« 逆転ユーモア短編集-9- 建て前 | トップページ | 逆転ユーモア短編集-11- しまった! »

2018年6月10日 (日)

逆転ユーモア短編集-10- 斜(はす)に構(かま)える

 斜(はす)に構(かま)える・・とは、物事の本質を違った角度から捉(とら)えて考えるという、ある意味での逆転の発想である。
「あ~あ…」
 朝から溜め息混じりに呟(つぶや)くのは、この寺の住職で老僧の空腹だった。空腹は名前こそ笑える僧名ではあったが、これでもどうしてどうして、かの有名な仏師、円空の流れを汲(く)む遠い遠ぉ~~いお弟子? には違いなかった。とは、空腹の勝手な自説だったが、その空腹が朝から溜め息混じりに悩んでいたのである。その訳は本堂横の書庫から夜な夜なポコポコ…と音がするためだった。それが日々、続いたから、空腹は眠れなくなった。これでは朝のお勤(つと)めもままならない。いったい何の音じゃ? と気になった空腹はある夜、こっそりと書庫を覗(のぞ)いてみることにした。すると驚くことに、十数匹の子狸と一匹の親狸がポコポコと腹鼓(はらつづみ)を打っているではないか。どうも腹鼓の練習をしているようじゃ…と空腹には思えた。さしずめ、あの大きい親狸が先生といったところじゃな? …と思いながら寝所(しんじょ)へと戻(もど)った。戻って床(とこ)へついてみると、どこから入ったんじゃ? とか、なんとか入れぬようにせずば勤行(ごんぎょう)にのう… といった雑念が生まれ、益々、目が冴(さ)え渡った。これでは、いかん! と空腹は、やおら身を起こすと本堂へ籠もり、座禅を組むことした。そしてしばらくしたとき、空腹の蟠(わだか)りまは嘘(うそ)のように消えていた。
『そうじゃ! 人に人生があるように、やつらにも狸生(たぬせい)があるんじゃった…』
 斜に構えてそう思うと、不思議と腹鼓の音が気にならなくなったのである。
 物事を逆転し、斜に構えて捉えることも大切だ・・というお話である

        
                   完

|

« 逆転ユーモア短編集-9- 建て前 | トップページ | 逆転ユーモア短編集-11- しまった! »