« 隠れたユーモア短編集-91- [働く]ということ | トップページ | 隠れたユーモア短編集-93- 人生マラソン »

2018年5月23日 (水)

隠れたユーモア短編集-92- 弱い者

 弱い者は虐(しいた)げられ、這(は)い蹲(つくば)ってこの世を生きていかなければならない。強い者に対してはビクビクと震(ふる)え、その動きに押し殺されないよう隠れて暮らすのである。
 受けてもいない介護保険料を年金から引かれる年齢となり、元岡の暮らし向きは一層、深刻なものとなっていた。65才から介護保険料を月々¥7,500も引かれ、いよいよ生活は困窮(こんきゅう)の粋(いき)へ入ろうとしていたのである。国の介護保険料徴収による弱者切り捨ては、隠れた牙(きば)で国民を襲おうとしている…と、元岡は無性に腹立たしくなっていた。なにが公共の福祉だっ! と大仰(おおぎょう)に怒れるのである。高齢化しているとはいえ、介護保険料を少なくできる財源確保は必ず出来るはずだっ! せめて介護を受けていない者は減額しろっ! …と、元岡は諄(くど)く思った。無駄な財源は必ずあるはずで、俺のような弱い者を苛(いじ)め、永田町[国の中央官庁街が犇(ひしめ)く都心の町]は何が面白いんだっ! と、またまた元岡は怒れた。そのとき、だった。
「ちわぁ~! 蛸末(たこすえ)食堂ですっ!!」
 電話で頼んでおいた出前のチャーハン定食が届(とど)いたのである。元岡は怒りを忘れ、急いで玄関へと急行した。蛸末食堂のチャーハン定食はチャーハン+醤油ラーメンで、これがなかなかどうして、安価な上に美味(うま)かった。加えて、今月はサービス月間で、ギョーザが一人前、無料サービスで付いていた。店員に支払いを終え、イソイソ・・と元岡は美味そうにチャーハン定食を食べ始めた。元岡は介護保険料のことなど完全に忘れていた。弱い者は単純なことで生活の困窮といった政治への怒りを忘れる傾向があるようだ。

         
                  完

|

« 隠れたユーモア短編集-91- [働く]ということ | トップページ | 隠れたユーモア短編集-93- 人生マラソン »