« 泣けるユーモア短編集-37- 邪魔 | トップページ | 泣けるユーモア短編集-39- いつもの »

2018年10月16日 (火)

泣けるユーモア短編集-38- 雛祭(ひなまつ)り

 雛祭(ひなまつ)りが男子にとってぅぅぅ…と泣けるほど居心地(いごこち)が悪い日なのか? といえば、実は案外そうでもない。まあ、女子、取り分け子供の場合、女子が威張(いば)れる日であることには違いないのだが…。しかし、やはり男子、取り分け子供の場合、居心地が悪い・・という状況に変わりはない。甘酒・・これを女子から、せしめるには、お呼ばれ・・という雛飾(ひなかざ)りの前で、女子達がどうのこうの…と言い合う会話に付き合い、その会に招(まね)かれる・・所謂(いわゆる)、[お招き]という一(いち)行程(こうてい)を経(へ)なければならないからだ。家の母親におねだりし、甘酒を…などという男子の甘い考えは、「あんたっ! 男の子でしょ!!」とかなんとか、お小言(こごと)を頂戴(ちょうだい)するのが関の山なのである。
 とある家の和間に飾られた豪華な雛壇(ひなだん)の前で、女子小学生が集まり雛祭りを楽しんでいる。その中に一人、借り物の猫のように小さくショボくなっている男子小学生がいる。小さくならねばならないのなら招かれねばいいのだが、まあ仕方なく…招かれたようだ。
「♪灯りをぉ~つけましょ、雪洞(ぼんぽり)にぃ~♪」
 女子小学生達が歌い、仕方なく小声で男子がお付き合いで歌う。これも、甘酒と菱餅(ひしもち)を食べるためだっ! という気分の歌いようである。
「お母さぁ~~ん! 甘酒はっ?!」
「はいはい! 持って来ましたよっ!」
 男子小学生は、してやったりっ! とガッツポーズを心でする。当然、顔はニヤけている。ところがどうした訳か、置かれた盆の上の茶碗が人数分(にんずうぶん)より一人分、足りない。
「お母さん、ひとつ足りないわよっ!」
「あらっ! ごめんなさいっ! もうないのよぉ~~!!」
 招かれた家の母親の声が男子小学生にとっては、なんともやるせなく、ぅぅぅ…と泣けるように聞こえる。当然、自分は飲めない・・と予想できたからだ。ところが、どっこい! である。
「お母さん、もう一つ、お茶碗。皆(みんな)のを少しずつ、
ければいいじゃないっ!」
 この女子小学生の声が、男子小学生には、なんともぅぅぅ…と泣けるように聞こえた。
 長閑(のどか)だった昭和40年代の雛祭りの一光景である。時代は移ろえど、こういうことは今もありそうだ。^^

          
                   完

|

« 泣けるユーモア短編集-37- 邪魔 | トップページ | 泣けるユーモア短編集-39- いつもの »