« よくある・ユーモア短編集-35- 迷う | トップページ | よくある・ユーモア短編集-37- さりげなく »

2017年6月 1日 (木)

よくある・ユーモア短編集-36- 脇道(わきみち)

 遠くに見えた建物の多さから、向こうの方がいかにも街らしい…と思った山畑は、その方角へと歩を進めることにした。ところが、行こうとする方向に道がない。細道は2、3あるのに、肝心の街に向かう幹線らしき道がないのだ。仕方なく山畑は脇道(わきみち)を伝って迂回(うかい)ルートで街に向かうことにした。登山では直途を迂回して登る[巻き登り]という手段もあるが、ここは平地である。そんな慎重な手段を使わずとも十分な余裕を持って街へ着くように思えた。ところが、それは少し甘かった。
「あの…すみません。この道を行けばあの街へ行けますよね?」
 山畑は付近の人らしい、畑を鍬(くわ)で耕(たがや)す農家の男に訊(たず)ねた。
「ああ、行こう思や、行けるども…」
 男は鍬で土を耕す動作を止め、朴訥(ぼくとつ)にそう返した。
「そうですか…。ありがとうございました」
 軽く頭を下げて礼を言い、山畑は歩き出そうとした。そのとき、である。
「だけんど、遠回りになるがのう。あんた、どこから来なすった?」
 後方から問いかけられ、山畑はビクッ! として立ちどまり、振り向いた。
「私ですか? 東京からですが…」
「東京かい。いいねぇ~都会(とけい)は。儂(わし)ら一生かかっても行けねえ土地だぁ~」
「いや、そんなことはないと思いますが…」
「なに言ってる。そんなことはあるだよ。あんた、知らねぇ~からそんな気楽(きらく)が言えるのさ」
「えっ? どういうことです?」
 山畑は気になって訊(たず)ねた。
「まあ、聞いてくれろや」
 男は長々と語り出した。話は脇道へと逸(そ)れ始めた。それから約小一時間が経過した。山畑は聞く一方になり、相槌(あいづち)を入れるだけだっ
た。男は専業農家の悲哀を切々と訴えたのである。
「大変なんですね…」
「そうとも! そこへPTAだろ?」
「なるほど…」
 山畑はTPPだろう…とは思ったが、正さず思うにとどめた。
「子供は放っといても育つが、学校は放ってくれねえ~」
 あっ! そちらか。正さずによかった…と、山畑は思った。それから、教育の話へと入り、次第に脇道は複雑な様相を見せ始めた。山畑は腕を見た。すでに街で会う約束の正午まで1時間を切っていた。さりとて、道の脇道相場か、話の脇道からも抜けられそうにない山畑は焦(あせ)り出した。世間では物事の途中で脇道へ逸れることが、よくある。

                            完

 ※ 漏れ聞くところによれば、なんとか山畑さんは時間に間に合ったそうです。

|

« よくある・ユーモア短編集-35- 迷う | トップページ | よくある・ユーモア短編集-37- さりげなく »