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2017年5月17日 (水)

よくある・ユーモア短編集-21- 蛸足(たこあし)討論

 テレビ中継された会場では有名評論家、A、B二人による討論が賑(にぎ)やかに繰(く)り広げられていた。
A「あなたはそう言いますがね、私はそうは言わないっ!」
B「ええ、結構ですよ! 別にそう言っていただかなくても。私はそう言っただけです」
 そこへMC[マスター・オブ・セレモニーの略で、進行を任された司会役]が二人の会話に割り込んだ。
「そう言う・・とは、どういうことなんでしょう?」
 素朴な質問に、二人は一瞬、固(かた)まった。
A「…つまり、ほれ。…なんですよ。なんでしたっけ?」
 Aは分からず、Bに振った。
B「えっ? …つまり、そのぉ~」
 Bにも、そう言う・・の意味が分からなくなっていた。つまるところ、討論はすでに本題から大きく反(そ)れ、枝葉末節(しようまっせつ)の蛸足(たこあし)討論になっていたのである。語る二人も意味が分からず、相手に対する反対感情だけで言い返す意味不明な討論だ。お互いに相手が反論するものだから引くに引けなかった。結局、その繰り返しで、二人は完全に意固地(いこじ)になり、敵対意識を剥(む)き出しにした。それを見かねたMCが割って入ったというところだ。MCは二人が二匹の蛸に見えていた。その映像は、二匹が八本の足を互いに絡(から)め合い、激しく攻撃し合うバーチャル[仮想]空間だった。
A「よろしい! 一端、本題へ戻しましょうよ」
B「ええ、構いませんよ私は。それで結構です…」
 Bはスンナリと応諾(おうだく)した。MCには絡まった二匹の蛸足がスルルル…と自分の体の方へ巻き戻(もど)れるさまが、はっきりと見てとれた。
A「…? 本題はなんでしたっけ?」
 Aは本題を忘れ、MCに振った。
「ええ~~~っ!!」
 MCは驚きのあまり、言葉を失った。だらだらと続く討論で結論が出ないどころか本来の議題を忘れて終わってしまう蛸足討論は、確かによくある。

                             完

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