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2018年3月12日 (月)

隠れたユーモア短編集-20- 繰(く)り返し

 生活をしていると、しまった! もう一度…と思える瞬間が誰にも出来る。ただ、そのときにはすでに遅(おそ)く、時の流れは待ってはくれない。この後悔(こうかい)を未然に防いでくれるのが、同じことの繰(く)り返しである。ただ、この繰り返しには新しさへの変化が余り望めない・・というデメリット[不利益(ふりえき)]がある。それも当然で、過去にやったり起こったことが、同じように繰り返されるだけだからだ。半面、過去の繰り返しは、現在の危険が未然(みぜん)に防げる・・というメリット[利益]もある。もちろんそれは、やったり起こったことのいい場合に限られるのだが…。
 今年も一年が終わろうとしていた。
「また、一年が過ぎたか…」
 クリスマスツリーを取り外し、迎春準備の飾りつけを店頭にしながら、店主の麦川(むぎかわ)は深い溜め息を一つ吐(つ)いた。毎年、同じ繰り返しで、少しの変化もない。ただ、年によっては多少の変動はあるものの、そう変化がない店の安定した収入に心配も苦もなく、ここ数十年、やってこられたのも事実だった。
 飾りつけを終わると、これも毎年、繰り返される年末の支払いが待っていた。ひと月ごとで決済出来なかった帳尻合わせの支払いである。チェッ! これがないとな…と、陰気に思いながら、麦川は支払先へと向かった。
 支払いが滞(とどこお)りなく終わった頃、辺りはすでに薄闇になり、夜が迫っていた。へへっ! 美味(うま)い年越し蕎麦(そば)が待ってるぜ…と麦川は陽気に舌なめずりしながら店へと帰りの歩(ほ)を早めた。
 繰り返しには喜怒哀楽の隠れた要素が含まれている。

                            完

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