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2017年5月 7日 (日)

よくある・ユーモア短編集-11- 繰(く)り返し

 決算審査も済み、今年も予算編成の時期が迫っていた。反腰(そりこし)は、その対応に頭を抱えていた。反腰は長年、生活環境課にいた現場出身で、住民から出た苦情処理で蜂の巣を処理している途中、足を滑らせて転倒したのだ。その結果、半身不随にはならなかったものの、片足に麻痺(まひ)が残り、翌年の人事で財政課へ異動した経緯(けいい)があった。反腰自身も仕方ないとは思っていたが、それにしてもなぜ事務経験がない俺が財政課なんだ? という人事への素朴な疑問は残っていた。そうはいっても、異動させられた以上、やるしかなかった。民間に二年ばかりいて苦労した揚句(あげく)、ようやく地方公務員試験に受かり、今の役所に配属された反腰だったから、民間の厳(きび)しさはよく知っていた。
「まあ、愚痴(ぐち)っても仕方ないか…」
 反腰はようやく馴(な)れ始めたデスクで前年度の予算書をめくり始めた。会計科目は同じで、編成方針にも何ら変更はない。繰(く)り返しのなんと有難いことか…と反腰には思えるのである。課長の曲足(まげあし)も、編成方針には異論を挟(はさ)んでいない。というか、当たり障(さわ)りなく来年の異動を迎えることこそが曲足の目的だった。何も失態を起こさなければ、次の次長ポストは約束されていたのだ。ただ、反腰にとっては有難い繰り返し作業だったが、疑問に思えることも多々、あった。
「昼だぞっ!」
 課の誰かが叫んで、課内のデスク作業が一斉(いっせい)に停止した。
「反腰さんは、いつものとこですね?」
 後輩の肩長(かたなが)が小声で訊(たず)ねた。
「ああ…」
「同じ注文ですね?」
『ああ…』
 反腰は言い返さず頷(うなず)いた。いつの間にか、反腰にも繰り返しの癖(くせ)が染(し)み込んでいた。

                            完

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