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2016年6月

2016年6月30日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 あとがき

  あとがき

 読者諸氏には、お恥ずかしい小説を披歴してしまい、誠に申し訳なく思っている。ただ、宇宙には人智の及ばない現象が必ず存在する・・と、私は確信している。人は地球科学ですべてを理詰めで論じ、定義づけてはいるが、それらは宇宙全体では成立しないのではないか? とも考える。かつて、天動説が、さも当然のように唱えられたが、それも時代が進むにつれ否定され、今日では、まったく通用しない。はたして、広大な宇宙の果てはあるのだろうか? その先はどうなっているのか? 現代の地球科学をしても、こうだ! とは、誰も解き明かし、断定し、証明することは不可能だろう。すべては、地球に息づく我々人間が、地球科学の常識として宇宙を考察した推論に他ならない。銀河系星雲の地球では肯定されても、異次元や宇宙全体では成立しない理論かも知れないのである。地球で息づく我々の人間世界は、まあ、そんなものだ・・と、お考え戴き、軽くお読み願えれば有り難いと思う次第である。

                                 水本爽涼

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2016年6月29日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -最終回-

[日々、生じる問題がすべて解消する日・・それは、高度な文明を誇る我々、星団をもってしても解けない。その解決の糸口が半異星人である城水、お前にあるのではないか・・と我々は見ている。だから、お前達の協力が必要となる。宇宙のため、ひいてはこの地球、そしてお前達が救われるためにもこの時間に日参して貰(もら)いたい]
 そして次の日から、来る日も来る日も城水家三人による坂の下への日参が始まった。時間は日付が変わる午前0時前である。雄静(ゆうせい)も少しずつ馴れ、日常、くり返される生活の一部として愚痴らなくなった。それどころか、むしろ誇(ほこ)らしげに登校していくのだった。宇宙の存亡を僕が担(にな)っている・・という他の者達には想像できない壮大な使命感がそうさせていた。城水や里子もまた、そうだった。いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情とは、異星人達の諸事情に他ならなかった。
今日も城水家は坂の下で待ち続けている。

                             完

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2016年6月28日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -121-

 そんな馬鹿な話はない! それが異星人達にどのような諸事情があるとしても、だ! と、益々、城水の怒りは増した。脳内数値は興奮度を危険と判断し、WARNINGの赤色文字を城水の脳内で輝かせ始めていた。
「馬鹿にしてるわねっ! 私達をいったいなんだと思っているのっ!」
 怒っているのは城水だけではなかった。里子は城水以上に憤慨(ふんがい)していた。
「そうだよ! 僕ん家(ち)を馬鹿にしてるっ!」
 雄静(ゆうせい)も里子の手下になって怒った。城水に二人を宥(なだ)める術(すべ)はなかった。そのとき、城水は俄(にわ)かに耳鳴りに襲われた。そして、耳鳴りが治まったとき、指令からのテレパシーが聞こえた。
[城水よ、まず、家族と手をつなげ。そうすることにより、私の声が家族達にも届(とど)くだろう…]
 城水は指示されるまま、真中に立ち、両手で二人の手を握った。
[お前達を馬鹿にしている訳ではない。これは偏(ひとえ)に、我々の諸事情によるものだ。納得がいかないだろうから、その諸事情を説明しておこう]
 勝手なものだ…と思えたが、城水としては聞く他はなかった。
[世界各地で日々、頻発(ひんぱつ)する我々の地球上での環境不適合問題が、お前達家族の移送を困難にしているのだ。我々は日々、その問題解決に力を費やさねばならず、計画は大幅に遅れている。だが、この計画はすでに始動しているのだ。今、計画を停止すれば、宇宙は崩壊し、無と帰すことになる。それだけは、宇宙全体の代表としての使命を担(にな)った我が星団として、何が何でも阻止(そし)せねばならない]
 その声は里子や雄静にも響いて聞こえた。声は続いた。

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2016年6月27日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -120-

 深夜、昨日(きのう)の夜と同じように城水家の三人は坂の下のマンホールまで車で向かっていた。交番日直は藻屑(もくず)巡査ではなく、交替した若芽(わかめ)巡査が、やはり昨夜と同じように机の上へ上半身を預け、ウトウトと眠っていた。
「ははは…また、眠ってるよ」
 雄静(ゆうせい)が車窓から交番を見ながら、賑(にぎ)やかに笑った。里子も釣られて笑ったが、城水の胸中は、それどころではなかった。また明日も待ち続けることになるのではないか…という一抹(いちまつ)の不安が過(よぎ)ったからである。城水の不安はピタリ! と的中した。城水がそう思った直後、地球外物質が緑の光を発し、城水のポケットで点滅した光を発し始めたのだった。
[申し訳ないが、また新(あら)たな事情が生じた]
 地球外物質は、幾らか小さな響きで三人に聞こえる直接の音声を発した。
[ということは、中止なんだな!]
 城水は、すでに怒れていた。
[ああ、そういうことだ。また明日も来るように…]
 多くを語らず、地球外物質は即座に緑の光を消した。城水の詰問(きつもん)を予見し、未然に防いだ感があった。城水は、またかっ! と怒りがいっそう増した。だが、その怒りを向ける矛先(ほこさき)が城水にはなかった。いや、むしろ逆に、里子や雄静から毛嫌いされる心配も城水にはあるのだ。二人とも地球外物質の声を聞いたのだから、まあ嘘、馬鹿扱いされることはないだろうが、日々、連続での深夜の日参はとても頼めたものではなく、憚(はばか)られた。これでは城水家の全員が、異星人によって好き勝手に操(あやつ)られていることになる。

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2016年6月26日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -119-

「なんだ…」
 がっかりしたような雄静の声がした。その声を聞き、明日の夜は里子と二人で出ることによう…と城水は思った。というのも、明日は日曜から月曜になる深夜なのだ。また何も起こらなければ、雄静(ゆうせい)の登校にさし障(さわ)ることになる。自分は寝なくてもなんとかなるが、小学生の雄静には、さすがに堪(こた)えるだろう…と思えた。脳内数値もそれがほぼ正解という97%の数値を示した。
 朝が明け、城水は里子にそう言った。
「そうよね…。私とあなたで確認してから、アチラに待ってもらえばいいじゃない!」
 里子の恐怖心は完全に消え、開き直ったような言葉が口から出た。雄静は睡眠不足からか、九時過ぎに起きてきた。城水と里子も睡眠不足だったが、そこはそれ、大人である。いつもどおり起きていた。一日は何事もないまま、ただなんとなく流れ、また夜が巡った。
「ゆうちゃん、今夜、あなたはいいから、いつもどおり寝なさい」
「でも、パパとママは行くんでしょ、昨日(きのう)の夜みたいに…。僕だけ、おいてけ堀は嫌だよ!」
 雄静はテレビの講談で聞き覚えた『おいてけ堀』を上手く使って言った。城水と里子は互いに顔を見合わせて笑いながら、それもそうだ…と思った。よくよく考えれば、万一、その場で移送となれば、雄静とは二度と会えなくなる。学校は遅刻か休み届で、一日くらいなんとでも出来るのだ。
[そうね…。ゆうちゃん、離れ離れは嫌だわよね」
[よし! 雄静も来なさい。三人がいいよな]
 城水は意識的に明るく言った。

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2016年6月25日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -118-

 城水は、妙だな? と感じた。脳内数値も、予測不能の確率を70%の数値で示した。数分後、城水の背広のポケットに入れた地球外物質が、暗闇の中で緑色の光を点滅し、輝き始めた。
━ 異常事態が発生した。その事情により、今日の移送は中止される。明日の夜、もう一度、ここへ来てもらいたい ━
 三人に聞こえる音声を発し、地球外物質はそう伝えるとすぐに光を消した。城水は、どういう事情が出来たのか知らんが、勝手なもんだっ! と、少し怒れた。こんなことなら、家族を連れて態々(わざわざ)、深夜に出る必要はなかったのだ。里子や雄静(ゆうせい)に申し開きできないではないか…。城水の怒りは、いっこう鎮(しず)まらなかったが、そんなことを言っても仕方がない・・とも思え、我慢した。
[この時間に明日(あした)もう一度、来ればいいんだな?]
 城水は里子や雄静にも聞こえるよう、声を出しながらテレパシーを送り返した。
━ ああ、そういうことだ ━
 地球外物質は短く返答すると、緑色の点滅を消し始めた。
[待ってくれ! 今度は間違いないんだな]
━ 新(あら)たな事情が生じない以上、大丈夫だろう ━
[だろう?! って、確定ではないのか]
 城水は諄(くど)く訊(き)いた。
━ グチャグチャと五月蠅(うるさ)い奴だ。私にそんなこと、は分からん! ━
 地球外物質は怒りのあまり、切れたように突然、パッ! と光を消した。
[二人とも、聞いてのとおりだ…]
 城水は里子と雄静に、そう言う他はなかった。

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2016年6月24日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -117-

 その解答とは、諸事情が異星人達が地球上で生存する上で生じる種々の環境不適障害である・・というものだった。城水にその兆候が現れないのは、城水の身体が人間の部分を残した半異星人だから・・という。そうなのか…と城水は思いながら、いつしかウトウトと灯りをつけたまま微睡(まどろ)んだ。
「あなた!! 起きてっ! 時間よっ!!」
 里子に揺り起こされて城水は目覚めた。腕を見ると、指示された日付が変わる午前0時には、まだ小一時間あった。
[雄静(ゆうせい)は?]
「さっき、起こしたからもう起きてくると思うわ…」
 里子は冷静に言った。その言葉どおり、しばらくすると雄静が眠い目を擦(こす)りながら居間へ現れた。
「この前、天体観測で、これくらいに起きたことがあったよ」
 雄静の呑気(のんき)なひと言に、城水は少し心が和(なご)んだ。これから起きようとしていることは、城水がいまだ体験していない未知への恐怖である。ただ、半異星人化している分、恐怖心は脳内数値によりある程度は解(ほぐ)されていた。
 外は漆黒(しっこく)の闇(やみ)が支配する深夜だった。物音一つしない中、城水は里子と雄静を乗せ、車を始動した。坂の下まで下ると、案の定、交番には藻屑(もくず)巡査のウトウト眠る姿が垣間(かいま)見えた。地球外物質が言ったとおりだ・・と、城水は車窓に映る藻屑巡査の姿を見ながら思った。
 指令の時間、三人はマンホールの横に立っていた。幸い、寒くはなかったが、時折り、犬の遠吠えする声が聞こえた。そして、城水が腕を見たとき、ちょうど日付が変わった。だが、辺りには何の変化もなかった。

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2016年6月23日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -116-

「ゆうちゃん、ママが起こしてあげるから早く寝なさい」
「は~~い!」
 雄静(ゆうせい)は、まるで旅行にでも行くかのように軽いテンションでそう返事すると、素直に子供部屋へと消えた。城水の脳裡に混信したテレパシーが入ったのは、その直後だった。
[準備は、滞(とどこお)りなく進んでおりますが、一部の北西アラスカ方面と北東アルゼンチン方面の低温地域で難航しておるようです]
[分かった…低温事情によるものだな]
[はい! 低温で停止するクローンがふえているとのことです]
[私から星団指令に指示を仰ぐから、出来得るかぎり準備を継続するように伝えよ]
[分かりました!]
 混信したテレパシーは城水の脳裡からすぐ消えたが、城水には異星人が低温に弱い・・という事実が分かっただけで、何の準備なのかまでは分からなかった。
 里子は洗いものをそこそこに済ますと寝室へと去ろうとした。
「一端、眠るわ。起きられるか分かんないから、目覚ましセットしておくわね」
[ああ…]
 城水は混信した頭から正気に戻(もど)り、虚(うつ)ろに里子の後ろ姿へ返した。
 新聞を畳むと城水も眠ることにした。ただ、寝室へは行かず、このままソファーで眠ろうと思った。目を瞑(つむ)ると、城水の脳裡で脳内数値が働き始めた。計算は、異星人達の諸事情の一つが低音障害だという事情から解析され、城水自身にも分からないややこしい計算式により解答を瞬時に導いた。

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2016年6月22日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -115-

「あなたぁ~! ご飯よぉ~~!」
 少しも以前と変わらない里子の声がした。人間は恐怖感が過ぎると、返って平静に戻(もど)るのか…と思えた。脳内数値もその城水の考えを肯定(こうてい)するかのように100%の確率数値で示した。よく似通った人間の現象として、悲し過ぎると涙が出ないことがある・・と、数値は冷静なデータを城水の脳内で示して加えた。
[ああ! 今、行く!]
 城水は庭からテラスに上がり、足をキッチンへと戻した。
 そして、城水家の三人にとって恐怖の夜がやってきた。とはいえ、普段と別に変わりない夜である。深夜、SF映画のに類似した異変が世界で起こる・・と城水の脳内数値が98%の確立を示した。だが城水は、とてもそうなるとは思えなかった。
 雄静(ゆうせい)は? と見れば、いつもの所作でテレビのリモコンを押し、画面に映し出された番組を観ている。城水は、いつもと変わりなく新聞記事に目を通した。里子も、いつもと変わらず、食後の洗いものに余念がない。今夜がこの次元で過ごす城水家の最後の夜になるとは、城水自身にも信じられなかった。だが、そうなる・・と指令がつたえたのだからそうなるのだろう…と城水は諦念(ていねん)した。ただ一つ、異星人達の諸事情がいったい何なのか? という知らされなかった小さな疑問が蟠(わだかま)りとして城水に残った。
 城水の心に引っかかった異星人の諸事情は実にシンプルな形で表面化することになるのだが、今の城水はそれらの事情を知らず、ただ里子や雄静となるに任せるしかなかった。
 夕食は無言のまま進み、手早く終わった。

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2016年6月21日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -114-

[聞いてのとおりだ。今夜、らしい…]
 城水は二人の不安を和(やわ)らげようと、明るく言った。里子と雄静は頷(うなず)くしかなかった。幸い今日は土曜だったから、城水や雄静には、ゆったりとした時間が流れていた。
 里子は慌(あわ)ただしくテーブル椅子を立つと、無言で朝食の準備を始めた。内心ではいろいろ思っているようだが、そこまでは城水にも分からなかった。
 城水は庭へ出て歩き始めた。そのとき、城水は俄(にわ)かに耳鳴りに襲われた。そして耳鳴りが治(おさ)まると、指令からのテレパシーが聞こえ始めた。
[物質から聞いたと思うが、星団から通告を受けた我々は、十日後とした人間に対する処置をやはり実施することに変更した]
[ということは?]
[そうだ。地球は多くの星団の生物の暮らせる場として動・植物園化されるのだ。ただ、安心するがよい。一部の消去される者を除き、多くの普通人間達は別次元へ移送されることになった。お前達家族も、その中の一部だ…]
[それが今夜なんですか?]
[そういうことだ。マンホール下の地下駅から瞬間で移動することになる]
[どの頃に私達は行くのですか?]
[ははは…心配性な奴だな。安心しろ、行けば分かる。では、伝えられた時間にな…]
 テレパシーが途絶えた。それと同時に、里子の呼ぶ声が城水の耳に届いた。

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2016年6月20日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -113-

[私達は、たぶん最悪の場合、別の次元へ移送されることになる]
「SFじゃないんだし、私、信じらんない!」
 里子は怒ったような声で言った。雄静(ゆうせい)はただ聞くのみだ。
「そうだよ! パパ。そんなの、おかしいよ! だいいち、学校はどうなるの?」
 ついに雄静が話し出した。
[その心配はないんだ、雄静! 向こうにも今の学校はある]
「どういうこと?」
 小学性の雄静に理解しろ・・と言う方が無理だった。
[とにかく、大丈夫なんだ、雄静。パパを信じろ]
 意識せず話すと、どうしても半異星人化の影響を受ける城水だったから、城水は意識的にテンションを上げ、人間的な口調で雄静に言った。
「嫌だよ、僕、そんなの…」
[心配しなくていい。向こうは今とまったく同じなんだ。ただ、以前、お前が経験した世界だけどな]
「それって、過去へ戻るってこと?」
[ああ、そうだ。私達は過去のある次元へ移送されることになる。ただ、異星人達にも諸事情があるらしい。私達はただ、それにそれに従う他はない]
 そのとき、城水が服のポケットに入れていた地球外物質が突然、緑の光を放ち点滅を始めた。
━ 今、指令からの命令が発せられた! お前達は今夜、日付が変わる前、坂の下にあるマンホール前で待て! 交番の警官は眠っている… ━
 地球外物質は、里子と雄静にも聞こえる声でそう告げると、点滅を止め、静かに光を消した。

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2016年6月19日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -112-

[待ってくれ。お迎えが何度も・・とは、どういうことだ?]
━ それは、分からない。ただ、それには諸事情があるらしい ━
[なんだ? その諸事情とは?]
━ 困った奴(やつ)だ。私に分かる訳がない ━
 地球外物質は怒ったように、パッ! と俄(にわ)かに光を消した。城水はそのことが気になり眠れなかった。だが、人間とはよくしたもので、生理的に数時間は知らず知らず眠ることになる。いつの間にか微睡(まどろ)んで、いつもの朝が来た。土曜ということもあり、雄静(ゆうせい)もゆっくりと起きてきた。
[あっ! 二人に言っておくことがある…]
 城水は里子と雄静がいる前でポツリと言った。
「なに?」
 里子は城水が半異星人にクローン化したことを打ち明けられてからはタメ口を余り聞かなくなっていた。今までなら、「なによ! 忙(いそ)しいんだからあとにして!」となるところである。城水は座るように片手で対面席を示した。
 里子と雄静はテーブル椅子へ静かに座った。
城水は徐(おもむろ)に里子と雄静を前にして言った。
[もうすぐ、異星人が私達を迎えに来ることになる]
「えっ?! どういうこと?」
 里子は城水の言葉が分からず、訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。雄静も、その横でキョトンとしている。

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2016年6月18日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -111-

 里子は家へ戻(もど)ると、若狭夫人の話をさっそく城水に言った。その話を聞いた城水には、一も二もなく異星人による処置だと内容が理解出来た。
[まあ、そういうこともあるさ。しかし、西谷さんが、そんなワルだとはな。ははは…人は分からんもんだ]
 会社経営している西谷が悪徳業者として暗躍(あんやく)していることは、薄々(うすうす)ながら風の噂(うわさ)に聴いている城水だったが、ここは知らないことにした。城水の脳内数値は西谷の潜伏先まで数値化しようとしたが、城水自身の意思で停止させた。城水には西谷のことなど、どうでもよかった。それよりも、異星人によって進められている処置の今後が気になった。脳内数値は城水家の三人は処置に該当しないと100%の数値を示したが、それは当然だろう・・と思えた。
 異星人による生存不適人間の消去と移送措置は、その後も静かに進行していった。ただ、城水にとっては、指令が告げたお迎えの話だけが気になるだけだった。
 それから数日が事もなく流れたが、深夜、指令からの最初のお迎え通告を城水は地球外物質を通して受けた。その夜、城水は眠れず、ベッドから起き出すと、キッチンで水を飲み、書斎へ入っていた。城水が椅子に座って欠伸(あくび)を一つうったとき、机の上に置いていた地球外物質が突然、緑色の光を発し、輝き始めたのである。時間が時間だけに、これには城水も驚かされた。脳内数値は、城水の驚きとは裏腹に、さも当然だ・・との数値を100%で示した。
━ 指令からの言葉を伝える。お迎えは何度も繰り返されることになる。まず最初のお迎えは十日後だ。その時間は、また伝える ━
 地球外物質はテレパシーを伝え終わると静かに光を消し始めた。

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2016年6月17日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -110-

「あらっ! 城水の奥様じゃござぁ~ませんの?」
 里子は、また五月蠅(うるさ)いのが現れたと、顔で笑いながらも、口では軽く舌打ちした。ご近所の若狭夫人だった。奥様会では散々、手こずらせた相手である。ここは、触(さわ)らぬ神になんとやら…と思いながら一応、話だけは聞くことにした。
「奥さま、ご存知? 悪いことは出来ませんわね。会社経営されてる西谷さん、不渡り出されて雲隠れですって?」
「えっ! そうなんですか?」
 里子は初耳だった。
「そうなんざぁ~ます。でね、お家は、蛻(もぬけ)の殻(から)。当然、奥さまも…。なんでも、立ちが悪いマルチ商法だったみたいよ」
「まあ…」
 里子は最初、軽く聞く人だったが、だんだん重くなっていた。
「旦那さま、国際指名手配らしいわよ。そら、多くの人をぺテンにかけたんだから、当然ざぁ~ます」
 若狭夫人は鼻息を荒くした。
 ところが、西谷が消えた真実は雲隠れでもなんでもなかった。悪徳会社経営者の西谷は異星人によって消去されたのである。すなわち、新たなエネルギーと化したのだった。西谷の場合は完全消去で、城水家前の坂の下にあるマンホール地下駅から別の次元へ移送された訳ではなかった。

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2016年6月16日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -109-

━ それは、お前のポケットに入っている物質に訊(き)けばよかろう ━
 ふたたび城水の脳裡に指令のテレパシーが過った。城水は無意識で服のポケットを弄(まさぐ)り、地球外物質を手の平の上へ乗せていた。
[指令が言われたお迎えとは?]
━ 言葉どおりだ。お前達は迎えられるのだ ━
[誰に?]
━ 申すまでもなく、我々の星団によってである ━
 地球外物質は緑の光で点滅しながら、テレバシーを城水へ送り続けた。
[どこへ?]
━ お前達の地球では、それを死と呼んでいる。しかし、その理論は正確ではない。宇宙に消え去るエネルギーなどはない。すべてのエネルギーは別の次元へ移送されるか、新(あら)たなエネルギーとして生まれ変わるのだ ━
[私や家族は、ただ待っていればいいのか?]
━ そうだ。坂の下のマンホール横で待っていればいいのだ ━
 城水はお迎えの意味を少し理解出来た気がした。城水は地球科学が自分達の知り得た範囲でしか通用しないことを知らされた。そのことを裏付けるかのように、城水の脳内数値は、地球科学では計測不能・・として、数値を示さなかった。
 城水が目を開けたとき、手の平の上の地球外物質は、すでに緑色の点滅をやめ、ただのザラついた石に戻(もど)っていた。

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2016年6月15日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -108-

 地球は微妙な変化を見せ始めていた。世界各地で不用と判断された人間が消去されていたのである。ただ、表面上の世界各地の世情は平穏で、以前と何ら変化はなかった。むろん、城水を取り囲む環境にも何ら変化はなかった。しかし、城水家で生活を共にする里子と雄静(ゆうせい)だけは城水が異星人と分かって以降、城水をある種、尊敬(リスペクト)する向きがなくもなかった。その具体例の一つが、今まで一日、¥1,000だった城水の小使いが¥2,000にぺースアップしたことである。これはもう、過去の城水なら御(おん)の字でニコニコ顔なのだが、今の城水は半異星人化していたから、脳内数値のコントロールを受けて何も感じるところがなかった。異星人と認識された結果、額が増した…という冷静な思考である。すべては脳内数値の分析結果による判断だった。
 異星人達によって消去された者は、地球上から完全に消去された者達と他の次元に移送された者達に別たれた。後者は城水がいつも通る坂の下の交番近くにあるマンホール下に移送して集められ、その地下駅から異次元へ移送されていったのである。彼等は地下駅へ移送された段階で、すべての過去の記憶を消去されていた。これは、いらぬ混乱を避けるための処置を異星人が施(ほどこ)したことによる。
━ そのうちお前や家族にも分かるだろう… ━
 指令のテレパシーが城水の脳裡(のうり)を過った。迎え・・とは、果たしてどういう意味なのか? 城水は昼間の定食屋で指令から受けたテレパシーが気になっていた。お迎えとは世間では普通、あの世からの迎え・・すなわち死を意味するのだ。異星人達は城水家の三人を抹殺しようというのか? 城水は、ゾォ~っと背筋に寒気(さむけ)を覚えた。

━ それは、お前のポケットに入っている物質に訊(き)けばよかろう ━
 ふたたび城水の脳裡に指令のテレパシーが過った。城水は無意識で服のポケットを弄(まさぐ)り、地球外物質を手の平の上へ乗せていた。

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2016年6月14日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -107-

[迎えとは?]
 迎えの意味が分からない城水は指令にテレパシーを送り返した。
[そのうちお前や家族にも分かるだろう…]
 指令は城水に即答した。
[どういうことです?]
[それは、お前のポケットに入っている物質に訊(き)けばよかろう]
「あの…どうかされたんですか?」
 城水は声で目をハッ! と開けた。斜め前には、定食屋の主人とその連れ合いらしい中年女性が立ち、訝(いぶか)しげな眼差(まなざ)しで城水を見ていた。
[ははは…いや、なに。少し考えごとをしてたもんで…]
「ああ、そうでしたか。それならいいんですけどね。なにぶんも箸を置かれたまま、ずっと食べられないから、なにか手前どもに粗相(そそう)があったんじゃないかと、カカアと話してたんですがね。なあ、お前」
「ええ…」
 やはり連れ合いか…と城水は思った。脳内数値は87%の確率数値を100%に修正して示した。城水は腕を見た。
[いけないっ! こんな時間か]
 午後の授業が20分後に迫っていた。城水は慌(あわ)てて箸を持つと、ガツガツと食べ急いだ。
 指令が城水にテレパシーで告げたことは真実だった。

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2016年6月13日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -106-

[そんなことが可能なんですか?]
[ああ。我々の文明は、地球と比較するに値(あたい)しない高度なものなのだ。この3年の間にその装置が完成された。今、我々には、すべての飛行体にその装置が備わっている]
 指令は詳細を城水に語った。
[その処理はいつから始まるんですか?]
[すでに始まっている。ただ、過去のデータ分析に基づき、人間達には分からないだけだ。さも当たり前のような数値で実行されている]
[人間達には分からないと?]
[そうだ。事故死とかがそうだが、起こった場合、必要な人間と入れ替えている]
[そんなことが可能なんですか?]
[まったく、理解が悪い奴だな、お前は。我々の文明は地球の比ではないと言ったではないか。必要な人間は事故に遭遇しない]
[確かに、そのことはお聞きしましたが…]
[坂のマンホールの下に地下駅が出来たことは知っているな]
[それも聞いております]
[その工事の早さが我々の文明の高度さを物語っているだろう]
[はい、それは…]
 城水は納得した。いや、納得せざるを得なかった・・と言った方がいいだろう。
[私はどうしておればいいのでしょうか?]
[静かに、迎えが来るのを待てばよい]
 指令は厳かなテレパシーを城水に送った。

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2016年6月12日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -105-

━ そうだ…。いずれ、何らかの指示があるだろう ━
 地球外物質はテレパシーをすぐ城水へ送り返した。地球に生息する人間にとって試錬とも思える最後の審判が、まさに下されようとしていたのである。そのことを知る者は、世界の人間の中で城水を含む、ごく限られた人間しかいなかった。
 城水が指令からのテレパシーを受けたのは、脳内数値の予想に反し、なんとも唐突(とうとつ)なタイミングだった。そのとき、城水は昼食を学校近くの定食屋で食べ始めたところだった。唐突というのは、城水がいつも楽しみにしているぶ厚い出汁巻きをひと口、頬張ろうと箸(はし)を口へ近づけた瞬間だった。なんとも悪いタイミングで、城水は仕方なく口の涎(よだれ)をゴクリ! と飲み込みながら出汁巻きを皿へ戻(もど)し、箸を置いた。
[城水、久しぶりだ。食事中に申し訳がない]
 城水の脳内に受け馴(な)れた感覚が甦(よみがえ)った。UFO指令から発せられたテレパシーの声だった。ただ、分かっているのなら、時差を使えよ! と、タイミングの悪さに少し怒れる城水だった。
[お久しぶれです…]
 城水はすぐテレパシーを返した。
[決定された星団の最終判断を伝えておく。以前にも言ったと思うが、人間達の英知を信じ、このまま存続させようということになった。ただし、人類として不適と判断された者は、一人残らず消去されることになる]
 指令の冷静で機械的なテレパシーを城水は感じた。

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2016年6月11日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -104-

 城水は普通の人間として到真と会話しようとしたのだ。むろんこれは、半異星人化した自分を悟(さと)られまいとしたことによる結果だった。
「UFOですよ、UFO!」
[そうか…]
 城水は、ついに運命の時が来たか…と思った。城水の脳内数値はUFO群の飛来確率を100%という最高レベルで示していた。
「あれっ? 先生、驚かないんですか?」
[お前の言うことは先生、まったく信じとらんからだ]
「わぁ~! そんなっ! 本当なんですよ、本当!」
[分かった分かった…]
 城水は到真(とうま)の肩を軽く叩(たた)きながら、校門を入った。腕を見ると、そろそろ他の生徒が登校してくる時間だった。到真にそうは言ったものの、城水の内心は緊迫感が俄かに増していた。恐らく飛来したであろうUFO指令からのテレパシーが、いつ入っても怪(おか)しくなかったからである。だが案に相違して、城水の予測は完全に外れ、校内での一日は何事も起らなかった。
 帰宅した城水は、いつものように里子や雄静(ゆうせい)との団欒(だんらん)を終えると書斎へ入った。城水は地球外物質を手の平に乗せると、静かに目を瞑(つむ)った。
[すでに、飛来しているのか?]
 城水がテレパシーを送ると、地球外物質は、それに応えるかのように緑色の光を発し、点滅を始めた。

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2016年6月10日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -103-

「あなた…お気をつけてね」
 城水は里子の言葉をムズ痒(がゆ)く耳に受けながら玄関を出た。以前は上から目線で「早く帰ってね!」だったことを思えば、異星人も捨てたものじゃないぞ…と思えた。城水が異星人だと打ち明けたのは里子と雄静(ゆうせい)の二人きりで、家族以外は誰も知らない事実だった。別に隠すことではなかったが、教師としての立場上、やはり大混乱は避けたかったから、城水は他人には一切を伏せていた。
「先生、おはようございます!」
 クラス委員の到真(とうま)が校門の前で城水を待っていた。
「おお、おはよう…。また、何かあったか? お前が早いときは、必ず何かあるからな」
 ややテンションを意識的に高めて城水は本来の城水的に言った。脳内数値はすでに到真の集積データを瞬時に計算していた。到真が早く登校するときは、異常な事態が起こったときで、彼は平常時は95%以上の確率で遅刻ぎりぎりの時間タ意に登校する・・と、脳内数値は結果を出していた。
「先生。今朝、僕、また見たんです」
[何を?]
 城水の脳内数値は、瞬時に到真が言った意味を分析し、過去のデータとして、到真が以前、UFOの目撃情報を早朝に登校して城水に告ったことを発見していた。その脳内データの数値分析により当然、城水にも瞬時でそのことは認識できたから、敢(あ)えて知らない態(てい)で到真に訊ねた訳だ。この会話のデータも過去、城水と到真が会話した内容がデータとして引用された。

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2016年6月 9日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -102-

 城水がテレパシーを送った瞬間、地球外物質は緑色の光を消し、ゆっくりと城水の手の平へ下りて乗った。誰が見ても、ただのザラザラした石ころに思えた。
[まあ、こういうことだ…]
 城水は納得させるかのように呟(つぶや)いた。
「いいじゃない! あなたは、あなたよ」
「そうだよ。パパはパパ」
 雄静(ゆうせい)が里子の子分になって言った。
[まあ、そう言ってもらうとなんだが…。ひとつ、これだけは言っておく。今後、何事があろうと、お前達の安全は保障する。私を信じなさい]
 城水は人間的にテンションを上げて二人を見つめ、力強く言った。
 そんな連休中の一日が去り、城水家にも平穏な日々が戻(もど)っていた。ただ今までと違うのは城水に接する里子と雄静の態度だった。里子は今までの上から目線的な言い方をやめ、雄静は雄静で、ことあるごとに城水の超能力を見せてくれるよう、せがんだ。そんなことは城水の苦ではなかったが、気がかりだったのは、そろそろ異星人の結果が示されることだった。場合によると、城水は異次元に飛ばされ、過去の自分に戻されるのだ。それは、人間が地球上に君臨する有能で最適な生物ではないと判断された場合だった。その場合、選ばれたほんのひと握りの人間を除き、すべての人間は抹殺(まっさつ)されるか、あるいは島流しのような他惑星へ強制移住させられるのだった。

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2016年6月 8日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -101-

「パパ、異星人が攻めてくるの?」
 雄静(ゆうせい)が無邪気に言った。城水をまだ人間と見ている物言いだ。
[いや、そんなことはない…]
 城水の脳内数値はあ35%の確率を示したが、彼はその数値を黙殺し、家族として答えた。
「なら、別に問題ないじゃない! 今までどおりでいい訳でしょ?」
 里子がいつもの図太さで言った。
[そのとおりだ。今までどおりで何の問題もない。ただ…]
 城水は深層を詳しき話そうと思ったが一瞬、躊躇(ちゅうちょ)して言葉を暈(ぼか)した。佐言う句の場合、一部の人間だけが一生物として地球上に姿を留(とど)めるのみで、あとは処分されるのである。地球が多種多様な動・植物園化するなどとは、とても言えなかった。だいいち、城水自身の話も(まゆつば)と思われている節(ふし)も0ではなく、そんな動・植物園化などという途轍(とてつ)もない話が信じてもらえる訳がなかった。
「パパ、まだ浮かんでるよ」
 城水は里子の話に付き合わされ、つい地球外物質のことを忘れていた。雄静に促(うなが)され、城水は慌(あわ)てて目を瞑(つむ)った。

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2016年6月 7日 (火)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -100-

里子と雄静(ゆうせい)が、言葉を失って茫然(ぼうぜん)と浮かぶ地球外物質に釘づけになったのは必然だった。地球外物質は人間の科学に反し、宙にフワリフワリと漂いながら緑色の光を点滅させ続けた。それも城水の手の平の上、約10cmという同じところを動いていなかった。紛(まぎ)れもない地球科学を否定する現象が城水家のキッチンで起きていた。
 城水は静かに目を開けた。
[どうだ。お前達に、この現実が信じられるか? この物質が浮かびながら輝いているのはマジックではないのだ]
 城水は二人に信じさせるため、いっそうテンションを下げ、機械的な言い方で話した。そのとき突然、雄静が何を思ったか、浮いた地球外物質に近づき、軽く人差し指の先で押した。地球外物質は一瞬、点滅を止め、その位置で凍ったように停止したが、何事もなかったかのように、またフワリフワリと漂い始めた。とはいえ、その位置は相変わらず城水の手の平の上、約10cmを保っていた。
「いつからなの?」
 唐突に里子が訊(たず)ねた。城水の脳内数値は里子の訊ねた意図をすぐに計算数値で示し、結果を出した。里子は、いつから城水が変化したのかを知りたがっている・・と。
[三年ほど前だ…]
 城水は相変わらず機械的な低いテンションで朴訥(ぼくとつ)に返した。
「そのときから、あなたは宇宙人なの?」
 まだ半分は信じていないような顔つきで里子は続けた。
[ああ、異星人になった。しかし、今までの記憶は残っているから、半分は地球人だ]
 城水は今の自分を説明した。

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2016年6月 6日 (月)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -99-

「ちょっと、それ…」
 里子は手を伸ばして城水の手の平に乗せられた地球外物質を見せてくれるように要求した。城水は素直に物質を里子に手渡した。
「ゴツゴツしてるけど、ただの石よね…」
 上、下、そして右から左からと里子は見回しながら言った。完全に信用さけていない…と城水の脳内数値は0%の信用度を城水に示した。城水もそれは当然だと思えた。
[お前には、ただの石に見えるだろうが、それは地球外物質だ]
 城水は冷静な声で返した。
「もっと他にないの? マジック」
 雄静(ゆうせい)も完全に信じていなかった。
[よし! もう一度、それわ光らせよう]
 城水はふたたび目を瞑(つむ)った。僅(わず)か数秒で、里子が手にした物質は緑の光を発し、点滅を始めた。里子は慌(あわ)て驚き、城水へ物質を返した。
[どうだ、信じられたかい、二人とも]
 城水の声に、二人は頷(うなず)く他はなかった。
「でも、あなたはフツウよね。どう見ても異星人じゃないわ」
 里子は言ったあと、フフフ…と笑った。
[ああ、普通の人間でもある。特に肉体的には、な。違うのは異星人としての機能を有したことだ]
 そう言うと、城水は手の平の上で点滅する地球外物質を眺(なが)めながら目を閉じた。地球外物質は城水の手を離れ、10cmほどゆっくり上昇し、宙に浮かんで停止した。

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2016年6月 5日 (日)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -98-

 数分の間、城水家に空白の時が流れた。城水は、静かに目を開けた。地球外物質は点滅を繰り返していた。
[見てのとおりだ…どうだ、これが信じられるか?]
「そんな…信じられる訳、ないじゃない!」
 里子の目には、どうしても種があるマジックにしか見なかった。この手のスーパーマジックの映像は、よくテレビで流れていたからだった。
「パパ、よく出来てるね。どこで買ったの? これ、曲げるの、よくやるよね」
 雄静は皿の上のスプーンを手にして、ブラブラと振った。
「そうそう、そうよね。よく出来たマジックだわ…」
 里子は、緑色の光で点滅する地球外物質に目を近づけ、マジマジと見た。
「今度、僕にも買ってよ!」
 小学四年の雄静(ゆうせい)が理解できないのは城水に当然だと思えた。だが、里子には分かって欲しい城水だった。
[お前達、これはマジックじゃないんだ…]
 城水は、そういうとまた静かに目を瞑(つぶ)った。地球外物質はその直後、点滅する緑の光を消した。
[どうだ。信じたか?]
 城水の言葉に二人は無言で首を横に振った。視線は城水の上乗せられた地球外物質を見つめたままである。
[まあ、すぐ信じられないと思うが、パパはもう半分は異星人なんだよ]
「その半分っていうのはどういうこと、あなた?」
「半分は今までどおり・・ってことさ」
 城水は里子にすぐ答えた、城水自身は考えず、脳内数値の計算した結果に従うことにした。無駄がなく、間違いもない脳内数値で答えることが、里子と雄静を理解させられると思えたのだ。

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2016年6月 4日 (土)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -97-

「何よ、改(あらた)まって…」
 訝(いぶか)しげに里子が言った。雄静(ゆうせい)も手にしたスプーンの動きを止めた。
[私は私ではないのだ]
「なに、それ?」
 里子は城水の言葉が、まったく理解できなかった。当然、雄静も同じだった。
[私は遠い星から来た異星人なのだよ]
 真顔(まがお)で城水は告白した。里子と雄静はワン・テンポ遅れて大笑いした。城水は静かに二人が笑い終えるのを待った。だが、静かになった二人は、相変わらずニヤけていた。
「そうそう、ゆうちゃん、そういうの好きよね」
「うん!」
 二人は、まったく意に介していなかった。信用度0%…と即答した脳内数値の計算結果を得て、城水は黙って立ち上がると書斎へ向かった。そしてふたたび戻ると、キッチン椅子に座り直し、静かに瞼(まぶた)を閉ざした。城水の手の平の上には地球外物質が乗せられていた。目を瞑(つむ)った城水は地球外物質にテレパシーを送り始めた。僅(わず)か20秒ほどすると、地球外物質は少しずつ緑色の光を発し、輝き始めた。その点滅する物質を、まるでマジックを見るかのように里子と雄静は凝視(ぎょうし)した。二人にとって、輝く緑光の点滅は信じられない光景だった。いや、これは地球の誰が見ても、俄(にわ)かには信じられなかっただろう。

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2016年6月 3日 (金)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -96-

「ふ~ん…そういや、少し変わった石ね」
 里子はそれ以上、追求せず、テーブルの上へ置いて去った。城水は慌(あわ)てて地球外物質を手にすると、少し不注意だったな…と反省しながら書斎へ急いだ。
 それから三年の月日が瞬(またた)く間に過ぎ去ったが、これといった変わったことも起こらず、城水家には平穏な生活が続いていた。一人息子の雄静(ゆうせい)も晴れて4年生となり、大人ぶったことを言うようになっていた。平穏な生活は続いていたが、城水自身は日々、気が気ではなかった。すでに、UFO群の最終判断が迫っていたからだった。城水は、ひた隠していたコトの事実を里子と雄静に話そうと、最近になり気持が変化していた。
 連休が迫り、五月晴れの春めいた日曜の朝、城水は庭の縁側に腰を下ろし、空をポカ~ンと眺(なが)めていた。
「どこかへ行く?」 
[ああ…連休だな]
 城水の胸中は、それどころではない緊迫感に覆(おおわ)れていた。
「混むしね…」
 里子は余り乗り気ではないどうでもいいような声で言った。城水は今だ! と思った。
[実は、お前達に言っておくことがある…]
 城水は意識的に高めていたテンションを下げ、クローン化した機械的な声で二人に言った。

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2016年6月 2日 (木)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -95-

[それは、なぜだ?]
━ お前が我々と同じ異星人だからだ ━
 理解した城水は軽く頷(うなず)いた。城水の脳内数値も正解の青文字で示した。地球外物質は、お馬鹿な城水とこれ以上話すのが嫌になったのか、緑光を消し、沈黙した。
 UFO騒ぎからひと月が経ち、何事もなかったかのように城水家の日常生活が続いていた。よく考えれば、騒ぎとはいえ、城水以外に騒ぎと感じた者は、ほとんどなく、唯一、息子の雄静(ゆうせい)と受け持ち生徒の到真(とうま)がUFOを見た程度なのである。それも、らしきモノを見た・・というのが本人達の弁で、半分方は自分自身でも信じていないのだから、城水としてはひと安心だった。地球外物質も、あれ以降、鳴りを潜(ひそ)めて光らなくなっていた。ただ、城水が着る背広の外ポケットには相変わらず入っていた。そして、城水は? といえば、クローン状態で放置されたままUFOと別れ、テレパシーが使えるのは、地球外物質だけという状態だった。
「あなた…これ何?」
 ある日曜の朝、里子が背広をクリーニングに出すというので、なにげなくクローゼットに吊(つ)られた背広を取り出して言った。城水はその声に促(うなが)され、里子を見た。里子の手には、地球外物質が握られていた。城水は一瞬、ギクリ! とした。
[いや、なに…その、なんだ。この前、拾ったただの石さ。ちょっと変わってたから、持って帰ったんだ]
 平静を装い、城水はゆったりと里子に言った。真逆に、城水の脳内数値は、里子の言葉にWARNINGの赤点滅をし始めた。

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2016年6月 1日 (水)

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -94-

━ 簡単な話だ。3年後、地球が動・植物園化されたときの運搬、移動に使われるのだ。いわば、お前達が使っているインターネットのようなものといっていい ━
[それは、最終決定がされたときの話だろうが。もし、人間の価値が見直され、計画が白紙に戻されたときはどうするのだ?]
━ ははは…そのような人間志向の心配は無用だ。何もなかったことに復帰するだけだ ━
[言うことが理解できない]
━ 理解できないのは当然だろう。お前の脳内数値が詳しい解答を導くだろう。結論だけ言えば、何も起こっていなかった時空に戻(もど)るということだ ━
[私と家族はどうなる?]
━ 世話のかかるやつだ。何も起こらなかった過去へ戻ると言っただろうが… ━
 呆(あき)れたように地球外物質は突然、緑色の光を消し、城水へのテレパシーを停止した。脳内で響くテレパシーが消えた瞬間、城水は腕を抱え、考え込んだ。何も起こらなかった過去に戻るとは? と、城水が考え始めたとき、脳内数値が動き始めた。その動きは、いつもの動きではなく、映像入りでスローだった。それは恰(あたか)も、城水に解き教えるかのようだった。
[過去に戻るのか?]
━ ああ、今までの我々に関係した出来事は、すべて消え去るのだ ━
[私はどうなる?]
━ まったく、出来が悪い奴だ。過去に戻る以上、お前はクローン化していなかった以前に戻ることになる。ただ、お前だけは今までの記憶が消去されない ━
 地球外物質は機械的な声のテレパシーで城水を窘(たしな)めた。

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