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2017年7月 7日 (金)

よくある・ユーモア短編集-72- 我慢できない

 人にはそれぞれの持ち味があり、個人差がある。我慢もその一つで、我慢できる人と我慢できない人とでは、物事に差異を生じる。
「ははは…まあ、いいじゃないか。長いスパンで考えりゃ、どうってこっちゃないっ!」
 専務を務める執行役員の河馬口(かばぐち)は大きな口を開けて一笑(いっしょう)に付した。
「しかし、君ねえ~」
 角(つの)を尖(とが)らせ苦情を持ち込んだのは、同じ銀行から常務ポストでこの会社へ乗り込んだ執行役員の犀角(さいかく)だった。
「まあまあ、今回は我慢してくれ。私の顔に免じてな…」
 犀角は、お前の顔? お前の顔は口がデカイだけだろうがっ! …と思いつつも、渋々(しぶしぶ)、頷(うなず)いた。河馬口とは同期だったことに加え、ホールディングスの親会社社長、象崎(ぞうさき)から異動をする際(さい)、二人でタッグを組んで会社再建を図ってくれるよう厳(きび)しい業務命令[業命]を受けていたのだ。そんなこともあり、今、仲違(なかたが)いしている訳にはいかなかった。犬猿の仲ではなかったが、二人はお互い、今まで違った分野で頭角を現してきたから、そう深い付き合いでもなかった。だが今は、敵地的に荒廃した子会社の中である。社員達は皆、二人を異端視し、社内での居心地(いごこち)は悪く、二人はことごとに社員達から目に見えない妨害(ぼうがい)工作を受けていた。そんな二人だったが、二人の忍耐力には差異があった。河馬口は妨害工作にも、さほど気にはならず我慢できた。だが、犀角は我慢できなかったから、ことごとに部長以下の管理職と激突した。
 次の日、犀角は部長の馬縞(うましま)を常務室へ呼び出していた。
「今回は我慢して君の案を採用することにしたい!」
 立つ馬縞を目の前にし、常務席に座る犀角の顔は、どこか強張(こわば)っていた。
「有難うございますっ! 聞けば、部下達も喜ぶと存じますっ! では、さっそく、そのように…」
 馬縞は一礼すると、身を反転し、急いで常務室を出ようとした。そのときだった。
「が、我慢できんっ!!」
「はぁっ?!」
 叫ぶ犀角の声に、驚いた馬縞は立ち止って振り向いた。
「…ど、どきなさいっ、前をっ! と、トイレだぁ~~!!」
 ドタドタと走りながら馬縞をかき退(の)け、犀角は常務室のドアから飛び出していった。犀角は漏らす限界で、我慢できなかったのだ。
 まあこれは、生理的現象と社案との偶然の一致だが、どうしても我慢できないことは、この世では確かによくある。

                          完

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