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2017年8月 2日 (水)

よくある・ユーモア短編集-98- 適度

 慌(あわ)てれば、ろくなことがない・・と、よく言われる。そうかといって、落ちついていればいいのか? と考えると、そうでもない。要は、適度・・ということに他ならない。このファジーな感覚は人それぞれで異なるが、達人ともなると、この適度な感覚が絶妙で、寸分の狂いも生じない。この感覚を得る方法だが、こうすればよい・・という定まった答えはない。鉄板焼ソバの独特の香ばしい風味とか鰻(うなぎ)の蒲焼(かばや)きの絶妙タレ味などがそれだ。あの風味やタレ味は、幾度も幾度も積み重ねられ、初めてあの適度な味となる訳で、短期間で賞味できる味ではない。適度な行動感覚が恰(あたか)もその絶妙味や風味の感覚に似通っている。
 日曜の朝、新発売される玩具(おもちゃ)屋の店頭である。早朝の4時だというのに、すでに数人が並ぶ列ができていた。検察事務官の岡田は、その列の先頭で寝袋(シュラフ)に包(くる)まれ、身体を半折り状態にして地面に座っていた。そこへバタバタ…と小走りでやってきたのは、検事の霜川である。
「岡田君、よく来れたね? 私なんか、土曜の夜からホテルに泊まりこみだよ」
「長年、集めてるマニアですからね。列ができる時間とか込み具合は、おおよそ頭に入ってるんですよ」
「ほう! 大したもんじゃないかっ! 私も長年のマニアだが、来年は退官だからな。もう君のような元気はないよ」
「ははは…ご冗談をっ!」
 霜川と岡田はタッグを組んでいて、検察庁内ではフィギュアコンビと呼ばれ名を馳(は)せる、マニアックな変人だった。
「いつも君は先頭だが、何かコツがあるのかい?」
「ははは…そんなもんありませんよ。今朝の場合、発売が過去シリーズのビンテージの復刻版ですから、そう大した人込みは…と見込んで、適度な時間に家を出ただけのことです」
「それで先頭か…。私なんか、安全策を取った挙句が、このざまだ」
「ただ、2時に家を出ただけなんですけどねぇ~。新シリーズのレアものなら、帰らず外食して直行です」
「普通のフィギュアは?」
「ははは…モノによりますよ。適度に…」
「適度か。適度ねえ…」
 多くても少なくても・・大きくても小さくても・・太すぎても細すぎても…適度を失すれば、物ごとがダメになることは、確かに、よくある。

                         完

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