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2013年6月

2013年6月30日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第11回

     あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                                                                  
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     第十一回                          

  早希ちゃんが作ってくれた昨夜の焼飯(チャーハン)もそうだったが、今朝のモーニングもまずまずの美味さで、スクランブル・エッグの味と柔らかさが絶妙だった。コーヒーを啜りながら考えたのは、みかんで話題となった水晶玉の男のことだった。気になり始めると止めどなく気になるのが私の性分で、先延ばしせず結論を求めたくなる。いったい、みかんに現れた男はどういう男なんだろうか。ただの占い師にしては些(いささ)か妙なところがある。というのも、商売道具の水晶玉をカウンターへ置いた時点で占うのなら話は分かるのだ。って云うか、まあ普通はそれが占いなのである。取り出した水晶玉を使わず、結果を先に告げるというのも解せないし、この次、店へ寄った時に訳を云おう、というのも気を持たせ、人を小馬鹿にした話だ。うさん臭い話はこの世に多々あり、その話に乗る、乗らないは、その人の気持ひとつだが、正直者を欺くような輩(やから)は地獄へ落ちればいい…とは常々、私が思っていたところだ。無論、ママや早希ちゃんが話した男がそうだというのではない。第一、私はその年老いた紳士風の男に、一度も会ってはいないのだ。

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2013年6月29日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第10回

     あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                       
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     第十回                          

 その日はどういう訳か、家に帰ってから急に酔いが出た。焼飯(チャーハン)を注文する前、空きっ腹にダブルを流し込んだのが災いしたか…と、思えた。飲酒しているので車は駐車場に置き、明日の始発で取りにこよう…と、駅へブラリと歩いて電車で帰ったのだが、少し歩いたことに原因があるようにも思えた。飲酒しているので、常套手段にしている方法で車は駐車場へ泊め置き、明日の始発で取りにこよう…と、ブラリ駅へと歩いて電車で帰ったのだが、少し歩いたことに原因があるようにも思えた。
 次の日の早朝、私は計算した通りに始発へ乗り、駐車場へ車を取りに行った。それから、二十四時間ノン・ストップ営業のファミレスが出来たと会社の同僚に聞いていたので、もの珍しさも手伝って、そこで軽く朝を済ませようと車を走らせた。
 そのファミレスは会社へ向かう国道沿いにあり、開店から間もないのか、ひと目で分かる大層、ど派手に飾られていた。誰もが車中から振り向くほどであった。車をパーキング・エリアに止めて店へ入ると、早朝の所為(せい)か、数人の客しか入っていなかった。それも、広い店内に散らばって座っているのだから、座った席からは見回しても姿が見えない閑散とした風景なのだ。まあ、そんなことはどうでもいいさ…と、席に置かれた呼びチャイムのボタンを押した。すぐに男の店員が現われたので、私はモーニング・サービスを注文した。某一流チェーン店ということだから、それなりの勤務体系が組まれているんだろう…と、つまらなく思った。

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2013年6月28日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第9回

     あんたはすごい!    水本爽涼                                                                               
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     第九回                          

「分かった、分かった。そう怒るなよ。今日は偉く機嫌が悪いな。…じゃあ、焼飯(チャーハン)にする」
「はいはい…。別に怒ってる訳じゃないんだから」
 不満顔で早希ちゃんは焼飯を調理し始めた。二人の遣り取りが面白いのか、ママはクスクス笑いながら最後のコップを布巾で拭き終えた。
 焼飯は中華飯店でよく食べていたが、みかんでは初めてだった。味はどうかな…と、少し不安気だったが、案に相違して割合と美味く、中華飯店のものと比べても遜色はなかった。いつもなら世辞のひとつも云うのだが、この日は憎まれ口を叩かれたのが影響したのか、無言に終始して食べ終えた。
 みかんを出たのは午後十時過ぎだった。いつもなら、お得意の接待と云うことで気楽な物云いも出来ず、閉店の十二時近くまで店に籠ってカラオケ三昧なのだが、今夜のように一人だと案外、手持無沙汰になるんだ…と気づかされる。ママと早希ちゃんに、また一人で来るから、その時に話の顛末(てんまつ)を聞かせて貰うと云って店を出た。二人は店の外まで送り出してくれた。こういう小さなサービスは嬉しいものだ。外は店に入る前の時雨空が嘘のようで、澄み渡った漆黒の空に、満天の星が広がっていた。

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2013年6月27日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第8回

     あんたはすごい!    水本爽涼
                                    
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     第八回                          

「まあ、それはいいとして、その奇妙な紳士が果して現れるかが問題なんだ」
「そういうこと…」
「お腹、空いてんなら何か作るわよ」
 ママは洗ったグラスやコップ類を早希ちゃんに渡す。早希ちゃんは器用にそれ等を拭く。ママの顎(あご)に剃り残した毛が何本か見えたが、メンツを潰すのも悪いな…と思え、敢えて云わなかった。厚化粧を突破するほどなのだから、かなり毛深いのだろう。
「そういや、何も食ってなかった…」
「早希ちゃん、何が出来る?」
「ピラフにナポリタン、それと焼飯(チャーハン)ぐらいなら出来ます」
「ご飯、あったかしら?」
「冷凍パックが、まだあります」
「そう…、ですって」
 ママは私をじっと見て、ニコリと笑った。美人なのだが顎のこともあり、微妙な不気味さが漂う。
「スナックで焼飯か。こりゃ、いい」
 私は思わず口を滑らせ、云わなくてもいいことを口走ってしまっていた。
「なによ! 焼飯はメニューにないわよ。満君だから云ったのよ」
 早希ちゃんは怒った顔で口を尖らせた。

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2013年6月26日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第7回

     あんたはすごい!    水本爽涼
                                  
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     第七回                          

「それってさ、或る意味、怪談?」
 私は場の白けムードを一掃しようと明るく云った。
「いや、どうなんだか…。一度こっきりだからさあ。根も葉もない出鱈目かも知んないし…」
 早希ちゃんは努めて明るく語ろうとする。
「そうなのよねえ。煽(あお)っといてさあ、現れないとか、そんなのだったりして…」
 ママは苦笑しながら蛇口を捻った。水が勢いよく迸(ほとばし)り、グラスを洗うガラス音と洗面台を叩く水音が混ざる雑音が静寂を突き破る。私はふたたび水割りをひと口飲み、ツマミの焼きスルメにマヨネーズを絡めて頬張った。
「その紳士、年格好は?」
 取り分けて訊きたくもなかったが、時研でやっていた観察帳の癖が抜け切れていないのか、知らず知らず訊ねていた。
「かなりの年配だったわよねえ、早希ちゃん」
「どうだろ…、六十半ば、いや、七十前後ですか?」
「ええ…、そのくらいだったと思う」
「そうなんだ…。で、何やってそうな人?」
「何って…それくらいの歳なんだからさあ、まあ、老後の、そんな感じ?」
 そんな感じって、どんな感じなんだ。そこが肝心で訊きたいんじゃないか…と私は云おうとしたが、ぐっと堪えて我慢した。
「小綺麗な背広、着てらしたから、定年迎えたサラリーマンってとこじゃない? よく分かんないけど…」
 ママは早希ちゃんをフォローして、話をきっちりと纏(まと)めた。

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2013年6月25日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第6回

     あんたはすごい!    水本爽涼
                                    
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     第六回                          

「この前さあ、不思議なお客様がいらしてね…。一見(いちげん)さんなんだけど…」
 私がグラスの酒をひと口飲んだ時、それを見ながらママが訴えるように語りだした。
「そう、あの客、少し怪(おか)しいんじゃないって、お店を閉める時、云ってたんですよね」
「ほう…、何が怪しかったんだ?」
「それがさ、丁度、満君の座ってる席に座ってたんだけどね、その紳士。手持ちの鞄から紫の布切れに包んだ水晶玉を取り出してさ、カウンターへ置くのよ」
「んっ、それで?」
 私は奇妙な話は高い確率で割合と信じる方なので、早希ちゃんの話に耳を欹(そばだ)てた。
「で、さあ。カクテルをひと口美味そうに飲んでね、布切れをゆっくりと開けると、玉を覗き込んだの」
「この店に近く、幸運が訪れます。それがどういう形で起こるのか、今は云えません。この次、お寄りした時、お話の続きをしましょう、ってね。なんか意味深でさあ、イカサマにしちゃ真実味もあるし、気味悪くなってさ」
「それ、いつの話なの? ママ」
「つい最近よ。早希ちゃん、いつだったかしら?」
「確か…、えーっとね…。木曜…じゃなかった、水曜。そう、水曜の筈です、ママ」
「今日が火曜だから、一週間前か…」
「すぐ近くが交番だからさあ。まあ、余り恐くはなかったんだけどね」
「別の意味で怖かったんですよね」
「ええ…」
 ママの陽気な顔が幾らか曇ったように見えた。

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2013年6月24日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第5回

     あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                          
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     第五回                          

「ダブルでいいわね?」
「うん…」
「ママ、ダブル…」
 早希ちゃんは注文をママに入れ、ツマミの焼きスルメにマヨネーズを添える。そしてその小皿をカウンターへ置いた。
「仕事じゃないんでしょ? こっちへ来なさいよ」
 椅子に座りながら、早希ちゃんは私をカウンター席へ誘った。会社での接待は必ずと云っていいほど、この店を使わせて貰っていたのだが、いつも座るテーブルは決まっていた。私が他のテーブルへ座っている姿を誰も見た者がないほどの徹底ぶりで、或る種、拘(ごだわ)りの域を超えているようでもあった。店の二人が、そのような私の徹底ぶりを、どの程度、変に思っているかき訊いていないので分からないが、私としては別にどこへ座ってもいいのである。しかし、その席がどうも落ち着くのだ。それで自然と無意識に腰を下ろしているという、ただそれだけの話だった。
 私はカウンター席へ移り、椅子へ腰を下ろした。丁度、ママが水割りを作り終えたところで、私が座ると同時にタイミングよくグラスがテーブルへ置かれた。

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2013年6月23日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第4回

     あんたはすごい!    水本爽涼                                             
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     第四回                          

 人通りは天候の加減か、いつも程はなく、私は、とある行きつけのスナックのドアを開けた。その店は、いつだったか、時研の村越さんや悟君と闊歩した通りを少し奥へ入った細い路地の雑居ビルにあった。
「あらっ、満君じゃない。今日はお一人?」
 ママの明日香さんは四十半ばの小股の切れ上がったなかなかの美形で、こんなことを云っちゃなんだが、年増男のわりには色気があった。
「ん? まあ、見ての通りですよ…」
 すると、もう一人、『スナック・みかん』の看板娘の早希ちゃんが店奥から顔を出した。彼女は、れっきとした女である。。…だろう。…ほぼ、間違いないように思う。私はこの早希ちゃんに幾らかホの字で、行きつけの店にしている節が正直なところなくもない。二人とも源氏名だから本当の名までは知らず、まあその程度の付き合いに終始していた。実は、もう少し早希ちゃんに近づきたかったのだが、どうもシャイな性格が邪魔をして、全く関係は発展する兆しを見せなかった。
「まあ、悟君。今日は一人なのね…」
「そうさ、一人で来ちゃ悪いかい?」
「あらっ、少し怒ってる? 可愛い!」
 ニコッと笑った早希ちゃんの顔で怒りを忘れてメロメロになってしまうのだから、私もまあ、その程度の男だ。

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2013年6月22日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第3回

     あんたはすごい!    水本爽涼

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     第三回                          

 秋の夜は何故か物悲しく、アンニュイな気分になる。いつの間にか私はカーラジオの音楽を流していた。目と鼻の先に街のネオンが輝きだした頃、急にフロントガラスが雨滴で濡れ始めた。小一時間も前は、夕日が辺りを染めていたのだ。それが嘘のように時雨だしている。女心と秋の空か…、いや、それは男にも云えることだが…などと妙な想いを巡らせながらワイパーを回した。それも束の間、もうコイン駐車場のPという標識が見えてきた。この駐車場には何度か車を入れたことがあるから要領は知っていた。他の駐車場と異なり、どういう訳かここだけが六時間二百円という法外な格安料金だった。そんなこともあってか、いつも満車近くの混み具合で、入れられるかどうか…と冷や汗ものだったのだが、この日は幸いにも空きスペースが何ヶ所かあり、ラッキーという他はなかった。私は車を止めると、折り畳みの雨傘を取り出し街を漫(そぞ)ろ歩いた。こんなこともあろうかと常時、車の中には雨傘を忍ばせておいたのだが、今回は大当りの部類といえた。街には初秋の風が漂い、雨滴もそう強くはならなかったから、歩行に難儀するということは幸いなかった。

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2013年6月21日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第2回

     あんたはすごい!    水本爽涼
                                         
                                    


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    第2回                          

 そういや、窓から差し込む夕日はすでになく、静寂(しじま)に混ざる薄闇が辺りを支配しているではないか。要は、とっぷりと暮れた陰鬱な課内に一人いて、しかも陰気に何をするでもなくポカンとしていた訳だ。時研で村越さんや悟君と活動していた頃は、確かに多忙で居眠りなどをして上司に注意されたりはしたが、仕事はアグレッシブに熟(こな)していた。それが今は、何か身体に穴が開いたような空虚感に苛(さいな)まれている。
「…あっ! 禿山(はげやま)さんでしたか。もう帰りますから…。どうも、すみません」
「いいえ、私も仕事ですから見回っとるだけで、別に急がれなくても…」
「いやあ、どうも。ははは…最近、どういう訳か、よく考えごとをしてしまいまして…」
「いろいろお有りで、お疲れなんでしょう。それじゃ…」
 禿山さんは、それ以上のことは語らず、制帽に軽く手をかけるとお辞儀してドアを閉じた。彼の気配が消え、私も机(デスク)の施錠をすると席を立った。黒茶の手提げ鞄が、この日に限って妙に重く煩わしかった。
 車を運転しての帰宅途中、急に繁華街へ出たくなった私は、ハンドルを街へと切った。

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2013年6月20日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第1回

     あんたはすごい!    水本爽涼

                                      
                                         
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    第1回                          

 いつの間にか沙汰止みとなった時研(時間研究所)の会合だったが、所員証だけは、いつ村越さんからお呼びがかかるかも知れないから、机の引き出しの中へ入れて保管しておいた。村越さんや悟君とも、あれ以来、会ってはいない。私は会社勤めで齷齪(あくせく)しているが、その後、奇妙な出来事は起こらず、安堵(あんど)している一方で、ある意味、気抜けしたような空虚な日々を過ごしていた。事態が一変したのは、そうした日々の続くある一場面からである。
 この日も私は仕事を終え、ようやく解放されたようなゆったりとした気分でデスクの椅子に腰を下ろしていた。同じ課の多くは一人、また一人と自分の仕事に切りをつけると去り、気づけば課内に人っ子一人いず、私一人がぽつねんと居る、といった有様だった。
「なんだ! 塩山さん。まだおられたんですか…」
 課内に突然、入ってきて、声をかけたのはガードマンの禿山さんである。なんだとは、なんだ! と、多少、イラッとしたが、よく考えればそんな時間なんだ…と、腕時計を徐(おもむろ)に眺めて怒りを鎮めた。

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2013年6月19日 (水)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百五[最終]回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼5



    (第百五)最終回

『ははぁ~~』
 霊界司に命じられた霊界番人の光輪が一瞬、ピカッ! と閃光(せんこう)を放った。その瞬間、人間界の上山に異変が突如、起きた。俄かに意識が遠退き、上山は気絶したのである。
「課長!! 課長! …。亜沙美! 電話だ!」
「はい!」
 岬は必死に上山を抱き起し揺さぶったが、上山の意識は戻らなかった。
 赤い回転灯を輝かせた救急医療車が、けたたましいサイレンを鳴らして到着したのは、その七分後だった。上山は病院へ搬送され、気づいたときベッドに横たわっていた。
「ここは?」
 正気に戻った上山は、岬に訊(たず)ねた。
「えっ? …って、もちろん、ご覧のとおり病院ですよ」
「…私は、なぜ、ここにいるんだ?」
「嫌ですね、課長。さっき、急に気絶されたんですよ、私のマンションで…」
「君の? ほう…、君のマンションへ行ったんだ」
「んっ? …って、その記憶もないんですか?」
「ああ…。君のマンションへ行くような用向きでも、あったのかなあ?」
「なに云ってらっしゃるんですか、嫌だなあ、課長。亜沙美が妊娠したっていうんで、会いにいらしたんじゃないですか」
「んっ? 亜沙美って?」
「また、ご冗談を…。私の妻ですよ」
「妻って、…君、結婚したの?」
「ははは…、参ったなあ~。仲人(なこうど)ですよ、課長は!」
「? そうだったか…。全然、記憶がないんだ。なんだか随分、前に戻ったような、そんな妙な気分だよ…」
 事実、上山の記憶は幽霊平林が事故で死んだ日以降が完璧に消えていた。というより、当然それは霊界番人によって消されたのである。平林の事故以降の記憶だから、まったくの記憶喪失というのではなかった。
 一方、こちらは霊界である。

『かような寸劇仕立てに致しましたが…』
『その程度でよかろう…。あとは、昇華の者の記憶じゃが…』
『はい。そちらも先ほど、消してございます』
『わはははは…、左様か』
 霊界番人の報告に、霊界司は厳かな笑声で答えた。会話が途絶えると、大小、二つの光輪は、霊空の闇の彼方(かなた)へ瞬く間に消え失せた。
                                         完

 

 あとがき

 もののけ、妖怪、幽霊、ゴースト…などは人が想像を駆使してこの世に創造したものである。人は、それらをもって奇なるもの、とした。これらが現実のこの世に存在するとすれば、それは怖く、恐れ慄(おのの)く対象となるだろう。この物語は、飽く迄も娯楽を目的として私が書き進めたものであり、このようなSF的事象が有り得るとは全く思えない。しかし、あって欲しい…と願う微かな望みも皆無ではないから、これが創作作業に携わる者の冥利とも言えるだろうか。前作「あんたはすごい!」を、さらにスピン・オフさせた部分も含め、面白おかしく、しかも気楽に完結へと導いた。そのプロット中には、社会風刺と、こうあって欲しいと願う人間社会の姿も一抹の望みとして描いたつもりである。無論、評論家諸氏のような苦言を呈するつもりは毛頭ない点だけはお含み願いたい。読者の皆さんには、ただお楽しみ戴くだけでよい程度の作である。
                                 水本爽涼

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2013年6月18日 (火)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百四回)

4  幽霊パッション 第三章   水本爽涼



    (第百四回

 勧(すす)められるまま、上山は応接セットのソファーに腰を下ろした。続いて、岬と亜沙美もその対面へと座った。
「あらっ! また動いた! 不思議だわ…」
「何がそんなに不思議なんだね、亜沙美君」
「なんか、お腹で太鼓が鳴ってる感じなんです」
「おいおい! 大丈夫か? 病院へ行った方がいいぞ」
 驚いた岬が心配顔で妻の亜沙美を見つめた。
「大丈夫よ! 動き方がリズムっぽかっただけ…」
「そうか? 予定より少し早いって云うし、俺は少し心配だな…」
「岬君、奥さんが、そう云ってるんだから大丈夫だよ」
 上山が岬を宥(なだ)めにかかった。
『ちょっと、課長! 気づいて下さいよ…って、無理か』
 亜沙美の胎内にいる平林は、ふとそう思った。上山はこのとき、ひょっとすると…と改めて思った。
「おい! 平林か?!」
「課長、何を云ってられるんです。平林って、事故死した先輩の平林さんですか?」
「んっ? いや、なんでもない…」
 上山は失言に、慌てて口を噤(つぐ)んだ。
「あらっ! また、トントン! って動いたわ」
 それを聞き、上山は亜沙美の胎内に紛れもなく昇華した平林がいることを確信した。
 その様子は、霊界司のいる霊界鏡に映し出されていた。
『ふむ…、この辺りが限界かのう…霊界番人よ』
『ははぁ~、左様に思われまする~』
『じゃのう…。さすれば、ただちにこの者の記憶を消滅させよ! ひと工夫してのう…。その方法は、そちに委(ゆだ)ねる。このままにはしておけぬ故(ゆえ)に…』

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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百三回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼3



    (第百三回

 ここは霊界である。霊界司と霊界番人の遣り取りが続いていた。霊界会議が緊急に開かれたのだ。
『仰せのままに致しましたが…』
『左様か…。ならば、よかろう。このまま昇華させた者と人間界の者を別れさせるのは、いささかのう…』
『はい、私めも、そのように…。あの者達は、今までにはない異端の者達でしたから…』
『そうよ…。お前も幾度(いくたび)となく呼ばれたらしいからのう。まあそれは、儂(わし)が命じて授けた如意の筆のせいでもあるのだが…。おお! そうよ、その如意の筆は如何(いかが)致した?』
『昇華とともに、ここへ戻っております』
 霊界番人の光輪の中央が、ピカリ! と一瞬、黄金色に輝いた。
『それならば、よかろう』
 こうした会話が霊界で続いていた頃、上山は岬の住むマンションのチャイムを押していた。
「あっ! 課長、どうぞ入って下さい」
「お久しぶりです、上山課長」
 岬夫妻に入口で迎えられ、上山はマンザラでもない。
「やあ! お邪魔します…」
 上山のその声は、亜沙美の胎内にいる平林にも聞こえていた。
『課長! 僕ですよ!』
 無論、胎内の平林に声は出せない。気持で、そう語っているのだが、上山に聞こえるべくもない。平林は胎児として少し動こうか…と思った。
「あらっ! 初めて動いたわ、あなた。お医者様が云ってらしたのより少し早いんだけど…?」
「んっ? そうか…。らしいです、課長」
「おお、亜沙美君、よかったな。よかった、よかった!」
 テンションを高め靴を脱ぐと、上山は岬夫婦に促されるまま、リビングへ入った。

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2013年6月17日 (月)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百二回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_36



    (第百二回

「いえ、俄かに、そうなったんで、トラウマじゃ…」
「んっ? …、亜沙美君の具合はどうだい?」
「ああ、妻は至って元気なんですが…」
 この時、ふと上山の脳裡に幽霊平林の陰気に笑う顔が浮かんだ。上山は、ハッ! として、もしや…と思った。平林の昇華…が、ふと、浮かんだのだ。エレベーターが昇るにつれ次第に、ひょっとすると…と、上山の頭は巡った。その、ひょっととは、霊魂平林→亜沙美の構図である。やがて、エレベーターがチーンと鳴り、八階で止まった。ドアが左右に開き、上山と岬は無言で降りた。上山にすれば最初は心に浮かんだ素朴な疑問だったものが、次第に現実の可能性を濃くしていた。その思いは、業務第二課へ入ると益々、顕著になった。課内は、まだ誰も出社しておらず、上山と岬だけである。
「あのさ、亜沙美君に一度、会いたいんだけど、君んちの都合は、どうなんだよ」
「いやあ~、課長でしたら、いつでも歓待しますよ。なにせ、二人の仲人(なこうど)なんですから…」
「そおかぁ? …なら、近日中に伺(うかが)わせてもらうよ」
「どうぞどうぞ、いつでも…。いや、二、三日前に云っといてもらった方がいいですね。妻に手料理、作らせますから。結構、これが美味いんですよ…」
「ははは…、こりゃ、W(ダブリュ)のご馳走さまだ」
 二人は顔を見合わせて大笑いした。そこへ、ドカドカと他の課員達が出社してきた。上山は腕を見ながら、もうこんな時間か…と思った。
「じゃあ、そういうことで…」
「ああ、お邪魔するときは云うからな」
 上山の言葉を背に受けて、岬は自席へと遠ざかっていった。
 上山が岬のマンションを訪ねたのは、その週の日曜だった。メンタル面で、一刻も早く会いたい…という衝動が抑えられず、上山を急(せ)かせたのだった。それが何故なのかは上山にも分からない。岬が妻の話を、なぜか話したくなったのと似通っていた。
 

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2013年6月16日 (日)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百一回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_35



    (第百一回

 その時、置時計の横にあった携帯が鳴った。
「…はい。なにか用かい? こんな早く…」
 不平っぽく上山は電話に出た。着信は、同じ会社の岬からだった。
「あっ! 課長。朝早くから、すみません。なんか、どうしても云っておきたくなりまして、迷惑を承知で電話をしました」
「そうか…、まあいい。で、云っておきたいことって、いったい何だね?」
「はい。実は、妻の亜沙美が妊娠しまして…」
「ほお! 亜沙美君が。そりゃ、お目出度い話じゃないか。仲人(なこうど)の私としちゃ嬉(うれ)しい限りだが…、それにしてもこの話、そんなに急ぐことかい? 会社でもいいんじゃないか?」
「はあ、よく考えてみりゃ、そうなんですが。どうしてもお電話したくなりまして…。そこんとこが、不思議なんですが…」
「確かにそうだな…。まあ詳しいことは社で聞こう。じゃあ、切るぞ…」
 上山は、まだ眠気があったためか、少し無愛想に携帯を切った。
 その日、出勤した上山を岬は通用門で待ち構えていた。
「おお! おはよう。…なんか、逼迫(ひっぱく)した感じだな、こんな所で…。電話じゃ、亜沙美君の、おめでただったよな?」
「ええ、そうなんですが…、どういう訳か一刻も早く直接、課長に話さないといけない、って気持が消えなかったんですよ」
「なんだ、それは…。トラウマか?」
 上山は通用門からエントランスの入口ドアへ歩を進めながら、そう云った。当然、並んで岬も上山に付き従うように歩んだ。エントランスには早出らしき受付嬢の社員が二名いる他は、まだ誰も出勤していないようで、ひっそりと静まり返っていた。上山も岬も受付嬢に軽く会釈しただけで沈黙してエレベーター位置まで進んでいった。二人が、ふたたび話し始めたのは、エレベーターに乗り、ドアが閉じた瞬間である。

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2013年6月15日 (土)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第百回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_34



    (第百回

「ははは…、君に首はないがな」
『あっ! そうでした』
 二人(一人と一霊)は陰陽のコントラストを描いてニヤけた。その後、二人はお互いに、うち解けて雑談に花を咲かせたあと、ごく自然に別れた。それは次の日にも、すぐ合えるかのような別れだった。明日、いや今日のすぐ後にも、永の別れになるかも知れない…という潜在意識が、返って別れの意識を遠避(とおざ)けようとした、とも云えた。
 二人が別れ、その日は事もなげに過ぎ、そして三日ばかりが流れたとき、霊魂平林についに第二の昇華の兆しが起こった。そしてとうとう、上山に別れを告げることなく霊魂平林は生来した。平林の場合、霊界での死去は人間界へ生まれ変わることを指す。ただ、生まれたというよりは、生を宿した・・と表現した方がいいだろう。宿主は上山の元部下で岬の妻の亜沙美である。亜沙美には、すでに一人の子がいるが、平林はその二番目として生を宿したのだった。もちろん、そのことを上山は知る由(よし)もない。コンタクトを取るには呼び出すしかない…と、上山は思うのだが、呼び出すほどの真新しいニュースは報じられない日々が続いていた。この時点で、上山は平林を呼び出したとしても、今までのように平林が現れない、いや、現れることが出来ない状態で、すでに昇華を終えているなどとは露(つゆ)ほども思っていなかった。
 一方の平林は亜沙美の胎内にいた。平林にしてみれば突然、意識が遠退き、気づけばどうも昇華したみたいだ…とは思えていた。ただ、もう霊体ではない不便さはあった。時折り、この宿主(しゅくしゅ)である亜沙美の声や岬の声が聞こえ、どうも聞き覚えのある声だぞ…と思った。この宿主が同じ課員で元部下の亜沙美で、その旦那が岬だと平林が知るのは、もう少し先のことである。そしてそれは、ひょんなことからだった。
 快晴の一日を思わせる庭の霜柱が上山の寝室から見下ろせた。上山がベッドの置時計を徐(おもむろ)に見ると、六時過ぎを示していた。

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2013年6月14日 (金)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十九回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_33



    (第九十九回

『問題は、いつになるかですよね』
「そんなに気にすることもなかろう。なるようになるさ、ははは…。別に開き直る訳じゃないが」
『課長が云われるとおりかも知れませんね。僕も、もう考えないことにしますよ』
「それがいい、それがいい。ただ、君の姿を、もう一度、見たかったよ」
『いやあ…、僕も見えるシチュエーションで、もう一度、お話ししたかったです。まあ、こうなった今は、仕方がありませんが…』
「ああ…」
 二人(一人と一霊)は俄(にわ)かに沈黙した。
『地球語もよかったんですが、エイズや癌(キャンサー)その他の諸病に有効とされる物質が発明されたのは朗報でした』
「ああ、それもあるな。いや、他にも反放射性物質の発見もあるな。これは、十万年規模でしか消せない放射性廃棄物を数分で完璧に中和除染できる物質なんだからな。人類の革命的成果と云っていい」
『ええ、無論です。それより、医学の発明の方も偉大ですよ。なにせ、人類の生存だけじゃなく、地球上の生物全般に有効なんですから…』
「そうだな。放射能とか地球語とかの文明進歩で派生したものじゃなく、人類を含む地球上の全生物の存在に最も大切な発明だった…」
 上山は霊魂平林に云われて気づき、しみじみと話した。
『でも課長、これだけ偉大で究極の発明やら発見が続くと、なんか変な感じですね。僕の他にも、そう思ってる人がいるんじゃ…って思えます』
「それは云える。ノーベル賞ありきの柔(やわ)な発明とか発見じゃないからな。私だって如意の筆の荘厳な霊力を知らなけりゃ、恐らく首を捻(ひね)って、地球はどうかなっちまったんじゃないか…って思うぞ」
『そうですよね。僕だって恐らくそうなります』
 霊魂平林は上山に同調して頷(うなづ)いた。

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2013年6月13日 (木)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十八回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_32



    (第九十八回

『フフッ…。でも、もうその心配もなくなると思いますよ。そろそろ消えることになりそうですから』
「えっ?! って…、次の昇華をするってことだよな?」
『はい、そうです。課長のいる人間界へ生まれ変わるんですよ』
「…そうだった、そうだった。ということは、最後のお別れに現れた、ってことか?」
『はい。まあ、そうです。消えてからでは会えませんから…』
「ああ…、そりゃまあ、そうだわな。理に適(かな)ってる」
 上山は上手く丸められた格好で、頷(うなず)かされた。
『そんなことより、国連に地球語の管理流通組織が出来たようですね』
「ああ、☆⇔☆だろ? これだな…」
 上山はテーブル上の新聞を指さした。
『そうです、これこれ…。☆⇔☆…』
 霊魂平林は、ユラユラと揺れながら静かに降下し、新聞の一面見出しを凝視した。
「その記事によれば、☆⇔☆マークは分かるが組織名は地球語標記だな」
『ええ、そのようです…。僕の知らない字体です』
「それは私も同じだ。小学生と同じで、一から習わんと、さっぱり分からんわ、ははは…」
『その点はフツーの人と、ちっとも変わらないんですね』
「そうだとも。だいたい、フツーでいいんだよ、私は。すべてが、フツーで…」
 上山は、やや興奮して、幽霊平林が浮遊する見えない空間を見つめて、云った。
『まあ、そう云われず…。すぐ、覚えられますよ。小学生が習うんですから…』
「そうだといいが…。君は人ごとだからいいな」
『いや~、僕だって昇華して生まれ変わりゃ、孰(いず)れは覚えねばならなくなるんですから…』
「おお! そりゃ、まあそうだな」
 その言葉で、上山は溜飲を下げた。

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2013年6月12日 (水)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十七回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_31



    (第九十七回

 二つの光輪は反対方向へ昇りながら消えていった。結局、霊魂平林の第二段階の昇華が取り消されなかったのは、自身で動かなかったからである。もちろん、特別の事由が生じている時は、動いたとしても霊界からの叱責(しっせき)はないのだが、上山と霊魂平林が活動している点では叱責の対象となるところだったのだ。霊魂平林は上山に云われた内容を、ただ念じただけであり、成果はすべて如意の筆の荘厳な霊力によるものだったから、昇華が取り消されなかったのだ。もし、過去のように国連や諸外国へ直接、飛んだり現れていれば、結果はまったく違うものになったように思われた。
 上山が日々、移りゆく成果をメディアで知らされている頃、霊界の霊魂平林は、静止状態で安らげることなく、ユラユラと住処(すみか)で流れていた。心境は当然ながら昇華に対する心構えで乱れていたのである。もちろんそれは、不安感ではなかった。ただ、安息できないという心境で、人間界で云うところの眠れない状況と似通っていた。しかし、ただの一御霊(みたま)である霊魂平林には、どうしようもなく、ただ住処の中を流れている他なかった。
 その頃、上山のいる人間界では新たな異変がメディアを通して報じられていた。国際連合に地球語の国際的流通を管理推進する組織が新たに誕生したのである。これは、従来の国という単位を突破(ブレーク・スルー)する地球連邦国の初期の姿に他ならなかった。
「ユーロという通貨連合システムはヨーロッパにも、あるがな…」
 上山は順調な成果の進展に北叟笑(ほくそえ)みながら読み終えた新聞をテーブルへ置いた。そこへ霊魂平林が現れた。もちろん上山には、霊魂平林の姿は見えないくなっているし、呼び出した訳でもないから、気づいてはいない。霊魂平林は上山の1メートルばかり近くをグルリと一周すると流れるのをやめ、ユラユラと霊尾(れいび)を振った。
『課長! 僕ですよ』
「なんだ! いたのか…。姿が見えんから、ギクリ! としたぞ。最近は、どうも心臓に悪い…」

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2013年6月11日 (火)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十六回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_30



    (第九十六回

「おお! 君か…。見えんと、なんか不便だな」
『いいじゃないですか。電話してるかラジオを聴いてると思えば…』
「電話にラジオか。ははは…上手いこというな、君は。それよか、別状ないようで、よかったよ」
『ええ、お蔭様で…。案ずるよりナントカでした』
「産むが易(やす)し、か…。そうだな。私も変化なかったしな」
 二人(一人と一霊)は、お互い、陰陽の差こそあれ、ニンマリとした。
「ははは…。そう落ち込むなよ。また人間界へ戻れるんじゃないか、目出度いことだ」
『はあ、それは、まあ…』
「私の方は、その時点で君の幽霊以降の記憶は、完璧に消えてるんだろうがな…」
 今度は上山の方が少しテンションを下げた。
『課長! そう肩を落とさず…。生前の僕の記憶は残ってるんでしょうから…』
「ああ、そりゃそうだが…。ははは…、お互い、慰め合ってりゃ世話ねえや」
 二人(一人と一霊)は、ふたたび陰陽の差こそあれ、ニンマリと笑った。
 その頃、霊界では霊界司と霊界番人との間で、ふたたび霊界会議が開かれていた。
『…まあのう。影響力が大きいとはいえ、その者達が直接、手を下したことではないからのう。遣(つか)わした如意の筆を駆使したのであろう』
『霊界司様の仰せのとおりかと思われまする。では、そのまま昇華させるということで…』
『おお、それでよかろう。ただし、以前に申した十日ばかり後(のち)という期日は、ちと延ばさざるを得まい。もう少し世の変化を見極めてからでも遅くはあるまい』
『はは~ぁ! 具体的には如何(いか)に?』
『そうよのう…、半月ばかりもすれば、多かれ少なかれ、世の動きも安定するじゃろうからのう』
『では、左様に…』
『おお…』

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2013年6月10日 (月)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十五回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_29



    (第九十五回

『フフッ…。勝負ということじゃないですけど、まあ、成否の分かれ目ってことでしょうか』
「おお! それそれ。孰(いず)れにせよ、何らかの変化を霊界トップは選ばれるだろうな…」
『はい、僕もそう思います』
 霊魂平林は、しんみりとそう云って、霊尾(れいび)を軽く振った。
 その七日後、霊魂平林が云ったとおり、放射能に関する新しい発見がなされ、放射能発生物質(放射性物質)すべてに有効とされる反放射性物質が発見され、世界各国のメディアを騒然とさせる事態となった。この反放射性物質は、放射能の除染中にある測定地域だけがまったく無汚染だったことから偶然、発見されたもので、学者達の研究成果ではないという奇妙な発見だった。学者達は、その発見以降、反放射性物質の研究に着手するという逆のプロセスを辿るに至った。それと時期をほぼ同じくして、エイズや癌(キャンサー)、認知症、ウイルス性諸病などの後天性病因すべてに有効とされる物質も発明され、医学学会で発表された。上山は、それらのニュースを仕事を終えて帰宅した夕方、知った。もうそろそろ成果が現れるだろう…とは心積もりしていた上山だったが、予想以上の大きな展開に如意の筆の荘厳な霊力を改めて知らされ、驚きの色を隠せなかった。
━ 世界中に、かなりの成果が出ているようだな。しかし、これだけ激変して影響を与える事態になると、平林の身が心配になる。幸い、こちらには、今のところ変化はないが… ━
 上山は、テレビニュース画面に流れる字幕スーパーを読みながらそう思った。
「どうも、平林を呼び出す必要がありそうだな」
 決断したように呟(つぶや)くと、上山は左手首をグルリと回した。当然のように次の瞬間、霊魂平林が湧き出るようにパッ! と、出現した。
『やはり、僕の予想どおりでしょ!』
 待っていました、とばかりに開口一番、霊魂平林は、そう云った。

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2013年6月 9日 (日)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十四回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_28



    (第九十四回

問題は、君の昇華に影響が出る懸念(けねん)だ。出なきゃ、それでいいんだが…」
『僕は構いません。このままで昇華して生まれ変わるというのも、なんですし…。まあ、なるようになれ! の気分ですよ』
「ははは…、偉く呑気だな。そうか、人間界と違い、霊界に恐怖感はなかったんだった」
『ええ、そうです。それに昇華できなきゃ、課長と、このままお付き合い出来るんですから…』
「いや、まあ、それはそうだが…。私も君と別れるのは少し寂しいと思っていたところだ」
『じゃあ、やってみますか?』
「ああ、…どちらにしろ、私には出来んことだ。今、私が云った内容で念じてみちゃ、どうだ?」
『はい、そうします。では、さっそく!』
 そう云うと、霊魂平林は念じ始めた。ただ、幽霊のときとは違い如意の筆を手に出来ないから、その念じ方は、ただ目を閉ざして念じるというだけのものだった。そして、霊魂平林が両瞼(まぶた)を開けた途端、霊魂の中の如意の筆がピカリッ! と光った。
「終わりました」
「そう…。結果は、いつ頃?」
『いえ、僕にも分かりません。まあ、結果がどうであれ、僕としては、もう思い残すことはありませんから、いいんですが…』
「シックリした君は、そうだろうけどさ。人間界の私を含む人々にとっちゃ、死活問題なんだからさ。そういう云い方は、ないと思うんだが…」
『すみません、つい…。すぐか迄は分かりませんが、そうは、かからないように思います』
 霊魂平林は、ユラユラと霊尾(れいび)を振りながら謝った。
「いや、それはいいんだけどさあ…」
『地球語の効果…ってゆうか、成果が出始めたのは一週間後でしたから、恐らくそれくらいで…』
「と、いうことは、この先、一週間が君の身にとっても勝負ってことだな」

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2013年6月 8日 (土)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十三回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_27



    (第九十三回

『でも、なんかもう一つなんですよね。シックリ! しないっていうか…』
「なにが…?」
『云うまでもなく、正義の味方活動ですよ。地球の…』
「地球語は完成したんだし、君も昇華決定なんだから、それでいいじゃないか」
『それは、そうなんですけどね…』
「だいいち、霊魂になった君は、もう如意の筆が使えないんじゃないか? あっ! それそれ。如意の筆は、どうなったんだ? 消えたのか? それとも、返したのか?」
『まあまあ、課長…。そう捲(まく)し立てないで下さいよ。如意の筆は、まだ内蔵されてますよ、僕の身に』
「? …って、霊魂の中にかい?」
『ええ…』
 霊魂平林は、さも当然のように肯定した。
「…そうなのか。で、いったい、何が心残りなんだ?」
『心残りっていうより、蟠(わだかま)りなんですよね。早い話、トラウマになってるってことです』
「なにが?」
『放射能汚染と病気関係です』
「偉く大きな課題だな。如意の筆で念じれば、恐らく、どちらも解決するか、解決に近い形になるんだろうがな」
『と、云いますと?』
「病気は、その人間の寿命以外、いや、弱肉強食は除外したすべての生命の寿命以外は完治するとか…。放射能汚染は、ある物質を変異させた光線を照射すれば消滅するとかだ。物質は、すべて+(プラス)があれば、必ず-(マイナス)が存在するように出来ているそうだからな。放射能を吸収する物質は必ずあるはずだよ」
『なるほど。それ、いいいですね。如意の筆の荘厳な霊力なら、可能かも知れません。いや、確実に可能でしょう』

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2013年6月 7日 (金)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十二回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_26



    (第九十二回

 その日は、地球語システムの一貫として、テレビ放送が世界各地で地球語放送を開始した日でもあった。当然、放送内容は公共放送、民放各局とも祝賀モードが全開で、やたらと地球語の字幕スーパーを流していた。
「おお…やってるな」
 上山はテレビ画面を見ては視線を下げ、新聞に目を通しては、また視線を上げてテレビ画面を見るという動作を繰り返した。
「以上の点で合意した国際連合加入各国による地球語憲章は、未加入国及び未開発地域にも呼びかけ、全地球規模で人類の意志疎通を円滑化する方向で推進する運びとなりました。世界各国では、この決定に祝賀の諸行事が華やかに、とり行われております。我が国でも正午から全国各地で祭典の行事が催されます。なお、政府は今日明日の二日間、特例祝日とすることを閣議で決定し、総理による緊急記者会見が本日正午に予定されております…」
 テレビ画面は、アナウンサーのやや熱気を帯びたニュース報道を映し出していた。
「どれどれ、平林を呼んでみようか…。奴ともそろそろ、お別れになるかも知れんからな。そうなる前に、声だけでも…」
 上山は、いつもやる仕草で左手首をグルリと回した。すると、たちまち霊魂平林が現われた。
『課長! なんか賑やかに世界中が騒いでますよね』
「おう! 君か…。そうなんだよ、私達の成果は、ほぼ完成の域だな」
『そのようですね。お目出度い限りです。僕もこれで課長とお別れですね。なんか少し、寂しいですが…』
「いやあ~、私もだよ。ところで、今日はどの辺りにいるんだ? 声だけだから、不便で、しようがない…」
『僕ですか? 課長の目の前なんですが、見えないのは残念です。まあ、見えても、もう生前の姿じゃないんですが…』
「と、いうことだったよな。まあ、人魂(ひとだま)ってのは気味が悪いから、見えない方がいいんだが…」
 上山は思わず口籠って、語尾を暈(ぼか)した。

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2013年6月 6日 (木)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十一回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_25



    (第九十一回

『はあ…。岬亜沙美なる者がおりまするが…』
『その者は、どのような者じゃ?』
『昇華予定の平林なる者を見えるという上山という者の勤めおる会社の者の妻でございまするが…』
 霊界番人は霊界簿の霊界紙を見ながら、静かに云った。
『もう少し、分かり易く申せ!』
『はは~ぁ。あい済みませぬ。早い話、同じ会社の者の妻でございまする…』
『初めから、そう申せばいいではないか…』
『はあ…』
『そうよのう…。では、その者に宿らせることとする』
『分かりまして、ございまする。で、その時期は如何(いか)ように?』
『近々…、そうじゃのう。十日ばかり後(のち)で、よかろう』
『はは~ぁ』
 大小、二つの光輪は、一瞬にして消え去った。こうして、霊魂平林と上山の身の変化は、この会議で決定されたのである。そんなことが霊界トップ間で話されていようとは、当の本人達は、まったく知らないまま、霊界、人間界を、それぞれ動いていた。ただ、上山も霊魂平林も身の変化が近々、起こるに違いない…と、頭の片隅に置いていた。それが十日後になることまでは知らなかったのだが…。
 国連での、そして各々の国での地球語による新たな人類の歴史は、その十日ばかりの間に完璧に実施されるに至った。平林が幽霊だった昇華以前の頃、念じて以来、二人(一人と一霊)が活動をした訳ではない。それは加速度的な現象であり、如意の筆の荘厳な霊力によってと云う以外、他に云いようがなかった。
「そろそろ、奴も第二の昇華をするだろうな…。別れるのは辛いが…」
 上山は地球語システムが完成し、全世界で実施され始めた新聞記事に目を通しながら、そう呟(つぶや)いた。

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2013年6月 5日 (水)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_24



    (第九十回

 二人(一人と一霊)は、少し歩いたり流れたりしたあと、別れた。元々、霊魂平林に他意はなく、上山に自分の身の変化を伝えるだけの目的で現れたのだから、取り分けて心残りはなかった。
「課長! 世界情勢が、どんどん変わってますね。各国の紛争やらも終息しましたし、世界が一つになる地球語も完成しましたから、なんか、未来が明るくなってきましたよ」
 上山が課長席へ戻ると、岬が上山に近づいて、そう云った。
「…だなあ。あっ! これ、よく出来てたぞ。出水君に渡しといたから、社長決裁で採用だろう」
「有難うございます。あの安眠枕二号は自信があるんです」
 上山は表面上、ハハハ…と笑ったが、自分の携(たずさわ)った安眠枕一号が、さっぱり売れなかったことが脳裡を掠(かす)め、内心では会社の損失を少し憂いていた。しかし半面、自分と霊魂平林(当時は幽霊平林)がやった成果だと分かっているから、北叟笑(ほくそえ)む気持も台頭してきて、グッ! と我慢した。岬は話し続けたが、上山は一方的に聞く人となって、なんとかその場を凌(しの)ぎきった。
 その日から一週間ほどは何事もなく過ぎていった。とはいえ、それは上山の身の上のことであり、地球上では武器輸出禁止条約から派生した武器及び戦略核兵器全廃条約が批准されるという新たな展開もあった。これは上山にとって予想外といえば予想外なのだが、如意の筆で幽霊平林が念じた念力が、まだ有効に働いていることを示す成果と云えた。
 その頃、霊界では霊界会議が霊界番人と霊界司の間で開かれていた。
『如何(いか)ようにも、取り計らえまするが…』
『ふ~む。かなりの成果ゆえのう…。やはり、もう一段階、昇華させるか…』
『霊界司様の仰せのままに…』
『そなたは、どのように思いおる』
『はあ…。それで宜しいかと存じまするが、どの辺りに?』
『抜きんでておるゆえ、身近な者がよかろう。適した存在はおるかのう?』

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2013年6月 4日 (火)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十九回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_23



    (第八十九回

 出た通路には、すでに霊魂平林がユラユラと流れているのだが、生憎、その姿は上山には見えていない。
『課長! ここです…』
「おお! いるんだな。どこだ? その辺りか? どうも姿が見えんと不便でいかん!」
『まあまあ、そう云わずに、課長』
 霊魂平林は上山を宥(なだ)めにかかった。
「で、何か起きたか?」
 通路を歩きながら、上山は訊(たず)ねた。
『そうそう、それを云わなくちゃ…。実は、今の僕の姿なんですが…』
「姿って、…私には君が見えんのだから…」
『ええ、それはそうなんですが一応、云っておこうと思いまして…。今の姿は課長が見ていたときの姿じゃないんですよ、もう』
「んっ? どういうことだ?」
『一段階、昇華したんです。もう幽霊じゃなく、霊魂なんですよ』
「霊魂って、人魂(ひとだま)のような?」
『はい! それです。…それです、って云うのもなんなんですが…。もう、生前の僕の姿じゃないんですよ』
「そうなのか…。それを私に?」
『はい』
 霊魂平林はユラユラと上山の右後ろから右前へと流れた。
「分かった…。君も、やがて私の前から消えちまうんだなあ。まあ、君とは死んだときに別れてんだから、よく考えりゃ、他の者より深い付き合いをさせてもらったんだし、喜ばないとな…。それに、いろいろ人間離れした体験もさせてもらったんだから…」
『僕も課長とお別れするのは辛(つら)いんですが、まあ、かなりの正義の味方をやれた訳ですしね』
 霊魂平林は冷んやりと笑った。幽霊の笑いは陰気なのだが、霊魂ともなると、冷んやりなのである。

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2013年6月 3日 (月)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十八回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_22



    (第八十八回

『課長、僕です!』
 上山は席にどっしりと座った瞬間だったので多少、戸惑った。
「おお! 君か!」
 上山は思わず声を大きくしてしまった。
「えっ? どうしました、課長!」
 戻ったばかりの出水が係長席から思わず振り返って、そう訊(たず)ねた。
「んっ? いやあ~、なんでもない、なんでもない。独り言だよ、独り言…」
「そうですか…」
 怪訝(けげん)な表情を露(あらわ)にしながら、出水は前を向いて元の姿に戻った。
「今は拙(まず)いだろ! しばらくしたら抜けるから、あとになっ」
 机上に視線を落したまま、上山は思わずヒソヒソ声にトーンを下げ、霊魂平林に呟(つぶや)いた。
『あっ! そうでしたね。じゃあ、屋上で…』
「いや、すぐ抜けるから廊下でなっ」
 上山は、ほとんど聞きとれないほどの声で吐いた。左斜め前方の係長席に座る出水が、どうも目敏(ざと)いから、要注意! という意識が、余計に上山の声を小さくさせたのだ。
『分かりました…。それじゃ!』
 我が身の変化を、すぐにでも伝えたい霊魂平林だったが、そこはそれ…、上山が困るのは十分、心得ているから、素直に引き下がってスゥ~っと消えた。ただ、霊魂になっても格好よく消える術(すべ)は忘れていないようで、霊魂の霊尾をピクッ! と逆(さか)立てるとパッ! と瞬時に消えた。
「何かあったのか…」
 ボソッと呟いたあと、上山は決裁の書類に目を遣(や)った。そして何気なく席を立つと、「ちょっと、トイレ…」と出水に云い、課のドアを出た。

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2013年6月 2日 (日)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十七回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_21



    (第八十七回

「ふ~ん、ついに成果も完成の域だな…」
 独り言を吐き、いつものB定を食べながら上山は呟いた。
 上山が食堂でテレビを観ている頃、霊界の幽霊平林の身に異変が起こっていた。幽体離脱という現象で、幽霊平林は御霊(みたま)となり霊魂平林という状態に変化したのである。要は、蝶が幼虫から蛹(さなぎ)になったようなもので、動態には変わりがないものの、完全に一段階、昇華したのである。ただ、他の御霊とは、やはり異(こと)なり、まだ自分の意志で人間界へ現れることは可能だった。普通の御霊が人間界へ移動するには、霊界の許可が必要だった。いわば、無断出入国に相当するのである。平林の身の変化は突然で、幽霊平林自身も、そのときは思わず唖然とする以外には、なかった。ただ、意識が遠退く訳でもなく、辛い思いをするでもなく、その現象はスムース起き、そしてスムースに終了したのである。
『僕も一ランク昇格して、やっと霊界の者? …霊界の者というのもなんだけど、…ともかく一歩前進みたいだな』
 霊魂平林はユラユラと住処(すみか)の上を流れながら、ボソッと、そう呟(つぶや)いた。この身の変化を一刻も早く上山に伝えねば…と、霊魂平林は思った。で、深く思慮することなくそうすると、人間界は平日の昼間で、当然のように上山は家にはいなかった。霊魂平林は素早く上山の会社へと瞬間移動した。この移動できる要領は、幽霊だった頃と少しも変わっていない…と、霊魂平林は安心して思った。会社へ現れ、ユラユラと漂いながら上山を探したが、人が多く要領を得ない。そこで、ともかく上山の課内で待てば…と、霊魂平林は課長席の上で待機することにした。この今はフワリフワリと漂う幽霊体とは違い、ユラユラと流れる霊魂である。上山が席に戻るまで、そうはかからないだろう…と平林は課に掛った大時計を見ながら思った。案の定、上山は十五分ばかりも霊魂平林が流れていると戻ってきた。もちろん、上山にはすでに彼の姿は見えていないから、声をかける以外、自分の存在を認識させることは出来ない…と霊魂平林は思った。

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2013年6月 1日 (土)

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十六回)

 幽霊パッション 第三章   水本爽涼Photo_20



    (第八十六回

 見えない相手が黙れば、これはもう、ただ一人で歩いている状態と何ら変わりはない。上山は、少しの孤独感に苛(さいな)まれていた。
「もう、消えていいぞ、君!」
『えっ?! …』
 急に独り言のような上山の言葉が響き、幽霊平林は思わず、ひと言そう発した。
「いやあ、姿が見えないと、なんだかなあ~。味気ないというより侘(わび)しくなるからなあ」
『はあ、…どうも、すいません』
「君が謝るこっちゃないが…。それにしても、なんかもう少し正義の味方をやりたかったな」
『はい…。他にも人類の手に負えない病気とか、いろいろありましたからね』
「だな…。まあ、霊界トップからすりゃ、干渉し過ぎなんだろうがな」
『イエローカード、いや、下手するとレッドカードで元も子もなくなってしまいます』
「そうだな…。ここらが潮時ってことか…」
『はい…。まあ、このタイミングなんでしょうね』
「このタイミングねえ…」
 二人は、また押し黙り、上山は歩き続け、幽霊平林は流れ続けた。やがて、小さく上山の車が見えてきた。そして二人は駐車場で別れた。双方とも、なにか今一つシックリしないものがあった。結局、その原因は幽霊平林の姿が上山に見えなくなったことによるのだが、霊界トップの意向とあれば、二人(一人と一霊)とも従う他はなく、そんな憤懣(ふんまん)が鬱積していたこともある。
 二人が別れて三日ばかりが経った頃、世界では地球語が各国の教育機関において必須教科として採用されることが正式に決定され、人類史上初となる世界各国統一の地球語カリキュラムが組まれることも合わせて決定されたのである。このニュースは世界各国のメディアを通じて一斉に流れた。上山も、そのニュースを昼のニュースで知った。場所は社員食堂で、据え付けられたワイドテレビが大々的にその詳細まで時間を延長して報じていた。
「ふ~ん、ついに成果も完成の域だな…」
 独り言を吐き、いつものB定を食べながら上山は呟いた。

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