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2018年5月17日 (木)

隠れたユーモア短編集-86- 手違い

 物事には手違いがついて回る。その何げない手違いには、簡単に不注意で片づけられやすいミスであっても、隠れた原因が潜(ひそ)んでいることが多い。
 多毛草(たけくさ)部品工業という、とある工場での出来事である。朝から梱包(こんぽう)された部品入りの段ボール箱がベルトコンベアに乗せられ、物流そのものの姿で次から次へと流れていた。出荷で積み込まれるトラックは、品よく言えば年代もの、悪く言えば今にも壊(こわ)れかけたポンコツの四輪だった。この日に限り、いつもの運転手は休んでおり、運転する鹿口は煎餅(せんべい)好きの少年のような若者だった。
「場長(じょうちょう)、頼りないあんなのに運転させていいんですかっ!?」
「んっ? ああ、鹿口君か…。彼は煎餅好きだが腕はいいそうだ」
 不意に配送課長の角笛(つのぶえ)に声をかけられ、場長の神僕(かみしもべ)は驚いて振り向いた。
「そうですか? …」
 角笛は運転席で煎餅を齧(かじ)る鹿口を訝(いぶか)しげに見ながら、呟(つぶや)くように返した。
 出荷先から手違いの電話が入ったのは次の日だった。
「君ねぇ~。確かに部品は発注したよっ! 部品は発注はしたが、うちでは煎餅は発注しとらんっ!」
 この手違いは鹿口の煎餅好きに隠れた原因があったのである。鹿口はお気に入りの煎餅を配送の途中でいつも寄る煎餅屋で大量に買っていた。その煎餅が梱包された段ボール箱が数箱、混ざっていたのである。鹿口はその手違いに工場へ戻(もど)ってから気づいたのだった。
「まっ! いいか…」
 原因は、能天気(のうてんき)な鹿口の性格にあった。作業員が食べるだろう…ぐらいに鹿口は軽く考えた。その結果、手違いは苦情の電話で笑えなくなってしまったのである。笑えない鹿口の手違いだが、やはり笑える話ではある。

         
                   完

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