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2017年11月22日 (水)

困ったユーモア短編集-10- 気体と液体

 今年、4月から営業課に配属された明るい性格の蚊取は、困ったことに夏が近づくにつれ、すっかりテンションを下げていた。あれだけハイテンションだった人物が次第にテンションを下げたのには当然、不適な人事異動という理由があった。蚊取は元々、有能な新入社員として総務部で採用された人物だったから、社内の誰の目にも、蚊取の異動理由が分からず、時の人として噂(うわさ)になっていたのだが、そのことを当の本人である蚊取は知らなかった。
「ワッ! 蚊取さんよっ!」
 若いOL達から注目されれば、蚊取としても悪い気はしない。今やそのことが唯一の救いになっていることを、しみじみと蚊取は実感していた。同期入社の虫除(むしよけ)は、蚊取とは逆に営業部から総務部へ異動し、我が世の春を謳歌(おうか)していた。そんな虫除の話を小耳に挟むにつけ、蚊取の気分がいいはずがない。虫除の液体的なベトベトした塗り薬のような上司への応対はOL達の顰蹙(ひんしゅく)を買ったが、蚊取は逆にOL達から同情され、上手(うま)い具合に彼女達を気体的に煙に巻いた。そして、このことが蚊取を総務部へと復帰させ、虫除を元の営業部へ追いやったのだから怖(こわ)いものである。ベトベトした液体的な応対は煙に巻く気体的な応対には敵(かな)わないのだ。

                            完

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