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2018年9月16日 (日)

泣けるユーモア短編集-8- 餅々(もちもち)した話

 先だって、こんなことがあったそうだ。とある老舗(ろうほ)のご隠居さんは餅(もち)が好きで、いつも居間の棚(たな)の中へ餅を隠していた。それもただの餅ではなく、中に甘餡(あまあん)が詰(つ)まった餅か甘~ぁいボタ餅だったという。甘い物好きなんだな…と私は聞いて思ったが、次の瞬間、別に餅じゃなくても、甘~~ぁい餡が詰まった饅頭(まんじゅう)でもいいんしゃないか…とは思えた。まあ、それはさて置き、話を聞いていると、それが笑いながら泣ける話だった。というのも、そのご隠居さん、得意先からお中元で貰(もら)ったボタ餅の詰め合わせを嬉(うれ)しそうに棚に隠し、さて、いよいよ誰もいなくなった離れで、今をおいて他にないとばかりにムシャムシャと食らい始めたそうだ。最初のうちはよかったが、遠くから店の者が近づく足音がしたから、さあ慌(あわ)てたのなんの。よく噛(か)みもせず思わずゴクリッ! とやっものだから堪(たま)らない。餅が喉(のど)に閊(つか)え、帰らぬ人となってしまった。家の者は俄(にわ)かなことに涙、涙と泣けるはずだった。ところがこのご隠居さん、なかなかしぶとく、しばらくすると、また息を吹き返した。そして言った言葉が、『お前のような餅好きは冥土(めいど)においておく訳にはいかん! そうじゃ』だ。家人一同はそれを聞き、泣き顔から笑い顔になったという。なんとも泣けるようで笑える餅々した柔らかい話だった。

        
                  完

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