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2015年2月18日 (水)

不条理のアクシデント 第八十一話  未完

 彫刻刀を握る深山の手が止まった。
「どうも納得が出来ない…」
 ポツリと深山は呟(つぶや)いた。深山が手にする完成近い木像は誰が見ても出来がよい仏像で、普通に市販しても十分、買い手がつく品に見えた。だが、深山は今一つ納得できなかった。彼はジィ~~っと手にした仏像を眺(なが)めながら、フゥ~っと溜(た)め息を吐(つ)くのだった。その木造は、どう見ても未完だった。というのも、苦心した挙句、施(ほどこ)した肝心の光背が取り外せるのである。仏の有難さを象徴する光背の光が消えたり輝いたりする仏は、有り得ないのである。すなわち、深山が手にした木像はただの未完の木彫(きぼ)り像であり、仏像ではないことを意味していた。
 深山は完成した仏像を持ち、大仏師の久松草琳に入門しようと考えていた。だが、手にした仏像 紛(まが)いの自作は、とても堂々と門を叩ける代物(しろもの)とは思えなかった。というか、未完きわまりない粗悪品に見えていた。深山は自己嫌悪に陥(おちい)っていた。深山はほぼ完成した未完の木像を部屋の片隅へ投げ捨てた。部屋の隅にはそうした未完の木像が何体も積み重ねられていた。
━ なにが足りない… ━
 深山は頭を抱(かか)えたが閃(ひらめ)きの兆(きざ)しは訪れなかった。一睡もしていない深山は、いつしか深い眠リへと誘(いざな)われていった。ふと目覚め、深山が見上げた窓ガラスの向こうでチチチッ! と小鳥が囀(さえず)った。そのとき、深山にある思いが閃いた。手間はかかるかも知れない。だが、本体と台座、光背までを一木で作ろう…という思いだった。
 一年後、深山が刻んだ木像は、もはや未完の木像ではなく、紛れもない完成した仏像だった。深山が最後の彫眼を施し終えたとき、不思議なことに窓から、ひと筋の光輪が仏像へと射し注(そそ)いだ。
「…」
 深山の口元に一瞬、安堵(あんど)の笑みが零(こぼ)れた。
 深山は現在、深山舟景と名乗り、仏師として全国的に活躍している。

                           完

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