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2014年3月

2014年3月31日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第285回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十五回
「いつもので、いいわよね?」
「はい…」
「ゆっくりしていけるの? 今回」
 ママが水割りを作りながら、それとなく訊(たず)ねた。早希ちゃんはカウンター側へ回って私の隣へ座った。
「えっ? ああ…そうもしてられないんですよ。二日ほどで帰ります。って云うか、帰らねばならないんです。帰らないと偉いことになりますから…」
「ふ~ん、そうなの? 大変なのねえ、国のお仕事は…。会社なら、なんとでもなってたわよねえ~」
「ええ…、それはまあ」
 その時、携帯を弄(いじく)っ画面を見ていた早希ちゃんが、大きな溜息をつきながら云った。
「ダメだわぁ~。ママ、全然ダメ!」
「だから云ったでしょ。そんなボロい話なんて、ある訳ないんだから」
「何かあったんですか?」
「満ちゃんからも云ってやってよ。この子、本当に懲(こ)りないんだから…。この前もコレで損したのよ~」
 ママがそれとなくカウンターへ置いたのは、出来た水割りのグラスと新聞の株式欄だった。
「ほう…、早希ちゃん、一攫千金(いっかくせんきん)はまだ諦(あきら)めちゃいないんだな?」
「そらそうよ。私は、それが生き甲斐なんだから」
「でもな。今、ママが云ったとおり、少しは懲りんとなあ。土壺(どつぼ)に嵌(はま)るぞ、そのうち」
 私はお灸(きゅう)をすえるつもりで、少し驚(おどろ)かした。

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2014年3月30日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第284回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十四回
「ママ、電話したのが正解!」
「そうね。私だけじゃ、来てくれたかどうかっ、フフッ」
 私がみかんのドアを開け、中へ入ると、二人は、こんな会話を交わしながら私を迎えた。カウンターへ近づくと、ママの電話どおり沼澤氏が置いていった水晶玉は、以前と少しも変わらず、酒棚に飾られて存在した。久々に店へ入ったにもかかわらず、どういう訳か懐かしい…という感覚が少しも私には湧かなかった。よく考えれば、私は、この玉が送った霊力のお告げと時折り交信していたのだ。だから…とは思うが、結果として離れていてもみかんには時折り来ていたようなものだったのだ。それか、懐かしく思わせなかった理由だろう。
「その後、東京はどお?」
「どお、と云われても…。眠気よりは賑(にぎ)やかです」
「そりゃ、そうでしょうけど…」
 ママに訊(たず)ねられ、私は深慮もなくつまらない言葉を口走っていた。
「あっ! どうも、すみません。そういう意味じゃなく、眠気のような静けさがない落ちつかない街だ、ということです」
 冷や汗ものであった。オネエのママだけは旋毛(つむじ)をまげられたくなかった。剃り残した顎髭(あごひげ)の化粧顔で、嫌味を云われたくはない。

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2014年3月29日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第283回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十三回
「それは大したもんだ。すごいじゃないですか。羨(うらや)ましいかぎりですなあ…」
「えっ? この話、信じて下さるんですか?」
「そらもう…。私と塩山さんの仲じゃないですか。まるっきりの出鱈目を云われる訳がないと信じとりますから」
「そうですか? そりゃ、私としても有難いですし、お話しし易(やす)いですが…」
「はい。監視室の時のように、何でも話して下すって結構ですから…。ご相談にも乗りますし…」
「そのときは、よろしくお願いいたします」
 禿山(はげやま)さんのプライドを傷つけないよう、私は下手に出た。そしてその後、二、三時間だろうか。互いの雑事などを語り合い、私は禿山さんの家を退去した。帰りぎわに、「この歳で弓道を始めましてなあ。ははは…」と愉快そうに笑い飛ばされた禿山さんを見て、私より元気だ…と思えた。車に乗り込んだ私は、その足でA・N・Lへとハンドルを切った。みかんの開店までは、しっかりと三時間はあり、食事方々、時間を潰(つぶ)すには、丁度いい…と直感で思え、即決した結果である。まあ、今までの私が、いつもやっていたことを、ただやった、というそれだけのことなのだが…。ただひとつ、マイカーが長い間、乗らなかったせいでバッテリーが上がりぎみだったことである。その代償として、冷や汗もののドライブを余儀なくされたことを憶えている。

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2014年3月28日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第282回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十二回
「でしょ? やっぱり、かかってきた…」
 携帯を切ると、禿山(はげやま)さんはニタリ! と小笑いして、そう云った。
「ええ…、それにしても怖いですね。で、このあとの私はどうなるんでしょう?」
「いや、そんな先までの夢じゃあないんですよ。ただ、ここへ来られてお帰りになるまでの夢なんですから…」
「いやあ、それにしても正夢とは怖いじゃありませんか…。恐らく、沼澤さんが置いてかれた水晶玉の霊力によるものかと思われます」
「霊力ですか…」
「ええ、霊力です。禿山さん、馬鹿にせず聞いて下さいよ。今や私も、その霊力者の一人なんです。まあ、霊術師の沼澤さんのような上級じゃないんですがね」
「えっ! 塩山さんが、ですか? そりゃ、すごいじゃないですか。で、どんなことが?」
「ははは…、云うほどの大したこっちゃないんですが、今のところは…」
「もったいぶらないで云って下さいよ」
「分かりました。…笑わないで下さいよ。お告げのことは、いつやらもお話ししてましたが、こちらからコンタクトをとれるようになったんですよ」
「お告げを呼び出せる、ってことですか?」
「ええ、お恥かしいんですが、まあ、そんなところです」
 私はドヤ顔ではなく、謙遜して自重ぎみに云った。

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2014年3月27日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第281回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十一回
「それで、なにか用なの? 今、禿山(はげやま)さん家(ち)にいるんだけどなあ~。あっ! 早希ちゃん、知らなかったか、禿山さん」
「知らないわよお~。誰よ、その禿なんとか云う人…」
「ははは…、禿なんとかじゃなく、禿山さんだ」
 私は思わず笑えてきたが、目の前の禿山さんを見て、失礼だな…と急遽(きゅうきょ)、真顔に戻した。当の禿山さんはニコニコと、なに食わぬ顔で携帯の会話を聞いているのだった。
「禿山さん? …まあ、誰でもいいけどさあ、…ママがね、また寄ってね、って」
「なんだ、それだけのことか…。いやあ、今さ、副大臣や政務官に任せてこっちへ帰ってんだけどな。急用が出来たんで戻れ! かと思ったよ」
「そう…。今、東京じゃなかったのか、満ちゃん」
「ああ…、数日だけだけどさあ、重要なのが片づいて、切りがついたんでな」
「ふ~ん。だったら、また寄ってよ。水晶玉のことも話したいしさ」
「水晶玉って、酒棚のあの玉か?」
「ええ…」
「沼澤さん、そのままにしてたんだ…」
「そうなの。店に寄られなくなってさ、髄分、経つんだけどね、そのままなのよ~」
「沼澤さんが店に現れなくなったことはママから聞いたけどな。そうか…、そのまま棚にあるんだ」
 私は一度、様子を見に、店へ寄ってみるか…と、思った。

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2014年3月26日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第280回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十回
「えっ? どういうことでしょう?」
「どういうことかは、私の方がお訊(き)きしたいくらいなんですよ。みかんを知らない私が、店の内部やママさん達の名や顔まで分かるんです」
「…それって、怖い話ですよ」
「ええ、怖い話です。私自身、怖いんです。しかしですな、どうしようもありません…」
「それって、突然そうなられたんですか?」
「はい、ふと。目覚めたある日の朝からなんですがな」
「ウ~ン! それは怖い…」
「はあ、元警備総長の私でも怖いですな」
「ママと話してたんですが、サスペンスじゃないスリラーの怖さですね」
「ええ…」
 その時、急に私の携帯がなった。バイブにしておかなかったから、ギクッとしたが、禿山(はげやま)さんが云ったとおりなのだ。禿山さんは私が携帯をバイブにしておかなかったことなど知る由(よし)もなかった。だから、余計に怖かった。携帯に出ると、やはりママだった。これはもう、大玉様の霊力によるもの…と思う以外、説明がつかない事態だった。
「お邪魔だとは思ったけどさあ、ママに云われたから、かけたわ」
「やっぱり、早希ちゃんか…」
「やっぱりって? 変な満ちゃん」
 早希ちゃんは事情をまったく知らないから、
怪訝(けげん)な声をだした。

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2014年3月25日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第279回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十九回
 国会が閉会すると、大臣としての様々な所用はあるものの、議会に関しては、まるで学校の夏休みである。いや、議員ではない民間人の私だから云えることで、議員の皆さんは地元の後援会やら何やらで多忙の日々は続くのだが…。まあそんなことで、年末前に閉会した国会は、幸いにも重要法案が軒並み成立し、小菅(こすが)ブームは益々、増幅する勢いを見せていた。社会論調では政府批判の多いメディアでさえ、このブームにはお手上げで、やんやの喝采(かっさい)を送って報道した。小菅総理の施策が、ことごとく成功して軌道に乗ったことも、このブームを助長する一因だった。そんな中、久しぶりに眠気(ねむけ)へ戻った私は、禿山(はげやま)さんの顔を見ようと自宅を訪れた。禿山さんは至って元気そうで、以前と少しも変わらない丸禿頭を照からせて私を迎えてくれた。
「昨晩、妙な夢を見ましてな。やはり、正夢でした。塩山さんが来られる夢なんですが、この今と、まったく同じ夢で、夢のとおりですと、あと数分ほどで塩山さんの携帯が鳴り、みかんの早希さんから電話があるはずです」
「早希ちゃんからですか? …それにしても禿山さん、よく早希ちゃんの名を知っておられましたね。お話ししましたっけ?」
「いいえ、一面識もなく聞いてもいないのですが、どういう訳か知っておるのです」

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2014年3月24日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第278回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十八回
「あっ! どうも…。それで、沼澤さんは最近、一度も寄られてないんですか?」
「それそれ! 私も早希ちゃんも少し気味悪いしね。どうしようって云ってたとこなのよお~」
「沼澤さんって、一人暮らしでしたっけ?」
「分かんないわ。霊術師たる所以(ゆえん)ね。それに私、一度も行ったことないから…。なにせ、連絡は電話だけだったからさあ…」
「妙に気になりますねえ。…そういや、店で最後にお会いした夜、『皆さん、お元気で!』って云ってらしたですねえ。それが少し気がかりです」
「まさか、最近さ、巷(ちまた)で流れてる独居老人の孤独死、ってんじゃないでしょうね」
「いやあ…それはないと思いますが、何かに思いつめて自殺、なんてえのは強(あなが)ち、否定できませんよ…」
「ちょっとした、サスペンスじゃない?」
「いや、ちょっとしたスリラーでしょ、この場合」
 二人は大笑いした。まあ、笑えるような不確実な世間話だからいいんだが…と思えた。その後、しばらく話し、最後に早希ちゃんと二人で是非、霞ヶ関へ遊びに来てくれるよう招待して電話を切った。十一時中ば頃の深夜だったが、寝酒の酔いも去り、妙に頭が冴えて寝つけなかった。私はベッドを離れ、テーブルに置いたブランデーをもう一杯、喉へと注ぎ込んだ。

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2014年3月23日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第277回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十七回
 その夜、私はついうっかりして、ママへの電話を忘れていた。煮付(につけ)先輩や他の大臣連中と夕食を済ませたあと、マンションへ真っすぐ帰った私は、すっかり忘れていたようで、風呂に浸かってから寝酒を喉へ軽く通し、ベッドへ潜(もぐ)り込んだ。そして五分ばかりが経った頃、携帯の呼び出し音がした。こんな夜更けに、いったい誰だ! と少し怒れたが、ふとママへ電話をかける一件を思いだした。その瞬間、携帯音はママからに違いない…と思え、私は慌(あわ)てた。急いで枕元の携帯を手にすると、やはり予想したとおり、ママの声だった。
「なによお~、満ちゃんから電話するって云ったから、待ってたのよお~」
「いやあ、すみません。つい、うっかりしてました。すみません」
「そう何度も謝らなくてもいいわよ。別に怒ってんじゃないんだからさあ」
「長距離、高くつきますので、こちらから、かけなおします」
「いいわよお~、そんなの。深夜だし、無料通話分があるから…」
「それは、いけません。こちらからかけるって云ったんですから…」
「そおう? …なら」
 ママは電話を切った。私はすぐさま、リダイヤルした。

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2014年3月22日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第276回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十六回
「話は変わるけどさあ、沼澤さんも突然、消えたように来られなくなったし…、寂しくなったわ」
「ああ…、そういや沼澤さん、まだ眠気(ねむけ)会館で心霊教室をやってられるんですか?」
「それなのよ。私もね、全然、お見えにならないし、連絡もないからさあ、行ってみたのよ」
「ほう、どうでした?」
「それがさあ~、会館の職員の話では、あの心霊占いの教室は、もう終わってます、って…。それも突然によお~」
「はあ…、突然に、ですか。…あのう、云いにくいんですが、長電話になりそうですから、また夜にでも、こちらから、かけます」
「あっ! そうだわ。私としたことが…。満ちゃん、会社だと思ってたからさあ」
「ええ、一応は大臣室ですので…」
 私は自慢するつもりはなかったから、暈(ぼか)した。
「それじゃ、またね…。かけてよねえ~」
 妙に色っぽい猫なで声に、私は一瞬、ゾクッ! っとした。女性なら、いい気分で電話を切るのだろうが、男だと知っているから、妙な気分で切るしかなかった。恰(あたか)も、熱からず冷たからずの湯で、もう少し熱めなら…と思えるような中途半端な感覚だった。腕を徐(おもむろ)に見れば、十一時近くになっていた。昼からは、国連の地球語部会での進捗(しんちょく)状況を代表派遣されている言語学者から受けることになっていた。

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2014年3月21日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第275回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十五回

結局のところ、こうした流れを経て、新たな日本政治が始動したのだが、仕分けという法的拘束力のないものから、法的効力を持つ国家戦略局内の予算部局の作業は順調に推移し、次年度の当初予算案が日本史上、初めての行政トップダウン方式で提示されるに至った。与野党合意の、云わば立法府が行政府をバックアップするかのような形で生まれた予算部局で査定された予算案は、両院の予算委員会、本会議で、これといった反発もなく一部修正で可決成立した。この事実は、我が国の憲政史上、初の快挙ではないか…と、私を想起させた。もちろん、私以外の人々もそう思ったに違いなかった。これはもう、大玉様によるもの…と、私は確信した。メディアは連日、激しい報道を繰り返し、小菅(こすが)内閣の支持率は一挙に90%以上の数字を叩(たた)きだした。今や、時の人となった小菅総理はテレビや取材に引っぱりだこで、恰(あたか)もスター並みの扱いとなった。小菅プームである。当然私も、小菅内閣の一閣僚としてテレビ出演や取材に追われる多忙な日々が続いた。そんなある日、携帯にみかんのママから電話があった。
「満ちゃん? 私よ、分かる? …みかんの明日香よお~」
「わあーママかっ! お久しぶりです」
「テレビとか新聞で、毎日、見てるわよお~。あんた、大活躍じゃない。すごいわあ~。ほんと、あんたはすごい!」
「ははは…、総理に云われたことをやってるだけですよ。…大活躍か、ママにかかれば形無しですねえ~」
 私は軽く笑って、やんわりとママの毒舌から退避した。

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2014年3月20日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第274回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十四回
 さてその後、どのように国会が進展し、お告げに相談した予算の成立がどのようになったかは、読者のみなさんのご想像にお任せしよう。えっ? その辺りがお知りになりたい・・んですか? 仕方ありません。では、どうなっていったかを断片的に掻(か)い摘(つま)んで語ることにしましょう。
 長壁(おさかべ)財相に指示を下した小菅(こすが)総理の下(もと)、国家戦略室は局へと昇格され、局長は長壁氏が兼務することとなった。さらに、国家戦略局の中には予算部局という新たな下部組織が加えられ、財務経歴を持つ議員が参与という呼称(こしょう)で予算査定プロジェクトを仮実施することが決まった。とはいえ、白書の答申を待つ諮問(しもん)委員会に委(ゆだ)ねるのとは少々、色彩が異なる。要は、そういつまでも待てない性質のものだからである。しかも、諮問という法律的な根拠、強制力はなかった。小菅総理は強力な指導力を発揮して、その内部組織と権限を定める条項を追加した国家行政組織法、内閣法などの改正案を上程、審議もそこそこに両院でスンナリ可決成立させた。まあ、この背景には恐らく、お告げが云った大玉様の強力な力(フォース)が働いたであろうことは疑う余地がなかった。というのも、野党の抵抗も少なく、与党である民自社公共(みんじしゃ・こうきょう)党のみならず、全党一致で修正可決されたからだった。

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2014年3月19日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第273回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十三回
『ええ…。大玉様も憂(うれ)いておられましたよ。すこし豊かにしてやると、人間は皆、これじゃ…と』
「そんなことを? …まあ、それが人間なんでしょうけどねえ。人間の私が云うのも、なんですが…」
『ははは…。[私が云うのも、なんですが仲間]ですねえ、私達は』
 お告げと私は、いつの間にかすっかり意気投合していた。
「それで、どうすればいいのでしょうか?」
『まあ、あなたはあなたに与えられた職務を、ただ忠実にやっておられればいいんじゃないでしょうか。すべては大玉様がお考えのはずです』
「分かりました。そうさせてもらいます。…少し冷えてきたようですね。また、ひとっ風呂、浴びるとしましょう」
『はい、湯治(とうじ)を堪能(たんのう)してください。それじゃ、これで…。また何かあれば、出て参ります』
「お忙しいところを、どうも…」
『ははは…、人間じゃないので、とりたてて忙しくはないのですが…』
「そうなんですか?」
『忙しいという感覚は人間独特の感覚ですよ。霊界には一切、ございません…』
「それは、いいですね」
『いいかどうかは別次元のお話ですが…。霊界とは、そのようなところですから…』
 霊界談議の心話を終え、私達は別れた。…別れたというのも妙な云い回しなのだが…。

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2014年3月18日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第272回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十二回
「手っ取りばやく云えば、去年以前の予算の立て方というのをゼロベースに考え、最初から組み直そうというものです」
『それでも、難(むずか)しいですが…』
「ですから、…何と云えばいいんでしょうか。…つまり、我が国には八百兆を超える累積債務がある訳ですよ。それはお分かりですよね?」
『ええ、分かります。ですから、税収などの歳入財源から、その債務を差し引いたところより予算を新たに起こそうって訳ですよね?』
「当然、予算は極小化します。ここでどうするかです。新たに補う債務のための債務を少なくするしかありません。ゼロベースの見直しですから、必要なものだけを各省庁に予算配分するのです。そのためには、政府機関で予算計上する特別組織は入り用ですが…。それにしても、よく分かっておられるじゃないですか」
『むろんです。分からないことは何もないのです。ただ、そうされたとして、どうなるのか…という先読みが難しいのです』
 お告げと心話を交わしている間に、外はすっかり漆黒の闇に支配されようとしていた。
「それは、やってみなければ私にも分かりません。担当は財務の長壁(おさかべ)さんがおやりになると思いますが、債務が増え続ける一定の歯止めにはなると思えます…」
『それは、そうでしょう…。それにしても、日本は少し殺伐としてきましたね。私が云うのもなんですが…』
「ええ、たしかに…。大学を卒業しても、就職できない時代ですからねえ」
『できても、いつ失業するか分からない』
「はい、そのとおりです。残酷な事件も増えてますしねえ…」

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2014年3月17日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第271回

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                      Photo_272



                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

    第ニ百七十一回
「お呼びしたのは他でもないのですが、ひとつご相談したいことが生じましたもので…」
 私は最近、心に蟠(わだかま)っていたことをお告げに聞いてもらおうと思っていたのだった。
『えっ? どのようなことでしょう。ご相談に乗れるようなお話でしょうか?』
「相談などと…。私のザレ言を聞いていただけりゃ、それでいいんですよ」
『はあ…。とりあえず聞かせていただきましょう』
「実は、小菅(こすが)総理がまた新たに新戦略を発案されましたので、弱っているんですよ」
『もう少し具体的にお願いします』
「来年度から、予算計上の骨組みを抜本的に、・・というより根本から見直そうと躍起になっておられるのです」
『と、いいますと?』
「日本が膨大な額の累積債務に陥(おちい)っていることは、ご存知ですよね」
『ええ、それはむろん、知っておりますが…』
「総理は、この増え続ける累積債務を何とかしよう、とお考えなのです」
『なるほど! どのようにして、ですか?』
「少し話が小難(こむずか)しくなるのですが、簡単に云えば、予算成立までのプロセスを変えようという訳です」
『ほう…、ご奇特な。あなたが云おうとされていることは、すべて理解できますが、たしかにお難しい…』
 お告げは意味深に語尾を暈(ぼか)した。

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2014年3月16日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第270回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百七十回
 人間とは悲しいかな、そうは食べられない。いつもの私なら、数日はいける料理の量だった。訳は、匿名(とくめい)で宿泊したものが、どういう訳か旅館側に情報が漏れていたのだ。塩山大臣がお泊りになる…とかで、旅館はやんやの騒ぎになっていた。仲居の老女は、そんな素振りも見せず消え失せたから、私は騒ぎになっていようとは知る由(よし)もなかった。今思えば、だからあんなに料理の量が多かったのか…と分かるが、その時は半分も食べられず、心が残った。しかし、これ以上は食べられんぞ…と観念して、呼び鈴(りん)のボタンを押した。すると、先ほどの仲居が可愛い若い仲居を一人連れ、もう一度、現れた。最初が若い仲居の方だったら…と、少し悔しい気がした。二人は当然のようにテキパキと片づけて、瞬く間に襖(ふすま)の奥へと去った。さて、そうなると、あとに残されたのはシーンと静まり返った佇(たたず)まいと私である。少しアンニュイな気分に私が襲われそうになったとき、ふたたびお告げが舞い降りた。今度は、グッド・タイミングであった。
『もういいかな…と思えましたので、やって参りました。そろそろ、いかがでしょう?』
「これは…。いいところへ…。今度はクリーン・ヒットで、最高の頃合いですよ」
『そうでしたか、それはよかった!』
 お告げは、ホッと安堵(あんど)したようだった。

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2014年3月15日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第269回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十九回
 名湯(めいとう)を堪能(たんのう)し、ゆったりと旅館の用意した浴衣(ゆかた)を着て羽織りに手を通した。いい気分で部屋へ戻ると、仲居の老女が料理を運び込んだところだった。
「お湯は、いかかでございました?」
「いやあ…、ここのアルカリ泉は、なかなかのものです。辺りは絶景ですしねえ」
 確かに絶景ではあったが、老女のあなたに云っても…とは思えた。座ったところで、まず一献(いっこん)とばかりにビールをコップに注がれ、喉へ通す。感無量の飲みごたえを得て、フゥ~っとひと息つくと、老女は手慣れた仕草で固形燃料に火をつけた。小鍋の魚介が美味そうに煮え始めた。煮える鍋…煮える魚、煮付けの魚、そうだ! 煮付先輩は今頃、どうしているだろう…と思えた。いつもなら、声をかければ快(こころよ)く付き合ってくれる煮付先輩だが、この時はあっさり断られたのだった。というよりも、小菅(こすが)総理の女房役の官房長官だから、まったく空き時間が取れないらしい。私でも奇跡に近い三日をゲット出来たことを思えば、それも当然か…と思えた。その後、石焼きの細切れ和風ステーキを頬張り、絶品料理の数々に舌鼓(したつづみ)を打った。この段階で、私はすっかりお告げのことを忘れていた。
「あとは、ご自由にお願いいたします。ボタンをお押し願えれば、すぐ、お下げいたします」
 そう云うと、老女の仲居は襖(ふすま)を閉ざして消え失せた。妙齢ならば去った・・と云うべきところだが、この場合は消え失せたのだった。ただ、不思議なことに、色気を気にすることがなかったせいか、心は安らいだ。

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2014年3月14日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第268回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十八回
 念力を出すといっても、霊術師の沼澤氏のようにそう慣れた私ではない。前回は初めてコンタクトをとり、上手く呼びだせたが、今回は二度目であり、果して首尾よくいくものかどうかは疑問だった。しかし、念力を送ったあと湯を両手で汲み、顔へジャブッっとかけたとき、お告げが舞い降りた。
『お浸かりのところを…』
「いや、上手く繋(つな)がったようですね」
『電話じゃないんてすから…』
 露天風呂の湯の中だと気分も寛(くつろ)ぐ。そのせいか、私は冗談ともつかぬザレごとを口にしていた。
『ははは…。で、何か急ぎのご用でも?』
「いえ、そういう訳でもないのですが…」
 こりゃ、湯に浸かりながら話せるものじゃないぞ…と、次第に思えてきた。というのも、かれこれ浸かって小一時間ばかりは経っているようで、少し逆上(のぼ)せてきたのだ。
『…あとにしましょう。その方がいいでしょう』
「えっ? そうしていただければ…」
『では、そういうことで…』
 前にも云われたことだが、お告げは私の体調のことまですべてお見通しのようだった。話を一端、中断させると、サッと退去した。こういうメリハリの利いたところが、さすがに人間とは一味、違う…と私には思えた。

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2014年3月13日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第267回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十七回
 私が長壁(おさかべ)財務大臣に何げなく云ったことがその後、現実に実施されることになったのだから、これはもう驚く以外にはなかった。しかし、この時の私は、自分の想いを披瀝(ひれき)しただけで、まさか独自案が採用されるなどとは夢にも思っていなかった。採用され、初めて自分の言動の重さに気づかされた格好だった。みかんや会社で世間話をしてるのとは訳が違うのだ。一国を預かる大臣としては、個人を捨て、慎重であらねばならないということである。しかし、私の云ったことが素直に小菅(こすが)総理に受け入れられ、さらに議会の抵抗もなく、加えて、順調に予算編成作業が進む運びになったとなれば、やはり玉の霊力の援護射撃を思わざるを得なかった。これはもう、私の方から玉へコンタクトを取る絶好のチャンス到来…と思えた。そんな時、ポッカリと丸三日の空白日が生じた。まるで正月三が日のようなものであった。何をしようと、何をしないでいようと自由な、私の私による私のためのリンカーン的なすべてが自由の三日間なのだ。…この云い方は少し意味が違うように思えるが、まあ、いいだろう。…というのも、勝手な私独自の見解なのだが…。それはともかくとして、その三日を私は一人旅としゃれこんだ。某温泉の湯に浸かり、紅葉を愛(め)でた。
そして、この時とばかり、私の方から玉の方へ念力を送ってコンタクトをとった。露天の岩湯の中、辺りは一面の紅葉に染まり、絶景であった。

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2014年3月12日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第266回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十六回
「それでは困りますね…」
「はい、困ります。…というよりも、日本国民すべてが、のたれ死にですよ、ははは…。何か、いい手立てはありませんか?」
「私には小難(むずか)しいことは分かりませんが、民間会社なら有り得ない勘定に思えてなりません。家計だってそうでしょう。赤字なら減らすのが道理です」
「はあ、それはまあ、そうです…」
「だから、前年度の予算を元に新年度の予算を組むという慣例的な予算の立て方に問題があるんじゃないでしょうか」
「では、どうせよと?」
「どうせよ、などと偉そうに云える立場じゃないのですが、ゼロベースの査定が必要かと思えるのですよ」
「えっ? どういうことでしょう」
「ですから、前年度予算のことは一度、忘れて、これこれしかじかの償還債務があるということを念頭に入れ、歳入の総額からまずさっ引(ぴ)いてしまうのです。もちろん50~80年の完済計画で割ります。で、残った予算を各省庁へ予算配当する訳です。各省庁に、これだけしか出ませんよ、と先に云ってしまう訳ですよ」
「なるほど…。そういうことですか」
「ええ、決算審査の予算執行率などはクソ喰らえです。配当予算を要求させるのではなく、トップダウン方式で歳入調停していくという手法です。各省庁は、それを元に各予算の現額を決定していくということです」
「それは今までにない、いいアイデアです。塩山さんが抜擢(ばってき)された訳が分かりましたよ。実に聡明(そうめい)なお方だ。さっそく、総理に進言しましょう」
 長壁(おさかべ)財相は柔和な笑みを浮かべた。

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2014年3月11日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第265回

 あんたはすごい!    水本爽涼 
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    第ニ百六十五回
 農水相の時とは違い、今回の文科相は、しばらく続くだろう…と私は勝手に踏んでいた。というのも、米粉プロジェクトは世界へ向けて食糧危機への対応を発信したとはいえ、米消費は地域的なもので、全世界が必要視したかは疑問だったが、今回の地球語創設の提言は全世界が必要と認めたからだった。現に私は、何度も国連へ足を運んでいた。しかし、小菅(こすが)内閣が掲げた幾つかの目玉施策がスンナリ上手くいくと、俄かに国民世論は国内の財政赤字に向けられ、問題視された。むろん、日本の財政赤字が破綻(はたん)するほどに膨(ふく)らんだのは小菅内閣の責任ではないのだが、某国のように国家破綻の危険がその現実味を増していた。長壁(おさかべ)財務大臣も変動固定相場制がIMFで協定された直後、急遽(きゅうきょ)帰国し、この問題解決に忙殺されることを余儀なくされた。毎年、膨大(ぼうだい)化していく当初予算額は、その多くが実は累積債務の償還(しょうかん)のための予算となっていた。
「各省の予算要求が出揃(そろ)ったのですが、総額はこの額ですよ、塩山さん…。困ったものです…」
「ほう…、今年度より多いじゃないですか」
「はい…。このままだと予算のすべてを償還に向けなきゃならん日も、そう遠くないでしょう。ははは…、これはまあ、少し大袈裟ですが…」
「それは、この日本国が破綻する、ということですか?」
「ええ、そのとおりです」
 長壁財相は首を傾(かし)げて頷(うなず)いた。

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2014年3月10日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第264回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十四回
『日本経済の将来については、いかがですか?』
「えっ?!」
 突然、考えてもいない突飛な内容を訊(き)かれ、私は唖然とした。
「…、それは私の省のことじゃないですよね」
『ええ、それはまあそうなのですが…。一応、一般論としてお訊(たず)ねしただけです』
 お告げは一歩、踏み込んで質問した。
「話が少しむずかしくなってきたようです。経済というより、景気を何とかしなけりゃとか、円高とか、個々の問題ですと、とっつきやすいんですが…。少し酔ってますから」
『これはどうも…。それじゃ、景気についてはどうです?』
「景気は今や、日本だけでよくなるという時代ではないようです。世界相互間に、いくつもの協定がありますからね…。ですから今後、そう極端な好況は望めないでしょう。資源のない日本は水プラントとかの技術コミ輸出など、技術で経済を支える以外にはないでしょう」
『それについては、同じことをほんの埃(ほこり)ほどの話だが、と前置きされ、大玉様もおっしゃっておられましたよ。…では、円高の方は?』
「これはもう解決するでしょう。長壁(おさかべ)さんが今やっておられる変動固定相場制ですが、IMFで一昨日(おととい)、レートが決定されましたから…」
『そうなんですか? 私としたことが迂闊(うかつ)でした。いい気分で飲んでおられるところを、お邪魔しました。また、そのうちに…』
 お告げは唐突に去った。

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2014年3月 9日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第263回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十三回
「な~に。誰だって私のような立場になれば、あの程度のことは出来ますよ」
 お告げにはもう身体が慣れているせいか、いつ舞い降りても、そうは驚かなくなっていた。身体が自然とお告げに順応したといえる。
『いやいや、そのようなことはありませんよ。今までおやりになった発想は、凡人には浮かばないものです。それに、それらの発想を実現されたではないですか。そう、ご謙遜(けんそん)なさいますな』
「別に謙遜している訳ではないのです。地球語にしろ変動固定相場制にしろ、すべては小菅(こすが)総理の発案で、私はそれを実行しただけです」
『その実行が凡人には出来ないのです。それに、教育システムの改変は、塩山さんがおやりになった独自案じゃないですか』
「教員制度ですか? ええ、それはまあ…。以前から現行の制度改革はおかしいと考えていたことですから、偶然出来た奇跡的(ミラクル)ヒットですよ」
 私はそう云って軽く笑った。諄(くど)いようだが、云ったというのは発想上のことであり直接、口に出した言葉ではないから、誰の耳にも聞こえない。私はこれを、心話と呼ぶようになっていた。だがこのことは、眠気(ねむけ)町のみかんの二人と会社の児島君、それに退職された警備員の禿山(はげやま)さん、消えた霊術師の沼澤氏、このわずか五人が知るのみで、他の人々は、まったくもって知らないのである。まあ、こんなことを真顔(まがお)で世間に云おうものなら、たちまち変人扱いされ、日本国の大臣を罷免(ひめん)されることは必定なのだが…。

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2014年3月 8日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第262回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十二回
 さてその後、お告げの方はどうなったのか? という疑問に敢(あ)えて答えるなら、私の多忙さに遠慮してか、影を潜(ひそ)めていた、と云わざるを得ない。それほど私は諸事に忙殺されていたのである。国外においては、提唱国の代表として、有識者である専門言語学者とともに創設された国連の地球語部会への度(たび)重なる出席、そして国内においては教育システムの構築という大きな課題に直面していた。教育システムの中では、歪んだ教員養成の有り方の是正にも力を注いだ。その一として、サラリーマン化した教員の有り方に新機軸を加えた。すなわち、教職課程単位に社会体験単位として八単位を新たに加え、さらに教育実習単位も従来の二倍とした。ただひとつ、頭脳化教員養成の根城とされた教育学部の一辺倒採用を他学部と対等に下げることへの反対と抵抗は強かった。しかしそれも、なんとか実現の運びへともっていき、教育基本法の改正案を国会で通過させた。こうして、すべてが順調に動き出し、ひとまず私がやれやれと胸を撫で下ろしているとき、お告げが不意に舞い降りた。そのとき私はバスルームを出て、ワインを傾けながらチーズサラミを齧(かじ)っていた。
『お久しぶりです。ご活躍を遠くから眺めておりましたよ。それにしても、すごいお方です、塩山さんは…。さすが、大玉様が見込まれただけのことはあります』
 お告げは、しみじみと云い切った。

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2014年3月 7日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第261回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十一回
 国連日程は多忙を極めたが、それでも慣れもあってか恥をかくというほどのこともなく、無難に諸事は進んでいった。
「どうもお二人とも御苦労さまでした…」
 小菅(こすが)総理は日程が終了し、戻る帰路の飛行中、そう漏らした。むろん、機は政府専用特別機で、乗務員や一部の随行員を除けば乗客等の人影はなかった。民間人の私が社用で飛び回っているのとは訳が違った。
 小菅総理、私、長壁(おさかべ)財務大臣が全世界へ向けて発信した新提言はその後、世界各国の注目するところとなり、地球語においては国連に専門部会が立ち上げられ、創設への第一歩が始まるに至った。また、変動固定相場制の提唱もIMFで決議に向けての検討が行なわれ、近く実現される見透しとなった。
 日本へ帰着した私は、ひとまず落ち着きをとり戻したが、それもそう長くは続かなかった。国内プロジェクトとして小菅総理が推(お)し進める保安省設置大綱が正式に閣議決定され、動き始めたのだ。もちろん、他省の私は直接、関連法案作成の任にはなかったが、酒盛祝雄(さかもりいわお)防衛大臣兼特命大臣を全閣僚挙げて補佐せよ、との総理方針の下(もと)、各大臣交代で国家戦略室へ通う破目になっていた。まあ、米粉プロジェクト時に費やした労力に比べれば、微々たるものだったのだが…。

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2014年3月 6日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第260回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百六十回
 二週間後、私はふたたび世界の人となった。小菅(こすが)総理に随行する形で長壁(おさかべ)財務大臣とともに国連へ旅立ったのである。ニューヨークの国連本部へは一度行っていたから、要領はある程度、分かっていた。だから、困るということはなかった。ただ、通訳を交えての各国要人との会談や会食を共にする機会は増えた。小菅総理が世界に向けて発信しようとする地球語創設の一大プロジェクトを今、私は現実に行おうとしているのだ…と思えば、要人達との会談も弁が猛(た)けた。また、小菅総理が総会でその旨を提案説明し、特別に私が補足演説を行ったのは、前回の食糧問題を回避しようと世界へ向けて発信された米粉プロジェクトの時に続いて二度目で、私も少なからず興奮していた。私の演説は満場の拍手をもって歓迎されたが、降壇のときは両脚が震えた。
「ははは…塩山さん、さすがでした」
「いやあ、どうも…」
 小菅総理は降壇した私に讃辞らしき言葉をかけてくれた。軽く、いなしたが、何がさすがなのかは、その後も意味不明だった。私と同様に補足演説に立った長壁財務大臣も、総理が演説した変動固定相場制の詳細をぶち上げ、拍手の中を降壇した。総理は彼にも讃辞を送って迎えたが、国際社会に向けて日本が発信する姿勢が各国に印象づけられた一幕だった。

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2014年3月 5日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第259回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十九回
「いや、それにしても、今お聞きしたお考えは壮大なスケールで驚かされました。実に素晴らしいです。小者の私にでも出来ることがあればお手伝いいたしますから、何でも云って下さい」
『いえ、小者などと…。あなたの霊力も日々、向上していますから、もう小者などではありませんよ。自信をお持ち下さい』
「…そうでしょうか?」
『ええ…。あっ! ついうっかり長居をしてしまったようです。お疲れのところ、申し訳ございません。今日のような日は、お邪魔しない方がよかったですね。どうしても話しておかねば、と思ったもので、ご迷惑も考えず…』
「いいえ、迷惑などとは…」
 そう紋切型に否定はしたが、やはり九時過ぎまで総理と話していたからか、私はかなり疲れていた。そこへ加えて、食べたパスタですっかり腹が満たされ、ワインのせいもあってか少し眠くなっていた。
『それじゃ、今夜はこれで…』
 玉に分からないことはないと、いつか云われたのだが、確かに私の体調の変化を克明に玉は透視しているかのようであった。お告げが遠退いたあと、私は食べ終えた器とグラスを片づけ、シャワー室へ行った。湯を浴びるとすっかり気分もよくなり、テンションも高揚した。その後、別に何をするでもなく寝室へと入り、そのまま眠りについた。

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2014年3月 4日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第258回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十八回
『国家行政組織法、防衛省設置法などの法律を抜本改正することから始まります。大変な国内プロジェクトですが、憲法九条に関連した問題、世界に向けて発信する平和への姿勢としては、すごいと思えるのです』
「はあ、それはまあ…。ただ、そうスンナリいけばいいんですが…」
『大玉様はスムースにいくよう、その考えを事細(ことこま)かに小菅(こすが)さんへ送るつもりなのです』
「私にはあまり関係ありませんね?」
『いえ、塩山さん。あなたはそれを支持する役割があります』
「しかし、防衛省管轄のお話ですから防衛大臣でしょ? 私は文科大臣で地球語プロジェクトがあります」
『そのとおりです。ですからあなたは、支持されるだけでいいのですよ、塩山さん』
「そうでしょうね。地球語も保安省もでは、私が過労死しますよ」
『ははは…それはそうでしょう。大玉様はそのような無茶な霊力はお使いにはなりません』
「あなたを支持されるんですから、その大玉様は、ものすごいんでしょうね?」
『ええ、ものすごいですよ。ありとあらゆる霊をとり仕切っておられるのですから…』
「初めに云われた霊体、幽体とかですね?」
『ええ、そのとおりです』
 お告げは厳(おごそ)かに云った。

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2014年3月 3日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第257回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十七回
『霊のお話は、ひとまずそれくらいにして、大玉様に私が聞いたお話を霊界の決めで許される範囲でお話ししましょう…』
「ええ、是非、お願いします」
『実は小菅(こすが)さんの今後なんですが…』
「ええ、総理に今後、なにか?」
『いや、そうじゃないんです。これもプロジェクトと云えなくもないのですが…』
「詳しくお願いします」
『では…。これは地球語や変動固定相場制の話に比べれば、随分と小さい規模の話なのですが…』
「それは別に構いませんが…」
『そうですか。それじゃ、続けます。実は、現在の防衛省を保安省に機構改革するものです』
「ええっ~!!」
『ある意味、海上自衛隊と海上保安庁は似通(かよ)っていると思われませんか?』
「はあ、それはまあ…。ある意味、ダブルキャストですよね。いつやら海賊船対策では、どちらを派遣するかでモメたことがありましたね」
『ええ、そうなんですよ。ですから、海上自衛隊を組織改変して海上保安庁に統合、一本化します。陸上自衛隊は陸上保安庁、航空自衛隊は航空保安庁と改変し、三保安庁を掌握する形で保安省を設置するというものです』
「ど偉い話ですね。はたして、そう上手くいきますかねえ~」
 いくらお告げでも…と、私はこの話が俄(にわ)かに信じられなかった。

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2014年3月 2日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第256回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百五十六回

 家に帰り着くと、空腹なことに気づいた。そういや、官邸では何も出なかった、というより、そうした時間もなく語り合っていたことを思い出した。首尾よく冷蔵庫の中には、戴(いただ)き物の生ハムや昨日、量多く湯がき過ぎたパスタがあったので、それらを加熱、調理し、事なきを得た。人は食べ物を蓄えておく肉体的機能がないから不便だなあ…と思いつつワインを傾けた。ようやく人心地ついた頃、先ほど終息したお告げが、また舞い降りた。
『…もう、そろそろいいでしょうか?』
「えっ? ああ、はい…」
『そういうことで、霊力を小菅(こすが)さんに送ったのは大玉様みずからで、私ではありません…』
「はあ、それは分かりました。もっとお偉(えら)い上のお方が出した霊波動なんですね?」
『お偉いとか、偉くないとか、人が考えるそういう次元の発想は私達霊界には、ないのです。ただ、霊自身の出来、不出来はございますが…』
「その辺りを、もう少し訊(き)きたいですね」
『そうですか…。要は、出来が悪い幽体、悪霊と呼ばれる霊から、霊体と呼ばれる出来のいい霊まで、さまざま、ということです』
「で、あなた方は」
『大玉様も私も、それらのすべての霊を監視している、と人間的に云っておきましょう』
「なるほど…」
 私は、そうなんだ…と、今回も全面的に信じた。

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2014年3月 1日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第255回

 あんたはすごい!    水本爽涼

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    第ニ百五十五回

「あっ! もうこんな時間ですか…」
 ふと、腕を見ると九時を回っていた。
「ほんとだ…。今日は、この辺りにしますか…。それじゃ、さきほどの件、よろしく頼みます。国連日程などの詳細は後日、秘書官を通してお伝えしますので…。態々(わざわざ)、お呼び立てしてお手数をおかけしました」
 小菅(こすが)総理との話を終え、私は首相官邸を出た。玄関近くまで総理は送り出してくれた。幸い、帰りも取り巻きの記者連中の姿はなく、私は闇へ紛(まぎ)れ、地下鉄の人となった。
『もし…』
 舗道を歩き、帰路を急いでいると、暗闇の中にお告げが舞い降りた。
「あの…すみません。一寸(ちょっと)、疲れてますので、家へ着いてからにしてもらえませんか?」
『ああ…これは、とんだ失礼をしました。先ほど訪れはしたのですが、小菅さんと熱心に話されてましたので、ご遠慮していたのですが…』
「そうでしたか。お待たせして申し訳ありません。それに、また待たせますが…」
『いいえ、それはいいのです。小菅さんのお話ですが、地球語の方は大変、魅力的なお話しに思えましたもので…』
「と、いいますと、あなたがお出しになった霊力ではないのですか? それに、変動固定相場制の方はどうなのでしょうか?」
『ええ、私じゃなく大玉様の霊力なんですよ。まあ、その辺りは長くなりそうですから、のちほど…。それじゃ』
 お告げは短時間で終息した。

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