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2014年2月

2014年2月28日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第254回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十四回

「ええ、それはまあ、そうですなあ…」
「ところで、変動固定相場制と先ほどおっしゃっていましたが、どういったものですか?」
「ああ…長壁(おさかべ)さんにお任せするやつですか? あれは日々、変動しております世界通貨のレートを決めで定めようというものです。かつて世界はスミソニアンで協定された固定レートをとっておったことは、ご存じですよね?」
「はい、それはまあ…」
「1ドルが360円とかでしたが、アメリカ、イギリスの貿易赤字は解決せず二年ばかりで崩壊しました。今回は継続する時期を定め、一定の期間で見直そう・・というものです」
「といいますと、一定期間経(た)てば変動すると?」
「ええ、まあそうですが、もちろん変動せず、そのままのレートで移行することだってありましょうが、国際情勢の変化により変動すると…」
「なるほど…。それで、その期間というのは?」
「それはIMFとかの決定事項ですが、各国の合意形成で決定づけられるでしょうから、半年なのか一年か、あるいは三年なのかは未知数です。私が意図したのは投資目的のヘッジ・ファンドとかの国際金融を乱しつつある無秩序な金融体制の阻止と防止です」
「壮大でスケールの大きい、グローバルなお話ですね?」
「ええ、私も以前は思いつきもしなかった発想なんてすよ、はは…」
 総理は笑って場を和(なご)ませた。

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2014年2月27日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第253回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十三回

「総理に、そのようなことが…」
 玉の霊力のせいに違いありません、と云おうとして、私は慌(あわ)てて口を噤(つく゛)んだ。そんなSFチックな話をすれば私の人間性が疑われることは間違いがない。一端、任命された以上、訳もなく罷免(ひめん)されることはまずないだろうが、今後、敬遠の対象になることは必定なのだ。それでは態々(わざわざ)、推挙してくれた煮付(につけ)先輩にも申し訳ないし、彼の顔を潰(つぶ)すことにもなりかねない…と思えたのだ。
「どうかされましたか?」
 私が急に沈黙したので、小菅(こすが)総理は私の顔を窺(うかが)った。
「はっ? いえ、べつに…」
「私自身にも原因が何かは分からんのですよ。体調が悪いということもないですし、そんな稀有(けう)な発想は今まで思いついたこともなかったですしね。まあ、不思議という以外には…」
「はあ…。確かに科学で説明できない不思議な話はあるようですが…」
「ほう、…塩山さんにも何か思い当たることがお有りですか?」
「えっ? いや、まあ…。世間ではそんなことを云ってますから…」
 うっかり口を滑らせそうになり、私は急遽(きゅうきょ)、お茶を濁した。

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2014年2月26日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第252回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十二回

「私は外務畑でして、どちらかといいますと、自分で云うのもなんですが、外交は得手なんですよ。ですから、外務大臣なども任(まか)せて戴いたのですが、今回の地球語創設の話は非公式ながらAPECなどで各国首脳にも話しております…」
「長壁(おさかべ)さんのお話は?」
「ええ、それは私が専門分野ではありませんから、前任の財務大臣に話してもらいました。これも水面下の話ですが…」
「私が農水大臣で米粉プロジェクトをやらせて戴いていたときですね?」
「ええ、そうです」
「いやあ、ちっとも知りませんでしたよ。こんなことを云っちゃ失礼ですが、総理は、なかなかの遣(や)り手ですね。恐れ入りました」
「ははは…そう云わんで下さい。米粉プロジェクトは別として、変動固定相場制や地球語創設のプロジェクトは世界規模のグローバルなものですから、まだどうなるかも分からんのですから…。あくまでも、水ものです」
「はあ、それはそうですが、このような発想は過去に前例がありません。非常に魅力的です」
「ははは…、私にもどうしてこのような発想が閃(ひらめ)いたのか分からんのですよ」
「えっ? どういうことでしょうか?」
「いつからとは云えませんが、そんな発想が寝起きに浮かぶようになったのです…」
 これは、いつぞやの児島君のときと同じ現象に近かった。私は、総理の発想のすべてが玉の霊力によるものだと確信した。どうも、私の見えないところで壮大な霊力が動いているように思えた。

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2014年2月25日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第251回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十一回

 第二次小菅(こすが)内閣の発足後、私は文科大臣としての職務を学ばねばならなかった。どうも不知識の私と文科省との接点が何だったのか…という小菅総理の思惑がさっぱり読めなかった。それでも私は議員ではないから、他の議員の大臣とは違い、日々、国政に忙殺されることはなかった。煮付(につけ)先輩は要(かなめ)の官房長官に就任していた。私は小菅総理に時折り、首相官邸へ呼ばれた。財務大臣の長壁白雄(おさかべしらお)さんも同様で、何回かは官邸で顔を合わせたりもした。二人とも、小菅総理が海外へ向けて発信しようとする地球語創設と変動固定相場制への移行プロジェクトに関係した主務大臣だったからだ。
「態々(わざわざ)、ご足労を願いました。今、長壁さんが帰られたばかりです。来られたとき、取り巻きの番記者連中に遭遇されませんでしたか?」
「いいえ、幸い今日は…」
「そうでしたか。それはよかった。報道は自由ですが、つまらないことが記事になりますので困っております。まあ、おかけ下さい。さっそくなんですが、近々、国連本部でプロジェクトに関する演説をすることになっておりますが、このプロジェクトのことは就任時にお話ししたはずですよね?」
「はあ…」
「つきましては、長壁さん同様、あなたにも随行願いたいのですよ」
「農水大臣の折りの米粉プロジェクト(RP)とは違い、私には場違いに思えておるのですが…」
「いやいや、それはいいのです。煮付君からも、あなたの有能さは聞いておりますよ」
 私は恐縮して苦笑した。

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2014年2月24日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第250回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                        Photo_4


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
   第ニ百五十回

 次の日は朝から忙殺された。午前十時、衆参の本会議で首班指名された民自社公共(みんじしゃ・こうきょう)党の小菅(こすが)氏が昼前に組閣本部を設置、首相官邸への呼び込みを開始したのだった。私は煮付(につけ)先輩に云われたとおり、ここは落ちつかねば…と、昨夜、コンビニで買っておいたサンドウィッチを齧(かじ)りながらテレビ画面を時折り見ていた。すると、まるで計算し尽くされたかのように電話の呼び出し音がした。受話器を取ると秘書官らしき人物の声がした。やはり総理官邸からの就任要請だった。
「はいっ! はい…はいっ!」
 気も漫(そぞ)ろに、私は空(から)返事をしていた。心ここにあらず、だった。ただ、二度目ということもあり要領は心得ていたから、前回ほどの動揺はなかった。こうして私は、民間出身者として文部科学大臣に就任したのだった。
 第二次小菅内閣は、世界経済において変動固定相場制をIMF(国際通貨基金)に働きかけ、私が就任した文科省では、地球語開発プロジェクトの立ち上げを国連に働きかけるという壮大な政権公約を掲げ、内閣の目玉として動き始めた。すべてが玉の霊力によるものだと知る者は、世間広しと云えど私一人に違いなかった。小菅総理に玉の霊力が及んでいることは明白で、その指揮下で私を動かそうとしているのか? と思えたりもした。しかし、変動固定相場制の思惑は私の文科省の管轄ではないが…との謎(なぞ)が湧いた。ただ、その謎はやがて解けた。

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2014年2月23日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第249回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十九回

 さて、専務と社長に電話をしたあと、私の気分は少し落ちついていた。こうなれば、残るのは上京のみである。そして、すべては煮付(につけ)先輩の指示に従っていればよいのだ。ただ、私には自分がどこか先輩のロボットにでもなっているようで、今ひとつアグレッシブな気分にはなれなかった。それでも、この一件は何の支障もなく、順調に進んでいった。
 私が上京し、久しぶりにマンションへ入ると、玄関口には様々な生活用品の小物が所狭しと置かれていた。すべては煮付先輩の心配りであった。あとから分かったことだが、品々は一度、管理人室宛に配送されたものとのことだった。こりゃ大変だわ、整理に手間どるぞ…と、腕組みして立っていると、お告げが舞い降りた。
『どうです? 今のご心境は』
「ああ、はい…。まあ、頑張るだけです」
『いろいろあるとは思いますが、めげずに乗り切って下さい』
「はい、ありがとうございます。何かあったときは、なにぶんよろしくお願いいたします」
『ええ、分かっております。霊界の決めの範囲内にて…』
 そのまま玉のお告げは中断したかのように途絶えた。このときのお告げは偉く短いように思えた。私は入り口に置かれた品々を、こつこつと片づけ始めた。そして、すべてが終わったとき、外はすっかり暗くなっていた。

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2014年2月22日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第248回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十八回

 それからまた数日が巡ったが、玉のお告げもなく、煮付(につけ)先輩からの電話すらなかった。それもそのはずで、新聞の一面を見れば、━ 政局混迷 ━ の大見出しに、━ 小菅(こすが)氏で決着か ━ と、小見出しが付いた記事が威張(いば)って載(の)っていたから、先輩が話していた私の出番にはなっていない状況だったのである。こりゃ、当分、大丈夫だ…と思っていると、二日後、電撃的な内閣不信任案が上程され、一端は否決されたが、内閣は総辞職した。さらに三日後、無投票で民自社公共(みんじしゃ・こうきょう)党の指名を受け、第二次小菅内閣が発足する運びとなった。その色濃くなったある日の夕方、先輩から携帯に一報が入った。
「もう、云わずとも分かっていると思うが…」
「はい…」
「まあ、そういうことだ。呼び込みが早まるかも知れんから、さっそく上京しろ。期限は二日だ。すでにマンションは確保してある。前と同じだ。俺も忙しくなってきた」
「そうですか、分かりました。会社には、もう云ってありますので、いつでもOKだったんです」
「そうか…、よろしく頼む。じゃあな…」
 先輩からの電話はそれで途切れた。私はさっそく専務と社長に順次、その旨を伝えた。二人は私の事情を知っていたから、スンナリと了承してくれた。会社としても大臣を輩出することは、企業イメージとして大いにプラスになる、と踏んでいたこともある。事実、前回も、我が社の株価は急騰したのだった。

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2014年2月21日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第247回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十七回

「あのう…、常務が近々、お辞(や)めになるって聞いたんですけど、それって本当でしょうか?」
「んっ? その話、どこで聞いたのかな? まだ、ごくわずかな者しか知らないはずなんだけど…」
「はあ、風の噂です…」
「風の噂か…。ははは…、日浦(ひうら)君は上手いこと云うな。まだ決まった訳じゃないんだ。絶対、口外無用に願います」
「はい。…って、まるっきりデマじゃないんですね?」
「ああ、まあな…。ははは…、その辺で勘弁してくれよ。美人に迫られるのは苦手でね」
 日浦君は少し照れて下を向いた。妙に、そそる色気があった。みかんの早希ちゃんには少し及ばないが、キャラを加味して比較すれば、逆に日浦君の方が上回るのではないか…と自己分析できた。
「今日のご予定は、多毛(たげ)本舗の平野会長様との懇談が三時からとなっております。その後、夕食会でございます」
「ああ、そう。平野さんとも親しくさせてもらって随分になるなあ…。入社の頃からだから…」
「そうでございますか…」
 美人秘書との会話が長びき、私の気分は悪かろうはずがなかった。
「それじゃ、行ってくるよ」
 柔和な笑みと軽いお辞儀に送られ、私は常務役員室を出た。

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2014年2月20日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第246回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十六回

『そんなことは、ありません。今に分かりますよ、塩山さん。…他に、何か?』
「えっ? いや…まあ、これぐらいですが」
『そうですか…。じゃあ、これで。また…』
 いつの間にか私は、ウトウトとしてしまった。そうして、白々と朝が巡った。
 煮付(につけ)先輩が云っていた十日は、瞬く間に過ぎ去った。その間、私は鍋下(なべした)専務、病気全快により復帰した炊口吹男(たきぐちふきお)社長とその件について話し合い、結論を得ていた。私はふたたび無報酬の顧問として社外へ去ることになった。むろん、内閣が倒れた折りには復職するという条件を取りつけた上でのことだった。
「そうか…。なら、その時はひとつよろしく頼むぞ。さっそく、小菅(こすが)さんに報告しておかなきゃいかんな。喜ばれると思うぞ、ははは…」
「いやあ、大してご期待に添えるかどうか…」
 私は先輩に合わせて笑いながら云った。美人秘書の日浦(ひうら)君が別室にいる手前、聞こえない程度の小声である。
「うん! それでいい。俺だって、小菅(こすが)さんの力になれるかどうか分からんのだ。相手は世界だからなあ…、舞台がでかい!」
「たしかに…。それじゃ、失礼します」
 携帯が切れた直後、別室のドアが開き、日浦君が遠慮がちに入ってきた。

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2014年2月19日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第245回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十五回

すると、私の念は、ものの見事に通じたようで、しばらくすると、お告げが舞い降りた。
『はい! お呼びになりましたか? 今、大玉様の方へ一週間分の報告を終えたところです』
「そんなことを、されておられるんですか?」
『ええ、これでどうしてどうして、霊界も結構、忙(いそが)しいんですよ』
「どうも…。そんなこととは知らず、お呼びだて、してしまいました」
『いいえ、忙しかろうと暇(ひま)だろうと、呼ばれればそれに応じるのが私の役目ですからね。それで、どういったお伺(うかが)いでしょう?』
「はい、そのことなんですが、今夜、私の先輩から電話があったんですが、実は…」
『ああ、そのことでしたか。大玉様のご指示がありまして、私が霊力を使ったのです。
小菅(こすが)さんが、ふたたび総理になられるように…』
「そのようなことが出来るんですか?」
『ええ、もちろんです。いつぞやも申しましたが、私に出来ないことは何もありません』
「それは、すごい!」
『ははは…、すごいのは塩山さん、あなたです。霊力を出すのは私達ですが、世の中を動かすのは塩山さん、あなたなんですよ』
「いやあ…私はそんな器(うつわ)じゃないと思うんですが…」
 偉く買い被(かぶ)られたもんだ…と、私は思った。

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2014年2月18日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第244回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十四回

「長話になるから切るぞ。また、かける。今回も十日ほど待つから、それまでに考えといてくれ」
「はいっ! 態々(わざわざ)、どうも…」
 なぜか、煮付(につけ)先輩には頭が上がらなかった。私は礼を云いながら電話を切っていた。
「なんなの?」
 ママがグラスを拭きながら訊(たず)ねた。
「ああ…、いつやら話した先輩です」
「国会議員さんの?」
「えっ? ああ、まあ…」
 私は曖昧(あいまい)に濁(にご)した。ボックス席のカラオケは相変わらず盛り上がっていて、別世界のようであった。しばらくの間、しんみりとグラスを傾けて、私は勘定を済ませた。
「それじゃ、ママ。また来ます…」
「お気をつけて…。またねっ」
 早希ちゃんがボックス席から手だけ振った。私は軽く片手を上げて返した。ママの方はニコッと愛くるしい笑顔を見せた。美形だから、どこかそそるものがあるが、やはり同性かと思えば、すぐ萎(な)えた。下ネタではなく、プラトニックなものである。
 眠気(ねむけ)駅まで漫(そぞ)ろ歩いて、酔いもほどよく醒め、心地よかった。煮付先輩の電話は、やはり玉の霊力によるものだろうか? などと思いながら、私は夜道を歩いていた。
 帰宅して眠りにつく前、私はこちらから玉にコンタクトをとろうと、ベッドに横たわりながら集中して念じていた。

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2014年2月17日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第243回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           第ニ百四十三回

しかし私は、煮付(につけ)先輩の携帯で興冷(きょうざ)めしていた。まったく飲んでる相場の話ではなかったからだ。
「文科省と私に、いったいどういう関係が?」
「ああ、それだ。実は、ここだけの話なんだが、小菅(こすが)さんは首班指名されれば地球語の開発提言を全世界へ発信したいとお考えなんだよ」
「ええっ! 地球語って何です?」「いやあ、これは話せば長くなるからな。…要は、国や民族を越えて人間なら誰でも通じる地球の言葉だよ。世界の言語学者が一堂に会して国連のユネスコなどの機関で特別プロジェクトを組み、共同開発するというものだ」
「わあ~、偉(えら)くスケールのでかい話ですね」
 ママが水割りのおかわりを前へ置き、私の話を興味深そうに聞いていた。
「あっ! どうも…」
「んっ? どうかしたか?」
「いえ、こっちの話です」
「そうか…。それで、出来た言語は世界各国で教育システムに取り入れて必修にする・・と、まあ、こういう訳だ」
「すると、どこの国でも通じる言葉って訳ですか?」
「ああ、そうだ。結果として、国連総会などの同時通訳、国と国との首脳会談などもスムースにいく、って寸法だ」
「なるほど!!」
 アイデア的には最高で、私は少し乗ってきた。

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2014年2月16日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第242回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十二回

その時、胸の携帯が激しくバイブした。こんな時間に電話とは…。私にしては珍しかった。
「煮付(につけ)だよ。しばらくぶりだなあ~。どうだ、元気にしてるか?」
「わあ~、先輩でしたか。どうも、ご無沙汰しています。どうかされました?」
「んっ? まあな。…カラオケか? 偉(えら)く賑(にぎ)やかじゃないか」
「ああ…今、行きつけのスナックですから」
「なんだ、そうか…。なら、あとからにしようか?」
「いえ、別に…」
「いいのか? それなら簡略して云っておく。詳しくは孰(いず)れまた、ということに…。それじゃ、さっそく用件だがな、この前と同じだ」
「えっ? この前って…。内閣はもう終わったんですよね?」
「それがだ…。小菅(こすが)内閣がまた復活しそうな雲行きなんだ」
「まさか…。それは本当ですか?」
「お前に嘘を云ってどうする。まあ、いろいろ、あってな」
「そうでしたか。…それで、私にどういった?」
「今度は文科大臣だ」
「文科大臣? 文科大臣って文部科学省のですか?」
「ああ、その文科省だ」
 私はしばらく絶句した。ママが怪訝(けげん)な顔でこちらを見ていた。カラオケ連中はお構いなしに盛り上がっていた。

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2014年2月15日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第241回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十一回

 やはりその日も麺坊(めんぼう)へ寄り、美味いラーメンを食べてから、みかんへ行った。
「それじゃ、明日も八時にお迎えに参りますので…。ご馳走さまでした、失礼します!」
 腹が満たされたせいか、エンジンを噴(ふ)かす夕闇(ゆうやみ)君は偉(えら)くテンションが高かった。私は降りたみかん近くの道を数分、歩いて、店がある街の雑居ビルへと入った。常務室を出る直前にお告げがあったこともあり、酒棚の玉の様子を見ておこう…と思ったのが自宅へ直帰しなかった理由だが、━ 私は沼澤さんに、とうとう置いてかれました… ━ と告げた玉の声が脳裡に残っていたのもその一因であった。
 みかんへ入ると、私が訪れる日にしては珍しく、数人の客がボックス席にいた。彼等はある程度、出来上がっていてカラオケを唄っていた。私が余り好きじゃない熱唱調で、お世辞にも上手いとは云えない唄いようだった。それでも客だから、早希ちゃんはキャッキャッと騒いで飲んでいた。カウンターに立つママはお通夜な顔でグラスを拭いていた。私が近づいて、ようやくニコリと普段の陽気さが復活し始めた。
「まあ! いらっしゃい。お久ねえ~、満ちゃん」
「ママもお元気そうで何よりです…」
 カウンター椅子(チェアー)に座り、前の酒棚を徐(おもむろ)にみると、置かれた玉は以前とまったく同じで、少しの変化もなかった。

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2014年2月14日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第240回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百四十回

「そうでしたか…。まあ、お元気ならそれで結構です。ところで、私の立場なんですが、また変わるんでしょうか?」
『はい…。近々、またお忙しくなると思われます。まあ、悪いお話じゃなく出世話、とだけ申しておきましょう。では、この辺で。孰(いず)れまた…』
 お告げが途絶えたのには訳があった。話をしているうちにエントランスが近づいてきたのだ。お抱え運転手つきの車は正面玄関に横づけされていたから、否応(いやおう)なく通用門ではない正面玄関へ回ることを余儀なくされていた。禿山(はげやま)さんの姿を見なくなったこともあり、通用門から出ることに抵抗はなかったが、なんとなく偉(えら)ぶっている風な自分が嫌だった。
「あのう…、今日も途中でお降りなんでしょうか?」
「えっ? ああ…いつものところで止めて下さい」
「はい! かしこまりました」
 お抱え運転手の夕闇(ゆうやみ)君は、苗字とは真逆の明るい声で云った。若々しいアグレッシブな運転手で、このまま運転手にしておくのは惜しい…と、私には思えた。車はスムースに会社を離れた。夕闇君が明るいのには別の意味でもうひとつ、理由があった。いつものところというのは、みかん近くの道で、そこで降りる前には必ず途中の麺坊(めんぼう)でラーメンを奢(おご)っていたからだった。

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2014年2月13日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第239回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十九回

「ご苦労さん。それじゃ、あとを頼みます」
「お疲れさまでした。明日(あす)は十時から多毛(たげ)本舗の平野会長様とのお食事会がセットされておりますから、お忘れなさいませんように…」
 一瞬、また太るな…と、私は思った。
「ああ…。はい! 分かりました、それじゃ」
 私は少し横柄(おうへい)な態度になりそうな自分に気づき、云い直していた。人間の脆(もろ)さを垣間(かいま)見た瞬間であった。常務役員室を出ると、玉のお告げがあった。
『聞いておりました。さすが、塩山さんです。大玉様が見込んだだけのことはあるようです。並のお方なら、今頃は好き勝手に、し放題でしょう』
「いいや、私だって大したことはないですよ。ただ、自重しておるだけです。それに余裕もありませんしね」
『余裕があれば、豹変(ひょうへん)されますか?』
「そりゃ、私だって人間ですから、秘書に手も出しましょうし、高価な品を日々、買いまくり、美味いものを食べまくることでしょう」
『いいえ、塩山さんは、なさらないと…これは酒棚に置かれた私が云っているのではなく、大玉様が申しておるのですよ。あっ! そうそう。私は沼澤さんに、とうとう置いてかれました。その点、なにぶん、よろしく』
「よろしく、と云われましてもねえ。私は消えた沼澤さんのような霊術師じゃないですから…。そういや、沼澤さんですが、今は?」
『霊界の決めで、いつぞやも申しましたように詳細は語れませんが、異次元の眠気(ねむけ)会館で頑張っておられますよ』
 そ、そんな世界があるのか…と、私は驚いた。

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2014年2月12日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第238回

 あんたはすごい!    水本爽涼                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        
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    第ニ百三十八回

 
次の日から今までどおりに出勤したが、部長との違いは細部に至る時間の拘束を受けるか受けないか、という点だった(ただし、会社の社務に関して24時間の臨戦態勢にあることは、その言を待たない)。部長だった私は広い一室を宛行(あてが)われてはいたが、やはり時間の拘束は受けていた。だが、取締役ともなると、勤務評価を伴う拘束はなかった。それもその筈(はず)で、取締役とは経営者であり、社員全体を評価する立場なのである。部長までは評価される側の立場だったが、今や評価する側の人間になっていたのだ。玉の意図が何なのかは分からなかったが、とにかく常務にまで昇格させてくれたのだった。当然、部長と同じく常務室なる一室が用意されていた。事業拡張の今まで常務ポストはなかった我が社、米翔(こめしょう)だったから、真新しい一室に美人秘書付きであった。さらに、専用運転手付き通勤車輌も宛行われる破目に陥(おちい)ってしまった。これがどうも不具合で、みかん等へプライベートで寄る場合は、その都度、運転手に云って帰ってもらわねばならない煩(わずら)わしさがあった。ああ、もうどうでもいいや…と、半分、捨て鉢になっていると、やはり玉の意図は私を出世させることではなかったようで、事がすぐに生じた。それは、私が常務に就任して、わずかに一週間ほどしたある日のことである。
 その日も、私はようやく慣れた常務室を出て帰ろうと、隣の個室にいる美人秘書の日浦(ひうら)君にその旨(むね)を告げていた。

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2014年2月11日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第237回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十七回

 大きな異変は大臣になった一度だけだが、会社内では課長から次長、次長から部長、さらには今回の部長から常務と、三度も起きていた。それに今回の場合は、もう社員としての労働者ではなく取締役という経営者の立場だった。第二課長の児島君も、湯桶(ゆおけ)さんを補佐する部長代理らしい。ただ、やる仕事は第二課長と同じで、専務の弁によれば釣り餌(えさ)だと云う。経営者が云う釣り餌とは、この場合、肩書ですよ、と専務は説明した。
「すると、児島君は専務に釣られた格好ですか?」
「いいえ、会社が釣ったんですよ。湯桶君も、ですがね」
 そう返しながら鍋下(なべした)専務は高らかに笑った。その時、昼を告げるチャイムが流れた。
「なんだ、もうこんな時間ですか…。塩山さん、昼にしましょう」
「えっ? ああ、はいっ!」
 私は専務に導かれるように、会社近くのファミレスへ行った。
「塩山さんが大臣になられた頃からですか。注文が多くなりましてね。売上げが鰻(うなぎ)登りですよ。我々役員も満面の笑みです、ははは…」
 店へと歩きながら専務は陽気に語り続けた。店へ入ってからも食事を終えてからも終始、鍋下専務の接待口調は続いた。これではどちらが上役か分からんぞ…と、私は思った。

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2014年2月10日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第236回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十六回

まあ、それも余裕のある時にしようかと思いなおしながら、私は専務室のドアをノックしていた。
「はい、どうぞ…」
 ドア内より専務らしからぬ低姿勢の声が聞こえてきた。これも後(あと)から落ちついて考えれば、短期間ながら一応は大臣の要職を務めた私だからか…と思えなくもなかった。部長がただ再雇用で復職しただけでは、こうもいくまい、ということである。
「やあ、塩山さん、ご苦労様でした。またひとつ、会社のためによろしくお願いします」
 鍋下(なべした)専務の言葉遣(づか)いは、その後も偉(えら)く丁寧だった。
「はあ、それはもちろんのことです。で、私のポストは元の営業部でしたね?」
「いや、それがですな。お約束はそうだったんですが、なにぶん今は湯桶(ゆおけ)君が代理で頑張っておりまして、近々、正式に営業部長に昇格させようと役員会で決まったところでして…」
「ええっ!」
 あの万年リストラ候補の湯桶次長、いや部長代理が昇格などとは思ってもいない私だった。鍋下専務の次の言葉も私を驚かせるものだった。
「はい、塩山さんには常務取締役として、私ともども会社経営に携(たずさ)わって戴きたいと存じます」
「そ、そんな…」
 有難い話ながら、これでは益々、平凡な日々から離れていくように私には思えた。だがこれも、玉の霊力か…と考えれば、致し方なし…とも思えた。

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2014年2月 9日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第235回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十五回

 久しぶりに早朝のA・N・Lで軽食を済ませて会社へ向かった。会社へ着くと、やはり外観は私が東京へ出る前と少しも変わらず、月日だけが無駄に過ぎた感は否(いな)めなかった。しかし、その私の考えは甘かった。通用門を潜(くぐ)り、正面の監視室に目を向けると、見知らぬ中年の男が座っていた。
「あっ! おはようございます。あのう…禿山(はげやま)さんは?」
「えっ? 禿山さんですか? 禿山さんは先月、退職されましたよ。なんでも、外国の息子さん夫婦が引き取るとかいうことで…」
「ええっ! そりゃ、本当ですか?」
「ええ、もちろんです。嘘を云っても仕方ないじゃありませんか」
「はあ。それは、まあそうですが…。すると、禿山さんは、もう日本にはいらっしゃらないんでょうか?」
「ええ…。私も禿山さんに聞いたという同僚からの、また聞きなんですがね」
「そうでしたか…」
 月日は人を待ってくれないことを実感した瞬間だった。ただこの事象も、玉が霊力でなしたことなのかどうかまでは判明しなかった。一度、こちらからお伺いを立ててみるか…と、私はふと思った。将来のことに関しては霊界の決めで答えられないと告げた玉だが、すでに済んだことだから答えてくれるだろう…と踏んだ訳である。

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2014年2月 8日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第234回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十四回

 酒の勢いも手伝って、私はそこで意識が遠退き始めた。そして、フラフラと寝室の方へ行ったように思う。思うというのは、このあとの記憶が飛んでいるからだ。気づけば空が白み始める早暁(そうぎょう)であった。私は廊下で大の字になって眠ってしまっていたのだ。起きた私は、後片づけをしてからシャワー湯を浴び、さっぱりとした。酔いが上手く回ったせいか、二日酔いには幸いならずに済んだ。この日は鍋下(なべした)専務に会う出社日だった。A・N・Lで軽く朝食を済ませ、久しぶりに禿山(はげやま)さんの照かった頭を拝見するか…などと呑気(のんき)に思った。昨夜はお告げが途中になったが、今回はあちらのせいではなく、こちらが睡魔に襲われたのだから仕方がない…と思えていた。この一件も禿山さんに報告しようと考えながら服に着替え、家を出た。ようやく辺りは人の気配がし始めていた。
「おはようございます」
「…ああ、おはよう」
 車に乗ろうとしたとき、いつもの通りかかる牛乳配達の青年が声をかけてきた。学生風に見えたが、たぶんアルバイトをしているのだろう…と思えた。勝手に想像して、感心な若者だ…と、これも勝手に心で褒(ほ)めた。実のところはどうなのか…、そこまでは分からない。

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2014年2月 7日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第233回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十三回

「それはいくらなんでも云い過ぎだろう。湯桶(ゆおけ)さんに悪いぞ。…が、会社は君が云うようにあの人を部長には、すまい」
「でしょ?」
 こんな雑談が続き、やがて九時過ぎになった。児島君はタクシーを呼び、ホロ酔い気分で乗り込んで帰った。そのとき私は玄関で見送っていた。少し酔っていたからか、外気が冷んやりして気持ちよかった。
 玄関を閉じて中へ入ると、お告げが舞い降りた。
『どうです? すっかり状況が変わったでしょ? この前、寄せて戴いた折りには、まだ内閣にいらっしゃった筈(はず)です』
「ああ…、そうでした。それで、いったいこの次はどうなるんです? あまり激しいのは疲れますから、お手柔らかに願います」
『以前にも云いましたように、霊界の決めがありますから、どうなるかは云えません。ただ、悪くはない、とだけ申しておきます。それと、霊力を操っているのは私ではなく大玉様ですから、誤解なきように願います。ですから、お手柔らかに、という権限は私にはありません』
「そうでしたか…。まあ、孰(いず)れにしても、よろしくお願いしますよ」
『分かりました。出来る範囲のことでしたら…』
 玉は私以外には聞こえぬ声で厳(おごそ)かに云った。

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2014年2月 6日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第232回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十二回

「それで、湯桶(ゆおけ)さんは部長に昇格したの?」
「いいえ~、なかなかそうはいかないのが万年リストラ候補を自負するオケセンさんらしいんですよね。部長代理という肩書なんです」
「部長代理? それって、今まで誰もなってないんじゃないの?」
「ええ…、私も知りません」
「この俺だって知らないよ」
「いらぬ心配ですけど、部長が再雇用で復帰されれば、オケセンさんはどうなるんでしょうねえ。部長代理のまま、ってことはないと思うんですよ」
「じゃあ、どうなるんだろうな…」
「元の次長ですか?」
「いや、いやいやいや…それはいくらなんでもないだろう。部長代理は次長より、ポストとしては上なんだろうから、次長へ戻せば降格させたことになるからな」
「はあ…それはまあ、そうです」
 児島君は大吟醸をグビッっと飲み、ツマミのカニ缶に箸を入れた。
「別の部へ移動とかじゃないですか?」
「部長代理で、かい?」
「ええ…そう思いますよ。まさか、部長はないでしょうね。そんなことすれば、会社が危ない!」
 酒の勢いもあるのだろうが、児島君は容赦なく云い切った。

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2014年2月 5日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第231回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十一回

「まあ玄関前での話もなんだ。中でゆっくり話そうや…」
 私は気づかず、児島君を立たせていたことに気づき、そう云いながら鍵を開けた。
 家に上がり、ソファーに座ってもらったものの、湯も沸いていなければ茶菓子も切らせていたことに気づいた。一人暮らしの侘(わび)しさである。仕方なく土産用にと駅構内で買った菓子を勧めようとしたが、これも茶がないとな…と思え、やめた。
「君さ、今日は車で来たのか?」
「えっ? いえ、バスですが…」
「そうか…。なら、酒は大丈夫だよな」
「ええ、まあ…」
 酒は各種を取り揃えていた。つまみは晩酌用にと買っておいたカニ缶がいくつかあった。少し貧乏臭いが何もないよりは増しだろうと思え、それらを準備した。
 三十分後、私達は程よく出来上がっていた。
「まさか、こんな早く部長が戻られるなんて、考えもしてなかったですよ」
「部長じゃないぞ。元部長の会社顧問だぜ」
「ああ、そうでした。でも、再雇用で復職されれば、また部長なんでしょうし…」
「んっ? ああ…まあ、そうらしいが。…で、今、私の仕事は誰がやってんだ?」
「湯桶(ゆおけ)次長、オケセンさんですよ」
 湯桶洗澄(あらずみ)次長か…と、彼の律儀(りちぎ)な風貌が頭を過(よぎ)った。いわゆる、社内で仏のオケセンと有り難がられている風貌だった。

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2014年2月 4日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第230回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百三十回

 数日後、お告げのとおりの大異変が生じた。小菅(こすが)総理を巡る政治資金の問題が発覚したのだった。マスコミ各誌やテレビ、ラジオは連日、その報道に明け暮れ、ついに小菅内閣は総辞職に追い込まれたのである。当然、内閣は瓦解(がかい)し、私を含む閣僚一同は総辞職を余儀なくされた。こうして私は、やっと大臣の重責から解き放たれたのだった。こうなれば、議員でない私が永田町に踏みとどまる何の理由もなく、私は眠気(ねむけ)へと帰省することになった。━ 大臣を、やめてしまえば、ただの人 ━とは、まさにそれで、私は頂点から真っ逆(さか)さまに転がり落ちたのである。まあ、落ちた? のかどうかまでは分からないのだが…。
「部長、お久しぶりです。お元気でしたか?」
 眠気へ戻り、自分はやっぱり田舎(いなか)が向いているなあ…と、しみじみ思っていた矢先、児島君の懐かしい声がした。私は思わず振り向いて家前の道を見た。以前と、ちっとも変らない児島君が暗闇を背にして笑顔で立っていた。
「なんだぁ~、児島君じゃないか、久しぶりだな。どうしたんだ、こんな所で?」
「いやあ、なにね。部長が今日、戻ってこられるって聞いたもんで、待ってたんですよ。元大臣を誰も出迎えないなんて、眠気の面(つら)汚しですからねえ~」
 そう云うと、児島君は明るく笑った。

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2014年2月 3日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第229回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百二十九回

それで話は途切れ、沼澤氏は残ったマティーニを飲み干すと、そそくさと立った。いつもの沼澤氏らしからぬ慌(あわ)てようで、氏は勘定を済ますと、これも早足でドアへと向かった。私もあとを追うように勘定を済まそうとした。
「あっ! 塩山さんはゆっくり飲んで下さい。私は急ぎますので…」
 急ぎますって、お乗りの電車は私と同時刻のやつでしょ? と云おうとしたが、すでに沼澤氏はドアのノブを握り、云い続けていた。
「それと…、皆さんも、お元気で!」
 出る直前に別れのような言葉を残し、沼澤氏は店を去った。今から思えば、氏を見たのは、これが最後だった。
 それから半月ほどが経ち、私は相変わらず農水相としての職務に明け暮れていた。しかし、最初の頃に比べると随分、事務効率もよくなり、スムースにいくようになっていた。米粉プロジェクトの民間とのタイアップは、完全に軌道に乗り、もう私がいなくても大丈夫だ…と思える段階にまで漕ぎつけていた。そんなある日、私がトイレを済ませて手を洗っていると、久しぶりにお告げが舞い降りた。
『ひとまず、この状況(シチュエーション)はOKだということで、次の指示がありました。近々、身辺に変化が生じますので、心積(づ)もりを願います』
「えっ? 突然、そんな…。どういうことです?」
 私は思わず声を出し、しまった! と思って辺りを見回した。幸いにも人の気配はなかった。

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2014年2月 2日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第228回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百二十八回

「はあ、まあ分かりやすく云えば、そうなりますかねえ…。時空移動と云って戴いてもいい霊動です」
「しかし、そんなことが…」
「俄(にわ)かにお信じになれないのは分かります。ですが、もう私の身体はほんの少しずつですが移動し始めておるのですよ」
 そう云えば、沼澤氏がママを霊視すると云った一連の流れは、確かに過去にあった。その時空へと沼澤氏は消えようとしているのか。
「それは、この玉の判断によるものなのですか?」
「いえ、違います。塩山さんも以前、お告げでお聞きになったことがあると思いますよ。この玉も大玉様から指示を受けておるのですよ」
「確かにそのことはお告げで聞きました」
「そうでしょう。ですから、かなり大きな規模の話だと思われます。なぜ私がそちらへ行くのか、は分かりませんが…」
「お断りは出来ないのでしょうか?」
「ええ、それは出来ませんが、乗り気でなければ一応、あちらへ行ったあと、Uターンは出来るようです」
「帰って来られた方も多いのでしょうか?」
「はい、半分以上、帰って来られるようです。本人の意思を無視することは霊界では決して許されません。こちらの世界以上にね…」
「ほう、そんなものなんですか…」
「ええ、そんなものなのです…」
 ふーん…そうなんだ、と私は思った。

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2014年2月 1日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第227回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百二十七回

「玉の世界へ導かれるのですよ。人はそれを異次元の世界と呼んでおりますが、どうも、そちらへ行くらしいのです。ということで、こちらからは消えるんですよ」
「…まあ、殺されたりお亡くなりにならないのであれば、それはそれでいいんですがね…。ただ今一、消え去るっていうのがねえ…」
「そうですわ。全然、信じらんない! マジックのイリュージョンじゃないんですから…」
「ママの云うとおりよ。それって、マジの話ですかあ~?」
「ええ、もちろんですよ。ただ、世間話には出来ませんから、ここだけの話ですが…」
「沼澤さんが消えるとして…、そこまではいいとしましょう。で、沼澤さんはあちらへ行かれて、あちらの生活はどうなるんですか?」
「それが…玉の申すには、生活は今と、まったく同じ世界なんだそうです。ところが、塩山さんやみかんの皆さんは別次元の皆さんですから私のことをご存知ない」
「えっ? …その辺りがよく分かりません。ちょっと待って下さいよ…。ってことは、別の次元のそちらにも、私やママ、早希ちゃんがいるということですか?」
「はい、どうも、そうらしいのです…」
 沼澤氏が云うのは強(あなが)ち出鱈目でもなさそうなので、私は返って困った。

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