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2012年5月

2012年5月31日 (木)

秋の風景 (第四話) 遺伝

      秋の風景    水本爽涼

    (第四話) 遺伝       

 秋ということで、食欲の所為(せい)か、ついつい食べ物の話が多くなってしまったので、今回は他の話題を真摯(しんし)に考えてみたい。
 じいちゃんは剣道の師範免許を持つから体育会系、対する父さんは、これという運動も学生時代からやっていないと聞くから文系とは即答できないものの一応は文系で、決して体育会系ではない。さて、メインの僕は? というと、チョコマカとよく動くものの(これは遊びが多いのだが、母さんの手伝いもある)、かといって、机に齧(かじ)りついているガリ勉でもないから文系とも云い難く、玉虫のような存在なのである。玉虫色の答申…とか、よく政治では云われるが、僕の場合、どちらでもなく、どちらでもある。云わば、いい加減な部類だと云える。だがこれは、遺伝の影響を受けたものであることは父さんを見れば疑う余地がない。
「お前…年の割には白髪(しらが)もなく、禿(はげ)もせんな」
 今夜も将棋の大一番が展開する居間で、じいちゃんから、そんな言葉が飛び出した。
「えっ? ははは…。そのうち、父さんみたいになりますよ」
「そうかぁ?」
「ええ…間違いなく、遺伝的なものがありますから…」
「そうとは限らんだろう…」
「まあ…そうとは限りませんが、…王手!」
「ウッ! …しかし、相変わらず付和雷同だな、お前の性分は…」
「そうかも知れません」
「やはり、付和雷同だ。そこは、『いいえ、違います』だろうが?」
「はあ…」
「お父様、ビールとおツマミ、ここへ置いときます」
「あっ、未知子さん。いつも、すまないですねえ」
「俺のコップは?」
「あなたの分も、あります!」
「そんなこと訊くか? 普通…。忰(せがれ)とはとても思えん。儂(わし)なら当然、持ってきて下さったと思う。これが双方の信頼関係だ。お前、儂の遺伝子を持ってる筈なんだがなあ…」
 僕は台所でテレビを見ていたのだが、丁度、スイッチを切ったその時、二人が掛け合う頃合いのいい音声が聞こえてきたのだ。途中で母さんも加わったのだが、これは、ドラマよりも数段、優れた番組に思えた。しかも生の実況なのである。で、そのままテーブルに座ったまま、風呂上がりのジュースを堪能していた。居間から戻った母さんが、「正也、もう寝なさいよ…」と云って横切り、盆を置くと洗濯機の方へ行った。母さんがバタバタしているのは家事であり、遺伝によるものではないだろう。
「いや~、今日は参った、惨敗だ。頭がいいのも儂の遺伝か?」
「はい、そのようです…」
 笑いを交えた会話が続いている。僕は部屋へ戻ろうと、居間の前廊下を通った。二人は笑顔で同時に首筋を撫でていた。これは遺伝によるものに違いないと思った。某メーカーの洗剤Xで磨かれたような光沢を放つじいちゃんの頭。こんな頭に父さんがなるのが大いに楽しみだ。

                   第四話  完

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2012年5月30日 (水)

秋の風景 (第三話) 焼き芋

      秋の風景      水本爽涼

    (第三話) 焼き芋       

 早いもので、あれだけ綺麗に色づいていた紅葉も散り果て、木々は、すっかり冬仕度を終えたように寒々としている。勿論、それは幹だけで、根回りの方は落ち葉を敷きつめて暖かそうなのだが…。
「♪~垣根のぉ垣根の回り角ぉ~ 焚き火だ焚き火だ 落ち葉焚きぃ~♪」
 僕は唄いながら箒を手にしている。
「よし! 正也、これくらいでよかろう」
 やっと、じいちゃんの了解がでた。何の了解か? というと、掃き集めた落ち葉で芋を焼こうと、じいちゃんと僕は両手を小忙しく動かせて労働をしていたのである。こんもりとした落ち葉の山が出来たところで、じいちゃんがストップをかけたのだった。
「芋は四本だったよね?」
「ああ…、恭一と未知子さんの分も焼いてやろう」
 じいちゃんはそう云って柔和な笑みを浮かべた。父さんを含めての話だから、じいちゃんにしては優しい気配りに思えた。
 火事になるといけないから、周りには水を撒き、念入りに防火用水のバケツも近くに置いて、いよいよ点火の運びとなった。可燃物、酸素供給源、点火源は全て備わっているから、当然の如く燃えた。勿論、じいちゃんが火を着けた訳で、僕ではない。でも芋は、確実に僕が四本、落ち葉の中に入れた。
「乾いているから、よく燃えるなあ、正也」
「そうだね…」
 寒いと感じるような日ではなかったけれど、身体が充分に冷えていたので暖かかった。落ち葉を少しずつ燃やし、頃合いをみて木枝で芋を放り出した。そして突き刺すと、スウ~っと通った。
「おう、焼けた焼けた。もうよかろう。正也、この新聞紙に包んで持ってってやりなさい」
 僕は首を縦に振ってじいちゃんの命令に従った。隊長の命令は絶対、なのである。
「そう…、有難う」「そうか…」
 持っていくと、母さんは笑いながら受け取ったが、父さんの方は感極まり、一瞬、目頭を熱くし、声を詰まらせた。芋一本で父さんを釣り上げたんだから、じいちゃんは大した釣り名人だと思えた。そこへ、火の後始末をして帰ってきたじいちゃんが現れた。
「もう食ったか?」
「いえ、これからです…」
 父さんは茶々を入れることなく素直に云う。
「今、お茶を淹れますわ」
「あっ、ああ…そうして下さい、未知子さん」
 芋を一本ずつ持ってテーブルを囲む。すると、誰から笑いだした訳でもないのに、お互いの顔を眺め、クスクスと笑いだした。やがて大笑いになった。こんなことは久しくなかったと思う。じいちゃんの顔はクシャクシャになり、頭は湯気を上げて益々、光り、某メーカーの洗剤Xで磨いた窓ガラスのようにテカっていた。

                   第三話  完

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2012年5月29日 (火)

秋の風景 (第二話) 吊るし柿

      秋の風景     水本爽涼

    (第二話) 吊るし柿        

 僕の家には、かなり古い柿の木がある。それは、僕が生まれるずっと以前から家にあると云うんだから、これはもう、大先輩と云わざるを得ない。腰のひとつも揉みほぐし、温泉にゆったり浸かって貰いたいくらいのものなのである。今年も、たわわに実を付け、採るのがもどかしいほどだった。母さん、じいちゃん、そして僕の三人で何度かに分けて収穫し、捌いていった。捌くといったって、せいぜい都会の親戚へ送ったり、或いは柿の木が無いご近所にお裾分けしたり、母さんが熟れた実を調理して柿ジャムにする程度なのだ。後は全て皮を剝き、吊るし柿にする。
「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
 我が家で柿に関しては唯一の部外者が顔を出し、柿の皮を剝くじいちゃんにひと言、吐いた。
「フン! いい気なもんだな。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也」
 流れ矢が分別する僕めがけて飛んできた。
「ん? うん…」
 と、気のない返事で曖昧に暈し、僕はその流れ矢を一刀両断した。暈したところが技の妙で、どちらに肩入れするでもない風な言葉を発したのだ。僕にとって父さんは、給料を貰ってないまでも大事な社長だし、じいちゃんは会長の重責を担うから、どちらも捨て難い。
「これでいいんですね?」
「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
「美味しいジャムが出来そうですわ」
 母さんが台所から柿を取りにやって来て、これで我が家のオール・キャストが一堂に会した。
「吊るして、どれくらいかかるの?」と、僕が訊くと、「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ」と、じいちゃんは柿の実のように色艶がよい顔で云う。
「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
 部外者の父さんが口を挟む。
「ああ…、それはそうだな…」
 珍しくじいちゃんは父さんに突っ込まず、穏やかな口調で答えた。
「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
 父さんが、いつもの茶々を入れた。
「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
 じいちゃんは、さも、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我が家の家風なのである。
 西日が窓ガラスから射し込んで、じいちゃんの頭を吊るし柿のように照らした。某メーカーの洗剤Xが放つ光沢にも似て、ピカッ! と光るその輝きは、並みのものとは思えなかった。

                    第二話  完

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2012年5月28日 (月)

秋の風景 (第一話) 茸[キノコ]採り

       秋の風景       水本爽涼

    (第一話) 茸[キノコ]採り        

 今日は天気がよいので裏山へキノコ採りに出かけた。裏山といっても家からは少し離れているのだが、上手い具合に学校は連休だった。
 じいちゃんと二人で山へ入るのは久しぶりなので、心がウキウキした。
「儂(わし)が元気なうちに、正也にいろいろ教えておいてやろうと思おてな…」
 何を? と訊くと、じいちゃんはキノコのことを語りだした。何でも、裏山ではいろんなキノコが採れ、それも毎年、決まった場所に生えるのだという。一生懸命、さも専門家きどりで得意満面に語るじいちゃんの鼻をへし折るのも如何かと思え、僕はそ知らぬ態で聞き上手になった。
 母さんが作ってくれた弁当を持ち、二人して出かけた僕達は、快晴の蒼々と広がる空と澄みきった空気を満喫しつつ散策を楽しんだ。流石にじいちゃんは年の功というやつで、キノコ採りの名人と思えた。話が長くなるので、山でのことはいつの日かお話させて貰うとして割愛させて戴くが、収穫量は、まずまずであった。
「おお…、随分、採れたじゃないか!」
 湧き水の洗い場で、採ってきたキノコを洗っていると、休みで家にいた父さんが、部屋の窓を開けて、そう声を掛けた。
「松茸に黄シメジ、…ナメコもあるよ」
「お前も来りゃよかったんだ…」
 僕の隣りにいたじいちゃんが、身体を冷水で拭きつつ、そう云うと、
「今日は生憎(あいにく)、会社から持って帰った仕事がありましたから、ははは…又(また)。又、この次に…」
 と、軽い笑いを交えて父さんは流した。
「お前のは、いったいどういう又なんだ? 又、又、又、又と、又の安売りみたいに…」
 上手いこと云うが、じいちゃんは相変わらず父さんには手厳しい。父さんも只者ではなく、馴れもあってか、そうは気に留めていない。
「安売りと云やあ、この不況で私の会社の製品、値下げなんですよ」
「そんなこたぁ、誰も訊いとりゃせん!」
 話はハイ、それまで。一巻の終わりとなった。そこへ母さんが台所の戸を開けて出てきた。
「ナメコとシメジは汁物にして、松茸は炊き込み御飯と土瓶蒸しにでも…」
「偉く豪勢じゃないか…」
「あなたの給料じゃ、お店で手が出ないわ。某メーカーの洗剤Xを買うのが関の山」
 母さんは珍しく嫌味を云った。
「その通りだ、恭一。未知子さん、上手いこと云いました。これはタダですからな」
 父さんは、しくじったか…という態で、窓を少しずつ閉じて引っ込んだ。
 その晩は賑やかにキノコ料理を堪能した。でも、父さんだけは一人、黙々と箸を動かせていた。

                    
第一話  完

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2012年5月27日 (日)

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(2)

 ≪脚色≫

      夏の風景

       特別編(下)怪談ウナギ(2)        

  登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ C.I とある野原の道 早朝 
   ポチと散歩する正也。
  正也M「ポチを散歩させ、(①に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 早朝
   首から出席カードをぶら下げ、玄関から走り出る正也。
  正也M「(①)ラジオ体操へ行き、(②に続けて読む)」

○ C.I 玄関 内 朝
   ポチに餌をやる正也。
  正也M 「(②)帰って、ポチや(③に続けて読む)」

○ C.I 台所 朝
   小忙しく朝食の準備をする道子。タマに餌をやる正也。
  正也M「(③)タマに餌をやって、朝食となる」

○ 台所 朝
   食卓を囲み、食事をする四人。
  恭一  「父さんに聞いたんだが、悪い夢を見たんだって
       な、正也」
  正也  「んっ? まあね…」
   沈黙して食べる四人。
  正也M「夢の話は既に、じいちゃんから父さん、母さん
       へと伝わっていた。ここは云わザルだな…と
       思え、単に一語で片付けることにした」
  恭一  「ふ~ん、そうか。寝苦しかったからな…」
   箸で胡瓜のお新香を摘み、バリバリっと噛る恭一。

○ C.I 玄関 外 朝
   背広姿の恭一が出勤していく。見送る未知子。
  正也M「父さんが出勤し、(③に続けて読む)」

○ C.I 子供部屋 朝
   机で夏休みの宿題をする正也。
  正也M「(③)僕は宿題を済ます(④に続けて読む)」

○ C.I 玄関 外 朝
   畑の見回りに出る恭之介。
  正也M「(④)じいちゃんは家の前の畑の見回りだ」

○ 台所 朝
   炊事場で雑用を熟(こな)す未知子。テーブル椅子
   に座り、道子の様子を見遣る正也。
  正也M「母さんは? と見ると、家の雑用をしている。
       僕は、夢で見た小川へ早速、行ってみるこ
       とにした」
   椅子を立つ正也。下にいたミケが美声でニャ~と
   鳴く。玄関へ向かう正也。

○ 玄関 内 朝
   靴を履く正也。台所から道子の声。
  [道子] 「暑くならないうちに戻るのよぉ~!」 
  正也  「は~~い!(可愛く)」
   戸を開ける正也。ポチがクゥ~ンと鳴く。戸を閉め
   る正也。
  正也M「目敏(ざと)い母さんは、レーダーで僕を見て
       いるようだった」

○ とある小川 朝
   子鰻(うなぎ)を探す正也。干上がりかけた水溜り
   にいる子鰻。気づく正也。両手で掬(すく)い本流
   へと逃がしてやる正也。泳ぎ去る子鰻。
  正也M「夢に現れた小川へ行くと、確かに…お告
       げのように一匹の子鰻が、干上がりかけ
       た水溜りにいた。僕は急いで本流の方へ
       と、その子鰻を両手で掬うと逃がしてやっ
       た。勢いよく子鰻は泳ぎ始め、そのうち、
       どこかへ姿を消した」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座る恭之介と正也。話す
   二人。
  恭之介「そうか…、まあ、いいことをした訳だな。正
       夢だったか、ワハハハハハ…(豪快に笑い
       飛ばして)」
  正也  「それはいいけどさ、枕元が濡れてたのが
       …」
   今朝、起きた時の超常現象について語る正也。
   近くで洗濯機を回す未知子の声。
  [未知子] 「あらっ! それ、私なの。うっかり、掃除
        をした時、バケツをね…慌てて…」
  恭之介「そうでしたか…(大笑いして)」
   釣られて笑う正也と道子。道子の携帯が鳴り、
   出る未知子。電話の恭一と話す道子。笑って電
   話を切る未知子。  
  恭之介「恭一からでしたか…」
  未知子『なんだ、そうだったか…』って、笑ってまし
       たわ」
   笑う恭之介、未知子、正也。三人の続く雑談。
  正也M「これが、この夏、起きた我が家の怪談ウナ
       ギである。ただ一つ、夢の子鰻は確かに
       小川にいた…」
○ エンド・ロール
   炎天下の青空。湧水家の遠景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ」 をお読みさい。

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2012年5月26日 (土)

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(1)

 ≪脚色≫

      夏の風景

      
特別編(下)怪談ウナギ(1)              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ、妖怪鰻(うなぎ)

○ 湧水家の全景 昼
   灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。

○ 洗い場 昼
   日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷
   水。

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
  正也M「今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十
       五度はある。僕は洗い場で水浴びをした後、
       昼寝をしよとしている。滾々と湧き出る冷水の
       お蔭で僕の体温は、かなり低くなり、生温か
       い畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて
       読む)」
   熟睡する正也。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(上) 怪談モドキ」

○ 書斎 昼 
   書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。
   スイッチの入ったままのクーラー。
  正也M「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書
       斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れたまま読み
       かけの本を顔に宛行いつつ、長椅子で寝てい
       る筈だ(◇に続けて読む)」

○ 離れ 昼
   うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之
   介。時折り、流れる汗を手拭いで拭く。
  正也M「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタ
       だろう」

○ 玄関 内 朝 回想
   出かけようと靴を履く盛装した未知子。見遣る正也。
   犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
  未知子「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼
       むわね(バタついて)」
  正也  「うん…」
  正也M「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出た
       が、御苦労なことだ」
   玄関を出た未知子。閉じられた表戸。
   O.L

○ 玄関 内 昼
   O.L
   開けられる表戸。玄関を入る未知子。台所から走っ
   てくる正也。
  正也M「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に
       寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを袋に
       入れて持っていた」
  正也  「お帰り!(可愛く)」
  未知子「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ
       …。それにしても高くなったわね…」
  正也M「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くな
       ったのは僕のせいじゃない。まあ、そんなこ
       とは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘れた
       のだが…」

○ 子供部屋 夜
   リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
  正也M「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だった
       こともあり、寝苦しさから一層、夢を見やす
       い状況だったと推測される。状況は兎も角
       として、夢の内容は実に怖いものだった。
       今、思い出しながらお話ししても、身体が
       震えだすほどである」

○ ≪正也の夢の中≫ 武家屋敷 玄関 夕方
   江戸時代。侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿
   の恭一。
  正也M「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だっ
       た。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武
       士の出で立ちで、城から戻った風だった。
       じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のよう
       に、これも武士の身なりの父さんが細々と
       付き従っていた」
  恭之介『今、立ち戻った!』
   出迎える武家の奥方の容姿の未知子。稚児姿
   の正也。
  未知子『お帰り、なさいまし…』
  正也  『お帰り、なさい? …』 

○ ≪正也の夢の中≫ 同 部屋 夜
   膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った
   皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
  恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
   楽しそうな四人。

○ ≪正也の夢の中≫ 同 子供部屋 夜
   布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也
   を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚かす妖
   怪鰻。
  妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)
       じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化け
       て出たぁ~』
  正也  『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
   問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪
   鰻。
  正也M 「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある
       訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だか
       ら仕方がない」
  正也  『ど、どうすれば許して貰えるの?』
  妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で
       干上がりかけているから、助けてくれるな
       らば一命は取らずにおいてやろう…(偉そ
       うに)』
  正也  『そ、そう致します…』
  正也M「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは
       思ったが、息苦しかったので、そう致しま
       す…などと敬語遣いで命乞いをしたようだ
       った。怖かったのは、その小川を僕が知っ
       ていたことである」

○ もとの子供部屋 夜
   うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。
   二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団を被
   る正也。眠る、布団の中の正也。
   O.L

○ 子供部屋 早朝
   O.L
   目覚める、布団の中の正也。
  正也M「その後、寝つけなかったものの、早暁には、
       まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせい
       か、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」

○ 洗面所 早朝
   パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提
   げて現れる恭之介。
  恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、
       正也」
  正也  「なんか、よく寝られなかったんだ…」
  恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。
       実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、
       こねくり回し)」
  正也  「それにさ、怖い夢を見たよ…」
  恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
   昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
  正也M「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部
       始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語
       った」
  恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲
       フガフガガした方が◆★フガだろう」
  正也M「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外した
       から、こんな口調となった。入れ歯語の
       通訳をすれば、『ほう…、それは怖かった
       ろうな。そのお告げのようにした方がい
       いだろう』と、なる」

                                  ≪つづく≫

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2012年5月25日 (金)

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(2)

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
      特別編(上)平和と温もり(2)       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・恭一の上司と同僚社員、猫のタマ、犬のポチ

○ 洗い場  昼
   空に広がる入道雲。日蔭で涼んで寛ぐタマとポチ。水浴びを
   終え、衣類をつける正也。滾々と湧く水。蝉しぐれ。
  正也M「入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現す
       と、もう夏本番である」

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で横になる正也。蝉しぐれ。
  正也M「恒例となってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済
       ませ、昼寝をした。恒例になってしまったのは二年
       前のリフォーム工事からのことで、母屋では工事音
       が五月蠅くて寝られず、じいちゃんの離れで寝る破
       目に陥ったせいだ。リフォーム工事が済んだ去年の
       夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。
       …その訳は、味をしめたからである(最後の一節は
       可愛く)」
   片手で団扇を扇ぎながら部屋へ入る恭一。もう片方の手に
   持つラジコンの模型セットを枕元へ置く恭一。
  恭一  「よく寝てるな…(小声で呟いて)」
  正也M「未だ眠っていないとも知らず、父さんは約束したラジ
       コンの鉄道模型セットを僕の枕元へ置いた。冬のサ
       ンタじゃあるまいし、シャイで直接、手渡せない性
       格が父さんを未だに安定したヒラとして存続させて
       いる原動力なのだろう。出世、出世と人は云うけれ
       ど、そんな人ばかりじゃ、偉い人だけになってしま
       うから、父さんは貴重な存在だと僕は思っている。
       それに…(◎に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 料亭 夜
   頭へネクタイを巻き、得意の踊りを披露する、赤ら顔の恭
   一。その芸に浮かれる膳を囲む同僚社員や上司。
  正也M「(◎)自分の父親を弁護する訳ではないが、適度
       に優しい上に宴会部長だし…、(◇に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 台所 昼
   勢いよく、包丁で西瓜を一刀両断する恭之介。それを怖々
   と見る恭一。
  正也M「(◇)今一、じいちゃんのように度胸がない点を除け
       ば素晴らしい父親なのだ(△に続けて読む)」
   隣で小皿をテーブルへ置く道子。
  正也M「(△)勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだ
       から、文句なくそれ以上に素晴らしい」
   西瓜を見事に切り割った恭之介。恭之介の光る頭。
  正也M「更には、光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、
       失われた日本古来の精神を重んじる抜きん出た逸
       材で、そうはいないと思える」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で熟睡する正也。蝉しぐれ。目覚
   める正也。枕元に置かれた鉄道模型セットの箱に気づく正
   也。手に取り、喜ぶ正也。駆けだす正也。
  正也M「気にはなったが、枕元の箱はそのままにして寝入
       ってしまい、起きると欲しかった鉄道模型セットの
       箱が存在した。ここはひと言、愛想を振り撒かね
       ば…と思えた」

○ 居間 昼
   長椅子に座り、本を読みながらカルピス・ソーダを飲む恭
   一。喜び勇んで駆け入る正也。
  正也  「父さん…有難う!(笑顔で、可愛く)」
  恭一  「ん? ああ…(シャイに)」
   離れから着替えを持って現れた恭之介。正也が持つ箱
   に気づく恭之介。足を止める恭之介。   
  恭之介「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな(弱
       々しく)」
   ふたたび歩き出し、洗い場へ向かう恭之介。
  正也M「じいちゃんは、洗い場で身体を拭く為に来たのだ
       が、それだけを流れる汗で弱々しく云うと、父さん
       には何も云わず、通り過ぎた」
   台所から声を投げる未知子。
  [未知子] 「お父様、お身体をお拭きになったら、西瓜をお
        願いしますわ」
  恭之介「オッ! 未知子さん。それを待っていました(元気
       な声に戻り)」
  正也M「俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。
       やはり、達人はどこか違う…と思った。平和と温
       もりを感じる我が家の一コマである」

○ エンド・ロール
   よく冷えた西瓜。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」 をお読みさい。

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2012年5月24日 (木)

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1)

 ≪脚色≫

      夏の風景

       特別編(上)平和と温もり(1)       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

○ 湧水家の遠景 昼
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

○ 洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマと
   ポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭。心地よく眠るタマ。
   正也を、『元気なお方だ…』と云わんばかりに見遣る
   ポチ。灼熱の太陽。蝉しぐれ。
  正也M「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても
       巡ってくるのが四季なのだし、夏なのである。
       じいちゃんが剣道で僕に云う、“自然体”って奴
       だ。…少し違うような気もするが、まあ、よしと
       しよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水
   に浸けて拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(上) 平和と温もり」

○ 台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブ
   ルに乗る切り分けられた俎板上の西瓜。賑やかに展
   開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカ
       とか云っとったんだがなあ、ワハハハハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに
   噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようです
       が、猛暑日というのは、なかったですから…。
       当時は涼しかったですよね」
  未知子「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってま
       したわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西瓜を手
       にして)」
  恭之介「はい…。未知子さんの云う通りです」
  正也M「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青
       菜塩”である。夏休みの到来は、今年も僕に
       恩恵を何かにつけて与えてくれそうである。
       その予兆が先だっても湧き上った」
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)
   O.L

○ (回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時
   計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄関へ向かう恭一。   
  未知子「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  未知子「あら、そうだったわ…」
  正也M「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの
       所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り替わった。
       汗掻きの父さんは大層、喜んでいる」

○ (回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之
   介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。
   靴を履く正也。
  正也M「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しよう
       とはしない。反論すれば必ず反撃される…と、
       読んでいる節がある。縁台将棋で二手先を必
       死に読む程度の父さんにしては大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外
   から引き返した恭一が戸を開ける。犬小屋のポチが、
   『何事だ! 朝っぱらから…』と云わんばかりに、薄
   目を開けて、ワン! と、ひと声、小さく吠え、また目
   を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒
       り口調の大きめの声で)…おお、いたか。(冷
       静になって)この前、云ってたラジコン模型な。
       ボーナスが出たら夏休みに買ってやるからな
       っ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅
       刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

○ (回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  正也M「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてく
       れそうな幸先がいい予兆だった。しかし半面
       には、夏休みが始まっても買って貰えないと
       いった不吉な事態も有り得る訳で、油断は禁
       物なのだった」

○ (回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホ
   ームルームで何やら話している。生徒達の中にいる
   正也。    
  正也M「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二
       番の好成績で、丘本先生に見込まれている
       のだ。両親とも、そのことは知っているから、
       成績のことは諄々(くどくど)とは云わない。
       但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖の
       ように云うのだが…。好成績でも、これだけ
       は別で、母心としては、やはり安心出来ない
       のだろう」

                                   ≪つづく≫

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2012年5月23日 (水)

シナリオ 夏の風景(第十話) 昆虫採集

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第十話)昆虫採集          

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 子供部屋 朝
   机に向かい、夏休みの宿題をしている正也。蝉の声。
   手を止め、窓向こうの庭を見遣る正也。
  正也M「まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげ
       ずに頑張っている。夏休みも、もう残り少ない」
   畑から恭之介が帰ってくる。手に西瓜を持つ恭之介、
   麦わら帽子を頭から取り、木の枝に吊るす。笑顔で西
   瓜を撫でる恭之介。出来のいい西瓜と恭之介の頭。
   双方ともに、太陽光線を受けて、眩しく光る。思わず噴
   き出す正也。子供部屋に響く正也の大笑いの声。そう
   とは知らずに西瓜の出来に満足そうな笑みを湛える
   恭之介。T 「0」→「09」→「09:」→「09:0」→「09
   :00」(SE[タイプライターで打ち込む音])

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第十話) 昆虫採集」

○ 洗い場 昼
   水浴びを終え、離れに向かう正也。

○ 離れ 昼
   洗い場から離れに入る正也。
  正也M「昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時
       間は決して両親や、じいちゃんに強制された
       ものではない。自然と僕の習慣となり、小さ
       い頃から慣れのように続いてきた。だが、こ
       の夏に限って、じいちゃんの部屋だから、我
       大会の様相を呈している(◎に続けて読む)」
   恭之介の部屋へ入る正也。いつもの場所で眠り始
   める正也。T 「1」→「14」→「14:」→「14:1」→
   「14:10」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])
   正也の寝顔。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   正也の寝顔。
   熟睡する正也の少し離れた所で熟睡する恭之介。
   T 「1」→「15」→「15:」→「15:0」→「15:00」
   (SE[タイプライターで打ち込む
   音])
  正也M「今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言ブツ
       ブツや団扇バタバタ、がなかったから、割合、
       よく眠れた」
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   目覚めて半身を起こす正也。両腕を伸ばし欠伸をす
   る正也。少し離れた所で熟睡する恭之介。T 「1」→
   「15」→「15:」→「15:4」
   →「15:40」(SE[タイプライターで打ち込む音])

○ 玄関 外 昼
   麦わら帽、水筒、長靴姿の正也。昆虫採集網を持っ
   て走り出る正也。聞こえてくる未知子の注意を喚起
   する声。T 「1」→「16」→「1
   6:」→「16:1」→「16:10」(SE[タイプライターで
   打ち込む音]) 
  [未知子] 「帽子かぶったぁ~! 熱中症に気をつけな
         さい!」
  正也  「はぁ~~い!(戸を閉めながら、可愛く)」
   やや離れた日陰の洗い場に見えるミケとポチが涼
   む姿。心地よく眠るミケ。身を伏せた姿勢で目だけ
   開け、『このクソ暑い中を、どこへ行かれる…』とい
   う目つきで、出かける正也を見守る少しバテぎみの
   ポチ。
  正也M「四時前に目覚めた僕は、朝から計画してい
       たクワガタ採集をしようと外へ出た」

○ 雑木林 昼
   慣れたように雑木林に分け入る正也。数本のクル
   ミの木。半ば朽ちたクルミの木の前で立ち止まり、
   木を見上げる正也。T 「1」→「16」→「16:」→「1
   6:3」→「16:30」(SE[タプライターで打ち込む音]) 
  正也M「虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。
       夜に懐中電灯を照らして採集するのが最も効
       率がいいのだが、日中も薄暗い雑木林だから、
       昼の今頃でも大丈夫だろうと判断していた」
   木を眺めながら、クワガタを探す正也。草むらがザワ
   ザワと動く。ギクッ! と驚いて草むらを見遣る正也。
   姿を現す恭之介。
  正也  「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ(安心して)」
  恭之介「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが
       虫除け忘れたからとな、云ったんで、後(あと)
       を追って持ってきてやった。ホレ、これ(虫除け
       を示し)」
   正也の首に外出用の虫除けを掛けてやる恭之介。
  恭之介「どうだ…、いそうか?」
  正也  「ほら、あそこに二匹いるだろ(木を指し示し)」
  恭之介「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもん
       だ」
   恭之介の話を無視して動き出す正也。
  正也M「じいちゃんには悪いが、昔話に付き合っている
       訳にもいかないから、僕は行動した」
   静かに木へ近づき、やんわりと虫を掴む正也。その虫
   を籠の中へポイッと入れる正也。
  恭之介「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れ
       な。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
   恭之介の云う通り、樹液で半ば朽ちた木端を取り、虫
   籠へ入れる正也。雑木林に響く蝉しぐれ。

○ とある畔道 昼
   とある田園が広がる中の畔道を歩く帰宅途中の恭之
   介と正也。T 「1」→「17」→「17:」→「17:0」→「1
   7:00」(SE[タイプライターで打ち込む音])
  恭之介「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全
       く知らん所へポイッと遣られたらどうする。嫌だ
       ろ? だからな、採ったら大事に飼ってやれ。
       飼う気がなくなったら、元へ戻してな…」
  正也M「じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている」

○ 台所 夜
   食卓のテーブルを囲む四人。夕食中。T 「1」→「19」
   →「19:」→「19:0」→「19:00」(S  E[タイプラ
   イターで打ち込む音])
  恭之介「ははは…、正也も、なかなかやるぞぉ~」
  恭一  「そうでしたか…(小笑いし)」
  恭之介「お前の子供の頃より増しだ」
   しまった! と、口を噤(つぐ)んで下を向く恭一。
  正也M「じいちゃんは手厳しい。父さんは返せず、口を
       噤んで下を向いた。今年の夏が終わろうとして
       いた」
   SE[タイプライターのチーン!という音])

○ エンド・ロール
  湧水家の夜の全景。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 小説は、「短編小説 夏の風景☆第十話」 をお読み下さい。

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2012年5月22日 (火)

シナリオ 夏の風景(第九話) ナス

 ≪脚色≫

      夏の風景
                       
      (第九話) ナス 
                                  
    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・大工の留吉

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛
   暑。
  正也M「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされて
       いる。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。今
       でいうリフォームってやつで、請負った同じ町内
       に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入り
       をしている(◎に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
    金槌で釘を打つ留吉。かなり散らかった子供部屋。
  正也M「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠
       
できないからだ(◇に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 母屋の各部屋 昼
   湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…など
   の光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
  正也M「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だか
       ら、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は防
       ぎようがないのだ(△に続けて読む)」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
  正也M「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった
       訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わ
       ないものだから、大層、迷惑していた」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第九話) ナス」

○ 台所の裏口 朝
   裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来
   る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留吉。 
  留吉  「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
  未知子「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」  
  留吉  「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑
       さは…」
   台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。

○ 改造中の子供部屋 朝
   子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、
   横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、茶菓子が
   った盆を運ぶ未知子。未知子の尻について入る正也。
  未知子「ここへお茶、置いときますから…」
  留吉  「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
  未知子「あと、どのくらいかかりますの?」
  留吉  「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつも
       りでおりますが…(手を止め)」
  未知子「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
   台所へ去る未知子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。
   正也を見遣る留吉。
  留吉  「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作
       りな(正也の手に渡し)」
  正也  「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
   渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。

○ 台所 朝
   畑から帰ってきた恭之介が道子と話している。台所へ
   入る正也。
  恭之介「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…
       (汗をタオルで拭きながら)」
   籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自
   慢して未知子に見せる恭之介。籠の中を見遣る正也。
  未知子「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構
       …(少し、持ち上げて)」
   正也を見て、笑顔から真顔に戻る未知子。
  未知子「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
  恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワ
       ハハ…(賑やかに笑って)」
   収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。
   ふと、何か思い出したように、離れへ向かう恭之介。
  恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全
      、刺されなかった…」
   恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
  正也M「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、
       と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃんの
       ナスが、たくさんあり、僕を見ていた」

○ エンド・ロール
   つやつやとしたナスの山。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、 「短編小説 夏の風景☆第九話」  をお読み下さい。

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2012年5月21日 (月)

シナリオ 夏の風景(第八話) 西瓜(すいか)

≪脚色≫

      夏の風景
 
     
(第八話)西瓜[すいか]    

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母[(主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   
その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 洗い場 昼
   洗い場に浸けられた西瓜。麦わら帽子を被り、水浴び
   をする正也。離れから出てきて洗い
場を覗き込む恭之
   介。恭之介を見遣る正也。溢れ出た水を浴び、身体を
   冷やすポチ。水しぶ
きの冷気が漂う日陰で涼んで眠
   るタマ。
 
  恭之介「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
   タマが、そら、そうでしょう、と云わんばかりに、ニャ~
   と鳴き、欠伸する。


○ (フラッシュ) 洗い場 朝
   畑から帰り、洗い場へ、手に持つ西瓜を浸ける恭之介。
  正也M「朝早く、じいちゃんは、家に昔からある湧き水の
       洗い場へ西瓜を浸けておいた」


○ もとの洗い場 昼
   洗い場近くの樹々に蝉が集く。冷水が滾々と湧く水中
   の西瓜。水に浸かり、また上がる、を
繰り返し水と戯れ
   る正也。上手い具合に、日影になっている洗い場。
  恭之介「どれ、力仕事の前に、ひとつ、身体でも拭くか…」
   湧き水に濡らした手拭いで、身体を拭き始める恭之介。
  恭之介「ふぅ~、気持ちいいのう…(誰に云うでなく)」
   気持ちよさそうな洗い場の二人。灼熱の輝く太陽。


○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   
(第八話) 西瓜[すいか]」

○   同  昼  
   水浴びを止め、タオルで身体を拭き始める正也。
  正也M「僕は昼間、洗い場で水遊びをするのが日課と
       なっている。というのも、これからじい
ちゃんの
       離れで昼寝をしなければならないからだ。別に
       どこだって寝られるじゃないか…と思うだろう
       が、じいちゃんの離れへ行かねばならないの
       には、それなりの理
由がある。それについて
       は、後日、語ることにしよう(◎に続けて読む)」
   身体を拭き終え、衣類を身に着けている正也。
  正也M「(◎)で、そうなると、じいちゃんは電気モノ嫌
       いという困った癖があるから、体を充
分に冷や
       しておかないと眠れない訳だ。そこで、昼寝前
       の水遊びが日課となった…
とまあ、そういうこと
       だ」

   衣類を身に着け終え、家へ入ろうとする正也。
  恭之介「おい、正也。お前も食べるな?」
   立ち止まって振り返る正也。日陰の洗い場に腰を下ろ
   した流れる汗姿の恭之介。
  正也  「うん!(可愛く、愛想をふり撒いて)」


○ C.I 離れ 昼
   汗だらけで団扇を忙しなくバタバタと動かす恭之介。
  正也N「じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと
       信じている節がある」


○ 洗い場 昼
   滾々(こんこん)と湧く水が勢いよく流れる。澄んだ水。
  正也M「この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるの
       だろう…と、いつも僕は不思議に思
ってる。

○ 台所 昼
   食卓テーブルに置かれた俎板。俎板の上の西瓜。包
   丁で今にも西瓜を切ろうとしている恭
之介。恭之介を
   取り囲んで見守る恭一、正也。見事に切る恭之介。
  正也M「家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割
       った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! 
っと、
       凄まじい声を出して切り割った。流石、剣道の
       猛者(もさ)だけのことはある…と
思った」
  恭一  「父さん、私は一切れだけでいいですよ…(遠
       慮ぎみに)」
  恭之介「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐ
       らいはガブッといけ!(手に持った
包丁で、切
       った西瓜を示して)」
   テーブルより、少し避難して離れる正也。
  正也M「じいちゃんは、包丁を持ったまま御機嫌が斜め
       だ。弾みでスッパリ切られては困る
が、その
       
危険性も孕む」
   炊事場から未知子が近づく。
  道子  「お父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ(遠慮
       ぎみに)」
  恭之介「未知子さん、あんたも、たんと食べなさい」
   笑って首を縦に振る未知子。


○ 台所 昼
   食卓テーブルで西瓜を食べる四人。上品に頬張る恭
   一。わずか四、五口で一切れ食べ尽く
す恭之介。普
   通に食べる未知子と正也。恭之介の食いっぷりに見
   とれる三人。
  恭之介「恭一、お前が買ってきた殺虫器な。アレは実に
       いい、よく眠れる…(五切れ目を手
しながら)」
  恭一 「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確
       か…(暗に殺虫器は電気式だと強調
して)」
  恭之介「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、
       いいんだ!(怒り口調で)」
   顔を赤らめて怒る恭之介。恭之介を見遣る正也。
  正也M「じいちゃんも現金なもんだ…と、僕は思った。
       猛暑日は、今日で四日も続いている」


○ エンド・ロール
   青空に炎天下の太陽。集く蝉の声。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は 
「夏の風景 ☆第八話」  をお読み下さい。

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2012年5月20日 (日)

シナリオ 夏の風景(第七話) カラス

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第六話)カラス       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


○ (回想) 玄関 外 早朝
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、内へ
   入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出る未知子。
  未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。玄関戸
   を閉め、家を出ていく未知子。玄関の外景。
   O.L

○ もとの玄関 外 早朝
   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪
   い未知子。
  正也M「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡
       単に云うと、全てはカラスに、その原因が由来す
        る」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第七話) カラス」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関か
   ら炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何やら呟
   いて愚痴っている。耳を欹(そばだ)てる正也。
  正也M「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に
       変わらなかった。でも、戻って以降の母さんは、
       様相が一変していた」
  [未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで、正也を見据
   える未知子。
  未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  正也M「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。
       長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱が
       原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の道子を
       見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
  未知子「はい、今すぐ…」
  正也M「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは収まっ
       たというのではなく、内に籠った、と表現した方
       がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也
   の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハムエッグ、サラ
   ダ、卵焼き、味噌汁、焼き魚などを次々に運ぶ未知子。
   それを次々に手際よく並べる正也。無言で両手を合わ
   せ、誰からとなく食べ始める三人。
  未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、
       少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながらトーストを
       齧って)」
   箸を止める恭之介。
  未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさ
       ぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅子に
       座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のとこ
       ろは、どうしようもない。その内、行政の方でな
       んとかするだろう…」
  未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラ
       スだって生活があるんだ。悪さをしようと、やっ
       てるんじゃないぞ。熊野辺りでは、カラスを神の
       使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったこと
       にしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんば
   かりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  正也M「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思っ
       た。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思い
       をするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるな
       よ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  正也M「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテ
       ンションを下げた」


○ エンド・ロール
   逃げるようにそそくさと立ち上がり、出勤していく恭一。
   食事を続ける三人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


 
※ 小説は 「短編小説 夏の風景☆第七話」 を読み下さい。

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2012年5月19日 (土)

シナリオ 夏の風景(第六話) 肩叩き

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第六話)肩叩き           

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 庭 夕方
   庭に打ち水をしている正也。縁台に座って肩を摩(さ
   す)る恭之介。縁側の床板の上で心地よく寝ているタ
   マ。その横で二人を見つめるポチ。ひと息、入れる正
   也。
  正也M「じいちゃんが、珍しく肩を摩っている。じっと見
       ていると、今度は首を右や左に振り始めた。縁
      台に座るじいちゃんと庭の風情が、実によくマ
       ッチしていて、どこか、哀愁を感じさせる」
   西山へ帰っていく鴉の鳴き声。オレンジと朱色に染ま
   った空。白色に近い煌めきの光線を放ち、西山へ近づ
   く夕陽。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第六話) 肩叩き」

○ 庭 夕方
   バケツを片づけ、恭之介に近づく正也。
  正也  「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
  恭之介「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。
       ハハハ…わしも歳だな(少し気弱に云い、小笑
       いして)」
  正也M「気丈なじいちゃんの声が、幾らか小さかった」
   恭之介の後ろに回り、肩を叩き始める正也。
  恭之介「ん…よく効く…効く(気持よさそう)」
   暫(しばら)く叩く正也。
  恭之介「すまんが今度は軽く揉んでくれ(優しい声で)」
   素直に、叩きから揉みへと動作を移行する正也。
  恭之介「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
  正也  「へへっ…(照れて、可愛く)」
   揉み続ける正也。心地よさそうな表情の恭之介。
  正也M「僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃん
       は大物に違いない。案の定、ひと通り終えた頃、
       じいちゃんの方から仕掛けてきた。これには参
       った」
  恭之介「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」
   ギクッ! として、動作を止める正也。
  正也  「うん、まあ…(可愛く、暈し口調で)」
  恭之介「男らしくはっきり云え。買ってやるから…」
  正也M「僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲し
       いと云った」
  恭之介「では、明日にでも一緒に店へ行ってみるか…」
  正也  「ほんと?(可愛く)」
  恭之介「武士に二言はない!(厳しく)」
   廊下のガラス戸を開け、呼ぶ未知子。
  未知子「夕飯ですよ~、お父さん。正也も早く手を洗いな
       さい」
   すぐに窓を閉め、引っ込む未知子。
  恭之介「さあ飯だ、飯だ」
   縁台を勢いよく立つ恭之介。恭之介の頭に止まる一匹
   の蚊。
  恭之介「コイツ!」
   自分の頭をピシャリと叩く恭之介。スゥ~っと飛び去る
   蚊。
  恭之介「殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…
       (声高に笑い)」
   山へ沈む夕陽と、夕陽を受けて輝く恭之介の頭。
  正也M「僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。夕陽とじいち
       ゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかった」

○ エンド・ロール 
   庭の夕景とオレンジ、朱色に染まる夕空。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 小説は、「短編小説 夏の風景☆第六話」 をお読み下さい。

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2012年5月18日 (金)

シナリオ 夏の風景(第五話) アイス・キャンデー事件

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第五話)アイス・キャンデー事件      
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 洗い場 昼
   ポチが、水が湧く洗い場から流れ落ちる水を利用して
   水浴びしている。タマも日陰で涼んでいる。うだるよう
   な炎天下。五月蠅いほどの蝉の集き。快晴の蒼い空。
   湧き立つ雲。

○ 離れ 昼
   団扇をバタバタやるが、咽返る暑気に、おっつかず、
   萎え気味の恭之介。その傍で昼寝する正也。外戸は
   開け放たれているが、風が全くない。
  正也M「今日は、朝から気温がグングン昇り、昼過ぎに
       は、なんと、36度を突破した。いつもは気丈なじ
       いちゃんでさえ、流石に萎えている」
   灼熱の太陽。湧き上る入道雲。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第五話) アイス・キャンデー事件」

○  同  昼
   外戸のある廊下側へ移動して座る恭之介。
 恭之介「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考
      えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」
   声で目覚め、恭之介の方へ寝返りをうって薄目を開
   ける正也。
 正也M「隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言
      に、安眠を妨害され目覚めた。声がした方へ首
      を振ると、じいちゃんは団扇をパタパタやってい
      る。じいちゃんが電気モノが嫌いなので、僕はい
      い迷惑をしている」
 恭之介「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、
      猛暑日だとかテレビが云っとったな(呟いて)」
   ヨッコラショと立ち上がる恭之介。一瞬、足元の正也
   見る恭之介。二人の目と目が偶然、合う。
 恭之介「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」
 正也  「…でもないけど(小声で可愛く)」
 正也M「そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パ
      タパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪(おか)
      しい」
   一瞬の無言の間合い。
 正也  「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがある
      よ。朝、二本買っといたから、一本やるよ」
 恭之介「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃ
      あ、浴びてから戴くとするかな(笑って)」
   母屋の方へ遠ざかる、廊下を歩く恭之介。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   母屋の方から近づく、廊下を歩く恭之介。
 正也M「しばらくして、僕がまた眠りかけた頃、シャワー
      を終えたじいちゃんが、また戻ってきた」
   寝ている正也を覗き込む恭之介。
 恭之介「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」
 正也  「えぇーっ! そんなことないよ。ちゃんと二本、
      買っておいたんだからっ(少し驚いて)」
 恭之介「いや、確かになかった…」
   跳ね起きる正也。冷蔵庫のある母屋へと廊下を走り
   去る正也。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   冷蔵庫のある母屋から、廊下を走って近づく正也。
   手にキャンデーを持つ正也。    
 正也  「じいちゃんの云う通りだった…」
 恭之介「だろ?」
   無言で首を縦に振り、頷く正也。しぶしぶ手に持つ
   ャンデーを恭之介に手渡す正也。受け取る恭之介。
 恭之介「いいのか? 悪いなぁ…(小笑いして)」
 正也M「僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残
      りの一本をじいちゃんにやった。消えたアイス・
      キャンデー。犯人は誰なのか…、僕は刑事と
      して捜査を開始した」

○ 台所 夕方
   食事時の団欒。食卓のテーブルを囲む四人。
  恭一「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、
      手が出たんだが…。すまんな」
   談笑する四人。
  正也M「夕方、呆気なく犯人が判明した。犯人は父さ
       んだった。今日は日曜で、一日中、書斎へ
       籠りパソコンと格闘していたのだ。僕は、ま
       ず母さんを疑っていた。あとは母さんだけと
       思い、父さんを忘れていたのだから、まあ、
       父さんもその程度のものだ」
  恭一  「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しか
       し正也、買った食い物は早く食べんとな」
  恭之介「そうだ、それは父さんの云う通りだぞ、正也」
   機嫌よく笑う恭之介。唐突に話しだす未知子。
  未知子「今日はゴキブリ出ないわねぇ(恭一を見て)」
  恭一  「そりゃそうさ。昨日、仕掛けといたからなぁ
       (自慢げに)」
   得意そうに解説する恭一。仕方なく聞く三人。
  正也M「罠にかかったゴキブリが、『馬鹿馬鹿しい…』
       と云った。…これは飽く迄も想像だが…」

○ エンド・ロール
   台所の片隅で大きな欠伸をするタマ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 夏の風景☆第五話」 をお読み下さい。

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2012年5月17日 (木)

シナリオ 夏の風景(第四話) 花火大会

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
     (第四話)花火大会                

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 台所 朝
   朝食後。食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観る恭
   之介と正也。沈黙が続くテーブル。テレビの音と炊事
   場で未知子が片づけをする音のみが響く。
  正也M「僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催
       される。とは云っても、これは、どこの家でも出
       来る程度の小規模なものなのだが…」
   急須の茶を湯呑みに注ぎ、一気に飲み干す恭之介。
  恭之介「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
  正也  「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」
  恭之介「んっ? いやぁ…、未知子さんが買うと云ってた
       からな…(表情を少し曇らせて)」
   急に温和(おとな)しくなる恭之介。ふたたび、沈黙が
   続くテーブル。テレビの音のみが響く。タマが急に、ニ
   ャ~と美声で鳴く。椅子を立って、子供部屋へ向かう
   正也。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第四話) 花火大会」

○ 玄関 朝
   出勤しようと、框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いてい
   る恭一。
  正也M「花火を買ってくるのは父さんの場合もあり、母
       さんになるときもあった。じいちゃんも買ってく
       れたとは思うが、僕の記憶では一度こっきり
       だった。僕も主催者の手前、なけなしの小遣
       いをはたいて買い足し、花火大会を楽しむの
       が常だった」
   子供部屋へ行く途中、恭一に気づき、立ち止まる正也。
 正也  「今日は、花火大会だからね(可愛く)」
 恭一  「そうだったな…。じゃあ、早く帰る(無愛想に)」

○ 台所 夜
   食後の団欒。恭之介、正也、道子が食卓テーブルを囲
   む。テレビが賑やかに鳴っている。
 正也M「毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間
      に近くの玩具屋で、お気に入りの花火を少し買っ
      ておいた。そして何事もなく、いよいよ八時近くに
      なった」
 正也  「花火はどこ? 母さん(可愛く)」
 未知子「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買
      ってないの」
 正也  「云ってたのに !(怨みっぽく云った後、グスンと
      少し涙して)}
   涙目の正也を見遣る恭之介。
 恭之介「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするん
      じゃない!(顔を赤くして立って叱り」
   涙ぐんだ目を擦る正也。恭之介を見上げる正也。
 正也M「僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。でも、そ
      の蛸はすぐにグデンと柔らかくなった」
 恭之介「まあ、いいじゃないか、今日でなくても…(優しく
      笑って)」
   蕭々と現れる風呂上がりの恭一。
 恭一  「フフフ…。正也も、まだ子供だな(ニヤリとし)」
   黙って恭一を見遣る正也。
 正也M「云われなくたって僕は子供さ、と思った」
   片隅に置いた袋を手に取る恭一。
 恭一  「お父さん。こういうこともあろうかと、ほら、今年は
      私が買っておきましたよ(少し自慢げに)」
 恭之介「おぉ…珍しく気が利くな、お前(笑顔で)」
 恭一「ついでにコレも買っときました(さも自慢げに)」
   殺虫剤を袋から取り出し、恭之介に見せる恭一。
 恭之介「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ(喜んで)」

○ 庭 夜
   水の入った防火バケツ。縁台と庭先に座り花火を観賞
   する四人。闇に綺麗な火花を落とす花火。浮き上がる
   四人の姿。小さな歓声と談笑。時折り、ウトウトする恭
   之介。少し離れた芝生で、四人の様子と花火を鑑賞
   するタマとポチ。
 正也M「しばらく経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱
      舞が広がり、四人の心を癒していった。でも、じ
      いちゃんは半分、ウトウトしていた」

○ エンド・ロール
   他愛もない人々だ…という目線で見る、猫のタマと犬
   のポチ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第四話」 をお読み下さい。

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2012年5月16日 (水)

シナリオ 夏の風景(第三話) 疑惑

 ≪脚色≫

      
夏の風景

      (第三話)疑惑           

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 子供部屋 夕方
   椅子に座り、机上で絵日記を書く正也。蝉が集く声。開
   けられた窓から入る夕映えの陽射し。目を細める正也。
  正也M「夏休みは僕たち子供に与えられた長期の休暇
       である。ただ、多くの宿題を熟(こな)さねばなら
       ないから、大人のバカンスとは異質のものだ、と
       解釈している」
   一通り、書き終え、両腕を上へ広げて背伸びする正也。
  正也M「今日の絵日記には、父さんと母さんの他愛もな
       い喧嘩の様子を描いた。まあ、個人情報保護
       の観点から、詳細な内容は書かなかったのだ
       が、先生に知られたくなかった… ということも
       ある」
   絵日記を閉じる正也。遠くで未知子が呼ぶ声。
 [未知子] 「正也~! 御飯よぉ~!」
 正也  「はぁ~い!(可愛く)」
   席を立ち、部屋を出ようとする正也。ふと、窓を閉め忘
   れたことに気づき、戻って閉め、溜息をつくと、また椅
   子に座る正也。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第三話) 疑惑」

○  同  夕方
  正也M「二人の他愛もない喧嘩の経緯を辿れば、既に
       三日ほど前に前兆らしき異変は起きていた」

○ 玄関 夕方
   誰もいない玄関。
   O.L

○(回想) 玄関 夕方
   O.L
   誰もいない玄関。T 「三日前」
   玄関戸を開け、バットにグラブを通して肩に担いだ正
   也が帰ってくる。正也が戸を閉めた途端、ふたたび
   戸が開き、恭一がハンカチで汗を拭きながら入って
   くる。
  恭一  「ふぅ~、今日も暑かったな…」
  正也  「うん!(可愛く)」
   靴を乱雑に脱いで上がる恭一。バットにグラブを通
   して肩に担いだまま、恭一に続いて上がる野球服
   姿の正也。一瞬、立ち止まり、正也の顔を見る恭一。
  恭一  「ほぉ~、正也も随分、焼けたなぁ! (ニコリ
       と笑い)」
  正也  「まあね…(可愛く)」
  恭一  「今月は俺が一番だったな、助かる助かる…
       (ネクタイを緩めながら)」
   ふたたび慌ただしく歩きだし、正也に目もくれず、足
   早に奥へと消える恭一。

○ (回想) 居間 夕方
   居間へ入った途端、乱雑に衣類を脱ぎ捨てる恭一。
   浴室へと消える恭一。
  正也M「帰ったのは僕の方が早かったのに、逆転さ
       れた格好だ。父さんは乱雑に衣類を脱ぎ散
       らかして浴室へと消えていた」
   居間へ入る正也。台所から居間へ入る未知子。
  未知子「あらまあ、こんなに散らかして…。ほんとに
       困った人ねぇ(衣類を片づけながら)」
   片づけ中、ふと、ズボン横に落ちた一枚の名刺らし
   きものに気づく未知子。クーラーで涼みながら、そ
   の様子を見ている正也。
  正也M「落ちていた紙片がどういうものなのかは子
       供の僕には分からないが、どうも二人の関
       係を阻害する、よからぬもののようだった」
   浴室から出て居間へ入ってくる恭一。クーラーで
   涼む正也。恭一に詰め寄る未知子。
  未知子「あなた、コレ、なによ!(膨れ面で)」
  恭一  「んっ? いやぁ…(正也に気づいて、曖昧に
       濁し)」
   正也の顔を垣間見る恭一。道子もチラッ! と、正
   也を見る。押し黙る二人。よからぬ雰囲気を察して、
   居間から退去し、子供部屋へ向かう正也。

○(回想) 子供部屋 夕方
   子供部屋へ入る正也。机椅子に座った正也。
   O.L

○もとの子供部屋 夕方
   O.L
   机椅子に座った正也。
  正也M「その後、夫婦の間にどういう会話の遣り取
       りがあったか迄は定かでない。三日が経っ
       た今も、二人の会話は途絶えている。
       息子の僕を心配させるんだから、余りいい
       親じゃないように思う」
   突然、子供部屋へ入ってきた恭之介。
  恭之介「正也~、すまんがな…わしの部屋へコレ
       をセットしといてくれ」
   蚊取り線香を正也に手渡す恭之介。
  正也  「じいちゃん、電気式の方がいいよ(蚊取り
       線香を受け取り)」
  恭之介「それは、わしも知っとる。だが、こいつの
       方がいいんだ(小笑いして)」
  正也  「ふぅ~ん…(何故かが、よく、分からず)」
   話題を変え、徐に(おもむろ)に訊く恭之介。
  恭之介「父さんと母さん、その後はどうなんだ?」
  正也  「えっ? …(恭之介の顔を見上げて)」
   沈黙する正也。それ以上は訊かない恭之介。   
  正也M「僕はスパイじゃないぞ…と思った」

○ エンド・ロール
   暮れ泥む夏の夕景。湧水家の全景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 夏の風景☆第三話」 をお読み下さい。

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2012年5月15日 (火)

シナリオ 夏の風景(第二話) 馬鹿騒ぎ

 ≪脚色≫

      夏の風景

      (第二話)馬鹿騒ぎ  

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 庭 早朝
   庭の樹木で鳴く蝉。早朝の陽射し。

○ 子供部屋 早朝
   布団で眠る正也。蝉の鳴き声に薄眼を開ける正也。徐
   (おもむろ)に枕元の目覚ましを眠そうに見る正也。な
   んだ、こんな時間か…もう少し眠っていよう・・と、また
   布団を被る正也。が、辺りの明るさに半身を起こして
   両手を広げ、欠伸をする正也。蝉の鳴き声。窓から入
   る陽射しの明るさ。
  正也M「蝉が唄っている。それも暗いうちからだから、
       寝坊の僕だって流石に目覚める。それに五時
       頃ともなれば冬とは違って外は明るいから尚
       更だ」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第二話) 馬鹿騒ぎ」

○ 庭 早朝
   半身裸の着物姿で木刀を振るい、剣道の稽古をする
   恭之介。恭之介の周りを元気に駆け巡るポチ。

○ 渡り廊下 早朝
   歯を磨き終え、ラジオ体操に出ようと廊下を歩く正也。
   ガラス越しに見える恭之介。聞こえる恭之介の掛け
   声。立ち止まり、稽古の模様を窺う正也。
  [恭之介]「エィ! ヤァー!(竹刀を振るいながら)」
   正也に気づく恭之介。
  [恭之介]「どうだ、正也も振ってみるか!」
  正也  「僕はいいよっ! ラジオ体操があるから!…」
   稽古を中断し、足継ぎ石に近づく恭之介。ガラス戸を
   開け放つ恭之介。
  恭之介「まっ、そう云うな、気持いいぞぉ、ほれっ!(正
       也の眼前へ竹刀をサッっと突き出し)」
   恭之介の勢いに押され、竹刀を手にする正也。
  正也M「こういう主体性がないところは、父さんの子な
       んだから仕方がない」
   恭之介の指導通り、何回か竹刀を振るう正也。
  正也  「もう行くよ。遅れると、子供会で怒られるから
       …(急いでいる、と云いたげに)」
  恭之介「そうか…。じゃあ、行きなさい(素直に)」
   解放されたかのように、竹刀を置くと駆けだす正也。
   正也の後ろ姿に声を投げる恭之介。
  恭之介「帰ったら飯が美味いぞぉ~」

○ 台所 朝
   ラジオ体操を終えて台所へ入る正也。恭之介の腕を
   揉む未知子。傍らには、起きたパジャマ姿のまま見
   守る恭一。恭之介の横へ座る正也。
  恭一  「年寄りの冷や水なんですよ、父さん…」
  恭之介「なにを云うか! (激昂して)ちょいと、捻っただ
       けだっ」
  正也M「じいちゃんが気丈なのはいいが、父さんも、もう
       少し話し方を工夫した方がいいだろう。僕の方
       が、じいちゃんの気性を知り尽くしているように
       思える」
  未知子「でもね、お父さんも、もうお歳なんですから、気
       をつけて下さい…(揉みながら)」
   急に、顔が柔和になる恭之介。
  恭之介「ハハハ…、お二人にそう云われちゃなぁ。まあ、
       これからは考えます、未知子さん…」
   三人の様子を、椅子に座って見遣る正也。
  恭之介「さあ、飯にしましょう、未知子さん」
   隣に座る正也に気づく恭之介。
  恭之介「おぅ! 正也も帰ってたか…。虫に刺されなか
       ったか?」
  正也  「うん、虫除け持ってったし」
  恭之介「ああ…、アレはよく効くからなぁ」
   台所の片隅で四人を窺うタマが、馬鹿な話はやめて
   夕飯にしませんか? とばかりに、ニャ~と鳴く。
  恭之介「さあ、飯にしよう。飯だ飯だ、飯…飯(立ちなが
       ら)」
   呆れたように恭之介を見遣る三人。
  正也M「何かに憑かれたように、じいちゃんは母さんの
       手を振り解(ほど)いて、勢いよく立ち上がった」

○ エンド・ロール
   夕食風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 夏の風景☆第二話」 をお読み下さ い。

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2012年5月14日 (月)

シナリオ 夏の風景(第一話) 夕涼み

≪脚色≫

      夏の風景

      (第一話)夕涼み 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 庭先 夕方
   風呂から上がり、庭先の縁台で涼む恭一。団扇で手足
   の蚊を払う浴衣姿の恭一。
  正也M「今年も暑い夏がやってきた。父さんは、のんびり
       縁台で涼んでいる。時折り、手や足をパチリパ
       チリとやるのは蚊のせいだ(◎に続けて読む)」

○ 子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに恭一を眺める正也。
  正也M「(◎)僕は、その姿を勉強机から見ている(△に
       続けて読む)」

○ 台所 夕方
   夕食準備のため、炊事場で小忙しく動く未知子。
  正也M「(△)母さんは、と云うと、先ほどから台所付近
       を夕餉の支度で、小忙しく動き回っている (◇
       に続けて読む)」

○ 庭 夕方
   軒(のき)に吊るされた風鈴が楚々と鳴る。ビールを
   縁台で飲む恭一。
  正也M「(◇)父さんは風呂上りの生ビールを枝豆をア
       テに味わっているから上機嫌である。庭の風
       鈴がチリン…チリリンと、夕暮れの庭に涼しさ
       を撒く」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「(第一話) 夕涼み」

○ (フラッシュ) 庭 昼
   麦わら帽子を被り、ランニングシャツ姿の恭一。首に
   手拭いを巻き、高枝バサミで樹木の選定をする恭一。 
  正也M「今日は土曜だったので、父さんは庭の手入れ、
        正確に云えば剪定作業をやっていた(* に
       続けて読む)」

○ もとの庭 夕方
   ビールを縁台で飲む恭一。

○ 子供部屋 夕方
   勉強机から窓の網戸越しに、庭の恭一を眺める正也。
  正也M「(*)だから一汗かいたあとのビールなんだろ
       うが、実に美味そうにグビリとやる。その喉越
       しの音が、机まで聞こえてきそうだ」
   開いた戸から、突然、、風呂上がりの恭之介が入り、
   正也の背後に立って机上を覗き込む。
  恭之介「おう! 頑張っとるじゃないか…(云いながら
       正也の頭を撫でつけ、笑顔で)」
   驚いて、振り返る正也。
  正也M「急に後ろから頭を撫でつけた無礼者がいる。
       振り返れば、じいちゃんが風呂上りの赤く茹で
       あがった蛸になり、笑顔で立っていた」
  正也  「なんだ、じいちゃんか…(笑顔で、可愛く)」
  恭之介「正也殿に、なんだと申されては埒(らち)もない」
  正也  「…(意味が分からず、無言の笑顔)」
   そのまま、ただ笑いながら居間へ立ち去る恭之介。

○ 居間 夕方
   居間へ入る恭之介。庭先の足継ぎ石へ下りる恭之介。
  正也M「僕の家には風呂番という一ヶ条があり、今日は、
       じいちゃんが二番風呂だった。この順はひと月
       ごとに巡ぐるシステムになっている。提案した
       のは僕だが、母さんにはすまないと思っている。
       終いの湯があるから…と、母さんは笑いながら
       の提案を抜けると宣言したのだ。男女同権の
       御時世からすれば、時代遅れも甚だしいことは、
       小学生の僕にだって分かる」

○ 庭 夕方
   徐(おもむろ)に縁台へ座る恭之介。二人の間に置か
   れている将棋盤と駒箱。
  恭之介「恭一、また…どうだ」
  恭一  「お父さん、もう夕飯ですから…(やや迷惑顔で、
       遠慮しながら、残ったビールを飲み干し)」
  恭之介「いいじゃないか。お前…確かこの前も負けたな。
       もう勝てんと音をあげたか?(フフフッ・・・と笑
       いながら縁台上の殺虫剤をブシューっとやり)」
  恭一「違いますよ!」
  恭之介「なら、いいじゃないか(即座に返し)」
  恭一「分かりました。受けて立ちましょう(やや依怙地に
      なり、即座に返し)」
   慣れた手つきで、瞬く間に駒を並べ終え、盤上に視線
   を集中させる二人。

○ 子供部屋 夕方
   勉強机から、窓の網戸越しに二人を眺める正也。突然、
   未知子が現れ、正也の背後に立つ。机上に置かれた
   蚊取り線香から流れる煙。
  未知子「正也!…早く入ってしまいなさい (やや強く)」
  正也M「母さんの声が背後から飛んできた。僕は勉強
       をやめ、風呂へ入ることにした。蚊が机の上へ
       無念そうにポトリと落ちた」

○ エンド・ロール
   将棋を指す恭之介と恭一。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は「短編小説 夏の風景☆第一話」 をお読み下さい。

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2012年5月13日 (日)

夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ

      夏の風景     水本爽涼

    特別編(下) 怪談ウナギ        

 今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十五度はある。夏休みだから、僕は洗い場で水浴びをした後、昼寝をしようとしている。滾々(こんこん)と湧き出る冷水のお蔭で、僕の体温は、かなり低くなり、生温かい畳が返って心地よいくらいだ。父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れたまま読みかけの本を顔に宛行いつつ長椅子で寝ている筈だ。その姿が僕には手に取るように浮かんでくる。じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう。母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出た。役員だから仕方がないわ…と云って玄関を出たが、御苦労なことだ。結局、家の者で奮闘したのは母さん一人だった。無論、いつもは父さんが微力ながらも孤軍奮闘しているのだが…。
 母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを袋に入れて持っていた。
「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
 そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕の所為(せい)じゃない。まあ、そんなことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味したことで忘れてしまったのだが…。
 その晩、僕は怖い夢を見た。僕の家は平屋構造の日本家屋だとは以前、云ったと思うが、僕はその中の一部屋を与えられている。部屋は四畳半で、父さんと母さんの部屋からは廊下越しに少し離れた所にあった。二年前のリフォームの一件もお話しした筈だが、そのリフォームは大部分が僕の部屋で、大工の留吉さんが腕に縒(よ)りをかけて作ってくれたのだ。それは誠に有難かったが、生粋の日本男児の僕には、どうも馴染まず、未だに寝心地が悪くて夢を見ることが多々あった。その夜は熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見やすい状況だったと推測される。状況は兎も角として、夢の内容は実に怖いものだった。今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである。
 夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武士の出で立ちで、城から戻った風だった。じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のように、これも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた。
『今、立ち戻った!』 『お帰り、なさいまし…』
 じいちゃんと母さんは、そんな会話を交わしていたと思う。母さんは勿論、お武家の奥方の容姿で二人を迎え入れた。そこで場面が変わって、次は夕餉の膳を前に皆で鰻を食べていた。賑やかに、じいちゃんが笑っていた。そしてまた場面が変わり、僕は布団で寝ていた。すると、僕の枕元に鰻の妖怪が立ち、寝ている僕の肩を揺り動かしたのである。その面相たるや、口にするのも憚(はばか)られるほど、おどろおどろしいもので、今、お話しする間も口元が震えている。その妖怪鰻は何かを話していた。その言葉がよく聞き取れないにも拘(かかわ)らず、僕はその内容が分かるのだった。妖怪鰻が語るには、僕が食べた今日の鰻は自分で、成仏、出来ずに化けて出たのだという。僕はしきりに、僕の所為じゃない! と喚(わめ)くのだが、妖怪鰻は問答無用とばかりに僕の首を両手で絞めつけるのだ。これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げてはいるのだが、夢の話だから仕方がない。僕は、どうすれば許して貰えるのかと問うた。すると妖怪鰻は、自分の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上がりかけているから助けてくれれば一命は取らずにおこう…と、偉そうに云う。鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思ったが、息苦しかったので、そう致します…などと敬語遣いで命乞いをしたようだった。怖かったのは、その小川を僕が知っていたことである。その時、目が覚めた。まだ辺りは暗闇で、時計の針は二時半過ぎを指していた。その後、寝つけなかったものの、早暁には微睡(まどろ)んで、朝を迎えた。枕元は気の所為か、多少、畳が湿気を帯び、生臭かった。
「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
 じいちゃんが洗顔をしようと離れから現れたのは、僕が歯を磨き始めた時だった。
「なんか、よく寝られなかったんだ…」
「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ」
 と、じいちゃんは笑いながら放つと、某メーカー製の洗剤で磨いたような光沢を放ち続ける禿げ頭を、片手で捏(こね)くり回した。
「それにさ、怖い夢を見たよ…」
 じいちゃんは僕の隣で顔を洗いながら詳細を訊ねた。僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語った。
「ほう…、それはフガフガフガ…。フガフガフガガした方がフガだろう」
 じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。通訳をすれば、『ほう…、それは怖かったろうな。そのお告げのようにした方がいいだろう』と、なる。
 ポチを散歩させ、ラジオ体操へ行き、帰ってポチやミケに餌をやって朝食となる。
「父さんに聞いたんだが、悪い夢を見たんだってな、正也」
 夢の話は既に、じいちゃんから父さん、母さんへと伝わっていた。
「ん? まあね…」
 僕は咄嗟(とっさ)に、ここは三猿の“云わザル”だな…と思え、単に一語で片付けることにした。そう簡略化されては父さんも二の句が継げない。
「ふ~ん、そうか。寝苦しかったからな…」
 と云って終局させると、胡瓜(キュウリ)のお新香をバリバリっと噛った。
 父さんが出勤し、僕は夏休みの宿題を済ます。じいちゃんは畑の見回りだ。母さんは? と見ると、家の雑用を熟(こな)している。僕は、夢で見た小川へ早速、行ってみることにした。椅子を立つとミケが「ニャ~」と云い、玄関を出ると、入口でポチが「クゥ~ン」と云った。
「暑くならないうちに戻るのよっ!」
 目敏(ざと)い母さんは、レーダーで僕を見ているようだった。
 夢に現れた小川へ行くと、確かに…お告げのように一匹の子鰻が干上がりかけた水溜りにいた。僕は急いで本流の方へと、その子鰻を両手で掬(すく)うと逃がしてやった。勢いよく子鰻は泳ぎ始め、そのうち、どこかへ姿を消した。
「そうか…、まあ、いいことをした訳だな。正夢だったか、ワハハハハハ…」
 じいちゃんは畑から帰ってその話を僕から聞くと、そう云って豪快に笑い飛ばした。
「それはいいけどさ、枕元が濡れてたのが…」
 僕は今朝、起きた時の超常現象について語った。すると、近くで洗濯機を回していた母さんが、「あらっ! それ、私なの。うっかり、掃除をした時、バケツをね…慌てて…」と、云った。
「そうでしたか…」
 じいちゃんが、ふたたび大笑いをした。僕も釣られて笑い、母さんも釣られた。偶然、その時、携帯が鳴り、母さんに電話が掛かってきた。会社にいる父さんからだった。
 用件を云い終えた父さんは、母さんからその話を聞いて、『なんだ、そうだったか…。ハハハハハ…』と笑ったそうだ。これが、この夏、起きた我が家の怪談ウナギである。
 ただ一つ、夢の子鰻は確かに小川にいた…。

         夏の風景 特別編(下)  完

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2012年5月12日 (土)

夏の風景 特別編(上) 平和と温もり

      夏の風景       水本爽涼

    特別編(上) 平和と温もり        

 また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、今年の夏なのである。じいちゃんが剣道で僕に云う、“自然体”って奴だ。…少し違うような気もするが、まあ、よしとしよう。しかし、去年もそうだったように、天気予報によれば、また暑過ぎる猛暑日が何日も続きそうである。
「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハハハ…」
 豪快に笑ったじいちゃんが西瓜を頬張る。父さんは、細々と一切れに噛りつく。
「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったですから…。当時は涼しかったですよね」
「ええ、そういえば、前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ…」
 母さんも西瓜を手にしつつ、話に加わった。
「はい…。未知子さんの云う通りです」
 今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜に塩”である。
 夏休みの到来は、今年も僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそうである。その予兆が先だっても湧き上った。
「クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
「あら、そうだったわ…」
 父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り替わった。勿論、夏場だけの一過性のものだが、汗掻きの父さんは大層、喜んでいる。
「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
 僕が玄関へ向かった時、じいちゃんが不意に現れ、父さんを眺めつつ開口一番、嫌味を云った。父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃される…と、読んでいる節がある。縁台将棋で二手先を必死に読む程度の父さんにしては大したものだと思いながら、僕は玄関で靴を履いた。
「おいっ! 正也、まだ、いるかっ?!」
 玄関の戸口に手を掛けようとした瞬間、父さんのやや大きめの声が響いた。じいちゃんに嫌味を云われた鬱憤の所為(せい)でもあったのだろうが、その声は幾らか怒っている風に聞こえた。
「この前、云ってたラジコン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買ってやるからなっ!」
 今度は同じ幾らかでも幾らか違いで、幾らか威張って聞こえた。恰(あたか)も、私はこの家の戸主だっ! と、じいちゃんを含む全員に主張するかのような物云いであった。
「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」と、一応は礼を尽くす。まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。とはいえ、半面には夏休みが始まっても買って貰えないといった不吉な事態も当然、有り得る訳で、油断は禁物なのだ。云わば、今年の夏休みは臨戦態勢で突入せねばならないとも考えられるのだった。
 そうこうしている内に、終業式が近づいてきた。この時期は通知簿があるから、僕にとっては最も辛く苦しい時期なのである…と云いたいが、実のところ、そうではない。以前にも云ったと思うが(自分で云うのも口幅ったいのだが)、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれているのだ。そうはいっても天才などでは決してなく、秀才と云えば、おこがましいが、まあ、その程度のようだ。丘本先生は関東ならばK高、関西ならばN高も夢じゃないと云う。両親とも、そのことは知っているから、成績のことは諄々(くどくど)とは云わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のよに云うのだが…。好成績でも、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう。
 入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現すと、もう夏本番である。恒例になってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済ませ、僕は昼寝をした。恒例になってしまった…のは、二年前のリフォーム工事からのことで、この話も前に云ったと思うが、母屋では工事音が五月蠅くて寝られず、じいちゃんの離れで寝る破目に陥った所為(せい)であった。そのリフォーム工事も済んだ去年の夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。その訳は、味をしめたからである。洗い場で水浴びをして寝ると、実に眠り心地がいいのだ。これは、ある種の依存症の傾向にも思える。無論、アルコールとかニコチン程のものでは決してない。
「よく寝てるな…」
 蝉がすだく昼下がり、未だ眠っていないとも知らず、父さんが約束したラジコンの鉄道模型セットを僕の枕元へ置いた。冬のサンタじゃあるまいし、シャイで直接、手渡せない性格が父さんを未だに安定したヒラとして存続させている原動力なのだろう。出世、出世と人は云うけれど、出世する人ばかりじゃ偉い人ばっかしの世の中になってしまうから、父さんは貴重な存在だと僕は思っている。それに、自分の父親を弁護する訳ではないが、適度に優しい上に宴会部長だし、今一、じいちゃんのように度胸がない点を除けば、素晴らしい父親なのだ。勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだから、文句なくそれ以上に素晴らしいのである。更には、某メーカーの洗剤で磨いた光沢に引けを取らない光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、失われた日本古来の精神を重んじる抜きん出た逸材なのだ。こんな逸材は、世間広しと云えど、そうはいないと思える。…いや、これは少しベンチャラぎみで褒め過ぎのようだ。まあ、皆さんには三分の二程度の話と思って戴ければいいだろう。
 三時半過ぎまで僕は熟睡した。気にはなったが枕元の箱はそのままにして寝入ったのだ。起きると、欲しかった鉄道模型セットの箱が凛として存在した。やはり、ここはひと言、愛想を振り撒かねば…と思えた僕は、居間でカルピスソーダを飲む父さんに近づいた。
「父さん…有難う」
 少しバツが悪かったが、僕としては精一杯の笑顔で、そう放った。
「ん? ああ…」
 振り向いた父さんもバツが悪かったのか、シャイにひと言だけ、そう云った。そこへ、離れからじいちゃんが現れた。じいちゃんは、もっぱら団扇バタバタ派で、電気モノ、特にクーラーや扇風機は一切、使わないエコ族だから、洗い場で身体を拭く為に来たのだ。
「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな」
 それだけを流れる汗で弱々しく云うと、父さんには何も云わず、じいちゃんは通り過ぎた。
「お父様、お身体をお拭きになったら、西瓜をお願いしますわ」
「オッ! 未知子さん。それを待っていました」
 俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。やはり、達人はどこか違う…と思った。平和と温もりを感じる我が家の一コマである。

         夏の風景 特別編(上)  完

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2012年5月11日 (金)

夏の風景 (第十話) 昆虫採集

      夏の風景       水本爽涼

    第十話 昆虫採集          

 まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも残り少ない。
 昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は、決して両親や、じいちゃんに強制されたものではない。自然と僕の習慣となり、小さい頃から慣れのように続いてきた。この夏に限って考えれば、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している。今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言や団扇(うちわ)のバタバタがなかったから、割合、よく眠れた。
 四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た。母さんが出る間際に、熱中症に気をつけなさい、と諄(くど)く云ったが、僕は常備の水筒を首にぶら下げ、聞いたふりをして、一目散に飛び出した。
 虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。雑木林の中に数本の胡桃(くるみ)の木があり、その中の一本の幹が半ば朽ちている。そこに、クワガタ達は屯(たむろ)しているのだ。夜に懐中電灯を照らし採集するのが最も効率がいいのだが、日中も薄暗い雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろうと判断していた。
 僕が胡桃の木を眺めながらクワガタを探していると、ザワザワと人の気配がした。驚いて振り返ると、じいちゃんが笑顔で立っていた。手には某メーカーの虫除けを持っている。
「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ」と云うと、「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったんで、後(あと)を追って持ってきてやった。ホレ、これ」
 じいちゃんは、僕の首に外出用の虫除け(某メーカー製)を掛けてくれた。
「どうだ…、いそうか?」
「ほら、あそこに二匹いるだろ」と、僕が指で示すと、「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」と昔話を始めた。じいちゃんには悪いが、付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した。静かに胡桃の木へ近づくと、やんわりと虫を掴んだ。そして、虫を籠の中へポイッと入れた。
「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
 僕は、じいちゃんの云うまま、木端も虫篭へ入れた。蝉しぐれが五月蝿いが、採集を終えた後だから、何となく小気味よく響く。
 帰り道、じいちゃんが僕に云った。
「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうする。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼ってやれ。飼う気がなくなったら元へ戻せ」
 じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている。
 夕飯を四人が囲んだとき、その話がでた。
「正也も、なかなかやるぞぉ~」と、じいちゃんが持ち上げる。「そうでしたか…」と、父さんは笑う。「お前の子供の頃より増しだ」と、じいちゃんが云う。父さんは返せず、口を噤(つぐ)んで下を向いた。
 こうして、僕の夏は終わろうとしていた。

              第十話(最終話) 完

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2012年5月10日 (木)

夏の風景 (第九話) ナス

      夏の風景      水本爽涼

      第九話 ナス        

 前にも云ったと思うが、僕はじいちゃんの部屋での昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。今でいうリフォームってやつで、それを請負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入りしている。勿論、原因は改造中のために寝られないのだが、まあ、寝られたとしても、工事の騒音で安眠はできない筈だ。僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋のどの場所に寝ても、騒音は防ぎようがない。そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わないものだから、大層、迷惑していた。
 今朝も、父さんが勤めに出て暫(しばら)くすると、大工の留吉さんが元気に家へやってきた。
「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
「…ええ。倒れるくらい暑いから困るわ…」
「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」と、留吉さんは、もう仕事に取りかかり始めた。毎度のことだから、母さんも気にしなくなっている。
「ここへお茶、置いときますから…」
「いつも、すいませんなぁ…」
「あと、どのくらいかかりますの?」
「そうですなぁ…。まあ秋小口には仕上げるつもりでおりますが…」
「そうですか…。なにぶん、よろしく…」と、頭を下げて、母さんは台所へと行った。
「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな」
「どうも、ありがとう…」
 僕は渡された木屑を大事そうに持つと、これを工作に使おう…と思いながら走り去った。
 台所へ行くと、じいちゃんが汗をタオルで拭いながら、「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…」と、収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢げに見せていた。
「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…」と、おべっかなのかどうか分からないが、母さん風に上手くあしらった。加えて、「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ」と、僕へ注文をつけることも忘れない。
「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…」と紫色にツヤツヤ光るナスを片手で示しながら、じいちゃんは賑やかに笑った。じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。
「それにしても、某メーカーの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」と呟きながら、じいちゃんは離れへ去った。
 台所には、じいちゃんの頭ナスが、たくさんあり、僕を見ていた。

                    第九話  完

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2012年5月 9日 (水)

夏の風景 (第八話) 西瓜[すいか]

      夏の風景       水本爽涼  

     第八話 西瓜(すいか)

「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
 じいちゃんは、僕の家に昔からある湧き水の洗い場へ西瓜を浸けておいた。それは朝らしく、猛暑の昼下がりの今だから、よく冷えていた訳だ。僕は昼間、その洗い場で水遊びをするのが日課となっている。というのも、前にも云った筈だが、これからじいちゃんの離れで昼寝をしなければならないからだ。別にどこだって寝られるじゃないか…と思うだろうが、じいちゃんの離れへ行かなければならないのには、それなりの理由がある。それは、後日、語ることにしよう。で、そうなると、じいちゃんは電気モノを嫌うから、体を充分に冷やしておかないと眠れない訳だ。そこで、昼寝前の水遊びが日課となった…とまあ、そういうことだ。じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと信じている節がある。汗を掻いて西瓜を頬張る…これが、じいちゃんの健康法なのだろう。
「おい、正也。お前も食べるな?」
「うん!」とだけ愛想をふり撒いて、僕は洗い場から上がった。この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるのだろう…と、いつも僕は不思議に思っている。知ってる限り、枯れたことはなく、滾々(こんこん)と湧き続けている。
 家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! っと、凄まじい声を出して切り割った。流石に剣道の猛者(もさ)だけのことはある…と思った。
「父さん、私は一切れだけでいいですよ…」と、遠慮ぎみに父さんが云った。
「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐらいはガブッといけ!」
 じいちゃんは包丁を持ったまま御機嫌が斜めだ。弾みでスッパリ切られては困るが、その危険性も孕む。
「お父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ」
 母さんも遠慮ぎみである。
「未知子さん、あんたも、たんと食べなさい」
 母さんは逆らわず、笑って首を縦に振った。
 それから四人で西瓜を食べたのだが、これにも逸話がある。父さんは上品に頬張ったのだが、じいちゃんの食いっぷりは、これまた凄まじかった。僅(わず)か四、五口で一切れなのだ。三人は食べるのも忘れ、呆気にとられてじいちゃんを見るばかりだった。
「恭一、お前が買ってきた某メーカーのアレな。アレは実にいい、よく眠れる…」
「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確か…」と暗に殺虫器は電気式だと強調する。
「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、いいんだ!」
 じいちゃんも現金なもんだ…と僕は思った。
 猛暑日は、今日で四日も続いている。

                    第八話  完

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2012年5月 8日 (火)

夏の風景 (第七話) カラス

      夏の風景    水本爽涼

     第七話 カラス        

 今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を説明すれば長くなるので簡略化して云うと、全てはカラスに、その原因が由来する。
 早朝、いつものように母さんは、生ゴミを出しにゴミの搬出場所へと向かった。丁度、僕がラジオ体操から帰ってきたところで、入口ですれ違った。そのときの母さんは、普段と別に変わらなかった。しかし、戻って玄関を上がって以降の母さんは、様相が一変していた。それに、何やらブツブツ云っている。耳を澄ますと、「ほんと、嫌になっちゃう」と小声で吐いている。続けて聴いていると、「誰があんなに散らかすのかしら…」とか、不平を漏らす。思い切って、僕は訊ねてみた。
「母さん、どうしたの?」
 格好の獲物が見つかったという目つきで、母さんは僕を見据えた。
「正也、ちょっと聞いてよっ!」
 僕は、いったいなんだよぉ…と、不安になった。一部始終を云えば、これも長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱が原因らしい。
「未知子さん、飯はまだかな…」と、そこへ、じいちゃんが離れからやってきた。「はい、今すぐ…」と、母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは収まったという性質のものではなく、内に籠ったと表現した方がいいだろう。
 父さんは勤めに出るので小忙しくネクタイを締めながら食卓へと現れた。そして、いつもの変わらない朝食が始まったのだが…。
「あなた、いったい誰なのかしら?」
「ん? 何のことだ?」と、父さんは見当もつかない。じいちゃんも、珍しく箸を止めた。
「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?」
「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方でなんとかするだろう」
「それまで我慢しろって云うの?」
「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
 そこへ、じいちゃんがひと声、挿んだ。
「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やってるんじゃないぞ。熊野辺りでは、カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったことにしなさい。それが一番」
 じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い。
「蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ」と、父さんも援護射撃して笑った。
「あっ、恭一、いいこと云った。頼んどいた某メーカーの殺虫剤、忘れるなよ」
「分かってますよ、父さん…」
 薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた。

                    第七話  完

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2012年5月 7日 (月)

夏の風景 (第六話) 肩叩き

      夏の風景     水本爽涼

    第六話 肩叩き       

 じいちゃんが珍しく肩をさすっている。じっと見ていると、今度は首を右や左に振り始めた。縁台に座るじいちゃんと庭の風情が、実によくマッチしていて、哀愁を感じさせる。母さんに云われた打ち水を終えた僕は、じいちゃんへ徐(おもむろ)に近づいた。
「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。ハハハ…わしも歳だな」
 気丈なじいちゃんの声が幾らか小さかった。
 じいちゃんの後ろに回って僕が肩を叩き始めると、「ん…よく効く…効く」と、じいちゃんは気持よさそうに云った。暫(しばら)く叩いていると、「すまんが今度は軽く揉んでくれ」と注文が入った。僕はじいちゃんに云われるまま、揉みへと動作を移行した。
「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
 僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃんは大物に違いない。少し褒めておき、恐らく済んだ後に要求されるであろうコトを、最小限に食い止めようとしている。いや、勿論これは僕の推測であり、じいちゃんは素直な気持で褒めたのかも知れないのだが…。僕には本当のところ、ちょっぴり下心があった。最近、流行り始めた玩具を欲しかったので、じいちゃんに買って貰おうと思ったのだ。その潜在意識が、『じいちゃんの肩を…』と、命じたのかも知れない。
 ひと通り終えた頃、「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」と、じいちゃんの方から仕掛けてきた。これには参った。
「うん、まあ…」と、僕は防戦に回って暈したが、猛者(もさ)は追及の手を緩めない。
「男らしくはっきり云え。買ってやるから」
 僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲しいと云った。すると、じいちゃんは、「明日でも一緒に店へ行ってみるか…」と至極、簡単に了解してくれた。
「ほんと?」
 念を押すと、「武士に二言はない!」と、なにやら古めかしい云い方をした。
「夕飯ですよ~、お父さま」
 廊下のガラス戸を開け、母さんが呼んだ。
「正也も早く手を洗いなさい」
 そう云うと、すぐに母さんは引っ込んだ。
「さあ飯だ、飯だ」と、じいちゃんは縁台を勢いよく立った。その時、じいちゃんの頭に一匹の蚊が止まった。
「コイツ!」と、じいちゃんは自分の頭をピシャリと叩いた。僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。蚊はスゥ~っと飛び去った。
「某メーカーの殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…」と、じいちゃんは声高に笑った。
 夕陽とじいちゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかった。

                    第六話  完

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2012年5月 6日 (日)

夏の風景 (第五話) アイス・キャンデー事件

      夏の風景     水本爽涼

    第五話 アイス・キャンデー事件  

 今日は朝から気温がグングン昇り、昼過ぎには、なんと36度を突破した。いつもは気丈なじいちゃんでさえ、流石に萎えている。
「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」
 隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言に、安眠を妨害され目覚めた。声がした方へ寝た状態で首を振ると、じいちゃんは団扇(うちわ)をパタパタやっている。別にクーラーや扇風機がない訳ではない。じいちゃんが嫌いなので、僕はいい迷惑をしている。
「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、猛暑日だとかテレビが云っとったな」
 また、ひとり言を口にして、じいちゃんはヨッコラショと立ち上がった。そして一瞬、僕の寝姿を見た。目と目が偶然、合った。
「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」
 そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パタパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪しい。
「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがあるよ。朝、二本買っといたから、一本やるよ」
「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃあ、水を浴びてから戴くとするかな」
 僕の方を笑い見て、じいちゃんはそう云うと浴室の方へ歩いて消えた。
 暫(しばら)くして、僕が眠りかけた頃、シャワーを終えたじいちゃんが、また戻ってきた。
「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」「そんなことないよ、ちゃんと買っておいたんだから」「いや、確かになかった…」
 押し問答をすれば暑いのが益々、暑くなる。僕は跳ね起きて、冷蔵庫へと走った。
 じいちゃんの言ったことは間違ってはいなかった。僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残りの一本をじいちゃんにやった。
 消えたアイス・キャンデー、犯人は誰なのか…、僕は刑事として捜査を開始した。
 夕方、呆気なく犯人が判明した。
「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、手が出たんだが…。すまんな」
 犯人は父さんだった。今日は日曜で、父さんは遣り残しの仕事があったので、一日中、書斎へ籠りパソコンと格闘していたのだ。僕は、まず母さんを疑っていた。あとは母さんだけだと思い、父さんの存在を忘れていたのだから、まあ、父さんもその程度だ。
 夕食を囲んで、その話題で笑いあった。
「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しかし正也、買った食い物は早く食べんとな」
「そうだな、それは父さんの云う通りだぞ、正也」と、じいちゃんも笑い、機嫌がいい。
「今日はゴキブリ出ないわねぇ…」と、母さんが突然、口を動かした。
「そりゃそうさ。某メーカーのボックスを昨日、仕掛けたからなぁ」と父さんが自慢げに解説した。
 罠にかかったゴキブリが、馬鹿馬鹿しい…と云った(コレは想像…)。

                    第五話  完

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2012年5月 5日 (土)

夏の風景 (第四話) 花火大会

     夏の風景       水本爽涼

    第四話 花火大会    

 僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催される。とは云っても、これは飽くまでも僕がそう思っているだけの、どこの家でも出来る程度の小規模なものなのだが…。
「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
 じいちゃんは賑やかに笑って、自分で淹れた茶を一気に飲み干した。
「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」と訊ねると、
「ん? いやぁ…未知子さんが買うと云ってたからな…」
 じいちゃんは急に温和(おとな)しくなった。
 花火を買ってくるのは、父さんの場合もあり、母さんになるときもあった。じいちゃんも買ってくれたことがあったとは思うが、僕の記憶では一度こっきりだった。僕も、なけなしの小遣いをはたいて、ほんの僅(わず)かばかり買い足し、毎年の花火大会を楽しむのが常だった。
 勤めに出る前の父さんに今日の大会の開催を告げると、「そうだったな…。じゃあ、早く帰る」と、無愛想にOKしてくれた。
 大会の夕暮れとなった。毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間に近くの玩具屋でお気に入りの花火を少し買っておいた。そして何事もなく夕飯も済み、いよいよ八時近くになった。
「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買ってないの」
 云ってたのに! と、一瞬だか僕は母さんを怨んだ。そして、グスンと少し涙した。運悪く、その僕をじいちゃんが見ていた。
「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするんじゃない!」と、顔を赤くして、じいちゃんは僕を叱った。涙ぐんだ目を擦ると、僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。しかし、その蛸はすぐにグデンと柔らかくなった。
「まあ、いいじゃないか、今日でなくても」と、じいちゃん蛸は僕を宥(なだ)めにかかった。
 そこへ父さんが蕭々と現れた。
「フフフ…、正也も、まだ子供だな」と父さんは少しニヤリとした。云われなくたって僕は子供さ、と思った。
「お父さん、こういうこともあろうかと、ほら、今年は私が買っておきましたよ」
「おぉ…珍しく気が利くな、お前」と、じいちゃんが褒めると、父さんは調子に乗って、「ついでに、コレも買っときました」と、さも自慢げに、某メーカーの殺虫剤を袋から取り出して、じいちゃんに見せた。
「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ」
 じいちゃんは顔中に歓びを露(あらわ)にした。
 暫(しばら)く経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱舞が広がり、四人の心を癒していった。
 でも、じいちゃんは半分、ウトウトしていた。

                    第四話  完

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2012年5月 4日 (金)

夏の風景 (第三話) 疑惑

    夏の風景       水本爽涼

     第三話 疑惑          

 夏休みは僕たち子供に与えられた長期の休暇である。ただ、多くの宿題を熟(こな)さねばならないから、大人が云うバカンスとは異質のものだ、と解釈している。
 今日の絵日記には、父さんと母さんの他愛もない喧嘩の様子を描いた。まあ、個人情報保護の観点から、詳細な内容までは書かなかったのだが、僕としても、先生に知られたくなかった…ということもある。
 その経緯を辿れば、既に三日ほど前に前兆らしき異変は起きていた。
「ふぅ~、今日も暑かったな…」
 玄関の戸がガラッと開いて、父さんは誰に云うでもなく呟くと、靴を乱雑に脱いで上がった。僕は偶然、野球から帰ったところで、父さんと玄関で出食わした。
「ほぉ~、正也も随分、焼けたなぁ!」
 父さんは僕を見て、珍しくニコリと笑った。
「今月は俺の番だったな、助かる助かる…」と、その後は僕に目もくれず、ネクタイを緩めながら足早に奥へと消えた。帰ったのは僕の方が早かったのに、逆転された格好だ。
 僕が居間へ入ると、父さんは乱雑に衣類を脱ぎ散らかして浴室へと消えていた。
「あらまあ、こんなに散らかして…。ほんとに困った人ねぇ」
 母さんが父さんの衣類を片づけだした時だった。その詳細を僕も見ていた。一枚の名刺らしきものが、脱がれたズボンの横に落ちていた。その紙片がどういうものなのかは子供の僕には分からないが、どうも二人の関係を阻害する良からぬもののようだった。それは、風呂から上がった父さんに、「あなた、コレ、なによ!」と、母さんが怒りを露(あらわ)にして訊ねたから推測できたことなのだが…。
「ん? いやぁ…」と濁して、父さんは僕の顔を見た。子供の前では、詳細を披瀝できなかったのだろう。母さんも、僕がいたから疑惑を追及しなかったようだ。その後、夫婦の間にどういう会話の遣り取りがあったか迄は定かでない。
 そして三日が経った今も、二人の会話は途絶している。息子の僕を心配させるんだから、余りいい親じゃないように思う。
「正也~、すまんがな…わしの部屋へコレをセットしといてくれ」
 じいちゃんが急に現れ、某メーカーの蚊取り線香を絵日記を書き終えた僕に手渡した。
「じいちゃん、電気式の方がいいよ」
「それは、わしも知っとる。だが、こいつの方がいいんだ」と、笑った。そして、「父さんと母さん、その後はどうなんだ?」と、徐(おもむろ)に訊ねた。
 僕はスパイじゃないぞ…と思った。

                    第三話  完

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2012年5月 3日 (木)

夏の風景 (第二話) 馬鹿騒ぎ

    夏の風景       水本爽涼
                              
    第二話 馬鹿騒ぎ        

 ミィーン…ミンミンミン…、ジージーと蝉が唄っている。それも暗いうちからだから、寝坊の僕だって流石に目覚める。それに五時頃ともなれば冬とは違って外は明るいから尚更だ。それでも、じいちゃんの早起きには勝てっこない。今朝も僕が起きだしたときには、庭で、「エィ! ヤァー」と竹刀(しない)を振っていた。
「どうだ、正也も振ってみるか!」「僕はいいよ、ラジオ体操があるから…」と逃げをうったが、じいちゃんは案の定、諄(くど)く勧誘する。
「まっ、そう云うな、気持いいぞぉ、ほれっ!」と、僕の眼の前へ竹刀をサッっと突き出した。その勢いに押され、僕の手は自然と竹刀を握っていた。こういう主体性がないところは、父さんの子なのだから仕方がない。
 数分、じいちゃんに付き合って竹刀を振ったあと、「もう行くよ。遅れると子供会で怒られるから…」と、ふたたび逃げをうったが、「そうか…、じゃあ行きなさい」と、今度は素直で、じいちゃんも深追いはしなかった。
「帰ったら飯が美味いぞぉ~」と叫ぶ声が、家を出る僕の背後に響いていた。
 ラジオ体操を終えて戻ると、母さんが、じいちゃんの腕を揉んでいた。傍らには、いつの間にか起きだした父さんもいる。
「年寄りの冷や水なんですよ、父さん…」
「なにを云うか! ちょいと捻っただけだ」
 じいちゃんが気丈なのはいいが、父さんも、もう少し話し方を工夫した方がいいだろう。僕の方が、じいちゃんの気性を知り尽くしているように思える。
「でもね、お父さんも、もうお歳なんですから、気をつけて下さい…」
 母さんも、今日は父さんの味方をしている。すると急に、じいちゃんの顔が柔和になった。
「ハハハ…、お二人にそう云われちゃなぁ。まあ、これからは考えます、未知子さん…」
 じいちゃんは素直に反省して黙った。僕はやれやれと安堵した。だが次の瞬間、「飯にしましょう、未知子さん」ときた。じいちゃんの大食いは我が家でも有名なのだ。
「おぅ! 正也も帰ってたか…。虫に刺されなかったか?」
「うん、某メーカーの虫除け持ってったし」
「ああ…、アレはよく効くからなぁ。さあ、飯にしよう、飯だ飯だ、飯…飯」と、何かに憑かれたように、じいちゃんは母さんの手を振り解(ほど)いて、勢いよく立ち上がった。

                    第二話  完

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2012年5月 2日 (水)

夏の風景 (第一話) 夕涼み 

    夏の風景    水本爽涼

    第一話 夕涼み           

 今年も暑い夏がやってきた。
 父さんは、のんびり縁台で涼んでいる。時折り、手や足をパチリパチリとやるのは、蚊のせいだ。僕は、その姿を勉強机から見ている。母さんはというと、先ほどから台所付近を夕餉の支度で小忙しく動き回っている。父さんは風呂上りの生ビールを枝豆をアテに味わっているから上機嫌である。庭の風鈴がチリン…チリリンと、夕暮れの庭に涼しさを撒く。
 今日は土曜だったので、父さんは庭の手入れ、正確に云えば剪定作業をやっていた。だから一汗かいたあとのビールなんだろうが、実に美味そうにグビリとやる。その喉越しの音が僕の机まで聞こえてきそうだ。
「おう! 頑張っとるじゃないか…」
 急に後ろから僕の頭を撫でつけた無礼者がいる。
 振り返れば、じいちゃんが風呂上りの赤く茹であがった蛸になり、笑顔で立っていた。
 僕の家には風呂番という一ヶ条があって、今日は、じいちゃんが二番風呂だった。だから当然、父さんが初めに入ったということになるのだが、この順は一ヶ月ごとに巡ぐるシステムになっている。提案したのは僕だが、今になってみれば、母さんにはすまないと思っている。終いの湯があるから…と、母さんは笑いながら僕の提案を抜けると宣言したのだ。男女同権の今の御時世からすれば、時代遅れも甚だしいことは、小学生の僕にだって分かる。
「恭一、また…どうだ」
 じいちゃんが縁台へと近づき、父さんにひと声かけた。
「お父さん、もう夕飯ですから…」と、父さんは躱(かわ)したが、じいちゃんも、そう簡単には引き下がらない。
「いいじゃないか。お前…確かこの前も負けたな。もう勝てんと音をあげたか?」と、フフッと笑いながら、某メーカーの殺虫剤をブシューっとやる。
「違いますよ」「なら、いいじゃないか」「分かりました。受けて立ちましょう」と、父さんも依怙地になって、二人は対峙する形で座り直した。縁台には、どういう訳か日常的に将棋盤が置かれていて、某メーカーの殺虫剤も、その横に…。
「正也、…早く入ってしまいなさい!」
 台所から母さんの声が飛んできた。僕は勉強をやめ、風呂へ入ることにした。
  蚊が机の上へ無念そうにポトリと落ちた。                                                        

                    第一話  完

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2012年5月 1日 (火)

シナリオ 春の風景 特別編(下) コラボ(2)

≪脚色≫

      春の風景

       特別編(下)コラボ(2)      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ (回想) 台所 夜
   食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観ながらコップのジュースを
   飲む正也。廊下から聞こえる声に振り返る正也。立ち話をする恭
   一と未知子。
  正也M「テレビを見ながら、風呂上がりのジュースを賞味していると、
       廊下で父さんと母さんが云い合っているのが見えた。云い合
       うとは、両者が相応の力を有する場合だが、いつも父さん蛞
       蝓(ナメクジ)は母さん塩(ジオ)にすぐ溶かされるから、この表
       現は少し誤っているだろう」
   風呂上がりの恭之介が浴衣姿で台所へ入り、廊下の二人を覗き見
   る。
  恭之介「ん? …どうした? 恭一!(声を投げ掛け)」
   恭一は即答、出来ない。取り繕う未知子。
  未知子「あら、お父様。別に大したことじゃないんですよ。うっかり、私
       が銀行へ寄るのを忘れてたもんですから!。明日のお財布
       が…(恭之介の方を向き)」
  恭之介「えっ? …ああ、恭一は明日、出張らしいですな」
  未知子「ええ…それで費用は会社から出るんですけどね、いつも給料
       加算の後払いでして…」
   浴衣の腹に手を入れ革財布を取り出し、中から二十枚以上、新札
   の一万円札を取り出す恭之介。
  恭之介「立て替えて自腹の仕組みですか…。なるほど、粗方(あらか
       た)は分かりました。いいでしょう! 一両ほど持って行きな
       さい」 
   慣れた手つきで取り出した札を指で数え、十枚ほどを未知子に手
   渡す恭之介。
  正也M「一両? 僕が首を捻ると、じいちゃんは浴衣の腹に手を入
       れ革財布を取り出した。その財布は、遠目からはブランド物
       のようで、高級ぽかった」
  未知子「お父様…、こんなことを、なさっちゃ…」
  恭之介「いいんです、道子さん。普段、お世話になっておるんですか
       ら…(少し照れて)。それにしても、手持ちがあり、まあ、よ
       かった…(呟いて)」
   バツが悪いのか、軽く笑いながら、場を離れる恭之介。、
  二人  「…どうも、すいません!(二人同時に恭之介の後ろ姿へ声
       を投げ掛けて)」
   無言でテーブル椅子へ近ずき、正也の隣へ座る恭之介。
  正也  「じいちゃんは、お金持ちなんだね?(小声で)」
  恭之介「ははは…何をおっしゃる。正也殿の足元にも及びませぬ
       (豪快に笑いながら)」
  正也M「訊きたかったということもあるが、僕は少々、ベンチャラぎみ
       の言葉をじいちゃんに云った。じいちゃんは笑いながら、お
       武家言葉で斬り返した」
   しまった、とばかりに頭を掻く正也。沈黙。テレビの音。

○ (回想中のフラッシュ) 台所 夜
   財布から新札の一万円札を取り出す恭之介。慣れた手つきで取
   り出した札を指で数え、十枚ほどを未知子に手渡す恭之介。
  正也M「それは兎も角として、じいちゃんの金が父さんの旅費とな
       ったのだ。早い話、母さんを介して間接的に、じいちゃんと
       父さんがコラボした、と考えることが出来るだろう(◎に続
       けて読む)」

○ もとの台所 夜
   食卓テーブルの椅子に、座りテレビを観ながらコップのジュースを
   堪能する正也。正也の隣で、つまみを食べながら、酒燗をチビリチ
   ビリ堪能する恭之介。
  正也M「(◎)また、じいちゃんの光る禿げ頭は、仏様の光背のよう
       な神々しい輝きなのである。これは、じいちゃんと金ピカの
       コラボなのかも知れない(◇に続けて読む)」

○ 茶の間 昼
   櫓炬燵を囲み、茶菓子を食べながらお茶を啜る、四人の談笑する
   姿。
  正也M「(◇)その輝く光に囲まれて、僕達家族は長閑な春の陽気
       の中を、日々、お互いにコラボしつつ暮らしている」

○ エンド・ロール
   畑でほころぶ梅の花。囀るウグイス。湧き水家の全景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「春の風景 特別編(下) コラボ」 をお読み下さい。

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