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2012年8月

2012年8月31日 (金)

連載小説 幽霊パッション (第四十六回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_64

    (第四十六回)

 当然、幽霊平林もスゥ~っと上山の後ろを移動する。
『これでも、身辺には気を遣ってるんですよ、出るときは』
「えっ!? テレビや映画じゃないんだから、なんか、出演するときは・・みたいな云い方、やめてくれないかなあ」
『はあ…、そんなつもりで云ったんじゃないんですが…。正直、云いますと、僕達って、この世に現れると抹香の匂いがするらしいんです。だから、消臭スプレーで消してから現れるんですよ』
「ほう…、あの世にも、そんなもんがあるのかい?」
『ええ、あるんですよ。幽霊本舗ってとこで買ったんですがね』
「幽霊本舗…。なんか、娑婆っぽいね。まっ、いいか…。なにもない世界かと思ってたんだが…」
『いや、そんなことはないんです。ちゃんと、あるんです。現に、この僕が云ってんですから、間違いないじゃありませんか』
「そりゃまあ、そうだけどさ…」
 上山はタジタジとして引き下がった。
『まあ、そんなことは、いいんです。それより、先程の続きは?』
「ああ、そうだった。とりあえず佃(つくだ)教授にお会いして、なんとか我が社で作れるようにパテントを取る交渉はしてみる。ただ、商品化となるとなあ…。需要が見込めんからなあ…」
『それに、霊動といっても、まだ実証された訳じゃありませんからね』
「そういうことだ。今の状況では子供の玩具(おもちゃ)としか世間は見ん。ノーベル賞に匹敵するするような発明なら別だが…」
『ええ、まあ…。この話も実証され、ノーベル賞でも受賞となれば、多少の需要はあるのでしょうが…』
 二人は合せたように、同時に腕組みをした。

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2012年8月30日 (木)

連載小説 幽霊パッション (第四十五回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_19

    (第四十五回)

 この日の教授は機嫌がよかったから、それが上山には幸いした。コトは思惑通りに運び、上山は研究所を退去した。
 家に戻ると、上山はかなり気疲れしている自分に気づいた。上がり框(かまち)へヨッコラショ! と腰を下ろして、フゥ~っと溜息をついたとき、幽霊平林が現われた。最近、決めごとにしている現れ方で、上山の背後からである。
『課長!』
 上山は一瞬、ギクッ! とはしたが、現れたか…という馴れ気分で後ろを振り向いた。
「なんだ、さっきは。何も云わず消えたじゃないか」
『すみません。どうも、あの教授、苦手なんですよ』
「そうか? 口は荒いが、いい教授なんだがなあ」
『それは、生前から僕もよく知ってますよ。度々(たびたび)、通ってたんですから…』
「だろ? だったら…」
『ええ、そうなんですよ。いい教授なんですけど、なんか苦手で近寄りがたいところがあるんです』
「君の被害妄想だろう。私なんか、なんともないぞ。まあ、少し気は遣うがな」
『もういいじゃないですか、その話は。それより、どうなりました? 例の話』
「ああ、アレなあ…。上手くいきそうだ。佃(つくだ)教授に会えることになった」
『えっ! そりゃ、よかったじゃないですか。すると、機械が我が社で生産されるってことに?』
「いや、それは、まだどうなるか分からんがな。なにせ、開発した佃教授の腹積もり一つだからなあ」
『はあ…、そりゃまあそうですね』
 幽霊平林は、少しもの静かになった。上山は靴を脱ぐとリビングへ移動した。掛け時計は昼を少し回っていた。

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2012年8月29日 (水)

連載小説 幽霊パッション (第四十四回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_34

    (第四十四回)

 機械は俄(にわ)かに沈黙し、研究室内は陰気な薄闇と化した。余計に気味悪くなったぞ…と、上山は思った。横にいた幽霊平林は、いつの間にか消え去っていた。勝手な奴だ…と、上山は少し怒りを覚えた。それでも、そうした気持を教授に悟られは拙(まず)い…と、瞬時に思え、上辺だっては怒りをおし隠す上山だった。
「教授、それにても立派な機械なんですねえ。見てくれは、なんか云いにくいんですが…ポンコツにしか見えませんから…」
「おお、そりゃそうじゃろう…。なんといっても、私ですら一目(いちもく)置く佃(つくだ)教授だからのう…」
 滑川(なめかわ)教授は先程のギラついた目とはうって変わり、愛(いと)しむような眼差(まなざ)しで機械を見つめた。ただ黙っていた上山は、幽霊平林が云ったことを、ふと想い出した。
 ━ 田丸工業で目玉商品にすりゃ、どうなんでしょう ━
 その声が上山の脳裡に甦った。
「教授、佃教授にお会いしたいのですが、紹介状か名刺を戴けないでしょうか。誠に厚かましいお願いなんですが…」
「本当に厚かまし奴だ、ははは…。佃教授に会って、どうするというのかね。…まあ、書かなくもないが…。名刺なら、ほれ、これでいいだろう…」
 教授はボロ紙のように汚れ、四隅が丸まった名刺を白衣のポケットから取り出した。
「あっ!これで結構です。ちょいと、この機械の構造に興味がありまして…」
「ほう、そうか…。紹介状はどうする?」
「お電話で上山という者がそちらへ行くだろうから、よろしく頼む、とでも云って戴ければ、それで結構でございます」
「おお、それなら、そうしよう…」

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2012年8月28日 (火)

連載小説 幽霊パッション (第四十三回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_2

    (第四十三回)

 まあ、誰もいなくなれば、上山も話すことは可能なのだが…。
『この機械、僕を感知してんですねぇ~。レトロにしては大したもんだ。作ったのは佃(つくだ)教授だとか話されてましたが、かなりのお方のようですねえ…』
「そうだなあ。私も、そう思うよ、大したもんだ」
 上山も口先だけではなく、真に大した機械だと思っていた。
『霊力を感知する機械って、よ~く考えりゃ、これってノーベル賞ものなんじゃないですか? 課長』
「うんっ! 確かに君が云うとおりだな…」
 上山は納得して返した。
『なら、田丸工業で目玉商品にすりゃどうなんでしょうねぇ~。もちろん、特許なんかも含めてですが…』
「そうだな。上手くいけばな。なにせ、教授はアレだからな…」
『はあ、それはまあ、そうですが…』
 二人が、ブツブツ話していると、滑川(なめかわ)教授がトイレから戻ってきた。
「…なんか今、話し声がしておったぞ。君の声か?」
「いえ! 教授の気のせいでしょう。何も話してません」
「そうかあ? 確かに話し声がしたんだが。…まあ、いい。相手もおらんのに、話をする訳がないな、ははは…。ちょっと疲れてるのかも知れん。今日はこの辺でやめるとするか。倒れたら元も子もないからなあ。ああ…、訊(き)くのを忘れていた。君、何か変わったことはなかったか?」
「いえ、先ほどの状態のままです…」
 二人の前の機械は、不気味なオレンジ色の点滅とVUメーター針の振りをまだ続けていた。教授は、電源スイッチをOFFにした。

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2012年8月27日 (月)

連載小説 幽霊パッション (第四十二回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo

    (第四十二回)

 教授は揺れ続けるVUメーターと点滅するオレンジ色のランプを指さした。上山には原因が分かっているから、どうも返事し辛(づら)い。ここにいる幽霊平林のせいだ、などとは云えなかった。だいいち、この機械、古めかしいレトロ調で、決して現代の最新技術を駆使して作られたものとは到底、思えなかったのである。少しの、もどかしさが上山の心を苛(さいな)んだ。しかし今は我慢して、適当に教授の話に合わせねば…と、上山は考えていた。
「ワァ~、えらく揺れてますねえ。いったい、なぜなんでしょうねえ」
 わざとらしく思えたが、ともかく上山は、そう云って返した。
「振れてるだろ? これが、とにもかくにも事実を証明しておるのさ。何もなければ、針など振れる訳がない!」
 最後の語尾を強調して教授は上山に云った。それは確かに、その通りで、何もしていない状態で急に針が振れたりランプが点滅するはずがない訳で、誰もが驚く現象であることは事実だった。
「それは、そうですね…」
 上山には隣で幽霊平林が笑っている蒼白い顔が丸見えなのだが、ここは敢(あ)えて、こう云うしかなかった。先程まで教授に威圧され、上山の後ろへ隠れていた幽霊平林が、もう横へしゃしゃり出ていて、笑っている。上山は彼に少々、腹が立った。だが、教授が前にいるから話す訳にもいかず、怒りが次第に、いらだちへと変化していった。
「霊がいることは確かだ。要は、どう解明するかなんだが、その解明方程式は、まだ完成しておらんのだよ。…ちょっと、トイレへ行ってくるから、君、機械になにか変化がないか見とってくれんか」
「はい、いいですよ。お安いご用です」
 教授は上山が了解すると、矢のように走りだした。

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2012年8月26日 (日)

連載小説 幽霊パッション (第四十一回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_63

    (第四十一回)

「んっ? これは! もしかして…」
 そう呟(つぶや)くと、教授は俄(にわ)かに室内のあちらこちらをキョロキョロと見回しながら、何かを探しているような目つきになった。もちろん、教授に幽霊平林の姿は見えるはずもない。だが、教授の凝視する眼差(まなざ)しは、その見えない何ものかを探しだすかのように、一点を見据える。そして首だけが、まるでカラクリ人形のように周囲に回るのだから、これはもう不気味以外の何物でもなかった。幽霊平林ですら教授の動作に威圧され、黙って上山の後方へ退避した。
「教授、その機械は?」
 思いきって上山は口を開いた。
「んっ? これかっ? これは私が開発した霊動探知機だ。と、云っても、機械が専門でない心霊学の私が作れるべくもない。実は、これは、私の友で機械工学の権威者である佃(つくだ)教授に開発してもらった機械でな」
「なるほど、…そうだったんですか。それで今の反応は?」
「よくは分からんが、どうも何かの霊がこの研究所に入ってきたようなのだ」
 幽霊平林は、僕はここにいますよ…と云わんばかりに、自分を指さしてアピールした。
「ははは…、そんな馬鹿な。教授の思い過ごしでしょう」
「なにぃ! 私を怒らせる気かっ!」
「いいえ、滅相もない。決して、そのような…」
 滑川(なめかわ)教授が俄(にわ)かに血相を変えて怒りだしたのを見て、上山は慌(あわ)てて取り繕(つくろ)った。
「…ならば、いい。いや、この機械は今まで一度も反応したことがなかったんだ。それでこの私も、もう一度、佃(つくだ)君に作り直してもらおうか…と、思っておったんだよ。それが今、この状態だ」

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2012年8月25日 (土)

連載小説 幽霊パッション (第四十回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_2



    (第四十回)

 上山がドアを開けると、そこには紛(まぎ)れもない滑川(なめかわ)教授が何やら得体の知れない機械を前に、じっと腕組みをして考え込んでいた。ドアの開く音もお構いなしに、である。
「教授! おはようございます。田丸工業の上山でございます…」
 教授は、ようやく機械から目を離し、上山を見た。
「おお、来おったか! 何を見たいのかは、よう分からんが、まあ、しばらく見ていきなさい。ただし、茶も何も出んぞ! ははは…」
「はあ、そのようなものは結構でございます」
「そうか? ならば、そこの椅子に座って、ゆっくりしていきなさい」
 教授は、そう云うと、ふたたび目前の機械を見ながら腕組みをした。上山には、その機械がどういうものなのかは、まったく分からない。解明するには、教授が口を開かない以上、ただじっと教授の一挙手一投足を見守るしかなかった。その教授は奇妙な機械に対峙し、睨(にら)み合った相手を威圧するかのように、不動の腕組み姿勢のまま座っているだけなのだ。もちろん、時折り椅子から立ち上がることはあるが、ただ機械を上から見るだけで、また座ると不動の姿勢になるのだった。これでは、堪(たま)ったものではない。そう上山が思い、腕を見るともう十時を過ぎていた。小一時間は無為に時間を費やしたようであった。この約一時間の時の流れの中で上山が掴(つか)んだものといえば、散髪をしていない教授の不精頭と、口の周りに、これも不精に生えた白髪(しらが)混じりの髭(ひげ)だけであった。フゥ~っと思わず溜息をついた時、幽霊平林が現れた。むろん、上山に見えるだけであって、教授には何も見えない。
 その時、教授が腕組みを解いて、慌(あわ)てた様子で機械の方へ前屈(かが)みになった。そして、より一層、シゲシゲと機械を見始めた。そういや、機械に付いているVUメーターの針が激しく揺れ、オレンジのランプが点滅し始めた。

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2012年8月24日 (金)

連載小説 幽霊パッション (第三十九回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_62

    (第三十九回)

 仕事帰りの上山が、行きつけのバーで飲んで帰途についたのは、もう日が変わった頃だった。上山の家がある住宅街は結構、高級な邸宅が多く、芸能人の家も多かった。上山は、明日の教授宅の訪問を考え、目覚ましをセットすると早めに寝た。
 次の日は快晴で、上山は久しぶりにぐっすり眠った…と、心地よく目覚めた。目覚ましは八時にセットしたのだが、目覚めたのは、その二十分ばかり前である。やはり熟睡してるとはいえ、心の奥底には教授宅のことが克明に刻まれていたのだ。
 教授との約束は十時だから、二時間はある。これはもう、ゆったりと起きて、洗顔、歯磨き、朝食、着替えなどの行程を終えるには充分な時間であった。上山はそれらの諸事を終えると、九時を少し過ぎた頃、家を出た。教授の研究所への道中は、以前、安眠枕の折りに生前の平林と足繁く通ったことがあったから、しっかりと上山の記憶に残っていた。カーナビに頼ることなく、上山は無事、研究所近くの空き地へ車を停車させた。新しいビルや駐車場、それにコンビニとかが出来た関係で景観は上山の記憶より多少変わっていたが、当の研究所は以前とちっとも変わらず、そのままであった。周囲の真新しさと反比例するというか、コントラストをきわ立たせて研究所は存在した。そして、教授が電話で云ったとおり通用口の施錠はされず開いていた。上山は、カツ! カツ! と鋲の打った皮靴を響かせて、教授がいると思われる地下二階の研究所へと足を進めた。
 階段を下りると、太陽光から遠ざかるためか、光線が遮(さえぎ)られて、薄暗くなった。まるでモグラだなあ…と思っていた頃の過去の記憶が、ふと上山の脳裡を過(よぎ)った。研究室の入口は以前のままで、少しも変わっていなかった。周囲に置かれた雑物が多少の年月の経過を思わせたが、それ以外はまったく、あの時と同じだ…と上山を思わせた。

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2012年8月23日 (木)

連載小説 幽霊パッション (第三十八回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_61

    (第三十八回)

「本当か? …まあ、君を疑ってる訳じゃないんだが、どうも不安でなあ…」
『そんなことは心配されず、今は滑川(なめかわ)教授に出会った時のことをお考え下さい』
「ああ…、ありがと。そうさせてもらうよ」
 それで会話は途切れ、幽霊平林は湿っぽく去った。
 次の朝、会社へ出勤した上山は、携帯で電話をした。
「あっ! 昨日はどうも…。さっそくでなんなんですが、明日の朝、十時頃では、いかがでございましょう?」
 上山は猫撫で声で話した。
「おお、君か。私はいつでも構わんよ。君の好きな時に来なさい。入口は開いとる」
 この日の滑川教授の機嫌は、かなりよかった。
「はい! どうも、ありがとうございます。では、さっそく参上させて戴きます、失礼いたします」
 上山は電話を切って、ホッ! とした。そこへ幽霊平林が現れた。会社へ現れるのは久しぶりである。上山は課員達の手前、デスクでは電話できず、トイレの化粧室にいた。
『明日の十時ですか…。そういや、明日は会社、休みでしたよね』
「なんだ、君か! …それにしても驚かなくなったな。慣れとは恐ろしいものだ」
『いやあ、課長が驚かれなくなったのは、僕にとっては好都合です。なにせ、僕の興奮度合いも小さくなりますからねえ』
「頭の青火が立たなくなるってことか? …まあ、私もそれは助かるがな。おっと、いけない! ここはトイレだった。誰ぞに聞かれちゃ拙(まず)いな…。それじゃ、また」
 上山は、幽霊平林を振り払うようにトイレを出た。そんなことはお構いなしの幽霊平林である。上山の横にスゥ~っと続いた。それでも一応は遠慮して、上山が課のオフィスのドアを開けた時は、静かに消え失せた。

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2012年8月22日 (水)

連載小説 幽霊パッション (第三十七回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_60

    (第三十七回) 

「いったい、誰からそんな情報を入手したというのかのう?」
「はあ…、まあ風の噂(うわさ)を耳にした、とでも申しますか…」
「風の噂なあ…。どうも腑に落ちんわい。まあ、百歩譲ってこの研究を、どうしたいというんだ!」
「どうするも、こうするも…、一度、先生の研究所を見学させて戴き、研究のご様子などをお見せ下されば、それで結構でございます、はい!」
「なにっ! 見るだげよいというのか。君の会社は、いったい何を考えとるんだ! …まあ、君に怒っても仕方ないことだが…。それに、見学するだけならなあ…、別に構わんが。…ただし、君だけにしてくれんか。他の者は、というより、二名以上は駄目だぞ!」
「はい、分かりました。ありがとうございます。改めて、日時につきましては、お電話を差し上げますので…」
 教授の後ろで一生懸命、霊気を送る幽霊平林は、やったとばかりにイエ~イ! と云ってVサインをした。むろん、教授は、その声も仕草も見聞きしてはいない。
 上山が電話を切るやいなや、幽霊平林は研究室から上山の自宅へとVサイン姿のまま瞬間移動した。
『課長! 上手くいったじゃないですか。あとは課長の腕次第ですね』
 蒼白く笑う幽霊平林の頭部にガス燃焼の炎のような青火がポワ~ンと丸く浮かんだ。
「なんだか頭に浮いとるぞ、君」
『はい、どうも一定限度の興奮を超えると出るようです』
「出るって君、それは他人にも見えるんだろ? 君にすりゃ、気づかれるから危険じゃないか?」
『ははは…、心配しないで下さい。青火だけで、僕の姿は全然、見えませんから…』
「そういう問題じゃないだろ? 私の近くで青火が突然、浮かべば、他の者が私を避けるようになるだろうが」
『はあ…それは、まあそうですが、課長の前では、興奮しないようにしますから、ご安心を』
 幽霊平林は、ふたたび陰気に笑った。

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2012年8月21日 (火)

連載小説 幽霊パッション (第三十六回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_59

    (第三十六回)

「なにっ! 安眠枕だとっ! …そんなもん考えたこともないぞ! んっ? …そういや、枕に電磁誘導コイルを仕込んだのを持ってきおったことがあったわい…。その枕か?」
「はい! 正(まさ)しく、その枕の製造元の田丸工業でございます」
「奇妙な実験をさせおったからのう…あの会社。おい! その会社の者か!」
 滑川(なめかわ)教授の機嫌は、いっこうよくなる気配がなかった。
「そ、その通りでございます、はい」
 低姿勢一辺倒で、上山は話し続けた。
「で、その田丸工業が、私に何の用だ! 確か…あの折りは結局、ボツになったではないか!」
「は、はい。あの節は…。いえ! そうではございません。ボツになったのではなく、時節到来まで待とうとお蔵入りになったのでございます」
「お蔵入り?! お蔵入りとは、結果的にボツと同じではないか!」
「はあ、それはまあ、そうでございますが…」
 上山は教授に責め立てられ、防戦一方であった。
「まあ、いい…。それで、私に、いったいどんな用があるというんだ。また、二束三文の商品開発に手を貸せというんなら断っておく!」
「いいえ、今回はそのようなことではございません」
「ほう、ならば、いったい、どういう用件なんだ!」
「はい、実は今、先生がご研究されていることについて、我が社と致しましては、かなり興味を持っておりまして…」
「この私の研究を、君達が知っておると云うのかね。世間には一切、口外していない研究を?」
「いやあ、そう云われますと、なんなんですが…」

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2012年8月20日 (月)

連載小説 幽霊パッション (第三十五回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo

    (第三十五回)
『それじゃ、僕は、これで…』
 幽霊平林はスゥ~っと消え去った。上山には消えぎわが鮮やかに見えた。恰(あたか)も、芸能界のスターが格好よく登場し、また格好よく消え去るように思えたのである。
 上山が滑川(なめかわ)教授に電話をしたのは、その次の日であった。教授は埃(ほこり)が数ミリばかりも積もった研究室の中で齷齪(あくせく)していた。そして、なにやら怪しげな機械を前にして自分が書き記(しる)したノートを見、また機械を見るといった動作を交互に繰り返していた。
「…これで間違いない。私の計算によれば、これで霊界とこの世が繋(つな)がる筈(はず)だ!」
 確信めいた声で教授は呟(つぶや)いた。その時、けたたましい電話音がした。今では、ほぼ過去の遺物となったダイヤル式の黒電話機の音である。
「この大事なときに! いったい誰だっ!」
 教授の機嫌は俄(にわ)かに悪くなった。それでも呼び出し音がやかましくリーン、リリリーンと何度も鳴れば、さすがの教授も無視することは出来ない。いや、出来ないというよりも、その音が五月蝿(うるさ)くて邪魔なのだ。仕方なく教授は受話器を取りに嫌々、動いた。
「はい…どちら?」
「あのう…、先生に以前、お世話になりました田丸工業の上山と申します。その節は大変、お世話になりました」
「田丸工業? 上山だってぇ~? そんな人に会ったことがあったかなあ…」
「嫌ですよ、先生。それ! いつぞやの…安眠枕の田丸工業ですよ。ご存知でしょ?」
 愛想よい言葉遣いで上山は話していた。教授の後方には、いつ現れたのか、幽霊平林が腕を組んで受話器を持つ教授の様子を窺(うかが)っていた。

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2012年8月19日 (日)

連載小説 幽霊パッション (第三十四回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_37

    (第三十四回) 

「相手による、とは、どういうことなの?」
『相手の心霊力が強いと、立ち入る隙(すき)がないのです。それに返って、そんな相手に仕掛けると、こちらが危ういんです』
「危ういとは?」
『ええ、ですから、危ういんです。どう云えばいいのか…、つまり、ふたたび現れることが出来ないほどのダメージを受けるということです』
「ほう…、そうなのか。霊界も、いろいろ複雑なんだねえ」
『はい、かなり複雑なんですよ』
「ふ~ん…」
 二人、いや、本当は一人と一霊なのだが、この場合は、あえて二人と云える両者が黙り、しばらくその沈黙は続いた。上山は残って冷えた銚子の燗冷め酒を猪口へ注いで飲み干した。
 幽霊平林も上山が黙ってしまえば暖簾に腕押しで、存在価値がなくなる。元々、幽霊なのだから存在は無なのだが、上山の前では人として一応、存在するものだから話していた訳で、存在価値もあったのである。
『それじゃ、そういうことで…。教授とのコンタクトが首尾よくいきましたら、また現れることにしましょう』
「あの…、ひとつ訊(き)きたかったんだが、そんなにいつでも現れるのは可能なのかい?」
『はい! それはもう…。人間の世界の感覚で霊界を捉えてもらっては困ります。それはもう、まったくの別世界なのですから…』
「それは、いつか云ってたよね」
『ええ、三次元ではない空間にいる訳です。コチラから見れば、消えてるってことになります。これも、いつか云いましたよね?』
 上山は、それ以上、追及できなかった。

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2012年8月18日 (土)

連載小説 幽霊パッション (第三十三回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_58

    (第三十三回) 

「そんなのがあるんだ…、やはり」
『ええ、霊界は立派に存在してますよ。…立派というのも妙な云い方なんですが…』
 幽霊平林は霊気を放って蒼白く笑い、上山は人間っぽくオレンジ色で笑った。
「まあ、そんなことはいいが、君の場合はスンナリ研究室へ入れるが、私がねえ。滑川(なめかわ)教授にどう接近するかだ…」
『そうでした…』
「何かの社用でお伺いした、とでも云えば、昔のよしみで入れなくもないんだろうが…」
『というより、その方法しかないんじゃないでしょうか』
「まあ、そうだなあ…。それで教授にどう切り出すかだなあ、君と私のことを…」
『素直に、洗いざらい云った方がいいんじゃないでしょうか。僕が見えるってことも含めて…』
「君は、そう簡単に云うが、この話って尋常じゃないからなあ」
『でも、教授も尋常じゃないんですから、上手くいくような気が僕はするんですよ』
「ああ、そうか…。マイナス×マイナス=プラスって訳か」
『はい…』
「よしっ! なら、そうしようじゃないか。で、いつ実行するかだが…」
『私はいつだって、現れますよ』
「岬君の仲人話が六月だから、それまでには、なんとかせにゃいかんな」
『あと、ひと月半ほどですね。急ぎますか?』
「ああ、数日中に、まずは滑川(なめかわ)教授に電話してコンタクトを取ろう。プツリ! と切られんように慎重にいかんとな」
『ええ、そうして下さい。僕は瞬間移動でアチラから霊力を送りますから』
「そんなことが出来るのかい? 君」
『ええ、その気にさせると迄はいきませんが、そういう雰囲気を送ることは出来ます。もちろん、相手にもよりますが…』

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2012年8月17日 (金)

連載小説 幽霊パッション (第三十二回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_57

    (第三十二回)  

「ほう…、あの廃人扱いの滑川(なめかわ)教授が、かい?」
『ええ、その辺りを訊(き)けば、分かるかも・・です』
「そうか…。まあ、君が云うんだから、強(あなが)ち、出鱈目でもあるまい。だが、そうだとして、あの偏屈者の教授に、どう訊きだすかだ」
『それは、そうですね。だいいち、今じゃ私達は部外者ですからねえ』
「そうそう、教授と縁があったのは、会社が商品開発していた一時期だけだからなあ…」
『そうでした。結局、あの霊能枕、お蔵入りでしたけどねえ』
「ああ…。あの頃は、君とよく教授の研究室へ行ったものだ。あの頃の教授は、そんなに変人でもなかったな」
『ええ…、普通の人でしたねえ』
「なぜ、あんなに、なっちまったんだろうなあ…」
『なにかあったんでしょうねえ、たぶん』
「そうだなあ。そうに違いない。って、おいおい、そんなこたぁ、どうでもいいんだよ、君」
 話が枝葉末節になりそうで、上山は急いで軌道修正した。
『はい…、どうもすいません』
「私達の因縁が教授の研究で明かせるかも知れんということだな」
『正(まさ)しく課長の云われる通りです。今の私ですから、研究所を覗(のぞ)くなどは造作もないことですから、しばらく教授の研究の様子を窺っていた、という訳です』
「なるほどなあ…。それはいいとして、君はどうして滑川教授に目をつけたんだ? 偶然にしては、話が出来過ぎてるじゃないか」
『はあ…、それなんですが、僕にも分からないんです。なんとなく教授の顔が浮かびまして…』
「どこで?」
『…ですから、私の方、課長から見れば、アチラの世界、霊界です』

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2012年8月16日 (木)

連載小説 幽霊パッション (第三十一回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_35

    (第三十一回) 

約束を守る律儀な男だ、さすがは生前、田丸工業のキャリア組だったことはある…と、上山には思えた。
『やあ、課長、来ましたよ…』
 幽霊平林が現われたのは、上山が銚子を傾けた丁度、そのときだった。どこだ? と見渡せば、幽霊平林は悠然として、クローゼットの上に楽チン! とばかりに足をバタつかせて座っていた。もちろん、足はないのだから、小忙(ぜわ)しく揺らしていたということである。
「君! …いや、平さん、そんなところで…。下りなさいよ」
 上山は驚きながらそう云った。幽霊平林は、ニタリと蒼白い顔で笑うと、ヒョイ! と上山の隣へ舞い降りた。上山は卓袱台(ちゃぶ゛だい)の銚子と猪口を隅へとやった。別に幽霊平林には関係がないのだ。見えない者に三次元空間の概念はいらない。
「昼の話の続き、頼むよ、平(ひら)さん」
『課長、その平さんっていうの嫌だなあ』
「だって、君が、そう呼べって云ったんじゃないか」
『そりゃ、あの時は、そうでしたけどね。何度も呼ばれてますと、なんか平社員の平っぽくって嫌になっちゃったんですよ』
「…なら、どう呼べばいいんだ?」
『君(きみ)でいいですよ。元々、課長の部下なんですし、君がいいですよ。君でお願いします』
「うん…、まあ君がそこまで云うんなら、平さんはやめて、君にしよう。で、君、昼の続きだ」
『そうそう、そうでした。滑川(なめかわ)教授の研究によりますと、降霊現象の規則性とか、なんとか云うんですよ』
「なんだ、そりゃ? その規則性とかは?」
『要するに、僕みたいに、この世に現れる霊には規則性がある、って話なんです』

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2012年8月15日 (水)

連載小説 幽霊パッション (第三十回)

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    (第三十回)   

「はい! よろしくお願いします。それと亜沙美さんとの挙式は六月辺りにしようと二人で決めましたので…」
「なんだ! そっちの方が重要な話じゃないか。ははは…、まずは、その話だろ?」
「いやあ…、どうもすいません。つい照れくさかったもんで」
 席を立つと、笑いながら二人はレジへ向かった。
「いや、私が払っとく。…そうか、六月な。考えておこう…」
「ありがとうございます」
 レジは上山が払い、二人はキングダムの前で別れた。辺りは既に六時を回り、薄暗くなっていた。
 上山は七時前に家へ帰着した。八時に現れてくれ、と幽霊平林に云ってある手前、それまでの一時間で風呂に夕食などを済ませるとなると結構、忙しい。まあ、夕食は外食で済ませていたから、風呂上りの一杯くらいだったのだか、それにしても訪問者があるのだから、これはもう、心が騒いで寛(くつろ)げるといったものではなかった。ただ、飲み食い不用の相手だけに、準備の手間は省けた。とりあえずは風呂へ浸かり、疲れを取る。今日は岬の話を聞いていたこともあるが、幽霊平林が現れたことで上山は相当、疲れていた。人のいるところへ現れるというのは、どうも困るのである。ようやく風呂から上がると、すでに二十分は経過している。七時に慌てて入り、二十分の風呂では、疲れなど取れたものではない。しかし、八時に幽霊平林は現れるのだから、それまでにいつもの一杯を…と下卑た根性が顔を擡(もた)げた。別に重要な客が来るというのではないのだから、そう意識するすることもないのだが、それでも幽霊平林には意識が走る上山だった。慣れたとはいえ、目に見えないものが見えるということもある。四十分では酔いが回るほど飲めたものではない。
 幽霊平林が現れたのは、きっかり八時だった。

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2012年8月14日 (火)

連載小説 幽霊パッション (第二十九回)

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    (第二十九回)   

「まあ、いい…。今日のところは、これで引き取ってくれんか」
『えっ? ああ、それはいいですよ。実は、今日現れたのは、単に課長と岬君の話が面白かった、というだけじゃないんです』
「じゃあ、なんなんだ?」
『いい情報が入手出来ましてね。それをお伝えしようと現れた、というのが正直なところなんです』
「勿体ぶらないで手っ取り早く云いなさいよ。岬君を待たせてるんだから…」
『ああ、そうでした。実は、課長もご存知の滑川(なめかわ)教授なんですが、教授が今、研究されている生体科学の実験に興味がありましてね。というのも、その成果によれば、私と課長の妙な関係が解明出来るかも知れない…ということなんです』
「なんだって! あの滑川さんがかい? 大学の研究室に籠(こも)りきって、世間からは廃人扱いされている方だよ?」
『はい! そうなんです』
「それを早く云いなさいよ、平(ひら)さん」
『どうもすいません…』
 二人の新たな展開が始まろうとしていた。
「今はさ、岬君がいるから、家の方へ八時頃、現れてくれないかな」
『分かりました。じゃあ、この話は、その時に改めて…』
 そう云い終わるや、幽霊平林はスウ~っと消えた。慌(あわ)てながらトイレを出ると、上山は岬が座るボックス席へ戻った。
「偉く遅かったですね。今、大丈夫かな~って、行こうとしてたとこなんですよ」
「やあ、すまんすまん。もう大丈夫だ、ありがとう。え~と、今日は、ちょっと疲れてるから、この話は明日の帰りにでもしよう。まあ、出水君のことは悪いようにはしないさ。奴も、そう悪気はないんだろうがなあ…」

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2012年8月13日 (月)

連載小説 幽霊パッション (第二十八回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_48

    (第二十八回)   

「ああ…、風の噂(うわさ)に、とでも云っておくか」
「ならば、僕と亜沙美さんに係長が横恋慕していることは先刻、ご存知なんですね?」
「うん、知ってる。だから、なんとかせんといかんと、君を呼んだんだ」
 会社帰りに上山と岬は、キングダムでコーヒーを啜りながら、そんな話をしていた。
「出水君の嫌がらせ、ってのは、どの程度なんだ?」
「いやあ、課長が心配されるほど露骨なもんじゃないんですがね…」
 岬はコップの水を少し飲んだ。その時、幽霊平林が突如、岬が座る横の席へ現れた。上山は、来たか…と、失意した。
「課長、どうかされたんですか?」
 顔色を変え急に無口になった上山を見て、岬は思わず声をかけていた。横では幽霊平林が笑って物見顔で座っている。白装束だから余計に目立つのだが、そのコントラストは上山が感じるだけで、店内の誰一人として感じていないのだから、どうしようもない。もちろん、そんな男が店内にいれば、店員が摘(つま)み出すに違いないのだが、現に上山の前に幽霊平林はいた。
「いや、なに…。ちょっと昨日、寝てなかったもんで気分がな」
 そう云って上山はトイレへ向かった。幽霊平林も、その後方にピッタリついて動いた。岬は、そうなんだ…と、コーヒーを啜った。
 トイレへ入ると、人の気配がないのを幸いに、上山は、さっそく口を開いた。
「今、現れなくてもいいだろうが…」
 上山は露骨に不満を幽霊平林へ、ぶつけた。
『どうも、すいません。話が耳に入ってきましたもので…。つい自然と、姿が現れてしまいました』
「ふ~ん。そんなミスも君にはあるんだなあ…」
『いやあ、まだまだ不馴れなものでして…』
 不馴れか…と、上山は思わず笑えてきた。

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2012年8月12日 (日)

連載小説 幽霊パッション (第二十七回)

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    (第二十七回)   

「あっ、課長、どうでした?」
 係長の出水が、さっそく野次馬になって寄ってきた。
「いやあ、大した用じゃないんだ」
「そうでしたか…」
「私がいない間に、何かあったかい?」
「別に、これ、というようなことは…」
 なんだ…と、つまらない表情で、出水は係長席へ戻った。この男、亜沙美と岬に横恋慕していて、岬には地位を利用してなにかと辛(つら)く当たるところがあった。
『あいつ、余りよくないですよ、課長』
「ほう、そんなことだったか…」
 ごく最近、幽霊平林に、ことの顛(てん)末を話され、一部始終を知った上山である。それ以降、表面上は以前と変わらないように振る舞っていたが、上山は出水の行動を特別、注視するようになっていた。そうはいっても、出水をいつも見られる訳ではない。たとえば、昼食休憩や余暇の時間は、上山といえど、出水に離れず付いていられる筈(はず)もなく、出水が岬を苛(いじ)める現場を押えることもできなかった。だから岬に直接、そういう事実があるのかを確かめるしかないのだが、岬としては、出水が係長として指示を仰がねばならない人物である手前、我慢していたのである。こうなれば、もう幽霊平林の力を頼らねばならない上山であった。幸い、課内では自分だけしか幽霊平林のことを知る者がなかったことが偶然、上山に味方した。
「岬君。私もね、君達の仲人をする以上、同じ課の君が悩んでいるのを看過(かんか)する訳にはいかんのだ。ここはひとつ、すべてを話してくれんか! 出水君とのことを…」
「…ご存知でしたか。やはり課長の耳にも入っておりましたか」

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2012年8月11日 (土)

連載小説 幽霊パッション (第二十六回)

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    (第二十六回)   

「いえ、社長に云ったんじゃありません! 失礼しました」
 上山は田丸の前へ頭を深々と下げた。
「…んっ! まあ、いい…。平林君が、なにか云ったんだろ?」
「はい、そのとおりで…」
「よしっ! もう、忘れることにしよう。すべてを聞かなかったことにな、ははは…。死んだ社員のことなど、いつまでも気にしとられんわい!」
「はい、仰せの通りで…」
「うん! もういいぞ、上山君。戻ってよろしい」
「はいっ! ありがとうございます」
「なにも君が礼を云うことはないだろうが…」
「はあ、それはそうなのですが…」
 上山は立ち上がると、もう一度、深々と一礼し、社長室を出た。当然、幽霊平林は、そのままスゥ~っと上山に付く。先ほどと同じで、云わば上山に並行して進むといった具合である。
『なんか、面白くないですよ。僕、完全に無視されてますよね』
「平(ひら)さん、まあそう云うなって。…今の状況は、お前さんにとって歩(ぶ)が悪いんだから。孰(いず)れ、私がなんとかするさ」
『それって、期待していいんでしょうね』
「ああ、もちろんだ。そんなことより、お前さんと私の因縁の方が分からん…。そっちの方が大事じゃないか?」
『ああ、そうでした。すっかり忘れてました』
 そうこうするうちに、上山は課へ戻ってきた。むろん、ドアを開けて中へ入ると、幽霊平林は跡形もなく消え去っていた。

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2012年8月10日 (金)

連載小説 幽霊パッション (第二十五回)

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    (第二十五回)   

「そこに座っているのかね」
「はい…」
 田丸はシゲシゲと眼鏡をいじりつつ上山の右隣を見た。田丸の両眼には、ただの空間が広がって映るだけである。
「う~む…」
 田丸は返さず、無言で唸(うな)った。
「ここにいるのですが、社長にはお見えになりません。てすから、私の云う内容は絵空事で。しかし、今のボールペンの転がりは、単なる偶然ではないとだけは申しておきます。現に平林君がゆっくり抜いてテーブルに落とすのを私が横で目の当たりにしてるんですから…」
「なるほど…。君が云うのも一理ある」
 田丸は両腕を組み、目を閉じると考え込んだ。
「そんなに悩まれることじゃありませんよ。私が云ったことは、なかったことにして戴ければ、それでよろしいではございませんか」
 上山は、少し胡麻擂(ごます)り顔で笑いながらそう云った。
「そりゃそうだが一端、聞いたことを、だよ、君」
「そのうち忘れられますよ」
「そうかねえ」
『そうそう…』
 その時、幽霊平林が気楽に相槌を入れた。
「君は、黙ってろ!」
「なにぃ! 黙ってろ、とは誰に云ってるんだ!!」
 田丸が一瞬、怒った。

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2012年8月 9日 (木)

連載小説 幽霊パッション (第二十四回)

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    (第二十四回)   

「はあ…。本当のところを云いますと…。やはり、社長がお信じになられるかどうか分からないのですが…」
「やはり、三角頭巾をつけた平林君が…」
「はい…、見えるんです」
「平林君が死んで、かれこれ、もう半年近くになるなあ…」
「はい…」
「で、きょうは、どうなの?」
 機嫌がいいせいか、田丸は終始、穏やかである。
「はあ、今日もおります」
「おりますって…、見えるってことだな?」
「はい、まあ…」
 上山は恐る恐る云った。
「なにも君が出鱈目を云っておると決めつけてる訳じゃないが、どうもねえ…」
「はあ、それはごもっともです。なにせ、他の方には見えないんですから。私の方がどうかしていると云われても仕方ない話です」
「…うん、そうだね。そうなるんだが…、もしだ、もしだよ、もし君の云っていることが本当で、現実にその死んだ平林君がここにいると、なにか証明するようなことは出来んかね?」
 幽霊平林は、いつの間にかスゥ~っと移動して、長椅子に座る上山の右隣で胡坐(あぐら)をかいていた。田丸の言葉に何を思ったのか、その幽霊平林は、テーブル上に立ったボールペン立てのボールペンを、やんわり引き抜くとテーブルへ落とした。ほんの微かな音とともに、ボールペンは机上に転がった。二人の視線が一瞬、その転がったボールペンへ注がれた。
「こんなことって…あるんだなあ」
「この平林君がしたことです…」
 上山は隣で胡坐をかく平林を、左手指でさし示した。

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2012年8月 8日 (水)

連載小説 幽霊パッション (第二十三回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_42

    (第二十三回)   

「出水(でみず)君、なにかあったら頼んだ…」
「はい! 分かりました」
 出水は課長席を振り向き、そう返した。
 バタつきながら上山が社長室へ入ったのは、その五分後だった。ドアを開けて驚いたのは、幽霊平林が田丸の座る社長席の真っ後ろにいたことである。一瞬、こいつ、また現れたか…と、怒れたが、ここは冷静にならねば・・と上山は気持を引き締めてドアを閉じた。
「ああ…早かったじゃないか、上山君」
 田丸は至極、機嫌がよく、笑顔で上山を迎えた。上山が社長席へ近づくと、田丸は立ち上がって応接セットの方へと歩いた。
「まあ、かけたまえ」
「はあ…」
 席を勧められ、幽霊平林を意識しないように上山は長椅子へ座った。
「呼んだのは他でもない。どうも、この前の君の話が気になってねえ。悪い冗談で私をからかったんなら、それでよかったんだが…。どうも、そうじゃないようだったからね…」
「いやあ…、そのことでしたか」
 困ったことになったぞ…と、上山は刹那、思った。ここは、この前の話は作り話で、おっしゃるとおり社長をからかったんですと笑って否定すべきなのか、あるいは真実を、有り態(ありてい)に話すべきなのか、をである。口籠(ごも)った上山を見て、田丸は穏やかに云った。
「なにも困らすつもりで君をここへ呼んだんじゃないんだ。別に話さなくたっていいよ…」
 田丸は一端、退いた。とはいえ、社長の威圧感は、やはり上山を攻めたてる。なにも私を怒らせたところで、それはそれでいいんだぞ。ただ、君の出世は…と、云われているような威圧感なのである。

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2012年8月 7日 (火)

連載小説 幽霊パッション (第二十二回)

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    (第二十二回)   

 上山は当然、両足で歩くから肩などが小刻みに揺れるが、そこへいくと幽霊平林は滑(なめ)らかだ。体形を動じることなく、そのまま前方へスゥ~っなのである。恰(あたか)も、空港の通路上のベルトコンベアへ乗って移動する塩梅(あんばい)である。上山は、ようやく重い口を開いた。
「先ほどの続きだが、どうも君と私の接点を見出す手がかりとか方法がなあ…」
『浮かばなかったと…』
「ああ、まあなあ…」
 上山は素直に云った。
『僕もなんですよ。どうしても課長と僕だけが繋(つな)がる接点を探る手立てが…』
 二人はテンションを下げて課へと戻った。上山が課のドアを開け中へ入ると、幽霊平林の姿は消えていた。はは~ん、やはり、ここは現れないんだ…と、上山は、ほんの少し気分が和(やわ)らいだ。
「課長、お茶、入れておきました…。この前は、どうも…」
 課長席へ近づいてきた亜沙美が、遠慮ぎみにそう云って一礼した。
「んっ? いやあ。ありがとう…」
 そうとだけひと言、上山は告げた。亜沙美はまた一礼して、自席へと戻っていった。係長の出水雅樹(でみずまさき)は二人の会話を訝(いぶか)しげに聞いていたが、聞かなかったように机の書類に目を落とした。岬と亜沙美の席は少し離れていて、すぐ近くで話し合える距離ではない。課員達は各自の事務仕事を熟(こな)していた。上山が課長席へ座ったとき、机上の業務連絡用インターフォンが鳴った。社長室からだった。上山は慌(あわ)ててボタンを押した。
「ああ、私だ…。ちょっと来てくれんか、上山君」
「は、はい! すぐ、参ります!」
 インターフォンを切ると同時に、もう上山は立っていた。

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2012年8月 6日 (月)

連載小説 幽霊パッション (第二十一回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_52

    (第二十一回)    

 ヒョイ! と幽霊平林が現れたのはトイレである。さすがに彼も課内では迷惑だと感づいたのだろう。丁度、上山が用を足しに入ったとき、他の社員がいなかったこともある。
『課長! 二日ぶりです』
 小便を足していた上山も、意表を突かれた感は否めない。まさか、ここには…と思って入り、リラックスして垂れ流していた矢先、後方からの声である。一瞬、尿意を喪失し、小便は止まってしまった。驚いて首だけ振り向くて、「驚いたぞ、ゆ…いや平(ひら)さん」と、上山は素っ頓狂な声を出した。
『すみません。さっきから機会を窺(うかが)っていたんですが、皆、いますしねえ…』
「だが三日前までは、無遠慮に現れたじゃないか」
『ええ、それはまあ…。でも僕なりにご迷惑だと思いまして…』
「ほう、それはありがたい。まあ、出来るだけ、その心づもりで頼むよ」
『はい…。ところで、おとといの、いや、三日前になりますか。早いですねえ、日の経つのって。…そんなことは、どうでもいいんでした。それで、いいお考えとか手立ては浮かびました?』
「いいや、それがなあ…」
 上山が話しかけたとき、人の近づく気配がした。上山は慌(あわ)てて用を足し終えると、洗面台へ向かった。幽霊平林も瞬間、消えた。入れ違いに入ってきたのは同じ課の岬で、小便器に向かい、洗面台の上山に気づいた。上山は手を洗っていた。
「ああ、課長! この前は、どうも。よろしくお願いします」
「おお、岬君か。分かった分かった。じゃあ、また…」
 そう云いながら、上山は手をエアーブロワで乾かした。ブロアの派手な音がした。
 上山がトイレを出て課へ戻る通路を辿ると、幽霊平林がどこからともなく現れて、上山の横をスゥ~っと並行して進む。

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2012年8月 5日 (日)

連載小説 幽霊パッション (第二十回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_17

    (第二十回)    

 そう云って、コーヒーカップと注文伝票をさりげなくテーブルへ置くと、ウエイターは去った。
「そうか…。じゃあ、ありがたく引き受けるとしようか。なにせ、同じ課の祝いごとなんだからなあ…。断る訳にもいかん。それじゃ詳しいことは、また改めて聞かせてもらおう」
「ええ、そうさせていただきます。どうも、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 岬に従い、亜沙美も上山に礼を云って軽く頭を下げた。
 しばらく雑談を交わして、三人はキングダムを出た。この話にしても、順調に纏(まと)まったのは幽霊平林が現われなかったのが主因であることは云うまでもない。しかし、上山にしてみれば、岬と亜沙美相場の話ではなかった。残された一日で幽霊平林と自分との奇妙な現実の究明方法をなにか考えねばならないのだ。今のところ、考えは浮かんでいないし、手懸りらしきものもなかった。まったく関係ない仲人話が舞い込んだことで、上山は、なんとなく集中できない気分に陥(おちい)っていた。上山が読み進めた『霊視体験』もこれといったヒントにはならず、図書館へ返すつもりでいた。考えも浮かばず、借りた本も役に立つほどではないとなれば、これはもう、はっきりいって上山としてはお手上げである。幽霊平林の方も一応、考えておくとは云っていたから、奴に任せるか…と杜撰(ずさん)に考えたりもした。そして、はきつかぬ考えで悶々としながら次の日も暮れた。
 翌日は、いよいよ幽霊平林が現れる日である。上山はビクビクもので、仕事ぶりも以前の上山に戻っていた。そのことは日々、仕事を共にしている課員達が一番よく知っていた。昨日(きのう)、一昨日(おととい)とは違い、まったく落ちつきがないのである。時折り、自分の席の周(まわ)りを見回す素ぶりに、その落ちつきなさが浮き出ていた。

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2012年8月 4日 (土)

連載小説 幽霊パッション (第十九回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_38

    (第十九回)    

「そうか。…なら第二会議室が空いているから、そこで話そう」
「出たところのキングダムじゃ駄目でしょうか?」
「んっ? まあ、いいだろう…」
 ぞろぞろと他の社員も退社していた頃合いだったから、目立つということもなく、三人は会社からすぐ近くにある喫茶・キングダムへと歩いた。
  店へ入った上山達は、適当に空いたボックス席へ腰を下ろした。
「あっ、ホットにして…」
「僕達も同じで…」
「はい、かしこまりました」
 ウエイターが水を運び、注文を訊(き)くと下がっていった。
「僕達とは隅に置けんな、君達。ははは…、ってことは」
「ええ、そうなんです。この秋、結婚するんです。実は、そのことなんですが、課長にお仲人をお願いしようと思いまして…」
「だって、仲人ってのは、夫婦でするんだろ? 私は独り者だよ。それでいいのかな?」
「はい、そのことも重々、承知をしております。奥様役の方は亜沙美さんの遠縁の方がやって下さるということで了解を得ております」
「そうなの? …お目出たい話だから、私に異存はないよ。こんな私で務まるのかなあ? 部長や専務とかの方が、いいんじゃない?」
「いやあ…、僕達は小じんまりとやりたいんで、返って、そんな上の方は…」
「今後の君の出世を考えりゃ、その方がいいいと思うけどねえ」
「そんな、とてもとても…」
「岬君は全然、欲がないなあ、ははは…。海堂君はそれでいいの?」
「ええ、私は別に…」
 先ほどのウエイターがコーヒーカップを盆に乗せてふたたび現れた。

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2012年8月 3日 (金)

連載小説 幽霊パッション (第十八回)

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    (第十八回)    

 上山は一端、本を閉じるとテーブルへ置き、ワインを喉へ流し込んだ。この日のグラスは、やけに重く感じられた。図書館へ寄ったことや幽霊平林の出現で少し疲れているのかも知れない…と上山は思った。読みかけたところまで名刺を栞(しおり)がわりにして挿し込み、そのままにして寝室へと入った。
 次の日は会社で取り分けて気遣う事態も起こらず、仕事もスムースに捗(はかど)り、順調に時は推移して終わった。それは当然のことで、幽霊平林が一度も上山の前に現れなかったからである。久々に社内で充実した時を過ごす上山だった。課員達は、その上山を見て、昨日までとは、うって変った仕事ぶりに驚きの声を上げていた。「おい! どうしちゃったんだ、課長」「なんか、別人だな」「そうさ…、目に見えん相手と話さんしな…」などと囁(ささや)く声が課内のあちらこちらでした。上山にはその声が聞こえていたが、幽霊平林が出現している時に比べれば我慢し得る範囲だったから、気にせず仕事を続けた。
 夕方の退社時となり、上山が田丸工業の社屋を出ようとした時、部下の岬徹也(みさきてつや)と海堂亜沙美(かいどうあさみ)が近づいて話しかけてきた。
「課長、今日はこれでお帰りですか?」
「んっ? ああ、そうだが…。何か用かね?」
 上山は怪訝(けげん)な面持(おもも)ちで岬の話を受けた。隣には亜沙美が少し恥かしげに下を向いて立っている。
「実は、課長に折り入ってお願いしたいことがありまして…」
「そうか…。なんだか知らんが、ここでは無理な話か?」
 優しく上山は訊(き)いた。
「ええ…まあ。無理じゃないんですが…」
 岬は口籠(くちごも)った。

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2012年8月 2日 (木)

連載小説 幽霊パッション (第十七回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_51

    (第十七回)

 どこまでよ読んだかな? …と、上山は[霊視体験]のぺージを捲(めく)っていった。体験談が一問一答形式で語られていたこの辺りか…と、上山は捲るのをやめた。じっと目を凝らし、そうそう、この辺りだった…と、少し重複したが戻って読み始めた。

答 いいえ、他人には何も聞こえません。聞こえれば、これはもうパニックになりますよ。

問 そりゃ、そうですね…。失礼しました。では、どういった時に、その現象が現われるのでしょうか?

答 これは私に限ったことですから単に聞いて下さればいいんですが、その友人の 好きだった曲を流すと、ヒョイ! と現われます。これはもう、ほんとに唐突にです。まるでアニメですよ、ははは…。いや、失礼しました。笑い話ではないのですが、事実なんです。

問 そうですか…。どうも、ありがとうございました。


 その体験談は、ここで終わっていた。好きな音楽でヒョイ! か…、こんな人もいるのかと上山は思った。自分が死んだ平林を見ている以上、この本の内容は真実に違いない…と確信できた。しかし、自分の場合には、そういった規則性はない。幽霊平林は上山の前に、いつ、どこへは関係なく現われるのだ。この本の体験談だと、死んだ友人は好きな友人になんらかの未練を残していたと考えられる。それで体験者が、その曲をかけるとヒョイ! と現われる…ようだ。ところが上山の場合は、それがない。規則性はなく、幽霊平林の意志次第で、現れたり消えたりするのだから、同じとは考えられない。

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2012年8月 1日 (水)

連載小説 幽霊パッション (第十六回)

     幽霊パッション      水本爽涼Photo_49

    (第十六回)     

『問題は、どうやって調べるかですよね』
「君は消えてるときは、どこにいるの?」
『えっ? どこって…消えてるだけですよ』
「だからさあ、消えてどこにいるのって、訊(き)いてんの!」
『それは…空間です。ただ、この三次元じゃないんですがね』
「ほう…三次元って、他の次元もあるってことだな。それは意味深な言葉だ」
『いけない! つい口がすべっちゃったな。ちょいと事情で、今は、これ以上のことは訊かないで下さい。お願いしますよ! 課長』
「んっ? 君がそう云うんなら…、そうするよ」
『ありがとうございます。また云える時期が来れば、きっちりと説明しますので…』
「はいはい、分かりました。それはいいよ。で、問題は君が云ったように、どうやって調べるかだ」
『課長に何かいいお考えはないですか?』
「今、すぐに云われてもなあ…。一日二日もらおうか。君も考えといてくれ」
『分かりました、僕も考えてみましょう。じゃあ二日後、会社で…』
「出来れば、会社が終わった頃にしてもらえると、ありがたいんだがね…」
『はい、なるべく、そうします』
 幽霊平林は、そう云うと、跡形もなくスゥーっと消え失せた。
 次の日と、その次の日の二日は現れないんだ…と、上山はしみじみと湯に浸かりながら思った。すると、なぜかリラックスした気分が全身に漲(みなぎ)り、久々の開放感を心底、味わうことができた。ただ、その二日の間に、不可思議な現象をどのようにして調べるかの方法を考えておかねばならないという問題は残っていた。浴室から出た上山はバスローブを纏(まと)い、ゆったりとソファーに座ると、徐(おもむろ)に借りた本を開いた。

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