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2017年9月12日 (火)

思わず笑える短編集-39- 汗

 また、暑い季節か…と殿岡は思った。だいたい自分には暑い季節そのものが似合わない…と殿岡は思うのである。殿岡がこう思うのは、何も今、始まったことではない。子供時代から感じていた感覚で、自分は寒い冬向きの人間だな…と気づいたのは、殿岡が物心ついた頃である。その感覚の芽生えには、殿岡の身体(からだ)に起きた一つの大きな事実があった。一定の温度以上、正確に言うなら、摂氏25℃を超(こ)えた段階から吹き出た汗が止まらなくなるのだった。身体に直接、着ける保冷剤を常備している今は、もうその苦労もなくなったが、学生当時の殿岡は、相当な気苦労を余儀なくされた。汗でビショ濡れになったままなら、夏場とはいえ、さすがに風邪(かぜ)をひく。だから、必需(ひつじゅ)品である着がえ用の衣類やタオル、洗剤、水、塩などは、学用品以外に鞄(かばん)へ詰め込んだものだ…と、今になり、ようやく笑える殿岡だった。
 今年も暑い夏が巡ろうとしていた。殿岡には針の筵(むしろ)に座らされるような夏の到来だった。だが、殿岡も馬鹿ではない。暑さ対策は完璧(かんぺき)で、クーラーボックスは申すに及ばず、空冷[空調ではない]システムが整った緊急避難施設が瞬時で分かる電子地図(マップ)は必ず携帯するなど、準備万端で夏に臨んでいたのである。
「フフフ…」
 バトル戦士の殿岡は不敵な嗤(わら)いを浮かべた。殿岡にとって、夏は身体を解かす怪物以外のなにものでもない最大のターゲットだった。

                          完

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