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2017年5月 8日 (月)

よくある・ユーモア短編集-12- 噂(うわさ)

 酒蒸(さかむし)が引っ越してきた山あいにある三笠(みかさ)村の界隈(かいわい)では、今、妙な噂(うわさ)が飛び交っていた。その噂は、突然、暗闇から笑いながらペコリ! とひとつ頭を下げて現れ、そのまま何をするでもなく姿を消す・・という風変わりな男に端(たん)を発していた。実害が村人の誰にもなかったことから、交番沙汰になることもなく、事態は混沌(こんとん)として長引いていた。そして、村人の間で男が神がかりに違いない・・という噂が次第に広がり、噂は噂を呼んで、ついに男は町に祀(まつ)られた道祖神の化身(けしん)だ・・という大きな噂にまで拡大してしまった。
「なにか、よからぬことを村の者(もん)がしたからに違いねぇ…」
「んだっ! ここはひとつ、お祓(はら)いをせねばのう…」
「そうだ、そうだ!」
 村の寄り合いでそんな話が持ち上がり、ついに祈祷師(きとうし)が招かれて村の離れの道祖神の祠(ほこら)でお祓いをするという大ごとに至った。酒蒸は村人達からは、よそ者扱いされていたから、それが逆に幸(さいわ)いして、遠目で事態を見守ることができた。酒蒸としては、さて、その男が何者なのか? という素朴(そぼく)な疑問が湧(わ)く。どこに住んでいようと、そうよくある話ではないだけに、酒蒸は興味をそそられた。
 ひと月が過ぎ去った頃、噂は突然、沙汰やみとなり、あとかたもなく消え去った。
「あの話、どうなりました?」
 無性に気になった酒蒸は、ついにある日、村人の一人に訊(たず)ねた。
「ああアレかい。アレはアレだけのものさ、ははは…」
 村人は笑って流した。あとから酒蒸が知った話は、その男は新しく交番に赴任(ふにん)予定の新人巡査で、村人に挨拶していたのだということだった。新人巡査は、酒蒸にもペコリ! と頭を下げ、挨拶した。勘違いは、よくある話である。

                            完

※ ただ、新任の交番巡査が闇に紛(まぎ)れてどこへ消えたのかは、いまだに村人の間で余りない話として語り草になっているという。

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