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2017年5月10日 (水)

よくある・ユーモア短編集-14- 馬鹿な話

 世間には馬鹿な話をして上手(うま)くいく・・ということが、よくある。逆に、当然のように理に叶(かな)っていても、杓子定規(しゃくしじょうぎ)に正論を振り翳(かざ)した話し方で反発を食らい、ポシャる場合もあるのだ。生意気な奴(やつ)、小賢(こざか)しい奴・・などと煙たがる人もいるからだ。万年次長の富士園(ふじぞの)の場合がそうだった。彼は話しベタで、それがある種のトラウマになっていた。同期で入社した部長の毛浦(けうら)などは、理路整然と流暢(りゅうちょう)に自分の考えを捲(まく)したてるのに、富士園にはそれが出来なかったのである。富士園が話せば、それはまるで講談を聞かされる気分となり、誰もがニヤけるのだった。それは馬鹿な話なのだが、それもアリか…と人をその気にさせる妙な話術だった。
「富士園君、アレはどうなったかね?」
 専務の皺川(しわかわ)がニヤけて言った。
「ああ、アレですか…。それが生憎(あいにく)、まだナニでして…」
「ナニか…。ナニなら仕方ないね。出来るだけアレは早く頼むよ!」
「はい、分かりました…」
「うん! 頼んだよっ!」
 専務の皺川は気分よく快晴で歩き去った。皺川にはアレの意味が分かっていたのだが、富士園には分からず、ナニで誤魔化したのだ。馬鹿な話でその場を終息した訳である。時を同じくして、富士園と皺川が歩いていた廊下を毛浦が通りかかった。
「毛浦君、アレはどうなったかね?」
「アレと言われますと…鳥舟薬品の新薬の件でしょうか?」
「そう、ソレ」
「ソレはすでに禿山(はげやま)常務にご報告し、OKをいただきましたが…」
「なんだって!! 禿山さんにっ! 私が君に頼んだんだぞっ! 私がっ! なぜ、禿山さんなんだっ!」
 皺川は急に天候を崩し、降り出した。
「いや、深い意味は…。ひょんなことで、訊(たず)ねられたもので、つい…」
「もう、いい! 今後、君は禿山さんの指示を仰(あお)ぎなさいっ!!」
 皺川は完全に土砂降りとなって廊下を歩き去った。その顔には赤い稲妻が走っていた。この手の話は、確かに世間でよくある。

                           完

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