« 2011年12月 | トップページ | 2012年2月 »

2012年1月

2012年1月31日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(5)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(5)

12. 薬園奉行・彦坂弾正の屋敷(外)・夜
    土塀に囲まれた門構えの豪壮な前景。
13. 同 (内)・夜
    離れの座敷(六畳間)。脇息で寛(くつろ)ぐ彦坂、脇息に預けた手で   
    顎を弄りながら、家臣①の報告を受けている。
   彦坂  「さようか…。小石川の方では都合がつくと申すか。よし! そ
        ちに任すゆえ、柴胡と黄金花の増産に励め。町方に蔓延して
        おる流行り病(やまい)に効くそうよ。取り敢えず都合がつくだ 
        け集め、持参致せ。決して町方へは流すでないぞ」
   家臣①「ははっ(平伏して)」
    家臣①、一礼して立ち去る。
   彦坂  「薬草が、どのように金に化けるのかのう? 了然の申すこと、
        よう分からぬわ…(小嗤い
して呟き)」
    ふたたび、顎を脇息に預けた手で弄る彦坂。
14. 高山幻斎の医療所(待合場)・昼
    呻き、横たわる町人達で占拠された待合場。幻斎が慌ただしく患者
    達を診る。又吉も幻斎を手助けしている。
   幻斎  「もう薬草が底をついてきておる。弱ったことじゃて…」
   又吉  「先生、病(やまい)になる本元は何なんです?」
   幻斎  「いや、病因はのう、今のところ分からぬ。処方が分かっただ
        けじゃ。だが、その処方のための薬草は儂(わし)の手元に
        残り少ない」
   又吉  「薬問屋には、ねえんで?」
   幻斎  「いや、それが妙なことに、知っておる店を、くまなく問い合わ
        せたが、入手できぬと云うのじゃ」
   又吉  「そりゃ怪(おか)しいや。薬屋になけりゃ、どこにあるんです?」
   幻斎  「江戸十里四方は無理なようですぞ(又吉を見て)」
   又吉  「どういうこってす?」
   幻斎  「お上から流れぬような手配が、されておるようじゃの」
   又吉  「お上が? そりゃ偉(えれ)ぇこった」
   幻斎  「関八州などの近郷より入手できればいいのだが…。手配が
        及んでおれば、それものぉ…」
   又吉  「なぜ、お上が町衆の困ることをやるんです? 怪(おか)しいじ
        ゃありやせんか」
   幻斎  「(小笑いして)医のことと違(ちご)うて、儂(わし)には、そのよう
        なことは分からん」
   又吉  「困ったことですぜ…」
   幻斎  「(患者の汗を拭い)そうじゃのう…」

|

2012年1月30日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(4)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(4)

9. 御殿医・寺村了然の住居・夜
    薬園奉行の彦坂弾正を招いて饗応する了然。赤ら顔の彦坂、既に   
    酩酊状態。
   彦坂  「聞くところによれば、町医者の幻斎が流行り病(やまい)の妙   
        薬を探り当てたそうよの?」
   了然  「はい、どうもそのようで…。ここ数日前より、街の噂となってお
        ります。ところが、その薬に処方致します薬草は、薬園以外
        には無きものゆえ、下々(しもじも)は難儀致しておるやに聞
        き及びまする」
   彦坂  「さようか…。して、そちは身共に如何せよと申すのだ?」
   了然  「なあに、そんな小難しいことでは御座居ませぬ。手前にのみ、
        その薬草を、お遣(つか)わし下されば、法外な儲けになろう
        かと…」
   彦坂  「ほう…それで、いかほど、こちらへ回る(嗤って手の平を広
        げ)」  
   了然  「手前には、ほんのひと握りも頂戴出来ますれば…。あとは、
        全てお奉行様のものに…(嗤って)」
   彦坂  「ふふふ…。悪い話ではないのう。あい分かった。そのように取   
        り計らうことと致そう」
   了然  「有り難き幸せ…(平伏し)。さあ、もう一献(酒を勧めて)」
   彦坂  「(注がれた盃を干して)して、その薬草とは?」
   了然  「はい、柴胡(さいこ)と黄今(おうごん)で御座居ます。詳しく申さ
        ば、ミシマサイコの根、黄今は黄金花(コガネバナ)の根。両
        者を調合した後、煎じて処方致しまする」
   彦坂  「柴胡と黄金花か? 町方には入手が難しかろう」
   了然  「御意に御座居まする。柴胡は以前より柴胡湯として婦女の
        血の道に効くとされ、処方はされておりましたが、黄今は薬
        園以外では入手が厳しいかと…」
   彦坂  「小難しいことは分からぬが、取り敢えず黄金花は増やさせ、
        そちに遣わすと致そう」
   了然  「有り難き幸せ…過分に存じ上げまする(一礼して酒を勧め)」
10. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    いつものように門付けを済ませた、お蔦。額(ひたい)の汗を拭いな
    がら下目遣いに辺りを窺う。遠くから首を縦に振り、仙二郎が合図
    を送る。お蔦、ゆっくりと仙二郎へ近づく。仙二郎、知らぬ素振りで
    歩き出す。お蔦、間合いを置き、仙二郎の進行方向を少し離れて
    歩き出す。
11. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎、お蔦の二人、いつものように橋の中ほど
    で会話する。
   仙二郎「病(やまい)に効く薬草が出回らねえのは、いけねえや。薬園
        奉行辺りを探って貰おうか(手に握った一朱銀二枚を手渡し
        て)」
   お蔦  「だから私が云ったとおりだろ?(二朱を受け取り) 暑いから
        ね、早いこと済ましちまうよ。二日も貰えりゃ、いいよ」
   仙二郎「分かった。二日後だな?(念を押して)」
    云い終わると、橋向こうへ歩き出す仙二郎。後ろ姿のまま、
   仙二郎「こう暑くっちゃ、一日中、水を浴びてえや…(笑って)」
    と、云うとはなしに口走る。お蔦、その言葉には答えず、ニタッと微
    笑み、反対方向へ歩きだす。

|

2012年1月29日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(3)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(3)

5. 仙二郎の住居(同心長屋・外)・夕刻
    銭湯から帰ってきた仙二郎。そこへ、お蔦が突如、屋根から舞い   
    下りる。
   仙二郎「お蔦か…、まあ入んねえ」
   お蔦  「久しぶりだね。少し窶(やつ)れたんじゃないのかい?」
   仙二郎「そう見えるか? 夏場は昼の廻りが堪(こた)えてなぁ(戸    
        口を開け、お蔦を招き入れ)」
    仙二郎が家に入った後、お蔦、辺りを窺って入る。
6. 同 (同心長屋・内)・夕刻
    お蔦、仙二郎が土間から畳へ上がった後、鴨居へ座って、
   お蔦  「病(やまい)が相手じゃ、十手もやり難(にく)いだろうね」
    と、声を投げる。仙二郎、両刀を腰から抜くと、刀掛けに置く。
   仙二郎「さっぱりだぁな(笑って)」
   お蔦  「まあ、病(やまい)は医者に任すしかないが、そろそろワル   
        が動きそうだよ」
   仙二郎「どういうこってぇ?」
   お蔦  「そんな気がした迄さね。何ぞ、ありゃあ、また寄るよ」
   仙二郎「いや、俺の方が訊ねるかも知れねえぜ。その時ゃ頼まあ」
   お蔦  「ああ…。そいじゃ、邪魔したね。しかし時化(しけ)た暮らし
        ぶりだねぇ…(立って、辺りを見回し)」
   仙二郎「(舌打ちして)ちぇっ! 云ってやがらぁ。大きなお世話でぇ」
    と、お蔦に声を投げ返す仙二郎。既にその時、お蔦の姿は家の内
    から消えている。
7. 高山幻斎の医療所(診察場)・夜
    患者の町人、快方に向かっているのか、深い眠りに入っている。
    血色もよい。幻斎、その様子を診ながら、
   幻斎  「解熱したようじゃな。この薬草が効いたか…(乳鉢の中の
        薬を見て)。だが、この薬草、偶然、薬園から頂戴したもの。
        この辺りでは手に入らぬから困ったことになった(思案顔
        で)」
    
と、嘆息する。
8. 寺の中・昼
    合同葬の最中。多くの町人や遺族が参列する中、読経がしめやか
    
に流れている。仙二郎、宮部の姿もある。同じ後方で見物する町
    人の二人。
   町人②「幻斎先生が治療薬を見つけたそうよ」
   町人③「そうか! これで、ひと安心だな。一時(いっとき)は、バッタ
        バッタと倒れたからなぁ。まあ、こんな葬儀は、もうあるめえ」
   町人②「いや、それがな。そうは、いかねえんだとよ」
   町人③「怪(おか)しなこと云うじゃねえか。なぜなんだよ」
   町人②「実は、な。その薬草、そうは簡単に手に入らねえ代物(しろも
        の)だそうよ」
   町人③「この辺りには、ねえのかい?」
   町人②「あるこたぁあるらしいが、なんでも、お上の薬園だとよ」
   町人③「そりゃ、偉(えれ)ぇこった。でもよぉ、お上も見て見ぬ振りは、      
        なされめえ? そのうち出回らぁな」
   町人②「そうなりゃ、いいんだがな…」
    二人の会話を、知らない素振りで聴く仙二郎、宮部の肩を叩くと寺
    を出ようと歩き出す。慌てて追う宮部」

|

2012年1月28日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(2)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(2)

2. 寺の中・昼
    久遠寺の僧侶が数名、右往左往している。町人達によって
    
運び込まれる多くの遺体。僧達に懇願する町人①。
   町人①「そんなことを云わずに、お願(ねげ)ぇしやすよ。次か
        ら次へ死人が出て、置き場もねえんですから」
   僧①  「お気の毒じゃが、寺も困りますでな…。このように次
        から次へ運ばれましては…。生憎(あいにく)、方丈様
                は法事で今、お出かけじゃ。私共の一存では計りかね
                ますので、今日のところは、ひとまず、お引取りを…」
   町人①「そんなこと云われましてもねぇ…。まだ街から運びて
                ぇ死人がいるんですぜ」
   僧②  「(僧①を見て)…仕方ありますまい。非常の事態ゆえ、
                野晒しでも宜しければ、、寺外にありまする庭の片隅
        にお置き願えませぬか? 夏場ゆえ、腐敗臭が困り
        まするでのう…」
   町人①「有り難(がて)ぇ。置かせて貰えりゃ、どこでもいいん
        で(頭を下げ)」
    町人①、死体を寺内より寺外の庭へ移すよう、他の町人達
    に指示する。
3. 茶屋(軒)・昼
    立てかけられた軒の葦簾(よしず)。日陰の床机に座り、冷し
    飴を飲む仙二郎と宮部。
   仙二郎「暑い暑いと、何度も云いたくなりますなぁ…。日中(ひ
        んなか)の廻りは控えたいもんです(茶碗を口へと運
        びながら)」
   宮部  「そんなこと云ったって、村田さんの云いつけなんだか
                ら、仕方ないじゃないの」
   仙二郎「そうなんですがね…。下手人ったって、相手は病(や
                まい)ですよ。調べようがないじゃないですか、目に
        見えないですし…」      
   宮部  「そりゃ、そうだけど…」
    仙二郎、店に置いてある団扇(うちわ)を手にして、胸元をバ
    タバタと扇ぐ。
4. 高山幻斎の医療所(診察場)・昼
    横たわる町人の患者が体熱で魘(うな)されている。傍らの
    幻斎、患者を横目に、処方箋を書きながら頭を捻る。そこ
    へ、又吉が、ドカドカっと入ってくる。
   又吉  「先生、なんぞ分かりやしたか?」
   幻斎  「(振り向いて)おう、これは又吉殿ではないか…。そ
        うじゃのう、今迄の見立てでは、この病(やまい)が
        伝染せぬということだけじゃ」
   又吉  「そうですかい。本元の治す手立てが分かりゃ、い
        いんですがね」
   幻斎  「其処許(そこもと)の云われるとおりじゃ。今迄、見な
        んだ病(やまい)じゃによって…。やるだけは、やっ
        てみますがな」
   又吉  「町の衆は先生だけが頼りなんで。ひとつ、宜しゅう
        頼んます」   
    頭を下げる又吉に、首を縦に振って頷く幻斎。

|

2012年1月27日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(1)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(1)

   あらすじ

 又吉と付き合いがある町医者の高山幻斎は、庶民の守り神として崇
 められる慈悲深い名医である。突如として江戸の街を襲った奇病。そ
 の流行り病(やまい)に対し、幻斎は真正面から立ち向かい、遂にそ
 の治療法を発見する。それには、或る薬草が必要となるが、その薬
 草は、薬園奉行・彦坂弾正と結託する幕府お抱えの御殿医・寺村了
 然が様々な手口で世に流れないよう画策していた。そればかりか、
 その薬草を密かに高額で流し、莫大な利益を得るという悪事をなす。
 幻斎の努力により病因が治水工事による地下水脈の変化によること
 が判明し、病(やまい)は下火となるが、その間にも、了然や薬園奉行
 達がなす悪事は進行する。お蔦の探りでその事実を知った仙二郎は、
 遂に影車の面々にワル達の手筈を下知する。今回は、見えざる殺人
 者を懲らしめる影車の活躍を描く。

   登場人物

 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 寺の境内・昼
    タイトルバック
    久遠(くおん)寺の境内。その一角の日陰に腰を下ろし、暫し休息を   
    する仙二郎と宮部。木立の中の蝉時雨が賑やか。
   仙二郎「ふぅ~(手拭で額[ひたい]の汗を拭いながら)。こうも暑いと、
        定町廻りも苦行ですなあ…」
   宮部  「ほんと…。特に今頃は身体に毒です(仙二郎と同じ仕草で汗   
        を拭いて)」
   仙二郎「誰も見てないでしょう。少し昼寝と決め込みますか?」
   宮部  「いえ、そんなことは駄目です」
   仙二郎「はは…冗談、冗談ですよ。失礼しました」
   宮部  「四半時(しはんとき)ごとの交代ということで、どうです?」
   仙二郎「えっ?!」
    と、宮部の思わぬ返答に驚く、仙二郎。
   宮部  「油断は出来ませんからね。誰が見てるか分かりませんよ」
   仙二郎「はあ…」
   宮部  「それじゃ、そういうことで。まずは私から…、起こして下さいよ   
        (仰向けになり)」
    云うが早いか、草枕を決め込む宮部。冗談を真に受けられ、しかも
    先手を取られた仙二郎。宮部の寝姿を見て、ただ呆れる。その時、
    俄かに寺の中から湧き起こる騒然とした人の動く気配。宮部、驚い   
    て、慌てた所作で半身を起こす。
   仙二郎「何か、あったようですなぁ」
   宮部  「そうみたいね…。こんな所(とこ)見られたら何を云われるや
        ら。さあ行きましょう(小脇に置いた刀を握ると急いで立つ)」
    仙二郎も、仕方なく宮部に従って立つ。カメラ、二人が遠ざかる後
    ろ姿から、少しずつ上へとパン。木立の茂みと上空の青空、湧き
    上がった入道雲を仰角に撮る。蝉時雨。燦燦(さんさん)と降り注ぐ
    直射日光。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南
        も
ワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
    タイトル、テーマ曲など。

                  流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   

             なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
              健気に 生きてる 幼(おさな)星…
               汚れ騙され 死ねずに生きる
                 悲しい女の 流れ唄



               酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
               いつか倖せ 信じてすがる
                 寂しい女の 流れ唄



              あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
               辛い宿命を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄

|

2012年1月26日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(13)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(13)

47. 火付盗賊改方頭・井吹村重の屋敷(庭)・昼
    井吹が盆栽に水をやっている。
   井吹  「影車か…、やられたな(笑って)。悪党にしておくには、惜し
        い連中よのう。いや待てよ…、奴ら、悪党ではないな。(空を
        見上げ)有り難(がと)よ。拙者には、ここまでは出来ぬわ(笑
        って)」
    と、ブツブツ呟く。空の雲の切れ目より一場の光が射す。眩しさに
    目を細める井吹。
48. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    群衆を尻目に、奉行所へと急ぐ仙二郎と宮部。
49. 立て札
    立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手筈   
    を受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
   N   「手筈を愛けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
50. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    仙二郎達の歩く姿。

    テーマ音楽。
51. エンド・ロール
   F.O
   T「第五回 強欲一味  完」

                        第五回 強欲一味 完

              流れ唄  影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
               汚れ騙され 死ねずに生きる
                 悲しい女の 流れ唄

               酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
               いつか倖せ 信じてすがる
                 寂しい女の 流れ唄

              あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
               辛い宿命を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄

|

2012年1月25日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(12)

            影車      水本爽涼  
       第五回 強欲一味(12)

43. 材木問屋・越前屋の店前・夜
    刀を鞘へ納める仙二郎。そこへ、伝助が大八車で、やってくる。
   仙二郎「上手く、やったようだな」
   伝助 「姐(あね)
さんの御蔭で…」
   仙二郎「それじゃ、俺はこれで消えるぜ。晒す場所は分かってるな?
        頼んだぜ…」
    と云い捨て、闇へと消える。入れ替わりに、お蔦が瓦屋根から飛び降
    りる。
   お蔦  「薄情なもんだよ、十手は…(仙二郎の消えた方を見て)。さ
        あ、もう少しだ、頑張りなよ」
   伝助  「分かってまさぁ(小笑いして)」
    と云いながら、静かに戸口を開け、矢兵衛を背負って再び現れる。
    お蔦、それを見届け、
   お蔦  「それじゃまた、私の後(あと)を追いな」
    早足で歩き出す、お蔦。伝助、矢兵衛を大八車に乗せると、静かに
    動き出す。
44. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷前・夜
    御用提灯と多くの下役人。差配する井吹村重が馬上より、
   井吹  「一人(いちにん)たりとも、捕り逃すでないぞ。皆の者、かかれ
        い!!」
    井吹の声を合図に、雪崩をうって屋敷に寄せる下役人達。(梯子を
    土塀に立て、一斉に登り始める)
45. 江戸の街通り(一筋の広い道)・深夜
    (鶏が五更に向かって鳴くS.E)無惨に晒された五人の死体。傍ら
    には、立て札が立つ。辺りの静寂。S.E=雄鶏の高く響く鳴き声。
    F.O
46. 同 (一筋の広い道)・朝
    F.I
    取り囲んで見る町人達の野次馬。そこへ通り掛かる通勤前の宮部
    と仙二郎。
   宮部  「板谷さん、さっきから欠伸ばっかりしてますよ」
   仙二郎「いやぁ…、よく眠れなかったんですよ(小笑いして首筋をボリ
        ボリと掻き)」
    適当に暈す仙二郎。
   宮部  「また人だかりよ…。見てく?」
   仙二郎「そうですな…少しだけですよ。遅れりゃ、また村田さんの、
        お目玉ですからね」
    と云いながら、二人、人の群へと入る。掻き分けて前へ出て、
   仙二郎「またまた賑やかに、やってくれましたなぁ~(高笑いして)」
   宮部  「(仙二郎の袖を引っ張り、口に指を立て)板谷さん!(仙二郎
        の顔を見て、首を激しく振り)」
    仙二郎、自重して黙る。その横で、いつも現れる町人の二人が話
    をしている。
   町人A「これで影車も面目躍如よ」
   町人B「そうだな…。一時(いっとき)は、評判も盗っ人以下だったか
        らなぁ」
   町人A「こいつらが贋の影車って訳か…」
   町人B「って云うか、影車の名を借りて悪事を働いた奴ら、ってこと
        よ」
   町人A「まあ、そういうこったろうな」
   町人B「やっぱり、影車は偉(えれ)ぇんだよ」
   町人A「神様より偉(えれ)ぇのかい?」
   町人B「そこまでは行かねえんじゃないの?」
   町人A「そんなもんだろうな…」
    仙二郎、聞くに堪(た)えないと顔を顰(しか)め、
   仙二郎「宮部さん、行きましょう」
    と、横の宮部を見ると、宮部は、もう人の波を押し分け、群衆の
    外へと出ている。慌てて宮部を追う仙二郎。  

|

2012年1月24日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(11)

    影車      水本爽涼
   第五回 強欲一味(11)

39. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(渡り廊下)・夜
    家臣①の死体は、既に伝助の手で大八車に乗せられている。伝助、   
    門倉の死体を背負ったまま、大八車へと運ぶ。
40. 同 (座敷)・夜
    (ふたたび、テーマ曲のオケ1 イン)
    見回り中の家臣③(黒装束)、襖前で手燭台を下ろし、
   家臣③「殿、見回り、終わって御座居ます」
    と、声をかけるが、いっこう中からの返答はない。不審に思った家臣  
    ③、首を捻り。ゆっくりと襖を開ける。燭台の蝋燭が灯るだけの部
    屋。誰もいない。家臣③、中へと入り見回して、異常を察知する。そ   
    の時、天井から家臣③の背後へ舞い降りた、お蔦。目にも止まらぬ
    早業で家臣③の頚動脈(首)を居合い斬る。首から派手に吹き散る
    血しぶき。ドスッと倒れた家臣③、目を開けたまま絶命。それを見届
    けた、お蔦、仕込み刀を背に納めると、家臣③を引き摺って廊下へ
    出ようとする。そこへ、伝助が現れる。
    (テーマ曲のオケ1 オフ)
   お蔦  「他の荷物は乗せたかい?」
   伝助  「へぇ。ここは、もうコイツだけでさぁ」
   お蔦  「そうかい。走るだけだろうが、今日はちょいと要領がいるよ。   
        私が越前屋まで先達だ。音を立てずに静かに走りな。火盗改
        めの動きが気になる」
   伝助  「分かりやした」
    家臣③の死体を背負うと廊下へと出る伝助。その後ろ姿に、
   お蔦  「今頃は、十手も始末してるだろ。それじゃ、表で待つよ」
    と云うが早いか、天井へと飛ぶ、お蔦。戸板を上げ(又吉が開けた
    戸板)、天井裏へと消え去る。
41. 材木問屋・越前屋 (店前)・夜
    (テーマ曲のオケ3 イン)
    門倉の家臣②(黒装束)が走って店へ近づく。店の蔭に隠れていた
    仙二郎、前へ立ち塞がり、一刀のもとに斬り捨てる。
   仙二郎「もう一匹か…」
    と云って闇へと消える。
42. 同 (帳場)・夜
    帳場に座る矢兵衛。焦れて、
   矢兵衛「門倉様の御家来、遅いねえ。何かあったんだろうか? これ
        じゃ、今夜は無理だよ…」
    そこへ、表から仙二郎の澄ました声。
   仙二郎「寄場奉行の使いの者でござる。開けて下されぃ!」
   矢兵衛「(小声で)やれやれ、やっと、お出ましだよ。(大声で) はいっ!   
        今、お開け致しますので!」
    と、戸の閂(かんぬき)を外しに立つ、矢兵衛。木戸の閂を外し、戸を     
    開けた刹那、仙二郎の刀が胸を突き刺す。呻く矢兵衛。
   仙二郎「申し訳ねえ…悪いが冥土の使いなんだ。地獄へ落ちろい!」   
    と云いながら、刃(やいば)で抉(えぐ)る(ブシュブシュ~という音
    S.E)。矢兵衛、仙二郎が刃を抜くと、土間へと崩れ落ちる。S.E=
    豚、牛などの肉塊をナイフ等で切り裂く音。
    (テーマ曲のオケ3 オフ)

|

2012年1月23日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(10)

    影車      水本爽涼
   第五回 強欲一味(10)

33. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(渡り廊下)・夜
    (テーマ曲のオケ1 イン)
    廊下を歩く家臣①。廊下の床下で携帯の鞴(ふいご)を押しながら
    機会を窺う留蔵。真っ赤に焼けた刺身包丁の刃先。上を通り過ぎ
    る家臣①の足音を確認した留蔵、密かに廊下の下から上へと出
    て家臣①の背後に回る。静かに近づくと、矢庭に家臣①の口を背
    後から塞ぎ、もう片方の手に握った灼熱の刺身包丁を両眼へ押し
    当てる。(ジュ~という焼入れの音S.E) 呻く家臣①。(焼け爛れた
    両眼) なおも、その刺身包丁で胸部(心臓)を一突き。家臣①、もが   
    く力も萎え、留蔵が手を離すと、その場へ崩れ落ちる。
34. 同 (部屋)・夜
    黒装束の家臣②を呼び寄せ、話をする門倉。
    (テーマ曲のオケ2 イン)
   門倉  「火を落とす箇所は、これに記(しる)してある(図面を渡し)。越   
        前屋には既に浪人どもが集結しておる。そちは、これから出   
        向いて、浪人どもを差配いたせ。火盗改めも動いておる故、   
        ぬかるでないぞ」
   家臣②「ははっ」
    と一礼し、立ち上がると襖を閉める家臣②。一瞬、静寂が漂う座敷。   
    燭台の蝋燭の炎、微かに揺れる。その時、門倉の真上の天井板が
    スゥーっと音もなく開き、鉄製の大丼鉢と両腕が現れる。大丼鉢、門
    倉めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼鉢。呻く
    門倉。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)門倉、頭に被ったまま、
    直立でその場へ両膝を突く。その後、静かに崩れ落ちる。
    (テーマ曲のオケ2 オフ)
35. 頭部のレントゲン撮影された映像  C.I
    シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像。
    C.O
36. 病院の診察室・現代
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いている。
    カメラ、医師の姿をアップ。医師、シャウカステン上のレントゲン撮
    影されたフィルム映像をじっと見た後、カメラ目線で素人っぽく、
   医師  「いつもと同じですなぁ…(笑って)。頭蓋骨陥没骨折による即
        死です。お気の毒でした…(頭を下げ)」
37. 寄場奉行・門倉内膳の座敷・夜
    天井より縄を一本、下ろし、それを伝い降りる又吉。門倉の頭に被
    った大丼鉢を外すと、瀬の袋へ収める。その時、襖がスゥーっと開
    き、隠れていた伝助が現れる。
   留蔵  「伝公、あとは頼んだぜ」
    無言で頷く伝助。手に金具を装着すると、器用に天井へと登る留蔵。   
    天井板が閉じられるのを見届け、死体を背負う伝助。

|

2012年1月22日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(9)

    影車      水本爽涼
   第五回 強欲一味(9)

30. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    仙二郎を筆頭に、留蔵、又吉、お蔦の四人が集まっている。遅れ
    て、戸口より息を切らした伝助が駆け込む。全身、雨に濡れ、息も
    絶え絶えに、
   伝助  「ふぅ~、なんとか間に合いやしたね…(体を手拭で拭きなが   
        ら)」
   お蔦  「遅かったじゃないか」
   伝助  「俄か飛脚で走ってたもんで…」
   お蔦  「そうかい、そりゃご苦労さん」
   仙二郎「手筈は、さっき云った通りだ。伝公は、お蔦に後から聞きな。
        目指す的(まと)は、門倉と配下の三人。それと、越前屋の矢   
        兵衛だ。火盗改めも動いてるようだから、慎重にやってくれ。
        一刻を争うから、余裕はねえが、お前(めえ)らの手筈なら大
        (でぇ)丈夫だろう。いつもの倍の二両、はずむぜ」
   又吉  「十手、そんなにだせるのか?」
   仙二郎「門倉の奴、しこたま稼いだらしいからなぁ(小笑して)」
   留蔵  「火の海にされちゃ、泣くのは庶民だ。俺は、いくらでもいい」
   仙二郎「いつもながら、お前(めえ)は欲がねえな…(小笑して)」
    留蔵も微かに笑う。土間の蝋燭の炎が揺れる。外は、雨が湿っぽく   
    降り続いている。
   又吉  「火付けを影車のせいにするとは、許せねぇ野郎達だぜ…」
   伝助  「そうですぜ!」
   仙二郎「そうだな…。金は、いつもの後払いで届けさせる。他に何も
        なけりゃ、これで、お開きだ。皆、頼んだぜ」
    一同、頷く。伝助、蝋燭の炎を吹き消す。暗黒の闇。
31. 江戸の細道・夜
    お蔦の傘に入り、連れ立って歩く伝助。
   伝助  「なるほど…。そういう手筈ですかい。まあ、あっしは運ぶだけ   
        なんですがね」
   お蔦 「そうでもないよ、伝助。今度は注意深く運ばないとね。火盗改   
        めの目が光ってるかも知れないから用心するんだよ。私も手      
        助けしてやるから」
   伝助  「姐(あね)さん、何ぞありゃあ、よろしく頼みやす」
    お蔦は瞽女(ごぜ)として歩いていないから、足早である。二人、雨の      
    中を闇へと消える。
32. 寄場奉行・門倉内膳の座敷・夜
    黒装束の家臣①が襖を開ける。ゆったりと脇息に片肘(ひじ)を預け、
    寛(くつろ)ぐ門倉。
   家臣①「只今、越前屋からの知らせが…。浪人達の第一陣、ほぼ整
        った由に御座居ます」
   門倉  「さようか…、御苦労。思いの他、順調に集まったとみえる。そ
        ちは下がって休め。他の者に見に行かせるゆえ」
   家臣①「ははっ」
    と平伏し、襖を閉める黒装束の家臣①。

|

2012年1月21日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(8)

    影車      水本爽涼
   第五回 強欲一味(8)

26.  江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    F.I
    降り出した雨が道を叩く。急いで軒(のき)へ避難する仙二郎と宮
    
部。
   仙二郎「ひぇ~、今日は降らないと思ってましたがねぇ(空を見上げ
        て)」  
   宮部  「迂闊(うかつ)だったわ、私としたことが…。今朝、傘は持って   
        出たのよ。奉行所においてきたの…くやしい!」
   仙二郎「そんなこと云ったって仕方ないでしょ、宮部さん。借りるか、
        止むまで待つかですが、じっとしていても埒(らち)があきませ   
        ん。そこの店で昼にしましょう。丁度いいや、そのうち止むでし
        ょう」
   宮部  「そうね…」
    仙二郎に従い、軒(のき)伝いに歩く宮部。二人、うどん屋の暖簾を潜       
    る。
    F.O
27. 材木問屋・越前屋(店外)・昼
    F.I
    道から数名の浪人が雨を、ものともせず店へと入る。暫くして、反対
    側の道からも続々と浪人が入る。
28. 同 (店内)・昼
    浪人達を迎える矢兵衛と店の者。
   矢兵衛「さあさあ皆様方、ひとまず、お二階の方へ…(手招きして)」
    浪人達、草鞋(わらじ)を脱ぎ、足を洗って拭いた後、思い思いに二   
    階へと上がる。
   矢兵衛「取り敢えず、これくらい集めりゃいいだろう。あとは、門倉様の   
        連絡を待つとしようか…」
    と、二階を見上げる矢兵衛。浪人達の人熱(いき)れで、蒸せ返る店
    内。
29. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    門付けが済んだ、お蔦。遠くから首を縦に振り合図する仙二郎。お
    蔦、辺りを見回した後、仙二郎に近づく。仙二郎、通りすがりの態
    で前を歩く。お蔦、仙二郎の後方を少し離れて追う。
30. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。話す二人。小雨が止まない。仙二郎、欄干に凭れ、
    番傘をさし、お蔦は蓑を纏い、笠を被っている。
   お蔦  「この一件、余裕はないよ。門倉の奴、江戸を火の海にする腹
        さ。浪人を集め始めてる…」
   仙二郎「役人がなあ…。久々の大ワルだぜ。急がねえといけねえな。   
        よし! 皆を集めろい。明日の宵五ツ、いつもの小屋だ」
    と云い捨て、足早に橋上から去る仙二郎。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻る
    と、杖をつきながら少しずつ反対方向へと歩き出す。

|

2012年1月20日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(7)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(7)

22. 芝居小屋(中)・昼
    満場の客席。興行中の団十郎の演目“勧進帳”の名場面に涙する
    宮部。隣席の仙二郎の困り果てた顔。客席の中から飛ぶ『成田屋!   
    』の掛け声。義経を打擲(ちょうちゃく)する弁慶、弁慶の所作を見遣
    る富樫左衛門の名場面。宮部の泣き声が次第に大きくなり、仙二
    郎、思わず宮部の口を手で塞ぐ。
23. 材木問屋・越前屋(座敷)・夜
    忍びで寄場奉行の門倉が頭巾を被り来ている。接待する店の主
    (あるじ)の矢兵衛。
   門倉  「実は、な。今日、参ったのは他でもない。千両箱の蓄えも頃
        合いとなってきおった。そこでじゃ、かねがね申しておった話
        を、そろそろと思おてな」
   矢兵衛「いよいよ実行を、なされまするか? 一つ間違えば、お奉行   
        様の首が飛ぶことにもなりましょうほどに…」
   門倉  「案ずるな。今となっては、もう出世も望めぬ我が身。ここは
        一つ、天下を覆す程の大事を企てるのも面白かろうて…(
        嗤って)。金は充分過ぎるほどある。矢兵衛、そちの力で集
        められるだけ集めてくれい」
   矢兵衛「御浪人を集められて、如何なされます?」
   門倉  「江戸の街を灰燼(かいじん)に帰すのよ」
   矢兵衛「なんというお考えを…。御浪人を集めてくれとは聞いてで御
        座居ますが、街を火の海になされる御所存とは…(呆れて)」   
   門倉  「無論、身共の家来に差配させるゆえ、安心せい。首尾よく行
        けばその方、余生を遊び暮らせる程の金が転がり込むぞ
        (嗤う)」
   矢兵衛「手前も乗りかかった舟、覚悟は決めまして御座居ます。お
        奉行様とは一蓮托生」
   門倉  「さようか、それは重畳(ちょうじょう)。過分に思うぞ(軽く頭を下   
        げ)。さあ、そちも一献、傾けよ」
    と、杯を矢兵衛に手渡し、銚子の酒を注ぐ門倉。
24. 同 (座敷・天井裏)・夜
    密かに耳を欹(そばだ)てる、お蔦。
   お蔦  「今までのワルとは、ちょいと違うね。こりゃ、桁外れの大ワル
        だ…」
    笑いながら、そう小さく呟くと、闇へと消える、お蔦。
25. 火付盗賊改方頭・井吹村重の屋敷(庭)・昼
    密偵の報告を庭で受ける伊吹。
   密偵  「下手人とまでは断じかねますが、どうも、寄場奉行、門倉
        様の手の者かと…」
   井吹  「さようか、寄場奉行のう…。大儀であった。今後とも身辺の
        動き、目を離すでないぞ。動きがあらば、すぐに知らせよ」
   密偵  「ははっ!」
    素早く屋敷外へと立ち去る密偵。
   井吹  「門倉殿か…。大事に至らねばよいが…(思案顔で)」
    と云い、剪定鋏で盆栽鉢の松の小枝を切る。
   井吹  「梅雨の晴れ間も長くは続かぬなぁ…。また雲ってきおったわ」   
    空を見上げる井吹。ポツリ、ポツリと落ち始める雨滴。慌てて屋敷内
    へと入る井吹。湧き出した黒雲が流れ、青の空域を消していく。ザザ
    ーと降る雨。
    F.O

|

2012年1月19日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(6)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(6)

19. 又吉の長屋前・夕暮れ時
    又吉が屋台を担ぎ、商売に出ようとしている。今日は子供達の遊
    ぶ姿はない。そこへ、お蔦が屋根から舞い降りる。
   お蔦  「これから商いかい? ご苦労さん」
   又吉  「(影車の口調で)何でぇ?」
   お蔦  「いや、なあに…、頼まれ序(ついで)に近くへ来たもんだから
        寄ったまでさ」
   又吉  「手筈以外(いげぇ)で会うのは、ご法度(はっと)なんじゃねえ
        のかい?」
   お蔦  「そうなんだがね。ただ、久しぶりに手筈が有りそうだ、とだけ   
        云いたかったのさ」
    そう云うと、お蔦、また屋根へと飛び上がる。屋根を見上げる又吉。   
   又吉 「ワルは絶えねえや…。じゃあ、またな」
    又吉が片手を上げて声を掛けるのと同時に、お蔦の姿、消え去る。   
20. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(隠し蔵の中)・夜
    手燭台を持つ門倉。立てた蝋燭の灯りで千両箱の山を目の当たり   
      に見分して、
   門倉  「(北臾笑んで)あちら、こちらと入ってきおるわ」
    そこへ、家臣①(黒装束)が入ってくる。
   家臣①「これらの金、如何なされるご所存で御座居まするか?」
   門倉  「ん? まあ見ておれ、今に分かるわ(嗤う)」
   家臣①「楽しみで御座居ますな。…ところで、我々は動かずとも宜しい
        ので?」
   門倉  「そのことよ。町方も、続く不審火に躍起となっておる。加えて、
        火盗改めも動き始めた由(よし)、暫(しばら)く表立った動きは   
        控えるがよかろう。追而(おって)、沙汰致す」
   家臣①「畏(かしこ)まって御座居まする…」
    素早く蔵から退散する家臣①。
21. 仙二郎の住居(同心長屋)・朝
    梅雨空に紫陽花が鮮やかに映えて咲く。雨は陰鬱にシトシト降り続
    いている。幕府の祝い事があり、休めることになった仙二郎。長寝
    していた布団から立ち上がり、庭を見遣る。
   仙二郎「振ってやがる。梅雨入りか…。暫(しばら)くは番傘が手離せ
        ねえや」
    と空を見上げ、顔を洗いに動く。そこへ、同じ長屋に住む宮部が入っ
    てくる。
   宮部  「少ししたら、お芝居でも見に行かない?」
    急に現れた宮部に、少し驚いて、
   仙二郎「いやぁ、おはようございます。芝居見物ですか? いいですな
        ぁ。長いこと御無沙汰ですよ。…確か、最後に見たのは二、
        三年前の正月でしたかねぇ」
   宮部  「そう…。そりゃよかった。じゃあ、半時(とき)ほどしたら、また寄
        りますからね(微笑んで)」
    宮部、戸を開け出て行く。仙二郎、やれやれ…と、溜め息をつく。

|

2012年1月18日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(5)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(5)

15. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(天井裏)・夜
    お蔦が忍んでいる。天井板の節目から下の様子を窺う、お蔦。
   お蔦  「これで、筋書きが読めてきたよ…」
    と、云うが早いか、スゥ~っと闇へ消える、お蔦。
16. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が、いつものように話をしている。
   仙二郎「(欄干に凭れながら)寄場奉行の門倉の仕業か…。こりゃ、
        かなり根が深そうだなぁ。お前の話で、あらましは分かった
        が、門倉が金を集めて何を目論んでやがるか、だ。その辺の   
        ところを引き続き探ってくれ(一朱銀を二枚、手渡しながら)」   
   お蔦  「あいよ…」
    二人、同時に反対側へ歩き出す。当然、仙二郎は早く橋を去り、お蔦   
    は杖をついて地を探りながら歩くので遅い。
17. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    賑やかに町人達が往き来する中を仙二郎と宮部が連れ立って歩い
    ている。そこへ源次が通りかかる。立ち止まって、
   仙二郎「おう、源次じゃねえか。元気そうで何よりだ」
   源次  「こりゃ、板谷の旦那。お久しぶりで」
   仙二郎(OUT)「こいつぁ、寄せ場で人足頭をやってるとか云ってたな。
            こりゃ、丁度いいや…」
   宮部  「板谷さん、お知り合い?(ジロッと源次を見て)私、先に行きま
        すから…」
    気を利かした積もりの宮部、歩き出す。
   仙二郎「すいませんなあ、宮部さん。すぐ追いつきますから…」
    と、仙二郎、宮部の後ろ姿に一応は声を掛ける(今まで、すぐの例
    [ためし]がない)。
   仙二郎「ちょいと訊きてぇことがある。立ち話もなんだ。そこの団子屋
        で話をしようか」
    仙二郎、源次を連れ、近くの団子屋へ。
18. 街通りに面した団子屋・昼
    店の軒(のき)に出された床机に座る二人。仙二郎、店女に団子を二
    皿、注文。お茶を淹れた茶碗と団子を盆に乗せ、すぐ運んでくる店
    女。仙二郎、早々と一串を頬張りながら、
   仙二郎「お前(めえ)が通ってる寄せ場のことなんだがな。何か小耳に
        挟んだこたぁねえか? なけりゃ、いいんだがな…(串を置き、   
        茶を啜りながら)」
   源次 「へぇ…。それが一つ、あることはあるんですがね、云っていい
        もんかどうか…」
   仙二郎「はきつかねえ野郎だな。てめえも江戸っ子の端っくれだろう
        が、云っちまいな、さっぱりするぜ(串団子を再び頬張り)」
   源次  「あっしが云ったなんて、云わねえで下さいよ」
   仙二郎「分かった(茶を飲みながら)」
   源次  「実は、寄場奉行の門倉様が公金を横領してるって話なんで」      
   仙二郎「なにぃ! それは誰から聞いたんだ?」
   源次  「寄場同心の山村さんなんですがね」
   仙二郎「それが本当だとすると、偉(えれ)ぇ大ごとだぞ、源次」
   源次  「へぇ、そうなんで。あっしも分かってやす。山村さんから口止   
        めされたくらいですんで…」
   仙二郎「そうか…、手間を取らせたな」
    と云って、一朱銀を一枚、置いて立つ。
   源次  「こんなに…」
   仙二郎「いいんだ。釣銭は取っときな。話し賃だ」
    早足で歩き始める仙二郎。源次、床机から立ち、仙二郎の後ろ姿
    に、 
   源次  「すまねえこって…。なんぞぁったら、また訊いて下さいやし」
    と、声を投げる。後ろ姿のまま頷く仙二郎、早足で宮部を追う。

|

2012年1月17日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(4)

    影車      水本爽涼
   
第五回 強欲一味(4)

11.  井吹村重の屋敷(天井裏)・夜
     一部始終を天井裏に潜んで聴いていた、お蔦、
    お蔦  「はは~ん…、これが十手の上役かい(微笑み)。この御機
         嫌取りに使われてんだね(呟くように)」
12. 人足寄せ場(収容所)・昼
     仕置きが済み引取人がない者や無宿者が職業指導を受けてい
     る。その中に、以前、仙二郎が世話した源次もいる。役人の指示
     に従い、それを影で補助する人足頭として目を光らせる。三年の   
     年季が明けた男を目の前にして、
   源次  「お前(めえ)は道普請に行きな。小普請方のお役人に迷惑
         かけちゃなんねえぞ! じゃあ、行きな」
     と、一端の役人づらで指示する源次。慣れた口調。そこへ、下役
     人の山村が現れる。
   山村  「もう三年か…。あいつも、なんぞの腕がありゃ、道普請なん   
        ぞ、せずともいいものを…。それにしても源次、隔日だが、
        お前が来てくれて助かる」
   源次  「それはいいんですがね、旦那。女遊びも大概にして下さい
        やしよ。上役に見つかりゃ…」
   山村  「ははは…(笑って)、それを申すな。分かっておるわ。その節
        は頼むぞ」
   源次  「まあ、それなりのものを貰ってやすから、あっしはいいんで
        すがね。…ただひとつ、気掛かりなのは…(口籠もって)」
   山村  「なんだ?」
   源次  「今の人足も含んでのこってすがね。確か…以前は、年季
         明けにゃ、幾らか貰えたんじゃなかったですかね? あっ
        しは貰いやしたよ」
   山村  「そのことよ…。(声を小さくして)表立っては云えんがな。奉
         行の門倉様の懐(ふところ)へ、その金がズッポリ転がり
        込むそうよ(耳打ちして)」
   源次  「え~! (声を低くして)とんだワルじゃありやせんか」
   山村  「お前と拙者だけの話だからな。他言無用!(小声で)」
   源次  「分かってやすよ(辺りを見回して)」
13. 同 (収容所・天井裏)・昼
    その話を天井裏に潜む、お蔦が聴いている。
   お蔦 「なるほどね…。最後は聴きとれなかったが、…少し見えたよ」   
    ポツリと呟き、瞬時に闇へと消える、お蔦。
14. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(内)・夜
    門倉が盃の酒を啜る。材木問屋、越前屋の主人、矢兵衛が来てい   
    る。     
   矢兵衛「お蔭様で、商売敵の島野屋がなくなり、これで当分は、儲け
        させて戴けます」
   門倉  「そう度々(たびたび)、火付けなどという物騒なことは出来ぬ
         ぞ。火盗改めが五月蝿いでのう(杯を干し)。だが、欲をいえ
         ば、もう少し欲しいのも確かじゃ…(嗤って)」
   矢兵衛「はい、それはもう…。やがて材木相場も高くなりましょう程に」   
   門倉  「フフフ…(嗤って)悪い奴よ」
   矢兵衛「お互い様で…」
    矢兵衛、金子(きんす)の入った木箱(熨斗紙付)を差し出す。慣れた
    手つきで引き寄せる門倉。二人、顔を見合わせ、大嗤いする。

|

2012年1月16日 (月)

時代劇シナリオ 影車 第五回 強欲一味(3)

     影車      水本爽涼  
       第五回 強欲一味(3)

7. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(内)・夜
    門倉が刃に打ち粉をして、刀の手入れをしている。握った柄を上に
    立て、口には懐紙を含む。刃を拭った後、上下に見回して刀を鞘内
    へと納める、そこへ戻ってきた黒装束の家来、三人。覆面を外すと
    座って、
   家来①「申されたとおり、島野屋に火を放って御座居ます」
   門倉  「さようか…、ご苦労であったな。下がって休むがよい」
    家来達、門倉に一礼すると、立ち上がって下がる。
   門倉  「これで、筋書き通り、コトが運んできおった(嗤って)」
8. 江戸の街屋根(連なる瓦屋根)・夜
    瓦屋根越しに、空の一角が赤橙色に染まる。遠くで鳴る半鐘の音
    S.E。S.E=ジャンジャンジャ~ン…、という高音域の鐘の音。
9. 江戸の街(商家が連なる道筋)・夜
    燃える島野屋。逃げ惑う店の者達。町火消しが動いて類焼を食い
    止めながら消火作業をする。人々で、ごった返す現場。少し離れ
    た辻蔭から様子を窺う、お蔦。
   お蔦  「この前は火を付けなかったんだけどねぇ。やろうと思や、
        あのとき、できたんだろうが…。何かありそうだよ」
    と呟いて、闇へと瞬時に消え去る。
10. 火付盗賊改方頭・井吹村重の屋敷(内)・夜
    人目を忍んで村田が来ている。座敷で応対する井吹。
   村田  「実のところ、与力の赤居様には黙って寄せて戴いた、という
        ようなことで…。当方と火盗改方は犬猿の仲で御座居ます
        からなあ…(笑って)」
   井吹 「して、どのような御用件で?」
   村田  「いや、それがですなあ…。ははは…、(笑って)続いております
        付け火による火事騒ぎ、いや、これは飽く迄も、それがしの推
        測なのですが…、うちの宮部が申すには、合同の探索を御
        願いしたいとか申された由(よし)」
   井吹  「ああ…宮部殿ですか。旧来の友でしてな、面白いお方じゃ」
   村田  「えっ?! 井吹様が、あの陰間と?」
   井吹  「いえ、単なる食通仲間とでも云いますか、まあ…そのような
        軽い付き合いでしてな…(笑って)」
    村田も釣り込まれて笑う。井吹、真顔に戻り、
   井吹  「我が差配の者の話によれば、この一件、単なる賊の付け火
        ではないようで…」
   村田  「と、云いますと?」
   井吹  「それは、まだ定かではありませぬゆえ、しかとは申せませぬ
        が…」
   村田  「そうで御座居ましたか。なにぶんにも、こちらは全く手掛かり
        が有りませんので…(恐縮し)」
   井吹  「なんぞ分かりましたら、内々にお知らせ致しましょう」
   村田  「それは助かります。但し、このお話、私のみに、ということで、
        御内聞に」
   井吹  「(笑って)分かり申した」
   村田  「しからば、これにて御免。夜分、ご造作をおかけ致し、申し訳
        御座居ませぬ。今宵も、半鐘が鳴っております…。また、どこ
        ぞで付け火ですかな?」
    と云って立つ、村田。
   井吹  「そうかも知れませぬなあ…」
    同調する井吹。

|

2012年1月15日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(2)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(2)


4. 北町奉行所(同心部屋)・昼
    全員が机に向かい、執務している。そこへ同心頭の村田が入ってく   
    る。ツカツカと歩き、仙二郎の前まで来て、
   村田  「おいっ、板谷! 探索の報告が遅れておるが、どうなっとる」      
    頭越しの大声に、どぎまぎする仙二郎。
   仙二郎「はぁ…、宮部さんと連日、調べちゃいるんですが(恐縮し)」
   村田  「調べとるのは分かっておる。奉行所とは、そういう仕事場だ」      
    部屋内が、いつもの笑声で溢れる。宮部は机に固まって小さくなって      
    いる。
   村田  「もう、ひと月だぞ…」
    宮部、意を決して村田を見上げ、
   宮部  「伊吹様から、単なる物盗りの仕業とは思えぬゆえ、探索を合   
        同で御願いしたいとのことで御座居ました(恐ごわ)」
   村田  「そうか…。火盗改めが出張るとなると、こりゃ、お前達には手
        が負えんな。まあいい…。伊吹様から直接、聞くとしよう」
    村田、歩いて遠退く。その後ろ姿に、仙二郎、宮部、軽く頭を下げ、ホ
    ッと安堵する。
5. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦、橋の中ほどで話をしている。仙二   
    郎、いつもの、お決まりの欄干に凭れて、
   仙二郎「表稼業で、こうも苦労するとは思わなかったぜ」
   お蔦  「はは…、運が悪かったねぇ、そりゃあ。表稼業までは手助け   
        できないが、どうもその話、裏と繋がってるようだよ…」
   仙二郎「そりゃどういう意味だ? お蔦」
   お蔦  「なにね。この前、お見かけしたワルどもの動きからの当て推
        量(ずいりょう)さね(小笑して)」
   仙二郎「ほう…。まあ、なんぞあったら、知らせてくれ(財布を取り出し、
        一朱銀を二枚、手渡し)」
   お蔦  「(金を受け取り)あいよっ。裏と結びつきゃ、知らせるよ、いつ   
        までに、とは云わないよ。それでいいかい?」
   仙二郎「そうだなぁ…。急ぎゃしねえが、ワルが、のさばらないうちに
        頼まぁ」
   お蔦  「ああ…。じゃあ、行くよ」
    と云って、お蔦、瞽女(ごぜ)に戻り目を閉じ、下目遣いに杖で道を   
    辿って歩き出す。仙二郎も反対側へと去る。  
6. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(外景)・夜
    門構えの外景。三人の黒装束、黒覆面の侍達が駆け戻る。辺りの
    様子を窺った後、小さな通用口から屋敷内へ素早く入る。遠目で、   
    その光景を見遣る、お蔦。
   お蔦  「この前は、この辺りで見逃しちまったが、やはり、ここかい。寄
        場奉行の屋敷か…。こりゃ、根が深そうだね」
    云い終わるが早いか、お蔦、、闇と同化して消え去る。

|

2012年1月14日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(1)

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(1)


   あらすじ

 影車と称する贋の盗賊一味が出没した。悪辣(あくらつ)極まりない、その      
 所業に、町衆の影車に対する風評も俄かに悪くなる。束ね元締めの仙
 
二郎にとっては、気分のよい訳がない。お蔦に探りを入れさせると、あ
 る事実が浮かび上がってゆく。こともあろうに、その正体は、寄場奉行、
 門倉内膳の手の者達であった。火付盗賊改め方を差配する井吹村重
 の影の力となり、公儀が果たせぬ悪退治に仙二郎達、影車の面々が
 尽力するという、このシリーズでは異色となる一編である。

   登場人物

 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)
 

1. 仙二郎の住居(同心長屋)・夕暮れ時
    
タイトルバック
    
珍しく早く帰ってきた仙二郎、かなり疲れているのか、雪駄を脱いで
    上がるなり両刀を腰から抜くと、万年床の上へ大の字になる。そこ   
    へ芳婆が、佃煮の小鉢を片手に、戸口を開けて入ってくる。
   芳婆  「仙さん…そんな格好で寝ちまったら風邪ひくよ。これ、残りも   
        んだけど、よかったら食べとくれ(笑って)」

    
小鉢を棚へ置き、帰ろうとする芳婆。
   仙二郎「(半身を起こし、欠伸をしながら)婆さん、いつも世話になるば
        っかしだな。あり難(がと)よ…」
    入口を出ようとする芳婆の背に、ひと声かける仙二郎、夕陽が縁側
    から射し込んで、眩しそうに目を擦る。
   仙二郎「城中じゃ鯛の尾頭付き、俺は佃煮か…。(起きつつ棚の小鉢
        を覗き込み)生活の格差だなぁ。お上も、もう少し考えて貰い   
        てぇ
や…(カメラ目線で)」
    と、ぼやいて寝床へ戻る仙二郎。
   仙二郎「宮部さんとの探りじゃ、さっぱり埒(らち)があかねぇや。…そ
        れにしてもよ…影車の贋物とは(小笑いして)俺達も一端(い
        っぱし)になったぜ(また大の字になり)」
    と、ブツブツ呟くと、すぐに高鼾(いびき)をかく。晩春の一日が暮れ   
    ようとしている。
2. 江戸の街(商家が連なる道筋)・夜
    三更(子の刻)が過ぎようとする深夜。静まり返った街並みに走る黒      
    装束、黒覆面の三人。時折り、犬の遠吠えS.E。島野屋と書かれた
    看板前で止まる三人、顔を見合わせて頷くと、三手に分かれる。月
    夜。
S.E=ウォーワンワンというような犬の高い鳴き声。

3. 同 (商家の屋根)・夜
    お蔦、屋根瓦の上から下を俯瞰し、三人の動きを見遣る。
   お蔦  「ワルどもが動き始めたようだね」
    と、意味深長な言葉を呟き、瞬時に闇へと消え去る。カメラ、街並
    みの屋根瓦と上空の月をロングに引く。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南も
       
ワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
    タイトル、テーマ音楽など。


             流れ唄 影車(挿入歌)

          水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲    

             なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
              健気に 生きてる 幼(おさな)星…
               汚れ騙され 死ねずに生きる
                 悲しい女の 流れ唄

               酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
               いつか倖せ 信じてすがる
                 寂しい女の 流れ唄



              あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
               辛い宿命を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄

|

2012年1月13日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(12)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(12)


52.  江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    漸(ようや)く人込みから逃れた二人の姿。
53.  立て札
    立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手筈   
    を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
   N  「手筈を愛けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
54.  江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    仙二郎達の歩いて遠退く姿。
    テーマ音楽。
55.  エンド・ロール
    F.O
 
   T「第四回 世乱し旗本  完」

                       第四回 世乱し旗本 完 
  


                 
流れ唄  影車(挿入歌)


             水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲


              なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
            健気(けなげ)に 生きてる 幼(おさな)星…
               汚れ騙され 死なずに生きる
                  悲しい女の 流れ唄

                 酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
             いつか倖(しあわ)せ 信じてすがる
                 寂しい女の 流れ唄

                あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
             辛い宿命(さだめ)を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄

|

2012年1月12日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(11)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(11)


49.  同 (別棟の座敷)・夜
    
(テーマ曲のオケ3 イン)
    戻らない三人に業を煮やす疾風介。
   疾風介「いったい何をしておる! そちも行け!」
    と、若侍①に命じる。若侍①が襖を開け、廊下へ出ようとしたその   
    時、仙二郎の大刀が襖越しに若侍①の腹を突き刺して抉(えぐ)る。
    (ブシュブシュっという音S.E) 若侍①、悶えて崩れ落ちる。
   疾風介「おのれ! 何やつ」
    と云い、刀を取ると立つ。襖越しに、
   仙二郎「名乗るほどの者(もん)じゃねえ…」
    と小さく呟いて襖を開けると、脇差しを素早く抜き、疾風介めがけて      
    投げつける。疾風介の心臓に突き刺さる脇差し(ブシュっと刺さる
    音S.E)。呻いて膝を落とす疾風介。仙二郎、疾風介に近づき、刺さ
    った脇差しで心臓を抉る。(ブシュブシュっという音S.E)
    S.E=豚、牛などの肉塊をナイフ等で切り裂く音。
   仙二郎「世の怨みを晴らす、つまらねえ野郎さ…、地獄へ落ちやが
        れ」      
    疾風介、仙二郎が脇差しを抜くと料理膳の上へ頭から崩れ落ちる。         
    仙次郎、懐紙で脇差しを拭い、鞘へ納める。そこに伝助が顔を出す。
   仙二郎「ご苦労だが、頼んだぜ…」
    と、脇差しを納める仙二郎。伝助、黙ったまま頷き、死体を引き摺る。   
50.  同 (別棟の廊下)・夜
    仙二郎、廊下へ出ると、静かに闇へと消える。
    
(テーマ曲のオケ3 オフ)
51.  刀商、播磨屋(店前)・朝
    店前に晒された白鞘組の五人。無惨な死体。多くの町人達の野次   
    馬で、ごった返している。そこへ、仙二郎、宮部が現れる。下役人
    は、まだ来ていない。町人達を掻き分けながら、
   仙二郎「すまねぇな、ちょいと開けてくれ。おっとっと…(押されて)」
    仙二郎、宮部を従えて前へと進む。漸(ようや)く前へ出て、
   宮部  「わぁ~、見たくないわ…ウッ!」
    と、思わず口を押さえて吐きかけ、仙二郎の後ろへ隠れる。
   仙二郎「宮部さん、いい加減にして下さいよ。世間が見てるんですよ、   
        情けない…」
   宮部  「そんなこと云ったって…」
    仙二郎、ふと、立て札の前を見る。二人の町人が話をしている。
   町人A「気分がスカッとしてぇ。こいつら、無茶やらかしたからなあ」
   町人B「そうだな…。殺された播磨屋さんも、これで浮かばれるだろ
        うぜ」
   町人A「手込めにされ、殺された娘もな」
   町人B「そうだったな。(声を小さくして)お役人がもうちっと、しっかり
        してくれりゃあよう…」
   町人A「違(ちげ)ぇねえ(含み笑いして)」
    笑った町人Aと仙二郎の目が、偶然、合う。
   仙二郎「おい、そこのお前(めぇ)達、今、なんか云ったか?」
   町人A「いえー、別に…」
    町人Bは、もう人込みへと消えている。慌てて町人Aも後ろへ去る。   
    仙二郎、宮部の袖を引き、
   仙二郎「私らも消えましょう、宮部さん。役人が来る前に…」
   宮部  「その云い方も怪(おか)しいんだけど…。私達、役人なんだ
        から…。でも、そうしましょうか?」
    二人、話が合って、遁ズラを決め込む。

|

2012年1月11日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(10)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(10)


39.  同 (別棟の廊下)・夜
    (テーマ曲のオケ1 イン)
    若侍④、別棟の廊下をフラフラと厠(かわや)へと歩く。
40.  同 (別棟の厠)・夜
    厠へ入り、気持ちよく小便をする若侍④。真上の天井板が音もなく
    スゥーっと開き、鉄製の大丼鉢と両腕が現れる。大丼鉢、若侍④め
    がけて垂直に落下。(鐘の音S.E) 呻く若侍④。頭へスッポリと被      
    った大丼鉢。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン) 若侍④、被っ
    たまま崩れ落ちる。
    (テーマ曲のオケ1 オフ)
41.  頭部のX線撮影された映像 C.I
    シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像。
    C.O
42.  病院の診察室・現代
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いている。
    医師、シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像を見
    る。カメラ目線で、
   医師  「前回と同じく、頭蓋骨陥没骨折による即死です(笑って)。お   
        気の毒ですが…」
43.  山野頼忠の屋敷(別棟の奥座敷)・夜
    (ふたたび、テーマ曲のオケ1 イン)
   疾風介「戻ってこぬな? 誰か見て参れ。酔い潰れおったか(笑っ
        て)」
    若侍②、フラついて立ち、座敷を出る。
44.  同 (別棟の廊下)・夜
    若侍②、フラつきながら、
   若侍②「いったい、なにをしておる…」
    と、不平を云って厠前まで来る。その時、天井から舞い降りた、お
    蔦、有無を云わさず、早業の居合い斬りで若侍②の首筋を斬る。
    頚動脈から吹き出る血しぶき。若侍②、刀の柄(つか)に手をかけ
    たまま倒れて絶命。お蔦、瞬時に天井へと飛び、消える。
    (テーマ曲のオケ1 オフ)
45.  同 (別棟の奥座敷)・夜
   疾風介「二人とも戻って来ぬではないか。…怪(おか)しい。そちが
        見て参れ」
    と、若侍③を指名する。若侍③、襖を開けると廊下へ出る。
46.  同 (別棟の廊下)・夜
    廊下を歩む若侍③。
47.  同 (別棟の部屋)・夜
    (テーマ曲のオケ2 イン)
    留蔵が携帯用の鞴(ふいご)を手で押して準備する。真っ赤に焼
    けた鉄の鉈(なた)の刃が闇に映える。無言で頷き確認すると、
    それを手に障子をスゥーっと開ける留蔵。
48.  同 (別棟の廊下)・夜
    留蔵、若侍③の背後に忍び寄ると、口を手で封じ、両眼へ鉈の
    刃を押し当てる。(焼入れの音ジュ~ S.E) 呻く若侍③。(焼け
    爛れた両眼)なおも、その灼熱の鉈で頚動脈(首筋)を掻っ斬る。
    派手に吹き散る血しぶき。若侍③、何も出来ないまま廊下へと
    崩れ落ちる。留蔵、絶命を見届けると、闇へと消える。
    (テーマ曲のオケ2 オフ)

|

2012年1月10日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(9)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(9)


34.  同 (細い路地の物蔭)・夜
    白鞘組の動きを尾行していた仙二郎。
   仙二郎「本性、見たぜ…。お蔦が云う通りだ。こりゃ急がねえとな…」
    手筈の決意をした仙二郎、そう呟くと、物蔭より闇へと消える。
35.  河堀(橋の上)・夕暮れ時
   柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が話をしている。
   仙二郎「お前(めえ)が云った通りだぜ。奴ら、とんでもねえ喰わせ
        者だ。よし、皆を集めてくれ。明日の宵五ツ、いつもの
        小屋で待つ…」
    と云うと、足早やに橋上から去る。お蔦も、その姿を見遣った後、
    瞽女(ごぜ)に戻り、杖をついて立ち去る。
36.  河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    仙二郎を筆頭に、留蔵、又吉、伝助、お蔦といった面々が一堂
    に会する。
   仙二郎「多くは云うめえ…。目指す的(まと)は、白鞘のみ。手筈は
        さっき云った通りだ。だが、今回は盗れる金ズルがねえ。
        引き受け料は俺の自腹の一分ずつで勘弁して貰いてぇ」
   お蔦  「それでも一両だよ? 急に、よくそんな金が出来たねえ」
   仙二郎「云ってやがる(笑って)。こういうこともあるに違(ちげ)ぇね
        えと、手筈の一部は貯えてあるのよ」
   又吉  「両替商でも食えるぜ、十手」
   仙二郎「お前(めえ)も云うなあ(笑って)」
   留蔵  「よしっ、分かった、引き受けよう。干物と酒が買えりゃ、俺
        は、いい」
   仙二郎「他の者(もん)は、どうだ?」
    誰も語らず、静寂が辺りを覆う。川の夜風が流れ、土間に土を盛
    って立てられた蝋燭の炎が微かに揺れる。
   仙二郎「決まりだな! いつものように金は後払い、皆、頼んだぜ」
    一同、黙したまま頷く。伝助、蝋燭を吹き消す。暗黒の闇。
37.  山倉頼忠の屋敷(外)・夜
    門構えの豪壮な佇まいの外景。
38.  同 (別棟の奥座敷)・夜
    疾風介が白鞘組の仲間と酒を飲んでいる。全員、かなり酩酊し
    ている。
   若侍①「父上が腰物奉行であらせられる以上、いつまでも無役と
        いうことも、ありますまい…(慰めて)」
   疾風介「ふん! 兄者(あにじゃ)が二人もおるのだぞ。そち達と
        変わらぬわ。ずっと部屋住みのままよ」
    と、将来への鬱憤を吐き捨てる疾風介。若侍④、フラついて立
    ち、
   若侍④「暫し、中座を仕(つかまつ)る」
    と云うと、部屋の襖を開け、厠(かわや)へと向かう。

|

2012年1月 9日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(8)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(8)


30.  刀商、播磨屋(天井裏→瓦屋根)・夜
    白鞘組の一部始終を見ていた、お蔦。天井裏から瓦屋根へと出
    て、  
   お蔦  「ここまで、やるかい。悪い餓鬼どもだよ…」
    と云い捨てて、瞬時に闇へと消える。
31.  茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    門付けを済ませた、お蔦。遠くから近づく仙二郎。
   仙二郎「行くぜ…」
    歩き出した仙二郎に続き、少し離れて杖を頼りに歩く、お蔦。
32.  河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。橋の中ほどにやって来た仙二郎。少し遅れて、
    お蔦が来る。仙二郎、欄干に凭れて、
   仙二郎「まあ、あらましゃ分かるがな」
   お蔦  「播磨屋を、やっちまったよ、奴ら。…それに娘もね」
   仙二郎「娘?」
   お蔦  「ああ…、お前さんが頼む少し前だったよ。矢場を通り掛かっ
        った娘をね。女の私からは云えないようなことをした挙句さ
        
…」   
   仙二郎「手筈するか…。いや、少し考えさせてくれ。近いうちに俺の   
        方から知らせる」
   お蔦  「出来るだけ早く頼むよ。これ以上、泣く顔は見たかぁない  
        からね(笠を上げ、仙二郎を見て)」
   仙二郎「ああ…、そうする」
    と云って、橋を立ち去る仙二郎。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻り、杖をつ
    いて反対側へと去る。
33.  江戸の街通り(細い路地)・夜
    新月の闇夜。白鞘組の面々が塀の影に潜んでいる。
   疾風介「播磨屋から、せしめた二(ふた)振り、今宵こそ斬れ味が楽し
        めそうじゃ(小声で)」
   若侍③「御意! 鞘は白漆に細工し申したゆえ、後(あと)は刃(やい
        ば)の出来ばえを見るのみですな(小声で)」
   疾風介「そうよ、楽しみじゃのう。もう一(ひと)振りは、そちが試すが
        よかろう(小声で)」
    と、若侍③に云い、若侍④に、
   疾風介「その刀を貸せい」
    と云う。若侍④、腰から、せしめた新刀を外し、疾風介の眼前へ両
    手で差し出す。疾風介、その刀の柄(つか)を取り、そのまま刀を
    引き抜く。辺りの静寂。夜の闇。犬の遠吠えS.E。じっと佇んで待
    つ五人。暫くして、人の気配がする。
    S.E=声高な鳴き声(ウォー、ワンワン)
   疾風介「誰か来おったぞ…。よし!」
    と、飛び出す機会を窺う疾風介。一人の町人が辻を曲がり、疾風
    介の方へ近づく。突然、躍り出た疾風介、抜いていた刃で一刀の
    もとに斬り捨てる。絶叫して地へ倒れる町人。燃える手提灯。
   疾風介「なかなかの斬れ味じゃ」
    と小嗤いする。他の若侍達も現れ、讃える。白鞘組の五人の姿が、
    燃える手提灯の炎に浮かび、揺れる。

|

2012年1月 8日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(7)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(7

27.  場末の廃屋(外)・夜
    娘の絶叫が途絶える。疾風介が戸口から身嗜(だしな)みを整えな
    がら出てくる。
   疾風介「そち達も楽しむがよい。最後の者、始末しておけ」
    と、素っ気なく云い捨てて、足早やに立ち去る。
28.  河堀(橋の上)・夕刻
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が、いつものように話をする。仙二
    郎、定位置の欄干に凭れている。
   お蔦  「また探りかい?」
   仙二郎「そういうこった。…云わねえでも大方は分かるだろうが…」
   お蔦  「ああ…、白鞘の悪さだね?」
   仙二郎「そうよ。今の所(とこ)、手筈にゃ、もうひと押しってことだ」
   お蔦  「分かったよ。門付けの茶屋で三日後の今時分。…で、いい
        ね?」      
   仙二郎「宜しく頼まぁ。お前(めえ)しか出来ねぇからな(財布を取り出
        しながら)」
    と云って、一朱銀、二枚を手渡す。お蔦、受けとると瞽女(ごぜ)に戻
    り、杖をついて去る。仙二郎、その姿を見遣った後、反対側へと立ち
    去る。
29.  刀商、播磨屋(店内)・夜
    白鞘組の五人が来ている。疾風介と話す主人の吾兵衛。四人は立
    ち、疾風介は座布団に座り、吾兵衛に対している。
   吾兵衛「お約束の金子(きんす)で御座居ます」
    床に置いた袱紗(ふくさ)を解く吾兵衛。現れた二十五両包金が八ヶ
    (二百両)。
   疾風介「ほぉ~、偉く素直じゃのう? この倍の方がよかったか?」
   吾兵衛「何をおっしゃいます。これが、ご用立て出来る精一杯で…」
   疾風介「そうか? そうは思えんがのう、…まあよい。おいっ!」
    と、若侍①と②を見遣る。若侍①と②、それぞれ百両ずつ、金子を
    懐(ふところ)へ入れる。
   疾風介「お前達、刃こぼれした、とか申しておったのう(嗤って)」
    と、今度は若侍③と④を見遣る疾風介、
   疾風介「おう、ここに、ほどよい差し料が二(ふた)振りあるわ。これは
        よい…」
    立つと、飾ってある刀を手に取って抜く。刀の刃を立て、鋭い視線
    で見分する疾風介。
   吾兵衛「そ、それは困りまする…」
   疾風介「備前長船か…。これは名刀じゃ。して、こちらは…」
    と鞘へ納め、また別の一(ひと)振りを手にして抜く。
   疾風介「…胴太貫政國じゃのう。これも優れもの…(鞘に納めて)おい   
        っ!」
    若侍③と④を見遣る疾風介。若侍③と④、それぞれ一(ひと)振りを
    疾風介から受け取る。
   吾兵衛「何をなされまする!」
   疾風介「『何をなされまする』じゃと? 知れたこと、貰って帰るのよ」
   吾兵衛「そればかりは、ご勘弁を…。その刀は、さるお屋敷に明朝、
        お納めする品で御座居ます」
    疾風介に縋りついて懇願する吾兵衛。
   疾風介「ええいっ離せ! …無礼者!」
    頭へ血が昇った疾風介、刀を抜くと吾兵衛を斬り捨てる。血しぶき   
    とともに、呻いて倒れる吾兵衛。少し狼狽する疾風介、刀を鞘へ
    納めると、
   疾風介「おい、引きあげるぞ!」
    と声高に云い、足早に店を出る。後(あと)を追って出る若侍達。傍
    にいた店の番頭、血相を変え吾兵衛を抱え起こす。
   番頭  「旦那様ぁ~!!」
    最後に店を出た若侍②、その声で店へ戻り、番頭を一刀のもとに
    斬り捨てる。他に店の者の気配がないことを確認して、ふたたび
    店を出る。

|

2012年1月 7日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(6)

    影車      水本爽涼
    
第四回 世乱し旗本(6)

21.  医者の幻斎の医療所(待合場)・昼
    息を切らして駆け込む又吉。中は町人の患者達で溢れている。
   又吉  「先生! 急患だ、診て貰いてぇ(大声で)」
    奥の診察場から幻斎が現れ、
   幻斎  「これは、又吉殿ではないか。いかがされたのじゃ?」
   又吉  「白鞘組の奴らに手首を切られた。手当てを頼みてぇ
        (町人の患者達の中を背負ったまま進み)」
   幻斎  「分かった! 見て進ぜよう。早(はよ)う奥へ!」
    と、魚屋を背負った又吉を診察場へ誘導する。
22.  同 (診察場)・昼
    幻斎、手早く診察し、更に止血の措置を加え、
   幻斎 「応急に講じた手立てが幸いしたのう。命に別状はない
        (柔和な表情で)」
   又吉  「それは、よかった。先生、恩に着やす(安堵して)」
    呻きながらも笑う魚屋。
   又吉  「それにしても、白鞘組の野郎! ひでぇことしやがる」
    口惜しがる又吉。
23.  遊興街(矢場)・夜
    白鞘組の五人、遊び興じる。疾風介、並べられた的(まと)人
    形へ軽く矢を放つ。
   店女①「当たりぃ~!」
    その声を聴き、店女②、太鼓をドン! と叩く。
   若侍④「勝てませぬな、若様には」
    煽(おだ)てられ無言で笑う疾風介、機嫌がよい。その時、店
    の暖簾の外を美形の娘が通り掛かる。外を見張る若侍③、
   若侍③「若様、手ごろな娘が…」
    その声に、思わず振り返る疾風介、弓を置き、暖簾の隙間よ
    り外を覗き見る。
   疾風介「いい女御(おなご)じゃ…」
    と云うが早いか、店外へと飛び出る疾風介。その後(あと)を
    追い従う四人。
   店女①「あのう…お代を」
   若侍②「やかましいわ!」
    最後尾の若侍②、代金を踏み倒す言動を吐いて、皆を追う。
24.  同 (街路)・夜
    疾風介、何やら小声で四人に指示をする。四人の侍、前後か
    ら娘を取り囲む。辺りの通行人、見て見ぬ振りをして行き過
    ぎる。嗤って通行を邪魔する四人。娘、迷惑顔で前へ進もうと
    するが、若侍の一人、娘の腹を拳(こぶし)で一突き。気を失い
    倒れる娘。疾風介、首で四人に合図する。四人、頷き、その中
    の一人、肩に娘を担ぐ。四人、疾風介が進む方向へ歩き始め
    る。
25.  場末の廃屋(外)・夜
    月明かり。疾風介を除く四人の若侍が見張っている。
26.  同 (内)・夜
    娘を手込めにしようと、娘の着物の帯を荒々しく解く疾風介。
    息を吹き返し、抗う娘。薄闇に縺れる二人の姿を、淡い月光
    が照らし出す。泣き叫ぶ娘。

|

2012年1月 6日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(5)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(5)

16.  蕎麦屋の屋台(内)・夜
    ゆったりと座り、杖を置く、お蔦。
   又吉  「今夜は?」
   お蔦  「そうだね…、卵でとじとくれ」
   又吉 「へいっ!」
    と、造作もなく慣れた手つきで蕎麦を笊(ざる)で湯通しして鉢へ入
    れる。続いて、刻み葱、蒲鉾の順に乗せ、最後に出汁へ卵を割り
    混ぜてとじ、鉢へ入れる。
   又吉  「お待ちっ!」
    お蔦、箸を取って食べながら、
   お蔦  「近々、手筈になるかも知れないよ(云うでなく)」
    と呟き、蕎麦を啜る。
   又吉  「ほう…誰でぇ?(影車の口調)」
   お蔦  「まだ先のことだがろうがね…。白鞘の連中さ」
   又吉  「最近、街の衆を泣かせてる白鞘組の若造達けぇ?」
   お蔦  「ああ、まあね…。今の所(とか)ぁ、お呼びがないんだが…」   
   又吉  「そうか…」
    とだけ答える又吉。その後、二人の会話は途絶える。
17.  春の夜空(月明かり)・夜
    犬の遠吠え S.E。静まり返る街並。
    S.E=声高な鳴き声(ウォー、ワンワン…)
18.  蕎麦屋の屋台(内)・夜
    お蔦、銭三十二文を置いて立つ。
   お蔦  「なんぞありゃぁ、また、つぶて投げるよ」
    そう云い捨てると屋台を出る、お蔦。
   又吉  「有り難(がと)やしたぁー!(蕎麦屋の口調に戻り)」
19.  留蔵の家の中(長屋)・昼
    汗を拭きながら鞴(ふいご)を押し、頼まれ仕事をする留蔵。真っ赤
    な炭の中から赤橙色に加熱された包丁の刃先を出すと、金槌で刃
    先を叩き始める。そこへ、同じ長屋に住む芳婆が入口の戸を開け
    て入ってくる。
   芳婆  「留さん、いつも精がでるねえ。これ、よかったら食べとくれ」
    と云って、小鉢に入れた海老大根の煮付けを棚へ置く。
   留蔵  「おっ、えれぇ馳走だ。婆さん、いつも、すまねえな」
    仕事の手を止め、礼を云う留蔵。芳婆、ニコッと笑うと、出て行く。
   留蔵  「これで、晩飯は、いけるな…」
    微笑んで呟く留蔵。ふたたび、刃先を叩き始める。
20.  江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    横一列で大手を振って歩く白鞘組の五人。除けて通る町人達。前
    から魚屋が天秤棒を担いでやってくる。前に立ち塞がり、通すまい
    とする五人。魚屋、隙間を無理に通ろうとする。嗤いながら取り囲
    み、魚桶を蹴る五人。
   若侍①「おいおい、どうしたぁ(嗤って)」
   若侍②「これでは、売る前に魚が腐るぞ(桶の蓋を屈んで取り、嗤う)」   
    若侍③、後方から魚屋を押す。よろけて地面に倒れる魚屋。弾みで、         
    魚桶が地面に引っ繰り返り、魚が飛び散る。慌てて右手で拾う魚
    屋。その右手を足で踏みつける疾風介。町人達、その様子を遠くか
    ら眺める。魚屋、地面の石を疾風介に投げる。眉間に当たり、思わ
    ず手で押さえる疾風介。手が血で濡れているのを認めた疾風介。
   疾風介「おのれぇ、こ奴!」
    と、激昂して刀を抜き、魚屋の左手首を一刀両断。吹き出す血しぶ
    き。それを見かねた町人の中から、
   町人①「お~い! お役人だぁ~!」
    叫び声を聞き、疾風介、慌てて刀を鞘へ納めると、
   疾風介「おい! 引きあげだ」
    と下知し、その場から逃げて走り出す。残った四人も、あとを追う
    ように走って逃げる。偶然、通り掛かった又吉、走り寄って手拭い
    で止血。細帯を解き、腕を固く縛り、魚屋を背負うと走り出す。

|

2012年1月 5日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(4)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(4)

14. 刀商、播磨屋(店内)・昼
    乱入した白鞘組の五人。先頭を切る若侍①、番頭に、にじり寄り、   
   若侍①「主(あるじ)は、おるか?」
    番頭、その剣幕に恐れをなし、
   番頭  「は、はい。奥におりまするが、何用で御座居ましょう?」
   疾風介「直(じか)に申す。主を呼べ」
   番頭  「た、只今、呼んで参りますので、暫しお待ちのほどを…」
   若侍①「よしっ! 早く行けぃ」
    その言葉に威圧されるように、番頭、急いで奥へと去る。暫く間
    合いを置いて、主人の吾兵衛が現れる。
   吾兵衛「主の吾兵衛で御座居ますが、どちらさまで?」
   若侍②「控えいっ! こちらは山倉頼忠(よりただ)様の若様じゃ」
   吾兵衛「山倉様? あっ、あの腰物奉行の山倉様の…、(ひれ伏し
        た後、頭を上げ)知らぬこととはいえ、とんだ粗相を…。
        (あたふたと座布団を勧め)」
   疾風介「(座って)そちの店は、漏れ聞くところによると、幕府御用
        達の刀剣商であったの?」
   吾兵衛「へぇ、さようで…。それがなにか?…」
   疾風介「実は、な。内々に金子(きんす)が入り用なのじゃ。百両、
        いや、二百両ばかし用立ててはくれぬか?(下手にでた
        柔和な態度で)」
   吾兵衛「そ、そのような…。俄かに二百両と申されましても…(言
        葉を濁して)」
   疾風介「(態度を急変させ)なにぃ!? 出せぬと申すか! ならば、
        父上に申し上げ、御用達お取り消しの下知を下して戴く
        こととなろうが、それでもよいのだな!(脅して)」
    吾兵衛、困惑して、
   吾兵衛「そればかりは何卒、御容赦を…。……分かりました。数
        日の御猶予を下さいまし」
   疾風介「融通してくれるのじゃな(顔を覗き込んで)? それを早
        (はよ)う申せ(嗤って)。後日、取りに参るゆえ、しかと頼む
        ぞ(睨んで)」
    白鞘組の五人、店内を見回した後、粗暴な態度で入口の暖簾
    を潜り、店外へと出る。
15. 江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
    仙二郎が歩いている。流し(風鈴)蕎麦屋の灯りが近づく。お蔦
    がいて、仙二郎に気づく。屋台の前から、
   お蔦  「どうだい、一杯?(目を開けて)」
   仙二郎「いや、今日はやめとかぁ。昨日(きのう)の花見で食い過
        ぎたのか、どうも、いけねえ(腹を摩[さす]り)」
   お蔦  「そんなことを云わずにさぁ」
   仙二郎「いや、やめとく。腹も身の内、って云うじゃねえか。そい
        じゃな、あばよ。又、近い内にな…」
    立ち止まって話す仙二郎。そう云うと、屋台へは入らず、歩き
    始めて去る。
   又吉  「また、ご贔屓(ひいき)に!」
    姿は見せず、声だけをかける屋台内の又吉。お蔦、去ってい
    く仙二郎を見遣った後、屋台へと入る。

|

2012年1月 4日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(3)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(3)


7. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    通行人を除けながら走る伝助。お蔦、それを遠目に(薄目を開け)   
    笠を少し上げ、眺める。
   お蔦  「伝助の奴、張り切ってるねぇ」
    と、笑顔で見遣る。
8. 満開の桜並木(土手 A)・夜
    雪洞で鮮やかに浮かび上がる桜花の下で花見の宴を催す同心
    達(十余名)。酩酊状態の者が多く、座は既に無礼講の様相。踊
    り、手拍子で興じる。仙二郎も得意の裸踊りを披露。春爛漫、花
    弁が時折り舞い落ちる。
9. 同 (土手 B)・夜
    少し離れた所に陣取り、豪華な重箱の馳走を前に盃を交わす白
    鞘組の若侍達。
   疾風介「ふん、八丁堀の同心どもか…(離れた酒宴の様子を眺め、
        盃を干しながら)」
   若侍①「若様、少し暴れてやりましょうか?(窺うように)」
   疾風介「気に食わぬが、やめておけい。後々(あとあと)、面倒じゃ。
        おい! 興が冷めた。吉原へ繰り出すぞ」
    酒を飲む若侍達から歓声が起こる。
10.  同 (土手 A)・夜
    花見の宴、益々、盛り上がっている。
   仙次郎「宮部さん、美味い酒があるから勤まっとるんですかね(少
        し酔
いぎみの口調で)」
   宮部 「ほほほ…。私はこの方ですけどね(分厚い出汁巻きを頬
        張り)」
    顔を見合わせ、笑う二人。多くの者、かなり出来上がっている。
11.  吉原遊郭(一軒の廓前・外景)・夜
    客寄せする女郎達。通り過ぎる往来の通行人。賑やかな音曲。
12.  同 (一軒の廓内・客間)・夜
    大夫を侍らせ、上機嫌の疾風介。その他の四人も、各自、格上
    女郎を侍らせる。盃を傾ける五人。そこへ廓の主(あるじ)が入る。
   主   「若様、ご座興の前に少しお話、したき儀が…(座りながら)」
   疾風介「なんじゃ、無粋な…。かまわぬ、申せ」
   主   「いえ…それは。こちらの方へ…(立って疾風介を手招きし)」   
    疾風介、五月蝿そうに立ち、フラフラと、主に従う。
13.  同 (一軒の廓内・離れ廊下)・夜
    主と疾風介が話す。
   疾風介「いったい何じゃ」
   主   「このようなことは、余り申し上げるべきことでは御座居ま
        せぬが、金子(きんす)の方が、それなりに滞っておりまし
        て…」
   疾風介「なんじゃ、そのようなことか。近々、取らすゆえ…」
   主   「いえ、その御返事も幾度(いくたび)か聞き及んでおります。
        もし若様が、ご用立て出来ぬとなれば、お屋敷の方へ参
        上することになろうかと…」
   疾風介「(血相を変え)待てぃ! いや、それだけは待ってくれ。この   
        次は、必ず支払うゆえ…」
   主  「五十両で御座居まするぞ。用立て、出来まするか?」
   疾風介「ああ…きっとじゃ。用立て致す」
    主、引いて頷く。
   主  「では、さようなことで…。今宵は、ごゆるりと、お遊び下さい
       まし(いやらしく笑って)」
    主は奥へと去る。残った疾風介、思案に暮れ、暫し佇む。

|

2012年1月 3日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(2)

    影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(2)


3. 同 (土手の道 A)・夜
    騒ぎの一部始終を遠目で眺めていた仙二郎と、お蔦。
   仙二郎「なるほど…」
   お蔦  「あの連中、なにをやらかすか…(目を開けて白鞘組を見る)」
    仙二郎、町人達が落ち着きをとり戻し、酒宴を再開したのを見届け、      
   仙二郎「また小忙しくなるなぁ…。この歳になると、おっくうになって
        いけねえや、ハハハ…(笑う)」
    と云って、道を歩きだす。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻り、杖をつき反対
    方向へ去っていく。カメラ、二人が遠退く姿を桜並木を絡め、ロン
    グに引く。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ明日は西。北も南も
        ワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
    タイトル、テーマ音楽など。
4. 長屋(細い路地)・夕暮れ時
    子供達が遊んでいる。無邪気に遊ぶ数人。又吉、屋台を担いで通
    り掛かる。(屋台に付いた風鈴がチリン! と鳴る。S.E)   
   又吉 「残りゃ、朝、食わしてやるからな」
    と、優しく子供達に話す又吉。春の夜を誘う風が舞い、風鈴がまた、
    チリン! と音を立てる S.E。子供達、遊ぶのをやめ、各自の長屋
    へと帰っていく。その姿を見遣る又吉、ふたたび屋台を担いで去る。     
    空には夕焼けが鮮やかに広がり、長屋を橙色に染める。
5. 北町奉行所(同心部屋)・昼
    同心達が執務している。仙二郎の隣席に座る宮部がチラッと村田   
    を窺ってから、視線は机に向けたまま、
   宮部  「明日の、お花見、板谷さんも行くんでしょ?(小声で)」
   仙二郎「ああ…そうでしたな。勿論、行きますよ。私がいなきゃ始ま
        らんでしょ、ハハハ…」
    運悪く、仙二郎が笑った時、視線が偶然、村田と合う。
   村田  「こらっ! 板谷、何が可笑しいんだっ。しっかり仕事しろ!」
    宮部、顔を顰(しか)めて、
   宮部  「ほんとに…要領が悪いんだから…(小声で)」
    と、顔を机に向けたまま、横目遣いで呟いて嘆く。
6. 飛脚屋(店内)・昼
    店を出る者や帰る者、待機する者で、店の中は、ごった返している。   
    その中に伝助もいる。
   番頭①「誰か、深川まで行っておくれでないかい? 早飛脚なんだ
        よ」
    手の空いた者を探して、辺りを見回す番頭①。
   伝助  「あっしが、ひとっ走りしやす」
    その声がした方向を見遣る番頭①。
   番頭①「なんだい伝助、いてくれたのかい。お前さんなら造作もな
        いだろ。そいじゃ、頼んだよ」
   伝助  「へいっ!」
    番頭①から届け先を告げられる伝助。木箱に納められた封書を   
    受けとると飛脚箱に入れ、それを担いで店を飛び出す。

|

2012年1月 2日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第四回☆世乱し旗本(1)

   影車      水本爽涼
    第四回 世乱し旗本(1)

   あらすじ

 旗本であることを嵩(かさ)にして、悪事の限りを尽くす白鞘組。末弟ゆ       
 えに無役であることの鬱憤を庶民にぶつけている。最初のうちは仙二
 郎も見て見ぬ振りをしていたが、娘を手込めにする、或いは豪商から
 大金を脅し盗る、そして挙句の果てには、それらの者を斬り殺すとい
 う凶悪事件を引き起こすに及んで、手筈することを考える。彼らが人
 の命をもて遊ぶ辻斬りの現場を見た刹那、仙二郎は遂に白鞘組を手
 筈することを決断するのだった。

   登場人物

 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定廻り 同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 満開の桜並木(土手の道 A)・夜
    
タイトルバック
    貧乏ながら、酒や持ち寄りの食物で酒宴を開く町人達。皆、浮   
    かれて騒いでいる。飾られた雪洞(ぼんぼり)の灯りが映え、時
    折り散る花びらが実に美しい。その光景を遠目で眺めながら、
    土手伝いに歩く仙二郎。
   仙二郎「ははっ、やってるな。…いいもんだぜ」
    そこへ真向かいから、お蔦が杖をつき進んでくる。
   仙二郎「よお、姐(ねえ)さんも夜桜見物かい?」
   お蔦  「なに云ってるのさ。通り掛かっただけだよ(目を開け笑う)」
   仙二郎「まあ、どうだっていいや。世の中、平和で何よりだ」
    と、ふたたび町人達の酒宴を遠目に眺める仙二郎。
   お蔦  「だといいんだけどねぇ。また物騒なことになりそうだよ」
   仙二郎「どういう意味でぇ?」
   お蔦  「ほら、あれをご覧な」
    お蔦が指さす方向に、侍達の集団が現れる。
2. 同 (土手の道 B)・夜
    白鞘組の若侍、五人が、ぞろぞろと集団となって桜並木へ近づき、
   若侍①「おっ、何やら騒いでますよ」
    と、リーダー風の山倉疾風介(はやてのすけ)に云う。
   疾風介「これは、面白くなってきたな。少し、からかってやれ」
    疾風介、両脇の若侍達に軽く指示。若侍の中の二人、町人達の   
    酒宴へと乱入し、暴れ始める。
   町人①「何、すんでぇ!」
   若侍②「町人の分際で酒宴などと、片腹、痛いわ!!(徳利や料理も
        のを蹴り倒して)」
    町人①、酔いの勢いもあり、思わず若侍②を突き倒す。激昂した
    若侍②、起き上がると、矢庭に刀を抜く。町人達、悲鳴を上げて逃   
    げ惑う。
   疾風介「おいっ、やめろ! もういい…。引き上げだ!」
    その声に若侍②、渋々、刀を鞘へ納める。ぞろぞろと去る白鞘組   
    の若侍五人。差した白鞘が淡い灯りに映える。


                
流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

|

2012年1月 1日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第三回☆生臭坊主(11)

    影車      水本爽涼
    第三回 生臭坊主(11)


50.  江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
     立て札と無惨な死体の山を見物する野次馬(町人達)。その中に混   
     じり、仙二郎、宮部もいる。
   仙二郎「今日は、役人が来てないようですが…(辺りを見回し)」
   宮部  「なに云ってるの、私達がお役人でしょ?」
   仙二郎「(苦笑して)すみません。そうでした…」
    と、首筋を掻く仙二郎。
   宮部  「でも…(顔が一瞬、蒼ざめて) あれ…、もしかすると、お目付   
        の青山様じゃないかしら?」
   仙二郎「(一笑に付して)そんな訳(わき)ゃないでしょう。悪い冗談は   
        やめて下さいよ、宮部さん(笑う)」
   宮部  「いいえ、…確かにそうよ。私、一度、チラッと見たことがある
        のよ。いつだったかしら…」
   仙二郎「ええ~っ! こりゃ駄目だ。早いとこ遁ズラしましょう、宮部
        さん。関わらない方が身の為ですよ(宮部の肩を、つつき)」
   宮部  「そうだわね…。でも凄いことやるわねぇ(横目で垣間見て)」
   仙二郎「感心してる場合じゃないです」
     と、足早やに仙二郎は、その場を離れる。後(あと)を同じように足
     早やに追う宮部。
51.  立て札
     立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手
     筈を愛けりゃ地獄へ落ちるのよぉ"の墨字。
   N  「手筈を愛けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」   
     テーマ音楽。
52.  エンド・ロール
   F.O
   T「第三回 生臭坊主  完」

                           第三回 生臭坊主 完 
        

              流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲
   

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄

             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

|

« 2011年12月 | トップページ | 2012年2月 »