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2018年5月15日 (火)

隠れたユーモア短編集-84- 迷う

 社会生活を続けていると、いいコトや悪いコトなど、迷う諸事がいろいろと起こってくる。この迷いには、隠れた個人差がある。それは個々の考え方の違いにより生じる差だ。
「川畑さん、どうされます?」
「なにをっ?」
 とある会社の昼休み時間である。社員食堂の食券機を前に田所(たどころ)は悩んでいた。突然、訊(き)かれた先輩の川畑には田所が訊(たず)ねた意味が理解できず、訝(いぶか)しげに返した。
「A定かB定か、はたまた単品の定食か・・ですよっ」
「馬鹿だな、お前はっ! そんなの好きにすりゃいいだろっ。迷うほどのこっちゃねえよっ!」
「でもねぇ…どちらも捨てがたいんですよ」
「食いてぇ~のかよっ? なら、両方、注文すりゃ、いいだろうがっ」
「そんなには食えないです…」
「だったら、どちらかにしろ。明日(あす)、別のでいいだろうがっ」
「はあ、それはそうなんですが…」
「ああ、もうぅ!! 覇気つかんやつだっ! 好きにしろっ! 昼休み、過ぎちまうぞっ」
 川畑は膨(ふく)れ面(づら)で配膳台へ向かった。この川畑は迷わない男、いや、決断する男とだった。結局、田所が課へ戻(もど)ったのは昼休みが終わるギリギリの時間で、迷った挙句(あげく)に素蕎麦を一杯、腹へ流し込んだだけだったのである。
 ある日、契約先の会社へ向かった二人は、会社への帰り道で二手(ふたて)に分かれた。
「俺は、間に合うかどうか分からんが、とにかく走るっ!」
「僕は、次のに乗ります」
 迷いに迷い、田所は次の電車にした。
「そうかっ!? じゃあなっ!」
 この迷う迷わないの差が二人の明暗を分けた。川畑は駅まで走り、次の電車へ滑り込むように乗って帰社した。次の電車は事故により運転が見合され、数時間の遅(おく)れとなった。田所が会社へ戻ったとき、すでに夜の八時は疾(と)うに過ぎ、社内は静まり返っていた。
「どうされました、田所さん? こんな時間に…」
 巡回していた顔見知りの警備員が、不審(ふしん)な顔つきで田所に訊ねた。
 迷うと、こうした隠れたトラブルに出食わすことが多いのは確かなようだ

        
                   完

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