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2012年6月

2012年6月30日 (土)

冬の風景 (第十話) みんなの癖

      冬の風景      水本爽涼

    (第十話) みんなの癖        

 父さんの悪い癖といえば、これはもう、曖昧に暈して返事することに尽きる。それは、ここ最近、俄かに始まったことではない。辿ってみれば、その主体性の無さは、僕が物心ついた頃から変わっていないように思える。
「今度こそ、終りか…」
 じいちゃんが外した注連(しめ)飾りが部屋の片隅に置かれている。父さんはそれを横目で見ながら、誰に云うともなくボソッと呟いた。家の表と裏口、それに神棚のもの、加えて、三方(さんぼう)に乗せたウラジロなどの正月ものは、ひと纏めにして明日の左義長(どんど焼きとか、地方により云い方が違うらしい)で燃されるのだ。僕はそれを神社へ持っていこうと新聞紙に包み、紐で括りつけていたところだった。そこへ、父さんが通り掛かったという塩梅(あんばい)だ。じいちゃんは幸いにも離れへ行って不在だったから、思わず口から漏れたひと言のように思えた。
「それじゃ、これから持ってってくる…」
「ああ…」
 僕は父さんとは違い、主体性と責任感を今後も維持したいから、すぐ家を出た。そこへ、離れからじいちゃんが現れ、一緒に行くと云う。
「いやな、儂(わし)も左義長の飾り付けを神主さんに頼まれたんだ…」
 歩きながら、じいちゃんは僕にそう云った。
「父さんは左義長で見たことがないね」
「ああ…恭一なあ。あいつは行事には無頓着だ。そのくせ、宴会などはその真逆だがな…。お蔭で、儂が正也にいつも云ってる安定したヒラだ、ははは…」
 思い出したように、じいちゃんは小さく笑いだし、次第にボリュームを上げて大笑いした。確かに、じいちゃんが云うように、父さんの安定感は抜群で、他者の追随を許さない。
 日曜の翌朝、左義長も終って家へ帰ると、じいちゃんが頭を撫で回しながら母さんと談笑していた。毛のない頭を撫で回すのは、じいちゃんの癖だ。これは、父さんとは違い、悪い…とは云えない性質のものである。ただ、撫で回した後で僕に触れるのは、やめて貰いたい、とは思う。その頭のオリジナルの光沢は、某メーカーの洗剤Xで拭いた輝きを放ち、実に素晴らしい。
 続いて、母さんの癖は? と考えれば、そう目立った癖はない。強(し)いて挙げれば、父さんや、じいちゃんと話す時、「…ですわ」みたいに、少しお上品に語るところか。何故かといえば、僕の時は、そのお上品が影を潜めるから、平等に扱って欲しいという僕の願望を込めて、敢えて癖と云わせて貰う。
『さて、どんじりに控(ひけ)えしはぁ~~』と、じいちゃんに聞いた白浪五人男の口上のように僕のことを云うなら、こうして家族のことを観察眼をもって記録し、更にはそれを、読者の方々に、延々と書き連ねるという、何とも嘆かわしい癖を有している、と書かざるを得まい。だが、大方は事実であり、多少のオーバー表現はあるものの、温かな我が家の一コマなので許して戴きたい。

                    第十話  完

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2012年6月29日 (金)

冬の風景 (第九話) 鏡開き

      冬の風景      水本爽涼

    (第九話) 鏡開き       

 凧も無事に大蛸によって揚げられ、今年も本懐を遂げて事無きを得た。さて、そうなると、次はいよいよ正月のクライマックス、鏡開きとなる。
 僕の家では、別に古い慣習という程でもないが、細々と繰り返される独自の行事的なものがある。田舎だから…と云えばそれ迄だが、毎年、続いているから違和感は全くない。返って、それがないと、正月が始まり、そして終った…という歳月の巡りが実感出来ないのだ。
「正也、三方(さんぼう)の餅と栗と干し柿を分けてな…」
 じいちゃんの指示で、僕は神棚や仏壇から下げられた餅や栗、干し柿を分別する労働に従事することとなった。何年もやっているレギュラーだから、手慣れたものだ。瞬く間に、手際のよさで分別を終えた。
「そうそう…。こうしておくと、また、お八つで食えるしなぁ。…餅は、じいちゃんが切る」
 師匠は切るのではなく斬るのだろうが、まあ、微力の僕には孰(いず)れにしろ無理だから、敢えて素直に、「うん!」と云っておいた。そこへ父さんが現れなくてもいいのに現れた。
「いやぁ~、終りましたね、正月も…」
 父さんは、つまらないことを口にした。
「ふん! まだ終っとりゃせん。今が最高の見せ場だっ!」
 危ない危ない…と、父さんはじいちゃんの雷が落ちる前に上手く身を翻(ひるがえ)し、退避した。
「あいつは、いつもアアだ…。正也はアアはなるなよ、ムゥ~ッ!!」
 話しながら、師匠は気合い諸共、鏡餅を一刀両断し、返す刃(やいば)で四つ、八つと包丁で切り割った…いや、斬り捨てた。
「儂(わし)が出来んようになったら、正也、お前が、やれ。恭一はせんだろう…」
 餅は、いつも町内の又吉さんの家で搗(つ)いて貰う。餅米と幾らかの搗き賃は支払うそうだが、又吉さんも大工で世話になっている手前、いつも快(こころよ)く引き受けてくれるので、僕の家は大層、助かっている。
「切れたようですわね、お父様…。。美味しいお善哉を作りますわ」
 母さんが、いつの間にか現れ、僕達を見下ろしていた。
「ははは…、アレは美味いですからなあ。楽しみにしとります」
 アア(父さん)とアレ(善哉)では偉い違いだな…と、僕は思った。
「頭領には、いつもお世話になって、本当に助かってます…」
「又さん、ですか。確かに…」
 会話は、それで途切れた。僕の家の鏡開きは、こうして終結した。切られた、…いや某メーカーのワックスで磨いた如く光り輝く頭のじいちゃんによって斬られた餅は、焼いたり、或いは善哉にされ、その生涯を終えるのである。今年も、じいちゃんの斬れ味は鋭かった。

                    第九話  完

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2012年6月28日 (木)

冬の風景 (第八話) 雪の朝

       冬の風景      水本爽涼

    (第八話) 雪の朝        

 今朝、僕が起きると、辺り一面は雪に覆われていた。それも何年かに一度という積雪に思えた。
 じいちゃんの慈悲で二十分、短くして貰い、寒稽古を済ませた後、シャワー室で汗を流した。その後、廊下を横切った時、
「参ったなぁ…。いやぁ、参った参った」
 と、父さんが珍しく早朝から起きだし、洗面所へとやってきた。何を参っておいでなのか知らなかったので、僕はひと言、「おはよう! ^0^ 」とだけ愛想をふり撒いて、居間へ行った。その時、裏戸が開いて、じいちゃんが上半身裸の姿で入ってきた。外は凍えそうな寒気の筈なのだが、飛び込んだという感じではなく、ゆったりとした威風堂々の出で立ちで、肩からは幾筋もの湯気が盛んに昇っている。顔は? と云えば、これはもう、皆さんがよく御存知の茹(ゆだ)った蛸の赤ら顔で、僕よりも健康優良児に見えた。片手には、いつもの竹刀を携(たずさ)え、笑っている。
「ははは…、洗い場で拭こうとしたんだが、この雪で生憎(あいにく)、足場が悪くてなあ…」
 そんなことで、じいちゃんにしては珍しく家の中で身体を拭こうと、汗を掻いた姿で入ってきたのだった。
「けっこう、積もってたね」
「そうだな…。ここ最近、見ない豪雪だ。三十、いや四十程はあったな」
「足が冷たかったけど、直ぐ温まった…」
「ははは…。正也には悪いが、これも長い目で見れば、お前の為だからな。頑張れ!」
 そう云って、じいちゃんは僕の頭を撫でてくれた。大蛸に撫でられ、まさか僕も伝染して蛸頭になるとは思えず、されるまま従っておいた。まあ、孰(いず)れにしても、師匠に逆らうなどということは出来ないのだが…。
 上手くしたもので、僕は未だ冬休みが二日程、残っていたので救われたが、父さんに天の助けは無かった。彼が、『参った参った』と口にしていたのは、通勤の交通を慮(おもんばか)ってのことだった。先程の話によれば、交通機関の乱れで、どうも会社への到着が遅れるらしい。年初の仕事の打ち合わせが朝からあるそうで、間に合うか冷や汗ものだという。僕は、じいちゃんと一緒に寒稽古をして、暑い汗を流しなされ…と、云いたかった。無論、口にするのは憚(はばか)られたから、想うに留めた。
 台所へ食事に行くと、父さんは既にテーブルにいて、バタつきながら味噌汁を喉に通していた。
「あなた、そんなに急いで…、身体に毒よ!」
 母さんにそう窘(たしな)められても、父さんは、ただ黙々と速度を上げて食べ続ける。
「恭一!! もっと、よく噛んで食べなさい!」
 母さんの後方には、仏様の光背のように光り輝く禿(はげ)頭のじいちゃんが立っていた。某メーカーのワックスZで磨いたような光沢なのは紛れもない。迂闊(うかつ)にも父さんは、じいちゃんを見落としていたのだ。じいちゃんの声を耳に受け、急速に父さんの食べるペースが落ちた。まあ、父さんも、この程度のものだ。

                    第八話  完

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2012年6月27日 (水)

冬の風景 (第七話) タコづくし

      冬の風景      水本爽涼

    (第七話) タコづくし        

 蛸が凧を揚げている…と云えば、これだけでもう、読者の方々は笑って戴けると思う。更に僕は、その蛸の横で上空に高く揚がった凧を見ているという寸法だ。勿論、蛸と云やあ、某メーカーの洗剤Xで磨いた光沢を放つ、じいちゃんの禿(はげ)頭である。ここ数年…とは云っても、飽く迄もこれは僕の知る限りにおいてであり、本当は僕が生まれる遥か以前から揚げられていたようだ。
 さてその凧は師走も半ばとなると、じいちゃんの竹取りから始まり、ひご作り、紙貼りを経て、今日のような試し揚げとなる。そして、これが成功裏に終われば、絵の具により色彩が施され、晴れの正月を迎えて揚げられるのだ。これも、僕の家では冬の風物詩の一つになっていて、僕は大いに楽しみにしているのである。
「まあ、少し違うが、これでよかろう…」
 何が少し違うのか迄は僕にも分らないが、兎も角、今年の凧は、じいちゃんに及第点を貰えたようだった。凧が蛸に…と思えば笑えるから、ここは我慢して続けたい。
 正月が明けた。
「おめでとうございます」
 と、父さんが云う。
「いや、おめでとう…」「おめでとうございます」「おめでとうございま~す」
 と、じいちゃん、母さんが続く。そして僕も小さな声で続く。
 何がおめでたいのか? と最近迄は思っていた僕だったが、唱歌♪一月一日♪の歌詞中の、♪…終~わりなき世のぉ目出たさをぉ~♪を聞いて、漸(ようや)くその意味を解したところだった。その挨拶を家内で交わし、晴れてお節(せち)と雑煮になる。僕の家の雑煮は関東風のお吸いもの仕立てだ。僕は雑煮の後、好物の酢醤油蛸を軽く一膳の御飯で食べるのが至福の極みなのである。僕は酢醤油蛸も含めて、これを、━ 正月の三ダコ ━ と呼んで崇(あが)めている。勿論、残りの二ダコとは、じいちゃんの蛸頭と空に揚げる凧であることは云う迄もない。
「父さん、今年はいつ揚げるんです?」
 父さんが雑煮を食べながら云った。じいちゃんはそれに、「フガフガ…」と直ぐ返した。口の動かし方からして、恐らくは、『風のある日だ!』と、云ったように僕には思えた。事実、元旦は終日、風が無く、凧にお呼びは掛からなかった。姥(うば)芸者さんのようなものであろうか(失礼! 子供の僕が語るような内容ではないが…)。部屋の片隅でその凧は寂しそうにしていた。まあ、酢蛸は僕に食べられて満足だったろう。それと、じいちゃんの蛸頭だが、これは相変わらずの照かりで、衰える気配は毛頭ない(禿頭だけに)、と云っておこう。凧も数日中には揚がるだろう。三者三様に、年の始まりをタコづくしで寿(ことお)いでいる。

                    第七話  完

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2012年6月26日 (火)

冬の風景 (第六話) 電気炬燵

      冬の風景      水本爽涼

    (第六話) 電気炬燵        

 そろそろ寒くなってきたということで、父さんは今日、物置から電気炬燵を出して茶の間へ据え付けようとした。ところが、ここで大事件が勃発した。…と、書けば、お宅の家で何か起こるのは父親がいる時だけだな、と云われる読者の方々も多いと思うので、父さんの名誉のために、これだけは云っておきたい。大事件とは、僕が多少、オーバーに云ってることで、そう大した事柄なのではない。しかも、それは父さんの所為(せい)ではなく、クーラーだけでは足元が…と思った父さんの偶然が、引き起こしたことなのである。その辺りをご理解戴いた上で、話を起こすとしよう。
「フゥ~、クーラーだけでは寒いな。おーいっ! 電気炬燵は物置だったなー?!」
「はーい! 確かその筈です!」
 父さんが茶の間でバタバタして、少し離れた所にいる母さんに訊ねた。母さんは少しトーンを上げて、すぐ父さんに返した。父さんはそれを聞き、物置へ向かった。日曜だったので、僕は家にいた。木枯らしが去り、秋に替わって冬将軍の第一陣が、『コンチワッ!』と、勢いよく小雪と伴に訪れた寒い朝だった。
 早く出して貰いたいので、僕も父さんの尻に従って物置へ行った。じいちゃんの寒稽古の声が、風に乗って聞こえていた。
「よしっ! あった、あった。正也、そこのコードだけ持ってってくれ」
 父さんは電気炬燵を持って茶の間へと入った。設置を終えた父さんは、コンセントへ繋いでスイッチを入れたが、肝心の赤外線ランプが点灯しない。
「…こりゃ、ヒューズが切れたかぁ?」
 恐る恐る裏返して父さんが凝視すると、確かにヒューズが切れていた。父さんは溜め息をつきながら物入れから修理工具と予備の温度ヒューズを取り出し、悪戦苦闘の末、漸(ようや)く取り替えた。
「よーしっ! これでOKだっ!」
 ニコッと笑ってスイッチを入れた瞬間、父さんの顔が、また曇った。点灯しないのだ。
「妙だなぁ~。これ以上は無理だしなぁ…」
 首を捻りつつ、何やらブツブツと云っていた父さんは、暫く炬燵と睨み合った挙句、ついに意を決して電気屋へと出かけた。母さんが、「もう、ご飯ですよ!」と云ったが、心ここにあらずで、一切、喋らず無言だった。
 その後、上手い具合に替えのパーツが入手出来たのか、父さんは喜び勇んで帰ってきた。
「おい、どうした? 恭一」
「いや、どうも故障のようでして、替えを…」
「フン! 儂(わし)みたいに寒稽古をしてりゃ、そんなもんは全くいらんのだ! 情けない…。なあ、正也」
 僕は父さんの手前、黙っていた。
 父さんにすれば、日曜だというのに寒い中を仕方なく準備して、その結果、修理に至り、更には買い替えの為に外出する破目となり、サッパリなのだ。そこへ輪をかけて、某メーカーの洗剤Xで磨いた光沢を放つ蛸頭の小言(こごと)である。我が家としては小事件だったが、父さんにとっては散々な一日となってしまった。だが、世界の各地では悲惨な戦闘による犠牲者が未だ絶えない昨今だから、今日の炬燵の一件は大事件とは云わず、茶飯事として喜ばねば罰(ばち)が当たるだろう。

                    第六話  完

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2012年6月25日 (月)

冬の風景 (第五話) 食べもの

      冬の風景      水本爽涼

    (第五話) 食べもの        

 僕は年に似合わず里芋の煮っころがしが好きだ。それに加え、じいちゃんには悪いが、茹(ゆだ)った蛸のスライスを酢醤油で戴く…、というこの二つに尽きる。勿論、食べものには好き嫌いがない僕だから何だって食べるのだが、まあ、この二点である。あっ! それに銀鯥(むつ)の味噌漬け焼きも捨て難い。って云うか、僕にとっては法外で髄一のご馳走なのである。
 今年の正月も恒例のお節(せち)料理が食卓を賑わせた。毎年、母さんが重労働に汗して家族のために調理してくれるのだから、感謝して賞味せねばならないだろう(とか云いつつ、食べる段になると味わうことのみに気が走り、その感謝の念を忘れがちな僕なのだが…)。
「そろそろ、お節も飽きてきたなあ…」
「馬鹿者!! 世界には食いものがない人々も多くいるんだっ! そういう罰(ばち)当たりを云うんじゃないっ!」
 じいちゃんの食卓での落雷は珍しい。
「…すみません、そうでした」
 頭を下げ、父さんは殊勝な態度で謝った。
「ん? …いや、儂(わし)も少し興奮したかな。ハハハ…」
 じいちゃんは父さんが素直に謝ったことが嬉しかったのか、直ぐ相好を崩した。
「さあ、夕飯にしましょ…」
 母さんもテーブルに加わって、いつもの食事風景が展開した。
「武士は食わねど高楊枝…とは云うが、昔の武士は食らう事より武道を尊んだそうだ」
 かなり難しいことを、じいちゃんは食べながら、フガフガと云った。
「食べものが無かった時代に、その精神ですからね。昔の人は大したもんだ…」
「そうそう。今は食いものがあり過ぎて捨てたりする御時世だからなあ…」
「はい…。幸せな日本だけに余計、残念です」
「その通りだ。今日の恭一は偉く物分かりがいいなあ。まるで別人だぞ」
「いやあ、そうでもないんですが…」
 父さんは謙遜したが、じいちゃんに褒められたのが、まんざらでもない様子だった。
「酢蛸は、もうなかった?」
「昨日、全部、食べたでしょ」
 僕は、ついうっかりして、昨日、最後の残りの四切れを食べ尽くしたことを忘れていた。出来のいい僕にしては失態である。
「里芋の残りが、あったぞ」
 じいちゃんが賑やかに笑って下段のお重を指さした。僕の好物だということを、じいちゃんは知っていて残してくれていたのだ。蛍光灯に照らされた笑顔は、正に茹った蛸で、頭の照りも某メーカーの洗剤Xで磨いた光沢を放つじいちゃんである。その姿からは、とても剣道の師範だとは想起出来ない。
 馬鹿げたことを話しているうちに、今年の冬休みも、とうとう残り少なくなってきた。

                    第五話  完

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2012年6月24日 (日)

冬の風景 (第四話) 生体リズム

      冬の風景      水本爽涼

    (第四話) 生体リズム        

 寒い寒いと、たまの長休みで父さんが五月蠅く吠える。冬は誰だって寒いんだから、せめて一家の長はデン! と構えていて欲しいぐらいのものだ。
「お、お前は…」
 じいちゃんは呆れたのか、父さんを叱ろうともせず、そうとだけひと言、云った。そのじいちゃんの上半身は裸で、つい今し方、朝の寒稽古を終えたばかりの汗まみれだ。当然、身体からは湯気が立ち昇っている。僕もじいちゃん程ではないにしろ、やはり汗まみれで、全く寒くはない。
 この生体リズムの個人差を僕の家を対象に一人一人、分析すると、父さんは崩れやすく、じいちゃんは年からすればかなり頑丈だ。母さんと僕はほぼ安定、云わば普通である。だからどちらかと云えば、父さんは運動で幾分、安定させる努力をした方がいいのかも知れない。
 寒稽古の後、じいちゃんは湧き水の洗い場で身体を拭き、僕はシャワーで汗を流して朝食となる。運動の後だから当然、ご飯も美味しく二膳は優に食す。じいちゃんは最低、三膳だ。父さんはと云うと、からっきしで、半膳かトースト一枚が関の山だ。今朝もパジャマの上にジャージを羽織った身形(みなり)で、寒そうにパンを齧っている情けない駄目親父なのである。その父さんも、いつだったか一度、じいちゃんの寒稽古に加わったことがある。まあ、結果は云う迄もなく玉砕で、三日坊主の三日も持たず、二日で音をあげた。しかも翌日には高熱を発し、会社を休むという体たらくで、これには流石の母さんも呆れ果てたという過去がある。いつかも云ったと思うが、父さんは体育会系では決してなく、身体が弱いという訳ではないが、生体リズムを崩し易かった。そうかといって、それは病院にかかる程でもなく、いつも春先には治る一過性なのだ。要は、冷え症的な問題を抱えているらしかった。人一倍、寒がるのは、その所為(せい)かも知れない。
「あなた、これ…」
 母さんが父さんに手渡したもの、それは使い捨てカイロだった。
「ああ…、すまないな」
 食事の後だし、休みだし、父さんにとっては時間に追われない至福のひとときで、彼は茶を啜りつつ新聞に目を通して寛(くつろ)ぐ。
「フン! 嘆かわしい奴だ。武士など、とても勤まるまい…」
 じいちゃんは既に諦めているのか、ぼそっと吐くだけで直接、父さんへは語り掛けない。ただ、顔だけは興奮により赤らみ、例の茹った蛸に近づきつつあった。頭も光沢を増し、窓ガラスから射し込む陽光を一身ではなく一頭に受けて輝かせている。決して某メーカーのツヤ出しZで磨いた訳ではない。エコが叫ばれる昨今、僕はじいちゃんの余熱を父さんに回す有効利用の方法はないものかと、真剣に考えている。じいちゃんの熱気と父さんの冷え症が相殺されれば幸甚の極みである。

                    第四話  完

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2012年6月23日 (土)

冬の風景 (第三話) 教養人

      冬の風景      水本爽涼

    (第三話) 教養人        

 久しぶりに都会の叔母と従兄弟が家へやって来た。大人同士の会話もいいとは思うが、子供同士の会話というのも、それはそれでいいもので教養深く乙なものだ。話は弾んで、年末年始の諸収入の話となり、クリスマスでせしめた贈りもの談義も大いに盛り上がってサミットは閉幕した。その従兄弟も帰り、今日はもう、いつもの家族の会話が展開している。
「未知子さん、お疲れでした。毎年のことながら、ご苦労をかけます」
「あらっ、お父様。そんなお気遣いは無用に願います。ここが実家なんですから、お帰りになって当然ですわ」
 最近、嗜(たしな)み始めた碁の本を僕が居間で読んでいると、そんな二人の会話が聞こえてきた。その話が途切れて暫くすると、僕がいる居間へ父さんが入って来て、続けてじいちゃんも姿を現した。偶然だろう…と、気に留めずに読んでいると、二人はいつの間にか将棋を指し始めた。いつぞや、二人には暗黙の了解が存在しているらしい…とは報告したと思うが、今夜のがその典型的な例で、プロ野球のサインらしきものがあるのでは…と睨むほどである。二人の教養は、まあ将棋ぐらいだが、僕ほどの教養人となると、碁となる(と云えば、読者の皆様に対し嘘をつくことになるので、五目並べと訂正しておく)。
 さて、碁も将棋も教養の程度では遜色ないが、僕には将棋が庶民的ながら今一、俗っぽく思える。まあ、五目並べでは偉そうに語れないのだが、碁を打つ人と聞けば、少し教養人に思えるのも確かだ。
「おい、正也。何、読んでんだ?」
 父さんが将棋を指しながら僕に声を投げた。
「ん? 五目並べの本だけど…」
「五目並べか…。父さんや俺の跡を継いで、将棋をやれ。…なら、三代目も夢じゃない」
「まあ、お前、そう云うな。正也には正也の生きる道ってもんがある。それに、五目並べと馬鹿にするが、なかなかどうして、奥深いものなんだぞ。連珠と云って、プロの有段者もいる」
「ほお…、そうなんですか? …王手!」
「ウッ! いつもながらズルい奴だ。儂(わし)にしゃべらせておいて油断させるとは…。呆れてものも云えん!」
「父さんが勝手に話してんじゃないですか」
「うるさい! 黙りおろぉ~~!!」
 某メーカーの風呂用洗剤Yで磨いたタイルの如く、ピカッ! っと光るじいちゃんの時代劇言葉が炸裂して父さんを直撃した。父さんは防御のバリアを張って、いつもの、だんまりを決め込み、己が身を守る。暗黙の了解が出来た関係はどこへやら、両者間に暗雲が漂う。しかし上手くしたもので、そこへ母さんが台所の片づけを終り、チューハイのレモン割りのコップを盆に載せて入ってきた。無論、アテの小皿も載せてだ。この瞬間、二人の機嫌は一変し、すっかり仲良くなってしまった。僕は二人の様子を見て、この教養人の方々には、とても勝てない…と確信した。

                    第三話  完

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2012年6月22日 (金)

冬の風景 (第二話) 氷結

      冬の風景      水本爽涼

    (第二話) 氷結        

 冬の風物詩といえぱ、僕達の田舎では軒(のき)から垂れ下がる氷柱(つらら)だ。キンコンカン! と、叩いて遊んだり、叩き折ってキャンデーよろしく齧ったりする楽しみがある。だが、これで遊ぶ場合は、突き刺して大怪我に至る危険も大いにあるから、悪ふざけは厳禁だ。
 今朝もじいちゃんと半慣習的な寒稽古を済ませた後、身体を拭いていると、垂れ下った氷柱が、ふと僕の眼に止まった。じいちゃんも気づいたようで、軒をじっと眺めている。
「昨日の晩は冷えたからなあ…」
 じいちゃんは夜冷えが厳しかったことを強調する。水が凍って氷柱になる訳だが、屋根の雪解け水で氷柱が出来るという自然の壮大さには、唯々、脱帽するのみである。勿論、某メーカーのツヤ出しZで磨いたように光り輝くじいちゃんの頭は、その比ではないのだが。
 さて、科学を紐解けば、水は流れ動くが氷は動かない。恰(あたか)も時間が閉ざされたかのようである。
「一昨年(おととし)の正月は入れ歯で難儀したから、今のうちに歯医者で調整しておくか…」
「じいちゃん、それがいいよ」
 じいちゃんが早くも正月の食い気に想いを馳せている。これも、よ~く考えれば、過去の失敗が氷結した記憶として残っているのである。ならば、映画やVTRなどはどうだ? と、僕は考えた。過去の作品でも、今、観ようとすれば観れるではないか。が、その疑問もすぐに判明した。要は、動いていても、その時空は限りがあるのだ。一定の時間という氷結した時空でのみ動き得るのである。ひょっとすると、僕はアインシュタインを超越するのか(と思うのは大間違いで、実のところ、そんな偉大な訳がないのだ)。それでも、担任の丘本先生も認める学才があることは紛れもない事実である。ただ、天才には及ばないようだ。
「今朝は危なかったよ。うっかりして、道で滑るとこだった…」
 夕方、帰宅した父さんが、背広を脱いで母さんに渡しながら、そう云った。
「そう…、注意してね。冬は凍るから…」
 母さんは云うほどは心配していないように僕には思えた。そこへ、じいちゃんが現れた。
「お前の滑り癖は小さい頃から治らん。大学も三浪だったしなあ…」
 父さんは聞こえていない素振りをして押し黙り、じいちゃんを無視した。こりゃ、まずいな…と、僕は思ったが、案に相違して、じいちゃんは追撃を敢行せず、光る頭に手をやると、撫でながら消えた。母さんがいて、ばつが悪かった、ということもある。通りすがりに僕の前で、ふと見上げたのは、じいちゃんが大事にしている額縁である。その額縁には、『極上老麺』と書かれ、氷結していつも僕達家族を見下ろしているのだ。何故、額装せねばならない程の重要物なのかは、今もって僕には分からない。これは、アインシュタインでも分からない謎だと思う。

                    第二話  完

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2012年6月21日 (木)

冬の風景 (第一話) 本音

      冬の風景     水本爽涼

    (第一話) 本音        

 朝起きると、初霜が降りていた。庭や家の前の畑は白々と輝き、白砂を敷きつめたようだった(と、いうのは少しオーバーな建て前上の云い回しなのだが…)。
「フゥ~。ひと汗、掻くと気分がいい…」
 僕に云うでなく、上半身裸で汗を拭きながら、じいちゃんが笑顔で呟くように云った。じいちゃんの身体からは湯気が出ていて、それが朝陽に照らされて昇っている。僕は丁度、洗顔を済ませた後、タマとポチに餌をやり終えたところだった。洗い場で手を洗っているところへ、じいちゃんが庭からやってきたのだ。じいちゃんは手拭いを湧き水に浸けて絞ると、また身体を拭いて気持ちよさそうに云った。
「おい正也! 明日から恒例の寒稽古だったな。…いつもより三十分、早く起きろよ」
「うん! 分かってる」
 嫌だ! と本音を漏らせばいいのだが、毎年この時期に付き合わされる半慣習的な行事なので、敢えて逆らうことなく今年も、じいちゃんに奉仕することにした。いつぞやも云ったと思うが、事を荒げたくないその場凌ぎの性格は、たぶん、父さんの遺伝子によるところが大だと思う。だが、よくしたもので、じいちゃんの遺伝子は父さんから僕に繋がり、運動神経は、まあ程々である。剣道も時折りやっている内に、今や一級である。頭の方も頗(すこぶ)る好調で、これは母さんの遺伝子によるものだと断言でき、天才少年、現る! と、地方新聞の紙面を賑わせた程の出来ようなのである。担任の丘本先生などは、僕の知能を高校生並みなどと持ち上げる。これは決して自慢ではないのだが、話題にすること自体が自慢だと思えるから、反省して読者の皆様にはお詫びしたい(などと云うけれど、実はこれも僕自身をよく見せたいという本音の心が云わせるものなのである)。
「別にペコペコされたくもないさ、ハハハ…」
 と、父さんは食事中、母さんに笑って暈した。別に出世しなくともいいと云いたいのだろうが、彼の心の奥底は大見えで、そう云うことで見栄を張り、自分を自分で慰めている節がないでもない。
「そうは云うがな、恭一…」
 と、じいちゃんはそこ迄を云い、珍しく口を噤(つぐ)んだ。じいちゃんは本音で語ることが多いから、今夜は精一杯の我慢なのである。
「別に気にしてませんから、お父様…」
 と、母さんは繕(つくろ)い、微笑んで僕の顔を見た。彼女の内心には、あなたの不出来な分は正也が補って余りある…という本音が見え隠れする。
 夕食後、ゴルフのクラブを居間で磨く父さんに、「おう、よく光っとるな。某メーカーのツヤ出しZだな」と、じいちゃんが声を掛けた。
「はい、助かってます…」
 と素直に父さんは小声で返した。その小声の奥には、恐らく次に浴びるであろう嫌味を未然に回避する緊急避難的な彼の本音が隠されているのだろう。
 大人は建て前で生き続ける。僕は本音で生きたい…と、頑張っている。

                    第一話  完

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2012年6月20日 (水)

シナリオ 秋の風景 特別編(下)芸事(2)

 ≪脚色≫

      秋の風景

       特別編(下)芸事(2)       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 小学校 教室 昼
   黒板前。台本を持ち、学芸会の練習をする生徒達。その中に正也もい
   る。指導する丘本先生。
  正也M「学芸会が間近に迫っていた。僕はこの中で、演目である浦島
       太郎に出演が決まっていたのだ。主役の太郎なら文句なくい
       いのだが、生憎(あいにく)、僕は亀の役だった」

○ 台所 夕方
   食卓テーブルの椅子に座ってテレビを観る恭之介と正也。なにやら
   話している。
  恭之介「先生に抜擢されたとは、大したものだ…」
  正也  「だって、じいちゃん、僕は亀だよ。嫌だなあ…」
  恭之介「おいおい、そうガックリするな、正也。準主役なんだからな、
       亀は…」
  正也  「そうか!(明るさを取り戻し、可愛く)」
  恭之介「ああ…」
  正也M「じいちゃんは慰めのような、そうでもないような云い回しで僕
       を和らげた」

○ 学校 講堂 昼
   学芸会。多くの父兄と生徒達が観客で劇を観る。演じる正也達。演
   目は浦島太郎。時折り客席から湧き起こる拍手と笑い声。ハリボ
   テの甲羅を背負い、帽子風に作られた役絵キャップを被り懸命に
   演じる正也。観客の中にいて、声援を送る恭一と未知子。
  正也M「僕の学校は明治時代に建てられた建造物で、県の指定文
       化財にもなっている立派な建物なのだが、その講堂で学
       芸会は行われた」

○ 湧水家 遠景 夜
   秋の田舎っぽい夜景。薄闇に見える電気の灯り。虫の集(すだ)
   く声。

○ 台所 夜
   食卓を囲む家族四人。夕食中。和気あいあいと会話が弾む。笑
   い声。
  正也M「兎に角、僕の亀役は無事終わったのだが、まあ概してこ
       んな程度で、抜きん出て、といった技量のプロ芸を熟(こ
       な)す者はいない…と結論づけられる」

○ (フラッシュ) 馬場 昼
   手綱を握り、馬を走らせる凛々しい姿の恭之介。その雄姿を柵外
   から見守る正也。晴れ渡った青空。
  正也M「あっ、忘れるところだった。じいちゃんには隠された、もう
       一つの芸事があった。馬術である。じいちゃんは、僕が、
       もう少し大きくなったら教えてやると云った」

○ 居間 夜
   蒼白く煌々と照らす中秋の名月。庭前の渡り廊下の小机。小机
   の上に飾られた三方の月見団子と花瓶に活けられたススキ。
   虫達の集く声。月の光に照らされ輝き光る恭之介の頭。月と恭
   之介の頭を比較して見遣る正也。
  正也M「秋の虫達が賑やかに秋を唄っている。実に上手い。じい
       ちゃんは蛸頭を照からせている。実に素晴らしい」

○ 居間 夜
   渡り廊下で月を見ながら下手なハーモニカを奏でる恭一。
  正也M「父さんはハーモニカを奏でている。実に拙(つたな)い」

○ (フラッシュ) 居間 夕方
   ススキを花瓶に生ける未知子。見守る正也。
  正也M「母さんはススキを花瓶に生けて飾る。実に見事だ。孰
       (いず)れにしろ、、が家の連中は少し素養がある程度
       のもので、まずマスコミに騒がれるような事態はない
       だろう。・・傍に置かれた三方(さんぼう)のお団子。こ
       の秋、もう一度ぐらいは食べられるだろうか…。こんな
       下劣な計算をしている僕は実に、さもしい。もう少し高
       尚な存在になりたい…とは思っている」

○ エンド・ロール
   離れ(夜)の広間で作務衣姿の恭之介が居合いの形を示
   す。菓子を頬張りながら鑑賞する正也。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆特別編(下)」をお読み下さい。

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2012年6月19日 (火)

シナリオ 秋の風景 特別編(下)芸事(1)

 ≪脚色≫

      秋の風景

       特別編(下)芸事(1)         

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 居間 夜
   長椅子に座り、コップのジュースを飲みながら寛ぐ正也。居間の渡り
   廊下で十六夜の月を見ながらハーモニカを下手に奏でる恭一。上空
   に煌々と輝く十六夜の月。釣られて呟くように唄い出す正也。
  正也  「「♪更けゆくぅ~ 秋の夜ぉ~ 旅の空のぉ~♪(小声で唄
       う)」 
  正也M「父さんのハーモニカが物悲しく響く。それは決して上手くて
       物悲しいというのではなく、何年も吹いている割に、さっぱり
       上達しないから僕には物悲しいのである」

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(下) 芸事」

○ 居間 夜
   風呂上がりの恭之介が赤ら顔で居間へ入ってくる。
  恭之介「なんだ、正也。まだ寝んのか?」
  正也  「うん、明日は日曜だから…(曖昧に暈して、可愛く)」
  恭之介「そうか…。いい月夜が続くなあ」
   やんわりと返し、長椅子の正也の隣へに座る恭之介。美味そうに、
   にした缶ビールをグビグビッと三分の一ほど飲み、それ以上は正
   也に突っ込まない恭之介。
  正也M「土曜の夜ということもあり、僕はいつもより三十分ほど長く
       居間で寛いでいた。この日は珍しく、父さんは将棋盤を広
       げておらず、庭へ出てハーモニカを下手に吹いていた訳
       だ」
   恭一がハーモニカを奏でる姿を垣間見る恭之介。
  恭之介「ふん! 相変わらず、上達せんな…(諦め顔で)」
  正也  「…」
  正也M「父さんには悪いが、全く聞くに堪えない演奏である。芸事
       の大会とかに出場するほどの腕なら未だしも、△◇★%
       &… だから、フォローのしようがない」

○ 台所 夜
   道子が台所に入る。居間にいる正也に気づく未知子。
  未知子「正也、まだ起きてるの? 早く寝なさい!」

○ 居間 夜
   未知子の声に、少し慌てる正也。
  正也  「うん!」
  正也M「父さんだけじゃなく、僕も母さんには “青菜に塩”なのだ」

○ (フラッシュ) 離れ(剣道用の広間) 早朝
   剣道用の作務衣で刀を抜く恭之介。居合いの形(かた)を示す恭
   之介。広間の鴨居上に掛かった、「銃砲刀剣類登録証」入りの
   額(がく)。同様に掛けられた、「心技 体」と墨書された長額。
  正也M「芸事と云えば、じいちゃんの抜刀術がある(◎に続けて
       読む)」

○ (フラッシュ) 和間 昼
   着物姿で花を生ける未知子。
  正也M「(◎)母さんには生け花がある。僕は…と考えると、多少、
       他と比較すれば頭脳明晰のようだという以外には何も
       ない。父さんは? と云えば …(△に続けて読む)」

○ (フラッシュ) カラオケ店 夜
   お得意先の接待中。常時と違い、陽気にハンドマイクで唄う恭
   一。頭にネクタイを巻き、赤ら顔で絶唱する恭一。
  正也M「(△)・・・と、いうことである(+へ続けて読む)」  

○ もとの居間 夜
   長椅子から立ち、子供部屋へ引き上げる正也。下手なハーモ
   ニカを奏でる恭一。少しほろ酔いの恭之介。下手なハーモニカ
   を聴かされ、余り気分よさそうには見えない恭之介の顔。
  正也M「(+)無論、父さんの下手なハーモニカは芸事には入ら
       ないから、宴会部長を除いては何もない」

                            (続く)

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2012年6月18日 (月)

シナリオ 秋の風景 特別編(上)スーパーじいちゃん(2)

≪脚色≫

      秋の風景

       特別編(上)スーパーじいちゃん(2)      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 台所 夕方
   熊手で落ち葉を掃く恭之介を見遣る食卓のテーブル椅子に座る正也。
  正也M「剣道の猛者(もさ)だけのことはあり、僕とは違って一意専心で
       ある。滑るほどに照かった禿げ頭に一匹の赤蜻蛉が止まって
       いることなど全く知らぬ気で、見事な熊手の捌きだ。頭の輝き
       は、ただただ見る者をして唖然とさせるのだから大したものだ」

○ 台所 夜
   夕食。食卓を囲む四人。茶碗蒸しがテーブルに出ている。箸で中から
   銀杏(ぎんなん)を探し出す恭之介。
  恭之介 「おっ、銀杏ですか…。これは、これは…」
  正也M「夕飯の茶碗蒸しを食べながら、箸で実を探し当てたじいちゃん
       が、ポツンと云った」
  未知子「ええ…そうです。お父様がこの前、拾ってらした実ですわ」
   食卓を囲む四人。

○ (フラッシュ) 神社 昼
   古い社。鎮守の森。その中に聳(そび) える一本の銀杏(いちょう) の
    大木。銀杏(ぎんなん)を拾う恭之介と正也。
  正也M「家から五分ほど歩いた所には、古いお社がある。その中の鎮
       守の森に、一本の大層、大きな銀杏(いちょう)の木が聳(そび)
       えており、毎年、たわわに実をつけるのだ」

○ もとの台所 夜
   食卓を囲む四人。
  正也M「銀杏は食すまでが、ひと苦労なのである。さあ、これで食べら
       れると思いきや、(◎に続いて読む)」

○ (フラッシュ) パケツに浸かったクルミの実
   バケツの水に浸かって黄色くなった銀杏の実。中の種を取り出す作
   業をする恭之介と正也。
  正也M「(◎)まずは、実の中の種を出す工程がある(△に続いて読
       む)」

○ (フラッシュ) クルミの実
   ペンチでクルミの種を割る恭之介。割れた種から実を取り出す選別
   をする正也。
  正也M「(△)さあ、これで食べられると思いきや、さにあらず。続いて、
       種の殻を割る工程が今や遅しと待ち構えている(◆に続い
       て読む)」

○ もとの台所 夜
   食卓を囲む四人。会話の弾む食事風景。電灯光に輝く恭之介の頭。
  正也M「(◆)じいちゃんは、そういうこともした上で恍(とぼ)け顔で母
       さんに、『おっ、銀杏ですか…』と、云ったのである。じいちゃん
       には口で表現出来ない包容力というか、偉大さというか…
       何かそういったオーラが漂っているのである。これは、光り
       く禿げ頭の力によるものではない。じいちゃんに自ずと備わ
       った仁徳のようなものであろう。まあ、スーパーマンと迄は
       云えないが、大したスーパーじいちゃんなのである」
                                      
○ エンド・ロール
   夜の家族団欒風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆特別編(上)」をお読み下さい。

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2012年6月17日 (日)

シナリオ 秋の風景 特別編(上)スーパーじいちゃん(1)

≪脚色≫

      秋の風景

       特別編(上)スーパーじいちゃん(1)      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 台所 昼
   食卓テーブルの椅子に座りテレビの競馬を観戦している恭一。恭一
   の隣で仕方なくテレビ観戦に付き合わされている格好の正也。
   熱の入る恭一。つまらなく観る正也。風呂から上がり、蛸頭に湯気
   を立てて現れた恭之介。
  恭之介「おっ! 秋の天皇賞だな…」
   食卓テーブルの椅子に、どっかり座る恭之介。   
  正也M「父さんは日曜なので、テレビで競馬中継を見ている。そこへ、
       じいちゃんが風呂場から蛸頭に湯気を立てて現れ、ひと言、
       そう云った」
   やや緊張し、恭之介に備える恭一。少し襟を正して観続ける恭一。
   
つまらなく観る正也。恭一の対面へ座る恭之介。テレビで競馬中
   継するアナウンサーの声。
                                      
○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「特別編(上) スーパーじいちゃん」

○ 台所 昼
   チラッと、恭一を見る恭之介。
  恭之介「お前、買わん割りには、結構、当てるな」
  恭一  「ははは…、そう云いますが、私は馬のことは少し五月蠅い
       ですよ(笑顔で)」
   少し見栄を張った顔で恭之介を眺める恭一。
  恭之介「馬鹿を云え。お前のは、ただの馬通(つう)だ。儂(わし)の如
       く、馬の何たるかが全く分かっとらん!」
  正也M「いつもの落雷である。父さんは、笑顔を引っ込め、真顔に
       なった」
  恭之介「だいたい、馬のことを語るのは百年早いっ! 飼い葉やり、
       寝床作り、馬糞や身の世話、体調管理…そんなことをし
       ている者の云うことだっ!」
  正也M「じいちゃんは次第に、お冠(かんむり)である」
  恭一  「はい…、すみません」
  恭之介「まあ、二人とも儂の話を聞くんだ…」
   神妙になる恭一と正也。
  正也M「こうなっては万事休す…である。最低、小一時間は覚悟せ
       ねばならない」
   馬のことを諄々(くどくど)と語り始める恭之介。意気消沈して話を
   聞く二人。
   O.L

○ 台所 夕方前 
   O.L
   意気消沈して話を聞く二人。未知子が台所へ現れ、夕飯の準備
   を始める。少し話し声を小さくするる恭之介。
  未知子「正也! 早く入ってしまいなさいっ!」
   風呂の催促をする未知子。一瞬、喜色満面になる正也。
  恭之介「…まっ! 今日は、これ迄にしよう。続きは、またな…。正
       也、風呂だっ」
   喜び勇んで椅子を立つ正也。
  正也M「この場合の僕は軽く腰を上げた。重い腰を上げることは、
       よくあるだろうが、軽く腰を上げたのは、この場合の僕ぐら
       いだろう」 

○ 風呂場 内
   浴槽へ気持ちよさそうに浸かる正也。

○ 台所 夕方
   風呂場から台所へ入る正也。入れ違いに、食卓椅子を立つ恭
   之介。
  正也M「風呂から上がると、外はもう暮れ泥(なず)んでいた。秋
       の陽は釣瓶落とし…とは、よく云ったものだ」

○ 庭 夕方
   庭に下り、落ち葉を掻き始める恭之介。恭之介の頭に停まる
   一匹の赤蜻蛉。気づかず、見事な熊手捌きで掃き続ける恭
   之介。夕日に映え、輝く頭。その頭に停まる一匹の赤蜻蛉。

                                (続く)

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2012年6月16日 (土)

シナリオ 秋の風景(第十話)マフラーの夢

≪脚色≫

      秋の風景
  
      
(第十話)マフラーの夢          
 
   登場人物                           
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・マフラーの精

○ 台所 夜
   テーブルに座り、奥の間の道子を見ている正也。
  正也「もういいよ! 古いのがあるから…(大声で)」
○ 奥の間 夜
   箪笥を開け、マフラーを探している未知子。正也の言葉を聞かなか
   った態で、必死に箪笥の中を探す未知子。
  未知子「確か…このタンスへ入れたんだけど…」
  正也M「僕がゴネているのには、明確な理由がある。実は明日、巻い
       て出ようと思っていたお気に入りのマフラーが見つからない
       のだ」
  未知子「ほんと、どこへ入れたのかしら…。嫌になっちゃうわ、もう!
       (少し、ヤケっぽい口調で)」
  正也M「宝探しでもあるまいし、ところ構わずイジれば出てくるという
       ものではないだろうとは思うのだが、稼ぎのない居候の身
       では返す言葉もなく、好きにして戴くしか、手立てはない」

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第十話) マフラーの夢」

○ 奥の間 夜
   奥の間へ部屋へ入ってくる恭一。
  恭一  「…なんだ、探しものか?(未知子を見下ろして)」
  未知子「ええ…、ちょっと(座って、手だけを小まめに動かしながら)」

○ 台所 夜
   正也がテーブル椅子に座ってテレビを観ている。離れから現れる
   恭之介。
  恭之介「なんだ? 飯はまだか…。正也、未知子さんはどうした?」
  正也  「ん? 探しもの…」
  恭之介「探しもの、とな? …よく分からんが、飯より大事なものら
       しいな」
  正也M「僕は敢えて答えなかった。武士に対して、『僕のマフラーを
       …』などとは、とても尋常に云えたものではない。まず、そ
       んなことはないとは思うが、茹で蛸に変身した武士に包丁
       でスッパリ斬られては、元も子もなくなる」
   暫くして、諦めたのか、うなだれて台所へ入る未知子。夕飯準備
   の続きにかかる未知子。

○ 家の外景 夜
   湧水家の全景(外景)。射す月光に照らされる田舎っぽい家周り
   の景観。

○ 台所 夜
   ワイワイと語りながら食卓を囲む四人。
  正也M「その日の夕飯はいつもより雑然とはしたが、それでも平穏
       に終わった」

○ (夢の中) 正也の部屋
   マフラーの精が正也に話しかけている。布団に寝たまま、目を開
   けて話を聞く正也。
  正也M「その晩、僕はマフラーの夢を見た。夢の中へ探していたマ
       フラーが現れたのだ」
  マフラーの精『私は、ドコソコに、おりますから…』
   頷く正也。布団で目を閉じる正也。
   O.L

○ 正也の部屋 朝
   O.L
   布団で目を開ける正也。目を擦り目覚ましを見る正也。小鳥の囀
   り。窓から射し込む朝日。起きると、着替えずに、そのまま台所
   へ向かう正也。

○ 台所 朝
   炊事場で朝食準備をする未知子。台所へ入る正也。夢の話を
   未知子に告げる正也。ドコソコへ小走りする未知子。
  正也M「朝、目覚めた僕は、朝食の準備をしている母さんに、そ
       のことを云った。母さんは、ドコソコへ小走りした」
   暫くして、出てきたマフラーを手にし、得心して台所へ戻る道子。
   マフラーを笑顔で正也に手渡す未知子。受け取る正也。

○ 台所 朝
   朝の食事風景。テーブルを囲む四人。食べながら賑やかに語り
   合う四人。
  正也M「この一件は我が家で物議を醸し出し、一週間に渡り、こ
       の話題で持ち切りとなった。今思えば、僕の記憶のどこ
       かにマフラーを収納する母さんの映像が残っており、単
       に夢となって現れたのだ…と思える(◎に続けて読む)」

○ 玄関 朝
   出勤する恭一。見送る未知子。慌ただしく走って玄関へ出て
   くる通学する未知子。窘める未知子。靴を履き、玄関を飛び出
   す正也。
  正也M「(◎)また、そう思わないと、秋が更けていくというのに夏
       場の怪談めいて寒くなる(△に続けて読む)」

○ 離れ 朝
   畑着に着替える恭之介。部屋に飾られた刀掛けの二振りの刀。
   剣道師範免許の額。警察表彰の額。
  正也M「(△)まあ、じいちゃんの神々しい頭だけは、夢ではなく、
       紛れもない事実なのだが…」

○ エンド・ロール
   マフラーをして道を歩く正也の通学風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第十話」をお読み下さい。 

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2012年6月15日 (金)

シナリオ 秋の風景(第九話)独演会

 ≪脚色≫

      秋の風景
 
     (第九話)独演会              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 台所 夜
   食卓テーブルの椅子に座っている恭之介。徐(おもむろ)に、卓上のリ
   モコンを手にする。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第九話) 独演会」

○   同  夜
   映し出された、とあるテレビ画面。画面を観る恭之介。
  正也M「秋と云えば、何といっても芸術だろう。じいちゃんが芸術を堪
       能するのはテレビだ。今夜も台所のテレビのリモコンボタン
       を押した」
   晩酌の準備をする未知子。風呂を上がって台所の冷蔵庫へ近づく
   正也。
  道子  「明日はPTAの役員会なの。…正也、後は頼んだわね」
  正也 「うん…」
   部屋へと消える未知子。冷蔵庫へ近づく正也。
  恭之介「最近は、なんか風情のある番組が減ったなあ…。クイズと云
       やぁ~賞金、サスペンスと云やぁ殺人。それに報道と云やぁ
       ~知る必要もない暗い、悪い、陰気なニュースだ。いったい、
       汗水流す人間のためになってんのかっ?! うぅぅ…、まだあ
       るぞ!」
  正也M「誰も話す相手がいないのに、じいちゃんは独りごちて怒って
       いる。風呂上がりだったので、いつもの楽しみにしているジ
       ュースを取りに、僕は冷蔵庫へと近づいた。今思えば、これ
       がいけなかった」
   正也が冷蔵庫を開ける音。気づく恭之介。  
  恭之介「おっ、正也。まあ、ここへ座りなさい」
   声にビクッ! とし、ジュ-スをコップに注いだ後、渋々、テ-ブルに
   近づく正也。椅子に座る正也。
  正也M「僕は光る頭の蛸蜘蛛の糸に引っ掛かり、哀れにも長話を聞
       かされる破目に陥ってしまったのである」
   正也を相手に語り出し、独演会を始める恭之介。
  恭之介「どう思う?」
  正也  「…ん? どおって?」
  恭之介「儂(わし)の小言(こごと)、聞こえてなかったか?」
  正也  「まあ、一応は…」
   正也をマイクに見立て、突然、凄い剣幕で語り出す恭之介。聞き上
   手になる正也。
  恭之介「正也はどうか知らんが、どうも最近のテレビは面白くない!
       !」
  正也  「そんなこと、僕に云ったって…(迷惑顔で)」
   諄々(くどくど)と話す恭之介。相槌を打つ正也。二人の姿。
   O.L
   二人の姿。諄々と話す恭之介。聞き疲れた正也。
  正也M「滾々(こんこん)と湧き出る洗い場の水のように二十分は
       優に聞かされ、その夜の僕はジュースで寛(くつろ)ぐど
       ころか、じいちゃんで疲れ果てた。しかし、捨てる神ありゃ
       拾う神あり…とは、よく云ったものだ。そこへ、神では毛頭
       ないが…」
   終い湯に入り、風呂掃除を終えた恭一が、やれやれという顔で
   台所へ入ってくる。その恭一に気づく恭之介。
  恭之介「おっ、恭一。いいところへ来た。まあ、座って聞け」
  恭一  「えっ? 何をです? 風呂番で疲れまして…、ビールで一
       杯やろうと思ってたんですが。・・父さんも、どうです?」
  恭之介「…、それは、まあな…、
   沈黙する恭之介。テレビを見ながら隣りの席で二人の様子を窺
   う正也。
  正也M「流石は父さんだ…と、僕は思った。逃げの壺を心得てい
       る」
   三分の一ほどジュースが残ったコップを持ち、スゥ~っと静かに
         立つ正也。消えるように忍び足で台所から去る正也。

○ 湧水家 外 夜
   煌々と家を照らす蒼白い月。流れる薄雲。

○ 台所 夜
   ビールを飲み、すっかり出来上がっている恭之介。少し、ほろ酔
   い加減で迷惑顔の恭一。ふたたび、空コップを持ち洗い場へ入
   る正也。コップを洗いながら二人の様子に耳を欹てる正也。呂
   律が回らない態で恭一に話す恭之介。迷惑顔で相槌を入れる
   恭一。いつの間にか増えているビール瓶の本数。
  正也M「僕が台所へ戻ると、じいちゃんは相変わらずテレビ番組
       をネタに愚痴りながら、独演会を続けていた」
  恭之介「△◎$&・・△√%…だ。…●▽なっ!(呂律が回らず)」
  恭一  「「ええ…」
  恭之介「分か…●▽◆□、…なっ!(呂律が回らず)」
  恭一  「はい…」
   憂さを晴らすようにコップを干し、ビールを注ぐ恭一。
  正也M「安定したヒラの父さん、役員の母さん、孤高を持するじい
       ちゃん、出来のいい僕…。各人各様に、平和な家庭の秋
       の夜長が更けていく」

○ エンド・ロール
   独演会を続ける酩酊状態の恭之介と、迷惑顔で聞き役を務め
   る恭一。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第九話」をお読み下さい。

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2012年6月14日 (木)

シナリオ 秋の風景(第八話)お彼岸

  ≪脚色≫

      秋の風景

      (第八話)お彼岸                 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 山の中腹の墓地 昼
   家族四人が墓へ参っている。昔ながらの手押式汲み上げポンプで
   桶に水を入れる恭一。恭一を見遣る三人。お供えの花を包んだ袋を
   持つ未知子。線香や蝋燭、小箒などの小物袋を持つ恭之介。お供
   えの菓子袋を持つ正也。麗らかな小春日和。青空に浮かぶ鰯雲。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第八話) お彼岸」

○   同  昼
   家の墓へと歩き進む四人。
  正也M「今日は彼岸の入りが父さんの休みと重なったので、 珍しく
       家族全員でお墓へ参った。お墓は、いつも、うらぶれた佇
       (たたず)まいで僕達を迎える。夏場ではないから、そう怪
       談めくということもないが、場所柄(がら)、気持ちがいいと
       いう所では決してない」
   桶の水を花筒に入れ、花を供える未知子。除草する恭一。
  恭之介「恭一、それくらいでいいだろう」
  恭介  「はい…(除草の手を止め)」
   手を洗い、水を墓石に掛ける恭一。菓子を供える未知子。線香に火
   を着け供える恭之介。黙って見ている正也。手を合わせる四人。
   何やら呟きながら泪を流して嗚咽する恭之介。
  正也M「剣道の猛者(もさ)も師範もあったものではない。じいちゃん
       のワンマンショーが御先祖様と僕達を前にして開演した」
   耳を欹(そばだ)てる正也。凍ってうつむき、手を合わす恭一と未
   知子。
  正也M「耳を欹(そばだ)てると、ばあちゃんに対して、どうの、こう
       のと語っているのだった。残念ながら、僕は、ばあちゃんを
       知らない。それも当然で、僕が生まれる遥か昔に、ばあち
       ゃんはお墓へ引っ越したのだ」
  恭之介「ばあさん…儂(わし)も、すぐ行くからのう。ウゥゥ…」
   目を瞑って手を合わせる恭一と道子。目を開いて手を合わせ、恭
   之介を見遣る正也。
  正也M「いや、いやいやいや…、それはないだろう、と僕は直ぐ全
       否定した。意気益々、盛んなじいちゃんが、すぐお墓へ引
       っ越す訳がないのである」
   恭之介に痺れをきらし、立ち上がる恭一。未だ、しゃがんで恭之
   介に従い、手を合わす未知子と正也。

○ 西山に傾きかけた釣瓶落としの秋の陽

○ 山の中腹の墓地 昼
  恭一  「お父さん、そろそろ帰りましょう!」
   目を開け、ギロッ! と、恭一を見上げる恭之介。
  恭之介「お、お前は薄情な奴だ! …ばあさんが草葉の陰で泣い
       てるぞっ!(態度を豹変させ、涙声で怒りながら)」
   西日を浴び、輝く恭之介の頭。眩しさで目を細める正也。
  未知子「お父様、そろそろ帰りましょうか?」
  恭之介「そうですね、未知子さん…(素直になって)」
   紅く咲く彼岸花。釣瓶落としの西日。
  正也M「青菜に塩…と云うが、正に今のじいちゃんがそれで、紅く
       咲く彼岸花にも似て、派手だなあ…と、僕は、しみじみ思
       った」

○ エンド・ロール
   西日の中、墓地を歩き去る四人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第八話」をお読み下さい。

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2012年6月13日 (水)

シナリオ 秋の風景(第七話)秋霖[しゅうりん]

 ≪脚色≫

      秋の風景

      (第七話)秋霖[しゅうりん]        

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 小学校の教室 昼
   雨空。陰鬱にシトシト降る雨。給食中。窓際に座り、給食を食べなが
   ら降る雨を眺める正也。
  正也M「雨が陰鬱にシトシト降っている。昨日は清々(すがすが)しい
       快晴で、学校の遠足がある日だったので助かったし、充分に
       満喫させて戴いて本当によかった。万一、今日だったらと思う
       と、ぞっとする」
  運動場にシトシトと降る雨。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第七話) 秋霖[しゅうりん]」

○ 細い道路 昼
   下校途中の正也、雨傘をさして、トボトボと歩く。シトシトと陰鬱に降
   る雨。

○ 家の玄関・外 昼
   帰ってきた正也、傘を閉じる。戸を開け玄関内へ入る正也。

○   同  ・内 昼
   靴を脱ぎ、框(かまち)へ上がる正也。靴を揃える正也。

○ 勉強部屋 夕方
   机前の椅子に座り、宿題をする正也。机上でノートに鉛筆を走らせる
   正也。ふと、頭を上げる正也。外の様子を見ようと、窓を開ける正也。
   止みそうにない、庭に降る陰鬱な雨。
  正也M「帰っても、雨はいっこう止む気配を見せず、ただ降り続いてい
       た」
   机を立ち、部屋を出る正也、居間へ向かう。

○ 居間 夕方
   居間の渡り廊下から庭を眺める恭一。やってくる正也。
  正也  「父さん、今日は早いね」
  恭一  「ん? ああ・・。会社の接待が早く終わってな」
  正也  「ふ~ん、そうなんだ…」
  恭一  「よく降るなあ。まあ、今の雨は梅雨と違ってモノが黴(かび)な
       いからいいが…(誰に話すでなく)」
  正也  「ほんと、よく降るね…」
  正也M「大人なんだから、もう少し子供を唸らせることを云えよ…とは
       思うが、一家の長である以上、そんなことは口が裂けても云
       えない」
   バタバタと通り過ぎる未知子。ただ雨を眺める恭一と正也。
  未知子「洗濯ものが乾かないから困るわ…」
  正也M「母さんも、この秋霖にはお手上げのようだ。主婦泣かせの雨、
       それが秋霖か…と、思った」

○ 台所 夜
   夕食中。家族四人がテーブルを囲む。テレビの天気予報官が秋霖
   を説明している。
  恭之介「間引き菜のオヒタシは美味いですねえ…(未知子へ語りかけ
       るように)」
  未知子「はいっ」
  恭一  「父さんの、お手間入りですから…」
  恭之介「当たり前だ。秋霖の時期は、すぐ苗が大きくなる。それに雨降
       りは何故か畑へ行き辛い…(予定外の者の言葉に嫌々、答
       えるように)」
   沈黙して、箸を動かす恭一。
  未知子「でも、地面が濡れて土埃(つちぼこり)が家の中へ入りません
       し、掃除は助かりますわ、お父さま」
  恭之介「はあ、それはまあ、そうでしょうな…」
   静かになる食卓。テレビの声。
  正也M「僕は最初、どっちだっていいやと思っていた。ところが、よ~く
       考えれば外で遊べないから、やはり青空が広がる爽快な晴
       れの日がいい、という想いに至った次第である。晴れの日だ
       と、じいちゃんの頭が光沢を増すという特典も加味される楽し
       みもあるから、そろそろ秋霖は御免蒙りたい」

○ エンド・ロール
   湧水家の全景とシトシトと降る夜の雨。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第七話」をお読み下さい。

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2012年6月12日 (火)

シナリオ 秋の風景(第六話)静と動

 ≪脚色≫

      秋の風景

      (第六話)静と動             

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 山の遠景 夕方
   山影に姿を没しつつある夕日と周囲のオレンジ色の空。山へ帰るカ
   ラス達の飛ぶ姿。カラスの鳴き声。畦道に立ち、山影に没っする夕日
   を見つめる正也。
  正也M「九月を過ぎた頃から、日増しに日没が早くなったように思う」

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第六話) 静と動」

○ 居間 夜
   ハイボールを片手にサラミを齧り、小説を読み耽っている恭一。
  正也M「秋の夜長は凛と空気が澄んで読書には快適だ。僕はそう、本
       を読む方ではないが、父さんは結構、静の読書派である。じい
       ちゃんは正反対の動で、もっぱら剣道と畑作りを人生の生業
       (なりわい)としているから、本などは一冊も読まない」

○ 離れ 夜
   障子を開け恭之介の広間へ入る正也。正座姿で刀に打ち粉をする
   着物姿の恭之介。部屋に掛かった剣道師範免許、銃砲刀剣類登録
   証、警察暑長表彰状等の額。蛍光灯が明々と照らす稽古場仕立て
   の部屋。
  正也M「今夜は、じいちゃんの離れへ用もなく行ったのが運の尽きで、
       延々と長い講話に付き合わされる破目となってしまった」
  恭之介「おう、正也か…(打ち粉の手を止め)。父さん、まだ本、読ん
       でたか?」
  正也  「うん…(畳に座って)」
  恭之介「そうか…。頭でっかちなどは、この世では無用の長物だ。人
       間は、実践あるのみ! 結果がものを云い、ものを生み、もの
       を救うんだぞ、正也。よ~く覚えておきなさい。まあ、頭脳労   
       働は頭でっかちとは、また違うがな。兎も角、試行錯誤…ち
       ょいと難しいか。要は、まず動いてやってみて、失敗するのは
       いいんだ」
  正也  「うん!(可愛く)」
  恭之介「まあ、恭一がそうだ、という訳じゃないが…」
   母屋から離れへと入り、部屋の障子を少し開ける未知子。
  未知子「お父様、テーブルに置いときましたから…(隙間より部屋中
       を垣間見て)」
  恭之介「あっ、未知子さん。今夜も、すまないですねえ…(障子を見
       ながら)」
  未知子「正也、早く寝なさいよ」
  正也  「うん…(やや小さめの声で)」
   障子を静かに閉める道子。打ち粉を続ける恭之介。じっと見守る正
   也。
  正也M「じいちゃんの晩酌は、いつも熱燗が二本の日本(二本)男児
       だ。父さんの洋酒党を小馬鹿にしている節もある。その実、
       ビールに限っては、いいらしい」
  恭之介「正也、もういい…。早く寝なさい」
  正也  「うん!(可愛く)」
   立って部屋を出る正也。障子を閉め母屋へ向かう正也。母屋へ入
   り、洗面所へ向かう正也。
  正也M「母さんの助け舟があったお蔭で、僕はじいちゃんから解放
       されることになった」

○ 洗面所 夜
   歯を磨く正也。遠目に見える台所で日本酒の晩酌をする恭之介の
   赤みを帯びた頭。テレビの落語に興じる恭之介の笑う顔。遠目に
   見える居間で洋酒を片手に本を読む、青みを帯びた恭一の真剣な
   顔。
  正也M「動で笑うじいちゃんの頭は、熱燗二本で赤みを帯びるという
       特性を有している特別天然記念物なのである。片や静の、
       蒼みを帯びた父さんの真剣な顔には目立った特長らしいも
       のはない。そして…(◎に繋げて読む)」
   家事を終え、ほっとしながら肩を片手で叩く未知子。
  未知子「…(無言の疲れ声)」
   正也がいる洗面所を通過して風呂場へ向かう未知子。
  正也M「(◎)母さんは? というと、家事を終えたらしく、動で疲れ果
       漸く風呂に入り、僕達三人から解放されたところだ」
   遠目に見える、本を読み続ける恭一。部屋へ戻る正也。
  正也M「僕は三人の付き合いに疲れきったので、もう寝ようと思って
       いる」

○ エンド・ロール
   灯りの漏れる湧水家の夜景(全景)。虫の音。揺れるススキ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第六話」をお読み下さい。

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2012年6月11日 (月)

シナリオ 秋の風景(第五話)お月見

 ≪脚色≫

      秋の風景

      (第五話)お月見            

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 居間(庭前の渡り廊下) 夜
   煌々と照らす月。月を並んで愛でる恭之介と正也。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第五話) お月見」

○ 居間(庭前の渡り廊下) 夜
   輝く月。月を沈黙して愛でる恭之介と正也。
  正也M「名月を 取ってくれろと 泣く子かな。こんな句を、じいちゃん
       から聞いたことがある。僕の場合、別に泣きはしないが、名月
       には付き物の月見団子を頬張りたいとは思う」
  恭之介「明日はいよいよ十五夜か…。朧月もいいが、何といっても中
       秋の名月だ。月々に 月見る月は 多けれど 月見る月は
       この月の月、というのもあるからな」
  正也  「ふ~ん」
  正也M「よく分からない僕は、じいちゃんの隣りで適当に合いの手を入
       れておいた。まあ、早口言葉のようだから学校で流行らせて
       みよう…とは思ったのだが」
   少しの間合い。名月を愛でる二人。
  正也  「じいちゃん、さっきの、どういう意味?」
  恭之介「ああ・・確か、道長という平安時代の偉い人が詠んだ和歌だ」
  正也  「そうなんだ」
  恭之介「そろそろ、寝なさい。また、母さんに怒られるぞ」
  正也  「うん」
   部屋へ戻る正也。月を愛でる恭之介。

○ 正也の部屋 朝
   小鳥の声。布団で寝ている正也。戸口から聞こえる恭之介の声。
  恭之介「正也、ちょっといいか」
  正也  「じいちゃん? おはよう。うん、いいよ。入ってよ(眠そうに)」
  恭之介「いや、ここでいい。昨日のな。あれは作者不詳なんだ。道長の
       は、この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 
       なしと思えば、だった…」
  正也  「そうなの? …どうでも、いいんだけど」
  恭之介「いや、いかん。それは・・いかん。いかんいかん。じゃあな・…」
  正也  「うん…」
   唐突に布団から半身を起こし、両手を広げる正也。朝日が窓から差し
   込む。

○ 居間 夜
   煌々と照らす中秋の名月。庭前の渡り廊下の小机。小机の上に飾
   られた三方の月見団子と花瓶に活けられたススキ。庭傍の畳に陣
   取り将棋を指す恭之介と恭一。どっかりと座布団に座わり、盤上に
   釘づけの二人。 
  正也M「夜になるとじいちゃんが云っていた中秋の名月が、僕の家に
       挨拶にやってきた」
   ふと、盤上から視線を庭先の中秋の名月に走らす恭一。
  恭一  「なんか、ススキと月が似合いますねえ…」
   声に促され、中秋の名月に視線を走らせる恭之介。
  恭之介「…そうだなあ。秋の月には確かに合う。おい、正也、すまんが
       電灯を消してくれ」

○ 台所 夜
   台所でテーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。
  正也  「ああ、…ハイッ!」
  正也M「僕は師匠に即答して、ご機嫌を伺った」
   立つと、電灯のスイッチを切る正也。俄かに薄暗くなる家の中。蒼白
   い月明かりが照らす家の中。

○ 居間 夜
   薄暗くなった居間で将棋を指す二人。月明かりに照らされた恭之介
   と恭一。月明かりに照らされ、電灯のようにピカッと輝く恭之介の
   禿げ頭。
  正也M「電灯を消した居間は妙な静寂が流れ、蒼白い月明かりが煌
       々と文明以前の時代を照らし出しているように思えた。特に、
       じいちゃんの禿げ頭は、磨いたタイルのようにテカっていた」
  恭一  「さあ、団子をお相伴にあずかりますか?」
  恭之介「おっ、そうだな」
   居間へ入ってくる未知子。
  未知子「綺麗なお月様…。今、お茶にしますね」
  恭之介「未知子さんは、いつもタイミングがいい!」
  正也M「ベンチャラの積もりでもないんだろうが、じいちゃんは、いつも
       母さんに一目、置いているように思える」
   静まり返った居間に月明かりが射す。黙して月を愛で、団子を頬張
   り、茶を啜る四人。突然、話しだす恭一。
  恭一  「父さんに叱られないんで、今夜は返って気味が悪いですよ」
  恭之介「ははは…(軽く笑って)。今日ぐらいは、な。まあ、そのうち纏
       めさせて貰う」
  恭一  「怖いですねえ」
   笑い合う、家族四人。
  正也M「中秋の名月が照らす居間に、いつまでも四人の笑い声が響
       いていた」

○エンド・ロール
   花瓶に活けられたススキと中秋の名月。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、 「短編小説 秋の風景☆第五話」をお読み下さい。

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2012年6月10日 (日)

シナリオ 秋の風景(第四話)遺伝

 ≪脚色≫

      秋の風景

      (第四話)遺伝            

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 居間 夜
   着物姿の恭之介。開襟シャツにズボン姿の恭一。どってりと畳上の
   座布団に座り、将棋を指す二人。盤面に眼を釘づけにする二人。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第四話) 遺伝」

○ 居間 夜
   唐突に、恭一の頭を見る恭之介。
  恭之介「お前…年の割には白髪(しらが)もなく、禿(はげ)もせんな」
  恭一  「えっ? ははは…。そのうち、父さんみたいになりますよ」
  恭之介「そうかぁ?」
  恭一  「ええ…間違いなく。遺伝的なものがありますから…」
  恭之介「そうとは限らんだろう…」
  恭一  「まあ…そうとは限りませんが。…王手!」
   突然、手を動かし、駒を掴むと音も高らかに盤面へ打ち据える恭一。
   ギクッ! として、盤面へ眼を落とす恭之介。
  恭之介「ウッ! …しかし、相変わらず付和雷同だな、お前の性分は
       …」
  恭一  「そうかも知れません」
  恭之介「やはり、付和雷同だ。そこは、『いいえ、違います』だろうが?」
  恭一  「はあ…(恐縮して)」」

○ 台所 夜
   台所テーブルの椅子に座りテレビを観る風呂上がりの正也。テレビ
   のスイッチを切る正也。恭之介と恭一が将棋を指す様子を、美味そ
   うにジュースを飲みながら遠目で眺める正也。冷蔵庫からビール瓶
   を出し、ツマミ、コップ(2)とともに盆に乗せる未知子。盆を手に居間
   へ向かう未知子。
  正也M「今夜も将棋の大一番が展開する居間である」

○ 居間 夜
   盆を手に、居間へ入る未知子。
  未知子「お父様、ビールとおツマミ、ここへ置いときます」
   盆を長机に置く未知子。
  恭之介「あっ、未知子さん。いつも、すまないですねえ」
  恭一  「俺のコップは?」
  未知子「あなたの分も、あります!」
  恭之介「そんなこと訊くか? 普通…。忰(せがれ)とはとても思えん。
       儂(わし)なら当然、持ってきて下さったと思う。これが双方の
       信頼関係だ。お前、儂の遺伝子を持ってる筈なんだがなあ
       …」 
   渋い表情の恭一。聞いていない態で、微笑みながら台所へ向かう
   未知子。

○ 台所 夜
   台所へ入る未知子。
  未知子「正也、もう寝なさいよ…」
   洗濯機を見ようと、そそくさと通り過ぎる道子。
  正也   「うん…」
  正也M「母さんがバタバタしているのは家事であり、遺伝によるもの
       ではないだろう」

○ 居間 夜
   禿げ頭を手の平で、こねくり回す恭之介。
  恭之介「いや~、今日は参った、
惨敗だ。頭がいいのも儂の遺伝か?
       (顔を赤らめ、笑顔で小笑いして)」
  恭一  「はい、そのようです…(小笑いして)」

○ 台所 夜
   恭之介と恭一の笑顔で話し合う姿(無音)。それを見る正也。コッ
   プを手に椅子から立つ正也。炊事場でコップを洗う正也。台所を
   去る正也。

○ 居間 前廊下 夜
   前廊下を歩く正也。首筋を同じ仕草で撫でる恭之介と恭一。ニタリ
   と笑いながら部屋へ向かう正也。
  正也M「これは遺伝によるものに違いないと思った」
   電灯の光を受け、輝く恭之介の頭。
  正也M「光沢を放つじいちゃんの頭。こんな頭に父さんがなるのが大
       いに楽しみだ」

○ エンド・ロール
   談笑する恭之介と恭一。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第四話」をお読み下さい。

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2012年6月 9日 (土)

シナリオ 秋の風景(第三話) 焼き芋

 ≪脚色≫

      秋の風景

      (第三話)焼き芋        

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 裏庭 昼
   弱い北風が時折り吹く。落ち葉を掃く恭之介と正也。葉をすっかり落
   とした庭の樹木。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第三話) 焼き芋」

○ 裏庭 昼
   唄いながら落ち葉を箒で掃き集める正也。
  正也  「♪~垣根のぉ 垣根の回り角ぉ~ 焚き火だ焚き火だ 落ち
       葉焚きぃ~♪」
  恭之介「よし! 正也、これくらいでよかろう」
   手を止める恭之介。同じように、従って手を止める正也。恭之介と
   正也の間に出来た、こんもりとした落ち葉の山。袋のサツマ芋を取
   り出す正也。
  正也  「芋は四本だったよね?」
  恭之介「ああ…、恭一と道子さんの分も焼いてやろう(柔和な笑みを
       浮かべて)」
   四本のサツマ芋を落ち葉の山へ入れる正也。
  正也  「じいちゃん! バケツに水、入れておいた」
   片隅に置いた二つのバケツを指さす正也。   
  恭之介「おお・・よく気づいたな。偉いぞ、正也」
   照れる正也。一つのバケツを手にして、落ち葉の山の周りに軽く水
   を撒く恭之介。火を着ける恭之介。勢いよく燃えだす落ち葉。
  恭之介「乾いているから、よく燃えるなあ、正也」
  正也  「そうだね…」
   燃える落ち葉に見蕩れる正也。落ち葉を継ぎ足す恭之介。煙を上
   げ、燃える落ち葉の山。
   O.L 
                               
○ 裏庭 昼
   O.L
   ほぼ、灰になった落ち葉の山。木の枝で焼き芋を取り出す恭之
   介。
  恭之介「おう、焼けた焼けた。もうよかろう。正也、この新聞紙に包
       んで持ってってやりなさい」
   首を縦に振る正也。新聞紙に包む正也。
  正也M「僕は、じいちゃんの命令に従った。隊長の命令は絶対、
       なのである」
   恭之介に対し、停止敬礼して走り去る正也。

○ 茶の間 昼
   卓袱台に座っている恭一と道子。テレビを見ている二人。新聞
   紙に包んだ焼き芋を手に、走って入る正也。
  正也  「じいちゃんが、これを持ってってやれって…」
   新聞紙に包んだ焼き芋を示す正也。
  未知子「そう…、有難う(笑いながら)」
  恭一  「そうか…(感極まり、一瞬、目頭を熱くし)」
  正也M「芋一本で父さんを釣り上げたんだから、じいちゃんは大し
       た釣り名人だと思えた」
   茶の間へ入ってくる恭之介。
  恭之介「もう食ったか?」
   目元が赤みを帯びた恭一。
  恭一  「いえ、これからです…(平静を保ち、素直に)」
  未知子「今、お茶を淹れますわ」
  恭之介「あっ、ああ…そうして下さい、道子さん」
   台所へ立って去る未知子。

○   同  昼
   急須と三個の湯呑みが乗った盆を持って現れる未知子。卓袱
   台の上で急須の茶を、湯呑みへ注ぐ未知子。卓袱台を囲み、
   焼き芋を食べ始める三人。誰からとなく笑いだす三人。西日
   を受け、光り輝く恭之介の頭。

○ エンド・ロール
   焼き芋を食べながら談笑し、卓袱台を囲む笑顔の四人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第三話」をお読み下さい。

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2012年6月 8日 (金)

シナリオ 秋の風景(第二話) 吊るし柿

≪脚色≫

      秋の風景
 
     (第二話)吊るし柿             
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 裏庭 朝
   蒼々と澄み渡った青空。オレンジ色の実をたわわにつけた一本の柿
   の老木。見上げる正也。剪定用長鋏で柿を収穫する恭之介。    
  正也M「僕の家には、かなり古い柿の木がある」
  正也  「じいちゃん、この柿、いつ頃からあるの?」
  恭之介「ん? ああ・・これなあ(しみじみと木を見て)。儂(わし)の子供
       時分には、もうあったな、確か…」
  正也  「ふう~ん。大先輩なんだね」
  恭之介「そうだな…(小笑いして)」 
  正也  「温泉にでも、ゆったり浸かって休んで貰いたいね」
  恭之介「(小笑いして)正也は優しいなあ…。柿の木が喜んでるぞ」
   大笑いする恭之介。釣られて笑う正也。実のついた枝を切り落とす
   恭之介。一生懸命、柿を籠へ入れる正也。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第二話) 吊るし柿」

○ 茶の間 昼
   柿の皮を剝く恭之介。熟れた実を選別する正也。廊下から入ってく
   る恭一。
  恭一   「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
  恭之介「フン! いい気なもんだ。お前に手伝って貰おうとは云っとら
       ん! なあ、正也(剥きながら見上げ)」
   しまった! と、口を噤む恭一。
  正也   「ん? うん…」
   下を向いて聞いていない素振りで選別する正也。
  正也M「気のない返事で曖昧に暈し、飛んできた流れ矢を僕は一刀
       両断した」
   茶の間へ入ってくる未知子。
  未知子「これでいいんですね?」

○ 籠に入れられた熟し柿の山

○ 茶の間 昼
  恭之介「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
  未知子「美味しいジャムが出来そうですわ」
   恭之介と正也の作業を、ただ、無表情に眺める恭一。
  正也  「吊るして、どれくらいかかるの?」
  恭之介「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ
       (正也の顔を見て、微笑みながら)」
  恭一  「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
  恭之介「ああ…、それはそうだな…(恭一の顔を見ず、穏やかな口
       調で)」
  正也M「今日は荒れないなと安心したのも束の間、父さんが、いつ
       もの茶々を入れた」
  恭一  「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
  恭之介「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
   駕籠の柿を持ち、笑って台所へ去る未知子。ふたたび、氷になる
   恭一。
  正也M「じいちゃんは、これが我が家の家風だと云わんばかりに全
       否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我
       が家の家風なのである」
   西日が窓ガラスから射し込んで、恭之介の頭を吊るし柿のように
   照らす。神々しく輝く恭之介の頭。それを見て、ニヤッと笑う正也。

○ エンド・ロール
   沈み往く夕陽と、そのオレンジ光を受けて輝く恭之介の頭。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第二話」をお読み下さい。

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2012年6月 7日 (木)

シナリオ 秋の風景(第一話)キノコ採り

 ≪脚色≫

      秋の風景
 
     (第一話)キノコ採り            

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ とある山道 朝   
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙に色ずく山の遠景。心地よい朝の陽射
   し。山道を歩く正也、恭之介の遠景。山道を長閑に歩く二人の近景。    
  正也M「今日は天気がよいので、裏山へキノコ採りに出かけた」
  正也 「よく晴れたね、じいちゃん!(ウキウキした口調)」
  恭之介「ん? そうだな…(青空を見上げて)」
  正也 「僕、初めてだよ、山は…」
  恭之介「ほお、そうだったか? 儂(わし)が元気なうちに、正也に、いろ
       いろ教えておいてやろうと思おてな…」
  正也M「何を? と訊くと、じいちゃんはキノコのことを語りだした」
   話しながら笑って歩く二人の近景。話しながらって歩く二人の遠景。
   朝日を浴びる山の木立。小鳥の囀り。広がる青空。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「(第一話) キノコ採り」

○   同  朝
   蒼々と澄み渡った青空。黄橙色に色ずく山の遠景。心地よい朝の陽
   射し。緩やかな山道の傾斜を登る二人。
  恭之介「この辺りは、シメジだ。ずっと登った向うの赤松の一帯はマツ
       タケがよく出るな…」
  正也 「そうか! なるほど…」
   真剣に聞く正也。講釈する恭之介。
  正也M「一生懸命、さも、専門家きどりで得意満面なじいちゃんの鼻
       を、へし折るのも如何かと思え、僕は、そ知らぬ態で聞き上
       手になった」
   足を止める二人。辺りを見渡す恭之介。
  恭之介「どれ、ここから入るか・・」 
  正也 「うん!」
   山道から木々の茂みに分け入る恭之介。後方に従う正也。

○ 山中・木々の茂み 昼
   キノコを散策する二人。なかなか見つからない正也。すぐ見つけ、
   収穫する恭之介。それを見て、恭之介に駆け寄る正也。楽しそう
   に話す二人。
  正也M「僕達は、快晴の蒼々と広がる空と澄みきった空気を満喫
       しつつ散策を楽しんだ」

○ 山中・平坦地 昼
   下界の展望が利く山の平坦地に座り、弁当に舌鼓を打つ二人の
   姿。青空にポッカリ浮かぶ秋の雲。
   O.L

○ 家の洗い場 昼下がり
   O.L 
   青空にポッカリ浮かぶ秋の雲。洗い場でキノコを洗う正也。隣りで
   身体を冷水で拭く恭之介。
   正也M 「じいちゃんは年の功というやつで、キノコ採りの名人と
        思えた。収穫量は、まずまずだった」
   部屋の外窓を突然、開ける恭一。正也か洗う下の洗い場を見下
   ろす恭一。
  恭一 「おお…、随分、採れたじゃないか!」
   手を止め振り返り、見上げる正也。
  正也 「松茸に黄シメジ、…ナメコもあるよ」
  恭之介「お前も来りゃよかったんだ…(身体を冷水で拭きながら)」
  恭一 「今日は生憎(あいにく)、会社から持って帰った仕事があり
       ましたから、ははは…又(また)。又、この次に…(軽い笑
       いを交えて)」
  恭之介「お前のは、いったいどういう又なんだ?又、又、又、又と、
       又の安売りみたいに…(少し怒り顔で)」
   洗いながら、二人の遣り取りを眺める正也。
  正也M「上手いこと云うが、じいちゃんは相変わらず父さんには手
       厳しい。父さんも只者ではなく、馴れもあって、そうは気に
       留めていない」
  恭一 「安売りと云やあ、この不況で私の会社の製品、値下げなん
       ですよ」
  恭之介「そんなこたぁ、誰も訊いとりゃせん!(怒って)」
   返せず、沈黙する恭一。台所の戸を開けて出てくる未知子。
  未知子「ナメコとシメジは汁物にして、松茸は炊き込み御飯と土瓶
       蒸しにでも…(キノコを眺めながら)」
  恭一 「偉く豪勢じゃないか…(未知子に向って)」
  未知子「あなたの給料じゃ、手が出ないわ(窓を見上げて、嫌味っ
       ぽく)」
  正也M「母さんは珍しく嫌味を云った」
  恭之介「…その通りだ、恭一。未知子さん、上手いこと云いました。
       これはタダですからな」
   しくじったか…という態で、窓を少しずつ閉じる恭一。

○ 台所 夜
   四人の食事風景。賑やかに語らう恭之介、未知子、正也の三人。
   テレビを見つつ、一人、黙々と箸を動かせる恭一。
  正也M「その晩は賑やかにキノコ料理を堪能した。でも、父さんだ
       けは一人、黙々と箸を動かせていた」

○ エンド・ロール
   テーブルに並べられたキノコ料理を食べながら談笑する家族四
   人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 小説は、「短編小説 秋の風景☆第一話」をお読み下さい。

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2012年6月 6日 (水)

秋の風景 (第十話) マフラーの夢

      秋の風景      水本爽涼

    (第十話) マフラーの夢

「もういいよ! 古いのがあるから…」
 と、僕が夕飯時にゴネているのには、明確な理由がある。実は明日、巻いて出ようと思っていたお気に入りのマフラーが見つからないのだ。
「確か…このタンスへ入れたんだけど…」
 嘆きながら、母さんは場当たり的にアチコチと三十分以上も探している。宝探しでもあるまいし、ところ構わずイジれば出てくるというものではないだろう…とは思うのだが、稼ぎのない居候の身の上では返す言葉もなく、好きにして戴くしか手立てはない。
「…なんだ、探しものか?」
 新聞を読み終え、居間から奥の間へ入ったのか、父さんの声がして、母さんに問い掛けた。僕は台所のテーブル椅子にいて、母さんが持ってくるマフラーを意味もなく待っていた。夕飯前だから、母さんも小忙(こぜわ)しい時間帯なのだ。夕飯準備の途中にマフラーのことを云った僕にも責任があるから、悪く思った僕は、茶碗とお皿ぐらいは…と、テーブルの上へ並べ始めた。少なからず後ろめたい気持がした為である。そこへ武士のじいちゃんが満を持して入ってきた。
「なんだ? 飯はまだか…。正也、未知子さんはどうした?」
「ん? 探しもの…」
「探しもの、とな? …よく分からんが、飯より大事なものらしいな」
 僕は敢えて答えなかった。武士に対して、『僕のマフラーを…』などとは、とても尋常に語れたものではない。まず、そんなことはないとは思うが、場所が台所だけに、茹で蛸に変身した武士に包丁でスッパリ斬られては元も子もなくなる。それは飽く迄も有り得ないシナリオなのだが、そんな気持も心の奥底にチビリとあり、僕は敢えて答えなかったという訳である。
 五分後、とうとう音(ね)をあげたのか、母さんは無言でテンションを下げ、夕飯準備の続きをしようと台所へ入ってきた。後ろから、付き合って探していた父さんも入り、その日の夕飯はいつもより雑然とはしたが、それでも平穏に終わった。
 その晩、僕はマフラーの夢を見た。夢の中へ探していたマフラーが現れ、「ドコソコにありますから…』と、告げたのである。
 朝、目覚めた僕は、朝食の準備をしている母さんに、そのことを云った。母さんは、ドコソコへ小走りした。すると、不思議なことに、そのマフラーはドコソコで見つかった。この一件は我が家で物議を醸し出し、一週間に渡り、この話題で持ち切りとなった。
 今思えば、僕の記憶のどこかに、マフラーを収納する母さんの映像が残っており、それが単に夢となって現れたのだ…と思える。また、そう思わないと、秋が更けていくというのに夏場の怪談めいて寒くなる。まあ、某メーカーの洗剤Xで磨いたようなじいちゃんの神々しい頭だけは、夢ではなく、紛れもない事実なのだが…。

                   第十話  完

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2012年6月 5日 (火)

秋の風景 (第九話) 独演会

      秋の風景      水本爽涼

    (第九話) 独演会

 秋と云えば、何といっても芸術だろう。
━━ 芸術の秋 ━━ と聞くだけで、何故か高尚な趣(おもむき)を感じるのは僕だけだろうか。
 じいちゃんが芸術を堪能するのはテレビだ。今夜も台所のテレビのリモコンを押した。
「最近は、なんか風情のある番組が減ったなあ…。クイズと云やぁ~賞金、サスペンスと云やぁ~殺人。それに報道と云やぁ~知る必要もない暗い、悪い、陰気なニュース。…いったい、汗水流す人間のためになってんのかっ?! うぅぅ…、まだあるぞ!」
 誰も話す相手などいないのに、じいちゃんは独りごちて怒っている。風呂上がりだったので、いつもの楽しみにしているジュースを取りに、僕は冷蔵庫へと近づいた。今思えば、これがいけなかった。僕はじいちゃんの蛸蜘蛛の糸に引っ掛かり、哀れにも長話(ながばなし)を聞かされる破目に陥ってしまったのである。無論、蛸蜘蛛などという蜘蛛は、この世には存在しない。飽く迄も、じいちゃんの禿(は)げ頭と網にかかった虫を捕える蜘蛛とを結びつけて、僕の立場を喩(たと)えた迄である。
「おっ、正也。まあ、ここへ座りなさい」
 云われるままに椅子へと座った僕を前にして、突然、じいちゃんが語りだし、独演会を始めた。
「どう思う?」「…ん? どおって?」
「儂(わし)の小言(こごと)、聞こえてなかったか?」
「まあ、一応は…」と暈すと、じいちゃんは僕をマイクに見立て、凄い剣幕で語り出した。
「正也はどうか知らんが、どうも最近のテレビは面白くない!!」
「そんなこと、僕に云ったって…」
 じいちゃんの話は長かったので端折(はしょ)るが、滾々(こんこん)と湧き出る洗い場の水のように二十分は優に聞かされ、その夜の僕はジュースで寛(くつろ)ぐどころか、じいちゃんで疲れ果てた。しかし、捨てる神ありゃ拾う神あり…とは、よく云ったものだ。そこへ、神では毛頭ないが、第二の獲物となる風呂掃除を終えた父さんが入ってきた。
「おっ、恭一。いいところへ来た。まあ、座って聞け」
「えっ? 何をです? 風呂番で疲れまして…、ビールで一杯やろうと思ってたんですが。・・父さんも、どうです?」
「…、それは、まあな…」
 流石は父さんだ…と、僕は思った。逃げの壺を心得ている。僕は、じいちゃんの応対を父さんに任せて、スゥ~っと台所から消えた。
 その後、飲み終えたジュースのコップを台所へ戻しに行くと、すっかり出来上がった茹で蛸のじいちゃんと、少しほろ酔い加減で迷惑顔の父さんがいた。耳を欹(そばだ)てると、父さんは「ええ…」「はい…」と相槌を入れるだけで、じいちゃんに捕まり受け手になり果てた鬱憤(うっぷん)を酔いで紛らしている。一方、じいちゃんは相変わらず滾々とテレビ番組をネタに愚痴りながら独演会を続けていた。客はただひとり、父さんである。母さんは既に家事を終え、晩酌の準備だけをして、今日は早めに部屋へと消えた。明日はPTAの役員会だそうである。安定したヒラの父さん、役員の母さん、孤高を持するじいちゃん、出来のいい僕…。各人各様に、平和な家庭の秋の夜長が更けていく。

                   第九話  完

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2012年6月 4日 (月)

秋の風景 (第八話) お彼岸

      秋の風景      水本爽涼

    (第八話) お彼岸

 今日は彼岸の入りが父さんの休みと重なったので、珍しく家族全員でお墓へ参った。勿論、お彼岸には家族の誰かが欠かさずお参りしているのだが、全員でとなると、僕の記憶ではたぶん、数度だったと思う。
 お墓は近くの山の中腹にあり、いつも、うらぶれた佇(たたず)まいで僕達を迎える。夏場ではないから、そう怪談めくということもないが、場所柄(がら)、気持ちがいいという所では決してない。じいちゃんとのコンビでは何度か参ったことが過去にあった。その時、僕はじいちゃんの別の一面を垣間見た気がした。あの気丈なじいちゃんが、何やらブツブツと云いながら泪を流して嗚咽(おえつ)するのである。何度も諄(くど)く云うようだけれど、あの、あのじいちゃんが、である。剣道の猛者(もさ)も師範もあったものではない。今日はどうなるのだろう…と、興味津々(しんしん)であったが、到着すると案の定、じいちゃんのワンマンショーが御先祖様と僕達を前にして開演した。いったい何をブツブツ云ってるのだろう…と、聞き耳を立てると、念仏ではなく何やらお墓へ語り掛けているようだった。更に耳を欹(そばだ)てると、ばあちゃんに対して、どうの、こうのと語っているのだった。残念ながら、僕はばあちゃんを知らない。それも当然で、僕が生まれる遥か昔に、ばあちゃんはお墓へ引っ越したのだった。だから、僕が全く知らないのは道理なのだ。
「ばあさん…、儂(わし)も、すぐ行くからのう、ウゥゥ…」
 漸(ようや)く聞き取れた唯一の言葉が、これである。いや、いやいやいや…、それはないだろう、と僕は、すぐ全否定した。意気益々、盛んなじいちゃんが、すぐお墓へ引っ越す訳がないのである。
「お父さん、そろそろ帰りましょう!」
 一緒にしゃがみ込み、お墓に手を合わせた父さんは既に立っていて、じいちゃんを見下ろすように、つっけんどんな声で云う。母さんと僕は、未だじいちゃんの横でしゃがんで手を合わせていた。
「お、お前は薄情な奴だ! …ばあさんが草葉の陰で泣いてるぞっ!」
 じいちゃんは、いつもの茹(ゆ)で蛸のじいちゃんに戻り、ここ、お墓でも雷鳴を響かせた。秋の陽は釣瓶落とし…とは、よく云うが、早くも西日となって姿を消しかけた橙色の太陽光が、じいちゃんの頭へ照射して輝かせる。やはり、某メーカーの洗剤Xで磨いたような輝きである。
「お父様、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね、未知子さん…」
 青菜に塩…と云うが、正に今のじいちゃんがそれで、泣いて怒ったじいちゃんは、笑顔で素直になった。紅く咲く彼岸花にも似て、派手だなあ…と、僕はしみじみ思った。

                   第八話  完

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2012年6月 3日 (日)

秋の風景 (第七話) 秋霖[しゅうりん]

      秋の風景      水本爽涼

    (第七話) 秋霖[しゅうりん]

 雨が陰鬱にシトシト降っている。昨日は清々(すがすが)しい快晴で、学校の遠足がある日だったので助かったし、充分に満喫させて戴いて本当によかった。万一、今日だったらと思うと、ぞっとするな…と、僕は教室の机に座り、給食中、窓向こうに降りしきる雨をじっと眺めて考えていた。
 家へ帰る道中も、帰っても、雨はいっこう止む気配を見せず、ただ降り続いていた。
 某局のTV天気予報で、気象予報官がこの雨を秋霖だと解説した。その云い分は、初秋の頃にシトシトと降り続く長雨だそうである。ということは、秋でも一日しか降らなかったり、時折り止む雨は秋霖とは呼ばれず、仲間外れにされた雨なんだなあ…と思った。その後、雨は夜になっても降り続いた。
「よく降るなあ。まあ、今の雨は梅雨と違ってモノが黴(かび)ないからいいが…」
 僕に話すでなく、庭に落ちる雨滴を見ながら父さんが云う。大人なんだから、もう少し子供を唸らせることを云えよ…とは思うが、一家の長である以上、そんなことは口が裂けても云えない。
「ほんと、よく降るね…」と、一応は暈して付き合い程度の言葉を返したが、気持ちは他のことを考えていた。
「間引き菜のオヒタシは美味いですねえ…」
 母さんにヨイショするじいちゃんだが、確かに僕も美味しいと思った。じいちゃんが夕方、暗くなる前に畑で間引いたダイコン菜である。かろうじて葉がダイコンと分かる程度のものを傘を差しながら採ったお手間入りである。
「秋霖の時期は、すぐ苗が大きくなる。それに雨降りは、何故か畑へ行き辛い…」
 じいちゃんは当たり前のことを、しみじみと云う。年を重ねた者の言葉は、当たり前だけれど、やはりそれなりの重みで聞こえる。秋霖に対して触れる言葉でも、父さんの言は軽く、じいちゃんのは重いのだ。体重は中年太りでじいちゃんよりは優に十キロは重い父さんだが、反比例して、言動の重さは逆に十キロはマイナスに思える。
「洗濯ものが乾かないから困るわ…」
 母さんも、この秋霖にはお手上げのようだ。主婦泣かせの雨、それが秋霖か…と、思った。ただ、地面が濡れていると、土埃(つちぼこり)が家の中へ入らないから掃除は助かるとも云う。この観点だと、主婦助けの雨、となる。まあ、僕にすりゃ、どっちだっていいやと、最初は思っていた。ところが、よ~く考えれば外で遊べないから、やはり青空が広がる爽快な晴れの日がいいという想い至った次第である。晴れの日だと、じいちゃんの頭が某メーカーの洗剤のような光沢を増すという特典も加味されるから、それを観る楽しみもあり、そろそろ秋霖は御免蒙りたい。

                  第七話   完

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2012年6月 2日 (土)

秋の風景 (第六話) 静と動

      秋の風景      水本爽涼

    (第六話) 静と動       

 九月を過ぎた頃から日増しに日没が早くなったように思う。秋の夜長は凛と空気が澄んで読書には快適だ。僕はそう本は読まないが、父さんは結構、静の読書派である。じいちゃんは正反対の動で、もっぱら剣道と畑作りを人生の生業(なりわい)としているから、本などは一冊も読まない。って云うか、新聞等も含み書物に一切の関心を示さないのだ。
「頭でっかちなどは、この世では無用の長物だ。人間は、実践あるのみ! 結果がものを云い、ものを生み、ものを救うんだぞ、正也。よ~く覚えておきなさい。まあ、頭脳労働は頭でっかちとは、また違うがな。兎も角、試行錯誤、…ちょいと難しいか。要するに、まず動いてやってみて、失敗するのはいいんだ」
「うん!」
 今夜は、じいちゃんの離れへ用もなく行ったのが運の尽きで、延々と長い講話に付き合わされる破目となってしまった。
「まあ、恭一がそうだ、という訳じゃないが…」
 じいちゃんは一応、父さんを立てて、そう付け加えた。無論、本心では読書派の父さんを嘲(あざけ)っているのは疑いのないところだろう。事実、会社休みの今日は、居間でハイボールを片手にサラミを齧(かじ)り、小説を読み耽(ふけ)っている父さんがいた。じいちゃんは、それを垣間見て、離れへ引き揚げた経緯(いきさつ)がある。今夜に限っては両者の暗黙の了解は成立せず、将棋は指されなかった。いや、じいちゃんは指す積もりだったのだろうが、案に相違して、父さんが本を読んでいたので成就せず、諦めた…と思える。更に、サスペンスタッチで推理を働かせば、その不成就の鬱積が僕への講話となって噴出した…と、考えられなくもない。
「お父様、テーブルに置いときましたから…」
「あっ、未知子さん。今夜も、すまないですねえ…」
 じいちゃんの晩酌は、いつも熱燗が二本の日本(二本)男児だ。父さんの洋酒党を小馬鹿にしている節もある。その実、ビールに限っては、いいらしい。まあ、そんなことはどうでもいいが、母さんの助け舟があったお蔭で、漸(ようや)く僕はじいちゃんから解放されることになった。
 寝る前に歯を磨きに洗面所へ行くと、じいちゃんが熱燗で晩酌している姿が目に入った。居間では洋酒を片手に、青みを帯びた父さんの顔がある。対して、台所では日本酒を片手に赤みを帯びるじいちゃんの頭が光る。両者の違いと云えば、毎度の言とはなるが、某メーカーの洗剤Xで磨いたように光るじいちゃんの頭だろう。この頭は、熱燗二本で赤みを帯びるという特性を有している特別天然記念物なのである。じいちゃんはテレビで落語に興じて、動で笑っている。母さんは? というと、家事を終えたらしく、動で疲れ果てて漸く風呂に入り、僕達三人から解放されたところだ。父さんは半ば本を読み終え、まだ静のまま読み続けるようだ。僕は歯を磨き終え、三人の付き合いに疲れきったので、もう寝ようと思っている。                                                        

                   第六話  完

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2012年6月 1日 (金)

秋の風景 (第五話) お月見

      秋の風景      水本爽涼

    (第五話) お月見       

 ━ 名月を 取ってくれろと 泣く子かな ━ 
 こんな句を、じいちゃんから聞いたことがある。僕の場合、別に泣きはしないが、名月には付き物の月見団子を頬張りたいとは思う。
「明日はいよいよ十五夜か…。朧月もいいが、何といっても中秋の名月だ。━ 月々に 月見る月は 多けれど 月見る月は この月の月 ━ というのもあるからな」
 よく分からない僕は、じいちゃんの隣りで、ふ~ん…と、適当に合いの手を入れておいた。まあ、早口言葉のようだから学校で流行らせてみよう…とは思ったのだが。それで、じいちゃんに訊ねると、道長とかいう平安時代の偉い人が詠んだ和歌だと云う。しかし、これには逸話がある。実は、じいちゃんが解説したこの和歌の作者は不詳で、道長さんが詠んだのは、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思えば」だと、じいちゃんが珍しく、僕の部屋へ訂正しにきた…という逸話だ。さて、本筋の話に戻ると、その後、僕はじいちゃんの離れから自分の部屋へと撤収した。
 次の日も天気はよく、夜になるとじいちゃんが云っていた中秋の名月が僕の家に挨拶にやってきた。我が家としては、ススキにお団子で歓待しているのだから、それも当然のように思えた。
「なんか、ススキと月が似合いますねえ…」
 居間で将棋を指しながら、父さんが庭先を見遣り、じいちゃんにそう云った。
「…そうだなあ。秋の月には確かに合う」
 次の一手を長考していたじいちゃんは、父さんの言葉で我に返り、同じように庭先を見遣った。
「おい、正也。すまんが電灯を消してくれ」
 唐突に、じいちゃんが声をかけた。
「ああ、…ハイッ!」
 僕は師匠に即答して、ご機嫌を伺った。
 電灯を消した居間は妙な静寂が流れ、蒼白い月明かりが煌々と文明以前の時代を照らし出しているように思えた。特に、じいちゃんの禿(はげ)頭は、某メーカーの風呂用洗剤Yで磨いたタイルのようにテカっていた。しかもそれは、電灯光とは違う、一種独特の微妙なテカりで輝いているのだった。
「さあ、団子をお相伴(しょうばん)にあずかりますか?」
「おっ、そうだな」
 そこへ母さんが現れた。
「綺麗なお月様…。今、お茶にしますね」
「未知子さんは、いつもタイミングがいい!」
 ベンチャラの積もりでもないんだろうが、じいちゃんは、いつも母さんには一目、置いているように思える。
 静まり返った居間に月明かりが射す風景、そこで黙して月を愛(め)で、団子を頬張り、そして茶を啜る。これぞ、日本文化の醍醐味ではないか(とか云いつつ、その実、僕は団子を頬張ることだけに醍醐味を覚えていたのだが…)。
「父さんに叱られないんで、今夜は返って気味が悪いですよ」
「ははは…。今日ぐらいは、な。まあ、そのうち纏(まと)めさせて貰う」
「怖いですねえ」
 中秋の名月が照らす居間に、いつまでも四人の笑い声が響いていた。

                   第五話  完

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