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2012年3月

2012年3月31日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(10)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (10)

26. 吉原遊郭(客間)・夜
     山根頼母、和田屋甚兵衛、瀬崎の音松、音松の配下の子分二名
     が遊興三昧を繰り広げている。甚兵衛、女郎達に小判を投げ与え
    ている。我先にと拾う女郎達。花魁(おいらん)や太夫、禿(かむろ)
    は威厳を保って動かず、時折り優雅に笑う。
    山根  「太鼓持ちが嫌がっておるぞ、和田屋。ほどほどに致せ!」
     云われて、甚兵衛、自席へと戻る。座が静まると、太鼓持ちが挨
     拶をして、芸を披露し始める。甚兵衛、立つと山根の席の前へ座
    り酌をする。山根、扇子を半ば広げ、甚兵衛に小声で耳打ちする。
    山根  「撒いた小判は大丈夫か?」
    甚兵衛「へえ、それはもう。正真正銘の本物で御座居ます。(一段と
       声を潜[ひそ]めて)足がつく恐れなど…」
    山根  「さようか。ならばよい…」
     前のめりになり、耳打ちしていた姿勢を元に戻す山根。扇子を閉
     じると、盃をふたたび持ち、甚兵衛の差し出す堤(ひさげ)の酌を
    受ける。
27. 同 (客間・天井裏)・夜
     お蔦が、天井板の隙間から下の様子を窺う。
    お蔦  「(微笑んで)随分と派手にやってくれるじゃないか。世間
        にゃ今日、明日の命って者(もん)がいるのに、いい気なも
        んだよ。これ以上は野放し出来ないねぇ…」
     そう云い残し、お蔦、闇へと消え去る。
28. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
     小雪が時折り、屋台の暖簾にかかる。幾らか、風を伴っている小
     雪。だが、地面には未だ積もってはいない。
29. 同 (内)・夜
     仙二郎が蕎麦を啜っている。
    仙二郎「まだ春は遠そうだぜ…」
    又吉  「そのようで…」
     又吉、葱を刻みながら短く答える。
    仙二郎「(後ろを振り返りながら)ふぅ~、足元が冷えらぁ」
    又吉  「冷やでよけりゃ、一杯どうですかい?」
    仙二郎「おっ、有り難(がて)ぇ。戴くともよ」
     又吉、仙二郎の前へ茶碗を置き、下に隠していた一升瓶の酒を
    注ぎ入れる。仙二郎、美味そうに半ばを一気に飲む。 
   仙二郎「くぅ~! 腹に沁(し)みらぁ(美味い! と、云いた気
       に)」

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2012年3月30日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(9)

      影車      水本爽涼
     
第十回 贋小判 (9)

     仙二郎、真剣な眼差しで小判を見つめ、口に入れると歯で齧る。
    仙二郎「いや、これは本物だ。ですよね? 宮部さん」
    宮部  「(覗き込んで)はい、間違いありません、本物です。なにせ、
        さきほど奉行所で、贋物と本物を見比べていたんですか
        ら…」
    お里  「そうですって!(奥の方を向いて)」
     声を高める、お里。小笑いしながら椅子へと座る宮部。仙二郎も
     小判を、お里に返すと、席へ着く。
    お里  「何にします?」
    仙二郎「俺は、きつねだ」
    宮部  「私は、しっぽく」
    お里  「きつね、しっぽく一丁!」
     奥の調理場から、「はいよっ!」と、親父の声が返る。お里、奥
     へと消える。
    宮部  「あの娘(こ)、すっかり慣れましたねぇ…(奥の調理場を
        見ながら微笑んで)」
    仙二郎「はい…。お里坊は、いい娘(こ)ですよ。私がもう少し若け
        りゃ、放っときませんが…」
    宮部  「まだ若いじゃありませんか」
     と、笑顔で、からかう宮部。
    仙二郎「いや、もう駄目でしょう、この歳じゃ…(苦笑して)」
    宮部  「瓢箪から駒、ってこともありますから」
    仙二郎「はは…、富籤(くじ)より当たりが悪いですな」
     二人、大笑いする。そこへ奥から、お里が、うどん鉢を盆に乗せ、
     運んでくる。
    お里  「何か、いいことでもあったんですか? 偉く楽しそう…」
     と、鉢を仙二郎と宮部の前へ置きながら云う。仙二郎と宮部、互
     いの顔を見合わせ、思わず笑い転げる。
    仙二郎「お里坊、そういうこった」
     と云って、仙二郎、ふたたび笑う。お里がキョトンとして奥へ去
     った後、箸筒の箸を取り、
    宮部  「生活苦で、また一家心中があったようです。今月に入って、
        これで五件ですか? 物価が、どんどん上がってますか
        らねえ」
    仙二郎「贋金が出回ってから、もう随分と経つじゃないですか。お
        上は何をやってたんでしょうねえ。今時分になって私ら
        の尻を叩いて騒いでるんですから、後手ですよ。まあ、
        この事件に限ったことじゃありませんが!(カメラ目線
        で云う)」
    宮部  「そのとおり…」
     うどんを啜りながら、ただ頷く宮部。仙二郎も、それ以後は黙り、
     うどんを啜り続ける。

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2012年3月29日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(8)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (8)

23. 北町奉行所(同心部屋)・朝
     同心頭の村田が全員を前に訓示している。今日は真剣に話をする
     村田。
    村田  「今、話したとおり、贋金作り探索は幕府の窮乏にかかわる
         故、心して当たるようにとの御上意である。よって、本日より、
        一同、この一件に全力をあげることとする。分かったな!!」
     一同から、「おおっ!」っと、声が上がる。村田、全員を見回し、頷く。
    村田  「板谷と宮部は当てにせんがな」
     少しの間合いの後、部屋内、笑声に覆われる。
24. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
     珍しく冬晴れの蒼い空。仙二郎と宮部が、肩を並べて漫ろ歩いてい
     る。
    宮部  「調べろって云われてもねぇ~。見当がつかないんだから…」
     宮部、横の仙二郎に話すでもなく愚痴る。
    仙二郎「はは…、それは云えますなあ。恐らく一人で企(たくら)むのは
         無理でしょうから、組織的な謀(はかりごと)と考えた方がい
         い。で、そうなりますと、私ら一人や二人が探ったところで、
        そう簡単に襤褸(ぼろ)を出す相手とも思えません」
    宮部  「そうですよねぇ…」
    仙二郎「つまらないことで思い悩んでも仕方ありません。昼にしまし
         ょう、昼に」
    宮部  「おっしゃるとおり…。捕まる時にゃ捕まりますよね」
     当たり前の道理を云って自らを慰める宮部。仙二郎、うどん屋の方
     へと歩を速め、辻を曲がる。宮部も後ろに従う。
25. うどん屋(内)・昼
      『みかさ屋』と書かれた暖簾を潜って、仙二郎、宮部が入ってくる。
      中では、店女と親父が一枚の小判を手にして議論を戦わせてい
      る。他に客は珍しくいない。仙二郎、二人の遣り取りを見て、
    仙二郎「お里(さと)坊、どうしたい?」
     と、微笑んで店女へ声をかける。
    お里  「あっ、いらっしゃいまし!!」
    親父  「いらっしゃい!!」
     仙二郎と宮部に気づいた二人、慌てて挨拶する。
    お里  「仙さん、ちょっと聞いてよ。これなんだけど…」
     お里、一枚の小判を仙二郎の前へと差し出す。親父は、馬鹿馬鹿し
     いとでも云いたげに、縄暖簾を上げて奥の調理場へと消える。
    仙二郎「なんだ…、小判じゃねえか(小判を手にして)。偉(えれ)ぇ豪
        勢だな…(小笑いして)。これが、どうかしたか?」
    お里  「でしょ? 私は贋小判じゃないって云うのに(奥を指さし
        て)、色艶が違うから贋だって…」

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2012年3月28日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(7)

      影車      水本爽涼
    
第十回 贋小判 (7)

    お蔦  「あいよっ!」
     言うが早いか、お蔦の姿は既に消えている。寝姿のまま動かず、
     瞼だけ開け、
    仙二郎「放ってもおけめえ…。孰(いず)れは手筈だな」
     と云って、ふたたび瞼を閉ざす仙二郎。遠くで犬の遠吠えS.
     E。S.E=犬が鳴くウォーワンワン! といった高く響く声。
19. 人里離れた山中の坑・入口前(外)・昼
     瀬崎の音松一家の子分が百姓数人を坑内へと脅しながら押し
     て入る。薄暗い坑道の入口。その前に広がる雑木林から、
    お蔦  「音松の手下を追ったら、とんだ所(とこ)に来ちまったよ。
        なるほどね、ここで作ってんのかい…」
     坑道の入口より少し離れた木陰から、辺りを窺う、お蔦。入口を、
     時折り、音松の子分達が出入りしている。お蔦、それを見届け、
     瞬時に消え去る。
20. 同 (内)・昼
     鋳造の作業をする職人や百姓達。山根頼母の家臣二名が作業
     の監視をしている。手燭台が所々に立てられてはいるが、坑内
     の明るさは、それほどでもない。入口付近で、ふらふらと外へ荷
     (千両箱)を運ぶ百姓風の男をムチ打つ家臣の一人(家臣A)。
    家臣A「こらぁ! もたもたするな!!」
     倒れて荷を落とす男。起き上がり、ふたたび荷を持って、よろ
     よろと倒れそうに担ぐ。虚ろな表情で衰弱しきっている。坑外
     へ出て、漸く荷車へ荷を降ろす男。
21. 同 (外)・昼
     その光景を雑木林から遠目に見ながら、
    お蔦  「ひどいこと、しやがる…(怒った表情で)」
22. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
     柳、屋形船あり。お蔦と仙二郎が、いつもの橋の上で話して
     いる。
    仙二郎「そうか…、山中で改鋳してやがるとはなあ。随分と手が
        込んでるぜ。直接の殺しは今の所(とこ)やっちゃいめ
        えが、このまま手放しで放し飼い、とはいかねえやな」
    お蔦  「手筈かい?」
    仙二郎「まあ、待て。…数日、猶予をくれ。だが、皆には、それとな
        く云っといてくれ」
    お蔦  「二度手間だよ(不満げに)」
    仙二郎「…それもそうだな。伝えるのは、手筈の前でいいか」
    お蔦  「そいじゃ三日後、寝入った頃に叩き起こしに行くよ」
    仙二郎「はは…寝ちゃいねえや。閂(かんぬき)は開けておく。だ
        が、四ツは遅(おせ)いな。出来んなら五ツにしてくれる
       か」
    お蔦  「細かい注文だねぇ。…分かった、そうするよ」
     その言葉を最後に、お蔦、辺りを窺うと瞽女(ごぜ)に戻って
     歩き出す。
     仙二郎も反対方向へと歩き去る。

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2012年3月27日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(6)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (6)

   仙二郎「ついに死人が出ましたか…」
   宮部  「この頃の物価高は半端じゃありませんからね」
   仙二郎「そういうことです。我々は、まだ首を括(くく)らずに済んで
        おるだけ増しなんですかな?」
   宮部  「そうですよ。お上の御威光で、袖の下も入りますし…」
   仙二郎「(小笑いして)そうそう。それがあるから、やめられません」
   宮部  「(指を口先に立て)板谷さん! 余り大きな声を出さないで
        …」
     二人に近づく通行人。仙二郎、思わず首筋を掻き、口を噤(つぐ)
     む。
16. 山根頼母の屋敷(内)・夜
     積まれた千両箱の山が燭台に照らされている。それを満足げに
     見ながら盃を干す山根。嗤う赤ら顔が、蝋燭の明かりで悪どく浮
    かぶ。提(ひさげ)を手にして酌をする和田屋甚兵衛。
   山根  「目付の内藤様には、また適当に当たり障りなきよう申す
        として、パーっと派手に吉原で散財するもよし、屋敷を建
        て替えるもよし…のう、和田屋。だが、急に金回りがよく
        なったと思われるか? 金とは有り過ぎても、なくとも困
        るものよのう…」
   甚兵衛「そのようで…」
     二人、顔を見合わせて悪どく嗤う。
   山根  「音松の方は、ぬかり、なかろうの?」
   甚兵衛「へえ、それはもう…。匂い薬は充分に嗅がせております
        からな」
   山根  「そちは、なかなかの知恵者(ちえしゃ)じゃのう。商人(あき
        んど)にしておくには惜しい…」
   甚兵衛「(ニタッと嗤い)お戯れを…」
     二人、ふたたび大嗤いする。
17. 同 (天井裏)・夜
     いつの間に忍び込んだのか、お蔦が天井板の節目より、下に
     見える山根と甚兵衛の様子を窺っている。
   お蔦  「なるほどねぇ…。こいつらが元締めかい。欲の皮が厚い
        ねえ。下っ端は瀬崎の音松か…、話の筋が読めてきた
        よ」
    そう呟いて、お蔦、闇の中へ消えと去る。
18. 仙二郎の住まい(同心長屋)・夜四ツ時
     仙二郎、布団で寝入っている。閂(かんぬき)がしていない表
     戸がスゥーっと開いて、忍び装束の、お蔦、音もなく入り、枕元
     へ立つ。
   仙二郎「お蔦か…。どうだった?」
     と、仙二郎、微動もせず、寝姿のまま瞼を閉じて云う。
   お蔦  「手短(みじか)に云うよ。上は徒目付(かちめつけ)の山
        根頼母と両替商の和田屋甚兵衛。下働きが瀬崎の音
        松一家だね」
   仙二郎「そうか…、御苦労だったな。続けて、音松の探りを頼む。
        奴ら、どこで贋金を作ってやがるかだ」

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2012年3月26日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(5)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (5)

13. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
    門付けをしている、お蔦。それを少し離れた物蔭から遠目に眺
    める仙二郎。客が二階の障子の隙間から、銭を入れた包み紙
    を下へ落とす。お蔦、それを拾うと、二階を仰ぎ見て、
   お蔦  「また、ご贔屓(ひいき)に!」
    と、声を返して、その場を去ろうとする。二階の障子戸が閉ざさ
    れたのを確認して、仙二郎、足早やに、お蔦へと近づく。
   仙二郎「ちょいと、手間とらせるが…」
    仙二郎、ひと声かけると、お蔦を尻目に通り過ぎる。お蔦、無言
    で辺りを窺った後、仙二郎が歩き去った方向へと歩き始める。
14. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。いつもの橋の上(定位置)で語り合う仙二郎と、
    お蔦。
   お蔦  「今日は、どんな用なんだい?」
   仙二郎「なあに…。用というほどのこたぁねえんだがな。お前(め
       え)の身軽さで、ちょいと調べて貰いてぇことがあってな
       …」
   お蔦  「そろそろ、お呼びが掛かると思ってたよ。贋金の一件だ
        ろ?」
   仙二郎「はは…(小笑いして)流石は、お蔦姐(ねえ)さん。…図星
        だ」
   お蔦  「根が深そうだから、三日ほどって訳にゃいかないよ(手
        の平を仙二郎の前へと差し出し)」
   仙二郎「(お蔦の手の平へ一朱銀を二枚乗せ)分かってる…。何
        ぞ分かりゃ、長屋へ舞い降りてくれ。宵、五ツから四ツが
        いいな」
   お蔦  「雨漏りさせるのも何だからさ、閂(かんぬき)開けといと
        くれ(二朱の銭を懐へと納め)」
   仙二郎「(小笑いして)小さな親切って所(とこ)か? 分かった、
        そうしよう」
   お蔦  「盗っ人に盗られる物もなさそうだからね(小笑いして)」
   仙二郎「お前(めえ)の悪い所(とこ)は、いつも、ひと言、多いとこ
        だ」
    二人、顔を見合わせて大笑いするが、すぐに沈黙し、目と目で
    別れを云う。仙二郎が背を向けた後、お蔦、瞽女(ごぜ)へと戻
    り、反対方向へと杖をついて歩き去る。
15. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    瓦版売の男が瓦版を売っている。宮部、仙二郎の二人、昼食
    にしようと、うどん屋に近づいて、それに気づく。
   瓦版売「さあ、買った買った!! 驚いちゃいけないよ。今、巷を騒
        がす贋金騒動。遂に首を括(くく)る者が出たってんだ
        から、人ごとじゃあない。詳しいこたぁ買って読んどく
        れ、ってんだ! さあさあ!!」
    瓦版売の威勢のよい掛け声に、通行人達、周囲を取り巻い
    て、我先にと買う。
   瓦版売「押さずによぉ~、まだまだあるからね。四文だよ四
        文!!」
    その熱気が仙二郎や宮部にも伝わる。

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2012年3月25日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(4)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (4)

   お蔦  「今の所(とこ)、十手の声が掛からないが、手筈になりそうな
        話だね」
   又吉  「…。(影車の口調になり)また、忙しくなるってか?」
   お蔦  「そうなるかも…、って話さ」
   又吉  「修羅場は嫌なんだがな」
   お蔦  「仕方ないさ、そうなりゃ…」
   又吉  「だな…」
    お蔦、その後は無言で蕎麦を食べ続ける。又吉も、自ら話そうとは
    しない。屋台が静寂に包まれる。
11. 両替商・和田屋の店(内)・夜
    徒目付(かちめつけ)組頭の山根頼母が密かに来訪している。和
    田屋甚兵衛は堤(ひさげ)を持ち、酒を山根の盃へ注ぐ。接待の豪
    華な馳走の膳が出され、二人は談笑している。
   山根  「そちも、かなりの悪よ。小判を密かに改鋳しておるとは…。
        私腹を肥やし、この日の本を牛耳る所存と見える…」
    そう云いながら嗤って盃を干す山根。
   甚兵衛「めっそうもないことで…。山根様の足元にも及びませぬ」
   山根  「こ奴、云いおるわ(嗤って)。それにつけ、瀬崎の音松を手
        足で使うとは、なかなか考えたものよのう」
   甚兵衛「瀬崎の親分は、何かにつけて顔が広いと聞きましたもの
        で…」
   山根  「今、街道筋で売り出し中の親分だそうだな。そのうち一度、
        顔を出すように申せ」
   甚兵衛「畏(かしこ)
まって御座居ます。そのように伝えておきます
        る」
    と云いながら、傍らの袱紗(二十五両包み金四ヶ)百両を山根の
    前へスゥーっと差し出す。
   山根 「おう! いつもながら、済まぬのう…」
    盃を干しながら、見ずにもう片方の手で引き寄せる山根。当然だ、
    と云わんばかりの何げない所作である。 
12. 瀬崎の音松一家(内)・夜
    行灯の灯りが揺れる。不気味に浮かぶ苦みばしった音松の顔。
    情婦に酌をさせ、杯をグイッ! と、一気に飲み干す音松。
   情婦  「お前さんも阿漕が過ぎるんじゃないのかえ?」
   音松  「ふん! 馬鹿を云うねぇ(銚子で注がれた酒を飲みつつ)。
        人様を、あやめてる訳じゃねえんだ。ほんの少しばかり、
        金の巡りを良くして貰ってるだけよ」
    と、嘯(うそぶ)く音松。杯を置き、情婦の胸元へ手を滑り込ませ、
   音松  「そのうち、お前(めえ)にも、お大尽の暮らしを、させてや
        るからな」 
    と、耳元へ囁く。情婦、微かに笑う。
   情婦  「早くしておくれよ。老いぼれるまでは待てないからね」
   音松  「分かった、分かった…」
    情婦を押し倒す音松。情婦、音松の、いいなりになる。

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2012年3月24日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(3)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (3)

    仙二郎「そりゃそうですな。しかし、できれば、退職するまでに一度
         は御用にしたいですなあ、こんな連中を…(笑いながら)」
    宮部  「(笑いながら)そうですねぇ」
     二人、うどんを食べ終えると小銭を置いて立ち上がる。
    仙二郎「親父! 勘定、置いとくぜ」
     仙二郎と宮部、入口の暖簾を上げ、ゆったりと外へ出る。奥から、
    親父  「有り難(がと)やしたぁ~」
    店女  「有り難う御座居ましたぁ~!」
     と、口々に声が飛ぶ。
8.  江戸の街通り・うどん屋(外)・昼
     『みかさ屋』を出て、街通りを並んで歩く二人。
    仙二郎「さっきの話なんですが、贋金作りの探りは進んでるんで
         すか?」 
    宮部  「南、北は問わず、加えて、勘定奉行所などの探索方は、
         総出で探ってるようですが…」
    仙二郎「(小笑いして)また、人ごとのように云われましたな」
    宮部  「あっ、いけない。(小笑いしながら)私の悪い癖ですから、
         聞かなかったことにして下さい」
    仙二郎「はぁ、それはもう。毎度のことですから」
    宮部  「まあ!!」
     二人、大笑いする。
9.  蕎麦屋の屋台(外)・夜
     又吉の屋台が街通りに出ている外景。小雪が湿っぽく降って
     いる。仄かに映える提灯の灯り。そこへ、お蔦が瓦屋根より物
     音一つ立てず舞い降り、屋台へと近づく。
10.  同 (内)・夜
     又吉が店の準備をしている(葱を刻んだりする雑事)。お蔦、暖
     簾を潜って入ると、黙ったまま、ゆったりと床机に座る。又吉、
     顔を上げて勢いよく、 
    又吉  「いらっしゃいやし!! 冷えやすねえ…」
    お蔦  「ああ…。熱燗がありゃ、一本、欲しいくらいのもんさね」
    又吉  「(笑って)その内、出しやすよ。今日は、どうしやしょう?」
    お蔦  「天麩羅を乗せて貰おうかね」
    又吉  「へいっ!!」
     又吉、慣れた手つきで調理を始める。
    お蔦  「最近、贋小判が出回ってるそうじゃないか」
    又吉  「らしいですねぇ。儂(あっし)らの日銭稼ぎにゃ、小判な
         んざ滅多と拝めやせんがね。へいっ! お待ち」
     話しながら天麩羅を鉢へ乗せ、お蔦の前へと置く又吉。お蔦、
     割り箸を取る。
    お蔦  「私だって同じさ。どういう訳か、貰えるお足にゃ小判が
         ない」

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2012年3月23日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(2)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (2)

3. 北町奉行所(同心部屋)・朝
    同心達が机に座り、同心頭の村田が来るのを待っている。宮部と仙
    二郎の姿は、まだない。雑然と、同心達が話をしている。
4. 同 (渡り廊下)・朝
    宮部と仙二郎が、バタついて廊下へ入ってくる。その後方に現れた
    村田。
   村田  「これは、ご両人。お早い御出勤ですなぁ~(不気味に優しく)」
    後方から声がして、宮部と仙二郎、慌てて振り返り、どちらからともな
    く、「おはよう御座居まする!!」と挨拶し、歩を速めて同心部屋へと急
    ぐ。
   村田  「(歩きつつ)まあ、よいか…」
    と、小笑いして黙認する。
5. 同 (同心部屋)・朝
    宮部と仙二郎、息を切らしながら足早に自席へと着く。着いて二人、
    一応は安息する。そこへ村田が入ってくる。騒然としていた部屋内
    が一瞬にして物音一つ、しなくなる。
   村田  「なんだ? 賑やかにやってくれよ…。皆、俺がそんなに恐ろ
        しいか?(笑顔で)」
    一同、押し黙って答えようとしないが、
   仙二郎「はい!」
    と、一人答える仙二郎。一同の視線、仙二郎に集中。一瞬の間合
    いを置き、部屋内は爆笑の渦。村田も笑いの渦中。一人、宮部だ
    けが、「また、いらないことを…」という表情で項(うな)垂れる。

6. 江戸の街通り・うどん屋(外)・昼
    『みかさ屋』という暖簾が微風で揺れるうどん屋の外景。街通りを
    往き交う町人達。

7. うどん屋(内)・昼
    宮部と仙二郎が、いつもの店で、昼食のうどんを啜っている。そこ
    へ、暖簾越しに、奥の方から店女と店の親父の話し声が聞こえ
    てくる。二人、聴くではなく、その話を聞いている。
   親父  「いや…この小判は間違(ちげ)えなく本物だ。色艶が違わ
        ぁな」
   店女  「そうですかぁ? 私には贋のように思えるんですけど…」
    そんな二人の話を耳にして、
   宮部  「そういや最近、贋小判が、かなり出回ってるそうですよ」
   仙二郎「そのようですなあ。その所為(せい)か、物の値も高騰して
        ますしねぇ」
   宮部  「そうそう…(うどん鉢の出汁を啜って)。皆さん、暮らし向き
        が大変みたいですねぇ…」
   仙二郎「はは…(小笑いして)宮部さんにしては人ごとのような物云
        いですなあ(鉢の汁を吸いきって)」
   宮部  「そんな訳でもないんですけどね。私には、どうにもならない
        事ですから…」

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2012年3月22日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(1)

      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (1)

    あらすじ
 春、未だ遠い極寒の中、物価高に喘ぐ町人達。それは、急に出回り
 始めた大量の贋小判によるものであった。徒目付(かちめつけ)組頭・
 山根頼母(たのも)は、その贋小判探索を命じられていたが、その立
 場を利用して両替商・和田屋甚兵衛と結託。その甘い汁を吸ってい
 た。和田屋は瀬崎の音松一家を利用して小判を改鋳。贋小判を密か
 に世に流し、莫大な利益を欲しいままにする。お蔦の探りで、ワル
 達の所業を知った仙二郎は怒り…。今回は、小判の真贋で騒ぐ町衆
 を尻目に、悪事の数々を事も無げに行うワル達を手筈し、一掃する影
 車の活躍を描く、今シリーズ最終回である。

    登場人物

  板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)

1. 仙二郎の住まい(同心長屋・部屋内)・雪の朝
    タイトルバック
    仙二郎が目覚める。布団から抜け出し外の明るさに薄目を
    開ける。いつもの明るさではなく、雪明りにより早暁にもかかわら
    ず随分と明るい。仙二郎、起きると障子を開け廊下へ出る。そし
    て板戸を少し開け、外の様子を窺い、
   仙二郎「雪か…。偉(えれ)ぇ、積もりやがったなぁ…。ふぅ~、寒い
        や」
    と、ぼやく。板戸を閉め、障子戸より部屋へと戻り、布団へ潜り込
    む。そして、
   仙二郎「ああ…休みてぇ…」
    と、情けなそうな声を上げる。
2. 仙二郎の住まい(同心長屋・外)・雪の朝
    深々と粉雪が舞い降りている。雪明りに浮かぶ長屋の全景を、
    カメラ、少しずつ俯瞰して撮る。 
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も
        南もワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒しま
        す…」
    タイトル「影 車」、テーマ音楽など。

              流れ唄 影車(挿入歌)

           水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲   

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年3月21日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(18)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(18)

41. 同 (内)・昼
     見事に破壊された内部の様子。出入りの凄まじさを物語る。
    宮部  「(咳込んで)汚いわねぇ~。私、こういう所(とこ)苦手なの」
    仙二郎「贅沢(ぜいたく)を云っちゃぁいけませんよ、宮部さん…(と、云
         いながら辺りを見回し)。とは云うものの、確かに汚いですな
         あ…。こりゃ、健康によくない。村田さんには適当に報告しま
         すか?」
    宮部  「そうそう、そうしましょ。どうせ、影車がやったことですしね。
         無駄無駄! …ああ無駄」
     言葉より先に足が外へ動いている宮部。仙二郎も宮部に追随し
     て、廃屋を出る。
42. 同 (外の戸板)・昼
     戸板に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手筈
     を受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
    N   「手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
43. 同 (外)・昼
     廃屋から離れていく仙二郎達(話し合う二人)の歩く姿。
     テーマ音楽。
44.  エンド・ロール
     F.O
     T「第九回 追っ手  完」

                              第九回 追っ手 完               

               
流れ唄 影車(挿入歌)

           水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄

              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄

             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年3月20日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(17)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(17)

    一瞬、出来た隙。仙二郎、その隙に動揺せず、折れた刀を離すと、
    刹那に脇差を抜き、風丸へと投げる。脇差、風丸の胸倉に突き刺
    さるS.E。
S.E=ブシュ~っという、牛、豚などの肉会ををナイフ等
    で切り裂く音。
風丸、ゆっくりと地へ崩れ落ちる。
   仙二郎「やれやれ…(溜め息を、ゆったりと吐き、地面上の折れた刀
        を拾い、鞘へと納め)高くついたな…」
    仙二郎、続いて風丸に刺さった脇差を抜くと、それも鞘へと納め、
    歩き始める。

    (テーマ曲のオケ3 オフ)
    様子を外で眺めていた伝助、

   伝助  「あっしの出番は、やはり無かったですねぇ…」
   仙二郎「(小笑いして)お前(めえ)の出番がありゃあ、偉(えれ)ぇこと
        に
なってるぜぇ。無くて、よかったのよ」
   伝助  「へぇ、そのとおりで…(殊勝に)」

    お蔦、又吉、留蔵も次々と現れる。
   留蔵  「手筈で皆が顔、揃えるこたぁ、そうあるめえ(小笑いして)」
   又吉  「…だな」
   お蔦  「皆、首が繋(つな)がってるから、そんな呑気なことが云えん
        のさぁ」
   仙二郎「(小笑いして)違(ちげ)ぇねえや…」
   お蔦  「そいじゃ、私ゃ、ひと足お先に失礼するよ(小笑いして)」
    と云うと、お蔦、素早い忍びの動きで走り去る。
   仙二郎「(懐[ふところ]から一枚の紙を出して)伝助、これを刺してお
        いてくれ」
    と、手渡して歩き始める。留蔵、又吉も、それぞれ違う方向へと歩
    き去る。
40. 同 (外)・昼
    事件現場へ行くよう命じられた仙二郎と宮部。二人、廃屋近くへ
    と接近する。野次馬は、いつもより少ない。
   宮部 「何かの仲間割れだと聞きました」
   仙二郎「影車にしちゃ、いつもとは、ちょいと違いやしませんか?」
   宮部  「そんなこと、私に訊かれたって分かりませんよ」
   仙二郎「(小笑いして)はは…。そうでした」
    廃屋を取り囲む数人の下役人。御用棒を持ち、周囲を警戒してい
    る。仙二郎と宮部、廃屋に到着。風丸の死体が転がってるのを横
    目に、仙二郎と宮部、入口に至る。
   下役人「御役目、御苦労に存じます!」
    と云うと、二人を、サッと中へ通す。二人、廃屋へと入っていく。

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2012年3月19日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(16)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(16)

36. 街外れの廃屋(内)・夜
      (ふたたび、テーマ曲のオケ1 イン)
     土丸の崩れた音に気付いた風丸と火丸、ふらつきながら水瓶へと
     近づき、持っている手拭を水に浸けると顔を濡らす。そのあと絞っ
     て、口、鼻へ宛行う。
    風丸  「火丸! …ぬかるな」
    火丸  「誰だ!! お蔦か?!」
     静寂が流れるのみで、何の返答もない。
    風丸  「どうも、そのようだな(天井を鋭い視線で眺めながら)」
     風丸、燭台へと近づき、蝋燭の炎を吹き消す。
      (テーマ曲のオケ1 オフ)

37. 同 (内)・別部屋・夜
      (テーマ曲のオケ2 イン)
     暗闇の中に怪(あや)しく光る留蔵の顔。留蔵、部屋の片隅で携帯
     用の鞴(ふいご)を、ゆっくりと押し続ける。携帯火鉢の炭が赤々
     と熾(おこ)り、 その中に、真っ赤に焼けた鉄製の火箸がある。深い
     溜め息
を、ひとつ吐(つ)き、頷いた留蔵、部屋の戸を静かに開ける。
38. 同 (内)・夜 
     留蔵、火丸の背後へと回り、首を後方から掴もうとする。それを見
     た風丸、ふらつきながらも背の刀を抜き、留蔵を一撃。留蔵、危う
     く身をかわし、火箸で刃を払うS.E。S.E=カキィ~ンという金属
     音。その時、天井より、お蔦が舞い降りる。お蔦と風丸の立ち回り
     (殺陣)が続く。風丸と、お蔦、縺(もつ)れて床板を転がり、また離
     れて構え合う。その間に留蔵、ふたたび火丸の背後に回ると首
     を左手で掴み、右手の火箸を両眼へと押し当てる。(ジュ~~と
     いう焼入れの音S.E)絶叫する火丸。気づいた風丸、咄嗟(とっさ)
     に風剣を見舞う。風剣、留蔵の肩を抉(えぐ)って風丸の手に戻
     る。留蔵、火丸を掴んだ手を離し、肩押さえる。火丸、喚(わめ)き
     ながら、背の刀を抜き、見えない両眼で遮二無二、留蔵に迫る。
     留蔵、かわしながら後
退(あとずさ)りする。お蔦、留蔵の危険を回
     避すべく、留蔵の位置へと跳び、火丸の首筋を居合い斬る。火丸
     の首筋から激しく吹き散る血しぶき。それを見た風丸、戸板を突
     き破り、外へと逃避をはかる。
      (テーマ曲のオケ2 オフ)

39. 同 (外)・夜
      (テーマ曲のオケ3 イン)
     戸板を突き破って出てきた風丸、走り去ろうとする。その時、待ち
     構えていた仙二郎、
    仙二郎「待ちやがれ!」
     と、風丸の行く手に立ちはだかる。風丸と仙二郎、対峙して互いに
     間合いを取り、渡り合う(殺陣)。風丸、手裏風剣を仙二郎めがけて
     投げる。楕円を描いて仙二郎に迫る風剣。仙二郎、かろうじて刀で
     払い落とすS.E。S.E=カキィ~ンという金属音。仙二郎の刀、折
     れる。

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2012年3月18日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(15)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(15)

    仙二郎「最後は、お蔦か俺で引導を渡すとしてだ。問題(もん
        でぇ)は、俺が背後にいると、奴らが知ってやがるこっ
        た。そこでだ。幸い、留と又のこたぁ知らねえのが
        味噌よ。奴らの塒(ねぐら)は、お蔦が云った廃屋と迄
        は分かってる。一人だって逃がすんじゃねえぞ。逃が

 
       しゃ、伊賀から、また追ってがかかる。手筈どおり、し
        っかり頼んだぜ」
     留蔵、又吉とも黙って頷く。伝助、土間に立てられた蝋燭の
     炎を吹き消す。暗黒の闇。
32. 街外れの廃屋(内)・天井裏・夜
     又吉が医者の幻斎から手に入れた或る種の睡眠導入剤
     (煙幕)が、風丸、土丸、火丸の三人を昏睡へと誘(いざな)う。
     ウトウトと、首を縦に振り、眠り始める三人。天井裏のお蔦、
     同じく天井裏に潜む又吉へ、片手を上げ合図を送る。又吉、
     黙って頷き、お蔦を見る。
33. 同 (内)・天井裏・夜
     (テーマ曲のオケ1 イン)
     土丸、柱に凭(もた)れた姿勢で首だけ項垂(うなだ)れ眠り
     だす。その時、土丸の真上の天井板が音もなくスゥーっと
     開き、両腕と鉄製の大丼鉢が現れる。大丼鉢、土丸めがけて
     垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼鉢。呻く土丸。
     S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)。土丸、頭に鉢を被っ
     た状態で暫し氷結し、その後、ゆったり前のめりに崩れ落ち
     る。
     (テーマ曲のオケ1 オフ)
34. 頭部のX線撮影された映像 C.I
     シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像を、
     カメラ、アップ。
     C.O
35. 病院の診察室・現代
     医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書い
     ている。カメラ、医師の姿をアップ。医師、机上にある勢力増
     強ドリンクを一気に飲む。それから徐(おもむろ)にシャウカ
     ステン上のフィルム映像を見て、カメラ目線で素人っぽく、
    医師  「(またか…と、云わんばかりに、だれて)もう、云う必要

        もないでしょう(笑って)。いつもの即死です(欠伸をする)。
        それよリ、若い妻を貰うと大変ですなあ。バイアグラと
        コレですよ(大笑いして)」

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2012年3月17日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(14)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(14)

   仙二郎「どっちが四分でぇ?」
   お蔦  「十手の方が少しは増しだろうが、三人に丸陣を組まれりゃ、
        油断は出来ないよ」
   仙二郎「算段を充分考えてからの手筈、ってことにしよう。又や留を
        上手く動かさなきゃな。奴らに外で動かれりゃ、仕留めるのは
        難しいぜ…。それよか、三人を首尾よく始末したとしてだ。伊賀
        から、また新(あら)手を送ってこねえか?」
   お蔦  「丸陣が倒されたと聞き、諦(あきら)めるだろうさ。それ以上の
        腕は私が知る限り、今の伊賀じゃお頭(かしら)ぐらいだから
        ね…」
   仙二郎「そうか…。それじゃ、明日の宵五ツ、いつもの所(とこ)だ。皆
        を集めろい」
   お蔦  「分かったよ…。これ、少ないが皆に渡しておくれ(袂[たもと]
        より、小判三枚を取り出して)」
    三両を仙二郎に手渡す、お蔦。仙二郎、受けとると、
   仙二郎「お前(めえ)が殺られちゃ、俺達の世直しも、それまでよ。皆、
        金なんぞいらねえと云うだろうが、一応、預かっておこう」
    と云いながら袂(たもと)より内へ手を通し、金を懐へと納める。お蔦、
    それを見届けると、橋を忍び風に素早く走り去る。
31. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    粉雪の鱗粉が舞い飛ぶ肌寒い夜。仙二郎を筆頭に五人の面々が
    一堂に会する小屋の中。土間に立てられた蝋燭の炎が、時折り、隙
    間風に激しく揺れる。
   仙二郎「相手は凄腕の忍びだ。云ったとおりの手筈でやってくれ。伝
        公…今回ばかりは、お前(めえ)の出番はねえぜ。万一の連
        絡役を頼む」
   伝助  「合点! 上手(うめ)ぇ具合(ぐえぇ)に、晒した時の立て札が
        底をついてやして、作ってる矢先で…」
    全員、どっと笑う。
   仙二郎「お蔦から一両ずつは預かってるが、お前(めえ)達、銭は、い
        るけぇ?」
   又吉  「馬鹿を云うねえ。俺達だって藩から追われの身よ。お互(て
        げ)い様だ」
   留蔵  「そうともよ…」
   仙二郎「そう云うとは思ったが、一応、訊いた迄だ。伝助は休業だ
        しな(伝助を垣間見てニタッと笑い)」
   留蔵  「十手は、どうなんだ?」

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2012年3月16日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(13)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(13)

   土丸  「そうだな…。お蔦の忍び技、見たのは随分と前だからな」
    火丸  「ああ…」
    風丸  「さて、どうなるかな…」
    土丸  「風丸の風剣。必殺技だが、見るのは久しぶりだ」
    火丸  「そりゃそうよ。太平の御時世じゃ必要ねえしなあ…。無
        用の長物よ。忍びも、お庭番や隠密、それに密偵にでも
        なれりゃ、しめたものだが…腕も廃(すた)るぜ」
     三人、不気味な薄嗤いをする。
29. 茶屋(狭い路地)夕暮れ時
     お蔦、今日は門付けはせず、茶屋前を横切ろうとする。その時、
     どこからともなく舞い飛ぶ風剣(今でいうブーメラン風の手裏剣)
     が続けざまに二度、お蔦を襲う。お蔦、咄嗟(とっさ)に仕込み杖
    を抜き振り落とすS.E。S.E=カキィーンという金属音。そして、
     危険を察知して、屋根瓦へと跳び、姿を晦(くら)ます。それ

    て、軒蔭に潜んでいた風丸、姿を現す。
    風丸  「さすが、不知火のお蔦。腕は衰えちゃいねえようだな…」
     その時、右斜めの屋根上から声が飛ぶ。
    お蔦  「風丸かい…、久しぶりじゃないか。孰(いず)れケリはつけ
         させて貰うよ」
     風丸、声がする方へ顔を向け、お蔦を確認すると、ふたたび手裏
     剣を投げようとする。が、しかし、お蔦の姿は、その時、屋根上には
     もうない。風丸、敢えて深追いしようとはしない。
30. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
     柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が会話している。お蔦は、忍び装
     束である。
    お蔦  「相手も同(おんな)じこと考えてんだろうが、忍びを仕留め
        るにゃ、まずは、動きを封じることに尽きるよ」
    仙二郎「相手の足を狙うって訳か…。で、お前を追う忍びは、何人
         でぇ?」
    お蔦  「風丸がいるとなると、恐らく残りの二人も動いてるだろうか
        ら、少なくとも三人…は、いるよ」
    仙二郎「よく知ってる奴らか?」
    お蔦  「ああ…。風丸、土丸、火丸の三人さ。伊賀じゃ、丸陣の三人
        衆って恐れられてる奴らだ」
    仙二郎「それで、腕は?」
    お蔦  「斬り合いとなりゃ、十手が数段、上だろうが、忍び技を使わ
         れた日にゃあ、四分六ってとこか…」

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2012年3月15日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(12)

      影車      水本爽涼          
    第九回 追っ手(12)

仙二郎「お前(めえ)に追っ手が迫ってるこたぁ違(ちげ)ぇねえだろうが、
        なぜ忘れた時分の今なんだ? それが腑に落ちねえ」
   お蔦  「私だって同(おんな)じさね。もう、伊賀のことなんか忘れち
        まったよぉ」
   仙二郎「まず、追っ手が何人かだが、その辺りを見極めなくちゃ、な
        らねえな。ケリをつけるこたぁ、それからの話だ」
   お蔦  「忍びは素早いからね。皆で当たっておくれでも、いつものよ
        うな生半可にゃ、いかないよ」
   仙二郎「孰(いず)れにしろ、その時ゃ、俺が手筈を考えるがな」
   お蔦  「ともかく、私を皆で守ってくれんなら、有り難い話だけどね」
   仙二郎「お前(めえ)が殺られりゃ、これからの影車が立ち行かねえ
        からなあ…(小笑いして)」
    お蔦も静かに笑う。
   お蔦  「暫く、門付けは止(や)めた方がよさそうだね」
   仙二郎「そりゃ、そうなんだがな…知った上で誘い出すっていう手
        立ても、あるこたぁある」
   お蔦  「そうだねえ…。まあ、私は私で奴らの動きを探ってみるよ」
   仙二郎「ああ…。だが、余り無茶はするなよ。相手は、お前(めえ)と
        同じ、忍びだからな」 
   お蔦  「分かってるさ。これでも、伊賀にいた頃にゃ、腕は一、二と
        云われた不知火のお蔦姐(ねえ)さんだ。そう、やすやすと
        は殺られないよ」
   仙二郎「俺も、そうは思うがな…念を入れたまでだ。それじゃな…。
        なんぞありゃ、俺の長屋に舞い降りて伝えてくれ」
   お蔦  「ああ…」
    二人、互いに反対方向へと橋を去る。今日の、お蔦は、瞽女(ごぜ)
    には戻らず、素早い身の熟(こな)しで、舞うように消え失せる。 
27. 街外れの廃屋(外)・夜
    小雪が静かに舞い降りている。辺りは夜の闇だが、雪明りが廃屋
    の
輪郭を鮮明に浮き上がらせる。
28. 同 (内)・夜
    伊賀・丸陣の三人が語らう部屋。中央に燭台を置き、それを取り
    囲むように車座を組んだ三人、胡坐(あぐら)をかいて座る。
   風丸  「取り敢えず、一度、俺が仕掛けてみる。お蔦の腕、今は如
         何ほどのものか、試してから三人で掛かっても、遅くはあ
         るまいて…」

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2012年3月14日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(11)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(11)

24. 街外れの廃屋(内)・夜
    新しく見つけた隠れ家の廃屋で語らう風丸、土丸、火丸の三人。
    燭台の蝋燭が怪(あや)しく揺れる。蜘蛛の巣が部屋の隅で時折り
    戦(そよ)ぐ。埃(ほこり)で薄汚れた床板。畳も半ば朽ちている。
   土丸  「今、話したとおり、お蔦は、その茶屋周辺を根城にしてい
        ることに、まず相違あるまい…」
   風丸  「と、なると、如何にして始末するか…、その手立てだな?」
   火丸  「俺の火薬は、素早い不知火相手じゃ、効果なかろう」
   土丸  「俺の撒き菱崩しだとて、同じよ」
   風丸  「効果があるとすれば、俺の技、手裏風剣だが…」
   土丸  「首尾よく足を仕留めてくれりゃ、お蔦は飛べねえ。そうな
        ると、俺の技も出番があるんだがな」
   火丸  「俺も同(おんな)じだ。相手が止まってくれりゃ、爆裂弾は
        投げられるぜ」
   風丸  「丸陣を組み、三人で動くとしてだ。やはり、俺の腕次第か…」
   土丸  「そうだな…」
   火丸  「ああ…」
    二人、同時に頷いて首を縦に振る。
25. 茶屋(狭い路地)夕暮れ時
    門付けを済ませた、お蔦。その場を去ろうとする。その時、対面
    から仙二郎が歩いて近づく。擦れ違いざま、小声で、
   仙二郎「いつもの橋だ…」
    とだけ呟くと、通り過ぎる。お蔦、辺りの気配を窺った後、少し離れ
    て仙二郎の後方を歩む。その様子を虚無僧姿の土丸が物蔭に
    潜んで見ている。
   土丸  「役人の下っ働き、やってるようだな…(深編み笠から覗き)」
    と呟き、スゥーっと消える。お蔦、殺気を感じ、足を速める。
26. 河堀(橋の上)・夕刻
    柳、屋形船あり。いつもの橋上(定位置)で語り合う仙二郎と、お
    蔦。
   仙二郎「つけ狙われてるそうだな」
   お蔦  「どうも、そのようだねえ…。今し方も、誰かに見られてたよ
        うだよ」
   仙二郎「なにっ?! 茶屋前(めえ)で、けぇ?」

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2012年3月13日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(10)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(10)

21. 茶屋(狭い路地)・昼
     正月も過ぎ、明日は早や如月の声を聞こうという前日の昼下がり。
     暫くぶりに、お蔦が門付けをしている。小粋な三味の音(ね)が辺り
     に流れている。その姿を遠目に探る人影…伊賀・丸陣の一人、土丸
     である。虚無僧姿の土丸。
    土丸  「漸(ようや)く見つけたぜ、不知火の、お蔦。こんな所(とこ)
        にいやがったか。早速、風丸達に知らせないとな…。俺一
        人では手強(ごわ)い。それにしても、こんな目と鼻の先に
        いやがるとは…江戸も広いようで狭いってことになるな
        …(北臾笑み)」
     気付かず弾き続ける、お蔦の姿を、もう一度、鋭い視線で確認し
     た後、土丸、素早く姿を消す。辺りには、すでに冬の宵闇がま迫
     っている。
22. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
     床机に座り、いつもの、かけ蕎麦を啜る仙二郎の姿がある。
    仙二郎「そうか…。そんなことがあったとは、な」
    又吉  「(影車の口調で)暫くは出歩かねえ方がいい、とは云っと
         いたんだがな。あれが正月で…、今はもう如月(きさら
         ぎ)だからなあ」
    仙二郎「門付け、始めてるか?」
    又吉  「ここん所(とこ)、お勤めの声もねえから、俺達も稼がねえ
        とな」
    仙二郎「そうだな…そりゃ仕方ねえや。だが、お蔦も追われる身だ、
        油断は出来ねえな」
    又吉  「そういうこった…。何事もなきゃいいんだが」
    仙二郎「(汁を啜り)俺も、暇なとき、様子を覗いてみらぁ」
    又吉  「そうしてやって貰えると有り難(がて)ぇーな。冬場は書
        き入れ時だから、俺は仕込みで手が離せねえ。第(でえ)
        一、幻斎先生の助手もやってるしな。全然、暇がねえん
        だ」
    仙二郎「医者の幻斎先生か? ほぉ~、二束の草鞋けえ。伝公とい
        い、留といい…影車は働き者(もん)ばかりだぜ…(小笑
        いして)」
    又吉  「そうよ。のんびり構えてるのは十手だけだ」
    仙二郎「はは…、云いやがったな」
     仙二郎、また汁を啜り、笑い捨てる。又吉も笑う。
23. 同 (外)・夜
     二人の話は続く。夜は深々と更けていく。

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2012年3月12日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(9)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(9)

   お蔦  「ふ~ん…。身内の誰かを探してんのかねえ」
   又吉  「かも知れねえな…。だが、目遣いが、どうも只者じゃなか
        ったぜ」
   お蔦  「そうかい。まあ、心するよ。伊賀者なら、私ものんびり構
        えちゃいられないからね(笑みを浮かべて)」
   又吉  「そうだな…、注意しろよ。お前(めえ)にゃ抜け忍の過去が
         ある。つけ狙われても怪(おか)しかねえ」
   お蔦  「ああ…(食べながら)」
   又吉  「暫くは、潜んでるこった。上手(うめ)え具合(ぐええ)に、
         今は正月だしな」
   お蔦  「そうするよ…」
    暫くして、蕎麦を食べ終えた、お蔦、銭三十二文を置き床机を立つ。
   お蔦  「そいじゃ…。また、そいつらに会ったら云っとくれ」
    又吉、無言で頷く。屋台を出る、お蔦。その後ろ姿に、
   又吉  「(蕎麦屋の口調に戻って)有り難(がと)やしたぁ!」
    と、声を投げる。
19. 神社の境内・昼
    初詣客の往き来で、ごった返している。客目当ての多くの露天が
    出ている。その中に飴細工の店もある。カメラ、露店風景と通行
    人を流し撮り、その飴細工の店の前で固定して撮る。飴細工の職
    人に上手く化けた伊賀の火丸の姿。火丸、時折り鋭い視線を通行
    人へと投げ、お蔦を探している。又吉や又吉と同じ長屋の子供数
    人の通行する姿もある。
   又吉  「おっ、飴細工か…。よし! おいちゃんが買ってやる。
        皆、好きなのを選びな」
    子供達、歓声をあげ、我先にと飴細工の露店へと駆ける。
   又吉  「危ねえぞ~、転ぶなよぉ~!」
    後ろから聞こえる又吉の声には委細構わず、走る子供達。
20. 飴細工の露店(店前)・昼
    雪崩をうって店頭へ駆け込む子供達。思い思いに細工してある飴
    を選ぶ。後から追いついた又吉。
   又吉  「そんなに急がなくとも、なくなりゃしねえよ(小笑いして)」
    と、子供達を見ながら、ひと声かける。子供達、それぞれに飴を
    選ぶ。
   又吉  「親父、いくらでぇ」
   火丸  「(露天商風の語りで)へえ…今日は正月ですから四文。…正
        月から四文とは縁起が悪いや。よし! 大負けしまさぁ。全部
        で三文、いや、二文でようがす

   又吉  「(懐から財布を出し)元が取れねえ商売させちまったな…」
    と、笑顔で云いながら、二文を手渡す又吉。子供達、すでに飴を
    口に銜(くわ)えている。連なって動き始める又吉と子供達。この
    時点では、又吉も火丸も、互いに刃を交える運命だとは、知る由
    もない。

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2012年3月11日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(8)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(8)

16. 小料理屋の二階(部屋内)・夜
     仙二郎や同心達の新年会。恒例となっているため、皆、気分も和
     み、座はかなりの盛況。仙二郎も浮かれて、得意な裸踊りを披露
     している。だが、今年は時折り、くしゃみをする。それを目敏(ざと)
     
く見つけた宮部、村田に酌をしながら、
   宮部  「あら? 板谷さん、どうしたのかしら?」
   村田  「少し冷えてきたからだろう。気にするな、好きに踊らせてお
        け」
    宮部、黙って頷くが、ふと、
   宮部  「あらっ? 火鉢の熾(お)きが、絶えかけてるわ…(火鉢を覗
        き込み)」
    と呟いて立ち上がり、部屋を出て店の者を呼びにいく。その後ろ姿
    に笑顔で。
   村田  「あいつぁ、女だったらいい世話女房になるんだろうがなぁ…」
    と、ひとり言を吐き、小笑いしながら杯を干す。
17. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    又吉の屋台が街通りに出ている外景。仄かな提灯の灯りが映えて
    輝く。そこへ、お蔦が街並みの瓦屋根より舞い降りて、屋台へと
    近づく。そして、屋台の暖簾を潜る。
18. 同 (内)・夜
    又吉が店の準備をしている(炭火の熾りを確認したりする雑事)。お
    蔦、床机へと、ゆったり座る。気配に気づいた又吉、しゃがんだま
    ま顔を上げて、
   又吉  「いらっしゃい!!」
   お蔦  「精が出るね、正月から…。卵とじで一杯、貰おうかねぇ」
   又吉  「へいっ!!」
    又吉、慣れた手際で、迅速に調理を進めていく。
   お蔦  「正月は、ゆっくりしないのかい?」
    又吉を窺い見て、訊ねる、お蔦。
   又吉  「てぇした楽しみもねえんで…」
    とだけ尻切れ蜻蛉のように答え、
   又吉  「へいっ、お待ち!!」
    と、勢いよく鉢を、お蔦の前へと置く又吉。お蔦、それ以上は訊か
    ず、割り箸をとる。
   又吉  「(急に、影車の声で)ちょいと、お前(めえ)に云っとかな
         きゃならねえんだが…」
   お蔦  「(蕎麦を啜りながら)なんだい? 急ぎの用かい?」
   又吉  「いや、そうじゃねえんだ。この前(めえ)よう、瞽女(ごぜ)のこ
        とを訊く妙な三人組の客がいたんでな…」
   お蔦  「三人組? …よく見る奴らかい?」
   又吉  「いいや、俺が見たのは始めてだ。どうも、ここら辺の奴ら
        じゃねえように思うんだがな」

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2012年3月10日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(7)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(7)

14. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    木枯らしが舞う街通りと屋台を、カメラ、ロングに引く。
15. 留蔵の長屋(内)・昼
    仕事熱心な留蔵だが、流石に正月は休んでいる。杯を干す留蔵。
    うす汚れた着物だが、これでも常に着る襤褸(ぼろ)よりは増し
    な、留蔵にとっては正月用である。そこへ、いつの間にか、音も
    なく家内へ入った、お蔦が立っている。
   留蔵 「門付けは、しねえのか?」
   お蔦  「正月早々、それはないだろ」
   留蔵 「ああ…、まあそうだな。どうだ、一杯、やってくか? 大
        して美味くもねえ酒だが…」
   お蔦  「肴は酢醤油の蛸の足かい? 時化てるねぇ」
   留蔵  「はは…(小笑いして)云いやがったな。大きなお世話でぇ」
   お蔦  「伝助の所(とこ)も寄ったんだがね。あいつは、もっとひど
        いよ」
   留蔵  「だろうな…(微笑んで)」
   お蔦  「(敷居を上がりながら)むさいところは、似たり寄ったりか…
        (辺りを見回して)」
   留蔵  「(盃を、お蔦の前へ突き出して)不満もあるだろうが、正月
        だから、その辺で勘弁してくれ(微笑んで)」
    お蔦、それには答えず、出された盃を屈(かが)んで手にする。留蔵、
    銚子の酒を、お蔦の杯へ注ぐ。お蔦、それをグィッと、一気に飲み
    干す。
   お蔦  「又さんは元気でやってるかい? 暫く御無沙汰だけどさぁ」
   留蔵  「又吉か? あいつぁ、人間じゃねえや、化け物だ(笑って)。
        正月だっていうのによぉ、夜にゃ店だしてるそうよ」
   お蔦 「へぇ~、そりゃ、御苦労なこった。又さん、頑張ってるんだ
        ねえ」
   留蔵  「藩に仕官してた頃から、ああいう奴だったな…」
   お蔦  「そうだった。二人ゃ、同じ藩の浪人だったよねぇ?」
   留蔵  「ああ…」
   お蔦  「(蛸の足を摘んで口へと運び)屋台が出てんなら、今夜でも
        寄っとくよ」
   留蔵  「正月の挨拶か?」
   お蔦  「いいや…、暫く会ってないからねぇ。ちょいと、様子見だ
        よ」
    留蔵、ニタリと笑って杯を干す。長屋を回る獅子舞い講社の笛、鉦の
    音S.E。S.E=横笛と小鉦を叩く音。

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2012年3月 9日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(6)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(6)

   風丸  「今のところ、めぼしい話もないから、そうさなあ…。その女
        を探ってもいいな」
   火丸  「それはいいとしてだ。その女、どこへ出没するか、その辺
        りを詳しく聞き込む必要がある」
   土丸  「そうだな…」
   風丸  「ふぅ~、随分と冷えてきやがった。夜啼き蕎麦でも食って
        体を温めるとするか?」
   火丸  「おう、それはいい。向こうの大筋に屋台が出ている筈だ」
    三人、立ち上がり、大筋へと向かう。孰(いず)れも町人風の着流
    し姿に身を窶(やつ)している。
11. 江戸の街通り(一筋の広い道)・夜
    犬の遠吠えS.E。S.E=ウォー、ワンワンと鳴く犬の声。屋台
    が見える。伊賀・三人衆、町人になりきり、賑やかに語り合いな
    がら屋台へと近づく。
12. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
    又吉が葱を刻んでいる。風丸、土丸、火丸の三人、暖簾を上げ、
    床机へと座る。
13. 同 (内)・夜
   風丸  「ふぅ~、冷えるねぇ。親父さん、かけを三つ頼む」
   又吉  「へぃっ! 毎度!!」
    と即座に応じ、支度を始める又吉。
   土丸  「付かぬ事を訊くんだが、この辺りで瞽女(ごぜ)は見ない
        かい?」
   又吉  「(一瞬、ギクリとするが)ははは…、そう云われましても
        ねえ。瞽女(ごぜ)さんに限らず、今時分は、人通りが
        滅多とありやせんからねえ…(笑って暈す)」
   土丸  「そらまあ、そうだわな。夜分だからなあ…」
   火丸  「昼中(ひんなか)、店で聞いたほうがいいと思うぜ(土丸
        の方を向いて)」
   土丸  「違えねぇや…(小笑いして)」
   又吉  「(鉢を置きながら)へいっ! お待ちっ!!」
    三人、箸を割って食べ始める。暫くして風丸、置いてある竹筒
    に入った七味を多めに鉢へ入れる。続けて、土丸、火丸も入れる。
   又吉  「正月に入って、めっきり冷えやすねえ」
   風丸  「そういや、そうだなぁ…」
   火丸  「その割に雪は舞わねえが…」
   又吉  「あっしは助かりやす(小笑いして)」
    三人、「そりゃ、そうだ」と頷いて、蕎麦を啜る。

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2012年3月 8日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(5)

      影車   水本爽涼          
     第九回 追っ手(5)

9. 堤防(土手の上)道・昼
    お蔦が杖を頼りに瞽女(ごぜ)姿で歩いている。対面から飛脚屋の
    伝助が走ってくる。擦れ違う直前で立ち止まる伝助。
   伝助  「姐(あね)さん、今年も頼んまさぁ!」
    と、息を切らせて云う。お蔦、辺りに人の気配がないかを笠越しに

    確認した後、
   お蔦 「伝助か…。余りこういう人目につく所(とこ)で声、掛けん
        じゃないよ(窘[たしな]めて)」
   伝助  「すいやせん(小笑いして)。それじゃ、孰(いず)れまた…」
   お蔦 「ああ…」
    伝助、走り出す。その後ろ姿に、
   お蔦  「皆(みんな)、元気でやってるかい?」
    伝助、ふたたび止まって振り向くと、
   伝助  「そのようですよ…。よくは知りやせんがね」
    と云い捨てて、走り去る。カメラ、二人の姿をロングに引く。春には
    桜吹雪が舞った土手伝いの道も、今は貧相な桜の幹が見るだけ
    である。
10. 神社の祠(ほこら)の裏手[森の中]・夜
    伊賀・忍び丸の陣の三人衆が話をしている。雨露は凌げるが、夜
    風は冷たい。
   風丸  「もう少し、増しな塒(ねぐら)を探さないとな。ふぅ~、冷えやが
        る」
   土丸 「そうだな。それよか、お前(めえ)の方は、どうだったい?」
   風丸  「いや、さっぱりだ…」
   火丸  「俺の方も、どうもな…」
   土丸  「俺は女郎に聞いた話が一つあるが、当てにはならん」
   風丸  「まあ一応、聞こうか」
   土丸  「その女郎の話だと、門付けして回る瞽女(ごぜ)がいるそ

        うだが…」
   風丸  「瞽女(ごぜ)なんぞ、掃いて捨てるほど、この江戸にゃいる
        ぞ」
   土丸  「それはそうなんだがな。女の話によると、どこか、他の瞽女
        (ごぜ)達とは違うんだそうだ」
   火丸  「どう違うんだ?」
   土丸  「いや、飽くまで、その女郎の勘らしいんだがな」
    風丸、火丸、一笑に付す。
   土丸  「そう笑うな。一応、聞こうというから、云ったまでだ。俺だっ
        て笑える話だ…」

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2012年3月 7日 (水)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(4)

      影車   水本爽涼          
     第九回 追っ手(4)

6. うどん屋(店内)・昼
    仙二郎、宮部が、いつもの店『みかさ屋』で昼食のうどんを食べ

    ている。客の中には薬売り姿に変装した伊賀・忍び、丸陣の一

    人、風丸がいる。
   仙二郎「正月から、うどんとは、情けないですなあ、お互いに…」
   宮部  「まあ、固いことはいいじゃないですか。餅を奮発して、
        力うどんにしたんですから…」
   仙二郎「ははは…、そらまあ、そうなんですがね(苦笑して)」
    二人の会話、途切れる。離れた席で、うどんを食べ終えた風丸、
    小銭を財布から出して席の上へと置き、
   風丸  「親父! ここへ置いとくからな」
    と、云って荷を持つと店を出ようとする。店の奥から、
   親父  「有り難やしたぁ!」
    と、声が店内に響く。店女、小走りに奥から現れ、銭を数えなが
    ら風丸に一礼して、
   店娘  「有り難う御座居ますぅ~!」
    愛想を振り撒く店女。
   宮部  「余り見かけない顔ですね」
   仙二郎「そうですな…」
    二人、うどんを食べながら、風丸が出て行った暖簾の方へと目
    を遣る。
7. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    うどん屋の前。店から出てきた薬売りに身を窶(やつ)した風丸。
   風丸  「昨夜の二人組か…。役人のようだったな」
    と、呟いて店を見遣った後、早足で店前を立ち去る。
8. 北町奉行所(同心部屋)・昼
    注連(しめ)の内ということもあり、出勤者は大幅に少ない。定
    廻りから戻った仙二郎と宮部、自席へと座る。
   仙二郎「早いもので、もう一年経ちましたか…。今年の新年会は、
        いつでしたかね?」
   宮部  「えっ? 確か…十二日の酉の下刻って聞きましたよ」 
   仙二郎「そうですか。(小笑いして)今年も踊りますかな…」
   宮部  「(笑って)楽しみにしてますよ」
    そこへ、村田が現れる。青菜に塩の二人。珍しく上機嫌の村田。
   村田  「なんだ?(後ろからニヤけて二人を覗き込み)正月早々、
        なにかいいことでもあったか? 偉く浮かれてるな…」
   仙二郎「いえ、そういう訳でもないんですが…(神妙な態度で)」
   村田  「まあいい、正月のことだ。(出勤者を見回して)今日は
        早く切り上げていいぞ!」
    その場に居合わせる出勤者一同、歓声を上げる。無論、仙二郎
    や宮部も喜色満面。

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2012年3月 6日 (火)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(3)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(3)

3. 地蔵堂の中(小さな堂内)・夜
    三人の忍びが話をしている。伊賀・忍び、丸陣と呼ばれる風丸、
    土丸、火丸の忍び達である。燭台の蝋燭の炎が揺れる。
   火丸  「俺達にとっちゃ、どっちだっていいんだがなあ…」
   風丸  「そうともよ。不知火のお蔦が抜けて、早や三年か…。
        今更、探し出し始末したところで、一文にもならぬがのう…」
   土丸  「だが、お頭に云わせりゃ、忍びの法度を破って抜けたお蔦
        を、このまま見過ごすのは、伊賀の沽券(こけん)が許さぬ
        と…」
   火丸  「そうよ…。だが、お蔦のような凄腕を破る忍びは、俺達以外
        にそうはおらぬからのう…」
   風丸  「そこで、お頭は、俺達に声をお掛けになったと、…まあ、そう
        いうことか…」
   土丸  「ところで、この広い江戸を如何にして探し出すか…。始末
        をつ
けるより難しい」
    風丸、火丸、ともに頷く。
   土丸  「取り敢えず手分けして、片っ端から当たる他はない」
   風丸  「お蔦が出没する場所か…、難儀な探りだ」
   火丸  「それに、身を窶(やつ)していると思わねばならんからな…」
   風丸  「それは、云えるな…」
    その時、堂前を過(よ)ぎる二人連れの気配。
   土丸  「静かにしろ! 誰か来る」
    と放つと、蝋燭の炎を素早く吹き消す土丸。身を屈め、格子戸より
    外
の様子を窺う三人。
4. 地蔵堂の外(細道)・夜
    仙二郎と宮部が湯屋の帰路を急ぐ。寄り道して又吉の屋台で蕎麦
    を食べた後である。
   宮部  「風鈴蕎麦、いい味をだしてましたねえ(満足そうに)」
   仙二郎「あの屋台は私の行きつけなんですよ。また贔屓(ひいき)に
        して
やって下さい」
    二人、堂前を横切って辻道へと向かう。
5. 地蔵堂の中(小さな堂内)・夜
    格子戸より外の様子を窺う伊賀・忍び、丸陣の三人。仙二郎と宮部
    がると、
   土丸  「通り過ぎたようだな…。ここも余り落ち着けぬわ。他を探すと
        するか…」
   風丸  「その方がよさそうだな。前の道は辻へ抜ける近道とみえる」
   火丸  「時折り人の気配がするからな」
   土丸  「そうよ…」
    と、口々に囁く。暗闇の堂内に声だけが響き、不気味さが漂う。

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2012年3月 5日 (月)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(2)

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(2)

2. 伝助の長屋(内)・朝
   自家製の雑煮を椀から喉へと通す伝助ル貧しさの中にも、庶民が迎え
     
る新年の楚々とした風景がある。
  伝助  「また歳を食っちまったぜ…」
   と、独りごつ伝助。そこへ、姿はないが、声だけが響いて、
  お蔦  「若いお前が云うこっちゃないだろ?」
   辺りを見回す伝助。
  伝助  「姐(あね)さんですかい? 今年も驚かされやすねえ(照れ笑い
       しながら)」
   お蔦、表戸を開け、風のように瞬時に入る。
  お蔦  「独り身は大変だろ? 早く所帯をもった方がいいよ」
  伝助  「ははは…、これで結構、気楽なんですがね(小笑いして)」
  お蔦  「床末(とこすえ)の娘なんかどうだい?」
  伝助  「門前仲町の床屋ですかい?」
  お蔦  「ああ…。なんなら、口を利いてやってもいいよ」
  伝助  「あっしは、まだその気はないんで、それだけは御勘弁を…」
  お蔦  「そうかい。いい娘(こ)なんだが…、惜しいねえ」
   お蔦、いつの間にか敷居に腰を下ろし、話している。
  伝助  「俄か仕立ての雑煮、食っていきやすかい?」
  お蔦  「野暮はなしだよ。美味くなくったって、その気があんなら
       黙って出しな(笑って)」
  伝助  「(立って、鍋から雑煮を木椀へと入れ)違えねぇ(笑って)」
   椀を、お蔦の前へ置き、箸を探す伝助。
  お蔦  「男所帯に蛆がわく、って云うけどさあ。駄目だねえ、お前
       は。椀にゃ箸を添えて出すもんだよ」
  伝助  「(バツ悪く、首筋をボリボリと掻いて)面目ありやせん…」
   と、箸を椀に置く伝助。敷居へと座り、一口、汁を啜る、お蔦。
  お蔦  「根深(ねぶか)は少し荒切りだが、出汁味は、まあまあだねぇ」
  伝助  「そうですかい?(まんざらでもない様子で)」
   雑煮を食べる、お蔦。久々に和んだ表情を浮かべる。

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2012年3月 4日 (日)

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(1)

      影車      水本爽涼

    第九回 追っ手(1)


   あらすじ
 抜け忍の過去を持つ、お蔦。その、お蔦に伊賀・忍び、丸陣(風丸、土丸、
 火丸)と呼ばれる三人の刺客が迫る。今回は、伊賀・忍び、丸陣という追
 っ手に、世直しどころではなくなった、お蔦を手助けする影車の面々と、
 伊賀・忍び、丸陣の三人衆が繰り広げる一大活劇を、新春の江戸の街
 を背景に描く異色作、第二段である。
 
   登場人物
 板谷仙二郎 41 ・ ・ ・ ・ 御家人(北町奉行所 定町廻り同心)
      留蔵 32 ・ ・ ・ ・ 鋳掛け屋(元 浪人)
      又吉 31 ・ ・ ・ ・ 流し蕎麦屋(元 浪人)
      伝助 18 ・ ・ ・ ・ 飛脚屋(町人)
      お蔦 30 ・ ・ ・ ・ 瞽女(元 くの一 抜け忍)
      (※ 以下 略)


1. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
    タイトルバック
    正月風景の街並み。親子連れで初詣に向かう途中の両親と娘、
    紋付袴姿で年始挨拶をする商家の旦那衆、その他、街路で凧
    揚げをする男児達、羽子板を撞く女児達で賑わっている。そ
    んな浮かれた雰囲気が漂う街路の中を、仙二郎と宮部が漫(そ
    ぞ)ろ歩いている。門付けで商家や各家を巡り歩く獅子舞の一
    行が正月気分を盛り上げている。講社連中の吹き鳴らす笛、
    鉦に合わせて、二匹(雌雄の連獅子)がユーモラスに舞い踊
    る。見物する町衆や子供達。
   仙二郎「正月は気分が華やいで宜しいですなあ…(獅子踊りを横
        目に見ながら)」
   宮部  「そうですね。何がどうだっていう訳じゃないんですけ
        どねぇ」
   仙二郎「はい…。そこん所(とこ)が、不思議といやぁ不思議なん
        ですが…」
    陽気に語り合い漫(そぞ)ろ歩く二人。響く笛や鉦の音が賑やか
    に続き、活気づく街通り。仙二郎の前に羽子板を撞いていた子
    供の羽根が飛んできて舞い落ちる。立ち止まって拾い、女児へ
    笑顔で手渡す仙二郎。
   宮部  「去年は悪い事件が多い一年でしたから、今年こそ、いい
        年になって欲しいですね(走り去る女児を見遣った後、
        歩き出し)」
   仙二郎「(歩き出し)そうですなあ…」
    と、一応は愛想を振り撒いて、その実、夕餉の惣菜のことを考
    えている。遠ざかる仙二郎と宮部の後ろ姿を、カメラ、俯瞰し
    て撮る。
   N   「晴らせぬ怨み、晴らします。今日は東へ、明日は西。北も
        南もワル次第。表じゃ消えぬ世の悪を、裏に回って晒しま
        す…」
    タイトル「影 車」、テーマ音楽など

               
流れ唄  影車(挿入歌)   

          水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄


              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄


             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年3月 3日 (土)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(11)

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(11)

38. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
     F.I
     無惨に晒された堀田達の死骸と立て札。それを取り囲んで騒ぐ
     町人達の野次馬多数。中に、仙二郎や宮部の姿もある。
    宮部  「また、影車ですか…。これじゃ、私達捕り方は、いりませ
         ん」
    仙二郎「それは云えます。お上は後手、後手ですからねえ(笑って、
         カメラ目線で)、困ったもんですよ、本当に…」
    宮部  「そういや、影車の話、奉行所じゃ全く話に上りませんが、何
         故なんでしょう?」
    仙二郎「それは難しい質問ですなあ…。まあ、私が思うには、実害
         がないのが、まず第一点。それと、晒されるのが毎度、悪
         い奴らですからねえ。お上も何も云えないっていうか、触れ
         たくないっていうか…、どうも、その辺りの事情でしょうな」
    宮部  「仰(おっしゃ)るとおりです…(得心した様子で頷いて)」
    仙二郎「さあ、役人が来ないうちに行きましょう。後々、面倒です…」
    宮部  「そうしますか…。毎度のことですが、私達も役人なんです
         がねぇ…」
     仙二郎、小笑いして場を離れる。後ろを追う宮部。カメラ、二人の
     歩き去る姿をロングに引き、俯瞰して撮る。
39. 立て札
     立て札に一枚の紙が五寸釘で刺されている。書かれた"手筈を
     受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字。
    N   「手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
40. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
     仙二郎達の次第に遠ざかる姿。
     テーマ音楽。
41.  エンド・ロール
     F.O

     T第八回 不用の普請  完」
                          第八回 不用の普請 完

               流れ唄 影車(挿入歌)    

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄

              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄

             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄

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2012年3月 2日 (金)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(10)

      影車      水本爽涼 
      第八回 不用普請(10)

32. 材木問屋・美濃屋(寝所)・夜
     (ふたたび、テーマ曲のオケ1 イン)
     美濃屋善兵衛が布団で熟睡中。部屋戸の障子紙が赤い光に映え
     る。浮かぶ、人影。
33. 同 (寝所の前廊下)・夜
     暗い廊下で留蔵が携帯用の鞴(ふいご)を押す。熾(おこ)った手火
     鉢の炭火が、赤く留蔵の顔を浮かび上がらせる。炭の中から留蔵
     が取り出した灼熱の菜切り包丁の刃先。それを手にして無言で頷
     くと、静かに障子戸を開ける留蔵。
34. 同 (寝所)・夜
     寝所へと入り、静かに障子戸を閉めると枕元へ近づく留蔵。枕側
     から善兵衛の首を両太股(ふともも)で挟む。左手で口を封じ、右
     手に持った菜切り包丁の刃先を善兵衛の両眼へ押し当てる。(ジ
     ュ~っという焼入れの音S.E) 呻く善兵衛、激しく、もがく。留蔵、
     続けて、菜切り包丁で首筋(頚動脈)を斬る。激しく吹き出す血し
     ぶき、布団を赤く染める。サッと障子戸を出る留蔵。入れ替わり現
     れた伝助、善兵衛の首に膏薬を貼り血止めをすると、担ぎ去る。
      (テーマ曲のオケ1 オフ)
35. 普請奉行・堀田采女正の屋敷(外)・夜
     屋敷を下がる改役の寺脇、手提灯を持ち、門を出る。
     (テーマ曲のオケ3 イン)
36. 同 (外)・夜
     屋敷の土塀沿いに歩く寺脇。不意に闇より現れた仙二郎、すで
     に抜いていた脇差で寺脇の胸(心蔵)を突き刺し抉(えぐ)る(ブシ
     ュブシュ…と鈍い音S.E)。手提灯を落とす寺脇、暫く氷結して立
     つが、仙二郎が刃を抜くと静かに崩れ落ちる。脇差を鞘へ納める
     仙二郎。手提灯が燃え、仙二郎の姿を浮かび上がらせる。倒れ
     た寺脇を尻目に、闇へと消える仙二郎。S.E=豚、牛などの肉
     塊をナイフ等で切り裂く音。
     (テーマ曲のオケ3 オフ)
     入れ替わり現れた伝助、寺脇を担ぐと、道に止め置いた大八車
     に乗せる。
37. 同 (内)寝所・夜
     (ふたたび、テーマ曲のオケ3 イン)
     堀田が白衣で寝所へと入る。その時、屏風の陰から闇の声。
   仙二郎「手前(てめえ)は、この世にゃ不向きだ」
   堀田  「おのれぃ、なに奴!!」
     屏風から現れた仙二郎、素早く大刀を抜くと、有無を云わさず
     堀田を袈裟懸けに斬り捨て、
   仙二郎「閻魔の使いよ…、地獄へ落ちろい!!」
     と云って、刃を鞘へ納める。ドスッと崩れ落ちる堀田。仙二郎、
     闇へと消える。入れ替わって現れた伝助、堀田を担ぎ去る。
     (テーマ曲のオケ3 オフ)

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2012年3月 1日 (木)

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(9)

      影車      水本爽涼
    第八回 不用普請(9)

24.  与太烏の茂平一家(小部屋)・夜
     茂平が一人、酒を飲んでいる。奥の間には慰み者にされた後の娘
     が布団に寝ている。満足げな茂平の顔。茂平、立つと厠(かわや)へ
     向かう。
     (テーマ曲のオケ1 イン)
25. 同 (厠)・夜
     気分よく小便をする茂平。茂平の真上の天井板が音もなくスゥー
     っと開くと、鉄製の大丼鉢を持つ二本の腕が現れる。大丼鉢、茂
     平めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E) 呻く茂平。頭へスッポリ
     被った大丼鉢。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)
     (テーマ曲のオケ1 オフ)
26. 頭部のX線撮影されたレントゲン映像 C.I
     シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像を、カメラ、
     アップ。
     C.O
27. 与太烏の茂平一家(厠)・夜
     茂平、大丼鉢を被った状態で暫し直立したまま氷結し、その後、
     真
下へゆっくりと崩れ落ちる。
28. 病院の診察室・現代
     医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書いてい
     る。カメラ、医師の姿をアップする。医師、大欠伸をひとつ打った
     後、シャウカステン上のフィルム映像を見て、カメラ目線で素人
     っぽく、
    医師  「いつもの、即死ですな。(頭を指で指し示して、笑いながら)
         それより、私、過労気味なんですよ、医師不足でねぇ…。
        厚労省に云っといて下さい」
29. 与太烏の茂平一家(厠)・夜
     (ふたたび、テーマ曲のオケ1 イン)
     天井板からスルスルっと降りる一本の縄。その縄を伝って厠へ
     降りる又吉。大丼鉢を背中の袋に納めると、また天井裏へと器
     用に縄を登る。入れ替わりに現れた伝助、茂平を担ぐと消え去
     る。
30. 同 (別部屋)・夜
     花札で遊び興じる子分、二人。
   子分①「おいっ、今なにか向こうで、音がしなかったか?」
   子分②「気の所為(せい)だろう…」
   子分①「(首を捻って)いや、確かに…。ちょいと、見てくらあ」
   子分②「鼠か、何かだと思うぜ」
     子分①、部屋を出る。
     (テーマ曲のオケ1 オフ)
31. 同 (厠前の廊下)・夜
      (テーマ曲のオケ2 イン)
     廊下を歩く子分①。突然、天井より舞い降りる、お蔦。着地と
     同時に子分①の首(頚動脈)を居合い斬り。派手に吹き散る血
     しぶき。子分①、もがき苦しんで崩れ落ちる。物音に気づいた
     子分②が駆けつけ、子分①を抱き起こすが、お蔦は天井に飛
     んでいる。そして、ふたたび舞い降りると、子分②も居合い斬
     り、瞬時に闇へと消える。
      (テーマ曲のオケ2 オフ)

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