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2018年9月15日 (土)

泣けるユーモア短編集-7- お悪いことが… 

 偶然(ぐうぜん)、他人の不幸に出くわすことがある。この場合、普通は紋切(もんき)り型(がた)で、お悪いことが…とかなんとか、お悔(くや)みを申し添(そ)えるのが常識だ。その言葉がスンナリと飛び出す人は相当、徳を積んでいる・・と言ってもよく、この辺(あた)りに人の内面が観て取れる・・ということになる。もちろん、よく知っていて付き合いの深い知己(ちき)の人なら、ぅぅぅ…と、思わず涙劇(るいげき)に及ぶ訳だが、まあ普通は、そこまで! には至らない。時折り、それほどの知り合いでもないのに咽(むせ)ぶ人もいるが、これはもらい泣き、というやつで例外だ。
 とある家へ弔問(ちょうもん)に訪れた人と、家人の会話だ。
「この度(たび)は誠(まこと)にお悪いことが…」
「はあ?」
「いや、ご母堂(ぼどう)さまが…」
「どちらの?」
「いえ、お宅の…」
「いつ?」
「いや、先だって…」
「ははは…馬鹿なっ! うちの母はピンピンしておりますよっ!」
「ええっ!!」
「その話、どこでお聞きになりました?」
「向こう三軒(さんげん)隣(どな)りの尾豚(おぶた)さんですが…」
「尾豚さん? はて? 私は知りませんが…」
「そら、そうでしょ。ここから遠い私の町内の方ですから…」
「その方が、なんて?」
「『なにか、お悪いことが出来たそうよ』と…」
「いつ?」
「いや、先だって…」
「ははは…それは入れ歯ですよ、入れ歯。ははは…」
「どういうことです?」
「うちの母が敬老会で、ついうっかり入れ歯を無くしましてね」
「それが、お悪いことが…ですか?」
「私に訊(き)かれても…。まあ、入れ歯は、すぐ出てきましたがね」
「はあ…」
「いや、実はですね。敬老会で婦人会が奉仕の散らし寿司が振る舞われたんですがね。食べたあと、母は洗面所で洗ったそうなんですが、ははは…」
「はあ…」
「うっかり、他の人が自分のだと思って持って帰られたようで…」
「それが、お悪いことが…ですか?」
「…でしょうね、たぶん。話に尾鰭(おひれ)がついたんだと思います」
「そうでしたか…」
「いや、どうも。遠路はるばる来ていただいて、お悪いことで…」
「いやいや、それならよかった! ははは…」
 お悪いことが…は、時折り、お悪いことではなくなるのだ。

       
                    完

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