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2014年4月

2014年4月30日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第315回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百十五回
 急に無言となり黙々と酒を飲む私を、二人は少なからず訝(いぶか)しそうな眼差(まなざ)しで眺めていた。だが、敢(あ)えて語りかけようとはしなかった。考え含みな私の顔を見て慮(おもんばか)ったのだろう。話すことなくグラスを傾け、ツマミを齧(かじ)っていると、すぐグラスが空になった。そこはそれ、心得たもので、ママはもう、おかわりのグラスを準備していて、空になったと見るや、サッ! っとチェンジして私の前へ置いた。それも手慣れた仕草であった。さすがに私も、「あっどうも…」と、ひと声、発していた。しかし、ママは笑顔のみで言葉は返さず、静寂が続いた。早希ちゃんは携帯を例のように弄(いじく)って、株価の動向に余念がなかった。私はその後もグラスを傾け続けた。玉との心話は私の酔いもあり、次第に遠退いた。ママは数度、グラスを変えてくれたように思う。その辺りで次第に私は眠くなってきた。いや、眠くなったというより、私の記憶は頓挫した、と云った方がいいだろう。それも一瞬、対面に置かれた酒棚の水晶玉を見た刹那であった。むろん、かなり飲んでいたこともあったのだろう。気づけばカラオケ前の長椅子で私は眠っていた。両の瞼(まぶた)をゆっくり開けると、ママと早希ちゃんが心配顔で私を見下ろしていた。
「よかった。気づいたみたい、ママ」
「大丈夫? 満君…」
「えっ? あっ! どうしたんだろう…」
 この時、ふと私の脳裡に、この場面は、いつかと同じだ…という想いが駆け巡った。

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2014年4月29日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第314回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百十四回
ママは水割りのダブルを、注文(オーダー)していなかったが、作ってくれた。そのグラスをグビッっと喉へと流し込み、チーズサラミを頬張ったとき、背広の携帯が激しくバイブした。私は徐(おもむろ)に内ポケットから携帯を取り出して開いた。かかってきた相手は、消えたあの沼澤氏だった。私は急いで携帯のボタンを押した。
「はい! 塩山です! …もしもし!」
 通話は切れていなかったが返事がなかった。しかも、向うに存在するはずの沼澤氏の息遣(づか)いが聞こえてこない。それどころか、人の気配もしなかった。だが着信は確実にしていた。どう考えても奇妙に思え、気味悪さもあったから、私は通話を切った。
「…だれから?」
 ママが怪訝(けげん)な顔で私を窺(うかが)った。
「いやあ、間違い電話でした…」
「そお…、嫌あねえ~」
 そうして、十分ほどは何もなかった。私は、ママや早希ちゃんと世間話をポツリポツリとしていた。その時、お告げが舞い降りた。
『今の電話は霊界におられる沼澤さんからてす。彼は今、あちらで霊術師をやっおられます。俄(にわ)かに頼まれましたので、やってきたようなことです』
「ならば、私と直接、お話しされてもいいんじゃないでしょうか」
『それは、いつぞやも申しましたが、霊界の決めで出来ないのですよ。沼澤さんは、そのことに気づかれたのでしょう』
「はあ、だから…」
『はい、そういうことです』
 両者の心話は、むろんママや早希ちゃんには聞こえていない。私は静かにグラスを傾けた。

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2014年4月28日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第313回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百十三回
「あれっ? 早希ちゃんの姿が見えないですが…」
「彼女さあ、今、食材のお買いもの」
「ああ、それで…」
 私はその後しばらく、ママと他愛ない話をしていた。早希ちゃんがマイバッグを下げて帰ってきたのは、それから三十分ほどした頃だった。
「あら、満ちゃんじゃない、久しぶり。どう、元気?」
「ごらんのとおりさ。まあ、少しは年をとったけどな、ははは…」
「日本のお偉い人だったんだから、そんな口、きいちゃ駄目でしょ、早希ちゃん」
「いけない! そうでした、そうでした」
「今日は、ゆっくり出来るんでしょ?」
「ええ、それはまあ…。それより、沼澤さんは来られないんですよね?」
「なに云ってんの。沼澤さんは遠い所へ行ってしまう…って云ってらしたじゃないの」
「そうですよね? いやあ、東京で見たのは空耳…じゃなく、空目だったかなあ」
「ふふっ…。満ちゃん、面白いジョーク。空耳じゃなく空目か。ふふ…」
 早希ちゃんが小さく笑い、ママも釣られた。私はその隙(すき)に酒棚へ目線を走らせた。沼澤氏が置いていった水晶玉は、変わらずいつもの場所にあった。

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2014年4月27日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第312回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百十ニ回
 専務を通り越しての社長就任である。湯桶(ゆおけ)さんには面映(おもは)ゆい気分だったが、就任した以上は会社のために全力を傾注しなければならない。幸い、就任当時の米翔(こめしょう)には、これといった問題がなく、順調な成長を続けていた。以前、私が手がけた米粉プロジェクトがその後も堅調な営業実績を示し、当期純利益も前ほどではないにしろ、一定幅の黒字を保っていた。営業部長の児島君に社内全般の現状を報告してもらい、私なりに社内を把握しようと努めた。そして、ようやく一段落する運びとなった。社長就任の報告もあり、久しぶりに私はみかんへ寄ることした。それには別の理由で、ここ最近、お告げが舞い降りていなかったことも関係していた。みかんの酒棚に置かれた玉になにか異変でも…と思えていたからだった。本当のところは、いかにも鼻高々に自慢しにいくようで嫌だったのだが、そういう思惑があったためということだ。
 みかんへは、いつもの頃合いに行った。この日はお決まりのA・N・Lへは寄らず、麺坊で塩バターラーメンを食べてから行った。
「いらっしゃい! 随分、貫禄がついたわね、満ちゃん」
「またぁ~。ママには勝てないですよ」
「あら? 私って、貫禄?」
「ええ、かなり…」
「まあ! 満ちゃんも云うじゃない」
 私とママは互いの顔を見合せて笑い転げた。

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2014年4月26日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第311回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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「ところで話は変わりますが、児島君は頑張ってますか? 長らく会ってませんが…」
「ああ、児島部長ですか? 彼は張りきってやってくれております。随分、助かります」

「ほう、児島君、部長になったんですか?」
「はい。つい数ヶ月前なんですがね…。部長の湯桶(ゆおけ)君が退職しましたので…」
 自ら万年リストラ候補を買って出て、多くの社員をリストラの荒波から救った湯桶さん。ようやく部長代理、そして部長と昇格した・・涙なしには語れない、その湯桶さんがついに退職されたのだ。私はなぜか感極まり、涙していた。こういう人生もあるんだ…と思えた。
 ニ日後、私は会社を訪ねた。玄関(エントランス)へ入ると、鍋下(なべした)専務へ数日中に行くと云っていたから、そのことは当然、伝わっていて、炊口(たきぐち)社長は今か今かと私を待っていた。
「いやあ、ご足労をおかけしました。ひとつ、よろしくお願い致します」
「それはよろしいんですが、わたしのような者でいいんでしょうか? 鍋下専務の方が適任かと…」
「何をおっしゃる。あなたの常務までの実績からして申し分ないと判断した上です」
「そうですか…。そこまで仰せなら、微力ながらお引受けしましょう」
「ええ、あなた以外にはおられません。それに今や、名誉町民でもあられる。さらには、世界にもミスター塩山の名は轟(とどろ)いておりますからなあ、ははは…」
「いや…恐れ入ります」
 こうして私は執行役員として米翔(こめしょう)の取締役社長を拝命することとなった。

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2014年4月25日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第310回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百十回
「ああ…、塩山さんですか。私、誰だか分りますかね?」
「ええと…。聞き慣れた声なんですが、誰でしたっけ?」
「ははは…。専務の鍋下(なべした)ですよ。実は、社長の炊口(たきぐち)さんが会長に就任されるんですが、是非、社長の後任を塩山さん、あなたにお願いしたいと、こう申されておるのですよ。で、一度、会社の方へお越し願えませんかな?」
 鍋下専務や炊口社長は私の元上司である。そう無碍(むげ)にすることも出来ない…と思えた。
「はあ、それは大丈夫なんですが…。炊口さんが会長ですか? なら、専務、あなたが社長になられるのが順当ですよね?」
「はい、それはまあ、そうなんですが…。私、体調が今一でして、寝言(ねごと)総合病院へ通院しながら勤めておるようなことでして…。とても、重責を果たせる自信がですな…」
 鍋下専務は語尾を暈(ぼか)した。
「どこがお悪いんです?」
「いやあ…、少し耳が遠くなりましてな、ははは…」
 誰だって多少は遠くなるでしょう…と云いそうになり、危うくやめた。
「分かりました。…では、数日中に一度、顔を出させていただきますので、その旨、お伝え下さい」
「はい! なにぶん、よろしくお願い致します」

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2014年4月24日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第309回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百九回
 帰省すると、車のバッテリー交換から私の新生活は始まった。始動せず一年以上、経っていたこともあるが、まあ、へたって買い換えの時期だったこともある。しかし、そんな他愛もない生活は東京にいた頃は望めず、日々を齷齪(あくせく)していたのだから、ありがたいと思わねばならなかった。眠気(ねむけ)へ帰ってからの私は、会見場で見た沼澤氏らしき人物のことなど、すっかり忘れてしまっていた。
 バッテリーを取り換え、道具類を片づけようとしたとき、お告げが舞い降りた。
『お久しぶりです。ようやく落ちつかれたようですね』
「ああ…はい。やっと解放されたようです」
 私はまったく驚かずにお告げを聞くことができた。これはもう、慣れという他はなかった。
『あなたの銅像が建つそうじゃないですか』
「ええ、らしいですね…。そんなことは、別にどうでもいいんです。問題は、これからの私が、どうなるか、なんです。早い話、今後ですよ」
『そのことについては、大玉様から何も云われておりませんので、私にもよく分からないのです。ただひとつ、五分後に電話がかかりますよ』
「えっ?! 誰からでしょう?」
『会社の方なんじゃ…くらいしか云えません』
 そこでお告げは突然、途絶え、電話が予告どおりすぐにかかってきた。丁度、五分後だった。

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2014年4月23日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第308回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百八回
 それから十日後、煮付(につけ)先輩が云っていた第ニ次小菅(こすが)改造内閣が発足した。私はその様子をマンションの自室テレビで観ていた。呼び込みがあるとの事前情報が入った前回とは違い、この日は楚々とした気分で冷静に画面を眺(なが)められた。先輩から入閣はない旨を知らされていたからだ。そして、全閣僚の名簿が発表されたとき、私は一塊の国民へと戻っていた。なぜか虚(むな)しさとか寂しさはなかった。というのも、世界の、いや、人類のと云っていいかも知れない偉大な仕事をなし終えた…という充実感の方が数倍、勝(まさ)っていたからである。閣僚名簿を読んだ先輩は、言葉どおり官房長官を留任して内閣へ残った。農水相のときも体験済みの私だったから、Uターン準備も慣れた手際で進み、その二日後、私は東京を離れた。ただ、小菅総理から官邸へ直接、呼ばれ、内閣総理大臣賞と国民栄誉賞の菊紋入り銀杯と賞状、記念品を頂戴したのが前回とは大きく違った。私は、これですべてが終わった…と思った。
 久しぶりに故郷へ戻ったが、眠気(ねむけ)の町はちっとも変わっていなかった。ただ、私は過去の一町民ではなく、町あげての歓待を駅前で受けたのだった。少なからず照れくさい気分で、私は花束を目覚彦一(めざめひこいち)町長から受け取っていた。
「いやあ、ははは…ご苦労さまでございました、塩山さん。あなたを名誉町民と致しましたからな…。近く、この駅前に、あなたの銅像も立ちます」
「えっ?! はあ、どうも恐れ入ります…」
 目覚町長にうやうやしい労(ねぎら)いの言葉をかけられ、私はそう返すのが精一杯だった。どういう訳か、国連演説のときよりも私は緊張していた。

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2014年4月22日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第307回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百七回
 沼澤氏のことは、さておき、私は会見中継されたことにより、すっかり有名人になってしまった。日本国内ばかりか世界各国でも中継の様子はマスコミに報じられ、私は地球規模で有名になったのだった。ただ、そのこと自体は私にとって、どうでもよかった。気がかりだったのは、会見場で見た沼澤氏らしき人物のことだった。だが結局、沼澤氏はその翌日以降も現れず、会見場で見た、らしき人物の一件は地球語科目化後の諸事で私の記憶から薄れていった。
「どうやら改造へ傾くぞ、塩山。お前さんも今じゃ、世界の塩山だ。俺は留任らしいが、お前さんは外れるだろう…。まっ、この辺りが引く潮どきだろう…」
 官邸へ呼んだ煮付(につけ)先輩が私にそう云った。小菅(こすが)総理に官邸へ呼ばれ、私に伝えるよう指示されたらしかった。そんなことより、先輩が「お前さん」と「さん」づけで呼んでくれたのがピュアに嬉しかった。ついに私も「お前」から「お前さん」か…と感慨深かった。
「そうですね。地球語も片づきましたし、私も少し疲れましたよ、先輩。正義の味方は、ここら辺で疾風(はやて)のように消えないとね」
「ははは…、上手い! 最近、減ったからなあ、正義の味方が。自分さえよけりゃいい人間ばかりが増えちまったよ。また、そういう奴らがのさばれる悪世だからなあ…」
「はい、それは云えます…」
「ところで、どうする? 今後は。眠気(ねむけ)へ戻るか?」
「はい、そのつもりです。家がありますから…」
「そうか…。そうだな! お前さんも嫁でももらって小さく纏(まと)まれ! なっ! 今なら有名人だから選(よ)り取(ど)り見取(みど)りだぜ」
「またまた、悪い冗談を…」
 私達は久しぶりに大笑いした。

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2014年4月21日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第306回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百六回
「その時になってみないと分かりませんが、たぶん、会社じゃないかと…」
 そう云いながら笑みを浮かべた。そして後方のガラス越しに中継を見る一般群衆へ何げなく目を向けた。すると、なんと! その中に、あの沼澤氏が混ざって私を見つめているではないか。一瞬、私は自らの眼を疑った。しかしどう見ても、風格、容貌は消えた霊術師の沼澤氏だった。いや、いやいやいや、沼澤氏が東京に今、いる訳がない! と、私はすぐ全否定した。だが、よく考えてみれば、眠気から消えた沼澤氏が偶然、東京のこの会場にいたとしても何の不思議もなかった。私はすぐ、立ちながら眺(なが)める群衆の方へ行きたくなった。しかし会見が終わっていない以上、急に立つことも憚(はばか)られた。
「よろしいでしょうか? …それでは、これで会見を終わらせていただきます。大臣、お忙しい中を、どうもありがとうございました」
 全国へ多元中継された会見は、これで終了した。ガラス向うの群衆は、蜘蛛の子を散らしたように消えていった。私は慌てて立つと、沼澤氏らしき人物を追ったが、その姿はすでに辺りにはなく、私は見誤りだったのか…と思う他はなかった。まあ、他人の空似という言葉もあるくらいだから…と、深くは考えないことにし、私は待たせた車へ乗り込んだ。

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2014年4月20日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第305回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百五回

「…失礼しました。正直申しまして、過分の受賞でございまして…」
「…と、申されますと?」
「はい。ですから、私にとりまして、ノーベル賞などという賞を頂戴するのは誠にもって、おこがましい限りでして…。しかも、平和賞を頂いただけでも過分でございますのに、無学の身に医学賞を併せて頂けますとは…」
 多少、上がっていたこともあったのだが、それ以上に私は感、極(きわ)まっていた。進行役のアナウンサーが、「次の方、どうぞ」と云った。
「読富士(よみふじ)新聞の朝月(あさづき)です。近々、小菅(こすが)総理が内閣改造をされるとの情報が巷(ちまた)に流れておりますが、その点については?」
「いやあ…そうなんですか? こちらがお訊(き)きしたいくらいのもので、まったく知りません。皆さんの方がよくご存知ですねえ」
 私は嫌味をひとつ吐いた。これが功を奏したのか、それ以上、朝月さんは突っ込まなかった。私としては、やれやれで、してやったり・・だった。
「お時間も遅くなってまりました。これで最後にしたいと存じます。どなたか?」
「はい、毎回テレビの矢吹です。先ほどの質問に関連してなんですが、改造内閣で入閣されなかった場合、いかがされるご所存でしょうか?」
 核心を突く鋭い質問が私に浴びせられた。

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2014年4月19日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第304回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百四回
 受賞式は年も押しつまった頃、とり行なわれた。そして式も滞(とどこお)りなく済み、私は東京へとUターンした。空港へ降り立つと、国外ではまったくなかったフラッシュの放列を浴びた。それは飛行場から移動した駐車場で、車から降りた直後の暗闇だった。記者会見場がセットされていたにもかかわらず、歩く通路で記者達から矢継ぎばやの質問が飛んできた。私は、「ああ…それは、のちほど…」などと口走りながら報道陣を押し退(の)けるように控え室へと退避した。もちろん、露払い役の秘書やSPが私の前後や横にいたことで直接、押されるとかはなかった。
 控え室のドアを閉じ、ようやく人心地つくことが出来た。その時お告げが舞い降りた。
『おめでとうございます。今日は会見があるようですから後日、改めて伺います』
 お告げとしては、もっともシンプルで短いものだった。こちらから返す間(ま)もなかった。その後、私はセッティングされた記者会見に臨んだ。大よその質問は予想できていた。備わった霊感が多少、向上したように自分にも思えた。
「PA通信の黒豆(くろまめ)です。W受賞のご感想をひと言!」
 私は思わず吹きだしそうになった。黒豆はないだろう…と笑えたのだ。

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2014年4月18日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第303回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百三回
 ママの声がしなくなったと思ったら、今度は早希ちゃんの声が響き始めた。どうやら、ママが携帯を早希ちゃんへ渡したようだった。
「あっ! 私。おめでとう、満ちゃん。ほんと、すごいわ。私、惚れなおしちゃった」
「またまたまた…、上手いこと云うな、早希ちゃんは。その手は桑名の焼き蛤(はまぐり)だ」
「ワォ! 満ちゃんこそ上手いじゃない」
「もう…。これくらいで勘弁してくれよ。疲れてんだからさぁ~」
「分かった分かった、ゴメンゴメン。じゃあ切るわね~」
 ママの声も小さく聞こえたところで、早希ちゃんは携帯を切った。早希ちゃんに云ったのは本当で、私はすっかり憔悴(しょうすい)しきっていた。というのも、TSS免疫ワクチンの一件で忙殺されたことと、今度のノーベル賞決定によるメディアの取り巻きによるものだった。よく考えれば、ノーベル平和賞は、ともかくとして、何の医学知識もない私が医学賞も受賞するのは妙だ…と思えていた。私が玉のお告げをそのまま口にした結果、土壌よりTSS免疫ワクチンが開発されただけのことなのだ。いくらそれによって人類が救われたにせよ、少し騒ぎ過ぎのように思えた。しかも、初めてのダブル受賞ともなれば、これはもう完全に、地球上で私一人が浮き上がった存在になった気分だった。

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2014年4月17日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第302回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百ニ回
「味見(あじみ)厚労大臣がおっしゃられたように、国民への必要本数は十分確保できる見込みですので、慌(あわ)てずにワクチン接種していただきたく存じます。私からは以上です…」
「そうですか。おふた方、本日はお忙しいところを、どうもありがとうございました。これにて報道特別番組を終わります」
 こうして放送は終了した。ゴールデンタイムの放送と差し迫った危機感からか、視聴率は、なんと80%を越える高率を叩きだした。これは国民の大多数がこの番組を観たことを物語っていた。
 とにかく、テレビやラジオ、新聞などで情報開示(ディスクローズ)することにより、国内のパニックは食い止められた。こうしたメディア報道で私の知名度は世界規模で益々、高まっていった。こうなれば、私はすでにただの一国民ではなかった。私の名声は、耐性ウイルスがTSS免疫ワクチンにより完全に世界から駆逐され、パンデミックスの終息宣言がWHOから出されるに及んで極限に達した。季節は春が過ぎ、夏が来て、秋も終盤の病葉(わくらば)が散り始めた頃だった。秘かに囁(ささや)かれ続けていたノーベル賞の受賞ニュースが耳に飛び込んできたのは丁度、その時期であった。
「満ちゃん、観たわよ、テレビ…。あんた、すごいじゃない! ほんと、あんたはすごい! ノーベル平和賞と医学賞のダブル受賞なんて、あんた前代未聞! 過去にあったかしら? …ないわよねえ~、たしか。あんたさ、ほんとにすごい、立派! もぉ~、うちのお客でよかった!」
 ママから携帯をかけられ、出たのが運の尽きで、私は、長々とベタ褒(ぼ)めされる破目に陥(おちい)っていた。「はあ、まあ…」、「ははは…」、「ありがとうございます」を何度となくサイクルで繰り返した。

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2014年4月16日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第301回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百一回
 そうこうするうちにテレビ局に着いた。放送は対談形式で行われると車内で秘書が説明してくれていた。車を降りると、局長以下、担当プロデューサー、ディレクターなど錚々(そうそう)たるメンバーのお偉い方がエントランスで迎えてくれた。こんなにしてもらわなくても…と、少し照れくさかった。
「控え室は、こちらでございます…」
 うやうやしい態度でディレクターは私を控え室へ案内した。味見大臣はすでに到着し、座っていた。メイクとまではいかないハレーション避(よ)けの顔クリームを軽く塗り、放送に臨(のぞ)んだ。放送の十分ほど前だった。
「おふた方、思いどおりにお話し下さって結構でございます。特に、こちらからの指示などはごさいません。ただ、放送終了五分前にADがカンペを出しますので…」
 ADらしき青年がカンベ用紙を手で示し、ペコリと頭を下げた。ああ、この人がADだな…と思った。その後、質問をする女性アナウンサーが紹介され、収録が始まった。映される私にとっては、生番組でないのが唯一の救いだった。
 収録は順調に進んでいった。そして放送終了五分前となり、カンペがADから出た。
「最後に塩山大臣、国民の皆さんに対し、何かおっしゃられることがあれば…」

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2014年4月15日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第300回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第三百回
「えっ?! …ああ、まあ」
『今日は大玉様のご意思をお伝えしようと、現れたような次第です』
「はあ、それはどうも…」
 お告げと私の間の心話が始まった。心話だから前の座席で運転をする秘書には聞こえない。飽くまでも心の会話であり、口は閉ざされたままだ。
『大玉様が申されるには、ここまでの道筋をつけてやったのだから、あとは塩山さん、あなたの力でどうにでもなるだろう…ということです』
「それは分かりますが、だから私にどうせよとか、仰せになったのでは?」
『いいえ、そこまでは申されておりません。今までのあなたなら、そんなお言葉もあったのでしょうが…』
「大玉様は、もう私に関与されないということでしょうか?」
『その辺りは私には分りかねますが、この後はあなたの力次第だと申されたかったのでしょう、恐らくは…。私を呼び出せるようになった、あなたなのですから…』
「そういうことですか…」
『ええ。まあ、そういうことです』
 なるほどなあ~と、私は得心した。要するに、あとはお前次第ということのように第一感、思えた。ただ、それがどうだというんだ、と私は巡った。そんなことだけで態々(わざわざ)、私の前へ現れる必要などあるのだろうか? とも思えた。

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2014年4月14日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第299回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十九回
 一躍、脚光を浴びるようになった私は、新聞だけでなく、週刊各誌、テレビを賑(にぎ)わせることになっていった。こうなれば、外出する場合にも人目を気にせねばならなくなる。スターではないが、ある時など、親子連れで歩く母親から、「あら! 塩山さんだわ、文部科学大臣の…。サイン下さい!」などと云われた。私はスターじゃないんだから…と思えたが、断る訳にもいかず、素直に応じる他はなかった。素早く書き終えて手渡すと、他にも数人の通行人がこちらを見ていた。私は逃げるように慌ててその場を去った。多くの芸能人の方々も、こんなご苦労があるんだろうなあ…と、ふと、思えた。
「大臣、お急ぎ下さい。テレビ対談が三十分後にセットされておりますので…」
「ああ! そうだったね…」
 車へ慌てて乗り込んだ私は、テレビ局へと向かった。むろん、私は後部座席であった。
「君、今日の話は何だっけなあ?」
「もちろん、TSS免疫ワクチンの話です」
「そうだった、そうだった…」
 思い出した私は、心を落ちつけようと、静かに両眼を閉ざした。その時、お告げが舞い降りた。
『なかなかお忙しくなりましたね、塩山さん』
 突然のことで、私は聊(いささ)か、面食らっていた。

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2014年4月13日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第298回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十八回
 次の日の朝、私は起きるとすぐ新聞受けへ行き、新聞を取り出した。しかし先日、煮付(につけ)先輩が指摘したような私の記事は載っていなかった。とりあえず私は、ホッとした。ところが、それは単なる糠(ぬか)喜びでしかなかったのだ。その翌朝、つまり、先輩が予告した次の日、どデカい見出しの記事が出た。それには、先輩の内容に加えて世界各地でTSS免疫ワクチンが耐性ウイルスを死滅させたことが記されていた。そして、その記事の提供者が現内閣の民間出身大臣である私だ、とあった。私はこの段階で日本の、いや、世界における時の人となってしまったのである。幸いにも、この記事が載った朝は、私に対する記者連中の取り巻きは起こっていなかったが、その夕刻、私がラーメンでも食べようと、何げなく出た表通りで取り巻かれたのである。私は、まるでスターであった。
「塩山大臣、世界を救われた感想をひと言!」
 突然、私の目の前へマイクが向けられた。こうなっては、どうしようもなかった。
「えっ? いや…、ちょっと通して下さい」
「お願いしますよ、大臣!」
 別の記者が急に横から差し出したマイクが私の歩みを止めた。私はとうとう観念して、インタビューに答える決心をした。
「…人類が救われるかは、まだ経過中でして、何とも分かりませんので…」
「世界では、もっぱら時の人としてノーベル賞の呼び声が高くなってますが…」
 ノーベル賞の授賞式が12月10日であることは知っていた。
「今は、賞の時期じゃないでしょ?」
 そんな声が世界で起こっていようとは、もちろん、その時の私は知らなかった。私は一応、質問を斬り返した。

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2014年4月12日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第297回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十七回
 その二日後、外は小雪が舞っていた。私は正月の残り餅を焼きながら、久々にマンションでのんびりしていた。正月返上の忙しさで、ようやく休めた二日間だった。むろん、大臣だから、何か不測の事態があれば緊急出動を余儀なくされる立場なのだが、耐性ウイルスの免疫が発見された安堵(あんど)感からか、余り心は乱れていなかった。餅を食べ終えかけたとき、急に電話が鳴った。携帯ではなかった。
「おお塩山か、喜べ。耐性ウイルスの免疫ワクチンの製造認可が下りたぞ。しかも、世界にその製造法が配信され、各国でも製造がはじまるようだ。これで、パンデミックスは食い止められるぞ」
「そうですか! そりゃ、よかった」
 私は煮付(につけ)先輩の朗報に歓喜した。
「ただひとつ、拙(まず)いことができた」
「えっ? どうしたんです、先輩」
「実は、小菅(こすが)総理がメディアの前でついうっかり、失言されてしまったんだよ」
「何を、ですか?」
 官房長官の先輩だから、内閣の情報は逐一、手に取るように伝わっていた。
「君のことを、だ。報道陣の質問の中で、なぜ土壌菌がウイルスに有効だと分かったのか、という質問が飛んだようだ。総理の性格だから、ありのままを包み隠さずおっしゃったようだ」
「私の記事が報道される、ということですか?」
「ああ、恐らく明朝の新聞には大きく載るだろう」
「ええっ! こりゃ、参りましたね…」
 私は偉い大ごとになったぞ…と、心配になっていた。

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2014年4月11日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第296回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十六回
 結果から先に云えば、お告げの内容はすべてが正しかった。むろん、私はお告げが間違った内容を云うはずがない、と固く信じていたが、特別編成チームが出した報告に、やはりそうだったか…と、安堵(あんど)した気分だった。その中に、これで人類、いや地球上の家畜を含む全動物が救われると、ほっとした安堵感があったことも否(いな)めない。
「総理! それは、よかったですね!」
「塩山さんのお蔭(かげ)ですよ、ほんとに。味見(あじみ)さんもひと安心で、枕を高くして寝られると云ってられましたよ」
「そうでしたか…」
 小菅(こすが)総理に呼ばれ、官邸を訪れていた私は、総理から研究報告を聞いたところだった。その時、煮付(につけ)先輩が、いつもの豪快さで入ってきた。
「おい! 塩山、やったな!」
 開口一番、笑顔の言葉が飛んできた。
「いやあ…。私は何をしたという訳じゃないんですが…。それに、免疫ワクチンが市場に出回ってない段階ですし、まだ安心は…」
「まあ、そう云うな。耐性ウイルスが死滅するワクチンの成功は確認されたんだ。あとはワクチンを世に送る課題だけなんだからな」
「はあ…まあ、そうですが」
 先輩の云っていることは正しかったので、私は語尾を暈しながらも肯定した。

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2014年4月10日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第295回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十五回
 次の朝、さっそく私は小菅(こすが)総理の官邸を訪ねた。総理も忙しいから当然、事前連絡をとってのことだ。私は、お告げのことだけは伏せて、土の雑菌に纏(まつ)わる話をした。
「ほう…。それは本当ですか? 誰からのお電話かは事情で云えないとのことですが、その方は大学で教鞭をとっておられる方でしょうか? 偉く専門分野のお話をされてますが?」
「ええ、まあそのような立場の方です」
「我が国も家畜伝染が確認されましたし、一刻を争う事態です。世界中が治療法発見に躍起となっておるときですから、この雑菌が、というより、この土への発想と研究が人々に福音(ふくいん)となればいいのですが…」
「分かりました。さっそく味見(あじみ)さんを呼んで、何らかの手立てを講じましょう」
 小菅総理も煮付(につけ)先輩が局長の国家戦略局へ寄る用向きがあるらしく、私との話は、わずか十分ほどだった。それだけ我が国は一刻を争う対応を迫られていたのである。
 私が総理に進言した話は、ことがことだけに、すぐ味見厚労大臣の耳へ伝わり、トントン拍子に実現へ向け動き始めた。まず、厚労省トップから指示が下され、研究機関に特別編成チームが組織され、直ぐに土壌研究が開始された。通常の場合、半年以上はかかる行政対応も、その緊急性からか、わずか一週間という迅速さであった。

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2014年4月 9日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第294回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十四回
「その菌なら、パンデミックスを阻止できると?」
『ええ、そのはずです。そればかりか、インフルエンザ、エイズ、結核など、他のウイルスや菌の抗体に、さらには癌治癒の一助ともなることでしょう。…分かりましたか?』
「はい、一応は…。しかし、この話を私がしたとして、人々は信じてくれるでしょうか?」
『一地方の会社の常務だったあなたなら無理な話でしょう。ですが、今のあなたの地位は?』
「…小菅(こすが)内閣の大臣です」
『でしょ? 一国の大臣なのですよ、今のあなたは。内閣の一員のあなたなら、総理を動かして世の人々を信じさせることは可能です』
「そうでした。私は今の地位の自分を忘れてました。さっそく、総理や厚労大臣と協議しますが、なんとかできるかも知れないですね?」
『なんとかできるかも知れない、のではなく、なんとかするのです。塩山さん、あなたが』
「私が、ですか?」
『はい、あなたが…。あなたはすごいんですよ、それをお忘れなく。もう少し、自信をお持ちください』
「分かりました、やってみます。長々と、ありがとうございました」
『いいえ、どういたしまして…』
 それでお告げは途絶えた。浴槽の中に浸かったままの私は、やや逆上(のぼ)せてしまったようで、慌(あわ)てて浴槽から立ち上がって出た。

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2014年4月 8日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第293回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十三回
当然、発生地域周辺の家畜は屠殺(とさつ)処分された。このウイルスの強力さは鳥、豚、牛など一切の家畜に伝染性をもつ点で、今までの単一性の家畜のみに留まらない異常さにあった。しかも多剤耐性のウイルスなのだから、人類は、まったく手の施しようがなかったのである。
『お待たせしました。大玉様の了解が得られました。塩山さん、とうとうあなたのすごさを全世界の人々に示す時が来たようです。この今が最大かつ、ただ一度のチャンスなのだと大玉様はは申されました。あなたを手助けせよ、とも…』
「私のことなど、どうだっていいのです。世界の人々が救われれば…。ただ、それだけです」
『はい、まずそのことでした。私は結果を先に云ってしまったようです。すみません…。では、ウイルスの蔓延(まんえん)を静止する方法をお教えしましょう。一度しか云いませんから耳を欹(そばだ)てて、よ~くお聞きください』
「はい…」
『土はご存知ですよね?』
「えっ? 土ですか? …そりゃ、もちろん。土ですよね? 地面の」
『そうです。その土です。世界のどこにでもある土です。その土の中に、ある種の雑菌がいるのです。その名は申せませんが、頭のいい人類なら、すぐ発見できるでしょう』

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2014年4月 7日 (月)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第292回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十ニ回
『灯りを点滅させるところなんか、乙(おつ)でしょ? ちゃんと事前に知らせている訳です。まあ、玄関チャイムのようなものでしょうか』
 最初にお告げが流れたのは、この冗談めいた言葉だった。
「はあ、それはまあ…。しかし、それはどうでもいいんですがねえ~。突然、来られても、心臓が飛び出るほど驚きやしませんから…」
『そうですか? それじゃ、次回からはそういうことに…。で、今回、お呼びになったのは、どういった用件でしょう?』
「ええ、そうでした。そのことなんですよ。もう大よそはお分かりかと思いますが…」
『世界に広がり続けるパンデミックスの話ですよね?』
「はい、図星です!」
『やはり…。それで?』
「なにか、いい手立ては、あるか…です」
『そのことですが、あるなしを含め、大玉様にお訊(たず)ねせねば、お答は、しかねます』
「一刻を争う事態なんです。なんとか早くお願いします!」
『分かりました。しばらくお待ちください』
 お告げは会社の電話受付嬢のようなことを云った。しかし、携帯で見たネットニュースの情報では、すでにウイルスの蔓延(まんえん)が全世界に及びつつあり、この日本でも感染家畜が確認されたと報じられていた。

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2014年4月 6日 (日)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第291回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十一回
 疲れがドッと出て、私は家へ帰ると一番に浴槽へ温湯を張った。身体だけでなく、かなり精神的に参っていたから、今回は気疲れだなあ…と思えた。その原因が世界を席巻(せっけん)しようとしているパンデミックスにあることは誰しもが認めるところであった。だから風呂だったのだが、風呂へ入ろうと玄関ドアを開けながら思った訳は、もちろん疲れだけではない。念力を送らねば…と玉へのコンタクトの一件を無意識で考えていたからだった。マンションの風呂は、眠気(ねむけ)の自宅とは違って最新型であり、フラッシュ・メモリーほどの大きさの受信機へ浴槽の温湯が一定量、入った場合はピピッ! と発信してくれるのだ。当然のことながら、温湯は設定次第でどうにでもできる全自動である。ちょうど、背広を脱ぎ終え、ネクタイを外したとき、その音がした。のんびり動いていたのが幸いして、ベスト・タイミングだった。
 浴槽へ浸かると、一気に疲れがふっ飛んだ気がした。いつかもそうだったように、浸かってしばらくし、気分が落ちついた頃合いを見て、私は目を閉ざすと念力を送り始めた。どれだけ集中して呼び出せるか…が、私の腕にかかっていた。
 念力を送り始めて十分後、浴室の照明が俄(にわ)かに点滅を始めた。これはもう、紛(まぎ)れもなくお告げの訪問に違いなかった。

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2014年4月 5日 (土)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第290回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百九十回
 アジアの一角で発生し猛威をふるったウイルスは、わずか一ヶ月で世界各地に飛び火した。これでは何のための輸出入禁止決議なのか…と、国連で疑問視され始めた頃、発生地付近で最初の死亡者がでた。WHOは蒼ざめ、私もそのニュースに唖然とした。ウイルスを止める手立てのない現状では、孰(いず)れ人類は滅(ほろ)んでしまうであろう…と刹那、思えた。
 国家戦略局長の煮付(につけ)先輩は、私以上に驚愕(きょうがく)していた。幸いにもこの時点で、我が国では感染家畜の報告はされていなかったが、世界に蔓延(まんえん)する勢いを見せているウイルスが日本へ侵入するのは時間の問題かと思われた。だから煮付先輩も必死なら、小菅(こすが)総理、雑穀(ぞうこく)厚労相以下の閣僚も必死で、東奔西走していた。人類に手立てがない以上、ここは見えぬ力に縋(すが)るしかない…。よし、お伺いを立ててみようと、ふと玉の霊力を思った。玉ならば、何かのヒントを与えてくれるかも知れない…という淡い希望的観測だった。で、私はさっそく念力を集中して想念を送ってみることにした。過去に一、二度、テストパターンだが、私からコンタクトをとり、玉のお告げを呼び出すことに成功したことがあったから、強(あなが)ち捨て鉢な賭けではなく、ある程度、呼び出せる自信はあった。さすがに人目のある所や時間帯では…と思え、マンションへ帰着してからにしようと思った。

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2014年4月 4日 (金)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第289回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十九回
 国会が閉会中に、世界では私が予想だにしない事態が起ころうとしていた。折りしも、わが国では食料安定化法の施行直前だったのだが、アジアの一角で飼われていた家畜に蔓延(まんえん)した耐性ウイルスが世界を席巻(せっけん)しようとしていたのである。この多剤耐性ウイルスを止める手立てはなく、世界の生物学者が警告を発していたパンデミックスが現実に起ころうとしていたのである。むろん、この事態は人類の生命を脅(おびや)かすだけでなく、人類が生存するために必要な動物性食糧の危機を招いた。国連は緊急措置を余儀なくされ、ウイルスの蔓延を阻止すべく、世界の輸出入を全面禁止する非常事態決議を採択した。WHOも全世界へ向け緊急対応措置を発信、特別部局を設置した。国会閉会中の小菅(こすが)内閣は緊急閣僚会議を開き、食料安定化法の施行日の前送りとパンデミックスへの特別措置を専決処分した。総理は各大臣へ国民生活に万端、抜かりない措置を指示した。
「偉いことになってきたな、塩山」
「はい、まったく…。明日はどうなることやら…」
 煮付(につけ)先輩は会議終了後、各大臣が総理の指示で散っていく中、官邸出口へと歩きながら私にそう云った。私の文科省は、学校や父兄への混乱防止の徹底を全国の教育委員会へ周知させることにあった。煮付先輩は、国家戦略局の新たな局長として、各大臣の報告を一手に受けて対処するため、どっしり構えるということだった。

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2014年4月 3日 (木)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第288回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十八回
「ははは…、そういう馴れ初(そ)めじゃないんですよ。こいつ、いや、塩山大臣とは学生時代、ワンダ-フォーゲルで先輩後輩の付き合いをしたのが縁で、部活以外でも何かと面倒を見させてもらったというような…」
「ええ、そうなんです。煮付(につけ)先輩には、いろいろと、お世話になっておりました」
「ワンゲル部でしたか…。私も山登りは嫌いじゃないんで、時折り低い山なんぞに登ったりしております」
「ほう、総理が? こりゃ、初耳ですな」
「煮付君には云ってなかったかな?」
「はい、まったく伺(うかが)っとりません」
「そうだったか…。まあ、そういうことだ」
「総理も登山をされておられたんですか?」
「ははは…、登山などと、そんな大仰なものじゃないんですが…」
「どうりで、政治への取り組みが忍耐強い」
「いやあ…、参りましたな。つまらんことを云ってしまいました。二人に馴れ初(そ)めを訊(き)こうと思ったんですが、これじゃ逆だ、ははは…」
 小菅総理は一笑に付した。
「お訊(たず)ねになりたいことは、それだけですか?」
「えっ? いや、塩山さんの民間人としての政治の感想もお訊きしたかったんですよ」
 あとで分かったのだが、総理が私を残した真意は実はこの点で、巨額の債務で喘(あえ)ぐ我が国の財政思考、主計と民間経理の思考の違いを、経営者の末席を汚(けが)していた私に訊ねたかったとのことであった。

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2014年4月 2日 (水)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第287回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十七回
 三人の話は久しぶりだったこともあり、大いに盛り上がって幕引きとなった。玉は元気そうに、…元気そうという表現も妙なのだが、とりあえずは以前と変わらぬ姿で酒棚に、どっしり構えており、ひとまず私は安堵したのだった。二人に名刺を手渡し、東京に来た折りにはマンションへ寄ってくれるように一応の日本人的招待をして私は店を出た。
 一日ゆっくり骨を伸ばし、次の日の夕刻、私は東京へUターンした。慌(あわただ)しいスケジュールに、芸能界の大変さが少し分かった気がした。戻った翌日は政府閣僚会議がセットされており、帰省する前に成立をみた食糧安定化法にかかる規則、政令と、国連で議決成立した地球語の学習指導要領への必修単位としての配分化の策定書類が目通しされ、議題となった。ニ議題とも私が関与した省庁の事案であり、私抜きでは成立しない会議だった。難しい話になるから端折(はしょ)るが、全閣僚に了承されて閣議決定し、私の顔が立ったことだけは述べておきたい。
「いやあ…塩山さん、ご苦労様でした。これで私の懸案は、ひとまず実現したようです。今後は、少しのんびりと…と、いきたいものですな。ははは…、そうは参りませんが…」
 首相官邸を出る前、小菅(こすが)総理に声をかけられ、他の閣僚が帰る中、私と官房長官の煮付(につけ)先輩だけがそのまましばらく残り、語り合った。総理は、私と先輩の馴れ初(そ)めや民間人としての立場の私に意見を聞きたかった、とのことであった。

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2014年4月 1日 (火)

スピンオフ小説 あんたはすごい! 第286回

 あんたはすごい!    水本爽涼
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    第ニ百八十六回
「でもさあ、少しビミョーなのよねえ~」
「えっ? 何がです?」
「だってさあ、沼澤さんが云ってらしたのは、棚に水晶玉を置けば、いいことが起こるってことだったじゃないの」
「ええ、そうです。だから、ママも宝くじが当たって旅行にも行けたんでしょ?」
「まあ、そうだけどさあ~。今はねえ、早希ちゃん」
「はい…。ほんと、鳴かず飛ばすだし。返って、お客の入り、よくないんじゃないですか?」
「そうよねえ~。早希ちゃんだって、この様(ザマ)だし…」
「はあ…。そりゃまあ、そういうことだってあるでしょう。だって沼澤さん、こうも云ってやしませんでした?」
「えっ? どうよお~」
「信じる者は玉もよく承知している…とかなんとか」
「だから、どうだって云うの? まあさ、早希ちゃんはともかくとして、私は信じてるわよ」
「でもママ、以前に比べりゃ、どうです?」
「以前って、沼澤さんがいらした頃とか?」
「ええ…」
「…そう云われりゃねえ、まあ少しは…」
「だからですよ、きっと。玉は、すべてが分かると云いましたから、ママの気持のダウンが幸運をダウンさせたんじゃないですか?」
「…、満ちゃんにそう云われると、そうかも、って思えてきちゃう。まあ、いやだ!」
 ママは、オホホ…と笑って科(しな)を作った。そのあと、ツマミに牡蠣(かき)のガーリックオイル焼きがでた。

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