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2018年5月 1日 (火)

隠れたユーモア短編集-70- 奇妙な動き

 人は時折り衝動(しょうどう)的な奇妙な動きをする。この奇妙な動きには、隠れた思いつきが存在する。思いついて短絡(たんらく)して動いた結果が奇妙な動きとなる訳だ。こうなるのには心理面の弱りとか屈折した背景が左右する場合が多いが、普段でも不意に唐突(とうとつ)な思いに駆られ、奇妙な動きに走ることはある。ここに登場する七谷(ななたに)の場合がそうだった。
 ここは、とあるオープン撮影のロケ現場である。
「いやぁ~、そんな動きはしないと思うんですがねぇ~」
「やかましいっ! 私がそれでいい・・と言ってんだから、それでいいだろうがっ!!」
「しかし…」
「五月蝿(うるさ)いっ!!」
 セカンドの助監督はいらないことを言い、ワンマン監督のご機嫌を損ねてしまった。多くのスタッフは、お気の毒に…といった眼差(まなざ)しで助監督を見た。助監督が監督に忠言したのは、主役の超有名俳優が一匹の蜂(はち)を格好よく一刀両断(いっとうりょうだん)にしようとして失敗し、逃げ惑(まど)う演技だった。助監督の言い分は、そんな逃げ方では喜劇になってしまう・・というものだった。監督はリアルさを出したい…と思っていたから、その演技が妙な動きに映(うつ)っていなかったのである。一方、刀を頭上で振り回しながら逃げ惑う姿は、とても強い主役には見えない・・というのが、助監督の主張である。3の線の映画ではないだけに、視聴者に笑いを与える演技は、いかがなものか・・との助監督としての精一杯の主張だった。
 撮影は監督の撤収命令で中止となり、翌日、撮影は再開されたが、セカンドは変えられ、昨日の助監督の姿はロケ現場にはなかった。干されたか? …と、誰もが思った次の瞬間、その助監督は主役に抜擢(ばってき)され、時代劇の武士として登場した。銀幕デビューしたのである。干されたのは超有名俳優の方で、逃げ惑う奇妙な動きの演技が、新たな時代劇俳優を呼ぶという監督の妙な動きを呼んだのだった。

       
                   完

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