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2017年7月14日 (金)

よくある・ユーモア短編集-79- あのとき…

 物事(ものごと)の成否(せいひ)には、タイミングというものがついて回る。タイミングを逃(のが)すと、しまった! あのとき…と、後々(あとあと)、失敗を後悔(こうかい)することにも成りかねない。
 槍投げの足川(あしかわ)は、迫った代表選考会に向け、最後の調整をグラウンドで行っていた。足川は勝ち気の性格が災いして、実力がありながら前大会ではライバルの野毛(のげ)に僅(わず)かな飛距離で敗れ、二位に甘んじた苦(にが)い経験があった。それ以降、この日までの練習で、あのとき…と、投擲(とうてき)した瞬間の自分の勝ち気を悔(く)いない日はなかった。というのも、勝ち気が力みを生じ、型を崩して投げた結果、飛距離は今一、伸びなかったのである。意識せず、力まなけば、なんのことはなかった。だが、足川の勝ち気が野毛に負けまいと意識させ、いつもの実力を出させなかったのだ。力まず、無心で投げていれば、隙(すき)は生じなかったのである。それ以降、しばらくの間、足川は野毛に敗れた口惜(くや)しさから、投げ槍になった。だが足川は、しばらくして立ち直った。心・技・体の一つ、心が欠けていたことに気づいたのである。
 あれから一年の歳月(としつき)が流れていた。その間(かん)、足川は寺に住み込み、禅を結ぶことで集中力を養ったのである。
 足川がリベンジに燃える代表選考会の当日を迎えていた。ライパルの野毛は今回も足川を負かす…と意気込んでいた。一年前のあのとき…野毛は投擲に失敗した足川のあとに投げた。投擲に失敗して投げ槍になった足川とは裏腹に、野毛の心は槍投げになっていた。いや、勇(いさ)んでアグレッシブになっていた。飛距離はぐんぐん伸びた・・のである。この日は、野毛の方が先に投げた。野毛の足川を負かす…という意気込みが投擲を失敗させた。結果、あとに投げた足川の心は野毛の失敗で槍投げになっていた。いや、勇んでいた。飛距離はぐんぐん伸び、見事、足川はリベンジを果たすことができた。破れた野毛は、あのとき…と悔いることになった。
 人生では、あとあと、あのとき…と思うことが、よくある。

                           完

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