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2017年3月

2017年3月31日 (金)

サスペンス・ユーモア短編集-74- やはり馬鹿か?

  朝から反物(たんもの)署では捜査会議が行われていた。
「やはり馬鹿の仕業(しわざ)かと思われます」
「それは、どうしてだ?」
「銀行へ1億円の窃盗に入った者が、9,999万はそのままにして9,999円を置いて去っているからです」
「…1万円を盗って、9,999円を置いていったんだから、実質的にはわずか1円の窃盗事件だからな」
 刑事課長の友禅(ゆうぜん)は、若手刑事の洗水(せんすい)に悠然(ゆうぜん)と言った。
「課長、しかし1円でも窃盗は窃盗ですよ」
 割って入ったのは中堅の竿干(さおほし)刑事だ。
「ああ。それはまあ、そうだ…」
「ただ、事件だとしても1円を盗られて、フツゥ~届けますか?」
「それには、はっきりした理由がありますよ。金庫に保管された1億円の札束の置き場が変わってたんでしょ?」
「ああ、そうだったな。そして、その100万の札束の中の1枚が抜き取られたと…。これは届けんと、また盗難に遭(あ)う可能性もあるんだからな}
「万引きテロみたいなもんですからね」
 課長の友禅に竿干が追随(ついずい)した。
「上手(うま)いこと言うな。…それにしても、手間のいる嫌(いや)な一件だな」
「なぜ1円だけなんでしょう?」
「俺が訊(き)きたいよ」
 竿干が洗水に返した。
「やはり馬鹿か? …」
 友禅が、また悠然と言った。竿干と洗水は黙って頷(うなず)いた。

                            完

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2017年3月30日 (木)

サスペンス・ユーモア短編集-73- 見も知らない人

 世の中には見も知らない人が声をかける場合がある。勘違いされ声をかけられる場合、意図的に何らかの作為をもった者に声をかけられる場合、その他・・いろいろとある。それに対して無言で右から左へと受け流せば、それはそれだけのもので、何事も起こらない。逆に、右から脳内に入れ、その声に対応すれば、左へ出るときには因縁や一つの人間関係が生じる。それはいい場合もあり、悪い場合もある。
「あの…ちょっと、お尋(たず)ねしますが?」
 腰打(こしうち)中央署の派出所である曲首(まがりくび)交番に一人の田舎(いなか)風の男が入ってきて、そう言った。
「はあ、どうされました?」
 巡査の揉押(もみおし)は怪訝(けげん)な顔つきでそう返した。
「さっき、妙な人に声をかけられたんですが、大丈夫でしょうか?」
「はっ? なにが、ですか?」
「財布です」
「財布? 財布をどうかされましたか?」
「財布を渡したんですが、そのあとその人がいなくなって…」
 揉押は瞬間、こりゃ、事件だぞっ! と身を乗り出した。
「ひったくられたんですかっ!?」
「いえ、そうでもないんですが…」
「じゃあ、どういうのです?」
「お金を貸(か)して欲しいといわれたんで、財布ごと渡したんですが、そのまま帰ってこられないんで…」
「あなたね! そりゃ、窃盗ですよっ、窃盗! あなたもあなただ。よく見も知らない人に財布を渡しましたね?」
 揉押は半分、呆(あき)れたような声で言った。
「よさそうな人で困っておられたんで…」
「で、中にはいくら入ってたんです?」
「え~と、115円ばかり…」
「115円! …」
 揉押は、また呆れて男の顔を見た。手続きの方が高くつくわっ! という顔である。それでもまあ、盗難事件は盗難事件である。
「被害届を出されますか?」
「いえ、それはいいんです。いいんですが、あの方を探してもらえないでしょうか?」
 揉押は厄介(やっかい)なのが来たな…という顔で、また男を見た。
 聞くところによれば、今も一応、まだ探しているそうである。

                           完

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2017年3月29日 (水)

サスペンス・ユーモア短編集-72- かるた刑事(デカ)

 矢箱(やばこ)署である。
「どうも、花の色は・・だな」
 老練刑事、岩園は、百人一首で事件を読み解く[かるた刑事(デカ)]と署内で呼ばれる、辣腕(らつわん)の刑事だった。
「このままだと、年老いて捨てられるのでは・・という気持からの犯行だと?」
 岩園にピッタリと小判鮫のようにいつも寄り添い、ご機嫌を窺(うかが)うのは、若手刑事の杉板だ。
「そう、それ…。わが身世にふる ながめせしまに、だっ! 時期が、村雨の~・・だからな」
「はい! 秋の夕暮れでした」
「そうじゃない。作者名、作者名…」
「寂蓮法師・・なるほど、寂しかったんですね?」
「まあな…、侘(わび)しかったともいえるが…。捜査はまず、犯行を行った人物の心理から真実に迫(せま)る。それが鉄則だっ」
 杉板は岩園の言葉を警察手帳にメモ書きした。
「…そんなことは頭に覚えておくんだっ!」
「はいっ!」
 杉皮はメモをやめた。そのとき、岩園の腹がグゥ~! っと鳴った。
「まあ状況とそのときの心理は分かった。ただ…」
「ただ、なんでしょう?」
「鰻重に付いている瓶の市販品の山椒が分からん。あれは、本物の木の芽をパラパラ・・と、散らせて欲しいものだ…」
「? はい…」
 杉皮は、かるたとは関係ないな…とは思ったが一応、頷(うなず)いた。

                              完

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2017年3月28日 (火)

サスペンス・ユーモア短編集-71- 事件の終着

 漁川(いさりがわ)署の捜査本部である。事件は犯人逮捕で一件落着し、刑事達は勤務後の慰労会で一杯、やっていた。
「いや! 私はこの手のものは…」
 茶碗に一升瓶の酒を注(そそ)ごうとした小鮒(こぶな)を慌(あわ)てて片手で止め、ペットボトルの烏龍(ウーロン)茶を茶碗に注ぎ入れたのは新しく第一線に配属された諸子(もろこ)だった。諸子は酒が嫌いだとか下戸(げこ)という訳ではなかった。表立って角(かど)が立たないよう、当たり障(さわ)りがない苦手(にが)で飲めないことにしたのだ。
「ああ、そうか…。お疲れさんっ!」
 小鮒は変なヤツだ…と蟠(わだかま)ることなく、笑顔で諸子の肩をポン! と一つ叩(たた)くと他の刑事達の方へ行った。一方、諸子の内心は蟠っていた。諸子にとって事件の終着は犯人逮捕ではなかった。一足のそれほどいいとは思えない安価な靴が盗まれ、その犯人が捕まって酒かいっ! といったところだった。まあ、連続窃盗犯の逮捕だったから、フツゥ~に考えればそれも頷(うなず)けるのだが、諸子には頷けなかったのである。
「どうしたんだ、諸子君。元気がないじゃないか」
 しばらくして声をかけたのは課長の波町(はまち)である。私事(わたくしごと)ながら、このたび目出度く警視に昇格し、県警本部への異動が内定していた波町は、至ってご機嫌がよかった。
「いや、大丈夫です。少し疲れただけですから…」
 諸子はまた方便を使った。方便とは、こんなときのためにある・・とでもいえる絶好のタイミングだった。
「そう? まあ、無理しないようにね」
「はい! 有難うございますっ」
 波町は少し偉(えら)ぶり、余裕めいて言った。なにが無理しないようにねだっ! が、諸子の内心だったが、そうとは言えず、笑顔で軽くお辞儀した。諸子にとって、事件の終着は、なぜ犯人は高価な靴を盗らなかったのか・・の素朴(そぼく)な疑問が解けたときだった。

                             完

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2017年3月27日 (月)

サスペンス・ユーモア短編集-70- 素直(すなお)な刑事

 猿山署の刑事、手長は上司の警部、赤毛に今日も叱責(しっせき)されていた。しかし手長は素直に聞いていた。日々の馴れもあり、手長にはそう苦にはならなかった。というか、手長はすべてに素直だったのである。手長は署内で[フォローの風]と陰で呼ばれた。逆らう[オーム]や[アゲインスト]ではなかったからだ。署内では、ほぼ日常の行事的な繰り返しで、他の署員達も赤毛が手長を怒らない日は体調でも悪いのか・・と案じたくらいだった。
 そんなある日、猿山署に事件が舞い込み、手長も現場へ急行した。事件は畑荒らしである。何者かにより多量の山芋が持ち去られたのである。現場は掘られたあとの土の乱れを残すのみで、これといった犯人を示す痕跡は認められなかった。
「フツゥ~は何か残すがねぇ?」
「どれくらいするもんなんですか?」
「馬鹿野郎! 俺が知るかっ!」
 手長がつまらないことを訊(き)き、赤毛にまた、どやされた。
「はあ…。私は窃盗ではなく、食べられたんだと思います」
「どうしてだっ!?」
「いや、理由はありません。ただ、山の裾野(すその)だということで、ただなんとなくですが…」
「ただなんとなく、どうだというんだ?」
「我が署みたいなものに…」
「我が署?! 聞き捨てならんなっ!」
「猿山署です」
「猿山署がどうしたというんだっ!? 猿山… …猿だというのかっ?」
「飽(あ)くまでも、みたいなものに、です。猪、その他の動物も考えられますが…」
「だったら事件じゃないじゃないかっ!」
 赤毛は、ここぞとばかりに怒った。
「はい、事件ではないと思います…」
 手長は素直に返した。
 一件はその後、手長の予想したとおり、野生動物の被害として被害届が取り消され、素直に解決した。 

                             完

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2017年3月26日 (日)

サスペンス・ユーモア短編集-69- 柳に風

 立花は風変わりな刑事である。あらゆることを柳に風と受け流すのだ。そんな立花だったが、妙なもので事件はスンナリ解決させたのである。取り分けて手法がある訳ではなく、警察内部では七不思議の一つとなっていた。
 そんなある日、また新(あら)たな事件が一つ、発生した。
「えっ!? なんです? あなたの旦那が失踪(しっそう)したんですか?」
 立花は捜索を願い出た女に一応、驚いたものの、内心では、アンタなら仕方ないでしょうな…と思った。女の態度は横柄(おうへい)で、容姿(ようし)も、どちらかといえば男だったからだ。それでも、そうとは言えないから、適当にあしらって聞く態でいた。女も立花が柳に風と受け流すものだから、始めのうちは諄(くど)く話していたが、要領を得ないのでそのうち言葉少なになった。立花としては、いつもながらの事情聴取であり、この場合だけ特別にしている訳ではなかった。立花は丁重(ていちょう)この上ない態度で手続きだけ済ませてもらい、お引取りいただいた。
 そして、探すでなく、一応、住所の家だけでも見ておこうと女の家を訪問した。なるほど…と思える肋(あばら)屋で、掃除した形跡がないほど家内は埃(ほこり)に塗(まみ)れていた。
『お掃除はなさらないんですか?」
「大きなお世話でしょ! そんなことっ!」
 女は機嫌を損(そこ)ねたのか、こともあろうに立花に噛(か)みついた。立花は、これじゃな…とは思えたが、そうとは言えず、思うに留めた。
「ご主人が立ち寄られそうなところは?」
「それが分かれば苦労しませんよっ!」
 まあ、言われてみれば、そうか…と立花は腹立てることなく柳に風と受け流した。
 女の家を出て、五分ばかり歩いたときだった。立花は塀(へい)越しに女の家を見続ける一人の男を発見した。刑事の直感で、おそらくは女の旦那…と立花は閃(ひらめ)いた。
「あの…そこのご主人ですか?」
 男は黙ったまま静かに頷(うなず)いた。
「まあ、よかった…。お宅はサスペンスですなぁ~」
 立花は柳に風と、なにを思うでなく男に言った。

                            完

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2017年3月25日 (土)

サスペンス・ユーモア短編集-68- 遵法(じゅんぽう)とは?

 物事には法解釈によって、さまざまな結果の違いを見せる。だから法は整備され、玉虫色の種々の色合いに見てとれるような曖昧模糊(あいまいもこ)とした条文であってはならないのだ。現在、根本的な憲法すらそのような議論でユラユラと揺れているのだから、これはもうどうしようもない。
「いや、遵法(じゅんぽう)速度ですからね」
「しかし、結果として渋滞を生じさせ、後続車の大事故に至ったんですから、その運転者の道義的責任はあるでしょうがっ!」
「確かに、それはあるでしょう。しかし、遵法速度で走っていた者が捕まるというのも、どうなんですかねぇ~」
「なにも捕まえるとは言ってないでしょうが。飽(あ)くまでも道義的責任が…」
 警察庁長官官房では審議官の竿釣(さおつり)と鮎(あゆ)が激論を交わしていた。
「まあまあ、お二方(ふたかた)…」
 中に割って入ったのは、総括審議官の浮(うき)である。浮のひと声で、二人は矛(ほこ)を収(おさ)めた。
「ははは…そういや、昭和4、50年代の遵法闘争で当局が警察出動を依頼したことがありましたな」
 また口を挟んだのは、長官の要請で資料持参で立ち寄った警察庁OBの元長官、塩焼(しおやき)だった。
「ほう! そんなことがありましたか?」
 浮は塩焼が座る応接椅子に目を向けた。
「はい…。当局だけでは手に負えず、出動要請があったすさまじい時代でしたよ」
「ああ、知っております。官公労のスト権ストの時代ですね」
 浮は知識人ぶりを披瀝(ひれき)した。
「そうです! よく、ご存知で」
「いや、なに…。その当時の事件を調べたことがありまして…」
「いずれにしろ、遵法の定義づけは厄介(やっかい)ですなぁ」
 塩焼が長老の貫禄を示し、枯れて言った。
「時に正義が正義でなくなることもある・・ということでしょうか?」
 異動で次長椅子を密(ひそ)かに狙(ねら)う浮は、長官と知己の塩焼にヨイショして言った。竿釣と鮎は、お好きな議論を…とばかりに、一礼すると退室した。遵法とは? ファジーこの上ない。

                             完

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2017年3月24日 (金)

サスペンス・ユーモア短編集-67- 不連続追突事件?

 朝の駅である。勤めに向かう人の流れが途絶えることはなく、構内は多くの人で混雑していた。事件? は、通勤者同士の単なる追突から始まった。
「あっ! どうも…」
「いや…」
 二人の通勤者がホーム階段の上り下りで偶然、軽く追突した。このときは取り分けて騒動になるようなことはなかった。問題はそのあとに発生した。降りる通勤者に謝って上り始めたその一人がまた別の下りる通勤者に追突したのだ。問題はそれだけではない。謝って下り始めた通勤者も別の上る通勤者に追突したのである。このときも少し雑然としてその場だけ人の流れが途絶えたが、まあ騒動になるようなことはなかった。だが、しかし! である。その次にも同じような上り下りでの追突が発生し、その現象は連鎖的に拡大して、ついに事故的な騒動へと発展していった。幸い、その負の連鎖は個々に生じるのみで、雪崩(なだれ)をうって通勤者達が倒れるというような大事故には至らなかった。ただ、掠(かす)り傷程度の負傷者は多数出たから、偉い騒ぎである。駅構内は騒然とし、列車が運休する事態となり、構内での歩行制限が駅員により行われる事態に至
った。当然、テレビがその様子を映し出した。
「あの…急いでるんですがっ!」
「すみません、現在、関係者以外、通行禁止ですっ!」
「あの…私、関係者なんですがっ! 山手中央署の岸海と申しますっ!」
「ああ、どうぞ…」
 岸海は警察手帳を提示した。駅員は、それを早く見せなさいよっ! という顔で岸海他、数人の刑事を見た。
「将棋倒しにならず、よかったですよねっ」
「ああ…」
 現場の階段を検分する岸海に従う若手刑事の波間が声をかけた。
「こういうことって、あるんですかねぇ~?」
 また別の若手刑事、汽笛(きてき)が、ボォ~~っと音を出した。
「そら、あったんだから、あるんだろう…」
 岸海は、つまらんことを訊(き)くなっ! とでも言いたげに、仏頂面(ぶっちょうづら)で呟(つぶや)いた。
「過失傷害・・ではないですよね?」
 またまた別の若手刑事、碇(いかり)が訊(たず)ねた。
「ああ…偶発性の不連続追突事故と断定してもいいだろう。駅側に過失があったとも思えんしな」
 やっと、まともなことを訊いてくれた…という顔で、岸海は頷(うなず)きながら笑みを浮かべた。一件は不連続追突事件? ではなく不連続追突事故として落着した。しかし、真実は地球に降り立った透明な異星人の子供の仕業(しわざ)だとは、警察当局を初めとして誰も気づいていない。

                            完

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2017年3月23日 (木)

サスペンス・ユーモア短編集-66- 猪豚盗難事件?

 山笹(やまざさ)署に盗難捜査の依頼があったのは、猪豚生産業者からだった。山笹地区の猪豚は脂(あぶら)の乗りも肉質もよく、全国各地から買い入れの問い合わせが殺到する名産品だった。その猪豚が一匹、盗難にあったのだ。たったの一匹である。
「ははは…数え間違いじゃないんですか? その手の電話は、よくあるんですよ」
 応対に出た若手刑事の東雲(しののめ)は、賑(にぎ)やかに頭を振りながらそう言った。
『そう言われますが、確認した上でお電話してるんですよ。よろしくお願いしますっ!』
「はいっ! …はい…はい…山賀(やまが)町の鰐口(わにぐち)さんですね? …はい! とにかく、明日にでも伺(うかが)いますっ!」
 東雲は心で突っぱね、口では渋々(しぶしぶ)、了解した。
「どうした? 東雲」
 年配刑事の北木が東雲を窺(うかが)った。
「猪豚が一匹、盗難にあったようなんですよ」
「一匹?」
「はい、一匹…」
 そこへ歯を楊枝(ようじ)でシーハーさせながら現れたのは、課長の川南(かわなみ)である。
「ははは…、今日の西岸[にしぎし]の昼飯(ひるめし)は助かった。鍋がただで食えたぞっ! 昨日(きのう)と偉い違いだっ! なんでも、もらいものの猪豚で、常連さんへのサービスだそうだっ!」
「食事処・西岸はなかなか評判の店ですからね。課長、それはよかった! 猪豚鍋ですか? こっちも猪豚捜査ですわ」
「猪豚?」
「はい。猪豚が一匹、盗難にあったそうでして」
「ほう…一匹?」
「はい、一匹…」
 後日、事件? は馬鹿馬鹿しい笑い話で落着した。話の経緯(いきさつ)は、こうである。捜査依頼の電話をかけた猪豚生産業者は、いつも食事処・西岸に世話になっている礼に猪豚を一匹、西岸に届けたのだが、そのことをうっかり忘れていたのだ。盗難ではなく、その肉を捜査課長の川南が食べ、署へ戻(もど)った・・と、話は、まあこうなる。 

                            完

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2017年3月22日 (水)

サスペンス・ユーモア短編集-65- 風味がある事件?

 野立(のだて)署の刑事課である。安原警部は机の上で愛用のマグカップをフゥ~フゥ~させながら婦警の堀川巡査部長に淹(い)れてもらったシナモンティーを飲んでいた。安原は、これでどうしてどうして、なかなかの飲みフェチで、最近ではシナモンの香りと味に嵌(はま)っていた。シナモンは香辛料として売られている市販品の小瓶で、マグカップに数回、振り入れたあと、角砂糖1ヶを放り込んで湯を注ぎ、啜(すす)るのである。小瓶と角砂糖は堀川に厨房(ちゅうぼう)で預かってもらっていた。堀川としては課長の願いでもあり、まあそれなりに便宜(べんぎ)を図っていた。ただ、他の刑事達は緑茶だったから、内心では課長だけをなぜ特別扱いしなければならないのか? と、少し怒れていた。そんな野立署に事件? の電話が舞い込んだ。
「課長、妙な電話がかかってます」
「んっ? どんなだっ」
「奥さんからで、隣の犬が道を塞(ふさ)いで家のご主人を噛み、怪我をさせたそうです。すぐ、傷害罪で犬を逮捕してくれと…」
「犬をかっ? ははは…犬は逮捕したことがないぞ。なっ! 皆」
 課内がドッと笑いで包まれた。
「フツゥ~過失傷害罪の法定刑は30万円以下の罰金又は科料で、飼い主が支払ってチョン! なんですがね。民事は別ですが…」
「人間さんが逮捕出来んのに、犬は逮捕は出来んわな、ははは…」
「かなり興奮しておられました…」
「相手さんの犬も厄介(やっかい)な家族に噛(か)みついたもんだ。こりゃ、民事で梃子摺(てこず)るぞっ! …だが、風味がある事件だな…」
 安原は末尾を聞こえないよう、小声で呟(つぶや)いた。
 安原が風味があると言った事件は、無論、逮捕劇もなく、示談で解決した。野立署が聞いたところによれば、お詫びのしるしにと、相手方から菓子鉢ではなく大箱のフライドチキンが届いたようで、夫人のご機嫌が直ったのだという。
「ははは…噛みつかれたご主人の奥さんの方が犬だぞ、そりゃ」
 犬はフライドチキン、スペアリブの類(たぐい)には目がない・・という意味で、風味がある事件? となった。

                             完

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2017年3月21日 (火)

サスペンス・ユーモア短編集-64- 目撃者

 目撃情報の正確さ・・を焦点に、目撃者を証人とする検察側、弁護側双方の丁々発止(ちょうちょうはっし)の法廷論争が裁判所で行われていた。
「ほう! すると、あなたは何人かの男に車で連れ去られる被害者を見ていた訳ですね?」
「はい、連れ去った男達の顔は特徴がありましたから、はっきりと覚えております」
「なるほど…。その連れ去った男達は、この法廷にいますか?」
「はい! 被告席の七人です」
「質問を終わります」
 原告側の検察官が尋問(じんもん)を終えた。続いて弁護側の尋問が開始され「え~…厚生、労働、選挙、防衛、農政、電子データ、予算関係と、いろんな顔ぶれの連中ですが、こんな関連性がない被告人達が、日本(ひのもと)さんを拉致(らち)したと、本当に思っておられるんですかっ?」
「いえ、それは…」
「ですよね。よく似た人達だった・・ということも考えられる訳です。すなわち、目撃者であるあなたの見間違いだった可能性もあるんじゃないですかっ?」
「異議ありっ! 誘導(ゆうどう)尋問ですっ! 取り消しを求めますっ!」
 スクッ! と立ったのは検察官である。
「異議を認めます。弁護人は類推解釈による質問はしないように…」
 前方の一段高い裁判官席に座る裁判長が弁護人を窘(たしな)めた。
「分かりました。質問を変えます。国民(くにたみ)さんは視力が、かなりお悪いとお聞きしておりますが…」
「はあ、お恥ずかしい話ですが、かなりのド近眼でございます」
「ははは…お恥ずかしくはないですがね。見間違えられた可能性が無きにしもあらず、とは言えるんじゃないでしょうか。弁護人からは以上です」
 弁護人は検察官が異議を申し立てる前に素早く言い終わった。その後も検察、弁護側双方の論争は続き、後日、結審した。拉致された日本が、実害がなかったため控訴を取り下げ示談を提示し、被告人達も名誉のため応じたから、この刑事事件は単なる一件として処理され、忘れ去られることとなった。世の中とは、まあ・・その程度のものなのである。

                             完

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2017年3月20日 (月)

サスペンス・ユーモア短編集-63- 霧の夜の出来事

 奇妙な事件がらみの出来事は、秋が深まりかけたある霧の夜に起きた。
 葱山署の取調室である。
「ほう! なるほど…。つまり、あなたは深夜に細い山道を歩いておられた訳ですね?」
「はい…」
 薪(たきぎ)刑事の問いかけに、鍋川(なべかわ)は小声で返した。
「そこで、行き倒れていた鴨居さんを発見したと…」
「はい…」
「妙ですなぁ~。そんな山道をなぜ深夜に歩いておられたんです?」
「なぜと言われましても、家への帰り道ですから」
「家? ははは…鍋川さん、冗談も休み休みに言ってもらわないと。そんな山深いところにお宅の家が?」
「なにか怪(おか)しいでしょうか?」
 鍋川は、また小声で薪に返した。
「そりゃ、おかしいでしょう! 人里はなれた山の中にご自宅が? いや、私らもこれから一度、お伺いしようと思っとったんですがね」
「はあ、それは皆さん言われます…」
「なにか訳でも?」
「それは言えませんが…」
「まあ、いいでしょう。で、夜霧が深かったんでしたね?」
「ええ…」
「それにしても、鴨居さん、なぜそんなところで行き倒れていたんでしょう」
 薪は刑事らしく、搦(から)め手から遠回しに訊(たず)ねた。
「さあ?」
「その日から鴨居さん、狂ったように踊りまくっておられるんですよ。いったい、なにをされました?」
「いや、別にコレといったことは…。家へ負(お)ぶって帰り、介抱(かいほう)しただけで、翌朝、お礼を言うと、トボトボ帰られました」
「何か変わった様子は?」
「いえ、別に…」
「あなたの家で出された飲食物は?」
「私と同じ朝餉(あさげ)とお茶くらいですが…」
「なるほど…」
 この霧の夜の出来事は、今でも葱山署の怪奇な一件として解決を見ていない。鴨居さんは相変わらず陽気に踊りまくっているそうである。

                            完

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2017年3月19日 (日)

サスペンス・ユーモア短編集-62- 突(つつ)かれた夢

 刑事、戸坂の生活が始まった。事件がない日の勤務は、世間一般のサラリーマンとあまり変わりがない。捜査三係で、マル暴の四係でなかったのが幸いしてか、戸坂は犯人に恨(うら)みを買ってつけ狙(ねら)われるということはなかった。三係は窃盗事件担当で、刑事任用試験を経て配属となった戸坂も、配属後はそれなりに活躍していた。それなりに・・というのが味噌(みそ)で、当たり障(さわ)りがない程度に・・という刑事課長の羽根が聞けば、努力が足りんぞっ! と叱咤(しった)されるに違いない勤務実態である。分かりやすく言うなら、要領よく体調の維持を図る・・というツボとも言える手法をとっていたということだ。まあ、深夜まで帰れない日、何日もの連勤[連続出勤]、突然呼び出しを食らう待機日と、いろいろあったから、それなり・・というのは、長く働き続けられる知恵なのかも知れなかった。
 その日も、いつものように戸坂は定まった通勤経路を経て口端(くちばし)署へと入った。ところが、である。いつも見る署員が人っ子一人いないのである。三係へ入ると、係員の姿は誰もなく、係長の地矢保(ちやぼ)も当然、いなかった。空虚(くうきょ)な机と椅子、静まり返る署内・・これは尋常ではないぞっ! と、戸坂は刑事らしく殺気立って署外へ飛び出したが、さっきまでの通行人の流れがなく、やはり誰の姿もなかった。戸坂の心は半(なか)ばパニック状態に陥(おちい)っていた。人の気配を探しながら戸坂が署内へ戻(もど)ると、誰もいない中でただ一人、後ろ向きに立って窓から外の景色を見る羽根の姿が目に映った。
「課長!!」
 戸坂は思わず叫んでいた。
「戸坂君、餌(えさ)は君かい?」
「… ?」
 ふり向いた羽根の顔は鶏(にわとり)だった。そのとき俄(にわ)かに眩暈(めまい)に襲われ、戸坂は意識を失った。
 チクチクした痛みで戸坂は目覚めた。辺(あた)りを見遣(みや)ると、そこは一年前に作った自宅の鶏小屋で、戸坂は卵を握ったまま、心地よく横たわって眠っていたのだ。羽根、いや、鶏が戸坂の顔の前でコツコツと戸坂の顔を突(つつ)いていた。戸坂は不眠捜査の連勤で疲れ、つい朝方、入った鶏小屋で眠ってしまったのである。

                              完

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2017年3月18日 (土)

サスペンス・ユーモア短編集-61- 残された形跡

 これこそがサスペンスであるっ! …とは、やはり言いがたい事件? 含みの展開が、ここ貝巻(かいまき)中央署で起きていた。
「いや! 残された形跡からすれば、当事件の行方不明者を連れ去った犯人は明らかに中年男ですっ!」
 新任の刑事、御門(みかど)は鼻炎の鼻水をグスグスと啜(すす)りながら言った。
「犯人が連れ去ったかどうかも分からんじゃないかっ! 君はどうして、そうだと言い切れるんだっ? 失踪(しっそう)とも考えられるっ!」
 御門を窘(たしな)めたのは、毛髪がすっかり侘(わび)しくなった古参刑事の水濠(みずぼり)だった。
「状況からして、だいたいこの手の事件は中年男としたものですっ!」
「君はさっきから事件、事件と事件にしたがってるが、事件かどうかも分からんじゃないかっ! ひょっこり帰ってくることだってあり得るだろうがっ」
 水濠は、また窘めた。これで五度目だった。
「はあ、それはまあ…」
 五度も窘められ、御門はさすがに萎(な)えた。
「科捜研からの報告があったように、現場(げんじょう)に残された形跡によれば、科学捜査の枠を超える初めての特殊事例である。地球には到底、存在し、
得ない物質が数片、発見されている事実は、水濠君の言ったように我々、人間の行いとは考えられず、事件とし難い事例かも知れん…」
 ド近眼のガラス瓶の底のようなレンズ眼鏡をかけた捜査一課長の田桜(たざくら)が、ブツブツと小声で言った。暗に異星人により連れ去られた失踪を臭(にお)わせたのである。
 翌朝、一件は簡単に解決を見た。行方不明者はどこにいたのかの記憶をなくし、欠伸(あくび)をしながら帰宅したのだった。…確かにサスペンスではなかった。

                             完

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2017年3月17日 (金)

サスペンス・ユーモア短編集-60- 生き返らせ事件?

 毛鼻(けばな)署に冥尚(みょうしょう)寺から訴えがあったのは、かれこれもう一年ばかり前のことである。だが、その訴えがあまりにも奇妙、奇天烈(きてれつ)で、刑事課は事件として捜査したものかどうか、議論が二分(にぶん)していた。
「我々は傷害、殺人とかの危害を加えた者を捕らえるのが仕事ですよ。それがなんですっ! 生き返らせたから寺の生計が成り立たないという理由で、その人を捕(と)らえて欲しいとは馬鹿も休み休み言ってもらいたいもんだっ!」
 顔を真っ赤にして怒ったのは、課のリーダー的存在である高田警部だった。
「高田さん、そう目くじらを立てられずに…」
 宥(なだ)めたのは署長の霧島である。
「そう言われますが署長、死んだ人を生き返らせる人を捕(つかま)えられますかっ!」
「…それはそうです。私もそう思います。医者が診離(みはな)して死んだ人を生き返らせた人だ。そんな神がかった人を捕らえるのは、やはり怪(おか)しいですな」
 霧島も得心して頷(うなず)いた。
「でしょ?」
「ええ…。しかし、被害届が出てますからな…」
 二人の話に割って入ったのは、高田の上司で副署長の村中警視だった。
「署長、それはそうなんですがね。だからさぁ~君、その被害届が果たして被害なのかって話だろ」
「ええ、それはまあ…」
「それにしても不思議な人物ですね」
 村中は霧島の顔を窺(うかが)った。
「ああ、村中さんが言うとおり不思議な人だ。聞くところによれば、死んだ人の顔に手を触れ、目を閉じただけで生き返らせるそうだね」
「はい、SF映画そのものですよ。とても私には信じられません…」
 高田は霧島へ大げさなジェスチャーを交えて返した。
「それは、私もだ…」
「私も…」
 高田の言葉に霧島も村中も追随(ついずい)した。結局、刑事事件ではないため、生き返らせ事件? の被害届は今も処分保留のまま宙に浮いている。

                 
            完

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2017年3月16日 (木)

サスペンス・ユーモア短編集-59- 回り回って

 麹北(こうじきた)署の捜査本部である。先輩刑事の瀬戸と後輩の有田が問答をするように左右の席で言い合っていた。それを中央の椅子にドッカと座り、人ごとのように聞いているのは警部の九谷である。
「いや! それはおかしいぞ、有田。だいいち、それじゃ、犯人は鳥のようにフワフワと空を飛んだことになる!」
「瀬戸さんはそう言いますがね。今の時代、それは可能でしょう。例えば、背中にブロワを背負ってハングライダーで人間が飛ぶことは可能な時代なんですから!」
「それはそうだが、現場で犯人がそれを背負って飛び去ったとでも君は言う気か?」
「私はなにも犯人がそうしたとは言ってないですよ。フワフワと空を飛ぶことは今の時代、可能だということを言いたかっただけですっ!」
「だから、それは結局、容疑者のアリバイ[現場不在証明]が成立しないことになるってことだろっ!」
「ええ、まあ…。回り回って、そうなります」
「なにも回り回らなくたって、いいんじゃないか?」
 ここで初めて九谷が口を開いた。
「はあ、まあ…」
 九谷にダメダシされた有田は前面に二人の敵を抱えたような格好になり、萎縮(いしゅく)した。
「ただ一つ、私にも腑に落ちないのは、犯人が現場に残した食べかけのサラダと箸(はし)です」
 瀬戸が九谷に言った。
「ああ、まあな…。サラダには普通、フォークだわな」
 三人は意見が合ったように同時に首を傾(かし)げた。
「まっ! 回り回って食えなくもないかっ」
 瀬戸が、ぽつりと言った。
「それにしても、逃げる前に普通、食いますかね、それもサラダを箸で」
 有田の言葉に三人は大笑いした。事件は野菜盗難事件で、回り回って、犯人は届け出た店の主(あるじ)の偽装工作事件だった。ただ、何の利益もない虚偽(きょぎ)の工作をしたのかまでは、未(いま)だに分かっていない。

                           完

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2017年3月15日 (水)

サスペンス・ユーモア短編集-58- 雨夜の騒動

 その日はシトシト・・と雨が降っていた。濡(ぬ)れ鼠(ねずみ)になった一人の男が、息を切らせて蓮華署へ飛び込んできたのは深夜の2時過ぎだった。当直はいるにはいたが、時間も時間だったから、そう多くの署員は署内にいなかった。
「どうされましたっ?!」
 当直の川城警部補は、濡れ鼠の男に思わず訊(たず)ねた。
「み、見ましたっ!」
「なにをっ! 事故ですかっ、殺人ですかっ?」
「いえ、どちらでもありません」
「いったい、なにを?」
 川城は見当がつかず、続けて訊ねた。
「と、ともかく、来てくださいっ!」
「わ、分かりましたっ! 吉岡、お前すぐ行けっ」
「はいっ!」
 若い吉岡巡査長はすぐにスクッ! と立つと、河童を身につけた。
「それで、なにを見られたんですっ?」
 川城は吉岡が合羽を着ている間に、もう一度、訊ねた。
「いや、言うのも、おぞましい…幽霊です。足がありませんから幽霊です。ずっと道端に後ろ姿で立ったまま、動きませんっ!」
 んっな馬鹿な・・と、川城も吉岡も拍子(ひょうし)抜けし、急に動きを鈍(にぶ)めた。
「あのね、ここは警察です。そんな馬鹿げたオカルト話は他へ行ってしてください。事件や事故かと思いましたよっ」
「いや、幽霊かどうか、確かめてくださればそれでいいんです。私の見間違いで、死体が吊るされて立っていた、なんてことだったら…」
「でもあなたは、足がなかったと言われましたよ」
 川城は男に少し疑念を抱き始めていた。
「いや、それはそうなんですが…。私の見間違いってことも。とにかく、来てください」
 先ほどとは違い、吉岡は急ぐ様子もなく、ゆったりと歩きながら男と外へ出た。濡れ鼠の男が警察の傘を借りて出たのは、もちろんのことである。
 20分ほどして吉岡は男と署へ戻(もど)ってきた。二人とも顔が青ざめていた。
「係長、幽霊でした」
「君まで、なんだそれはっ!」
 川城は吉岡を叱(しか)った。
「いやっ、本当なんです。近づくと後ろ姿の足がない女はスゥ~っと消えました。そして、私が離れてしばらくすると、また立っていたんです…」
「馬鹿なっ! それじゃまるで、サスペンスじゃなくオカルトじゃないかっ! …まあ、事件や事故ではなさそうだから、それはそれでいいんだけどね…」
 川城はややこしい物言いをした。ある意味、自分の気持を納得させている風にも見えた。男は警察の別室で暖(だん)をとったあと、帰っていった。
 次の日、雨夜の騒動は一定の解決を見た。ただそれは、やはりオカルト的で、女が立っていたその道端は、過去、女が事故死したところだった…ということではなく、来年、封切られるオカルト映画の撮影現場だったのである。カメラはロングに引いて、道端に立つ女を撮影していた。

                           完

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2017年3月14日 (火)

サスペンス・ユーモア短編集-57- 風には逆らうなっ!

 掃部(かもん)署の赤堀は、休みがやっと取れたというのに妻の命令で、せっせと落ち葉を掃(は)いていた・・いや、掃かされていた。署内では凄腕(すごうで)の刑事として署員達から一目(いちもく)置かれる赤堀だったが、家ではさっぱりなのだ。その日は風が強く、ようやく掃き終わった…と思いながらその場を振り返ると、また北風がビュゥ~~っときて、元の落ち葉だらけの状態に戻(もど)してしまっていた。赤堀は犯人を取り逃がしたあとのようにクソッ! と腹を立てた。意固地になった赤堀は執拗(しつよう)に掃き始めた。そして、今度こそ掃き終えたとき、またも北風がビュゥ~~っときて、せっかく掃き終えた敷地を元の落ち葉だらけにしていた。赤堀は怒った。おお、やってやろうじゃないかっ! こうなりゃ、綺麗(きれい)に掃き終えるまで掃いてやるぞっ! と意固地を通り越し、頑固になった。よ~く考えれば、風は北から吹いているのだ。それを赤堀は南から掃いていた。これでは意味がない。それに気づいたのは、北風にやられた三度目のあとである。赤堀は、俺としたことが…と、風がやむのを待って、また掃こう…と一端、家の中へ撤収(てっしゅう)した。
 風がやんだあと、好きな餡(あん)餅を食べ、茶を啜(すす)っていると風が小やみになった。さてと…と、赤堀は落ち葉掃きを再会し、無事に掃き終えた。
 次の日、赤堀は掃部署で新たな事件を担当した。置き引き常習犯の張り込みである。多くの人通りがある繁華街の片隅で、赤堀はジッと身を潜(ひそ)め、面のわれた犯人が現れるのを待っていた。信号が変わり、人が流れ始めたそのとき、人込みの中に動く犯人が見えた。赤堀に従って張り込んでいる若い刑事の備(そなえ)は瞬間、飛び出そうとした。
「風には逆らうなっ!」
 赤堀は思わず備に叫んでいた。
「えっ!?」
 備は意味が分からず、動きを止めた。
「いや、なんでもない…。とりあえず、泳がせよう」
「はい、分かりました…」
 備にも、泳がせよう・・という意味は分かった。

                            完

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2017年3月13日 (月)

サスペンス・ユーモア短編集-56- 切れたロープの謎(なぞ)

 深地(ふかち)署、刑事課の一室では捜査会議が開かれていた。焦点は切れたロープの謎(なぞ)についてである。
「いや! 偶然にしては、あまりにタイミングが合い過ぎます!」
 若手の刑事、土竜(もぐら)は反論するならしてみろっ! とでもいいたげに、座る多くの課員を見回しながら頑強(がんきょう)に主張した。
「それはそうだが、まあ、そういうことだってあるだろう」
 宥(なだ)める口調で小さく返したのは土竜とタッグを組む先輩刑事の川宇曽(かわうそ)だった。
「科捜研の矢守(やもり)です。切り口の科学鑑定結果は配布の資料のとおり繊維痕の不ぞろいなどの点から自然磨耗による切断と推論されます。ただ、切断面があまりに鋭利な形状をしているため、偶然性の確定に全力を続けたいと考えております」
「ということは、人為的な故意による切断もあり得る訳ですか?」
「いや、そこまでの推論はいたしかねますが、ただ、偶然の形状にしてはあまりにも珍しいケースかと…」
 土竜の追求に矢守はお茶を濁(にご)した。
「それそれ! 害者に落ちたタイミングだってあまりにも偶然過ぎる!」
 一端、座った土竜がまた立った。
「落ちつけっ!」
 隣に座る川宇曽は無理に土竜を座らせた。
「他には!」
 前方にドッカ! と腰を据(す)えた、捜査本部長の蝦蟇口(がまぐち)は渋い顔で一同を見回した。誰も口を開こうとせず、静まり返っている。土竜は、俺だけかよっ! と、少し不満げに周りを見回した。そのとき、蝦蟇口の携帯がなった。
「なにっ! 害者の意識が戻(もど)った?」
 辺(あた)りは俄(にわ)かにガヤガヤと騒がしくなった。
「静かにっ!! 聞いてのとおりだ。害者は害者でなくなり、ピンピンしているそうだっ!」
 座っていた蝦蟇口が立って言った。事件? は暗礁(あんしょう)に乗り上げず、捜査本部は解散した。

                           完

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2017年3月12日 (日)

サスペンス・ユーモア短編集-55- 消えたのか?

 尾亀(おかめ)署に妙な捜査依頼が市の商業観光課から飛び込んでいた。町の野良猫が相次いで消えているのだという。この町一帯は市の方針で猫保護区に指定され、猫の住む町として猫が安心して暮らせる地域だった。当然、人の目を気にしない野良猫がのんびりと道の真ん中で寝そべっている・・といった風景が垣間見られた。
「動物虐待のニュースもよく耳にしますからな。これが変質者の仕業(しわざ)だという線も、強(あなが)ち否定できませんからなぁ~」
 刑事の鶴首(つるくび)はネクタイを無造作に緩(ゆる)めながら係長の野虫(のむし)をジロリ! と見た。野虫は年の功の鶴首が苦手(にがて)で、若手刑事とは違い、一目(いちもく)置いていた。
「そうだねぇ…」
 鶴首はこのひと言を口にするのが関の山だった。
「まあ、とりあえず、消えた猫を探しますわ、猫の町を謳い文句にする」
 あれだけいた猫の姿がパタリ! と町から消える・・などというのは、少しスリラータッチに展開するサスペンスドラマそのものだった。鶴首の懸命の聞き込みにもかかわらず、消えた猫情報は皆目、得られず、トボトボと署へ鶴首は戻(もど)った。そんな日が半月ほど続いたある日の朝、一人の老紳士(しんし)が尾亀署を訪(おとず)れた。
「はい、なにか?」
「この町で保護した猫の飼い主(ぬし)を探しておるんですがな…」
「はあ?」
「オッホン! ですから、猫の飼い主(ぬし)を、です!」
 老紳士は咳(せき)払いを一つし、少し威厳(いげん)めいて言った。そのとき、鶴首は刑事の勘でピン! ときた。だが次の瞬間、待てよ! と、思った。いくらなんでも、市内に散らばる数百匹以上の野良猫すべてを保護する・・などということは尋常(じんじょう)では考えられなかったからだ。
「あっ! それはそれは…。で、猫は、どちらに?」
 老紳士が猫を携(たずさ)えていないのを見て、鶴首は朴訥(ぼくとつ)に訊(たず)ねた。
「ああ、それは我が邸内に…。この町の猫すべてですからな、我が家も猫屋敷になっておりますわい、ほっほっほっ…」
 紳士は優雅(ゆうが)な笑顔で一笑(いっしょう)に付した。
「…」
 鶴首はそれを聞き、二の句を告げなかった。
 のちのち判明したのは、この老紳士こそ、我が国を動かす大財閥の総帥の一人だという事実だった。

                             完

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2017年3月11日 (土)

サスペンス・ユーモア短編集-54- いつやらの捜査

 ふと、思いだしたように捜査三課の刑事、尾高は過去の調書を捲(めく)っていた。すでに時効を迎えていたその事件は600円分の自動販売機不正使用事件という警察が忘れたいようなセコい窃盗事件だった。
 尾高がふと、調書を捲ってみよう…という気になった経緯(いきさつ)は、3日前に遡(さかのぼ)る。その日、尾高は町の大衆食堂で腹を満たし、トボトボと歩いていた。そのとき、道路の右前方斜めにあった自動販売機を物色するどこかで見かけた人物を発見したのである。そうだ! と尾高がその男を思い出したのは、署へ戻(もど)ってからだった。
 事件の発生は、さらに3年前に遡る。場所はこれも尾高が自動販売機が置いてある道路を通行中のことだった。その男は自動販売機を物色していた。
「どうかされましたか?」
 尾高は男に近づき、声をかけた。自動販売機の形状を探(さぐ)っていた男は尾高の声に驚き、顔を向けた。尾高と男の目が一瞬、合った。
「…」
 男は少し取り乱し、後ろめたそうに立ち去った。尾高は妙だな? と、刑事の勘(かん)で思った。自動販売機を設置している店主が警察へ訴えたのはその数日後だった。600円分が足らないという。
「ははは…あなたの数え間違いじゃありませんか」
「いや、そんなことは絶対にございません! 毎日、点検しとるんですから…」
 そう言われたとき、尾高はふと、男の顔を思い出した。ひょっとすると…と思えたのは、男が立ち去った自動販売機と符合し、男の不自然な挙動からだった。
「分かりました…」
 尾高はその自動販売機に鑑識、科捜研をともなって行った。捜査員達は全員が、俺達は必要があるのか? このクソ忙(いそが)しいのに馬鹿馬鹿しい…という顔で証拠を収集した。自動販売機は壊れた形跡もなく正常に作動しており、捜査員達は妙な事件に首を捻(ひね)った。ただ、地球には存在しない妙な金属破片が発見され、男は宇宙人・・ということで一件落着した。いや、落着させないと悪質な事件が横行する現在、捜査する暇がなくなる…というのが警察の結論だった。ただ、尾高は宇宙人は地球を調査している…と信じ、時効になったいつやらの捜査を秘密裏に続けている。

                           完

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2017年3月10日 (金)

サスペンス・ユーモア短編集-53- 思わず泣けた事件まがいの一件

 船着(ふなつき)署の屋形警部補は久々の非番に、ホッコリしよう! と意気込んで屋台へ入った。別に意気込まなくてもいいのだが、そこはそれ、日頃の張り込みの緊迫感を忘れたい…という一念だった。
「親父、冷やで一杯…」
「へいっ!」
「適当に、見繕(みつくろ)ってくれや」
 屋形は前のおでん鍋を指さした。親父はコップに酒を注ぎ置いたあと、無言ではんぺん、こんにゃく、煮卵などを箸(はし)で乗せ、屋形の前へ置いた。屋形は辛子(からし)をスプーンでその皿に乗せ、摘(つま)み始めた。そして、キュ! とコップの酒を半分ほど飲んだ。その途端、屋形は泣き出した。完全な泣き上戸である。
「ぅぅぅ…親父、聞いてくれや」
「どうされました?」
 親父は顔では泣き、えらいのに捕まったな…と内心で渋い顔をした。屋形は事件まがいの一件を語りだした。
「蜆(しじみ)売りの子がいてな・・その子がな、ぅぅぅ…つい出来心でな…盗っちまったんだ。親にな、ぅぅぅ…着せるんだと、反物をな…引っくくれるかい、親父よぉ~! ぅぅぅ…」
 振られた親父は、この男は刑事か…とは分かったが、どう答えたもんか? と思案した。絡み酒もあるのか…と心配も増しながらである。それに、蜆、反物と、今の時代にしてはレトロな話である。
「ぅぅぅ…そりゃ、私なら無理ですね。そんな事件がありましたか?」
 親父は泣き顔で屋形につき合った。
「んっ? いや、さっき署のテレビで観た時代劇さ」
「えっ? …」
 親父は、なんだ! とばかりに、思わず泣けた事件まがいの一件にアングリした。

                         完

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2017年3月 9日 (木)

サスペンス・ユーモア短編集-52- 物忘れ捜査・事件消滅

 酒蒸(さかむし)署の刑事、下戸(げこ)は最近、とみに物忘れをするようになっていた。50半ばになった途端、その傾向が激しくなり、下戸には辛(つら)かった。
「先輩、一度、診(み)てもらったらどうですか?」
 下戸のフォロ-をする機会が増えていた後輩刑事の麹(こうじ)は下戸に小声で言った。なんといっても事件捜査で記憶が消えれば捜査は振り出しに戻(もど)るから、ややこしいことになる。
「ああ、今度の空(あ)きで、そうするさ…」
 酒蒸署はこのとき、自転車連続盗難事件の捜査を行っている最中だった。
 深夜、 11時の自転車置き場である。この日、下戸は麹と犯人が現れそうな場所を交代で張り込んでいた。張り込み番を麹と変わった下戸は、物陰(ものかげ)から人の現れる気配を窺(うかが)っていた。張り込んでいる下戸は犯人の出入りを見張っているという目的をはっきりと覚えていた。だが、人影が動いたその次の瞬間、下戸は目的の記憶を失い、自分がなぜ深夜の今、こんなところにいるのか? という疑問に晒(さら)された。当然、動いた足は止まっていた。しかし、身体が動いていた勢いというものがあった。自分は自転車置き場の方へ向かおうとしていた…という判断はついた。下戸は止まった足をふたたび動かし、自転車置き場の方へ歩いた。近づく下戸に驚いたのは犯人と思しき男だった。
「いや~、遅いのに大変ですなぁ。夜勤のお帰りですか? ご苦労さまです」
 下戸は丁寧(ていねい)な挨拶をして敬礼した。このひと言と敬礼に、犯人はグッ! と感極(かんきわ)まった。
「ぅぅぅ…ああ、はい。私が、やりました」
 犯人と思しき男は、そのまま両手を下戸の前へ突き出した。
「えっ?! なにを?」
 うろたえる下戸に、犯人は? と首を傾(かし)げ、戸惑いながら去っていった。
 その後、盗られた自転車はすべて元の位置へと返され、事件は事件にならずに消滅した。
「まあ、私の物忘れで結果オーライだったんですがね…」
「ははは…事件が解決して、よかったじゃないですか。年齢から来る健忘症、老人ポケ、ボケですな」
 診察した老医者はボケを強調して下戸に言った。なにがボケだっ! このボケなす医者がっ! と思った下戸だったが、流石(さすが)にそうは言えず、笑顔でお辞儀して立った。
 帰り道、まあ事件にならずよかったか…と下戸は某演歌の大御所作曲家の♪昭和えれじい♪をハミングしながらレトロに思った。

                          完

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2017年3月 8日 (水)

サスペンス・ユーモア短編集-51- 茶 揉(も)み誤解事件?

 世の中にはとんでもない不幸な間違いが続き、窮地(きゅうち)に陥(おちい)ることがある。またその逆に、とんでもない幸せが連続して続くという事だってある。中国の故事では幸と不幸は綯(な)った縄のように交互に起こるとしたものだが、連続で起こる場合もあるにはあるのだ。この一件もそんな事例である。
 銘茶で全国的に有名な美皿(みさら)村では茶畑で今年も新茶が摘まれていた。♪夏も近づくぅ八十八夜ぁ~♪ではないものの、季節はちょうど摘み頃を迎えていた。ここまでは、取り分けて事件になるようなことではなかった。ところが、である。そんなある日のこと、茶農家、駒塚は村を歩いている途中、偶然、妙な男に遭遇した。見かけない妙な男だな…と駒塚は思ったが、そのまま見過ごした。男は通称、マッサージ師の物心(ものごころ)だった。物心はこの町へ逃げるようにやってきた素性の怪(あや)しげな男である。物心が逃げるようにやってきたのには訳があった。マッサージで揉(も)み解(ほぐ)す腕はいいのだが、資格を持っていなかったのだ。指圧治療は構成労働大臣認定の[あん摩マッサージ指圧師]の資格が必要となる。発覚した物心は逃げるように美皿村へ落ち延びてきた・・ということだ。だが、世間はそう甘くない。物心は警察の奥目(おくめ)に跡(あと)をつけられていた。ただ、面は割れていなかったから、聞き込みのみで奥目は追っていた。その奥目が運悪く器用に茶葉を揉んでいる駒塚の姿を見た。
「ほう! 器用に揉まれますなっ!」
「ははは…仕事ですから」
「他に揉まれるものも、お有りなんじゃないですか?」
 ニンマリと笑いながら奥目は駒塚の手の動きを見た。下ネタでもなさそうだし…と、見られた駒塚は意味が分からず、一瞬、手を止めた。手を止めた駒塚を見た途端、奥目は大きな勘違いをした。
「お前だなっ! にせマッサージ師はっ!」
「ば、馬鹿なっ!」
 駒塚は大声を出した。そこへ、偶然、通りかかったのが物心である。ドラマのようにタイミングが偶然、一致したのだ。物心はギクッ! とした。物心はその場から早足で離れようと駆け出した。
「旦那、犯人はあいつだっ!」
 駒塚は、疑われたくない一心で、確信もないのにその場から逃げ出した物心を指さした。そして、物心は奥目に捕(とら)らえられた。ところが、である。翌日の朝刊は、駒塚を犯人として掲載していた。茶農家の駒塚としては弱り目に祟(たた)り目である。さらに悪いことに、悪評で新茶の出荷がキャンセルで激減してしまった。こうなっては、茶農家はお手上げである。不幸に輪をかけ、また不幸が駒塚に続いたのだ。一方その頃、奥目に捕らえられた物心は、駒塚が摘んだ新茶で淹(い)れた美味(うま)い茶の一杯で自白していた。駒塚の揉んだ茶と自白・・物事は妙なところで絡(から)むのである。その後、新聞が物心の犯行だったと書くに及んで、駒塚の製茶の出荷量は以前よりも増してうなぎ上りとなった。当然、大金が駒塚の懐(ふところ)へ転がり込んだ。さらに悪評判は良い評判へと変わり、加えて良い評判は良い評判を呼ぶに至って、ついに駒塚は国から大臣表彰を受けるという運びとなった。幸せが続いたのである。ただ、どういう訳か、その表彰は農林水産大臣賞ではなく厚生労働大臣賞だった。

                          完

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2017年3月 7日 (火)

サスペンス・ユーモア短編集-50- 落ち葉焼き芋盗難事件?

 事件の発端(ほったん)は頑固で意固地な老人に起因する。はっきり言えば…である。まあ、このあらましは読んでいただければ分かるだろう。
 素泊(すばく)村にも山村の木々が色濃く紅葉する季節を迎えていた。その村の一軒屋に取越九郎兵衛[通称 九郎兵衛どん]という林業と農業を生業(なりわい)とする老人が住んでいた。身寄りとてなく、近づく人といえば、近くの家の子供達くらいだった。
 ある日の夕暮れ、九郎兵衛どんは落ち葉を掃き集めていた。これは例年のことで、さした苦ではなかった。
「九郎兵衛どん、精が出るねえ…」
 自転車で通りかかった村の駐在は九郎兵衛どんに声をかけて止まった。
「やあ、これは駐在。ご苦労なこってす!」
 九郎兵衛どんは愛想よく返した。そこへ村の子供達数人が走って近づいてきた。
「そうそう、今朝採った芋があったわい。焼いてやろう」
 子供達は歓声を上げて喜んだ。駐在は笑顔で自転車を漕(こ)ぎ、去っていった。そして、九郎兵衛どんが芋を落ち葉の中へ入れ、火をつけると、山のようになった落ち葉が少しづつ燃えだし、香ばしい香りの煙が秋の夕暮れの青空に立ち昇った。やがて落ち葉はほとんど燃え、残った灰から九郎兵衛どんは焼きあがったはずの芋を取り出そうとした。ところが、である。芋は一つすら見つからない。そんなことはない! と、意固地になった九郎兵衛どんは必死になって灰の中を探し始めた。灰が舞い、子供達は渋い顔で家々へ帰っていった。腹が治(おさ)まらないのは頑固な九郎兵衛どんである。いたのは高々、子供数人だったが、満座の中で恥をかいた・・という思いが沸々と湧(わ)き、九郎兵衛どんは交番へ駆け込んだ。
「九郎兵衛どん、どうされました?」
「駐在! い、芋が消えた…いや、盗まれた。捜査してくれんかっ!」
 駐在は、また始まったか…とは思ったが、そうは言えず、事情を細かく訊(き)いた。
「ははは…焼き芋が、ですか? んっな馬鹿なっ」
 駐在は半信半疑というより、ほとんど信じられないという顔で九郎兵衛どんを見た。
「燃えてしまった・・ということはないんでしょうか」
「いや、あれぐらいの火で燃えてしまうわけがない。盗難だっ!」
「でも、あなたがずっと傍(そば)で見ていたんでしょ?」
「それは、まあ…。いや、舞ってくれ! 後始末の水バケツを取りにいったわい」
「現場におられなかったお時間は?」
「10分くらいでしたかのう…」
 馬鹿げた話だ…と駐在は思えたが、そうとも言えず、思うに留(とど)めた。
「分かりました。子供達にも一応、話は聞きましょう。詳細は、後日…」
 暗くなってきたこともあり、駐在は九郎兵衛どんを帰宅させた。
 話は次の日、いとも簡単に解決した。犯人は勘違いした九郎兵衛どんだった。落ち葉の山はふた山あり、焼いた落ち葉の山に芋は入っていなかったのである。
 その次の日の夕方、駐在、子供達、九郎兵衛どんは笑顔で焼きあがった焼き芋を食べていた。めでたし、めでたし・・。

                           完

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2017年3月 6日 (月)

サスペンス・ユーモア短編集-49- 子野耳(ねのみみ)神社・呪縛(じゅばく)事件?

 事件まがいの妙な匿名(とくめい)通報が回車(かいしゃ)署に入ったのは、深夜も過ぎた午前2時過ぎだった。通報を受けたのは当直の矢頭(やがしら)巡査長である。
「えっ? もう少し大きい声でお願いします」
『…はあ、子野耳(ねのみみ)神社へお祓(はら)いと占いに行った者ですが、連れの者が…突然、行方不明になったんです』
 通報者の電話の音声は心なしか震(ふる)え、途切れ途切れだった。
「落ちついてください。子野耳神社ですね? ええ、深夜の11時頃に行って…はい、お祓いと占いが終わったのが深夜の1時頃ですか…。はい、その方が消えた状況は?」
『それが…とても信じてもらえないでしょうが、闇の中へ吸い込まれるようにスゥ~っと』
「まだ神社の境内(けいだい)の中だった訳ですね。…はい、帰りの参詣道で…はい、そのお祓いと占いというのは?」
『全国的に知られた子野耳神社に伝わる有名な占いを兼ねたお祓いです』
「ああ! それなら私も知ってますよ予約制でしたね、確か…。警察に就職する前、向いているかどうかの占いとお祓いをしてもらいましたから。ハムスターが観覧車を回って止まったところで、呪文めいた祝詞(のりと)をどうのこうの・・と読み上げるというやつですね?」
『それそれ! それです』
「確かにアソコの神社の占いとお祓いは深夜帯で変わってます」
『呪(のろ)いとかでしょうか?』
「いや、呪縛(じゅぱく)によるものとは、現代科学ではとても考えられないですが」
『すぐ来て、探してもらいたいのですが…』
「分かりました! 手の空いた者をすぐ手配しますっ」
 現場へ覆面パトが駆けつけ、マルタイ確保の緊急手配が行われた直後、消えた男は暗闇からまたスゥ~っと姿を現した。罰(ばち)当たりなことに、俄かに尿意を催し、暗闇で用を足していたことが判明したのは、夜が白々(しらじら)と明け始めた頃だった。
「まあ、今後は注意するように…。マルタイのあんたを軽犯罪法で引っ張るというのもな…」
 どうも、絵にならん! とまでは言わず、刑事は男をパトカーから開放した。男は通報者に伴われ、子野耳神社からトボトボと去っていった。子野耳神社・呪縛事件? は軽犯罪法絡(がら)みの境内立ちション事件 ?だった。

                             完

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2017年3月 5日 (日)

サスペンス・ユーモア短編集-48- 夢の続きストーカー事件?

 逆波(さかなみ)署管内でストーカーが連続して出没するという厄介(やっかい)な事件が発生していた。訴えたのは中年のどう見てもストーカー? と首を傾(かし)げたくなるようなブス女だった。だが、訴えがあった以上、逆波署としても放置することは出来ない。安井警部を中心とする捜査陣による内偵捜査が行われることとなった。
「何か思い当たるようなことは?」
「いえ…」
「奥さんの思い過ごしじゃないですか?」
 ジロリ! と訴えたブス女を見て、安井はそう言うと、ニンマリした。
「し、失礼なっ!」
 ブス女は小馬鹿にされたと勘違いしたのか、急に怒り出した。
「いやいやいや、これは失礼。…で、その男の年格好とかは?」
 安井は年格好、服の特徴・・などを順次、訊(き)いていった。
「なるほど…分かりました。もう、大丈夫ですよ」
 安井は心にもないことを笑顔で口にした。あなたは100%、大丈夫だよ…とは思えたが、そう言ったのだ。それどころか、手間を取らせやがって! こっちは忙(いそが)しいんだっ! という腹立たしい気分を押し殺しての精一杯のヨイショだった。
「よろしくお願いします…」
 女が帰ったあと、安井は急に眠くなった。
「安井さん!」
 部下の堀角(ほりすみ)警部補のひと言で安井は目覚めた。
「ああ…すっかり寝ちまったよ。だが、あんな女にストーカーとはな。物好きもいるもんだっ、ははは…」
「あんな女? 捜査してたのはこの人ですよ」
 堀角が見せた女の写真は、出ていったブス女とは似ても似つかない若い超美人だった。
「…別件かっ!?」
「なに言ってるんですか。スト-カー被害届はこの人だけですよ」
「んっな馬鹿な! つい、今まで…」
 そのとき安井はふと、気づいた。そういえば足元が妙に霞(かす)んで、雲の上にいるようだった…と。
「分かった! 張り込むぞっ!」
 安井の気分は、夢のブス女と違い前向きになった。
「しっかりしてくださいよ、安井さん。犯人は先ほど自首したでしょ?」
「んっ? …」
 夢の続きストーカー事件? は、まだ安井の中で未解決だった。

                          完

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2017年3月 4日 (土)

サスペンス・ユーモア短編集-47- 屋台の提灯(ちょうちん)焼失事件?

 この事件まがいの一件は、うらぶれた裏通りの屋台で起きた。幸い、爆発事故や屋台の焼失までには至らず、屋台の屋根の一部を焦(こ)がす程度で済んだ。それでも、屋台の親父が大事にしていた提灯(ちょうちん)だけに、被害届が串焼(くやき)署に提出された。親父の炭火(すみび)は、火の不始末などは絶対、有り得ない! と串焼署の刑事、葱間(ねぎま)に訴えた。
「分かりました。犯人を見つけ次第、お知らせしますから、今日のところはお引き取りください。ただ、消防と科捜研の調べでは、放火の疑いはないとのことなんですが…」
「いや! アレは絶対、放火です。必ず引っ括(くく)ってくださいっ! ぅぅぅ…形見の提灯がっ!」
 炭火は机の上で泣き崩れた。号泣の声は署内の隅々にまで行き届いた。何ごとだっ! とばかり、署長の藻津(もつ)が顔を出し、すぐ引っ込んだ。
 その後、葱間により捜査は進められたが、不審人物の目撃証言やこれといった新事実は出ず、放火未遂事件の線は立ち消えた。
「一度、お払いを受けられた方がいいですよ」
 屋台で準備をしている炭火を訪れた葱間は、最終報告のあと最後にそう言い残した。今でも屋台の提灯焼失事件? は不思議な一件として串焼署の語り草となっている。

                             完

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2017年3月 3日 (金)

サスペンス・ユーモア短編集-46- 目赤川転落事件?

 事件? は深夜に起きた。所轄(しょかつ)の蚤多(のみた)署が通報を受けたのは明け方の6時前だった。通報したのは早朝のジョギングで偶然、通りかかったサラリーマンの蚊取(かとり)である。蚊取はようやく明け染めた目赤川に人が倒れているのを橋上から見たのである。おやっ? と思った蚊取は走る足を止め、その人影を凝視(ぎょうし)した。見間違えではなく、人に違いない…と思えたのは、しばらくしてからである。蚊取は慌(あわ)てて川岸へ急いで降りた。すると、やはり一人の男が倒れていた。蚊取は持っていた携帯で警察へ通報した。
 倒れていた男、猪山は意識を失っていたが一命があったため救急搬送された。
「ふ~む。自殺か他殺か…」
 蚤多署の刑事、芋畑は現場の川岸から落ちたと思われる橋を見上げ、呟(つぶや)いた。
「芋さん、害者の意識が焼けた、いや、戻(もど)ったそうです!」
 息を切らせて駆けつけたのは、若手の刑事、落葉である。
「うむ、そうか…。まあ、とりあえずよかった」
「それが、妙なんですよ。本人は橋からフワッ! とナニモノかに押されて落ちたようだ・・と言ってるらしいんです」
「それは怪(おか)しい。目赤川のあの橋の上からだと、どう考えても助からんはずだ。全身打撲で内臓破裂だろうが」
「ええ、そうなんでしょうが、本人は掠(かす)り傷で、意識を失っていただけなんですから…」
「どうも、分からん…」
 次の日、害者? の猪山への事情聴取が病院で行われた。
「なにげなく歩いていて、橋の上でフワッ! と押されたようだとおっしゃってるんですが?」
 芋畑は、やんわりと穏やかには訊(たず)ねた。
「はい、休日の散歩をしていたときですから、その記憶は鮮明に残っております。ただ、その後の記憶がございません」
「橋から落ちていく感覚も、ですか?」
 それまで黙っていた落葉が急に口を開いた。
「橋から何かの圧力を受けて身体が傾いたところまでです…」
「そうですか。何者かに押されたのなら傷害、いや殺人未遂事件になりますしね」
「あなたが、フラついて落ちたのなら、ただの事故です」
「こいつが言うとおりです。ただ、私らに分からんのは、本当にあの高さから落下されたのか? という疑問です。科捜研の話では、あの高さからの落下の場合、致死率は95%以上とのことですが…」
 この一件は被疑者が見つからないまま、未解決の一件として忘れ去られた。見えるモノだけが怖いのではない。見えないモノが真のサスペンスなのだ。

                           完

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2017年3月 2日 (木)

サスペンス・ユーモア短編集-45- 恨(うら)み

 抜毛(ぬけげ)は今日も張り込んでいた。ただ若い頃に起きた事件だけに、すでに時効となっている一件だった。あれから40年・・すでに抜毛の定年は来年に近づいていた。それでも抜毛は追っていた。必ず犯人は尻尾(しっぽ)を出すと確信しての張り込みである。
 話は事件が起きた40年前に遡(さかのぼ)る。当時、抜毛は新米(しんまい)刑事として、先輩刑事達のチョイ役で、こき使われていた。食料調達役、連絡係、雑用・・と、およそ刑事とは関係がない仕事ばかりだった。それでも、そのうち俺も刑事らしい仕事が出来るはずだ…と信じ、抜毛は頑張った。
 その日もすっかり雑用で疲れ、ようやく仕事から開放されて家路についていた。抜毛はそのとき、腹が限りなく減っていることに気づいた。仕事中は失敗をしまい! と緊張していて、腹が減っていることに気づかなかったのだ。それもそのはずで、よく考えれば頼まれた雑用に忙殺され、昼を食べていなかったのだ。抜毛は通勤路にある一軒の定食屋へ入った。店はかなり混んでいた。
「相席(あいせき)でよろしいですか?」
 店の女店員が訊(たず)ねた。相席以外、誰も座っていない席は見渡したところなかった。
「ああ…。焼肉定食」
「はい! じゃあ、こちらへ、どうぞ…」
 指定された席へ仕方なく抜毛は座った。対峙(たいじ)して座っていた男は、すでに丼(どんぶり)鉢を二つ空(から)にし、三つ目のカツ丼を食べていた。
「お近くの方ですかっ?」
 男は親しげに抜毛に語りかけた。
「えっ? ああ、まあ…」
 抜毛はそう返す以外になかった。男は浮浪者風で薄汚れていた。変な男だな…とは新米刑事の抜毛でも分かったが、別に悪いことをした訳でもないから仕方なく話を合わせる他なかった。
「そうなんですか? ははは…私もすぐ近くで」
「ああ、そうですか…」
「それじゃ!」
 男は食べ終えると抜毛に一礼しながら席を立ち、出口の勘定場へ向かった。そして、勘定場の女店員と二言(ふたこと)三言(みこと)話すと、素早く出て行った。その後、抜毛は焼肉定食を食べ終え、勘定場へ向かった。
「いくら?」
「2,000円になります…」
「えっ? 550円でしょ?」
「連れのお客さんの分が1,450円ですから…」
 抜毛は、しまった! やられた…と思った。知能犯的食い逃げだった。
 その日以降、抜毛は来る日も来るも定食屋を見張っている。だが、その男は40年経った今も、現れていない。
「今日も、いない…」
 食いものの恨(うら)みは恐ろしいのである。

                            完

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2017年3月 1日 (水)

サスペンス・ユーモア短編集-44- 太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件

 四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。
「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」
「ええ。そのときは、ですが…」
「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」
「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」
「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」
「はい。ただ、その日は風が強かったですね」
「強い風に押し倒されたか…」
「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」
「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」
 そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。
「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」
「そうか…」
「ところが、風が強かったようで雲は風に吹き飛ばされたんですよ」
「まあ、そうなったのか…」
「はい。また太陽が害者を眩(まぶ)しくさせたのですが、幸い右折した壁が日差しを止めたんです」
「だったら押し倒されないじゃないか」
「はい、そうなります。しかし、そのとき風で近くの家の植木の枝が飛んだようです」
「その枝は?」
「現場から少し離れたところにあることはあったんですが…」
 そこへまた、一人の刑事が現れた。
「科捜研の話ではその枝の折れた痕跡ですが、ネズミに齧(かじ)られた跡があったと…」
「犯人はネズミか?」
「齧られはしていたんですが、そのときの枝は折れていなかったようです」
「となると、やはり風が犯人か…」
 話は童話のような話となり、事件まがいの一件として立ち消えた。

                             完

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