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2015年2月17日 (火)

不条理のアクシデント 第八十話  買いだめ

 地方スーパーの三色堂は消費税値上げの駆け込み需要で混乱するほど賑(にぎ)わっていた。
「お、押さないでください! まだ在庫は十分にありますっ!」
 課長の平畑は混雑する客の誘導に必死だった。その客の一人、真佐江は今年で52になる中年女性である。というよりは、中年のおばさんと呼ぶのが相応(ふさわ)しいような厚かましさが、いつの間にか彼女の身に染(し)みついていた。
 真佐江は店の売り場のアチコチで、種々の品を買いだめていた。ひと目見て、そんなものを買ってどうするの? というものまであった。駐車した車はそれらの品で溢(あふ)れ返り、今日も真佐江は家と三色堂をすでに三往復していた。区役所に勤める夫の耕田は部長で、取り分けて真佐江が暮らしに困ることはなかった。それが理由ではなかったが、どういう訳か真佐江は買い癖(ぐせ)がついていた。無性に買わずにはいられない・・という癖である。他にすることはないのかと、夫の耕田を陰で愚痴らせていた。それが、この消費税値上げの駆け込み需要で、一気に火がついたのである。メラメラと燃えさかる購買欲の炎は、真佐江を人間から離(はな)れさせた。買い物に動き回るその姿は、もはや人間ではなく怪獣そのものだった。
「そ、それも!」
「えっ? そんなに買われるんですか? 先ほども買われましたよ」
「いいんです! いるんですから…」
 真佐江は意固地になって叫んだ。その叫び声の大きさに、他の客は一斉(いっせい)に真佐江を見た。真佐江は、とり乱した自分に気づき、自重した。
「そりゃ、そうでしょうが…」
 対応する平畑は困り果て、あんぐりとした。
「買うといったら、買うんです!」
 そこまで言われ、平畑の闘争心に火がついた。他の店員も見ている手前、メンツもある。平畑の声が少し強く変わった。
「先ほどでトラック一台分ですよ! 他のお客さまのご迷惑にもなりますから…」
 真佐江にも意地がある。
「もう、いいです! メーカーから直接、買いだめしますから!!」
「うわぁ~~っ!!!」
 周囲の客から、一斉に驚きの声が上がった。平畑もその中の一人になっていた。言った真佐江もその中の一人で、慌(あわ)てて自分の口を手で押さえた。

                           完

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