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2018年9月20日 (木)

泣けるユーモア短編集-12- 空(そら)

 空(そら)が、ははは…と笑うと快晴になると聞く。逆に、ぅぅぅ…と泣けるようなことになれば雨が降り出すということらしい。もちろん場合によっては雪、霙、霧、霰などと、いろいろな変化となるそうだが、真偽(しんぎ)のほどは定(さだ)かではない。定かではないが、どうも間違っているとも思えないようなことが起こるらしい。
 とある市役所の風景である。
「羽衣さんに頼めば、いかがですか、課長」
「羽衣か…。あれはいつも空を舞っているように優雅(ゆうが)だからなあ…。君、ダメかい?」
「いや、僕は…」
 三保(みほ)に振られた松原(まつばら)としては、いい迷惑である。それでなくとも、予算書の完成が急かされていた時期だけに、そんな余裕はなかった。
「ははは…空を見なさいっ! 快晴の青空じゃないかっ!」
 それと、どういう関係がっ? と訊(き)こうとした松原だったが、思うにとどめた。そんな松原の気持が天に伝わったのか、それまで雲一つなかった空に暗雲(あんうん)が浮かび、漂(ただよ)い始めた。
「妙だなぁ~? 今日は一日晴れると天気予報が言ってたんだが…」
 三保は訝(いぶか)しげに窓ガラスに広がる空を眺(なが)め、言うでなく呟(つぶや)いた。
「どうかされましたか?」
「いや、なに…空がな」
「空? 空、ですか?」
「いや、もういい、ははは…」
 三保が笑った途端(とたん)、呼応(こおう)するかのように、空の暗雲がスゥ~っと消え去った。
「おおっ! 空が…」
 三保は、ふたたび独(ひとり)りごちた。
「どうかされましたか?」
「いや、なに…空がな」
「空? 空が、ですか?」
 松原は窓ガラスに浮かぶ空を怪訝(けげん)な表情で見上げた。そのとき、天女(てんにょ)のように可愛い乙宮(おとみや)がお茶を淹(い)れて運んできた。
「いや、もういい、ははは…」
 三保は思わず前言(ぜんげん)を打ち消し、口を噤(つぐ)んだ。
「課長、私、結婚することになりました…」
「ええっ!」「えっ!」
 乙宮が発した突然の言葉に、二人は異口同音に驚いた。その途端、ふたたび空に暗雲が立ち込め、ぅぅぅ…と泣けるような小雨が降り出した。

      
                   完

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