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2017年7月11日 (火)

よくある・ユーモア短編集-76- 煩悩(ぼんのう)

 大晦日(おおみそか)も更(ふ)け、年が変わる少し前ともなるとも、どこからともなくグォ~~~ンという除夜(じょや)の鐘(かね)の響きがやってくる。よく聴いていると、ゴォォォ~~~ンもありゃ、ドゥォ~~~ンというのもあり、まちまちだ。仏教では、108ある煩悩の一つ一つを忘れて取り除(のぞ)く音らしい・・とは池畑にも分かっていた。ただ、聴き逃(のが)せば、偉(えら)いことだな…とは全然、思っていなかった。
 池畑は年越し蕎麦(そば)をズルズル…っと啜(すす)りながら、除夜の音を聞いていた。聴く気はないのだが、自然と耳に入ってくるのだから聞かざるを得ない。
「あれは、相場(そうば)の音だな…」
 池畑に言わせれば、まあフツゥ~の…という音になる。
「あっちは確か、商業寺か…。かなり金回りがいい音だ。響きに勢いが感じられる…」
 池畑はいつの間にか、搗(つ)かれて響く鐘の審査員にでもなった気分で聴いていた。そんな池畑だったが、食べ終えて軽く一杯やっていると少し眠くなり、ウトウト…と半時間ほど眠ってしまった。慌(あわ)ててテレビを点(つ)けると、すでに年が変わっていた。除夜の鐘もいつの間にか搗き終わったのか、聴こえない。しまった! 聴き逃したかっ! と池畑は悔(くや)やんだ。今年は録音してやるっ! 新年早々、池畑に新たな煩悩が湧いた。
 おおよそ世間では、煩悩が湧くことが、よくある。

                           完

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