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2017年9月 7日 (木)

思わず笑える短編集-34- 突然

 日曜の朝、なにげなく近所の森を散歩していた中御門(なかみかど)の前に、突然、降って湧いたように美人の若い娘が現れた。中御門の両脚は、その瞬間から思考とは真逆にピタリ! と止まってしまい、氷柱のように固まっていた。 
「あの…この辺(あた)りに小御門(おみかど)さんのお家(うち)は?」
 その若い娘は中御門に近づくと、徐(おもむろ)に訊(たず)ねた。
「小御門さんですか。小御門さんの家は、その先を少し行ったところですが…」
 中御門は、チェッ! 小(しょう)のほうかいっ! …と残念っぽく思いながら答えた。だが、そんな怒りの気分も、美人の娘を見ているうちに、すぐ解(と)けて消えた。
「どうも、ご親切に…」
 若い娘は軽くお辞儀すると、立ち去ろうとした。そのときである。
「あ、あの…私は小じゃない中御門です」
 中御門は突然、この若い娘に声をかけた。一目惚(ひとめぼ)れをしてしまったのである。こうなっては、もうどうしようもない。
「はあ?」
 若い娘は振り返って訝(いぶか)しそうな顔で訊ねた。
「い、いや…別に。ご、ご案内しましょう」
 中御門にとり、突然浮かんだクリーンヒットだった。
「そうですか? 助かりますわ…」
 娘を横に見ながら歩く間(あいだ)、中御門は気分を若返らせたが、次の発想がなく案内を終えて娘と別れると、元どおりテンションを下げた。攻めが続かず、チェンジとなった瞬間だった。
 突然という変化は、攻めが続かないと散発となりやすい。中御門は帰宅後、時すでに遅く、突然、そう思った。

                            完

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