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2017年5月12日 (金)

よくある・ユーモア短編集-16- 並ばされる

 本多が乗った地下鉄は俄(にわ)かにトラブルを起こし、目的の駅へ延着した。本多としては予想外だったが、愚痴ってみても仕方がない。急ぐしかないか…と本多は心忙(こころぜわ)しく思った。腕を見れば、発売の時間まであと20分足らずに迫っていた。欲しかったドローンの新型模型である。買えずにドロン! する訳にはいかんぞっ! と、本多は思った。
 ようやく着いた店の売り場前は人の群れで溢(あふ)れ返っていた。すごい人だかりだな…と、長くジグザグに続く列を見ながら本多は思った。俺だけ特別に・・てな上手(うま)い話はないよな。ここは並ぶしかないか…と、本多は諦(あきら)めて列の最後尾に並んだ。並んだというより、並ばされた感がしない訳でもない。本多は長丁場になりそうな状況に、深いため息を一つ吐いた。
「いよいよですなっ!」
 前列に並ぶ年恰好のよく似た中年男が、嬉(うれ)しげな子供の顔で本多に語りかけた。
「ああ、ですね…」
 欲しかった一品だが、本多としては並ばされた感があるから、そう素直に喜ぺる気分ではなかった。本多の内心は、延着した地下鉄の奴(やつ)め! である。トラブルを起こさなければ、最前列に並べる時間には家を出ていたのだ。それがっ! である。怒りが次第に湧(わ)き上がり、本多の顔は紅潮して不機嫌ぽくなった。
「大丈夫ですか? 少しお辛(つら)そうですが…」
「いえ、大丈夫ですっ!」
 本多は慌(あわ)てて否定した。
「そうですか? なら、いいんですが…」
 男は引き、振り返っていた姿勢を反転させて前向きになった。その後、二人の会話は途絶えた。本多としては、やれやれ・・である。男は喜んでいるが、本多は怒れていたからだ。もちろん、本多も欲しいドローンではあったから、楽しみにはしていたのだ。それが列車の延着で気分は台無しとなり、ドロドロしてしまった訳である。本多としては、代金を支払ってスンナリ商品を入手し、格好よくドロン! したかったのだ。それがご破算になってしまった以上、なんとか気分を高揚(こうよう)し、楽しくせねば、この長蛇(ちょうだ)の列を待ち続けられる自信がなかった。本多は鼻歌を口ずさみ始めた。好きな演歌の大御所が作った一曲である。そのとき、待った! が突然、かかった。嬉しそうな顔をしていた前列の中年男だった。
「ドローンに演歌は似合いませんよっ!」
 本多は、きっぱりと怒り顔で窘(たしな)められた。それもそうだな…と本多にも思えた。本多はテンションを下げたまま、並ぶことなく並ばされ続けた。こういうことは、よくある。

                            完

 ※ 漏れ聞くところによれば、無事、ドローンは手に入り、本多さんは子供のように楽しんでいるそうです。よかった、よかった…。^^

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