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2013年11月

2013年11月30日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第164回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百六十四回
「まあ、それが主因だ。だから米粉の代用として需要を喚起(かんき)しようというんだよ」
「代用は可能なんですか?」
「食感を近くまで変える繋(つな)ぎ粉を混ぜればOKだ。この返事、すぐにとは云わんし無理だろう。一週間後に、また電話するから、いい返事を期待しているぞ。…そうだな、一週間後の、この時間帯でどうだ?」
「はあ…。そりゃ、こんな話は私の一存ではどうにもなりませんし、取締役会の承認もいる内容ですから…。会議に諮(はか)り、十日も戴ければ…」
「よし! じゃあ、十日後のこの時間帯に電話することにしよう。なにぶん、よろしく頼むぞ」
「はあ、こちらこそ…」
 一方的に寄り切られた形で、電話はプツリと切れた。なんだか物の怪(け)に、つままれたような気分が私はした。だが、電話があったことは事実だったし、煮付(につけ)先輩も実在の人物だから、強(あなが)ち、つままれた訳でもないか…と、あとになって思えてきた。
 次の日の朝、私は秘書の淹(い)れてくれたお茶もそこそこに、専務室へと駆け込んでいた。専務室には柔和な笑みを湛(たた)えて座る鍋下(なべした)専務の姿があった。

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2013年11月29日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第163回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百六十三回

「こんな時間で申し訳なかった。今、話しても大丈夫か?」
「えっ? ええ…。そろそろ寝ようかと思っていたところですから…。で、ご用件は?」
「いや、実は俺もな、寝ようと思ってたんだ。どういう訳か急にお前に電話したくなってな。…そうそう、用件だったな。今度、政府主導で、正確には農水省中心なんだが、地方の企業とか農業交流センター、コンビニチェーンと国がタイアップして、農業の振興策を実施することが本決まりになったんだ」
「はあ…。それが私と、どういう関係を?」
「まあ、落ちついて聞いてくれ。…そこでだ、お前の会社は米粉の卸しだったよな?」
「ええ、そうですが…」
「実は、政府も減反政策で疲弊(ひへい)した田畑、耕作放棄地の再活性化を目論(もくろ)んでいるんだよ」
「偉く、どでかい話ですねえ」
「どでかい話だが、これは現実に進んでる話なんだよ、塩山」
「それで、この私にどうしろと?」
「どうしろ、などという筋の話じゃないんだが、このプロジェクトにお前さんの会社も一枚、乗ってくれないか、ってことだ」
「なるほど…。それで、具体的には?」
「政府がタイアップした別のグループ企業が幾つかあるんだが、それらの企業が地元農家とタイアップして米を作る」
「米は食われないから減反になったんでしょ?」

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2013年11月28日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第162回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百六十ニ回

そういう時にかぎって事が運ばないのが世の常である。その日はベッドへ入ってもお告げは二度となく、私は待ちくたびれながら深い眠りへと引き込まれていった。
 次の日、大異変の第二弾に私は襲われた。襲われたというのは、鳥殻(とりがら)部長死去による部長就任という第一弾の大異変から、まだそう長く経っていなかったからで、ようやく落ちつけそうだったのだ。落ちつけそうで落ちつけないのだから、これはもう、襲われたと云う他はないだろう。この第二弾というのは、煮付魚也(につけうおや)代議士からの電話であった。煮付先輩とは学生時代から先輩後輩の間柄で、何かと昵懇(じっこん)にして戴いていたのだが、今や先輩は国会議員の急先鋒として飛ぶ鳥を落とす勢いで、政府の要職について活躍していた。
「久しいな、塩山。私だよ、分かるか? …そう云っても分からんだろうが…」
「? …先輩? 煮付先輩ですか! ワア~、お久しぶりです。ご無沙汰しております…。お元気そうで、なによりです!」
「君も元気そうじゃないか。…そういや随分、会ってないよなあ~」
「ええ…、そうですね、そうなります。いやあ、その節(せつ)は…どの節だったか? いや、とにかく、お世話になりましたあ~!」
「そんなことはいいんだよ、塩山」

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2013年11月27日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第161回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百六十一回

『嘘をおっしゃい。あなたは内心で、会社の中では聞かれるから困る、と云ってましたよ』
 お告げの声は穏やかに私の内心へ語りかけていた。
「参ったなぁ~、すべてお見通しとは…」
『私に見えないものなど何もありません。人の内面や外面、その他、万物の事象、あなた方が科学と云っておられるありとあらゆるものを含むのです…』
「なら、私の未来は?」
 そこまで云ったとき、ふと、長風呂になっている自分に気づいた。もう、かれこれ一時間近くは浸かっている計算になる。むろん、バスルームの防水時計を見た上の判断だった。
『そうです。もう随分と浸かっておられますから、話は上がられたあとで…』
 そこでお告げは途絶えた。以前にも云ったと思うが、お告げの声は他の者には聞こえない。私の脳に直接、響く声だったが、私の声をやや太くしたような、それでいて低くもなく響くのだった。私はお告げに促されるように浴槽から勢いよく上がった。いつもなら上がったあとの残り湯で洗濯をしてしまうのだが、この日はお告げのこともあり、気も漫(そぞ)ろに浴室から出た。お告げによれば、この段階以降は、いつお告げが霊流してきたとしても不思議ではないのだ。缶ビールを片手に、私はいつになく家の中を、うろついていた。

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2013年11月26日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第160回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百六十回

私は、こんな話は早く切り上げた方がいいだろう…と思った。社内で誰に聞かれているか分かりゃしない、と思えたからである。事実、児島君だって外のドアから私が霊と交信している声を聞いていたのだ。児島君はしばらく話したあと、第二課へ戻っていったが、絶ち切れてしまったお告げはその後、とうとうなかった。
 その夜、私は浴槽に浸かりながら、今日のお告げのことを考えていた。今日はA・N・Lへ寄ったぐらいですぐ帰宅したから、玄関を潜(くぐ)ったのは七時を回った辺りだ。これは私にしては早い部類だった。課長当時は接待に明け暮れていたから、例のワンパターン[みかん→眠気(ねむけ)駅⇒新眠気(しんねむけ)駅→自宅→新眠気駅⇒眠気駅→駐車場→A・N・L→会社]となるのが毎度のことで、七時などの帰宅は、ほとんどなかったのである。いい気分で湯に浸かってると、つい眠くなった。やはり、部長になった気疲れが溜(た)まっていたのか…と思えた。ウトウトして危うく浴槽へ沈みかけ、目覚めた。その時、会社で途絶えたお告げがまた聞こえた。
『昼間は途中になってしまいました。あのあと、もう一度と思いましたが、あなたがお困りになられるだろうと断念したのですよ』
「なんだ…そうだったんですか。私はいっこうに構わなかったんですが…」

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2013年11月25日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第159回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十九回

「そう云われれば、そうだけどね。この話は当分、二人の秘密にしておこう。他の者が聞けば、何を云われるか分からないよ」
「ええ、それはまあ、そうです。別に悪いことをしている訳じゃないんですけどねえ」
「そりゃ、そうだけどさあ。世界の常識ではあり得ない話を私達はしてるんだからさあ」
「…確かに」
「私自身も、この先どうなっていくのか皆目、見当もつかないんだよ。すべては、玉のお告げ次第という訳さ」「その、お告げを部長は聞かれたんですね?」
「ああ…、三度ばかりね」
 私はそう云いながら背広上衣のポケットから小玉を取り出した。児島君が手にする小玉となんの違いもないように思われた。だが、玉から送られる霊力の強さはあきらかに違っていた。その証拠は、次のひと言で決定的となった。
「どう見ても、同じ小玉なんだけどなあ…。君の小玉は光ったことがあるのかい?」
「えっ? この玉、光るんですか? 光るって、どうなるんでしょう、よく分からないなあ。電球のように輝く、とかですか?」
「いや、ならなければ、それでいいんだ。訊(き)いてみただけだから…」
 児島君の小玉は異様な光で渦巻いたりはしない…と分かった。

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2013年11月24日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第158回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十八回

「別に、どうでもよかったんですけどね。いつやら、みかんへ連れてってもらったことがあったでしょ。その時の話を思い出し、課長、いや、部長にお話しした方がいいだろう…と思ったんですよ。それも、急にそうせずにはいられない気分になりまして…」
 恐らくは、玉が児島君に霊力を送ったに違いない…と、私は思った。
「それで、ここへ話しに来てくれたって訳か…」
「はい。まあ、そうなります」
「いや、態々(わざわざ)、有難う。実はこちらも、いろいろ起きてるんだ、お告げとかね。君が信じるかどうかは分からんが…」
「信じますよ、もちろん…」
 児島君は私に合わせたが、部長に昇進した私に媚(こ)びるとい風ではなく、本当にそう思っているようだった。
「君も課長になって忙(いそが)しい時だろうに、すまないな。つまらんことで迷惑をかけたようだ…」
「いいえ~、部長がそう気にされることはないと思います。私だって、これを持ってるんですから…。云わば、仲間のようなもんじゃないですか」
 児島君は背広の内ポケットから小玉を取り出してそう云った。その小玉は、二人でみかんへ行った折り、ママが沼澤氏の置いていった小箱から一ヶ、児島君へ渡したものだった。

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2013年11月23日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第157回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十七回

「失礼します。第二課の児島です。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ…児島君か。どうぞ!」
 ドアが開いて、新しく第二課長を拝命した児島君が明るく入ってきた。
「誰かと話してらっしゃいましたが、お電話でしたか?」
「んっ? …ああ、知り合いからだよ…。で、なにかあったのかい?」
「いえ、それがですね…。信じてもらえないと思うんですが、昨夜、変な夢を見たもので、ご報告だけでも…と思いまして…」
 児島君は、係長当時とちっとも変らない口調で軽く云った。
「ほう…なんだろう」
「夢では部長があちこちと世界各地を回っておられるんですよ」
「それが変な夢かい? 国外旅行なんて今どき決して珍しいこっちゃない。そりゃ私だって海外旅行ぐらいするだろうさ」
「いや、それがただの旅行じゃなかったんです。テレビでよく映る国の大統領、首相といった人達と一緒ですよ、マジで」
「まあ、夢だからなあ…。そういう架空のことも起こる訳さ。現実離れしたなあ…」
 話している私はお告げ以後、不思議なことが信じられるようになっていたから、児島君の云ったことがあるかも知れない…と思いながら話していた。児島君は沈黙して静かに聞いていた。

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2013年11月22日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第156回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十六回

『ようやく格好がついたようですね。お疲れ様でした…』
 私はやっとひと息つけたところで、部長席で何も考えず休んでいたところだった。
「はあ…」
『ちょっと、様子を見がてらお話しさせて戴いておるようなことです』
「あのう…、また異変とかが起きる、いや、起こされるおつもりなんでしょうか?」
『いえいえ、そうすぐには…。幾らなんでも、それでは塩山さんに悪いですからね。なんか、疲れさせているだけみたいですし…』
「いやあ、ははは…。そのとおりなんですが…」
『それでも悪いことばかりではないはずです。事実、リストラ代表の湯桶(ゆおけ)次長さんも、当面は留任なんでしょう?』
「なんでもよく御存知だ。そのとおりですがね。しかし、鳥殻(とりがら)部長が亡くなられて、私が部長に昇り、湯桶次長がそのまま留任というのは、私(わたし)的には仕事がやり辛いんですが…」
『そりゃ、そうでしょう。跳び越して昇進ですからね…。でも、その苦労もそう長くないですから安心して下さい』
「えっ! どういうことでしょう?」
『この前、云ったようなことです。塩山さん、あなたはこの会社だけの人ではないのです。日本の、いや、世界になくてはならない人だと申し上げたはずです。まあこの先、少しずつ分かって戴けるとは思いますが…』
 その時、ドアをノックする音がした。

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2013年11月21日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第155回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十五回

しばらくお告げがなかったこともあり、私は余り玉のことを気にせず仕事を熟(こな)せた。そのお蔭(かげ)で、葉桜になるまでには、どうにか最低ラインの概要を掴(つか)むことができた。私が担当する営業部は、課だけでも四課を抱(かか)えるのだ。第二課は別として、一、三、四課はまったくの未体験ゾーンだった。だから猛勉強、となった訳だが、ようやく部の全容を掌握(しょうあく)し、ふと、玉のことを思い出した時は、なぜか今の立場が無性に恨めしく思えた。二段階も昇進できたのは、非常に珍しく稀有なことで有難かったのだが、その結果、多忙になったこと自体は、必ずしも昇進がラッキーだったとは云い難かった。二課長時代に起きた、接待キャンセルはまだしも、多毛(たげ)本舗の新製品、団子っ娘に端を発した俄(にわ)か景気による多忙さにしたってそうだった。いつか禿山(はげやま)さんが云った、『…疲れる割には幸運ってのが、小ぶりに思えるんですがなあ…』という声が頭に甦(よみがえ)ったのもこの時だった。そうこうして、ようやく最後の資料に目を通し終え、私はやっと部長席へ座った。椅子はさすがに変えてもらったが、数ヶ月前まで故鳥殻(とりがら)部長が座っていた場所であることは厳然とした事実だった。それを思うと、ゆったりした座り心地が必ずしもいいとは云えなかった。そんな時、久々にお告げがあった。

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2013年11月20日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第154回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十四回

沼澤氏は私が得心したのを見て、それ以上は語ろうとはしなかった。静かになった状況をボックス席から遠目に眺めていたママと早希ちゃんは、もういいだろう…とばかりにニ、三人の客に軽くお辞儀しながらカウンターへ戻ってきた。
「ママ、別に外(はず)さなくてもよかったんですよ」
「他のお客様がいたからね。それに、二人が真剣に話してんのを黙って見てるっていうのもね…」
「そんな…。話は後ろの棚の玉の一件ですから…」
「それは分かってんのよ。霊能者だけの方がいいかなって思って…」
 ママは少し含み笑いをしながら云った。今一、信じていない節(ふし)があった。
「私は初めから下(お)りてるからね…」
 まったく信じていない早希ちゃんが、そこへ加えて云った。どっと、四人は大笑いした。さて、こうして夜は深まり、私と沼澤氏は頃合いをみて店を出た。春の気配は感じられたが、まだ夜風は冷たかった。
 四月が巡り、世の人々は花見に浮かれていた。だが私は部長室の中にいて、それどころの話ではなかった。一に勉強、二に勉強、三、四がなくて五に勉強…と、ひとつ憶えを口にしながら、部の全貌(ぜんぼう)をなんとか自分なりに掌握(しょうあく)しようと、私は頑張っていた。学生時代に戻ったようで、どこから見ても終始、泰然自若と部長席に座り続ける偉い部長には見えないだろう…と思えた

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2013年11月19日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第153回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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   第百五十三回

 結局、沼澤氏が突然、店に出現したという怪談じみた話は、単なる笑い話で一件落着した。
「そうそう、沼澤さん。前回お会いしてからしばらく経(た)ちますが、私の身の回りで今まで以上の大きな異変が起こり始めたんですよ。それに突然、お告げも聞こえてきましたし…」
「そりゃ、そうでしょう。時期的に考えますと。決して不思議なことじゃありません。むしろ当然で、少し遅いくらいです。しかし、今起きていることなど、今後のことを考えりゃ、ほんの些細(ささい)なことなのです」
「えっ! どういうことでしょう?」
「この話は前にも云ったと思いますよ。あなたは日本の、いや全世界の救世主となるんです。だから、『あんたはすごい!』って、二度、今回で三度目ですが…、云ってる訳です」
「いやあ…益々、分かりませんが…」
「気にされずとも、そのうち自覚されると思います」
「それにしても沼澤さん、どうしてあなたにそんなことが分かるんですか?」
「ははは…。曲りなりにも霊術師を名乗り、教室まで開いておるんです。塩山さんほどではないにしろ、私にも玉から授かった多少の霊力はございます」
「その霊力で玉と交信されたと?」
「はい、そのとおりです。私が云ったことは、すべて玉に訊ねた結果、返ってきたお告げなんですよ。今現在のあなたなら、信じてもらえると思いますが…」
「ええ、もちろん信じます。信じますとも…」
 私はお告げを聞いた段階から玉の霊力の存在を確信していたから、はっきりと沼澤氏に返した。

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2013年11月18日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第152回

 あんたはすごい!    水本爽涼

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     第百五十ニ回

「ぬ、沼澤さん! いつから?」
 私は幾らか恐怖心が募(つの)り、引きぎみの声で訊(たず)ねていた。
「いやあ、随分前から…。今日は早く終わりましてね。ですから、眠気(ねむけ)会館を出るのが早かったんです。麺坊でラーメンを一杯、食べて寄ったんですが、それでも早過ぎました…」
 おっ! 沼澤さんも麺坊へ行くのか…と一瞬、思ったが、いやいやいやいやいや、そんなことは訊いてない! と少し怒れてきた。
「そして、みかん、ここへ寄りますと、準備中の札が出ている。まあ、店の前で立って待つというのも余り格好のいいもんじゃない…と思えましてね。ドアに手をかけると、開くじゃありませんか…」
 それも訊いてない! と、私はまた思った。
「その時、俄(にわ)かに腹に激痛が走ったのです。かなり急いで食べたラーメンがよくなかったみたいなんです。慌(あわ)てて店へ駆け込みました。すると、どういう訳か誰もいない。私はそのまま猛スピードでトイレへ直行しました。それから二度三度、トイレを出ようとすると下り腹で逆戻りです。そして、今です」
 沼澤氏は、いつの間にか椅子上へ置いた私のコートを勝手にどけ、右隣の席へ座っていた。それにしても、随分、長い説明だ…と、少なからずドン引きの私だった。トイレへ二度三度とは、怖い話じゃなく、汚い話だ。
「ママと奥でツマミ、作ってた時だわ」
「あら、そうだったんですか…。フゥ~、驚いたわ。私ね、怖いの、からっきしなのよ、ホホホ…」
 二人は落ちつきを取り戻したのか、和(やわ)らいだ声で云った。

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2013年11月17日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第151回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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     第百五十一回

「四月から部長らしいんだ…」
「ワオ! すごいじゃない。次長だとばかり思ってた」
「いや、そうだったんだけどね。部長が俄かに、ああいうことになったからさ…」
「部長さんがお亡くなりになった、あと釜(がま)って訳ね」
「そういうことなんだ…」
 ママが早希ちゃんからバトンを受け取り、語りだした。
「ええ、そういうことなんですよ。なんか今一、席をぶん盗ったみたいで、気分はよくないんですけどね」
「お告げのとおりだって云ってたわよね」
「はい…。だから一度、沼澤さんに会って、お伺いしたいと思ってたんですよ」
 しみじみとママに言葉を返したその時だった。
「私なら、あなたの後ろにいますよ、塩山さん」
 私は一瞬、ギクリ! とした。というより、ドキッ! と心臓が止まりそうな衝撃を受け、後ろを振り返った。
 沼澤氏が私の背の後ろに立っていた。ママも気づかなかったのか、言葉をなくし茫然と静止して立っている。早希ちゃんだってそうで、この手の話を信じない彼女だが、この時は震えていた。いや、どう考えても怪(おか)しいのだ。店のドアは開いた形跡もないのだし、背を向けて座る私や早希ちゃんは別として、ママはカウンターに立ち、正面を向いていた。当然、ドアの開閉を見逃す訳がなかった。ママの紅潮ぎみのいつもの顔が、その時はいつになく蒼白かった。

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2013年11月16日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第150回

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                     Photo_150


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

     第百五十回

果たして私に勤まるんだろうか…という単なる自信のなさと、自分に対して始まった途方もない本格的な異変の序章が、私を不安に陥(おとしい)れていた。こういうときは、みかんだ…と、私は店へ寄ることにした。酒棚の玉や沼澤氏のことも気になっていたから丁度、好都合だった。
「ママ、偉いことになりましたよ」
「そうだってね、聞いたわよ。部長さん、お亡くなりになったんだってね、ご愁傷さま」
「あっ! それ…もあるけど、今日の違うんですよ。俺に異変が起こったんですよ。お告げがあったんですが、そのとおりになって…」
 私は決壊したダムのように、止めどなく語りだした。
「ちょっと待ってよ。…ゆっくり話してくんない、その話…」
 早希ちゃんがボックス席から重い腰を上げ、カウンター椅子(チェアー)へ近づいた。
「ああ、早希ちゃんも興味があるんなら…」
「興味はないんだけど、これに関係するかも、と思って一応、聞いておこうと…」
 隣の椅子へ座った早希ちゃんは、携帯を私の前へ示した。
「なんだい? 携帯がどうかしたの?」
「私、投資を少しやってんのよ。だから、満ちゃんが偉くなれば、会社に投資を、な~んてねっ」
 早希ちゃんは悪戯(いたずら)っぽくニコリと笑った。私も少しすごくなりかけているみたいだったが、早希ちゃんは遥かに私よりすごかった。

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2013年11月15日 (金)

短編小説集(42) 人材あります![18]

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スピンオフ小説 あんたはすごい! 第149回

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                    Photo_149


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

     第百四十九回

 次の日、お告げは現実のものとなって現れた。私は鍋下(なべした)専務に呼ばれ、専務室にいた。
「昨日(きのう)は御苦労さん。で、君を今日、ここへ呼んだのは他でもない。この前、…と云っても鳥殻(とりがら)君が生前中の話なんだが、君を呼んだことがあったね?」
「はい、記憶いたしております」
「あの時、この四月から次長を頼むと内示し、取締役会でも正式に承認されたんだがね。鳥殻君の訃報(ふほう)で状況は一変した。そこで、あの話は一応、なかったことにしてもらうよ」
「えっ! そんな…」
「まあ、落ちついて聞きたまえ。話には続きがある。そこでだ、改めて鳥殻君の後任の部長をお願いしたいと考えているんだが、なにか不都合なことはあるかね?」
「ええっ!! 私を営業部長に、ですか? …ふ、不都合など、あ、ある訳がありません」
「ははは…、急な話で君も面食らったろう。まあ、そういうことだ。これから緊急の取締役会が開かれるんだが、実はこの話が議題なんだよ。ほぼ、決まりなんだがね」
「はあ…」
「そういうことだ! 四月からよろしく頼むよ」
 鍋下専務はニコッと笑い、私の肩を軽くポンと叩いた。私が営業部長とは…。お告げどおりとはいえ、新たな状況の展開に、私の心は動揺していた。

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2013年11月14日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第148回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
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    第百四十八回

お告げの声質は私の意志の声なのだから当然、私の声である。それも、頭の中で聞こえるだけだから、或る意味、心の中で漫才のAとBの両方を一人で演じているようなものだった。こんな話は、とても人様の前で語れたものではない…と私は思えた。
 小玉を再々度、ポケットへ戻し、私は車外へ出た。せっかくA・N・Lへ寄ったのだから、少し早いが夕食を…と思ったのだ。腕を見れば五時を少し回った頃だった。それにしても、お告げの内容どおりだとすると、鳥殻(とりがら)部長が亡くなったあとの会社で私に起こる吉事といえば、人事しかない。近づいた四月だが、次長昇格が前倒しになる、というのか…、いや待てよ、そのことは、すでに織り込み済みのはずだから、お告げの吉事とは、それ以上のラッキーなことなんだろうか…と、私はA・N・Lの入口のドアを潜(くぐ)りながら思った。
 A・N・Lで早めの夕食を済ませ、私は家路を急いだ。葬儀に関連した諸々(もろもろ)の雑事で少なからず疲れていたから、帰ってひとっ風呂浴びよう…と、身体が私に命じたのである。家の玄関へ入るや、私はバスルームの蛇口を捻(ひね)った。勢いよく自動給湯システムの湯が浴槽へと入っていく。少し熱めに設定した湯は、私が着替えたを終えた頃、自動遮断されるのだ。その頃合いも、すべて慣れでわかっている。礼服を箪笥(タンス)へ収納し、着替えの下着を手にバスルームへと私は向かった。

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2013年11月13日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第147回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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     第百四十七回

『途中になりました。どうです? 私の霊力は。ただし、起きた不幸といいますのは、あなたにとって決して凶事なのではありませんよ。十日ばかりもすれば塩山さん、あなたにも分かって戴けるかと…』
 私はポケットへ一端、戻した小玉をふたたび手にした。小玉は黄や緑色の異様な光を発して渦巻いていた。みかんの酒棚に置かれた玉が光った色彩と、まったく同じだった。どうやら、お告げが始まると、点滅を始めて光を発するようだった。
『そうです。私があなたに語りかけたとき、手にお持ちの玉は光を発するのです。それは当然で、私の霊力はその小玉へ届いておるのですから…。まあ、それはともかく、十日ばかり経ちますと、あなたにとっての吉事が会社で起こるでしょう…』
 小玉の点滅する速さが次第に遅くなり、輝きも弱くなった。
「あっ! 待って下さい。私から、そちらへ連絡(コンタクト)はとれないのでしょうか?」
 小玉は、ふたたび光を増して点滅を速めた。
『今はまだ無理でしょう。けれども、沼澤さんが云われたとおり、慣れていかれれば、それも可能となるでしょう』
「そうですか…。それは随分と先で?」
 小玉の点滅は止まり、光は消え失せた。そして、お告げもその後、聞くことはなかった。

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2013年11月12日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第146回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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     第百四十六回

急用だ、と児島君に叫んだ手前、このまま車を止めておく訳にもいかない。私はエンジンキーを捻(ひね)って車を発進した。会葬者は有給休暇となっているから、会社へは戻らなくてよかった。それはいいとして、お告げと小玉のその後が気がかりで、一瞬、右ポケットへ視線が走り、危うく前方の赤信号を見落としかけ、急停車した。とりあえず車を適当な場に止め、小玉の様子を見てみよう…と思った。走る道路の左前方に見慣れたA・N・Lの、ど派手な建物が迫ってきた。そうだ、この駐車場なら周りの目を気にする必要はない…と思え、私は左ウインカーを点滅させ車を店の駐車場へ入れると、右ポケットの小玉を取り出した。すると、小玉はセレモニーホールで見たような怪(あや)しげな光は出しておらず、普通の紫水晶(アメジスト)の小さな玉だった。私は、なんだ…と、がっくりした。これなら態々(わざわざ)、停車させなくてもよかったのである。私は急に力が抜け、大欠伸(あくび)をひとつ掻いた。そして、少し疲れぎみの自分に気づかされた。亡くなった鳥殻(とりがら)部長の葬儀に忙殺され、疲れなど顧(かえり)みる暇(ひま)がなかったからだった。大欠伸をしたあと、ポケットへ小玉を戻した。そして、エンジンキーをふたたび捻ったとき、この日二度目のお告げが聞こえてきた。私は瞬間、エンジンを切っていた。

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2013年11月11日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第145回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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     第百四十五回

 相変わらずポケットの小玉は震動し続けていたが、法要が終わるまではどうすることも出来ず、私はもどかしく、やきもきしていた。そうこうして、ようやく法要も終わり、私は解放された。私はセレモニーホールの駐車場に止めた車へ一目散に駆けだした。
「あっ! 課長、△×○…」
 後ろで児島君の呼び止める声が何やら聞こえたが、遠ざかる私には、よく分からない。
「急用だっ! あとは、頼んだぁ~!!」
 そう絶叫しながら児島君を無視して駐車場へ回り、車へ飛び込んだ。その時、お告げの声がした。
『そう慌(あわ)てないで下さい、塩山さん』
 私は思わず周りを見回した。だが、何も見えず、気配すらない。
『探したって無駄ですよ。私はみかんの、玉の霊です。今、あなたのポケットの小玉を通して話しています。ポケットの小玉を出して見て下さい。今、点滅しているはずです。ああ、そういや、先ほどは申し訳ありませんでした。…人が周りにいましたからねえ』
 そこまで聞こえたが、どうした訳か、お告げの声はピタッと止まった。もちろん、その声はいつか云ったと思うが感性の声で、人々に聞こえる声ではないから、誰も気づかない性質のものだった。

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2013年11月10日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第144回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                    Photo_144


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

     第百四十四回

しかも右ポケットである。右ポケットの中は…と巡れば、小玉以外に入れているものは何もなかった。だから、巡るほどもない閃(ひらめ)きの動作で私は小玉を取り出そうとした。生憎(あいにく)、前後左右の席とも会社の関係者で埋め尽くされている。私は気づかれぬよう、目立たぬようにと、さもハンカチを取り出そうとする仕草で徐(おもむろ)にポケットから小玉を取り出し、右手の手の平で握りしめた。小玉は、やはり振動していた。マジックじゃないが、左手をポケットへやり、右には入ってなかったか…という仕草でポケットの中へ左手を入れた。左ポケットにハンカチが入っていることは入れて知っているから、ゆったりと取り出して汗を拭(ふ)く仕草をした。幸いにも額(ひたい)には汗が幾らか出ていたから一石二鳥だった。そして、拭いたハンカチを下ろして右手に被(かぶ)せ、周(まわ)りの者の視線を遮(さえぎ)った。そして、ハンカチの下で右の手の平をゆっくりと開けた。すると、なんと! ハンカチの下で小玉が点滅するかのように時折り光を放ち、輝いているではないか。これは幾らなんでも周囲の者の目に触れれば厄介なことになる…と瞬時に判断し、私はふたたび右手をギュッ! と握りしめ、右ポケットへ小玉を戻した。誰もいない状況ならともかく、法要の真っ最中だから、動きようがなかった。
「※~~¥~~∞~~…」
 読経が終わり、派手な法衣を纏(まと)った若い僧侶は静かに立ち、遺族や私達関係者の順に軽くお辞儀をすると、スターのように格好よく、場を去った。

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2013年11月 9日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第143回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百四十三回

 社葬が済んだ後、遺族とごく身近な関係者だけが葬儀社のセレモニーホールへと移動して、遺骨を前に故人の初七日の法要が行われた。どうも僧侶のスケジュールが詰まっているようで、前倒ししたらしい。もちろん、私もその中の一人で列席していた。年若な僧侶が派手な法衣を身につけ、スターのように華々しく登場し、遺族と私達関係者に軽くお辞儀をすると、慣れた仕草で木魚を叩き、読経を始めた。
「△~×~〇~▽~※~¥~、ご焼香を…。□~■~☆~◎~▲~●…」
 葬儀社の係員に促され、鳥殻(とりがら)部長の奥様と思(おぼ)しき老女が一番に焼香をした。どうやら、夫妻にはご子息がおられないようだった。焼香は当然、順調に進み、私や児島君も焼香をした。さてここで、読者の皆さんに説明を加えなければならない。私の第二課には二係があると、いつやら云ったと思うが、もう一人の係長が全然、登場しないじゃないか! とお叱りを頂戴すると思うので、ここで付け加えさせて戴く。実は、もう一人の係長は欠員で、一とニ係とも児島君が切り盛りしていたのである。このことを云っていなかったから、偉く児島君だけを贔屓(ひいき)していると皆さんに誤解を与えたと思うから、遅ればせながら謝っておきたい。
 その後しばらく読経が続く中、不意に私の背広上衣のポケットが激しく震えた。とはいえ、それは外部の者からは分からない。携帯は胸ポケットへ入れておくのだから、着信すれば胸で震えるはずで、妙だな…と思った。

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2013年11月 8日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第142回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百四十ニ回

「課長! え、偉いことです!」
 児島君の机(デスク)の電話に緊急の一報が入ったのは、そんな時だった。
「どうしたんだ? 児島君。顔色が蒼いぞ」
「と、鳥殻(とりがら)部長が脳梗塞(こうそく)で、ス、スープに…、いや、お、お亡くなりに…」
 児島君の声が震えていた。
「な、なに云ってるんだ、君は! もう一度、云ってくれ」
「だから…、鳥殻部長がたった今、寝言(ねごと)総合病院で息を引き取られたと…」
「ええ~っ!!」
 私は俄かに突発した弔事に気が動転した。玉のお告げは、まさに本当だったのである。この先、営業部はどうなるんだ…という思いに私は飲み込まれていった。
 それからの出来事については、余りにも雑事が多く、語るのも大変なので、それらの概略を述べ、詳細は一部のみにしたいと思うので了解をお願いしたい。
 直属の鳥殻営業部長の訃報以後、当然のことながら一~三課の課長、係長は葬儀に関連する諸事に忙殺されることになった。人ごとのように云っているが、事実、私は天手古舞(てんてこまい)だったし、児島君の助力を得て、かろうじて乗り切った、というようなことだった。鍋下空八(なべしたからはち)専務の号令の下(もと)、オケセン・・いや、湯桶洗澄(ゆおけあらずみ)次長を葬儀委員長に据(す)え、諸事が課長、係長の分担で、社葬は盛大に執(と)り行なわれた。これが概略である。さて、一部の詳細から話をふたたび起こすことにしよう。

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2013年11月 7日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第141回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                     Photo_141


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

     第百四十一回

 結局、私と禿山(はげやま)さんが出した結論は、どうしようもないから終始、社内にいる間は臨戦態勢で気を張りつめている以外、方法はない、というもので、勧められたお茶もそこそこに、私は「それじゃ!」と云うと、警備室の出口へ向かった。いつもは外まで送り出してくれる禿山さんだが、ふたたび施錠をした後は、すぐ臨戦態勢に入って警報制御盤の前で微動だにせず、モニター画面を食い入るように眺めるのみだった。あと二時間弱の残された勤務時間を、何が何でも無事に終了しようとしているのしようとしていたのだ。そこに、警備総長の肩書きに汚点を残すまいとする、禿山さんの、律儀さを垣間(かいま)見た思いがした。私はそんな禿山さんを見て、こちらもしっかりしないと…と、気を引き締めて第二課へと向かった。
 瞬く間に時が過ぎ、ウトウトと睡魔に襲われかけた頃、課員達がガヤガヤと出勤してきた。臨戦態勢という言葉が頭にあるせいか、課員達の小声が聞こえただけで私は自然と両眼を開けることができた。もう何が起きても怖くないぞ…と思うことによって自分自身を鼓舞した。やがて仕事が始まり、小一時間が流れ去ったが、取り分けて大事(おおごと)らしいハプニングは起こらなかった。だがそれは、嵐の前の静けさでしかなかった。

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2013年11月 6日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第140回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百四十回

「いや、起こるという確証はないんです。飽(あ)くまでも、お告げなんですから…」
「はあ…。それにしても気がかりですな。私も二時間後には交替して帰りますが、来る者に起こると知っていながら事前説明がなかった、と云われれば、これが泣きますからな」
 禿山(はげやま)さんは階級を示す警備服の金筋三本を指さした。なんでも、一本が警備次長、二本で警備長、三本は警備総長らしい。禿山さんは勤続五十年の大ベテランで、警備会社ではものすごく偉(えら)い人なのだが、こうして夜勤警備もするただの警備員でもあり、なんというか…、定年制もないそういう、ほのぼのとした社員六名の警備会社に私は好感を抱いていた。
「しかし、お告げがあった、などと、交替の警備員さんには云えんでしょ?」
「はあ、警備長にですか? それはまあ…。ついにボケられた…と思われ、会社に伝わるかも知れんですからな」
「いやあ、それは私でも云えませんよ。課内も、課長はどうかした…と思うでしょうし、鳥殻(とりがら)部長にでも報告されれば、次長昇格の話もオジャンです」
「弱りましたなあ~}
「はい…。だいいち、そのお告げのとおり、大事(おおごと)が起こるとしても、そのタイミングや状況がまったく分かりませんから…」
「そうですなあ…。手の打ちようがありません」
 私と禿山さんは、しばし無言となり絶句した。

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2013年11月 5日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第139回

あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百三十九回

「塩山さん、偉(えら)くバタついておられますが、どうされました?」
 夜勤番らしく、禿山(はげやま)さんがいつもの丸禿頭を仏様の光背のように照からせて訊(たず)ねた。
「今、詳しいことは云えないんですが、どうも今日、会社で何事か起きる、というお告げがあったんですよ」
「まあ、立ち話もなんですから、お茶でも飲んで気を鎮めて下さい…」
 云い終わらないうちに、禿山さんは立ち上がるとドアの方へ近づいて鍵を開け、ドアチェーンのロックを解除した。私は荒い吐息を静めて云った。
「そうですか? それじゃ、しばらくの間だけ…。よく考えれば、何か起こったとしても、皆が出勤してからですよね」
 私は幾らか気を動転させ、冷静に考えずに動いていた。そんな私が、誰もいない出勤前の社内へ、見苦しくもバタついて入ってきたのだった。当然、警備室で語ろうなどとこの日は思っていなかったし、その心の余裕すらなかった。そんな私を禿山さんは見透かしたのだ。いつもの尋常な私ではなかったこともあった。私は云われるまま、警備室へ入った。
「いったい、何があったんです?」
「話せば長くなるんですが、昨夜、寝ようとしましたら、例の玉のお告げが聞こえたんですよ」
「ええっ! なんですと? こりゃ、大変だ!」
 禿山さんも会社のことだけに、警備員の血が騒いだようで、興奮ぎみに云った。

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2013年11月 4日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第138回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百三十八回

しかし、その後は何も聞こえない。私は気のせいか…と、また両瞼(まぶた)を閉じると、眠ろうと努めた。
『塩山さん、明日(あした)、あなたの会社で事が起こります。それは、あなたの未来を揺るがしかねない大事(おおごと)です…。まあ、今夜はこれだけ云っておきます』
 私はふたたび両眼をカッ! と見開いたが、先ほどと同じで、暗闇か広がるばかりだった。起きた事実を忘れようと、私はもがくようにシーツを頭から被せて眠ろうとした。
 翌朝は熟睡できなかったにもかかわらず、いつもの二時間ばかり早く自然と目覚めた。車を駐車場に置いて帰ったから取りに行かねばならない…という気持が潜在していたからではない。そうなのだ。前夜のお告げが妙に気になっていた訳である。沼澤氏が云った玉との交信が現実のものとなった今、その事実を否定し続けるもう一人の自分がいることも、また本当だった。そうはいっても、半面ではお告げのあった事実を認めていて、早く目覚めたのも、会社で今日、事が起こる…という意志の声が心の蟠(わだかま)りになっていた。意志の声とは、お告げのことだが、前にも云ったように脳裡を駆け巡る声で実体はない。
 いつものパターンで車を駐車場へ取りに行き、A・N・Lで気忙(きぜわ)に朝食を済ませた後、私は急(せ)くように出勤した。

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2013年11月 3日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第137回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百三十七回

私も沼澤さんとは久しく会っていないから一度…とは思った。
 その夜は酒棚の玉にこれといった異変もなく、私もいくらか気楽に世間話をして十時過ぎには店を出た。勘定はもちろん私が支払った。思ったとおりそれほど高くなかったのは、私が一見(いちげん)客じゃなかったということもあった。しかし、今日のツマミで出た味噌田楽は実に美味かった…などと思いつつ、眠気(ねむけ)駅までの夜道を児島君と漫(そぞ)ろ歩いた。
「君ん家(ち)は、どこだった?」
「僕ですか? 僕は新眠気(しんねむけ)の次の寝坊(ねぼ)です」
「ああ、寝坊だったか。それならお互い、余り離れてなかった訳だ…。なんだ、ははは…。そうか、寝坊か」
「はい!」
 妙なことで意気投合して、二人は歩きながら笑った。私はいつものパターンで明日の早朝、みかんの近くにある格安料金の駐車場まで車を取りに行き、その足でA・N・Lへ寄って朝食を済ませて出勤…という決まりのコースを取るつもりでいた。そして事もなげに、その日は終わりそうだった。だがそれは、自宅へと帰り着き、睡魔に襲われてベッドへ潜(もぐ)り込むまでの間であった。私がベッドの中で両眼を閉じた瞬間、不意にお告げが聞こえたのである。
『塩山さん、もう眠りましたか?』
「いえ…」
 私は姿も見えず気配すらない闇の空間に向け、思わず呟(つぶや)いていた。

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2013年11月 2日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第136回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
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     第百三十六回

「なんです? この玉は…」
「今、聞いてたろ? 話を…。その沼澤さんが置いてかれた箱の水晶玉だよ」
「それを、なぜ僕に?」
「沼澤さんがね、来られたお客様に差し上げて下さい、って云われたの…」
 ママは、やんわりとした口調で云った。
「その沼澤さんというのは?」
「ちょっと話せば長くなるから、詳細は孰(いず)れ語るとして、要点だけ云うと、霊術師をやっておられる方で、週二回、眠気(ねむけ)会館で霊能教室を開いておられるんだ…」
「霊術師? ですか…」
「私は、そういうの信じない人だから、興味ないの」
 児島君の左隣に座り、携帯を弄(いじく)っている早希ちゃんが、動作を止めて急に話へ介入した。
「ははは…、早希ちゃんは現実派だからな」
「なによ、その古い云い方。ナウいってこと? この云い方も古いけど…」
 早希ちゃんはダメ出しして、自分で引いた。
「ああ、そんな感じ…」
 まったくもって彼女には、歯が立たない私だった。児島君は小玉を手の平に乗せてしばらく眺(なが)めていたが、私が以前やったのと同じような仕草で背広上衣のポケットへ何げなくスウ~ッと収納した。
「僕も一度、その沼澤さんとかに会ってみたいですねえ」
「そおう? 来週の火曜、何もなければ教室終わってから寄るって云ってらしたわ」
 ママが小声で加えた。

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2013年11月 1日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第135回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                     
                                         Photo_135


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

     第百三十五回

「嫌だわぁ~。なんか一億とか当たったみたいじゃない。ホホホ…、云わなきゃ、よかった」
 ママは笑って少し後悔したようだった。
「でも、よかったじゃないですか。前回×(かける)3でしょ? …三倍だと、小旅行が中ぐらいにはなりますよね」
「ええ、そりゃまあねえ~。あっ! そんなことじゃなくってさあ。三枚も当たるって、いくらなんでも変じゃない? それでね、沼澤さんに訊(き)いたって訳」
「で、沼澤さんは、なんておっしゃったんです?」
「玉のお告げだと、この店は今のところ、まあ、そんなもんかって…」
「なんか小馬鹿にされた話じゃないですか」
 早希ちゃんもママに加勢した。
「そうだなあ~。まあ、そんなものかって云う云い方は少し酷(ひど)い」
「でしょ?」
 私が納得して同調したので、早希ちゃんは鼻息を少し和(やわ)らげた。
「僕、黙って聞いていたんですが、皆さん先ほどから不気味な話をしてらっしゃいますね。玉のお告げとか…」
「そうだ! ママ、児島君に例の小玉を…」
「そうそう…」
 ママは、うっかり忘れていたとばかりに酒棚の隅に置かれた小箱から水晶玉のひとつを取り出し、児島君の前へ置いた。

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