泣けるユーモア短編集-36- 焦(あせ)り
物事をしようとするとき、焦(あせ)りは禁物(きんもつ)である。どんな些細(ささい)なことでも焦れば、ぅぅぅ…と泣ける失敗を招(まね)きやすくするからだ。誰も、ぅぅぅ…と泣ける失敗はしたくない。
とあるレストランの厨房(ちゅうぼう)である。
「料理長、最近の鴨羽(かもば)さん、随分、盛りつけが慎重(しんちょう)になられましたねっ!」
「そりゃ君さぁ~、ああいうことがあったろ? 面子(メンツ)丸つぶれだったからさぁ~」
猪尾(いのお)は当然とばかりに、新米コックの戸坂(とさか)に返した。
「ちょいとした焦りだったんですよね。客に直接、運ばれたのが悪かったんですねっ、お得意ということでっ!」
「客が込んでいた上に、ウエイトレスが生憎(あいにく)休んで数が少なかった・・ということもあるしなっ!」
「ええ、そうでした。確か、皿を二枚重ねで出されたんでしたねっ!」
「鴨羽さんは私の大先輩なんだし、本当は料理長なんだぜ。腕もいいしな…。料理の失敗じゃないから泣ける話だが、きっと、自分を許せんのだろう…」
「ですかね…。焦りは禁物ですっ! あっ! 洗い場を片づけないとっ!」
焦ったばかりに、戸坂は滑(すべ)って躓(つまず)いた。
「お前も焦りは禁物だなっ!」
戸坂はフロアで打った脚(あし)を摩(さす)りながら苦笑(にがわら)いをした。
完
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