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2017年11月21日 (火)

困ったユーモア短編集-9- 上に立つ人

 人事異動があり、鴫川(しぎかわ)が所属する総務付属室に新しい室長、小魚(こうお)が赴任(ふにん)した。総務付属室は、総務の雑用係のような部署で、まあ、あってもなかってもいいようなところだった。
「このたび赴任しました小魚です。よろしく、お願いいたします…」
 室長にしては下から目線で小魚は就任の挨拶をした。鴫川が知っている今までの室長は上から目線の人ばかりだったから、おやっ? と鴫川は感じた。それもそのはずで、小魚は部下の凡ミスを一手に引き受け、自分のミスとして飛ばされたのである。
「鴫川と申します。よろしくおねがいいたします…」
 何人かが自己挨拶したあと、鴫川は取りあえず窺(うかが)うように挨拶をした。困ったことに、今まで居丈高(いたけだか)に命令されることになれてきた鴫川には、これからどのような態度で下から目線の小魚に対すればいいのかが分からなかった。
「いいえ、こちらこそ…」
 すぐ、小魚は返答した。
「いやいやいや、私こそ…」
 それに、またすぐ小魚が返した。すばやいキャッチボールの投げ合いである。これでは埒(らち)が明(あ)かない。鴫川も困ったが、小魚も困ってしまった。そのとき、昼を告げる職場のチャイムが鳴った。岸辺で繰り広げられた鴫と魚の格闘は引き分けに終わった。上に立つ人は小魚のように要領を得ているのである。

                            完

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