生。そのひ弱そうな小学生を、ただじっと遠目に見続ける男。

○ 青空と秋の雲 昼下がり

 太陽がクロス光線(カメラ・フィルター効果)を描いて青空に輝いている。

○ メインタイトル 「あわてなさんな」

○ 同 公園 昼下がり

 小学生の何げなく蹴ったボールが男のベンチまで転がってくる。拾って軽く手で返す男。転がって小学生の足元へ戻るボール。

小学生「おじさん、ありがとう(笑顔で元気に)」
 男  「ああ…(少し照れて)」

 何回か軽く蹴って、ボールを止める小学生。男の方を振り向く小学生。

小学生「おじさん、この辺りじゃ見かけない人だよね?」
 男  「ああ、そうだな。…坊主、それが、どうかしたか?」
小学生「ママがね、余り見ず知らずの人と話しちゃ駄目だって云ったんだけど…」
 男  「なら、話さなきゃいいだろ」
小学生「…そうだけどさ。おじさんの服がさ、珍しいから…(小さく笑い)。そんなの見たことないもん」
 男  「おお、そうか…。どうだ、なかなか、いいだろうが(自慢げに)」
小学生「んっ! すっごく格好いい。え~とね、ちょっと待って…」

 ポケットに手を突っ込み、デジカメをとり出す小学生。

小学生「おじさん、撮っていい?(カメラを手で男に示し)」
 男  「ああ、いいぜ、坊主…」
 小学生、デジカメのシャッターを幾度となく切る。撮り終
えてポケットへカメラを納める小学生。反対側のポケットから帯封付きの百万円の札束をとり出す小学生。男に歩いて近づく小学生。

小学生「これね…。少ないけど、ほんのお礼」

 札束を男の目の前へ差し出す小学生。眼前の札束に、少しとり乱す男。だが、すぐ威厳をとり戻す男。

 男  「ぼ、坊主…。じゃねえや、坊ちゃん。それは、いけねえぜ(拒んで)」
小学生「そうなの? 少ない?(分からず)」
 男  「いいや、多いの、なんのって…(呆れて)。坊ちゃん、人生は長いんだぜ(云い聞かせるように無理に威厳を保って)、そうあわてなさんな。そんな大金、俺なんぞに…」
小学生「そうお? 今日のお小遣いの半分だけだよ?」

 口をポカンと開け、唖然とする男。

小学生「おじさんって、からっきし、なんだね?」

 返す言葉がない男。札束をポケットへ戻し、ボールの方へと去る小学生、ふたたびボールを蹴り始める。ボールを蹴って遊ぶ小学生を、ただじっと見続ける男。

 男M 「あわて過ぎた…(威厳を失った声で)」

 ボールを蹴って遊ぶ小学生を、ただじっと見続ける男。

○ エンドロール

 出演者、スタッフなど。

 T「おわり」

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2011年11月 4日 (金)

特別寄稿(シナリオ) コント[5] ━ クリスマス・モドキ ━

━ クリスマス・モドキ ━    水本爽涼

                
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

   格好いい若者 男 … キャスト表による
   格好いい若者 女 … キャスト表による
   マッサージ師 男 … キャスト表による
   マッサージ師 女 … キャスト表による
  

○ とある噴水前の待ち合いベンチ 夜

 男がベンチに座っている。クリスマス・イブのBGMが、どこからともなく流れてくる。ビルの街頭に設置された電光掲示板。そこに映し出された時報テロップが8:10を示している。

○ メインタイトル「クリスマス・モドキ」

○ 同 待ち合いベンチ 夜

男「遅いな…(腕時計を見ながら)」

 息を切らせて小走りに現れる女。ドラマの名シーンを彷彿とさせる二人。

女「… … 待ったぁ?(息を切らせて)」
男「いやあ、そうでもないさ…(わざと否定して)」
女「そう? …」

 一瞬、流れる沈黙の時。ドラマの名シーンを彷彿とさせる二人。

男「じゃあ、行こうか…」

 ベンチから立ち上がる男。

女「…」

 黙って頷き、立ち上がる女。

○ とある整体の専門店 外景 夜

○ 同  マッサージルーム 夜

 二床の整体用ベッドが平行に並んでいる。その上に男女がうつ伏せに寝てマッサージを受けている。男には男のマッサージ師、女には女のマッサージ師が担当している。先ほど流れていたクリスマスのBGMが小さく聞こえている。

マッサージ師 男「イブにマッサージを受けられるカップルは余りおられません(小笑いして揉みほぐしながら)」

男と女「…(返答できず)」

○エンド・ロール

 キャスト、スタッフ等

 T「おわり」

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2011年11月 3日 (木)

特別寄稿(シナリオ) コント[4] ━ 足の靴ダコ ━

 ━ 足の靴ダコ ━    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

  男 … キャスト表による
  足の靴ダコ N… キャスト表による
  
○ リビングルーム 夜 

 バスローブを着た風呂上りの男が新聞を読みながら長椅子に座っている。読み終えて何げなく新聞を前のテーブルに置き、立ち上がる男。室内の小物入れより爪切りを取り出し、ふたたび長椅子へ座る。足裏を見る男。

○ 男の足裏

 男の靴ダコができた足裏。靴ダコ(カメラアップ)。
 
○ メインタイトル「足の靴ダコ」

○ 同 夜

 足の爪を切り始める男。一瞬、切る手を止め、足裏の靴ダコを、ふたたびシゲシゲと見る男。

○ 男の足裏

 靴ダコ(カメラアップ)。

男声「靴ダコも伸びるから不思議なんだよなあ~」

N  『そりゃ、わてかて伸びまっせ!』

○ 同 夜

 ふたたび、足の爪を切る男。爪を切り終わって、立ち上がり、小物入れよりハサミを取り出し、また長椅子へ座る。靴ダコを切り始める男。

N  『そない荒けのう切ってもろたら痛いがな。優しゅう切ってや。…そうそう、ええ具合やがな。あんた、切るの上手いな』

 聞こえない男、切り続ける。やがて切り終え、切った爪と皮の始末を始める。手の平の上の切られた爪と皮。汚そうにテーブル上のティッシュに、くるめる男。

N  『あんたのもんなんやさかい、そない汚ながらんでも、ええがな』

 聞こえない男、立ち上がって部屋隅の屑籠へ狙いを定めて投げ入れる。スンナリと屑籠へ入るティッシュ。

男  「うまいっ!(自己満足して微笑み)」

○  同 屑籠 夜

 屑籠の中。捨てられたティッシュ。

N  『あほらし! なにが、「うまいっ!」 や!!』 

○ 同 夜

 満足げな男。立って、爪切りとハサミを小物入れへ戻す。ふたたび、テーブル上の新聞を手にする男。長椅子へ座り、新聞を読み始める男。

○エンド・ロール

 キャスト、スタッフ等

 T「おわり」

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2011年11月 2日 (水)

特別寄稿(シナリオ) コント[3] ━ ユルキャラ ━

━ ユルキャラ ━    水本爽涼

           
      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

  ユルキャラA … 男
  
ユルキャラB … 女
  
N …男声、女声、どちらでもよい
  

○ とある街の駅 出口 昼 

  駅構内付近の喧騒な人々の出入り。

○ 駅沿いに植えられた木々 遠景 昼  

 歩道に植えられた冬の木々。木枯らしが舞っている。ほとんど枝葉を落とした木々。(流し撮り)

○ 同 近景 昼

 背景の空は、どんより曇った鉛色。

○ 同 梢 昼

 木々の梢。わずかに一枚残った枯れ葉が風に震える。やがて、その一枚が梢から離れて道路下へと落ちていく。ゆっくりとスローモーションで落ちる枯れ葉。ストップモーション。

○ メインタイトル「ユルキャラ」

○ 駅沿いに植えられた木々 梢 昼

 スローに梢より幹へ、幹から歩道へ。(カメラのパン)

○ 同 梢下の歩道 昼

 俯瞰。ユルキャラが、歳末大売り出しの街頭宣伝を路上で繰り広げている。賑やかなパフォーマンス。余り気に留めず行き交う通行人の群れ。

○ 空と街 昼から夜

 どんより曇った鉛色の空から暗黒の空へ(時間経過)。街頭の灯やネオンがカラフルに輝き始める。

○ 歩道 夜

 パフォーマンスをやめる二人。まばらに行き交う通行人の姿。

N「この二人、実は、太陽の三倍の質量をもつシリウス系の異星人なのである(厳粛な声で)」
A「五時か。さっ! そろそろ終わろうや…」
B「そうね…」
A「六時からは人間だから忙しいよな」
B「ええ…」

 撤収を始める二人。

N「皆さんには、二人が話した話の内容が理解できるだろうか(厳粛な声で)」

○ ビル影の着替え部屋 夜

 窓に外のネオン光が映る薄暗い部屋。ユルキャラか ら抜け出る二人。やや疲れ気味の二人。椅子に座り溜息をつく二人。

N「二人はこれから、人間を演じるのである。ネバネバ、ネチネチとした人間を、である。二人が真の姿を取り戻すのは、あけ方なのである。その時、二人は人間の皮を脱ぐのである(厳粛な声で)」

○ 歩道 夜

 まばらに行き交う通行人。

N「あっ! 勘違いしないでくださいね。ネバネバ、ネチネチと云ったって、そんなイヤラシイ意味じゃありませんよ(明るく軽い声で少しニヤケぎみに)」

○ エンドロール

 キャスト、スタッフなど

 T「おわり」

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2011年11月 1日 (火)

特別寄稿(シナリオ) コント[2] ━ 酔っぱらったタコ星人 ━

 ━ 酔っぱらったタコ星人 ━    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
  登場人物

    タコ星人 … 異星人
  会社員A … 先輩社員 男
  会社員B … 新入社員 男
  酒屋の主人 …男

○ とある街角 歩道 夜

 薄暗い歩道。酒に酔った新年会帰りの会社員二人が話しながら歩く歩道。ビルの隙間に潜み、二人の姿を観察するタコ星人。ヨロめきながらも、少しずつタコ星人の方へ近づく二人。

○ メインタイトル「酔っぱらったタコ星人」

○ 同 歩道 夜

 手にした小型翻訳機(地球上には未だない)で会話の言葉を異星語に翻訳するボタンを押すタコ星人。二人の会話に、首を捻ったり、うなづいたりするタコ星人。

タコ星人「○×△§?[タノシイノカ?] …※■△、☆◆。%&#*! [ …ソレニシテモ、ナゼサワグ ヒツヨウガアル!]  ◎?[シゴトカ?]…◇”●<>★[…ドウモソノヨウダ]」
 
 相変わらずフラフラと千鳥足で歩く会社員二人。かなり出来上がっている。タコ星人の潜む方向へ、なおも近づく二人。

会社員A「ハハハ…。お前、なかなかいい声してたぞぉ~、ウィッ!(呂律が全然、回らない)」

会社員B「なに云ってんスカっ! 先輩もなかなかいい喉してましたよお~~。酒も美味いし、最高っスねぇ~、ウィ!(呂律が時折り回らない)」

 楽しげで、気持ちよさそうにフラついて歩く二人をただじっと、ビルの隙間に潜み、観察するタコ星人。翻訳機の声に耳をそばだてるタコ星人。

タコ星人「○、◇×。[サケトハ、ウマイヨウダ。]…▽! &、◎◆□#![…ヨシ! ヒトツ、ノンデミルコトニシヨウ!]」

 ビルの隙間に潜むタコ星人に気づかず、通り過ぎる二人。タコ星人から遠ざかる二人、次第に小さくなる。ズボンベルトの真ん中のダイヤルを回すタコ星人。スウ~っと透明になり、姿を消す。

○ 酒屋 自動販売機前 夜

 スウ~っと、現れるタコ星人。ズボンベルトの真ん中のダイヤルを元の位置へ戻し、眼前の自動販売機(酒)をじっと見るタコ星人。

タコ星人「★◎![コレダナ!]」

 タコ星人、指のリングを自動販売機(酒)に向ける。不思議な光がリングから出て、自動販売機を照射する。ボトン! という音とともに出る酒カップ。それを取り出して飲むタコ星人。すぐ、ヨロめきだす。
タコ星人「◎、○![イイ、ホシダ!]…¥、&□$[…サッソク、ナカマヲヨブコトニシヨウ](ヨロめきながら)」

○ 同 自動販売機前 翌朝

 酒屋前に散乱する、ゆで上がったタコの山。ガラス戸を開けて出てきた酒屋の主人。
 酒屋の主人「だれや! こんなとこに捨てたんは…(ゆでダコの山を覗き込んで)。よっしゃ! これはメッチャ、もうかるでぇ~。正月やしな、酒のアテになっ!(ニタリと笑い、カメラ目線で)」

タコ星人(M)「×、★●~![ ソ・ン・ナ、ア・ホ・ナ~!]」

○エンド・ロール

 スタッフ、出演者等

 T「おわり」

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