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2017年9月 5日 (火)

思わず笑える短編集-32- 食べるため

 人は食べて生き永らえるために働いている。その原理は変わらず、いくら屁理屈をつけて否定しようとしても、そうなのだから仕方がない。私は財閥(ざいばつ)の総帥(そうすい)で世界的な金持ちだから、偉いんだぞっ! と、上から目線で言っても、食べるものがなければ衰弱し、死に至(いた)る。死んでしまえば地位も名誉も金も、その人の所有したすべてのものが無となり、消えることになる。それだけに、食べるものの存在は大事ということになる。ただ、食べものがあることと食べられることとは、また違う。金で食べものを鱈腹(たらふく)買ったり美味いものを食べようと値が高いメニューをオーダーしようとしても、健康を害し、食べられなければ意味がない。ということは、健康が一番! という結論が導き出される。
 西暦2310年、人類は未曽有(みぞう)の食糧、食料の危機に瀕(ひん)していた。この時代、すでに世界では国という単位は消滅し、分割された幾つかの地域に統合されていた。その幾つかの地域は地球司令部の管轄下(かんかつか)に置かれ、もはや交通の障害となるもの、いわゆる旅券やピザの発給などといった前近代的な制度は無くなっていた。当然、世界各国の輸入協定(TPP[多国間経済連携協定]、FTA[自由貿易協定]、RTA[地域貿易協定]など)という馬鹿馬鹿しい前近代的制度は廃止され、過去にあった歴史上の笑い話の一つとなっていた。
 地球司令部から莫大(ばくだい)な研究開発費を与えられた地球食糧及び食料総合開発研究所では、地球上にさし迫った飢餓(きが)を解決すべく
日夜、研究開発が、なされていた。
「なんとか、金属分子を食肉タンパクに置換合成できないものか…」
「はいっ! 博士(はかせ)、私もそれは思っております…」
 グゥ~~っと腹が鳴る空腹状態の博士と助手は、深いため息を一つ吐(つ)いた。
「君、食べるために…生きるために頑張ろう!」
「はいっ!!」
 博士と助手は目に涙を溜め、手と手を強く握りあった。

                            完

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