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2018年6月16日 (土)

逆転ユーモア短編集-16- なにがなんでも…

 一つのことに意固地(いこじ)となり、なにがなんでも…と焦(あせ)って重く考えると、首尾(しゅび)よくコトが運ばなくなることが多い。こういうときは、思考を逆転して一服の茶を啜(すす)る・・などといった心に落ち着き、ゆとりをもたせてからふたたび始めると、スゥ~~っとコトが終わってしまうものだ。
「樋代床(ひよとこ)さん、そう目くじらを立てられず、明日にされればいかがですか?」
 昼過ぎから始めた数値合わせの作業が思うに任(まか)せず、樋代床は意固地になっていた。それを見かねた新入社員で後輩の尾多福(おたふく)が声をかけたのだ。
「いや! これだけはやってしまうよっ!」
 分担した尾多福の方は疾(と)うに終わり、帰り支度(じたく)を始めていた。課長以下、課員もすべて帰り、営業課内には二人以外、誰も残っていなかった。樋代床からすれば、新入社員に先を越され、面目(めんもく)丸つぶれといったところだ。それに尾多福の言葉は嫌味に聞こえなくもない。ここは、なにがなんでも…やってしまわねば格好がつかなかった。
「じゃあ! 僕はお先に失礼しますっ!」
「ああ、お疲れっ! ご苦労さん!」
 笑顔でそう返したものの、樋代床の内心は腹立たしく震(ふる)えていた。その腹立たしさは尾多福にではなく、不甲斐(ふがい)ない自分に対しての憤(いきど)りだったのである。
「さっき買った缶コーヒー、置いときますねっ。じゃ!」
 尾多は福格好よく去っていった。デスク上に置かれた一本の缶コーヒー。それに目を留(と)め、樋代床は、まっ! 飲んでからにするか…と、ひと息入れることにした。急いでも合わないものは合わない・・という諦(あきら)めの心と、ここは気分も新(あら)たに…と思えたからだ。この逆転の発想が、僅(わず)か十数分後には数時間かかっても合わなかった計算をピタリ! と合わせたのだから不思議といえば不思議だった。
 まあ、なにがなんでも…と力んで重くならず、人生は軽くいくと上手(うま)くいくようだ。^

       
                   完

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