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2016年5月

2016年5月31日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -93-

━ 坂のマンホールの下に我々が利用する地下駅が出来ていたのをお前は知っていたか ━
 地球外物質は城水へテレパシーを送り始めた。城水が異星人によって作られた地下駅など知る由(よし)もなかった。もちろん、指令に伝えられたことは知っていたのだが…。
[指令が伝えていない以上、私が知る訳がないだろうが]
 城水は即座に否定した。
[それは、そうなる。では、詳細を語ろう]
 城水としては別に語って欲しくなかったが、語るというのだから語られるしかない・・と脳内数値は従順or恭順した場合の数値を示した。反発して無視した場合のデメリットの数値と比較して、である。城水は、語られようじゃないか! と気分的には反発しながら従った。
━ 我々は、着陸した山麓とマンホールを中継する通路を作った ━
[ああ…]
 城水も、そのことは知っていた。ただ、瞬時に空間移動できるのに、なぜそんな通路が必要なのか? という疑問はあったのだ。今、地下駅のことをテレパシーで語られ、城水は、ようやくそのモヤモヤとした疑問が解けたような気がした。
[なるほど、そういうことだったのか…]
━ ああ、まあそういうことだ ━
 地球外物質には城水の思考が手に取るように分かっていた。
[そんな駅を作って、いったいどうするつもりだ?]
 城水に新たな疑問が浮かんだ。

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2016年5月30日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -92-

[あとは、お前に渡した物質の指示に従え]
 城水が駐車場へ歩き始めたとき、闇の中に指令のテレパシーだけが城水の脳裡に小さく届いて消えた。
 翌日の夜、UFO群は指令が城水に伝えたとおり、まったく痕跡を残すことなく消え去っていた。城水には、お見事と言うほかなかった。それは、城水の近郊の山々に降り立った一群に限らず、世界各地でも同じだった。
 飛び立つことなく地球に残った城水としては三年の間、異星人の最終決断を待つしかないのだが、このことは里子や雄静(ゆうせい)には細部の事情を伏せねばならなかった。地球は異星人達の執行猶予下に存在していた。だが、その事実を地球の誰もが知らないまま、時は進んでいった。城水には知らされていない異星人達の秘密が、もう一つあった。実は、城水家の坂の下にあるマンホールの中は異次元の地下駅になっていたのである。僅(わず)かな間に文明の利器を駆使して異星人達が作り上げた異星の駅は、その後城水家が、ここで待ち続けることになるのだ。現時点では家族はおろか、城水自身も知らない事実だった。その事実は地球外物質のテレパシー報告によって、不意に城水へ伝えられた。
 クローン化したとはいえ、城水もある意味で半分は人間であったから、UFO群が消え去ってひと月も経つと、次第に思考の変化で異星人感覚が薄れてきていた。
 そんなある日のことである。城水の緩(ゆる)んだ意識を覚ますかのように地球外物質が何の前兆もなく光り始めた。

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2016年5月29日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -91-

 ふと、足元に目を向けた城水は、UFO指令がマジックのように消えて以降、一歩も動いていないことに気づいた。そのときだった。急に上空から眩(まばゆ)い光がマンホールの蓋を目指して差し込み、蓋はふたたびスゥ~っと音もなく上昇し、浮かび上がったのである。そして、ふたたび指令がマンホールの下から宙に浮かび出た。
[フフフ…不測の事態は、どんなときでも起こり得るな。我々はまた、人間の予期せぬ一面を見たぞ。これは±(プラスマイナス)のどちらへも評価できる新発見である]
[そうなんです、人間には予期せぬ能力があります。それは無限の可能性でもあります]
[うむ、どうもそりようだな。だが、それは地球を破滅させる可能性でもあるのだ]
[はあ、それはまあ、そうですが…]
 気分はまだ、人間を弁護したかったが、指令に本筋を言われ、城水は引いた。
[与えた3年の猶予は、そうした人間観察期間でもある。我々は地球物質のみに拘(こだわ)り過ぎていたのだ。見落とした人間の本質は3年の猶予期間で分析され、解き明かされるはずだ]
[その結果によって…]
[お前が考えている通りだ。人間はほんの一部を除き消滅するか、あるいは今のまま生き続けるか、が定まる。では、さらばだ…]
[あっ! 指令!]
 城水がテレパシーを返したとき、すでに指令の姿は跡片もなく消え失せ、暗闇だけが城水の周りにはあった。もちろん、マンホールの蓋も元の状態で閉ざされていた。

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2016年5月28日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -90-

[私には理解できません]
[理解できなくていい。追々(おいおい)、お前の脳内数値がその原理をお前に教えるだろう]
 そこまでテレパシーを伝えたとき、指令の姿は忽然と城水の前から消えた。
「やあ、城水さんじゃありませんか。夜分、こんなところで、どうかされました?」
 城水がハッ! と振り向くと、そこには交番日直の若芽(わかめ)巡査が懐中電灯を片手に立っていた。マンホールの蓋(ふた)は、まるでマジックを見るかのように瞬時に閉じ、いつもと何の変化もなかった。
[い、いや…。大事にしていた万年筆を落としまして…]
「はあはあ、なるほど。探しておられたんですね?」
[ええ、まあ…そのような]
「そうでしたか。なんでしたら、ご一緒に」
[いや、いやいやいや、そのようなお気遣(きづか)いは…]
「ですか? じゃあ!」
 若芽巡査は敬礼すると、交番へUターンした。予想外のハプニングに城水は一瞬、焦(あせ)ったが、咄嗟(とっさ)に出た方便で事なきを得た。クローン化によって半異星人となる前の自分なら、恐らく上手(うま)く言葉が出ず、若芽巡査の職務質問を躱(かわ)せなかっただろう…と、城水はホッとひと息つきながら思った。すべては城水の脳内数値による瞬間計算とデータ判断のお蔭(かげ)だった。

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2016年5月27日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -89-

いつ地球を離陸されるんですか?]
[明日の夜だ。むろん、その様子は地球人には見聞き出来ないがな。さて…お前は、どうする? 我々とともに行くか、それともこのまま地球に残るか?]
[はい…。今の心境はこのまま残りたいと思います。家族を連れていくことは、無理なんでしょうね?]
[無理ではないが、お前と同様の措置をせねばならんぞ]
[と、いいますと?]
[今のお前のように我々の星に適応する措置だ]
[どうなるんです?]
[ははは…どうもならさ。地球での記憶が消去されるだけだ]
[それじゃ、私達は家族ではなくなります]
[安心せよ。その記憶は存在する]
 城水は指令の言葉が理解できなかった。
宇宙科学には地球科で到底、解決できない未知の分野が存在するように思えた。脳内数値は、その通りだ・・と城水独自の考えを肯定し、yes,文字を青く点滅させた。
[なるほど、私達は家族のまま、移住することになるんですね]
[そういうことだ。ただ、お前が今言った移住という感覚は我々が住む星の時空感覚とは違う。お前はすでにクローン化しているからすぐ馴染むだろうが、家族の者達が環境に順応するまで、しばらくかかるだろう…]
[空気とかは地球環境と同じなんですか?]
[その発想は地球科学の発想だな。我々の星は自由に環境を変化できるのだ]
 指令は、さも当然のようにテレパシーで話した。

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2016年5月26日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -88-

 不明な星雲からやって来たUFO群は、地球文明では考えられない高度な文明を築いていたのである。
 異星人間の会話は、すべてがテレパシー である。地球上の生物のような音による意思の確認や伝達という低レベルな情報交換はしないのだ。当然、指令と城水の場合もそうで、辺りに音等は一切しなかった。しかも、指令の姿や眩(まばゆ)く輝く光は城水には見えたが人間の目には見えないのだ。だから、若芽(わかめ)巡査の目には、見えたとしてもただ閉ざされたマンホールの蓋が見えるだけだった。城水の前に浮かびながら漂っているマンホールの蓋は、指令とともに異次元空間にあった。しかし、若芽巡査の目にはクローン化したとはいえ異星人でない城水の姿は見えるから、城水は心せねばならなかった。
[それで、お呼びになった理由は?]
[最終分析の結果が出た。あとは私の決断のみとなった]
[残念だが、どうも地球人達には反省の色が見えない。たださの反面、我々の発想にはない素晴らしい一面も持ち合わせていることが分かった。その点を考慮に入れれば、地球の動・植物園化は憚(はばか)られる]
[はあ、それで…]
[私は地球人達に三年の猶予を与えることにした。すべてはそのとき決するということだ]
[で、私はどうしろと?]
[我々は一端、地球を離れる。以前言ったように、残るか否(いな)かはお前次第だ。むろん、接近中の者達もUターンして星団へ帰還する]
 三年の猶予という指令のテレパシーに、城水は一応、ホッとした。城水はまるで自分が被告席に立たされた犯罪者で、裁判官から執行猶予の付いた判決を言い渡された気分がした。

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2016年5月25日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -87-

 城水は、ゆっくりと歩き始めた。妙なもので、クローン化して以降の城水の足は、音をたてず歩くことが出来るようになっていた。しかも、懐中電灯がなくても暗闇を昼間と同じように観ることが出来るセンサー透視機能も備わっていた。その理由は城水自身にも分からなかったが、思考方法が脳内数値により正確に判断できるようになったことを考え合わせれば得心がいった。指定された待ち合わせのマンホールが次第に近づいてきた。交番の若芽(わかめ)巡査への注意を喚起するWARNIG赤色灯は、相変わらず城水の脳内で点灯したままだった。
 外気温、湿度、湧雲率、生体移動感知率・・などの数値が、城水の脳内で変わらず駆け巡り、あらゆる不測の事態に備えていた。城水は交番内を透視した。若芽巡査は、帳簿に目を通しながら、ウトウト・・と首を縦に振っている。この国は平和だな…と、城水は脳内数値とは別の感情で一瞬、思った。
 マンホールのすぐ横へ城水が立ったときである。マンホールの蓋(ふた)が音もなく開き、眩(まばゆ)い光が真下から上を目ざして輝いた。そして、中からはUFO指令がエレベータを昇るようにフワァ~っと空中に浮かび上がった。指令は、ちょうど城水と同じ高さで停止した。
[待たせたようだな…]
[いえ、それほどは…]
[フフフ…、嘘を言っちゃいかん。9:00過ぎに家を出たろうが]
 城水は、すべての行動は察知されているのか…と、改めてUFO群の高度な文明に驚かされた。

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2016年5月24日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -86-

 若芽(わかめ)巡査は、おやっ? と思え、席を立つと交番の外へ飛び出た。城水が運転する車が左折したあと、取り分けて事件性を感じなかった若芽巡査は、「こんな時間に珍しいな…」と、一人ごち、手を広げながら欠伸(あくび)をした。
 城水の脳内数値は、若芽巡査の動向を備(つぶさ)に監視し、様々なデータを呼び出して計算し始めた。死角とはいえ、マンホールは交番のすぐ近くにある。巡査の年齢は21才。今年、赴任した新人。予測不能の動きをする傾向が5%~7%に及ぶ。よって、不意に気づかれる危険性がなくもない。その事態は2%の確率で起こり得る。交番巡査の動向には注意を要する。脳内数値は城水の脳裡を駆け巡った。城水はエンジンを止めた車の中で、目を瞑(つむ)った。ここで時間を過ごすのが一番妥当・・との脳内数値の回答を得て、そうすることにした。城水は徐(おもむろ)に腕を見た。呼び出された時間に最も早い午前0;00には、まだ2時間半はあった。何もせずに待つというのも…と、城水は目を閉じながら少し苦痛を感じた。あとに何もすることがなければ、それは安楽な時間だが、用事を抱えていると苦になる。安楽感が損(そこ)なわれ、緊張する待ち時間となってしまうのだ。今の城水がそれだった。それでも、辺りが暗い上に時間も時間である。城水は、いつしか微睡(まどろ)んでいた。
 ハッ! と城水が目覚め、腕を見ると、すでに日付は替わっていた。さすがにこの深夜帯では、いつやら出食わした若狭夫人も鼻の穴を広げて爆睡しているに違いない…と城水の脳内数値は夫人との遭遇確率0%を一瞬で弾(はじ)き出した。

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2016年5月23日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -85-

 地球外物質がテレパシーで伝えた午前0:00時から3:00時には、早い時間にした場合でもまだ4時間はあった。ただ、日付が変わる少し前に家を出るのでは怪(あや)しまれる公算が高い・・と城水の脳内数値は計算結果を示した。城水にも、その辺りの人間事情はよく分かっていたから納得出来た。深夜に会う人間は密会以外、そうはいないからだ。城水は9時過ぎに家を出て時間を潰(つぶ)すことにした。
「あらっ? 出かけなくてもいいの?」
 洗いものを終え、キッチンから居間へ入ってきた里子が訝(いぶか)しげに城水を垣間(かいま)見た。城水としては、気づかれぬよう意識して平静を装(よそお)っていたのだから、別段、どうという言葉でもない。
[んっ? ああ、こんな時間か…。そろそろ出るとするか。余り遅くなるのも、なんだしな]
 城水の言葉のあと、里子は寝室へ消えた。
 城水が家を出たのは、脳内数値の計算どおり9時過ぎだった。さて、これから3時間ばかりをどう潰(つぶ)すか…と、城水が脳内数値に問いかけていると、いつの間にか坂の下まで車で下りていた。坂道下には交番がある。藻屑(もくず)巡査と昆布(こぶ)巡査は日番ではなく、若芽(わかめ)巡査が欠伸(あくび)をしながらウトウトと首を縦に振っていた。そこへ城水の車が過(よぎ)った。目抜き通りではない上に、滅多と車が通らない夜の時間帯だから若芽巡査はハッ! と目を見開いた。城水が指定されたマンホールは、すぐ近くながらも、交番から見えない死角の位置にあった。

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2016年5月22日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -84-

「ごちそうさまぁ~!」
 雄静(ゆうせい)は夕食を終えると、慌(あわ)ただしく勉強部屋へ走っていった。里子の話では、プラモデルの途中らしかった。小学一年にしては滅法器用で、図工の成績は抜群だったから城水は雄静の器用さを認めていた。
雄静が消えたあと、キッチンテーブルでお茶を飲む里子に城水はさりげなく言った。
[ああ、言い忘れていたよ。もう少ししたら、ちょっと出かける]
「あらっ、こんな夜に?」
[ははは…野暮用さ。友人がまた会いたいんだと…]
「そうなの?」
 里子は疑わしそうな目で城水を見た。城水の脳内数値は浮気に対する里子の懐疑心だと計算を即答で出していた。
[そんなにかからんから、すぐ帰るさ]
 城水の脳内数値は里子に疑われるのはよくない・・と注意を促(うなが)した。この前も一度、城水は夜に外出した。計算では、里子が城水の跡をつける・・という可能性を小さい%で示していた。0でなくわずか1%でも疑われることは、城水にとって剣呑(けんのん)だった。今、地球上にいるUFO群にとっては最後の重要な時期だった。単純ミスは可能な限り避(さ)けねばならなかった。
「そう…気をつけてね」
 里子の追及を避けられたのは幸いだった。今、トラブルだけは何がなんでも避けねばならない。すべてが水泡に記す恐れがあり、全責任が城水に向けられることも考えられたからだ。いつの間にか城水は冷や汗を掻いていた。こんなことは、城水の人生で今までなかった。それは城水が完全な異星人ではないことを意味した。

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2016年5月21日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -83-

 城水は決断しつつあった。クローン化したとはいえ、やはり過去の城水家での追憶は拭(ぬぐ)い切れず、地球に踏み止(とど)まることにしたのだ。あとは、最終分析結果がいいことを願うばかりだった。もし最悪の場合、城水自身は過去の次元へ送られるからいいが、同時に進行する別次元の地球は異星人達によって動・植物園化されるのである。その措置が実行されれば、恐らくひと掴みの人間を除いてすべてが抹殺、あるいは別惑星へ移住させられるに違いなかった。まったく違う次元で時空は同時進行するのである。人類が消滅する訳ではないが、それは片眼を失った独眼の人間に等しかった。
 夕方近く、城水はいつものように学校から帰宅した。一日50種の地球外物質を採取する作業は、指令により免除されていたから、帰宅時間は元へ戻っていた。
[帰ったぞ…]
 少しテンションが低過ぎる・・という城水の脳内数値は言動注意を計算でしめした。迂闊(うかつ)だった…と反省し、城水は、[ただいま!]とテンション高く言い直し、修正した。
「パパ、お帰り!」
 雄静(ゆうせい)が元気よく玄関まで走り出てきた。我が子の顔を見ると、すべての悩みが吹き飛ぶ城水だった。クローン化以降も、過去の記憶は残っていたから、この感情が変化することはなかった。
 城水は、いつもと変わりなく、出来るだけ平常心を装(よそお)った。指令から深夜帯に坂下のマンホールへ呼び出されていることは、冷静な物腰で方便を使うしかないと脳内数値が結果を出していた。

-84-
「ごちそうさまぁ~!」
 雄静(ゆうせい)は夕食を終えると、慌(あわ)ただしく勉強部屋へ走っていった。里子の話では、プラモデルの途中らしかった。小学一年にしては滅法器用で、図工の成績は抜群だったから城水は雄静の器用さを認めていた。
雄静が消えたあと、キッチンテーブルでお茶を飲む里子に城水はさりげなく言った。
[ああ、言い忘れていたよ。もう少ししたら、ちょっと出かける]
「あらっ、こんな夜に?」
[ははは…野暮用さ。友人がまた会いたいんだと…]
「そうなの?」
 里子は疑わしそうな目で城水を見た。城水の脳内数値は浮気に対する里子の懐疑心だと計算を即答で出していた。
[そんなにかからんから、すぐ帰るさ]
 城水の脳内数値は里子に疑われるのはよくない・・と注意を促(うなが)した。この前も一度、城水は夜に外出した。計算では、里子が城水の跡をつける・・という可能性を小さい%で示していた。0でなくわずか1%でも疑われることは、城水にとって剣呑(けんのん)だった。今、地球上にいるUFO群にとっては最後の重要な時期だった。単純ミスは可能な限り避(さ)けねばならなかった。

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2016年5月20日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -82-

 残された十日は瞬く間に過ぎ去った。城水は異星人化した自分をなんとか誤魔化し、バレずに日々を過ごせていた。
━ 今日の深夜、坂の下にあるマンホールの前で待て、という指令からの指示を伝えておく ━
 地球外物質が急に背広の内ポケットで光り出したのは、城水が駅を降り徒歩で駐車場へ歩いている途中だった。物質はすでに辺りに人気(ひとけ)がないのを関知していて、その隙(すき)を狙(ねら)って光った。バレないように、十日が過ぎ去り、城水はグッタリと疲れ果てていた。すべてが、もうどうでもいいように思えた。光ったのは、そんな城水が足重く車へと歩いている歩道上だった。駅前の道を左折し、しばらく歩くと、そこに車を止めた駐車場がある。駐車場へ入る寸前で地球外物質は光り、テレパシーを送ったのである。城水は、そろそろ何らかの情報が入るだろう…と予測していたから、それほど驚くこともなかった。
[分かった…深夜の正確な時間帯は?]
━ 午前0:00時から3:00時の時間帯を指す ━
[その帯域なら、いつでもいいのか?]
━ ああ…。では、伝えたぞ ━
 地球外物質はテレパシーを止めると同時に、緑色の光を消した。
 その頃、地球上に降り立っているUFO編隊群と入れ替えに地球を目指す第二編隊群は銀河系星雲に近づきつつあったが、次第に速度を落としていた。城水が住む山近くに着陸しているUFO群指令の返答待ちのためである。場合によってはUターンもあり得た。

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2016年5月19日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -81-

[…どこまでやったかな? 先生]
「嫌だな、先生。がい数です」
 到真(とうま)が、いつものようにテンション高く言った。
[おお、そうそう。がい数だったな]
 城水が問題を黒板に書き始めたとき、クラス全員の笑い声がした。
「先生、がい数は終わったでしょ?」
[ああ、そうだった、そうだった…]
 城水は慌(あわ)てて書き始めたチョークの白文字を消した。
 そんなこともあり、ようやく算数の授業を終えたとき、城水はすっかり疲れて萎(な)えていた。脳内にはクローン化する前の記憶は残されていたから、
城水には過去の何もなかったときが懐かしく思い返された。だが、今は泣きごとを言っている時ではない。異星人達が地球を離れるとき、自分はどうするのか? を決断しておかねばならないのだ。里子や雄静(ゆうせい)を捨てて去ることは忍び難(がた)く、やはり残るか…という方向に城水の思考は傾いていた。それは、複雑な計算式により脳内数値が出した結果とは自己 矛盾(むじゅん)するものだった。残ると意識すれば、脳内数値はWARNINGの赤文字を点滅させるのだった。
 異星人達による地球物質の回収作業は、その後、ほぼ一週間を要して残りの3分の1を回収し終えた。そしてその後、最終分析が行われた。結果が出れば、あとは指令の最終決断に委(ゆだ)ねられる。むろん、地球上の各地にすでに降り立っているUFO群と入れ替わる後続のUFO群は地球に近づきつつあった。指令の決断次第で、近づくUFO群は星団へUターンする。

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2016年5月18日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -80-

「城水先生! どうかされました? 浮かぬ顔されて…」
 声をかけたのは、女性教頭の新月(しんげつ)咲穂だった。
[あっ! 教頭…。いや、別に]
 城水はすぐ、逃げをうった。
「そうですか? なんか、顔色がすぐれないようですが…」
[ははは…いやなに、出がけに家内と喧嘩(けんか)したもんで…]
 城水の脳内数値は、瞬時に上手(うま)い方便を弾(はじ)き出し、具合よく城水の口を開かせた。
「まあ! そうでしたの? ほほほ…そんなご事情がお有りとは。一人身の私には、とんと分かりませんわ」
 快活に語る新月だったが、城水の脳内数値は、女性特有の更年期ヒステリーを具(つぶさ)に見てとっていた。
[ははは…つまらんことを申しました、では…]
 早くこの場から去れ! と脳内数値が弾き出した結果を、城水はすぐ、実行した。
 城水が教室へ戻ると、生徒達が浮かぬ顔で教科書を広げ、待っていた。
「先生、どこへ行かれてたんですか?」
 生徒を代表して、クラス委員の到真(とうま)が椅子を立って訊(たず)ねた。時空は地球外物質が告げたように過去へ戻されていた。城水は一瞬、鳥肌が立つようなゾォ~っとする感覚を覚えた。授業の途中に戻(もど)っていた。城水は黒板を見た。書いたはずの数字や文字が消えていて、消された痕跡もなかった。だが、教壇の上には算数の教科書はあった。自分が置いたのだから当然だったが、城水には解せなかった。到真を指名して訊ねた数字のがい数の場面は夢だったのか…。地球外物質がテレパシーで告げた異次元の意味が城水は少し分かったような気がした。

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2016年5月17日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -79-

[やめ、やめっ! 今日は自習にする]
 城水は黒板を消しながら、生徒達にそう言った。城水自身にも、なぜ過去の展開になったのか? が分からなかった。
 城水が教室を出てトイレへ入ったとき、突然、背広の外ポケットが緑の光を出し輝き始めた。
━ なぜ、過去へ戻(もど)ったのか、お前にそれが分かるか? ━
[分かる訳がないだろう…]
 送られたテレパシーに城水は即座に返していた。幸い、トイレに人影はなかった。よ~く考えれば、その辺りの状況判断は地球外物質の方が城水より優れているはずなのだ。
━ 我々は十日後には地球を離れる。お前が残るか、ともに去るかはお前の意志に委(ゆだ)ねられるが、もし残る場合は、今の時空にお前を戻す。それで、お前の安全は確保されるだろう ━
[どういうことだ?]
━ 別の時空で我々は地球の処置を済ませることになる。だがそのとき、違う時空でお前は生活できるということだ ━
[よく分からない…]
━ 分からなくてよい。異次元の時の流れということだ。教室へ戻れば分かる ━
 地球外物質はテレパシーを送り終えると、静かに緑の光を消した。

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2016年5月16日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -78-

[ともかく回収を急ぐよう、すべてに指示せよ]
[分かりました…]
 そんな会話がUFOの指令船内で交わされていた頃、城水は教室内で授業を始めていた。黒板に白チョークで[四捨五入して、千の位までのがい数で表しましょう]と書き、その下に、[1]3546219 [2]168275 [3]268723 [4]25463 と書き終えた。
[[1]の答えが分かる人!]
「は~~い、先生!」
 そのとき、城水は、おやっ? と思った。この場面はいつかあった…と、過去の映像が一瞬、脳裡をクロスしたのだ。城水の脳内数値は過去のデータを示していた。むろ、あのときの城水はクローン化していなかったのだが、今、教室内で展開している場面は、まったくあのときと同じだった。
[到真(とうま)、まあいい…]
 同じことを言おうとしていた城水は。思わず自分の言葉を遮(さえぎ)った。
「先生、どうかしたんですか?」
 テンションが高い到真は、逆に城水へ問い返した。
[いや、なんでもない。ははは…少し寝不足でな]
 城水は異星人的な素(す)に戻りかけた低いテンションを、意識的に高めた。機械的な話し口調は常時、注意していたが、テンションだけは時折り下がったのである。それ以上、到真が訊(たず)ねなかったのは、城水にとって幸いだった。クローン化した異星人だとは、気づかれる訳にはいかなかったのである。到真は訝(いぶか)しげな顔をしたが、押し黙った。とすれば、ホッ! の気分である。やれやれなのだ。

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2016年5月15日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -77-

 里子に起こされ城水が目覚めたのは、いつもより遅かった。
「遅刻するわよ!」
 やや強めに促(うなが)され、城水はベッド脇の目覚ましをチラ見した。大聖小学校までは、どう急いでも約1時間は見なければならない。いけない! と、城水の脳内を数値が駆け巡り、WARNINGの警告文字を赤く点滅させた。城水は慌(あわ)ててベッドから飛び出した。
「ゆうちゃんは、もう出たわよ…」
 キッチンから里子の無愛想な声がした。城水の脳内数値は、里子の感情起伏度を20mmHg高い数値で示した。
 ここはUFO内である。指令とクローン[1]が回収した地球物質の分析結果について話し合っていた。
[…回収物は多岐に渡るが、個人差はあるな]
[はい。人間の個体差と思われます]
[そこが我々とは違うようだな…]
[この個体差も各種、採取されますか? 指令]
[現在までに集積されたデータはどうなっている]
[かなりの量を示しています]
[その、かなりの量とは?]
[ムニャムニャです]
[ふむ…ムニャムニャか。まだ3分の1ほどあるな]
[はい。全地球物質の3分の1は…]
[あと10日余りですべてを回収し終え、分析結果によって私は最終判断を下さねばならない]
[はあ…]
 クローン[1]は溜め息混じりの声を出した。クローン[1]にすれば、早く解放されたかったのである。

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2016年5月14日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -76-

 城水は、忘れないうちにと、すぐさま目を閉ざした。首尾よく、雄静(ゆうせい)は寝息を立てている頃で、里子も寝室へと引き上げたから、キッチンには誰もいなかった。
[そういうことで、一応、ご報告をさせていただきます]
[そうか…。幸い、地球人はまだ、我々の存在を認識していないようだな]
 指令からのテレパシーは、すぐ城水へ送り返されてきた。
[はい、どうもそのようです…]
[お前にはまだ言っておかなかったと思うが、地球への処置は最終決断で覆される可能性もある。その判断は私に委(ゆだ)ねられているのだが、人間の未来に対して救いがあるか、どうかという判断だ]
[未来の地球が人間達で維持可能か、ということですか?]
[そのとおりだ…では、また何かあれば、知らせるように]
[分かりました…]
 テレパシーが途絶えると、城水は静かに目を開けた。LEDダウンライトの灯りが城水をなぜか寂しくさせた。城水は椅子を立つと、冷蔵庫から缶ビールを一本出し、寝室へ向かった。
 次の日の朝、外が明るくなるまで、異星人達による地球物質回収作業は続いていた。それは城水が住む近郊に限ったことではなく、もっと広範囲の日本、いや、世界のありとあらゆる地域で進んでいたのである。いわば、人間世界で見られる深夜帯の突貫工事にも似ていたが、動く者達が人間の見る目には透明で、行動音もまったく無かった点が、まったく違った。

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2016年5月13日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -75-

 写真を投稿した者の名前は匿名(とくめい)で伏せられていたが、記事内容はその写真の真実性を疑わせるもので、面白おかしく書かれていたのが、城水のせめてもの救いだった。
[いったい、誰が撮ったんだ…]
 城水はコラムを読み漁(あさ)った。城水の疑問はすぐ判明した。そこには遭難事故になりそうな男の体験談が書き加えられていた。その男は、城水の近くにある山に登り、帰り路を見失った。夜は更け、辺りに暗闇が覆う頃になると、さすがに男も焦(あせ)ったようだ。山の樹木や雑草を掻き分け、しゃにむに下山した。途中、その男は異様な光を放つ円盤状のUFOに遭遇したのだ。それも、あちこちに数多く散在し、編隊のように見えるUFO群を…。男は手に持つカメラのシャッターを思わず押していたのである。そして、男は、かろうじて沢づたいに下り、民家へ辿(たど)りついた。男は、現像した写真を撮影状況を書いた手紙とともに新聞社へ送った。新聞に載っていたのは、そのときの写真だった。
 新聞社が、まともにその男の話を信じなかったのは、勿怪(もっけ)の幸(さいわ)いだった。コラム記事は笑い話として扱われていた。最後尾に、見事なまでのミニチュアによる偽装写真とて高く評価したい・・と科学者の意見も添えられていた。まあ、冷静に考えれば、今の世の中でUFOなど存在する訳がないと受け取るのが正常な人間思考だ…と城水の脳内数値は解答を出していた。城水の頭脳は、このことを一応、指令に伝えておく必要があるだろう…と所見を付け加えた。城水は、その所見に従うことにした。

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2016年5月12日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -74-

 城水には異星人達がこの地球を離れるまでに決断せねばならない悩みごとが一つあった。脳内数値は、計算不能?というシュミレーションの予測結果を、繰り返して弾(はじ)き出していた。異星人達とともにこの地球から去るべきか、去らないで留(とど)まるべきか・・という悩みである。去るのはいいが、城水にとっては未知の宇宙のとび達である。はっきり言って不安があった。脳内数値は未知の事象に対しては計測が弱いのだ。結果、不安は拭(ぬぐ)えないということになる。かといって、地球に留まるのはいいが、決定された異星人達の動・植物園化計画が実行段階に入れば、城水家も対象になることは必死だった。城水は他の異星人達とは違い、生れもって地球人だった。いわば異星人と地球人の混血と例(たと)えても過言ではなかった。思考法はクローン化して以降、数値計算に従うものになったものの、やはり過去の生活意識は記憶として城水の脳内に潜在していた。ゆえに、里子や小学一年の雄静(ゆうせい)を巻き込むことは信条として忍びなかった。この感覚が指令からの指示と矛盾する抵抗数値を弾き出し、脳内で自己矛盾させていた。
 いつの間にか、里子は寝室へ消えていた。城水は徐(おもむろ)にテーブル上に置かれた新聞を手にして捲(めく)った。二枚ほど捲ったとき、目に入った写真に城水は、ギクリ! と驚かされた。一面トップではなかったが、その写真はコラム記事欄に堂々と掲載されていた。半分は興味本位で、事実としてではなくUFO騒ぎに読者の興味を向ける面白ネタだった。

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2016年5月11日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -73-

 地球外物質とのテレパシー交信を終えた城水はともかく時間を車中で進め、頃合いを計って駐車場をあとにした。駐車場の出口を車で左折すると、わずか1分足らずで右へ折れる上り坂が見える。城水の家の前に出る急勾配の坂道だ。異星人達がこの山麓へ着陸してからというもの、坂に落ちているゴミはまったく見ない日が続いていた。ゴミは異星人達によって吸い取られるように収集され、相変わらずUFO内で分析されていたのである。
 城水は何もなかったような顔で家へ入ると、そのまま書斎へ向かった。まだ、今日の分として回収した50種の動植物が入った収集袋を瞬間移動でUFOへと送り終えねばらない。捕獲袋は異種多様な生物や死物を収納し、城水のテレパシーにより、一瞬にしてコンパクトな手の平サイズまで収縮されている。城水は着替えることなく書斎へすぐ入り、その作業を終えた。終わったとき、城水はようやく安堵(あんど)感を得た。腕を見ると、9時を回っていた。
「あらっ? 帰ってたの」
[ああ…つい今し方、帰ったんだ]
 城水は出来るかぎりテンションを上げ、過去の城水風に言った。城水の脳内計算された数値が、それが最適・・と判断結果を出したのである。
「そう…。雄ちゃんは、もう寝たわよ」
[…]
 テーブル椅子へ座った城水はそれには答えず、里子が出した茶を無言で啜(すす)った。

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2016年5月10日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -72-

 城水が車の座席に背を凭(もた)せかけた瞬間、背広の外ポケットにいれた地球外物質が緑色光を発し、ふたたび点滅を始めた。そして、点滅をやめると、安定した緑色光の輝きを維持した。
━ 状況は把握(はあく)出来たのか? ━
[おっ! おお…。ある程度は把握した]
 突然のテレパシーに一瞬、戸惑った城水だったが、冷静に送り返した。
━ なぜ、お前の近くの坂の下が我々の出入口になったのか、は理解したか? ━
[いや、そこまでは聞かされていない]
━ そうか。その事情は何(いず)れ分かることになる… ━
 通勤する坂の下が選ばれたのには、何か深い訳がありそうだ…と、城水は思った。家の前は、すぐ坂道になっている。中古物件を手に入れた城水だったから建設時の問題は何もなく、苦もなかったが、この勾配は…と思えていた経緯(けいい)があった。もちろんそれは、クローン化する前の城水だったのだが、近年起こった広島の土石流騒ぎを見聞きするにつけ、人ごととは思えていなかった。だが、今の城水は脳内分析の数値が駆け巡ったあとの判断だから、無科学的な心配は科学事象としてしなかった。すべての思考が機械的な分析の上で理論上有り得る内容を思考したのである。
[家族の者には今までどおりの態度でいいんだな?]
━ 指示がなければ、そのままでよい ━
[指令は地球を離れるまで、と言っておられたが…]
━ そうだ。我々が去ったあと、入れ替えに処置の編隊が飛来することになっている ━
 呟(つぶや)くように、ゆったりと地球外物質は城水へテレパシーを送った。

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2016年5月 9日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -71-

 態々(わざわざ)、トンネル状の通路を移動しなくてもいいようなものだ…と城水の脳内を巡る計算式は不明の?信号を出した。だが、その城水の?信号は甘かった。
[ははは…君の考えていることは手に取るように分かる。それはそうだ。しかし、我々には地球上物質を運ばねばならない星からの義務が課せられているのだ。収集袋にミクロ化できない物質もこの地球上にはある。当然、それらを移動するには、それらの物質が通過できるスペースが必要となる。と、まあそれが、通路の理由である]
[ミクロ化できないその物質とは、いったい何なんですか?]
 城水は思わず訊(たず)ねていた。
[それは、今に分かる。君は、今日見聞きしたことだけを理解すればいい。では、帰りなさい]
 そう言い終わると、指令の姿は照射された光線が機体に吸いこれると同時に跡片もなく消え失せていた。城水は指令の言葉どおり、岩肌の出入り口へUターンし、中へ入った。あとは来たときの逆通路で、城水の両足は自然と光に乗るようにマンホール側へと移動していった。
 城水がマンホールから出ると、宙に浮かんでいた蓋(ふた)はすぐに地上へ落ち、無音で閉ざされた。
 僅(わず)か30分内外の時間ながら、城水には夢の世界の出来事だった。自分がクローン化したとはいえ、異星人達がすることは、すべて初めて見る絵空事だった。腕を見れば、まだ宵の口で、8時前だった。家に戻るにしては少し早い。といって、駅まで歩き、繁華街で時間を潰(つぶ)すには中途半端である。城水の脳は車内でしばらく眠ろう…と、単純な思考結果を出した。

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2016年5月 8日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -70-

 城水がしばらく階段を下りると、奇妙なことに階段は消え、霧状の光が城水の足下を覆(おお)った。そして次の瞬間、城水の両足は、その光に乗るように中へと吸い込まれていった。城水の足下の感覚は、恰(あたか)も空港のコンベア路に乗って移動する感覚そのものだった。ただ、眩(まばゆ)い光に包まれ視界は四方八方、閉ざされているから、自分がどこへ向かっているのかが城水には分からなかった。
 不思議な光に乗り、城水がしばらく移動すると、彼方にポッカリと丸い暗闇が見えた。UIO編隊が降り立った山麓の岩肌だった。見えているのは異星人達が通路用に貫通させた地下トンネルの出口だった。もちろん、このトンネルは人間の目には見えなかった。
 城水はコンベア路を下りる感覚で光の中から外へと出た。出た瞬間、城水の足に地上を歩く感覚が戻(もど)った。外へ出て辺りを見回す城水の目に映ったのは、山林のあちこちに降り立つUFO編隊の機体だった。その機体の群れは、まるで様々な光で輝くLED電球の点滅にも似て、眩く美しかった。城水は、しばらくの間、ウットリとその光に見とれていた。すると、光り輝く編隊の中の一つの機体から光線が城水を目指して照射された。次の瞬間、城水の前に城水が立っていた。もちろん城水と同じ、別のクローンである。
[私が指令だ。理解したと思うが、マンホールの蓋(ふた)と、この岩肌が出入り口として繋(つな)がっているのだ]
 指令が言うことは理解出来たが、城水には瞬間移動できるはずの異星人達が、なぜ通路から出入りする必要があるのか? が分からなかった。それぞれ、目的の場所へ瞬間移動すればいい話なのだ。

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2016年5月 7日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -69-

 駐車場を出たところでT字路になっていて、右に折れれば駅へ、左へ進めば坂の下に出る。その坂の下に、地球外物質が指示したマンホールがあった。
城水は一歩、また一歩と近づいていった。いつもと違い、少し未知に対する恐怖心もあった。それは、人間の感じる恐怖心ではなく、どこか異質の恐怖心だった。初めて知る感情だったことが、城水をそう感じさせたのだった。城水の脳内では数値が渦巻き、計算式が乱れ飛んでいた。城水自身にも分からない数式で、地球で使用される数式ではなかった。それでも、脳が指示する内容は自分の意志として理解出来た。城水は他のクローンとは異質の、人間と異星人の合体生物に変身していたのである。
 駐車場の前のT字路を左へ折れ、しばらく歩いた城水は⊥字路に出た。坂の下である。マンホールの蓋(ふた)は、ちょうど⊥字路が交差する中央分離帯にあった。今の時刻は深夜ではない。夜とはいえ、時折り車が往き来するから、動きが途絶えた瞬間を待たねば人目(ひとめ)に触れて大ごとになる。城水はマンホールのすぐ傍(そば)まで近づき辺りを窺(うかが)うと、車の動きが途絶える瞬間を待った。その瞬間は、割合と早く巡った。城水はその瞬間を逃さなかった。城水がテレパシーを送った瞬間、マンホールの蓋は地球外物質が告げたようにスゥ~っと浮き上がった。城水が階段を下がり中へ入ると、マンホールの蓋はただちに閉ざされた。マンホールの中は照明がないにもかかわらず、不思議な眩(まばゆ)い光に照らされ明るかった。

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2016年5月 6日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -68-

[一つだけ、訊(たず)ねたいことがある]
━ なんだ? ━
[他のクローンが時空移動できるのに、なぜ私はできない]
━ 簡単なことだ。お前の細胞は地球生命体で出来ている。他のクローンは全員、地球外細胞で出来ている。この地球には存在しない物質だ ━
 地球外物質は、緑色の光を放ちながら、ふたたび的確なテレパシーを城水に送り返した。
[そういうことか。理解した。それと、もう一つ]
━ なんだ? まだ何かあるのか ━
[クローンはなぜ全員、城水なんだ?]
━ それは過去、我々がこの地球に降り立ったとき、偶然、居合わせたお前の母親が対象となったからだ。母体にいたお前の細胞が選ばれたのだ ━
[胎内の私の細胞をどのようにして?]
━ ははは…そんなことは、我々にとって容易(たやす)いことだ。地球科学では到底、理解できないだろうが… ━
[…理解した。では、私は坂の下のマンホールへ向かう]
━ 家の方は大丈夫か ━
[その心配はない。家族には知人に会うと言ってある]
━ そうか、では、指示に従え ━
 地球外物質は、ゆっくりと緑色光の輝きを消滅させた。城水は車を降りるとドアを閉め、施錠もせず静かに歩き始めた。

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2016年5月 5日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -67-

[いや、なに…たまには夜風の散歩を、と思いましてね]
「お車で、ざ~ますこと? ほほほ…」
 若狭夫人は語尾で意味深(いみしん)に笑った。
[いやぁ~、坂道は昇りが、きついですから…]
 城水は言い訳に四苦八苦した。こんなことなら、疲れたから早めに寝るとかなんとか言って、家にいた方がよかった…と城水の脳内数値が計算結果のデータを瞬時に出し、即答した。
「ほほほ…奥様、どうでもいいじゃござぁ~ませんこと」
 若狭夫人の横に立つ夫人が、しゃしゃり出て、嫌み口調で言った。
「あら! そうざぁ~ますわね。嫌ですわ、私としたことが。ほほほ…、ごめんあそばせ]
 二人は車に乗り込むと始動させた。城水とは逆で、自宅への帰途のようだった。城水としては、やれやれである。気疲れからか徒歩で駅へ向かう気力も失(う)せ、城水はしばらく車の中で目を閉じることにした。
━ ははは…とんだ災難だったな ━
 数分経ったとき、背広の外ポケットに入っている地球外物質が緑色の光を発し、城水へテレパシーを出した。ハッ! と城水は目を開け、凭(もた)れかけた背を起こした。
[何か用か?]
━ いつか見たと思うが、そのマンホールの中へ入(はい)れ。蓋(ふた)はお前がそこへ行けば自然と上昇する。あとは現れた[1]の指示に従え ━
 地球外物質からの指示は的確なメッセージだった。

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2016年5月 4日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -66-

 会う相手もいないのに出かけることになった城水は、早々に夕食を済ますと、玄関を出た。
「変なパパ…」
 キッチンから玄関へ向かうとき、雄静(ゆうせい)の声が城水の背中でした。城水は、少し妙だったか…と反省した。そんな疑問を感じた城水の脳内を数値と計算式が駆け巡った。そして、今の行動は正解だったと解答を出したのは。城水が家を出た直後だった。
 外出の用はなかったが、久しぶりに外出する夜の街である。城水の心は、なぜか少し躍(おど)った。城水は適当に数時間、ブラつくことにした。夜の坂を車で下りるのは年に数度、あるか、なしだった。坂を下り切ると、いつもの駐車場へ車を止めた。
「あら! 城水さんじゃ、ありませんこと? こんな夜分にどちらへ?」
 駐車場に車を止め、城水が数歩、歩きだしたとき、ふと声が側面から聞こえた。そこには、駐車場の照明灯に照らされ、二人の女性が立っていた。相手が知っているのだから、恐らくどこかで遠目に見られていたのだろう。あるいは、里子が写真でも見せたか…と、城水の頭脳は計算式を駆使して正しい数値を出そうとした。だが、出た結果は?だった。
[ははは…どちらでしたかな?] 
「あら、嫌ざぁ~ますこと。お見忘れ? 若狭の家内ですわ」
「奥さま、城水さまとのお出会いはお写真だった、ざぁ~ますでしょ」
「あらぁ~そうざぁ~ましたかしら、ほほほ…。私としたことが…」
 もう一人の奥様風の女性に、やんわりと指摘され、若狭夫人は相好を崩した。若狭夫人のデータは城水の脳内データに入力されていた。

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2016年5月 3日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -65-

[だが、報道では得体の知れない侵入者が突然、現れたと言っていたぞ]
━ それは瞬間だったと[4]は言っている。ミスに気づき、すぐにシールドで顔を隠し、議場から消えたそうだ ━
[そうか。ならば、いいが…]
━ 万一の場合は、お前を緊急避難させる ━
[それはいいが、城水の家族はどうなる]
━ どうもならない。お前が存在した記憶を消去する ━
[しかし、雄静(ゆうせい)という子供の存在はどうなる。里子は雄静の存在を、どう認識しているのだ]
━ 家族には別の記憶を植えつける。お前は死んだ記憶となる。お前の顔形は別人として修正され、遺影として安置される手はずだ。この段階で、お前の家族は今のお前を忘れている ━
[なるほど…。すでにそういうプログラムが出来上っていたのか。ならば、私は安心していい訳だな]
━ ああ、そういうことだ。余り遅くなると、家族が不審に思うぞ ━
 次の瞬間、テレパシーは途絶え、地球外物質は緑色の光を発するのをやめた。城水は書斎を出ると、そのままキッチンへ向かった。
「あら、着替えは?」
 背広姿の城水を見て、里子が訊(たず)ねた。
[食べたら、また出かける。知り合いが会いたいそうだ]
 城水は方便を使い、出鱈目を言った。
「そうなの? 珍しいわね、こんな時間から…」
 里子は不審っぽい眼差(まなざ)しで城水を見た。ただ、それ以上は訊(き)かなかったから城水は救われた。

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2016年5月 2日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -64-

 小忙(こぜわ)しく家へ着いた城水はテレビのリモコンスイッチを慌(あわ)てながら押した。
「あら、どうしたの? 息、切らして…」
[いや、なんでもない…]
 里子が怪訝(けげん)な顔つきで城水の顔を窺(うかが)った瞬間、城水の脳内に危険信号が点滅して浮かんだ。城水は、しまった! と思い、すぐテレビのリモコンを押して、スイッチを切った。ニュースで万一、クローンの姿が流れれば、具合が悪い。クローンの姿は自分の生き写しだからだ。いや、そればかりではない。城水の存在は世界に報じられ、家族ばかりか世間の誰もが知るところとなる。これは非常に危うかった。それよりも、大バレの事態は、悟られずという指令された城水の目的が果たせなくなる。
「怪(おか)しな人…。お風呂、沸いてるわよ。ゆうちゃんは、もう出たから」
[ああ…]
 今の城水に風呂などどうでもよかった。城水は普段着に着替えることなく書斎へ入ると、目を閉ざしてテレパシーを送った。その瞬間、城水が背広の外ポケットから出した地球外物質は、手の平の上で緑色の光を放ち始めた。
━ 何も心配することはない。確かに[4]はミスを犯したが、すぐ姿を消した。お前には言ってなかったが、人間が生み出した科学機器では私達の姿は映らない。そういうシールドを、それぞれが装備しているのだ ━
 地球外物質は城水にゆったりとテレパシーを送り返した。

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2016年5月 1日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -63-

[いや、別に何もないさ。少し疲れて採点とかが遅れただけだよ]
「ふ~ん…無理しないでね」
 幸いにも里子がそれ以上は訊(き)かず、城水は救われた。正直言って、家外だけでなく一挙手一投足に家内でも気を遣(つか)うのは、言ったとおり本当に疲れる城水なのだ。浴室で湯に浸(つ)かっている間とベッドで眠る時間が唯一、城水が解放され寛(くつろ)げる時間だった。なぜクローンのうち、自分だけがこの任務を帯びたのか・・が、未だに分からない城水だった。異星人達による地球調査と物質回収の事実は、彼等の高度な文明科学により人間社会から完璧(かんぺき)に隠蔽(いんぺい)されて進行した。だが、その事実が進行するさ中、異星人飛来の事実がひょんなことから明るみに出た。それはクローンの一人、[4]のうっかりしたミスによってだった。世界は驚愕(きょうがく)し、たちまちパニックに陥(おちい)った。
 それは、城水がいつものように放課後、地球物質の回収を終え、帰途に着いたある日のことだった。一学期の終業式で、城水は、異星人とバレずようやく生徒達から解放された安堵(あんど)感に包まれながら車を運転していた。城水が、なにげなくカーラジオのスイッチを押したときだった。
『ただいま、国会議事堂内の衆議院本会議場に得体の知れない侵入者が突然、現れ、突然消え去りました。この科学を否定した出来事は世界各地に広がっております』
 やや興奮気味のアナウンサーの声が城水の耳に入る。城水はギクリ! とした。ラジオだけならいいが、国会内の報道カメラマンがその瞬間を撮っていれば、ド偉いことになるからだ。

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