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2012年2月

2012年2月29日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(8)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(8)

21. 仙二郎の住居(同心長屋・外)・夕刻
     仙二郎が勤めを終えて帰ってくる。入口で待っていた芳婆。
    芳婆  「仙さん、いつもの残りもんだけど、よかったら食べとくれ」
     と云い、小鉢を仙二郎に手渡して去る。
    仙二郎「助からあ、いつも済まねえな」
     芳婆の後ろ姿に、ひと声かける仙二郎。
22. 同 (同心長屋・内)・夕刻
     中へ入って小鉢を棚へ置くと、雪駄を脱いで畳へと上がる仙二郎。
     刀を腰から抜き、刀掛けへ置いて、大欠伸を、ひとつ打つ。そして、
     表を振り返ると、いつの間にか現れた、お蔦が微笑んで佇む。
   仙二郎「なんだ…お蔦か」
   お蔦  「『なんだ…お蔦か』とは、偉い御挨拶だね(小笑いして)」
   仙二郎「何か分かったか?」
   お蔦  「ああ…、あらまし、だがね、
   仙二郎「そうか…」
   お蔦  「奉行の堀田と配下の寺脇、美濃屋、それに与太烏の茂平っ
        て所(とこ)だねぇ」
   仙二郎「奴ら、随分、阿漕(あこぎ)な真似をしてるっていうじゃねえか」
   お蔦  「お察しの通りさ。並みのワルだがね。それよか、伝助の長屋
        が危ないから、孰(いず)れにしろ、放っとけないよ」
   仙二郎「そうだな。伝助絡みってことを忘れてたぜ。大したワルじゃね
        えが、手筈をつけるか。三日後、宵五ツ、皆を集めろい。いつも
        の小屋だ」
   お蔦 「あいよっ!」
    仙二郎が、ふたたび入口の、お蔦へ目線を投げると、お蔦の姿は既
    に消えている。
23. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    木枯らしが吹く寒い夜。仙二郎を頭目に、五人の影車の面々が一堂
    に会している。隙間風に時折り揺れる土間に立てられた蝋燭の炎。
   仙二郎「今回の手筈は、今一、盛り上がらねえが、まあ宜しく頼まぁ」
   お蔦  「堀田、美濃屋、与太烏でいいのかい?」
   仙二郎「そうだな…。堀田とその下役の寺脇、美濃屋は善兵衛だけで

        いいだろう。与太烏は悪そうな子分も含めてな…」
   留蔵  「伝助も塒(ねぐら)を壊されるとなりゃ、ずっと宿無しが続くか
        らな。人ごとじゃねえや」
   伝助  「そういうこってす…(殊勝に)」
    一同、笑う。
   仙二郎「それじゃ、手筈どおり頼んだぜ。金はいつもの後払いで、お
        蔦に届けさせる」
    伝助、仙二郎の言葉が終わるや、土間に直接、立てられた蝋燭の
    炎を吹き消す。暗黒の闇。

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2012年2月28日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(7)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(7)

16. 与太烏の茂平一家(小部屋)・夜
     長屋から拉致した町人の小娘に酌をさせる茂平。子分達は座を外
     している。
    茂平  「ふふふ…(悪どく嗤って)、美濃屋も、堀田様に目を付けると
         は、俺以上のワルだぜ…」
     と云いながら杯を干し、娘に酌を催促する。
    茂平  「(酒を飲み、娘を見て)お前(めえ)の父っつぁんは、借金が返
         (けえ)せねえんだ。悪く思うなよ」
     と、続けて云いながら、娘の肩を抱き寄せる。抗う娘。二人、縺れ
     て畳上へ倒れる。
17. 同 (別部屋の天井裏)・夜
     下では子分達が飲み騒いでいる。その様子を天井裏の節穴から
     窺う、お蔦。
   お蔦  「親分も親分なら、子分も子分だねえ…。出来が悪いったら、
        ありゃしないよ」
     そう呟いて、闇へと消え去る、お蔦。
18. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
     仙二郎、暖簾を潜ると床机へゆったりと座る。時折り、辺りに木
     枯らしが舞う肌寒い夜である。
   仙二郎「いつもの、かけだ」
   又吉  「へいっ!! 毎度!」
     慣れた手つきで蕎麦を湯通しし、笊(ザル)で掬(すく)って湯切り
     する。続けて、鉢へ入れると、出汁(だし)を注ぎ、葱などの薬味
     を入れる又吉、静かに鉢を仙二郎の前へと出す。
   又吉  「伝助の長屋が取り壊されるようだぜ(影車の声で)」
   仙二郎「そうか…。そりゃ、猶予がならねえや。お蔦の探り次第(し
        でぇ)じゃ、捨て置けねえな」
   又吉  「ふぅ~(溜息を吐き)、また修羅場を見なくっちゃ、ならねえ
        のかい…」
   仙二郎「そう云うな。俺達の持って生まれた因果よ」
   又吉  「…だったなぁ(諦念の声)」
    暫し、会話が途切れる。仙二郎が蕎麦を啜る音と、時折り吹く木
    枯らしの音だけが、静寂を僅かに破って流れる。
19. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    木枯らしが時折り、街路に土煙を舞い上げている。
20. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
    蕎麦を食い終えた仙二郎、銭十六文を置いて立ち上がる。
   仙二郎「手筈ってことになりゃ、前(めえ)に、お蔦に伝えさせる…」
    と云って、暖簾を上げて出ると歩き去る。その後ろ姿へ、
   又吉  「有り難(がと)やしたぁ!(蕎麦屋に戻って)」
    と、ひと声、投げる。

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2012年2月27日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(6)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(6)

12. 与太烏の茂平一家(内)・夜
    茂平が子分に酌をさせ、酒を飲んでいる。
   茂平  「堀田様の御云いつけ通り、明日は三軒長屋の連中を燻(い
        ぶ)り出しにかかるか…(嗤って)」
   子分①「あっしが、やりやしょう」
   茂平  「余り手荒なことは、するんじゃねえぞ(ギロッと子分を見て)」
   子分①「分かってやすよ、毎度のこってす。明日は見回る程度に…」
   茂平  「ああ…。それにしても、今度はどちらの御屋敷が建つんだ
        ろうな? 堀田様の算段は、ちっとも分かりゃしねえや」
   子分①「別にどちらの御屋敷でも、いいじゃありやせんか。親分に
        ゃ、それなりのモノが入りやさぁ」
   茂平  「(嗤って)そりゃまあ、そういうこったがなあ…」
13. 三軒長屋(外)・昼
    古びた長屋の外景。この長屋には、飛脚屋伝助の住居もある。与太
    烏一家の連中が数人、長屋へやってくる。既に算段が出来ている
    のか、幾手かに分かれると、長屋の住居へと入っていく。
14. 伝助の隣の住人(浅次)の長屋(内)・昼
    入口の戸を乱雑に開け、風来坊の浅次の家へ乱入する与太烏一
    家の子分、二人。浅次はグデンとして茶碗酒を飲んでいる。二人、
    土足で畳上へ上がる。
   浅次  「何でぇ! 人の家へ土足で上がりやがって!!(二人を見上
        げ)」
   子分①「えれぇ活気(いき)のいい、お兄(あにい)さんだぜ(小笑いし
        て)」
   子分②「そうともよ。いつまで、その威勢が続くかだがな(小笑いし
        て)」
   浅次  「どういうこってえ?」
   子分①「そのうち分からあ。引越しの算段でも、つけとくんだな(浅
        次の肩を軽く叩き)。おい、行くぞ」
    子分②へ声を掛けると、小忙しく外へ出て行く二人。戸を開け放
    ったまま、去る。
15. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    戸田采女正の籠が通行中。俄かに躍り出た一人の町人。手に
    匕首(あいくち)を握り、籠の横へと突っ走って近づく。そして、喚
    (わめ)きながら籠の中へと匕首を突き刺そうとする。警護する家
    臣①、刀を抜くと問答無用に斬り捨てる。その様子を、通行中の
    仙二郎と宮部が偶然、見ている。
   宮部  「あの紋どころは、普請奉行の堀田様ですよね?」
   仙二郎「ええ…恐らくは、そうでしょう」
   宮部  「随分、怨まれておられるようですね、あの御様子じゃ」
   仙二郎「そのようですなあ…。可哀想ですが、今、斬られた町人、
        よほど怨んでたと見えます」
   宮部  「良からぬことでも、なされておられるんでしょうか?」
   仙二郎「最近、頻繁に行われている長屋の取り潰しと関係があり
        そうですなあ…」
   宮部  「なるほど…。その辺りですか」
    二人、いつものように、見ない素振りで脇道へと逸れて、歩き去
    る。

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2012年2月26日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(5)

      影車      水本爽涼          
      第八回 不用普請(5)

9. 普請奉行・堀田采女正の屋敷・夜
    堀田が酒膳を前に盃を傾け、寛(くつろ)いでいる。
   堀田  「明日からは月番が坂崎めに替わる故、美濃屋の申した話、
        今後、ひと月は進められぬのう…。だが、根回しの時は、充
        分過ぎるほど出来た故、ちと、動くとするか」
    と嘯(うそぶ)く堀田。その時、差配の改役(あらためやく)、寺脇勘
    十郎が部屋へ入ってくる。
   寺脇  「新築者の名簿、届け出順に従い、纏めて御座居まする。明
        朝、月番の坂崎様に手渡す算段を立てておりまするが、如
        何、取り計らいましょうや?」
   堀田  「暫し待てい。引き継ぐには及ばぬ」
   寺脇  「さすれば、かねてより申されておられまする御手配をなされ
        る…ということで?」
   堀田  「そういうことよ。よって、伏せよ。坂崎に知られては拙い」
   寺脇  「ははっ!(平伏して)」
    襖を閉めて去る寺脇。一人、部屋に居て、悪どい嗤いを浮かべる
    堀田。
10. 同 (天井裏)・夜
    お蔦が天井裏に潜んで、一部始終を聴いている。
   お蔦  「なるほどねえ。いろいろ、悪事に手を染めてるようだ…。
        こりゃ、根が深そうだから、じっくり探らなくちゃねぇ…」
    と、云い捨て、闇へと消える、お蔦。
11. 湯屋(二階)・夜
    風呂上りに二階で将棋を指す宮部と仙二郎。二人、長風呂で、少
    々、顔が赤く茹っている。
   仙二郎「一番、指して、また浸かって帰る頃にゃ、丁度、お誂(あつら)

        え向きに、蕎麦屋が出てますから…」
    と云って仙二郎、玉頭へ金を叩き打つ。それを見て、宮部、ウ~ン
    と唸る。
   宮部  「これ、ちょっと待ってくれません?(盤を、じっと見た後、上目
        遣いに仙二郎を見て)」
   仙二郎「これで三度目ですよ。往生際が悪いですなあ、宮部さんは」
   宮部  「まあ! 口惜(くや)しいこと云うわねえ…。でも、私の負けっ

        
ぽいわ…」
   仙二郎「(小笑いして)そのようですな」
   宮部  「それにしても此処ん所(とこ)、工事が続きますよねぇ(桂馬
        を動かし)」
   仙二郎「そうですなあ。俄か普請の屋敷も増えましたから(盤上を見
        据え)」
   宮部  「材木問屋の美濃屋さん、かなり羽振りがいいそうです」
   仙二郎「ほぉー、そうですか…」
    と、興味なさそうに返して、
   仙二郎「桂馬の高跳び、歩の餌食!」
    と、宮部の上がった桂馬の駒前へ歩を突く。
   宮部  「あっ! …」
    すぐさま、
   仙二郎「もう待てませんよ(菓子をつまみ、茶を啜りながら)」
    と、ニタリと笑って釘を刺す。

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2012年2月25日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(4)

      影車      水本爽涼          
    第八回 不用普請(4)


7. 普請奉行・堀田采女正の屋敷(部屋)・夜
    材木問屋の美濃屋善兵衛が来訪中。堀田の横に置かれた善兵衛
    が献上した菓子鉢(中は小判の包金)。
   善兵衛「今後とも、よしなに…」
   堀田  「(横の菓子鉢の蓋を少しずらして開け、中を見遣って)分かっ
        ておる。心配致すな」
    脇息に腕を預けて小嗤いする堀田。
   善兵衛「次の普請は、どの辺りで御座居ましょうや?」
   堀田  「余り大きな声では申せぬがのう…」
    腕を脇息に預けたまま、反対側の手の扇子で手招きする堀田。堀
    田へ耳を近づける善兵衛。善兵衛に少し広げた扇子を使い、小声
    で耳打ちする堀田。
   善兵衛「なるほど…(小嗤いして)」
   堀田 「(善兵衛から離れ、姿勢を正して)だがのう、あの一帯は、長
        屋が数多くてのう…、想い通り事がなるかは分からぬぞ」
   善兵衛「へぇ、急ぎませぬ故…、その節は、よしなに」
   堀田  「いつになるか、しかとは返答できぬが、まあ、この話が潰(
        ついえ)ても、他にも話はあるでな」
   善兵衛「孰(いず)れにしろ、今後も、よしなに(頭を軽く下げ)」
   堀田  「心に留め置く(小嗤いして)」
8. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が、いつものように橋の中ほどで
    話をしている。仙二郎、欠伸をしながら欄干へと凭れ、
   仙二郎「そうか…。伝助の長屋が潰されるかも知れねえってことは、
        だ。このまま、放ってもおけめえ」
   お蔦  「まだ噂なんだがね。十手にゃ、その辺りの事情は分かんな
        いのかい?」
   仙二郎「一連の工事の大本は普請奉行だ。普請奉行は堀田采女正
        だが、どういう経緯(いきさつ)か迄は、お前(めえ)の探りがな
        きゃ、俺にも分からねえ」
   お蔦  「やはり、私の出番のようだね」
   仙二郎「そういうことだな。まあ、宜しく頼まぁ(二朱を手渡し)」
   お蔦  「(二朱を受け取り、袖へと通して)暫(しばら)く、貰うよ」
   仙二郎「ああ…。急がねえから、じっくり探ってくれ」
   お蔦  「あいよっ」
   仙二郎「ほどほどに探れりゃ、知らせてくれ。塒(ねぐら)で待つ」
   お蔦 「ああ…」
    二人、薄闇の橋を互いに反対側へと去っていく。茜色に映え、暮れ
    泥む空。烏(カラス)の鳴き声S.E。S.E=烏(カラス)の鳴き声。カァー
    カァー。

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2012年2月24日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(3)

      影車      水本爽涼
     第八回 不用普請(3)

5. 湯屋の浴槽・夕刻
    湯に浸かる仙二郎と宮部。広い浴槽には、先に入ってた数人の
    町人がいる。湯心地を堪能する二人。湯煙が立ち込める浴槽付
    近の光景。
   宮部  「普請奉行の堀田様、最近は凄い権勢だとか…(目を閉じ
        て)」
   仙二郎「そうですか…(両手で顔へ湯をビシャっと掛け)。この世の
        中、なるモノにならないと駄目なんですねぇ。私等のよう
        に、チマチマしてたんじゃ…」
   宮部 「なったら、なったで、また大変なんじゃないですか?」
   仙二郎「それも云えますが…」
    二人、黙して、湯に浸かったまま、ふたたび目を閉じ、瞑想する。
6. 伝助の住まい(長屋・内)・夜
    七輪に乗せられた鍋で、おでんが美味そうに煮えている。箸で
    つつきながら、それを惣菜に飯を口中へ掻き込む伝助。
   伝助  「急に冷えてきやがったからなあ。こういう時ゃ、鍋が一番
        でぇ」
    と呟く伝助。フゥ、フゥーと息を吹きかけて冷まし、おでんを口中
    へと納める。そこへ、お蔦が入ってくる。
   お蔦  「伝助、久しぶりだねえ。元気でやってるかい?」
    伝助、急に現れた、お蔦に驚いて手を止め、
   伝助  「やあ、姐(あね)さん。ご無沙汰しておりやす(立ち上が
        って座布団を勧め)」
   お蔦  「ちょいと訊きたいんだけどね」
   伝助  「へえ? …何で、やんしょ? (給仕盆に白湯を入れて
         出し)」
   お蔦  「お前の、この長屋、近く取り壊しになるって聞いたんだ
        が、そりゃ、本当かい?」
   伝助  「そうなんですよ、姐(あね)さん。もっとも、今の所(とこ)は、
        飽くまで噂なんですがね」
   お蔦  「そうかい。そりゃ、よかった。もう決め事なのかと心配し
        てたんだよ」
   伝助  「まだ安心は出来やせんがね。もし、立ち退きとなりゃ、
        あっしも塒(ねぐら)を探さなくちゃなりやせん」
   お蔦  「その時ゃ、私も探してやるよ(笑って)」
   伝助 「それよか、ここん所(とこ)、やたらと取り壊しが多くあり
        やせんか?」
   お蔦  「私も、それを少し気にしてんのさ。明日にでも十手に、 
       その辺りの事情を訊いてみよう、と思ってんだけどね」
   伝助  「仙さんなら、お上の御用だし、よく知ってなさるでしょう」
   お蔦  「ああ、恐らくは。私よか…」
    伝助、七輪に乗せられた鍋の具の幾つかを箸で、つつく。
   お蔦  「あっ、長居をしたね。それじゃ、また寄るよ。本当(ほんと)
        は手筈以外で会うのは御法度なんだけどさ…(ニタッと
        笑って)」
   伝助  「でも姐(あね)さん、この話は手筈になる話かも知れや
        せんよ」
   お蔦 「そうだね…(立ちながら)」
    少し笑って、お蔦、瞬時に闇へと消える。伝助、お蔦が消えた
    戸口の方を見遣った後、何事もなかったかのように、ふたたび
    食べ始める。

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2012年2月23日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(2)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用の普請(2)

2. 仙二郎の住居(同心長屋)・外・夕刻
    少し前に帰っていた宮部、入口に佇んでいる。
   仙二郎「やあ、宮部さん。どうしたんです? 何か御用で?」
   宮部 「いえね…湯屋にでも、どうかな、と思って寄ったんですよ。
        ここ数日、村田さんの命で、随分と動かされましたから…」
   仙二郎「湯屋か…いいですなあ。私も正直云うと、疲れが溜まって
        ましてねえ。少し待ってくれませんか? すぐ、支度します
        から」
   宮部  「ええ、結構ですよ」
   仙二郎「外では、なんです。まあ、中へ入って下さい」
3. 同 ・内・夕刻
    仙二郎、表戸を開けて宮部を招き入れ、その後、自分も入る。仙
    二郎、上がって羽織を脱ぎ、着替えの褌、ぬか袋を風呂敷に包む。
   仙二郎「お待たせしました。じゃあ、行きましょうか?」
    と、土間の雪駄を履く仙二郎。外へ仙二郎が出ようとした時、
   宮部  「洗濯なんかは、どうなさってるんです?」
   仙二郎「はは…(笑って)、風呂とか、適当に…」
   宮部  「そう。何でしたら、私が洗ってさし上げても、よくってよ」
   仙二郎「(苦笑して)一人暮らしですから、大した量にもなりません
        から…(それとなく断って)、また、お願いしたときは頼みま
        す…」
    上手く、あしらった仙二郎。二人、湯屋への道を急ぐ。
4. 湯屋の入口(内)・夕刻
    暖簾を潜って湯屋へ入る仙二郎と宮部。それぞれ八文の湯銭を
    番台の女に払うと、入る。脱衣場で着物の帯を緩め、
   宮部  「最近、取り壊される長屋が多いでしょ?」
    と、恥しげに脱ぐ宮部。
   仙二郎「そういや、そうですねえ…」
   宮部  「それもね。必要ならいいんですよ。でも、この前できた建
        物だって、余り利用されてないでしょ? 最初の内だけで
        した。今じゃ、蜘蛛の巣だらけ…」
   仙二郎「確かに…そうですなあ」
    二人、褌を解くと、ぬか袋と手拭いを持ち、浴槽へと歩き出す。

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2012年2月22日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(1)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(1)

  
あらすじ
 普請奉行・堀田采女正(うねめのしょう)が権威を嵩にきて、その横暴ぶ
 りを増していた。街並みを整備するという大名目の下に、繰り返される
 土木工事により、伝助の長屋も取り壊されるという噂がたつ。それを契
 機として、仙二郎達、影車が動く。庶民の生活を顧みない不用工事の裏
 で、暴利を貪る堀田や材木問屋・美濃屋善兵衛、与太烏(よたがらす)の
 茂平達の悪事の数々。遂に仙二郎を頭目とする影車の鉄槌が下される。

   登場人物

 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 江戸の街通り(一筋の広い道)・夕刻
    タイトルバック
    日没が早まっている。木枯らしが時折り吹くS.E。肌寒い晩秋の夕
    暮れ時。仙二郎、勤めの帰りで、家路を急ぐ。昼間に比べ、めっきり
    減った人の往来。S.E=ヒューヒューと吹く木枯らしの音。
   仙二郎「夏も夏だが、冬も冬だなぁ。おお、冬が近(ちけ)ぇ…冷えて
        きやがった」
    分かりきった愚痴を吐き、両手を懐(ふところ)へ入れる仙二郎。
    向かいから近づく蕎麦屋の屋台、いつもの決め場で止まる。店の
    準備を始める又吉。
   仙二郎「すぐには食えねえだろうな?」
   又吉  「(笑って)それは、ちょいと…。四半時も待って貰えりゃ、
        出せますがね」
   仙二郎「(笑って)はは…、そんなにゃ待てねえな。また来らあ…」
    屋台を通り過ぎる仙二郎。後方から小さく声を掛け、
   又吉  「(影車の口調で)久しぶりの手筈か?」
    仙二郎、振り返らずそのまま歩き続け、
   仙二郎「冗談じゃねえ。くわばら、くわばら」
    と、愚痴る仙二郎。仙次郎の遠ざかる後ろ姿。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南
        もワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します
       
…」
    タイトル、テーマ音楽など。


               流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲


            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄

             
酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年2月21日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(14)

   影車      水本爽涼
     第七回 命賭け(14)

39. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    群衆が騒いでいる。立て札の横に晒された惨めな死体。連れ
    立って歩く宮部と仙二郎、奉行所への道を急ぐ。一瞬、痛みに
    顔を顰(しか)める仙二郎。
   宮部  「板谷さん、左腕、どうかしたんですかぁ?」
   仙二郎「いや、ちょいと寝違えましてねえ…(笑って)」
   宮部  「そぉ? 大事になすって下さいね。…あらっ、また人だ
        かり」
   仙二郎「どうせ、影車でしょ。今日は体調が悪いですし、素通り
        しましょう。宮部さんは見たければ見てって下さい。私
        は行きますから…(歩みを速め)」
   宮部  「なによぉ、つれないわねぇ。私だって行きますよ(同じよ
        うに歩みを速め)」
   仙二郎「そうですか? それじゃ、急ぎましょう」
    群衆を余所(よそ)に歩き去る二人の姿。
40.  立て札
    立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた
    “手筈を受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
   N   「手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
41.  江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    遠退く仙二郎達の歩く姿。
    テーマ音楽。
42.  エンド・ロール
    F.O
    T「第七回 命賭け  完」

                           第七回 命賭け 完

               
流れ唄 影車(挿入歌)

    
      水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

           なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
         健気(けなげ)に 生きてる 幼(おさな)星…
             汚れ騙され 死なずに生きる
               悲しい女の 流れ唄

            酒場で 出逢った 恋の星…
           捨てられ はぐれて 夜の星…
          いつか倖(しあわ)せ 信じてすがる
               寂しい女の 流れ唄

            あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
          辛い宿命(さだめ)を 嘆いて越える
              儚(はかな)い女の 流れ唄

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2012年2月20日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(13)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(13)

38. 札差・坂出屋(外)庭・夜
    月の光に浮かぶ仙二郎の顔。
  仙二郎「これで二度目だったな…」
  源心  「おお! いつぞやの侍か。相手にとって不足なし。(小嗤い
        して)…二双稲妻斬り、見事、受けられるかな?(睨んで)」
    源心、
静かに交差して両刀を抜き、正眼に構える。仙二郎も遅れ
    て刀を抜き、正眼に構え、静かに上段の構えへと刃を動かす。間
    合いを詰め、にじり寄る二人。構えを変えながら、互いに微妙に
    動いて相手の隙を探る。そして遂に、刃と刃を激しく交えて斬り
    結ぶ。ふたたび離れて、間合いを取る二人。
    源心  「なかなか、やるのう…」
    息を整え、ふたたび斬り結ぶ二人、押し合って離れる。その時、
    源心の稲妻斬りの刃が宙を舞う。仙二郎、左腕に小傷を負う。し
    かし、仙二郎が返した刃で源心も眉間を斬られ、一筋の血を流す。
    両者、一歩も引かず、ふたたび間合いを取る。仙二郎、左腕の小
    傷で一瞬、均衡を崩す。間髪入れず、宙を飛ぶ源心の稲妻斬り。
    危うく避けてかわす仙二郎、足場を失い倒れる。
   源心  「ふふふ…、これまでだな。引導を与えてやろう」
    落ち着き払った声で仙二郎に近づく源心。這(は)って、源心の刃
    をかわす仙二郎。遮二無二、仙二郎に刃を突き立てる源心。仙二
    郎、絶体絶命の危機。その時、一本の簪(かんざし)が源心めがけ
    て飛ぶ。刃でその簪を払う源心。一瞬、できた隙(すき)。それを
    逃さず仙二郎の右腕が動き、源心の腹を横に斬り払う。飛び散る
    血しぶき。源心、ふたたび斬りつけようとするが、力が萎え、刀を
    地に落とし、静かに崩れ落ちる。
    (テーマ曲のオケ 3 オフ)
   仙二郎「(息も絶え絶えに)ひぇ~、危ねぇ。地獄の一丁目が見えた
        ぜ。…お蔦だな。有り難(がと)よ」
    と、呟きながら立ち上がり、辺りを見回す。そこへ現れた伝助。
   伝助  「仙さん、大丈夫ですかい?」
    仙二郎の左腕を手拭で縛(しば)る伝助。
   仙二郎「掠(かす)り傷だぁ、大事ない…。それより、お蔦は、どこ
        でぇ?」
    と、ふたたび辺りを見回す仙二郎。
   伝助  「姐(あね)さんなら、あそこですぜ」
    伝助が指さす方向を見る仙二郎。土塀の瓦上で様子を見遣る、お
    蔦。片手を上げ、笑顔で合図をすると、土塀から跳んで消え去る。
    仙二郎、刀を鞘へ納め、
   仙二郎「伝公、今日は造作、かけたなぁ。あとは頼んだぜ」
    と云い捨てて、闇へと消える。立待の月が蒼白く澄んで庭を照ら
    す。

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2012年2月19日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(12)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(12)

30.  蔵奉行・石見帯刀の屋敷(寝所)・夜
     石見が寝所の布団で熟睡している。
31.  同 (寝所の隣の間)・夜
     (テーマ曲のオケ 1 イン)
     暗闇の中で携帯火鉢の炭に赤く映える留蔵の顔。留蔵、静かに
     鞴(ふいご)を押す。火鉢の中に入れられた一本の錐(きり)の金
     属部分が赤く変色している。留蔵、黙って頷くと、灼熱の刃先の
     錐を右手に持ち、スゥーっと襖(ふすま)を開ける。
32. 同 (寝所)・夜
    留蔵、寝所へ入ると素早く石見に近づき、枕を跨(また)いで両足
    で首を挟む。続けて、左手で口を封じると、右手の灼熱の錐を両
    眼へ押し当てる。(焼入れの音 ジュ~S.E) 呻く石見(焼け爛
    [ただ]れた両眼) なおも、その錐で胸部(心蔵)を、ひと突き。石見、
    即死。留蔵、息が絶えたかを確認し、闇へと消える。
    (テーマ曲のオケ 1 オフ)
33.  同 (寝所の前廊下)・夜
    (テーマ曲のオケ 2 イン)
    不寝番をする家臣①、ウトウトしかけては目を擦(こす)っている。
    その時、家臣①が座る真上の天上が音もなくスゥーっと開き、鉄
    製の大丼鉢と、それを持つ二本の腕が音もなく現れる。大丼鉢、
    家臣①めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼
    鉢。呻く家臣①。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)。家臣①、
    頭に被った状態で暫(しば)し直立したまま氷結。その後、前のめ
    りに崩れ落ちる。
    (テーマ曲のオケ 2オフ)
34.  頭部のX線撮影された映像 C.I
    シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像。
    C.O
35.  病院の病室・現代
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いている。
    カメラ、医師の姿をアップする。医師、シャウカステン上のレント
    ゲン撮影さけたフィルム映像をじっと見た後、カメラ目線で素人っ
    ぽく、
   医師  「決まり文句になってますが(笑って)やはり頭蓋骨陥没骨折
        による即死です(頭を下げ)」
36.  札差・坂出屋(内)離れの間・夜
    (ふたたび、テーマ曲のオケ 2 イン)
    甚五郎が高鼾(いびき)を掻いて寝入っている。その時、天井板が開
    き、お蔦が音もなくスッと舞い降りる。そして、枕元へ近づき、甚五郎
    の首筋(頚動脈)を居合い斬る。派手に吹き散る血しぶき。甚五郎、
    もがき苦しんで絶命する。仕込み刀を背の鞘に納めると、天井へと
    飛ぶ、お蔦。天井裏へ入り、天井板を閉じる。
    (テーマ曲のオケ 2オフ)
37.  同 小部屋・夜
    布団で寝ていた源心、殺気を感じたのか静かに起き上がり、両刀
    を腰に差す。そして、離れの間へ行こうと、部屋を出ようとする。
    (テーマ曲のオケ 3 イン)
    その時、庭から響く仙二郎の声。
   仙二郎「てめえのような奴ぁ、生かしちゃおけねえんだ。天に変わ
        って成敗してやるぜ」
   源心  「おのれぃ! なに奴!(襖[ふすま]を開け、庭へと下り)」

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2012年2月18日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(11)

      影車      水本爽涼

   第七回 命賭け(11)

29. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    仙二郎、留蔵、又吉、伝助、お蔦の五人が顔を揃え、話をしている。
    土間に直接、立てられた蝋燭の炎が揺れる。
   仙二郎「番頭は晒さなくていいぜ、皆(みんな)。あとの連中は賑やか
        に晒してやってくれ(小笑いして)。源心は俺がやる(真剣に
        なり)」
   お蔦  「やるんじゃなくって、やられんじゃないだろうね?」
   仙二郎「はは…(笑って)また云いやがったな。まあ、その時ゃ、宜し
        く頼まぁ、お蔦さんよぉ(微笑んでお蔦に目線を投げ)」
   お蔦  「(小笑いして)お安い御用さ…」
   仙二郎「銭は、いつもの後払いの一両だ。念のため、手筈前(めえ)に、
        お蔦へ四両、手渡しておく」
   留蔵  「念のため、ってのが気に入らねえな。十手、負けもあるっ
        てことけぇ?」
   仙二郎「そんなこたぁねえだろうがな。一寸先は闇って云うじゃねえ
        か。斬られねえともな…」
   留蔵  「それを云いだしゃ、俺達だって同(おんな)じだぜ」
   又吉  「違(ちげ)えねえ…」
   仙二郎「まあ、いいじゃねえか。他に何かあったら聞こう」
   伝助  「仙さんと姐(あね)さんで源心に当たる、ってのは、どうで
        す?」
   又吉  「おう、伝公。よく云った」
   留蔵  「そりゃ、いいな…」
   仙二郎「馬鹿、云うねぇ。親付きの子じゃねえんだ(少し立腹して)」
   お蔦  「分かった。十手の顔も立てようじゃないか。万一ってとき以
        外、手出しは、しないよ」
   仙二郎「同(おんな)じじゃ、ねえか。お前(めえ)が付きゃあよぉ」
   伝助  「仙さん、まあまあ…。元締めが欠けたら、世直しが終わって
        しまいまさぁ」
   留蔵  「そうだぜ、十手」
   又吉 「俺も、そう思う…」
   仙二郎「よし、分かった! なら、好きにすりゃいいじゃねえか。他に何
        もなけりゃ、これまでだ。手筈どおり、皆、頼んだぜ」
     一同、頷く。伝助、土間に立てられた蝋燭の炎を吹き消す。漆黒
     の闇。

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2012年2月17日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(10)

      影車      水本爽涼
   
第七回 命賭け(10)

26. 狭い街路・朝
     坂出屋の番頭、店へと急ぐ。少し遅れて源心が歩く。そこへ、米
     市で怒号を飛ばした連中が数人、番頭へ駆け寄る。
   札差A「(息を切らして) 怪(おか)しいだろ? 私達が高値を張った
        んだよ?」
   番頭  「仕方ないじゃありませんか。お上が、お決めなんですから…」
     番頭を取り囲む他の店の者達。後ろで様子を窺っていた源心。走
     りよって矢庭に刀を抜くと、その数人を電光石火の稲妻斬りで斬
     り捨てる。早業(わざ)に驚き慄(おのの)く番頭。
   番頭  「急ぎましょう、先生。あとが厄介ですから…(死体を見て)」
     その出来事の一部始終を辻角から眺めていた、お蔦、
   お蔦  「なるほど…。ワルが悪さ、を始めたのかい…」
27.  札差・坂出屋(店内)・朝
     番頭と源心、暖簾を潜って入る。迎える主人の甚五郎。
   甚五郎「番頭さん、御苦労でしたね」
   番頭  「旦那様が云っておられました付け値で落ちました」
   甚五郎「そりゃそうだろうよ(笑って)。あっ、先生も御苦労に存じました
        (頭を下げ)」
   源心  「邪魔だて致す者がおった故、斬り捨てたぞ」
   甚五郎「そうで御座居ましたか…。こんなことを申しては何で御座居
         ますが、手荒なことは出来るだけ人目のない夜分に御願い
         致しとう存じまする」
   源心  「さようであったの…。以後は気をつけると致そう」
     と云いながら鴨居に腰を下ろし、草鞋(わらじ)の紐を解く源心。
   甚五郎「番頭さん、少ないが駄賃だ。取っておきなさい(二両、手渡し)」  
   番頭  「こんなに…。ひと仕事しただけで御座居ますものを…」
   甚五郎「いやいや、私の代えで行ってくれたんだ。命を狙われる今の
        私、安いものだ。これからも外回りの方は頼んだよ。…そ
        うそう、先生にも(二両を床へ置き)」
   源心  「おう、過分に…。済まぬのう」
     と云って金を手にし、袖(そで)へ通して懐(ふところ)へ納めると、
     立って鴨居から上がる源心。
28.  河堀(橋の上)・夕暮れ時
     柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が話をしている。いつもの定位
     置で欄干に凭れて話す仙二郎。
   仙二郎「この手筈は、今一、盛り上がらねえなあ…。そう大したワル
        でもねえしよぉ」
   お蔦  「だがね、考えようによっては奴ら、大ワルだよ。安値で買っ
        た米を高値で売ってんだからさぁ、力を貸す石見もね。街
        の衆が泣いてるよ、十手」
   仙二郎「そう云やそうだ…。そこん所(とこ)を忘れてたぜ。よし! 手筈
        をつけるから皆を集めろい。明日の宵五ツ、いつもの小屋
        だ」
     云い残して、仙二郎、橋を去ってゆく。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻り
     身を屈(かが)め、杖を頼りに歩き出す。秋の夕暮れ、既に辺りに
     は暗闇が迫っている。

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2012年2月16日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(9)

      影車      水本爽涼

    第七回 命賭け(9)

22.  留蔵の住居(長屋・内)・昼
     留蔵が頼まれ仕事に精を出す。赤々と燃え盛る炭火。額(ひたい)
     の汗を腕で拭う留蔵。橙色に変色した灼熱の鍋底。留蔵、それ
     を鉄製鋏で炭の中より出し、鉄の叩き台に伏せて乗せると、大金
     槌で叩き始める。
   留蔵  「冷えが来て、やっと楽になったぜ…。夏場は、いけねえや」
     と、独り言を吐く留蔵。その時、表戸の障子から石礫(つぶて)が
     投げ込まれる。
   留蔵  「お蔦か…。障子紙の張り替えも、ちっとは考えて貰いてえな
        …」
     ニヒルに笑い、愚痴を吐き、紙に包まれた石礫(つぶて)を拾い読
     む留蔵。すぐ紙を炭中に投げ入れる。燃える紙。破れた表戸の
     障子紙から見える、お蔦の屋根越しに消える姿。
23.  飛脚屋の店横・夕暮れ時
     飛脚働きを終え、店に近づく伝助。そこへ、お蔦が不意に現れる。
   伝助  「おっと! 危ねえな…。(顔を見て)なんだ、姐(あね)さんかい」
     辺りを窺い、汗を首の手拭で拭う伝助。
   お蔦  「十手からの言伝(ことづて)だ。手筈が近いから、心しな、って
         さ」
   伝助  「今度は、どいつで?」
   お蔦  「詳しかぁ云えないが、米絡みだ、とだけ云っておくよ」
     お蔦、路地の片隅で、そう告げると、瞬時に屋根瓦へと飛び、消え
     去る。お蔦が消えた屋根上を見遣る伝助。
   伝助  「また忙しくなるぜ…。♪旅籠(はたご)のぉ~湯の旅ぃ~夢と
         消えぇ~~♪かぁ」
     都々逸で洒落(しゃれ)て溜息をつく伝助。飛脚屋へ、トボトボと戻
     る。
24.  蕎麦屋の屋台(内)・夜
     又吉が、葱を刻んでいる。その時、屋台の木枠にコツッと当たって
     落ちる石つぶて。又吉、何げない素振りで拾い読んだ後、紙を懐
     (ふところ)へ入れ、辺りを窺う。そしてふたたび、葱を刻み始める。  
25.  米市(蔵前の庭)・朝
     株仲間、札差の連中が想い値を付け合う。石見に事前に命じら
     れていた家臣①、坂出屋以外の高値を付けた札差がいるにもか
     かわらず、
   家臣①「坂出屋!! …にて、落札!」
     と、一同を前に宣告する。場の者達から口々に飛ぶ怒号。家臣①、
     それらの声を無視して、立ち上がり、奥へ消える。庭で騒ぐ株仲
     間や札差が多数。その中で坂出屋の番頭だけが、一人、笑顔で庭
     を去る。追随して去る警護役の源心。

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2012年2月15日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(8)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(8)

   お蔦  「手筈をつけるかい?」
   仙二郎「ん? これくらいじゃな。少し泳がせて、ワルの働き次第(しで
        ぇ)で考えようか…」
   お蔦  「分かった。皆にゃ、一応、知らせとくよ」
   仙二郎「お蔦姐(ねえ)さんの石礫(つぶて)か…(小笑いして)。そうして
        くれ。それじゃあな。手筈する時ゃ、また知らせる」
   お蔦  「あいよっ」
    仙二郎、薄暗くなった夕闇の中を、ゆったり歩きだす。お蔦は瞽女
    (ごぜ)にもどって油断は見せず、杖で地を探りながら、少しずつ反
    対側へと歩み始める。
21. 吉原遊郭(一軒の廓内・客間)・夜
    酒の勢いに任せ小判をばら撒き、浮かれる甚五郎。騒いで小判を
    拾う女郎達。石見も酒膳を前に太夫に酌をさせ、気分よく飲んでい
    る。片隅に控える源心も、花魁(おいらん)に酒を注がせて飲む。
   石見  「おい、坂出屋。もう、よさんか。少しは大人しくせい(笑って)」
    甚五郎、フラフラと席に戻って座り、
   甚五郎「この辺りで、先生に余興をお見せ戴きましょうかな?(笑い
        ながら石見に語りかけ)」
   石見  「おお、それはよい。…源心、なにか、よい趣向を見せてくれ
        ぬか?」
    声をかけられ一瞬、躊躇(ちゅうちょ)する源心。盃を膳へ置き、傍
    らの大刀を取ると立ち上がる(脇差は常に身に付けている)。
   源心  「しからば、御免!」
    と云って腰へ差し、蝋燭の立つ燭台へと静かに近づく。部屋内の全
    員の視線が源心に注がれる。源心、燭台をじっと睨み、両刀を交差
    して居合い抜き。蝋燭を斬ると鞘へ刀を瞬時に納める。だが、蝋燭
    の炎は事前と変わらず燃えて揺れるだけで、蝋燭には何の変化も
    ない。
   石見 「なんじゃ? 何も変わらぬではないか…(不満げに)」
    石見が呟き、盃を手に運んだその時、蝋燭の右先端が右斜めにず
    れ畳上へ落ち、炎が消える。続いて、残った左先端がパラリと左斜
    めに切れると畳上へ落ちる。更に、その右下段が右斜めにずれ、畳
    上へ落ち、更に続けて、左下段が左水平に切れて下へとゆっくりと
    落ちる。その場に居合わす人々、呆気にとられ、暫(しば)し茫然と
    する。沈黙が続く客間。
   石見  「み、見事じゃ。見事な太刀捌きだのう…。これが世に評判の
        稲妻斬りか…(感服して)。天晴れ、天晴れ!」
    賛辞で囃(はや)す石見。甚五郎もパチパチ…と拍手する。少し遅れ
    て、女郎達も拍手をする。
   源心  「粗末な腕を、お見せ申した」
    謙遜する源心、石見に一礼し、席へと戻る。部屋の騒々しい賑わい
    が、静まる。

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2012年2月14日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(7)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(7)

17. 札差・坂出屋の小部屋(天井裏)・夜
    忍んで聞き耳を立てていた、お蔦。天井板に突き刺さる衝撃を感じ、 
   お蔦  「おっと! 危ないね。こりゃ、腕が立つ用心棒だよ…」
    と、呟き、鼠の鳴き真似(S.E)
をすると、消え去る。
    S.E=チュウ…と鳴く鼠の声。
18.  同 (内)・夜
    天井の一角を睨む源心。
   源心  「フン、鼠か…。気の所為(せい)だったのう…」
    と云って、ふたたび杯を手にする。
19.  茶屋 (狭い路地)・夕暮れ時
    いつものように門付けを済ませた、お蔦、佇んで辺りを窺う。仙
    二郎が離れた路地の一角で軽く首を振り、合図を送る。お蔦、笠
    を少し上げ頷く。仙二郎が足早に歩いて眼前を通り過ぎた後、少
    し遅れて、お蔦も杖で地を探りながら歩き出す。
20. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。いつもの定位置(橋の中ほど)で話をする二人。
    この橋は、新しい橋が出来たため、今では人通りが全くない。屋
    形船も朽ち始めている。
   仙二郎「そうか…、操りの勧進元は蔵奉行の石見だったか」
   お蔦  「お上のやるこたぁ腐り果ててるねぇ。これじゃ、庶民が
        浮かばれないよ。あっ、今度は十手も浮かばれないか(
        小笑いし)」
   仙二郎「人ごとだと思って、云ってやがらぁ(小笑いし)}
   お蔦  「まあ、石見は手筈がし易かろうが、問題は坂出屋の用心
        棒だよ。小耳に挟んだんだが、確か…なんとか云ったね
        ぇ。…そうだ、魚住源心」
   仙二郎「なにぃ?! 魚住源心だと?」
   お蔦  「そう聞いたと思うよ、確か…」
   仙二郎「奴は二双流を編みだした手練(てだれ)だ。冗談抜きで、
        今度は俺が浮かばれねえかも知れねえ」
   お蔦  「今、噂になってる二双流の…」
   仙二郎「ああ…、二双稲妻斬りとか云ったな…」
   お蔦  「十手より強いのかい?」
   仙二郎「さあ、どうだかな。手前味噌だが、六分がたは俺だろう。奴
        の剣は邪剣だとよ」
   お蔦  「邪剣は強いっていうよ。まあ、くたばったら、棺桶の送りぐ
        らいは、させて貰うよ」
   仙二郎「(笑って)へっ、相変わらず、口の減らねえ、お姐(あね)

        えさんだ」
    二人、笑い合う。秋の陽の釣瓶落とし、茜色の夕闇が、次第に黒
    の濃さを増す。上空を烏(カラス)が群をなして飛んで去る S.E。
    S.E=カァーカァー…という烏(カラス)の鳴き声。

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2012年2月13日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(6)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(6)

15. 同 (天井裏)・夜
    じっと身を潜め、下の石見の様子を天井板の節目より窺う、お蔦。
   お蔦  「なるほどねえ…。上手く考えたもんだ。ワル知恵が働く奴
        だよ(含み笑いをして)」
    と、呟き、闇に紛れるように消え去る、お蔦。
16.  札差・坂出屋の小部屋・夜
    坂出屋の主人、甚五郎が源心に酌をしている。
   甚五郎「先生のお蔭で安心して商いが営めまする。今後とも、よし
        なに…」
   源心  「拙者には、そのような世辞はよい。給金は充分、貰ってお
        る」
   甚五郎「いえいえ、何を仰せで御座居ますやら…(杯に酒を注ぎ)」
   源心  「しかしの、坂出屋。ひとつ気掛かりなことがあってな…」
   甚五郎「へえ? 何で御座居ましょう」
   源心  「数日前、店に戻る途中、夜道で何者かと渡りおうたのだ
        が…」
   甚五郎「斬り結ばれた、ということで?」
   源心  「さよう…。拙者も博打(ばくち)に負けて苛(いら)立って
        おっての…。そ奴、なかなかの遣(つか)い手と見た。店

        近くを夜分あのような者が徘徊(はいかい)しておるとなる
        と、油断は出来ぬぞ」
   甚五郎「大丈夫で御座居ますよ。全ては、石見様にお任せしており
        ますからな。お上より太鼓判を頂戴致しておる、と思(おぼ)

        し召されませ」
    笑って受け流す甚五郎。
   源心  「さようか? で、あらばいいのだが…(小声で)」
    云った後、杯を干す源心。
   甚五郎「それより、石見様が先生の剣捌きを見たい、と仰せで御座
        居ましたよ」
   源心  「はは…お見せ出来るような代物(しろもの)ではない。こん
        な腕など、数多(あまた)おる」
   甚五郎「謙遜なされまするな。先生の二双稲妻斬りは、最近、巷の
        評判で御座居ますよ(笑って)」
   源心   「んっ、そうかな? そなたは世辞が上手いのう(渋く笑って)。
        まあ、機会が有らば、御覧に入れよう」
   甚五郎「石見様ともども、楽しみにしております(笑顔で酒を注ぎ)」
    源心の目線が天井に飛ぶ。
   源心  「なに奴!!」
    刀の小柄(こづか)を抜くと、素早く天井へ投げる源心。天井板
へ鋭
    く突き刺さる小柄。

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2012年2月12日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(5)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(5)

12.  河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が話をしている。仙二郎、いつもの
    位置で欄干に凭れ、
   仙二郎「又吉にも云ったんだがな。札差の坂出屋を、ちょいと探って
        くんねえか」
   お蔦  「何か悪さでもやってんのかい?(笠を上げ、目を開けて)」
   仙二郎「どうも怪(おか)しいのよ。蔵前値が、あれだけ下がる訳がね
        え」
   お蔦  「裏で何かやってるって訳かい? そりゃ面白そうだね」
   仙二郎「馬鹿野郎、冗談、云ってる場合じゃねえんだ。俺の食い扶持
        が下がってんだからな」
   お蔦  「そりゃ、気の毒だねえ。生活がかかってんのかい」
   仙二郎「まあな…。俺は、いいとして、なかには借金で首括(くく)る
        奴も出らぁ…」
   お蔦  「なるほどねえ…。分かったよ、探ってみようじゃないか。別に
        急ぎは、しないんだろ?」
   仙二郎「ああ…、俺が首を括(くく)らねえうちに頼まぁ(小笑いし)」
   お蔦  「あいよっ。三日ほど貰うよ。茶屋まで来てくれるかい?」
   仙二郎「三日後の暮れ六ツでいいな?(一朱銀二枚を手渡し)」
    お蔦、二朱を受け取ると袂(たもと)へ納め、瞽女(ごぜ)に戻る。二
    人、互いに反対方向へと橋から歩き去る。橋上から道へと出た、
    お蔦、不意に反対岸を歩く仙二郎へ、
   お蔦  「死ぬんじゃないよぉ~」
    大声を掛ける、お蔦。
   仙二郎「只(ただ)じゃ死なねえやぁ~」
    小笑いして大声で返す仙二郎。
13. 蔵奉行・石見帯刀の屋敷(内)・夜
    座敷で酒を飲みながら寛(くつろ)ぐ石見。
   石見 「坂出屋め、上手く買い叩きおるわ(嗤って)。まあ、こちらも敢
        えて高値をつけぬからじゃが…」
    盃を干す石見。その時、家臣①が障子戸を開け、廊下に座したまま
    一礼。
   家臣①「殿、次の御蔵庭の値付けは、これで宜しゅう御座居まする
        か」
    と、持参した勘定簿を廊下より座敷内の畳上に置く。
   石見  「おお…、夜分、大儀。坂出屋の申し値で落札致せ。他の札
        差や株仲間の掛け値は聞かぬ振りだぞ。…注意せい。帳
        簿は後(あと)で見ておく故、下がって休むがよい」
   家臣①「ははっ!」
    と、恭順の声を発して平伏し、障子を閉める家臣①。

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2012年2月11日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(4)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(4)

6. 江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
    又吉が道の端で屋台を出している。通り掛かりの仙二郎、辺りを
    窺った後、屋台へと入る。
7. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
    ゆったりと床机へ座る仙二郎。
   仙二郎「いつもの、かけだ。葱は多めにな…」
   又吉  「へいっ!」
    又吉、慣れた手捌きで、蕎麦を作り始める。
   仙二郎「表稼業も楽じゃねえな。庭相場で米値が下がっちまって、
        貰える銭も減る一方よ(愚痴って)」
   又吉  「そりゃ、お気の毒なこって…。へいっ、お待ちっ!」
    又吉、仙二郎の前へ鉢を置く。仙二郎、箸を手にし、食べ始める。
   仙二郎「坂出屋はボロ儲けで遊興三昧だとよ」
   又吉 「ほぉ~、蔵前で札差やってる坂出屋かい?(影車の口調で)」
   仙二郎「そうらしい…。今のとかぁ、手筈とは関係ねえんだがな…」
    又吉、黙って頷く。仙二郎、食べ続ける。
8. 同 (外)・夜
    十三夜の月が、煌々と屋台を照らす。
9. 同 (内)・夜
    仙二郎、蕎麦を食べ終えると、銭十六文を置きながら立ち上がり、
   仙二郎「何かあったら、お蔦に言付ける。じゃあな…」
    屋台を出る仙二郎。
10. 同 (外)・夜
   仙二郎「いい月だぜ。今夜は廻り番じゃねえから、月見酒で寝るか…」
    云うではなく呟く仙二郎、屋台から遠ざかる。屋台内より、
   又吉  「有り難(がと)やしたぁ!」
    仙二郎の背に又吉の声。
11.  江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
    屋台を出て歩く仙二郎。十三夜月を愛でながら通りを歩く。すると、
    向こうから歩いて近づく一人の浪人。二人のすれ違いざま、浪人が
    矢庭に両刀を抜き仙二郎に斬りかかる。仙二郎、素早く刀を抜き、
    その二双流の刃を受ける。刃と刃の交わる音S.E。二人、離れて
    構える。月の光に照らされた顔。魚住源心である。S.E=カキィー
    ンと響く金属と金属が当たる高い金属音。
   仙二郎「何者でぇ!」
   源心  「名乗るほどの者ではない。今宵は虫の居所が、ちと悪うて
        な」
    云うが早いか、ふたたび、斬りかかる源心の二双稲妻斬りの刃が、
    仙二郎の袖(そで)を斬る。しかし、仙二郎の返した北辰一刀流の刃
    も源心の袴(はかま)の裾(すそ)を斬っている。
   源心  「お主(ぬし)、遣(つか)えるな。孰(いず)れまた会おう…」
    源心、両刀を鞘へ納め、足早に去る。仙二郎も刀を鞘へ納める。
   仙二郎「ふぅ~、危ねぇ危ねぇ。…見たこたぁねえ太刀捌きだったな」
    源心が去った方向を見遣って呟く仙二郎。仙二郎が歩き去る後ろ姿
    と、澄み渡った十三夜月の夜空。

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2012年2月10日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(3)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(3)

   甚五郎「飽くまで、儲けのためでございますでなぁ」
   石見  「(嗤って)こ奴、云いおるわい。蔵前相場で儲け過ぎるから、
        つけ狙われたりするのじゃ。結果、かような用心棒が入り
        用となる。ほどほどにしておくがよい(嗤って諌める)」
   甚五郎「肝(きも)に命じまする(嗤って)」
    と云いながら、傍らに置いた袱紗(ふくさ)を広げ、二十五両包金を
    八ヶ(二百両)を石見の前へと差し出す。
   石見  「いつもの馳走か?(嗤って)」
   甚五郎「いくら有りましても、お邪魔には、なりますまい(嗤って)」
   石見  「んっ? それは…まあのう(嗤って手前へと引き寄せ)」
   甚五郎「今後とも御蔵前割(おくらまえわり)の操り方、何卒よしなに
        …(軽く頭を下げ)」
   石見  「御役御免に、ならぬ限りはのう」
    二人、顔を見合わせて大嗤いする。
4. 北町奉行所(同心部屋・廊下)・朝
    続々と出勤してくる同心達、同心部屋へと急ぐ。その中に、仙二郎
    や宮部の姿もある。秋晴れの朝陽が射し込む。
5. 同 (同心部屋)・朝
    同心達、それぞれの席に着く。遅れて同心頭の村田が、少し威厳
    をもって部屋へ入る。一同の顔を見回し、
   村田 「おっ、珍しく板谷がいるな…」
    と、仙二郎や宮部の方へ目線を投げ、開口一番、大きな声をだす。
    一同から笑声。
   村田 「庭相場が低落しておる。皆の暮らし向きも窮するであろうが、
        まあ、そう長くは続くまい。心に留めず、勤めに精進して
        貰いたい(襟を正して語る)」
   仙二郎「(小声で隣席の宮部へ)この前、宮部さんが云ってた話です
        な?」
    宮部、顔は正面を向けたまま、小声で、
   宮部  「そうよ…」
   仙二郎「(小声で)坂出屋ですか?」
   宮部  「(小声で)どうも、そうらしいわ。大層な羽振りだとか…。吉原
        を買いきって豪遊よ。なんでも、粋を競っているとか…」
   仙二郎「ほう、そうですか…」
    村田の目線が、その時、二人を直撃。
   村田  「おいっ! そこの二人。なにか云いたいのか?(小笑いし
         て)なに?! 板谷、我々を食わしてくれると申すか? それ
         は有り難い。なあ、皆!」
    同心部屋が笑いの渦となる。

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2012年2月 9日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(2)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(2)

2. うどん屋(店内)・昼
    数人の町人客がいる。『みかさ屋』と書かれた暖簾を潜り、店へ入
    った仙二郎と宮部。子供っぽい歳若な店女が注文を取る。
   仙二郎「今日は、天麩羅、乗せてくれ(微笑んで)」
   宮部  「私は、しっぽくで…(微笑んで)」
   店女  「はい!(愛想よく)」
    店奥へ注文を入れる店女。年老いた親父、奥で調理しながら、
   親父「はいよっ!」
    仙二郎と宮部、席へ座る。
   宮部  「新しい娘さん、雇ったんですね(小声で)」
   仙二郎「この店も、味がいいのが広まって、最近は客が増えました
        からねぇ」
    聞いていたのか、立っている店女、二人を見て、ペコリと頭を下
    げ、微笑む。二人も、それに気づいて、不自然な笑顔を返す。
   宮部  「最近、蔵相場が下がってるでしょ? これじゃ、三食、う
        どんになるわよ(愚痴って)」
   仙二郎「そのようですなぁ…」
   宮部  「まあ! 人ごとみたいに…。板谷さんだって困るでしょ?」
   仙二郎「えっ? いや、まあそうなんですがね…。私は、そんなに
        食べませんから、ははは…(笑う)」
   宮部  「なんか、嫌みに聞こえるわね」
   仙二郎「いや、そんな意味で云ったんじゃ、ないんですが…」
    仙二郎、弁解に努める。
   宮部  「まあね…。皆さんは私が食通だとは、おっしゃるんですがね」
    そこへ、店女が、しっぽくと天麩羅うどんを給仕盆に乗せ、運ん
    でくる。ふたり、それを、がっついて食べる。
   宮部  「(食べながら)どうも、買い占め、って噂ですよ…」
   仙二郎「(食べながら)ほう…、そうですか」
   宮部  「(食べながら)なんでも、坂出(さかいで)屋さんだとか…」
   仙二郎「(食べながら)ほう…、札差(ふださし)の。…そうですか」
    暖簾に腕押し的な会話に、宮部、諦めて沈黙する。二人、食べ続け
    る。
3. 札差・坂出屋の座敷・昼
    主人の甚五郎と蔵奉行の石見帯刀(いわみ・たてわき)が歓談中。

    障子戸の近くには、用心棒の魚住源心(うおずみ・げんしん)も控え
    
ている。
   甚五郎「先生に守って戴ければ、蔵相場は私共の思いのままで…
        (嗤って)」
   石見  「ほう…そちが稲妻斬りとやらを遣(つか)う魚住源心か…。甚
        五郎より聞いておる。一度、その腕を見てみたいものじゃ」
    控える源心、一礼する。
   石見  「それにしても、上手く脅して相場を牛耳るとは…、坂出屋も
        考えおったのう(嗤って)」

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2012年2月 8日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第七回☆命賭け(1)

      影車      水本爽涼          
     第七回 命賭け(1)

   あらすじ

 札差・坂出屋の用心棒、魚住源心(うおずみ・げんしん)は、二双稲妻斬
 りを編み出した剣客である。その二双(にそう)流の太刀捌きを、果たし
 て仙二郎は、見事、討ち破れるのか…。今回は、蔵相場を吊り下げ、そ
 の実、小売値を高くして暴利を貪り、江戸の町民を泣かせる札差・坂出
 屋と、それに加担する蔵奉行・石見帯刀(いわみ・たてわき)達を一掃す
 る影車の活躍を描く。最後に会い見(まみ)える仙二郎と源心の生死を
 賭けた一対一の果し合いの顛(てん)末は? 乞う御期待!

 
登場人物

  板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)


1. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    タイトルバック
    秋の冷雨が降り続く中、番傘姿の仙二郎と宮部が、連れ立って歩

    
いている。
   仙二郎「よく降りますなぁ…。少し冷えてきましたし…」
   宮部  「肌寒いわねぇ…」
   仙二郎「いつもの所で飯にしますか?」
   宮部  「そうね…。そうしましょう」
    二人、行きつけの、うどん屋の暖簾の方へと近づく。笠を被り蓑を
    纏った町人や、番傘をさした商人が時折り道を往き交うが、雨で通
    行人は少ない。店へ入る二人。雨に濡れる街通り。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も南

        もワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒します…」
    タイトル、テーマ音楽など。       


              流れ唄 影車(挿入歌)

            
水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年2月 7日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(12)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(12)

37. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    無惨に晒された二人の死体。横には立て札が立つ。群がる町人の
    野次馬。そこへ通り掛かる出勤前の仙二郎と宮部。
   宮部  「板谷さん、また人だかりですよ。どうします?」
   仙二郎「どうします? って、もう分かってるじゃないですか。立て札
        と人だかりですよ。どうせ、また、影車でしょうが…。(欠伸を
        して)疲れるだけです。夏バテで寝込んだらどうしますか。見
        なかったことにして行きましょう」
   宮部  「そうね…。私も、ここんとこ、食が細いのよ」
   仙二郎「(笑って)宮部さんが? ははは…、それはないでしょう」
    宮部も釣り込まれて笑う。二人、野次馬を尻目に早足で遠ざかる。
    遠ざかる二人の姿。
38. 立て札
    立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手
    筈を受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
   N    「手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
39. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
    仙二郎、宮部の歩く姿

    テーマ音楽。

40. エンド・ロール
    F.O
    T「
第六回 悪徳医者  完」

                           第六回 悪徳医者 完

                 流れ唄 影車(挿入歌)

                
水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

           なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
               汚れ騙され 死ねずに生きる
                 悲しい女の 流れ唄

              酒場で 出逢った 恋の星…
              捨てられ はぐれて 夜の星…
                いつか倖せ 信じてすがる
                     寂しい女の 流れ唄

              あしたは 晴れるか 夢の星…
             それとも しょぼ降る なみだ星…
               辛い宿命を 嘆いて越える
                 儚い女の 流れ唄

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2012年2月 6日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(11)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(11)

33. 御殿医・寺村了然の住居(湯殿)・夜
    (テーマ曲のオケ 1 イン)
    湯殿に気分よく浸かる了然。その時、了然の真上の天井板が音も
    なく開き、二本の腕と鉄製の大丼鉢が現れる。大丼鉢、了然めがけ
    て垂直に落下。(鐘の音S.E) S.E=鐘楼で撞く鐘の音グォ~~ン)
    了然、被ったまま湯の中へと身を沈める。ボコボコ…と泡が上がる。
    天井板から縄が下ろされ、又吉が湯殿へと下りる。又吉、了然の
    体を湯から上げ、
   又吉  「今日は低い所から落としてやったんだ。まだ死んで貰う訳に
        ゃいかねえよ(云いながら、大丼鉢を背の袋へ納めると、何
        度か了然の両頬を平手打ちして)」
    了然、息を吹き返す。それを見届け、
   又吉  「俺の出番は終わったぜ」
    と、天井へ声を投げ、湯殿から消え去る又吉。入れ替わり、天井板
    から、お蔦が舞い降りる。まず、両手首を居合い斬り。続けて頚動脈
    (首筋)を斬る。派手に飛び散る血しぶき。湯が、みるみる間に赤く染
    まる。お蔦、背の鞘へ居合い刀を納めると天井に飛び、天井裏へと
    消え去る。
    (テーマ曲のオケ 1 オフ)
34. 同 (湯殿)外景・夜
    外に響く囲い女の絶叫の悲鳴。
35. 病院の病室(現代)
    医師(配役は無名の外科医)が椅子に座り、ウトウトと寝ている。机に   
    崩れ落ちそうになり、目覚める。カメラに気づき、カメラ目線で、
    医師  「ああ…、また、お会いしましたなぁ。いつもの頭蓋骨陥没骨折   
        ですか…(シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム
        映像を見て)ちょっと過労ぎみでしてなぁ。寝ていたことは、ご
        内聞に…(笑って)」
    と云って、机上のカルテの上へ顔を埋める。
36. 薬園奉行・彦坂弾正の屋敷(寝所)・夜
    (テーマ曲のオケ 2 イン)
    布団で熟睡する彦坂。いつの間にか忍び込んだ留蔵が、部屋の隅
    で携帯用の鞴(ふいご)を押す。熾(おこ)った手火鉢の炭が赤く留蔵
    の顔を浮かび上がらせる。炭の中から取り出された赤色に変化した
    灼熱の鑿(のみ)の刃先。それを手にして頷くと、静かに枕元へと近
    づく留蔵。枕側から首を両太股(ふともも)で挟み、鑿の刃先を両眼
    へ押し当てる。(ジュ~~っという焼き入れの音S.E) 呻く彦坂、激し
    く、もがく。
    (テーマ曲のオケ 2 オフ)
   留蔵  「十手、出番だぜ」
    と云い捨て、さっと姿を消す留蔵。
    (テーマ曲のオケ 3 イン)
    襖が静かに開き、仙二郎が闇から現れる。両手を目に当て、苦しみ
    ながら右往左往し、ふらつく彦坂。
   仙二郎「苦しみな…。死んでった者達の怨みよ…」
    と云って近づき、胸(心蔵)を抜いた刀で突き刺し、抉る。(ブシュブシ
    ュ~という音S.E) S.E=豚、牛などをナイフ等で切り裂く音。
   仙二郎「地獄へ落ちろい!」
    仙二郎が刃を抜くと、彦坂、どったりと崩れ落ちる。そこへ、伝助が
    現れる。
   仙二郎「伝公、あとは任せたぜ…」
    ひと言、そう吐いて闇へと消える仙二郎。伝助、死体を背負うと寝所
    を出る。
    (テーマ曲のオケ 3 オフ)

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2012年2月 5日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(10)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(10)

29. 薬園奉行・彦坂弾正の屋敷(天井裏)・夜
    お蔦が天井裏の節目から下の様子を窺い、耳を欹(そばだ)てる。
    一部始終を聴いた後、
   お蔦  「また、死人が出そうだよ。こりゃ急がないと…」
    と、呟いて闇へと消える、お蔦。
30. 河堀(橋の上)・夕刻
    柳、屋形船あり。橋の上で仙二郎、お蔦が話をしている。
   お蔦  「これ以上、放っておくと、奴ら、美作(みまさか)屋を、やっ
        ちまうよ」
   仙二郎「そうか…、美作屋は白だったんだな。…分かった、明日の
        宵、五ツ、いつもの小屋で待つ。皆を集めろい」
    そう云うと、仙二郎、静かに歩き去る。お蔦も瞽女(ごぜ)に戻り、反
    対側へと去る。
31. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    仙二郎を筆頭に、留蔵、又吉、伝助、お蔦といったいつもの面々
    が一堂に会する。昼の余韻の暑気が残っている。仙二郎、団扇を
    扇ぎながら、
   仙二郎「今度の的(まと)は少ねぇ。御殿医の了然と薬園奉行の彦坂
        の二人だ。他の雑魚(ざこ)どもは手筈には及ばねえだろう。
        さっきの手筈どおり、たっぷり可愛がってやんな。金は、
        いつもの通り後払い。お蔦に届けさせる。…何か訊きてえ
        なら云ってくれ」
   留蔵  「悪い強欲医者だぜ。世も末だぁ」
   又吉  「そうだな。幻斎先生の爪の垢でも煎じて飲ませてえや」
    一同、小笑いする。
   仙二郎「よしっ! それじゃ、これでお開きだ。皆、頼んだぜ」
    一同、頷く。伝助、土間に立てられた蝋燭の炎を吹き消す。暗黒の
    闇。
32. 御殿医・寺村了然の住居(寝所) ・夜
    了然が囲い女と睦みごとの最中。悶える女と了然の絡む姿をカメ
    ラ、真上より撮る。緋色の布団、行灯の灯りが妖しく映える。事を
    終えた了然、布団を抜けると身嗜(だしな)みを整え、
   了然  「今宵は格別じゃった…。さて、ひと風呂、浴びるとしようか。
        そなたも後から来い。洗ってやるゆえ…(いやらしく嗤って)」
    と、云い残して部屋を後にする。

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2012年2月 4日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(9)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(9)

24. 御殿医・寺村了然の住居・夕刻
    城中より籠で戻った了然、籠を降りようとする。下足番、履物を置き、
   下足番「先ほど、美作(みまさか)屋が参りまして、薬草を明後日、頂
        戴に伺うと申しておりましたが…」
   了然  「(履物を履き、籠を降り)捨ておけ。まだ薬値は上げられよう
        ほどにのう(小嗤いして)」
   下足番「如何、申しましょうや?」
   了然  「そうじゃのう…。生憎(あいにく)、薬園からは、まだ届かぬ、
        とでも申せばよい」
   下足番「ははっ!」
    と、一礼して、下がる下足番。
   了然  「稼ぐ手立ては他にもあるわ…」
    と、嘯(うそぶ)いて、屋敷へと入る了然。
25. 同 (屋根)・夕刻
    その会話を瓦屋根の一角に潜み、お蔦が聴いている。
   お蔦 「こいつが医者とは笑わせるねぇ。とんだ大ワルだよ。だが、
        問題は、美作屋がワルかどうかだ」
    と、ひと声発して、屋根より消え去る、お蔦。
26. 薬問屋・美作(みまさか)屋の座敷・夜
    番頭と深刻に話をする美作屋与平。
   番頭  「旦那様、既に二千両も了然に手渡しております。もう、手をお
        引き下さいまし(一礼し)」
   与平  「番頭さん、私も欲をかいたよ。どうも、了然に、たばかられた
        ようだ…(沈み込んだ口調)」
   番頭  「今なら、まだ間に合いましょう。これだけの損で済んだと
        思われ、何卒、手をお引きに…」
    と、平伏する番頭。頭を下げ続け懇願する姿を見て、
   与平  「分かりましたよ、番頭さん。もう、よそう…」
    静かに告げる与平。
27. 同 (床下)・夜
    お蔦、会話の一部始終を床下で聴き、
   お蔦  「美作屋は白だったね…」
    と、ひと声、呟くと、蜘蛛の巣を手で払い、消え去る。
28. 薬園奉行・彦坂弾正の座敷・夜
    了然が、夜中に訪れている。
   了然  「今までの儲けで御座居ます」
    了然の供の者、千両箱を彦坂の座る斜め前へと運び、置くと下が
    る。
   彦坂  「ほう…これ程のものかの? そちの手元へも、相応は入って
        おるじゃろう?(嗤って)」
   了然  「何をおっしゃられまする。私めには、ほんの僅(わず)かばか
        りで…」
   彦坂  「まあ、よいわ(嗤って)。大儀じゃ。身共も上役への付け届け
        があるでな、今後とも頼むぞ」
   了然  「分かっておりますとも。ところで、美作屋は、もう不用で御
        座居ましょう。証拠は早めに消した方が宜しいかと…(嗤っ
        て)」
   彦坂  「悪知恵の働く医者じゃのう…」
   了然  「彦坂様には及びませぬ」
   彦坂  「こ奴、何を申す(嗤って)」
    二人、顔を見合わせ、大嗤いする。

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2012年2月 3日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(8)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(8)

21. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎、お蔦の二人、いつものように橋の中ほど

    で話をする。欄干に凭れ、扇子を扇ぐ仙二郎。
   仙二郎「結局は、彦坂と了然が仕組んだワルだってことか?」
   お蔦  「殺しは、やっちゃいないがね」
   仙二郎「薬草が美作屋から出回ったとしてもだ。高い薬賃を払えねえ
        街の衆も多かろう。…ってことは、だ…」
   お蔦  「見えない大量殺しだよ、そりゃあ」
   仙二郎「手筈つけなくちゃなんねえか?」
   お蔦  「私に訊くのかい?」
   仙二郎「分かった。近いうちに手筈するとして…」
   お蔦  「的(まと)は了然と彦坂だけかい?」
   仙二郎「美作屋がツルんでやがるかだが、その辺り、引き続き探って
        くれ」
   お蔦  「あいよっ(手の平を差し出し)」
   仙二郎「今日は、これだけで勘弁して貰いてぇ(一朱銀一枚を手渡し)」  
   お蔦  「ちぇっ、時化てるねぇ。まっ、いいか…」
    と、袂(たもと)へ納める、お蔦、瞽女(ごぜ)に戻ると、杖で地を探りな
    がら橋上から去る。遅れて仙二郎、反対側へと歩く。
   仙二郎「へへっ、また上手い具合に…(懐[ふところ]から一朱銀一枚
        を取り出し) 今夜は、これで風呂上りの吟醸冷やが飲めらぁ
        …。肴は鱧(はも)の骨きりを酢味噌か…(小笑いして)」
    暑気も忘れ、元気を取り戻した仙二郎、浮かれて去る後ろ姿。
22. 寺の中・夕刻
    久遠寺の僧坊。僧、二人が、何やら話している。
   僧①  「まだ当分は続きそうですな」
   僧②  「そのようで…。前ほどでは、ありませぬが。今日も二体、運
        ばれましたから…」
   僧①  「この流行り病(やまい)、いつになれば失せることやら…」
   僧②  「このようなことは表立っては申せませぬがな(辺りを見回し)、      
         布施なしの弔いは疲れまする」
   僧①  「(小笑いして)これも御仏に仕える我らが因果。まあ、仕方あり
        ますまい。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
    二人、目を閉じると静かに合掌し、念仏を唱える。
23. 高山幻斎の医療所・朝
    又吉が慌ただしく戸口を開けて入る。手にした、かなりの枚数の紙。
   又吉  「先生、井戸の貼り紙は、これくらいで、ようがすか?」
   幻斎  「又吉殿か…。朝早くから、すまぬのう。おお…、それほど有ら
        ば、充分でござろう」
   又吉  「お蔭で、病(やまい)の本元が分かりやしたし、これで、安心で
        ぇ」
   幻斎  「いいや、まだこれからですぞ。とにかく患者はこれ以上、増え
        ますまいが、問題は、既に罹患(りかん)しておる患者達じゃ」
   又吉  「薬草は美作(みまさか)屋から小売りへ流れてたんじゃ?」
   幻斎  「それがじゃ。高い薬値で卸すゆえ、稼ぎの少ない町衆には買
        えぬのじゃ。そればかりか、流れる薬草が、どういう訳か少な
        い。よって、買い求めるのは至難となっておる」
   又吉  「それは妙だな? 美作屋で何かあったんですかね?」
   幻斎  「その辺りの事情は分からぬがのう」

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2012年2月 2日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(7)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(7)

17. 高山幻斎の医療所(診察場)・夕刻
    息を切らして飛び込んできた又吉。開口一番、
   又吉  「先生! 井戸の水が濁ってるんで。…ちょいと、見て下さい
        やし」
   幻斎  「井戸の水が? (少し間合いを置いて)…、又吉殿、分かっ
        たぞ」
   又吉  「どういうこってすか?」
   幻斎  「詳しいことはの、見てみんと分からんが、恐らく、最近の
        治水工事により、地下水脈に異変が生じたに相違あるまい」
   又吉  「と、いうことは…」
   幻斎  「そうじゃ。頻発しておる病(やまい)の本元は、どうもその辺

        りにあるようじゃの。急ぎ、調べると致そう」
   又吉  「御願いしやす(頭を下げ)」
    又吉と幻斎、足早に又吉の長屋へと向かう。
18. 御殿医・寺村了然の住居・夜
    了然が囲い女を侍らせ、酒を注がせる。いい頃合いの酩酊状態で、
   了然  「…お前にも、いい店を一軒、持たせてやれるぞぉ(小笑いし)」
   女   「本当ですかぁ、先生(媚びて)」
   了然  「ああ、本当だとも…(嗤って)」
    と、女の裾下へ手を入れ、這わせる。そこへ、廊下から共の者が襖
    越しに声をかける。
   共の者「薬問屋の美作(みまさか)屋から二千両、届きまして御座居
        ます」
   了然  「おお、そうか。(女の方を見て、小声で)な、云うたとおりであろ
        うが…(小嗤いした後、声を戻して)御苦労であった!」
    共の者、下がる気配。了然と女、縺れて倒れる。燭台の蝋燭が妖
    しく揺れる。
19. 薬園奉行・彦坂弾正の座敷・夜
    彦坂が酒を飲みつつ、肴を摘む。
   彦坂  「なるほどのう…。薬草を一手に美作(みまさか)屋に流すとは、
        了然もなかなか考えおったわい。薬値を撥ね上げても売れ
        ると見込みおったか…、負けてはおられぬなあ(嗤って)」
20. 薬園奉行・彦坂弾正の座敷(天井裏)・夜
    天井裏で耳を欹(そばだ)てる、お蔦。
   お蔦  「芝居がかりの筋書きだねぇ…(小声で呟いて小笑いする)」
    云い終わると、瞬時に闇へと消える、お蔦。

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2012年2月 1日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第六回☆悪徳医者(6)

      影車      水本爽涼          
     第六回 悪徳医者(6)

15. 長屋(留蔵の家・中)・昼
    忍耐強い留蔵だが、流石に、うだる暑気には勝てず、昼寝している。
    褌一丁の姿。開けっ放しの木戸からは蝉時雨が降る。だが、清涼な
    風は流れていない。
   留蔵  「今年は暑いや…」
    とだけ、ひと言、吐いて寝返りを打ち、団扇(うちわ)で扇ぐ留蔵。
    そこへ、仙二郎が戸口より、ひょっこり現れる。
   仙二郎「ふう~、かなわねぇかなわねぇ。こう暑くっちゃ、日干しに
        なっちまわぁ(胸元を手拭で拭き)」
    急に現れた仙二郎に一瞬、驚いて半身を起こす留蔵。
   留蔵  「なんでぇ…十手か」
    と、ふたたび横になり団扇(うちわ)を扇ぐ留蔵。
   仙二郎「偉(えれ)ぇ御挨拶だな(小笑いし)」
   留蔵  「久しぶりだが、また手筈けぇ?」
   仙二郎「いやな、そういう訳でもねえんだが、そうなるかも知れねえっ
        て話よ…」
   留蔵  「なんでぇ、そりゃぁ。回り諄(くど)くって、いけねえや(小笑いし)」
   仙二郎「はは…。まあ、そうなりゃ、お蔦に言(こと)づけるが、今日は
        な、日差しを避けてぇから寄った迄よ

   留蔵  「そうけぇ…。何もねえが、ゆっくりしてってくんな」
   仙二郎「ああ…有り難(がと)よ」
   留蔵  「まあ、白湯(さゆ)ぐれぇは出すか(立ち上がり)」
   仙二郎「すまねえが、水でいい…」
   留蔵  「腹、壊すぜ」
   仙二郎「はは…そんな、やわな腹じゃねえや」
   留蔵  「ちょいと訊くんだがよぉ(茶碗を持ち水瓶へと近づき)、流行
        
り病(やまい)のこたぁ何か分かったかい? 幸い、この近辺
        じゃ、まだ出てねえんだがよ。又吉が幻斎先生と走り回って
        るようだぜ」
   仙二郎「又吉が?」
   留蔵  「そうよ。あっしなんかより、あいつの方が詳しいだろう」
   仙二郎「そうか…、又吉がな」
    留蔵が差し出した茶碗の水を一気に飲み干す仙二郎。
   仙二郎「それじゃ、またな…」
    と、ひと言、残して戸口を出る。
16. 又吉の長屋前・夕刻
    又吉、屋台で出る前の下準備をしている。いつものように井戸の釣
    瓶で水を汲む。木桶に水を入れた時、薄白く濁った水を見て、異変
    に気づく又吉。
   又吉  「妙だな? 水が濁ってやがらぁ…。まてよ、…こりゃ幻斎先生
        に知らせねえとな。こうしちゃいられねえ(慌てて走り出す)」

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