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2018年11月

2018年11月30日 (金)

泣けるユーモア短編集-83- たちどころに

 たちどころに・・という言葉がある。瞬(またた)く間(ま)に・・という意味だが、別の言い方だと、疾風(はやて)のように・・となる。孰(いず)れにしろ、変化(へんげ)が巧(たく)みな意味として、忍術やマジックなどの特異(とくい)な技(わざ)として多用されることが多い。まあ、例外もなくはないのだが…。
 とある新人歓迎会の一場面である。最初は正気(しょうき)を保っていた面々の様相(ようそう)も、次第にヘベレケ状態に変化しつつあった。
「おいっ! またアイツ、いないぜっ!」
「かなりピッチが早かったから、酔い潰(つぶ)れたんだろ…」
「ははは…そんなことあるかっ。ヤツがなんて呼ばれてるか、お前、知らないだろ?」
「ああ。俺は余り飲まないからなっ。なんて呼ばれてんだっ?」
「ミスターたちどころ、だっ!」
「たちどころ?」
「ああ、たちどころ。疾風のように早く消え去るからさ。それも飲むだけ飲み、食うだけ食ってだっ!」
「ははは…、そうなのか?」
「お蔭(かげ)でコッチは、泣けるのさっ!」
「支払いか。ははは…呼ばなきゃ、いいだろ?」
「飲み仲間は、なっ。だが、例会は、そうもいかんだろ?」
「ああ、それはそうだっ…」
「いつも見張ってんだが、ダメなんだな、コレがっ。今回もだ…」
「なるほど…」
 たちどころ・・で、人は泣けることもあるのだ。

         
                  完

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2018年11月29日 (木)

泣けるユーモア短編集-82- ボケナス

 ボケナス・・とは人を罵倒(ばとう)する汚(きたな)い言葉だが、語源を紐解(ひもと)けば、外皮の色つやの褪(あ)せたナス。 ぼんやりした人を指(さ)す・・とある。まあ、ボケナス! などと怒られ、ぅぅぅ…と泣けるようなことにはなりたくないものだ。
 とある法律事務所である。所長と若手弁護士が言い争っている。
「なにを言っとるんだっ、君はっ!!」
「いえ! だからナニがコウなりましたから、アレはソウなったというようなことでして…」
「アレがソウだとっ! このボケナスがっ!! アレはナニにしなきゃいかんだろうがっ!!」
「はい…。しかし、コウなりましたから、如何(いかん)ともし難(がた)く…。で、ソウなりまして…」
「なにがソウだっ!! この、ボケナス!! ソウじゃダメじゃないかっ! いいかねっ! なにがなんでもアレはナニにしなきゃいかんのだっ!」
「なにがなんでもですかっ!?」
「ああっ!! なにがなんでもだっ!!」
「死んでもですかっ!!」
 互(たが)いに意固地(いこじ)となり、ついに口喧嘩(くちげんか)の様相(ようそう)を呈(てい)してきた。
「しっ、死んでもとは言ってないだろっ!」
「しかし、所長は、なにがなんでもと…」
「なにがなんでも・・は、言葉のアヤだよっ、君。ははは…」
 ボケナスは言葉のアヤで美味(おい)しいナスに生まれ変わるのだ。

         
                   完

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2018年11月28日 (水)

泣けるユーモア短編集-81- 決められない

 決めたいときにはビシッ! と決めたいものだ。ところが溶岩(ようがん)はドロドロ熔(と)けて固まらない男で、ビシッ! と決められなかった。
 一人の男が、とある街路を歩いてきた。
「また、あんたか…」
 溶岩の名を口にするのも嫌なのか、いつも進路を妨害(ぼうがい)されている非難(ひなん)は、あんた・・呼ばわりをした。
「はあ、どうもすいません…。ただ、私は交通ルールを守っているだけなんですが…」
「そりゃそうだろうが…。歩道が左側にあるだろ?」
「でも、人は右です。ここは日本ですから。学校でそう教(おそ)わりました」
「…まあな。警察でも、そう言うだろうが…」
「どうなんでしょうね? こういう場合は?」
「そんなこと、俺が知るかっ!」
 溶岩に訊(き)かれた非難は、思わず熱くなった。
「ですよねぇ~。ずっと決められないんですよ、私」
 溶岩は泣けるような声で言った。
「悩(なや)むほどのことでもなかろうがっ! 警察で訊けよっ!」
「はあ…」
「実は俺も決められないんだ。今日の昼、蕎麦にするか、うどんにするか…」
 非難も泣けるような声で言った。
「そんなこと、私、知りませんよっ!」
 非難に訊かれた溶岩は、思わず熱くなった。
「悩(なや)むほどのことでもないでしょうよっ! 両方、食べなさいよっ!」
「ああ…」 
 決められないのは、実にもどかしいのである。

         
                   完

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2018年11月27日 (火)

泣けるユーモア短編集-80- ノルマ

 ノルマ・・今の時代、この言葉もすでに日本語となりつつある外来語である。ノルマを達成する・・とかの意味で使われるが、要は、自分に課せられた仕事や持ち分の処理量を指(さ)す。ノルマを達成しないと、当然ながら支給額が減ったり、怒られたりして、ぅぅぅ…と泣けることになる。
 とある設計事務所である。
「そろそろ出来ましたか、打身(うちみ)さん?」
 所長の主任設計技師、捻挫(ねんざ)が、デスクから重そうに腰(こし)を上げた。
「はぁ~、一応、私のノルマですから、出来てはいるんですが…」
 打身は奥歯に物が挟(はさ)まったような言い方で暈(ぼか)した。
「出来てりゃいいんですよっ、出来てりゃ! 先方に見せりゃいいだけの話なんですから…」
 捻挫は、りゃ・・を多用して言った。
「それが今一、納得いかないんですよねぇ~、イメージがっ! 僕的にはっ!」
 打身は持論(じろん)を展開した。捻挫はイメージなんか、どうでもいいんだっ! ノルマ、ノルマ!… と思った。そこへ戻(もど)ってきたのが、外渉(がいしょう)で出ていた皹(ひび)である。
「いゃ~、参りましたよ、所長!」
「どうしました? 皹さん」
「どうしましたも、こうしましたもありません! キャンセルですっ!」
「ええぇ~~~!! そ、それじゃ、今月の目標ノルマが達成出来ないじゃないですかっ!」
「私にそんなこと言われても…」
「それは、そうなんですが…」
 捻挫は泣けるような顔で語尾を濁(にご)した。事務所の賃貸(ちんたい)料が捻挫の脳裏(のうり)を過(よ)ぎったのである。と、そのとき、打身が突拍子(とっぴょうし)もない嬌声(きょうせい)を発(はっ)した。
「あっ、ああぁ~~っ!! それOKです~~ぅ!」
「OKって、君(きみ)!」
 捻挫は訝(いぶか)しげに打身を窺(うかが)った。
「今の電話、気が変わったって伝えてくれって…」
「オオッ!! オオ、オオッ!」「ヨッシャ!!!」
 捻挫と打身は同時にサッカーでゴールしたようなガッツポーズをした。ひとまず、今月のノルマは達成された訳である。とりあえず、事務所の傷は癒(い)えた。そのとき、点(つ)けっぱなしの事務所のテレビがガナった。
『アディッショナル・タイム!! 出場を決める劇的なっ! サヨナラ・ゴォ~~~~ルッ!!』
 アナウンサーがマイクを引きちぎるような声で絶叫(ぜっきょう)した。三人の目が思わずテレビ画面に注(そそ)がれた。
「ノルマは達成されたか…」
 捻挫が悟(さと)った僧(そう)のような声でポツリと呟(つぶや)いた。
 まあ、ノルマとは、こんな感じで喜怒哀楽(きどあいらく)を与えるものなのである。^^

      
                   完

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2018年11月26日 (月)

泣けるユーモア短編集-79- 現役

 現役といえば、今も活動している状態である。当然、その逆は、退役とかOBと呼ばれる存在だ。お金でも使われなくなった旧札(きゅうさつ)や硬貨は、すでに現役ではない。人なら現役でなくなっても、まあ監督とかコーチといったスタッフとして活躍する場もあるが、お金の場合はただの紙屑(かみくず)、金属屑でしかない。それがたとえ過去に¥10,000の価値があった札(さつ)だとしても・・単なるゴミなのである。まあせいぜい、古銭商に売買されたりはするのだろうが、それでも遣(や)り取りされる値段は骨董(こっとう)的価値でしかないだろう。と、なれば、現役である状況は、大いに値打ちがあるということになる。
 とある中央省庁である。明日付けをもって定年退官する部長の出顎(であご)が庁舎を挨拶回りしている。
「お疲れさまでした。いよいよ明日でお別れですなぁ、出顎さんっ!」
「いやぁ~どうも…。奥目(おくめ)さんには何かとお世話になりましたっ!」
 出顎は部長仲間の奥目に手を差し出し、笑顔で握手を求めた。二人は数年の年の違いこそあれ、古くからの飲み仲間として付き合ってきた間柄(あいだがら)だったのだ。
「ははは…私だって現役は、もう数年ですよ。その節(せつ)は、よろしくっ!」
 何をよろしく? なのかは知らないが、奥目は握手をしながら意味不明な言葉を吐(は)いた。
「分かりましたっ! その節は…」
 出顎にはそれが分かるのか、軽く応諾(おうだく)した。
 現役を一端(いったん)引く出顎だったが、すでに新しい現役復帰への舞台は用意されていた。その舞台への根回しを奥目は暗(あん)に言ったのだ。どこかで聞いたような話ではある。^^
 現役後、ただの人となり果てる人々にとって、ぅぅぅ…と泣ける羨(うらや)ましい現役話だ。

        
                   完

  ※ 旧札、旧硬貨は金融機関で現行通貨と換金すれば、価値は旧通貨と同じように使えますから悪しからず。^^

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2018年11月25日 (日)

泣けるユーモア短編集-78- 青春

 青春はいい! 実にいいものだ。誰しも人生に一度だけ経験する貴重な時代である。これをおろそかにすると、一生を棒に振ることになる。楽しんで学び、そして汗して笑い、悩んで、泣いて・・と、激しく生きることが出来る時代なのだ。なんといっても、若いから体力が充実している・・というのが一番の強みだ。ところが、ここに糠星という、なんとも草の名のようにずぅ~~っと青春をやっている、なんともしぶとい男がいた。この男、泣けるようなドジな男だったが、ドジっても、またドジっても、めげずに青春を生き続ける男だった。要は、何事にも動じない鉄の男、いや、刃金(ハガネ)のような男だったのである。
「ははは…、そりゃ僕ですから失敗もしますよ、ははは…」
 糠星は失敗して当然! とでもいう顔で、軽く笑った。それを聞いた上司の芒(すすき)は、秋のような枯れた目つきで恨(うら)めしげに糠星を見つめた。芒にすれば、『こんな男に任(まか)せた俺が馬鹿だった!!』という泣けるような気分なのだ。そんな気持とは露ほども知らず、この春、還暦(かんれき)を迎えた糠星は、相変わらず青春をひた走っていた。会社の定年制が廃止され、糠星の青春は、まだまだ続くように社内の誰もが思っていた。
「まっ! 仕方ありません。次は頼みますよっ、糠星さん! 次はっ!!」
 芒は泣けるような諦(あきら)め声で、キッパリ! と弱く言い切った。内心は、『フンッ! 誰がお前なんかに頼むかっ!』である。そんな気持とは露ほども知らず、糠星は、やはり、青春を大らかにひた走っていた。
 青春とは・・自分は泣けず、他人が泣ける時代なのかも知れない。

       
                   完

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2018年11月24日 (土)

泣けるユーモア短編集-77- 内容

 モノの内容は大事だ。美人やイケメンであろうと、人柄(ひとがら)という内容が伴(ともな)わないと、これはもう、野球の試合ではないが、アウトっ! と審判のように握った拳(こぶし)を上げ、声高(こわだか)に叫(さけ)ばねばならない。内容は、それほど大事だということだ。もちろん、外面(そとづら)、内面(うちづら)とも内容がいいに越したことはないのだが…。スポーツでも同じで、勝負に勝ち、内容で負けるということがある。むろん、勝つことは大事だが、内容が伴わない勝ち方は、観戦者に毛嫌いされてしまう。第一、自分自身に負けている訳だ。
 骨董好きの二人の会話である。
「ほうっ! なかなか、よさそうなモノを買ったなっ! 鹿馬草(かばくさ)君」
「いいでしょ! 掘り出し物でしてねっ! ははは…少し、値(ね)は張りましたがっ!」
 猪芋(いいも)に褒(ほ)められた鹿馬草は、機嫌のいい声で返した。猪芋は手に取ってそのモノを鑑定するように見た。
「… 待てよっ! 外見(そとみ)はいいが、こりゃ、内容が違うっ!」
「どういうことですっ!?」
 鹿馬草は訝(いぶか)しげに猪芋を窺(うかが)った。
「いゃ~、君には悪いんだが、本物はこんな内容じゃないんだ。コレは土産用の安物(やすもの)だよ」
「ええぇ~~~っ!!」
 鹿馬草は、ショボい泣けるような声で驚いた。
 内容が伴わないと、まあ、こういう話になる。だが、本人がいい内容…と思えば他人目(たにんめ)は関係なく、それが最高の内容だとも言える。

        
                    完

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2018年11月23日 (金)

泣けるユーモア短編集-76- 見返り

 おおよそ、人は多かれ少なかれ物事をした見返りを求める。いや、私はそんなことはなく純粋に…などと思っている人でも、自分でも分からない深層心理の中には、そういった気分が隠れているのだ。だから100パーセント潔白な人はいない・・ということになる。もちろんその逆に100パーセント悪い人もいない・・と言える。
 とある会社の退社時である。
「頑張るじゃないか、川田(かわた)君!」
「これはこれは、飯久保(いいくぼ)さん! そんな訳じゃないんですが…」
「ははは…そんなことはないだろ、ボーナス前でっ!」
「分かります?」
「そりゃ、分かるさ。いつもは我先(われさき)にと退社する君がだよ?」
「ははは…バレましたか。いやぁ~、今回は多めに頂戴(ちょうだい)したいんですよっ! 実は、妻の買物で臨時の出費が…」
「で、頑張って見返りを・・かい?」
「はい、まあ…」
 半月後、社員達にボーナスが支給されたが、残念なことに川田のボーナスは、ぅぅぅ…と泣けるほどだった。それに比べ、日々、頑張り続けた飯久保には倍近くの額(がく)が支給された。
 見返りは、求めるものではない! という教訓だろう。

         
                   完

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2018年11月22日 (木)

泣けるユーモア短編集-75- どっこい!

 人の世はそう甘くない。上手(うま)くいったな…などと軽く考えていると、どっこい! そうは問屋が卸(おろ)さず、小売商は在庫を欠かすことになる。…いや、失敗して泣けることになる。この、どっこい!・・という言葉が使われたとき、結果の変化が多々起こる。
 内平、外川の社長同士の会話である。
「損失が出たそうですね? 内平さん!」
「ははは…どっこい! そんなことはっ!」
「? …と、申されますと?」
 外川は意味が分からず、訝(いぶか)しげに内平を見た。
「餌(え)ですよ、餌。餌をつけないと魚は釣れないでしょ?」
「釣り餌ですか?」
「そうですっ! 釣り餌。損して得取れ・・ってやつですよ、はっはっはっ…」
 内平は恵比寿さまのような福々(ふくぶく)しい笑顔でニンマリと笑った。
「どっこい! これでも縄跳び検定の6級と5級は受かりましたよっ! はっはっはっ…」
「なんです、それは?」
 内平は意味が分からず、訝しげに外川を見た。
「いや、べつに…。それだけの話です」
「それだけの話ですか…。こちらも、それだけの、どっこい! 話ですよ、はっはっはっ…」
 二人は笑って別れた。
 どっこい! は、悪い結果への、いい受け身言葉だ。^^

         
                  完

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2018年11月21日 (水)

泣けるユーモア短編集-74- 我慢(がまん)

 人はグッ! と我慢して、何かを守り、何かを得(う)る・・らしい。もちろん、ジッ! と我慢する場合もあるだろう。いずれにしろ、我慢しないと自分の思い上りを知ることが出来ないようだ。思い上りを知らないと、横着(おうちゃく)で生意気(なまいき)な人間にドンドン堕落(だらく)し、ぅぅぅ…と泣ける奈落(ならく)の底へと落ちていくことになるという。ははは…そんな馬鹿なことはないさっ! 人生は我慢などせず、横着に生きて邪(よこしま)に生きりゃいいのさ・・と言う人もいるだろう。確かに、そういう生き方もある。しかし、その生き方には必ず、落とし穴が待っていて、やはり止めどない奈落の底へと落ちていくそうだ。
 とある小学校である。教室の後ろに立たされた、一人の生徒が我慢できず、教壇の教師に叫んだ。
「先生っ! もうダメですっ! 行かせて下さいっ!!」
「ははは…なにをおっしゃるウサギさん。その声じゃ、まだまだっ!」
 教師は笑顔で全否定した。過去のデータからして、この生徒の限界は、まだまだ…と推測したのだ。
「いや、ほんとに先生!! 今日は、もう…。ぅぅぅ…」
 泣けるような声の生徒は、ついに我慢しきれず、フロアへ崩れるように腰を下ろした。そして次の瞬間、気味(きみ)悪く、ニッコリと笑った。
「どうしたっ! まだまだか?」
 教師は、やはりなぁ…と思ったのか、笑顔でそう返した。
「いえ、僕、ダメでした。へへへ…」
「なっ! なにぃ~~っ!」
 教師は生徒の言葉に、思わずとり乱した。
「へへへ…見事に全部、出ましたっ!」
 誰からともなく生徒達から嬌声(きょうせい)が響きだした。と、同時に、悪臭が教室内に漂(ただよ)い始めた。生徒達は我先(われさき)へと教室から逃げるように走り出た。
「ト、トイレへ走れっ!」
「が、我慢はしたんですが、へへへ…」
「で、出るまで我慢するなぁ~~っ!」
 そう言うと、教師も教室から逃げるように走り出た。漏らした生徒だけが笑顔でフロアに腰を下ろし、余裕の顔で佇(たたず)んでいた。
 我慢には限界というものがあり、それを超えると、やはり泣ける事態に至(いた)るようだ。

         
                   完 

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2018年11月20日 (火)

泣けるユーモア短編集-73- 疣(いぼ)

 あっても困らないが、場所によっては都合が悪いのが疣(いぼ)だ。尾籠(びろう)な話にはなるが、具合が悪いのが肛門部である。痔(じ)が疣状になるもので、ぅぅぅ…と泣けるようなことにでもなれば難儀(なんぎ)することこの上ない。それに比べ、なんとも愛くるしい疣もある。
 とある役場で昼休みをする先輩と後輩職員の会話である。
「これ…格好悪いでしょ? …取ろうと思ってるんですよ」
 後輩職員が片方の耳を指さし、訥々(とつとつ)と言った。
「なに言ってんだ。君の一番のチャームポイントじゃないかっ!」
 先輩職員は後輩を一喝(いっかつ)した。
「そうですか?」
「そうだよっ!」
「そうかなぁ~?」
 そこへ昼の外食を済ませた連中がゾロゾロと帰ってきた。
「もちろんっ! なっ!」
 先輩職員は帰ってきた連中に話を振った。当然のことながら、帰ってきた職員達には皆目(かいもく)、意味が分からない。
「はぁ? 何のことです?」
「疣だよ、疣っ! 疣、疣っ!」
「… …?」
「先輩、そんなに疣、疣って言わなくってもっ!」
「疣の話なんだから仕方ないだろっ!」
「分かりましたよっ! もう、いいですっ!!」
「おお! 分かってくれたかっ! さすがは疣の君だけのことはあるっ!」
 そこまで聞けば、疣の話か…とは、帰ってきた連中にも分かる。  
 それ以降、後輩職員は[疣の君(きみ)]という渾名(あだな)で職員達に呼ばれ、そのことで、ぅぅぅ…と泣ける思いをしているそうである。
 疣ではなく、格好悪い渾名で泣けるのだから世の中とは皮肉なものである。

          
                   完

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2018年11月19日 (月)

泣けるユーモア短編集-72- メンタル

 聞き間違ってもらっては困る。レンタル[賃貸し]ではない。メンタル[心理]の方である。このメンタルというやつは、なかなかに手ごわい。人を悩ませたり泣かせることが多いからだ。
 いつやらも登場した深毛(ふかも)禅寺(ぜんじ)の境内である。
「ほう! やはり、また来られましたなっ!」
 来るのを予期していたかのように、管長(かんちょう)の沢傘(たくさん)が男を出迎えた。男は、これもいつやら登場した男である。
「また、お世話になりますっ!」
「やはり、また動きましたかな?」
「いや、今回は動いてはおらないのですが、モヤモヤした心理面の雑念が…」
「おお!! それは、いけませんなっ! メンタル面のケア~は大事ですからな」
「ほう! 管長も、なかなかの外国通でらっしゃいます…」
「ははは…いろいろと外国の方もお参りされる時代ですからな。日夜、学んでおります」
「管長さまがですか?」
「はいっ! いつぞや、ぅぅぅ…と泣ける大恥(おおはじ)を。この年で、お恥ずかしい限りでございます」
「して、それは、どのような?」
「? 忘れましたな、ははは…」
「メンタルな恥ですか?」
「そうそうそれっ! 外国のお方が本尊を指さされ、『コレッ! メンタル?』とお訊(たず)ねされましたもので、つい、『レンタルは出来ません』と返しましてな。偉い大恥でございました」
「ははは…メンタルは泣ける・・ということですか?」
「メンタルはメンタルで、ですかな。ホッホッホッ…」
 沢傘と男は笑いながら寺の中へと消えていった。
 メンタルは泣けるほど複雑怪奇で、ケア[介護]を要すのである。

          
                  完

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2018年11月18日 (日)

泣けるユーモア短編集-71- 肩(かた)が凝(こ)る

 仕事のし過ぎで首(くび)周(まわ)りが重くけだるい状態だけを肩(かた)が凝(こ)る・・と言う訳ではない。責任がある心理的な重圧を受ける状態も、肩が凝る・・と揶揄(やゆ)して遠回しに言う場合もあるからだ。双方とも、度を越すと過労と言われる症状になり、ぅぅぅ…と泣けることになる。泣けるだけならまだいいが、過労死、自殺という命にかかわる事態ともなれば大問題だ。
 とある二人の知人の会話である。
「どうされました、帆立(ほたて)さん? 最近、元気がないですが…」
「これはこれは、赤貝(あかがい)さん。よく訊(き)いて下さいました。実は最近、ぅぅぅ…と泣けるように肩が凝るんです」
「そら、いけませんな。仕事のし過ぎなんじゃないですか?」
「いや、それなら、まだいいんですがね。実は、コレコレでして…」
「なるほど! コレコレでしたか。そりゃいけませんなっ! コレコレは厄介(やっかい)です」
「何か、いい手立てはありませんか?」
 帆立は赤貝に切々と訴えた。
「まあ、なくもないですが…」
「あっ! ありますかっ!」
「はあ、まあ…」
「どのようなっ!?」
「それはですな。私もですが、握(にぎ)られて食べられることです」
「はあ?」
「詳(くわ)しいことは甘酢(あまず)さんにお訊き下さい。あの人なら美味(おい)しく握ってくれると思います。当然、肩凝りも消える筈(はず)ですっ!」
「そうなんですか? それは、どうも。さっそく、伺(うかが)ってみることにします」
 三日後、ぅぅぅ…と泣けるような帆立の肩が凝る症状は、跡形(あとかた)もなく解え去った。
 帆立の肩が凝る原因・・コレコレは、炊(た)き上がった飯(シャリ)の硬(かた)さにあった。ベトついて、どうにもこうにも、ネタを握れなかったのである。
 まあ、肩が凝るとは、そうしたものらしい。

        
                  完

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2018年11月17日 (土)

泣けるユーモア短編集-70- 風向(かざむ)き

 よくも悪くも、吹く風向(かざむ)きによって物事は変化する。これは見える場合と見えない場合とがあり、『おお! 冷えるっ! 今日の風は強いなっ!』などというのは見える場合で、二国の対戦試合で、『どうも風は今、我が国に吹いているようですねっ!』などと解説されるのは、見えない場合だ。
 とある会員制の超高級レストランである。株で大儲(おおもう)けした投資家がカウンター席に陣取っている。カウンター前の鉄板ではシェフが馴れた手つきで肉を焼き、細かく切り分ける。それに手をつけ、特性ソースで味わう投資家は、美味(うま)そうに肉を頬張(ほおば)る。
「今日のは肉汁(にくじゅう)が少し薄いようだが…」
「そうですかっ? いつもと同じ特注なんですがねっ!」
 シェフにも料理人としての意地があるから、言い返す。
「そうか? …先に食った鰻重(うなじゅう)のせいか…」
 投資家は、ひとまず納得して頷(うなず)く。実はこのとき、見えない風向きが変化していることに投資家は気づかなかったのである。すでに株価は大暴落の兆(きざ)しを見せていた。この兆しというのが、美味(おいし)く感じない、風の警告サインだったのだ。投資家はそれに気づけなかったのである。
 ひと月後の同じ超高級レストラン前である。一人のうらぶれたホームレス風の男が、トボトボ・・と店の前を歩いている。
「あの肉、美味(うま)かったな…」
 男は、そうひと言(こと)、ぅぅぅ…と泣けるような声で呟(つぶや)き、恨(うら)めしげに店を眺(なが)めた。風向きを見逃(みのが)した投資家の哀(あわ)れな末路(まつろ)である。
 見えない風向きは分からないから、直接、風に言って欲しいものだ。^^

        
                   完

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2018年11月16日 (金)

泣けるユーモア短編集-69- 動かず

 動き回るほど事態を悪くして、ぅぅぅ…と泣けることがある。そういうときこそ、動かず・・を心がけることが肝要(かんよう)だ。不動心、不動身である。動かず、そうこうしていると、いつの間にか心身ともに冷静になれ、健康が戻(もど)ってくる・・といった具合だ。
 深毛(ふかも)禅寺(ぜんじ)の山門前である。一人の背広服の男が石段をヨッコラッショ! と登ってきた。山門を掃(は)き清めていたのは、管長(かんちょう)の沢傘(たくさん)である。
「ホッホッホッ…飽(あき)きずに、また来られましたな?」
 沢傘は見慣れた男の姿に、嫌味(いやみ)を一つ言って微笑(ほほえ)んだ。
「ははは…ひとつ、よろしくっ! また泣けることが増えましてな」
「今回は、いかほど、ご滞在ですかな?」
「二日ばかりお願いを…」
「分かりました。いつものようなことで、大したお構(かま)い立ては出来ませぬがのう…」
「ええ、それはもう…」
「では、そういうことで…」
 男は沢傘に導かれ、寺の中へと消えていった。
 二日後である。
「お世話になりました…」
「いかがですかな?」
「はっ! お蔭さまで、心身とも凍りついたように動かず、でございます」
「おお! それはよかった。俗世は、悪い水が解かしますでなっ。くれぐれもお気をつけられて…。では、孰(いず)れまた…」
「はっ! 老僧もお元気で…」
「お互いにのう…」
 二人は山門前で別れた。
 動かず・・は時として、ぅぅぅ…と泣けることから救う医療になるのである。

                             完

 
※ 動いた方がよい場合も時として、あるようです。^^

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2018年11月15日 (木)

泣けるユーモア短編集-68- ぬかるみ

 雨降って地(じ)固(かたま)まる・・と、世間では、よく言われる。だが、雨降って地が固まらず、益々(ますます)ぬかるみが広がるようなことになれば、これはもう、ぅぅぅ…と泣ける以外の何ものでもない。
「その後、どうなってるんです? 田所(たどころ)さん! いっこう進んでないようですが…」
「いやぁ~…実はですね。先方が、どうのこうのとおっしゃるもんで、拗(こじ)れとるんですわっ」
「拗れとるって、あんた。これで地が固まる・・って言われとったじゃないですかっ!}
「はい、確かに…。ところが、ぬかるみまして…。どうも、すまんことです」
「私に謝(あやま)られても…。困りましたな。これから麦踏(むぎふみ)さんに報告に行かにゃならんのですよっ!」
「そう言われましても…」
「それにしても、よく降りますなぁ~」
「はあ、梅雨(つゆ)どきですからなぁ~、ぬかるみになる訳です」
「ダジャレを言ってどうするんですっ!」
「そんなつもりじゃ…、どうもすいません。これから、ひとっ走(ばし)りしますんで…」
「ほんとに、もう! 頼みましたよっ!!」
 野原に諄(くど)く言われた田所は、慌(あわ)てて野原の家をあとにした。そのとき、家の前の道を自動車が勢いよく走り去った。道にはぬかるみが出来ていて、バシャッ! と野原のズボンをやった。
「くそっ!」
 野原は、ぅぅぅ…と泣ける思いで走り去る自動車を眺(なが)めた。
 ぬかるみは、泣けるのである。

         
                   完

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2018年11月14日 (水)

泣けるユーモア短編集-67- 会話

 とある公園のベンチに腰を下ろした二人の老人の会話である。
「△#$%$$#w@でふよっ! ファッファッファ…」
「$%#&%##w@でふぁなふぁったんでふかっ? ファッファッファ…」
 二人とも入れ歯を外(はず)して話しているから、周囲の者にはまったく理解できないのだが、二人は互いに理解出来るらしく、まるで外国語を話しているように流暢(りゅうちょう)に遣(や)り取りをする。そのとき、一人のヨチヨチ歩きの子供が、どこからかベンチへ近づいてきた。
「#$$%%#%…?」
「ああ! #$$%、%#%。それふぁら、&”#UY$%。ふぁいっ!」
 子供の訊(たず)ねる意味が分かるのか、老人は小額の白銅貨を一枚、手渡し、ある方角(ほうがく)を指さした。老人と子供の間に、しっかりと会話が成立しているのである。この会話の内容も、周囲の者には皆目(かいもく)、分からなかった。子供は指(さ)された方角へと、またヨチヨチ歩き出した。すると突然、その会話を聞いていたもう一人の老人が泣き始めた。
「ぅぅぅ…%&’$RT$%##&%でふかぁ?」
「ふぁい、そうでふぅ。ぅぅぅ…」
 直訳すれば、ヨチヨチ歩きの子供は両親に¥20でジュースを買ってやりたい・・というのだそうだ。そこで、老人は自動販売機で買える小額貨幣を手渡した・・というものだ。なんとも、涙ぐましく、ぅぅぅ…と泣ける会話だったのである。
 会話は、手話以上に分かる人には分かるものらしい。

         
                   完

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2018年11月13日 (火)

泣けるユーモア短編集-66- なるようになる

 ああして…で、こうして…と細かく先を考えると、かなり気疲(きづか)れする。加えて、そうした結果が惨憺(さんたん)たるものであれば、ぅぅぅ…と泣ける思いすらする。そこへいくと、なるようになる…と開き直り、深く考えることなく普通に動けば、割合、それが好結果を生むのだから、人の世とは不思議なものである。
 将棋愛好家が集まる、とある集会所である。
「いやぁ~、そう打たれては困りますっ!」
「ははは…待ったなし、ですぞっ!」
「弱りましたなぁ~。ああいけば、こうか…」
 二人の老人が対峙(たいじ)して将棋を指している。その二人が指す将棋盤を、もう一人の老人が眺(なが)めながらポツリと呟(つぶや)く。
「ああこう、いかない方がいいんじゃないですか。なるようになる・・ものです」
「そうですかね…。じゃあ、こう!」
 呟かれた老人は、ああこう…とは指さず、思いついた手をパシッ! と駒音(こまおと)高く盤上に打ち据(す)えた。
「そっ! それはっ!」
 打ち据えられた老人は、ギクッ! とした。必死がかかった即詰(そくづ)みだったのである。
「ははは…待ったなし、ですぞっ!」
「ははは…まいりました」
 勝負は逆転して、あっけなく終わった。
「ねっ! なるようになる・・でしょ」
「確かに…」
 小難(こむずか)しく考えがちな世の中だが、割合、スンナリなるようになる世界なのかも知れない。

      
                     完

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2018年11月12日 (月)

泣けるユーモア短編集-65- 効(こう)

 効(こう)・・とは、時代風に言えば、してやったりっ! という効(き)きめだが、世の中は強(したた)かで、なかなか効を成すのは至難(しなん)の業(わざ)である。鳶(トンビ)に油揚(あぶら)げ・・で、ぅぅぅ…と泣けることは多いが、効をあげて、ははは…と笑えることは少ないのだ。それは、動物界の弱肉強食とまではいかないものの、それなりに生存競争が厳(きび)しいのが人間社会だということに他ならない。
「波止場さん、どうでした?」
「それが、なかなか手ごわいんですよっ、相手は。この分じゃ、契約まで漕(こ)ぎ着(つ)けるのは難しそうです、汽笛さん」
「そうですか…。あそこは、なかなか守りが堅いですから。食い込めれば、いいんですが…」
「こうなりゃ、一夜城しかありませんっ!」
 歴史好きの波止場は、戦国時代の某武将の出世城となった墨俣(すのまた)築城(ちくじょう)の逸話(いつわ)を口にした。
「一夜城…ですか?}
「はいっ、一夜城ですっ! 効を成してご覧に入れましょう」
 一ヶ月後、波止場は、相手会社を蹴破(けやぷ)り、ものの見事(ごとみ)に一夜城を完成させた。いや、契約を成し遂げた。会社に効を齎(もたら)したのである。にもかかわらず、会
からの恩賞はなかった。いや、音沙汰はなかった。波止場は帰途の夕陽の中、ポォ~~~!! っと泣けるような思いを、グッ! と堪(こら)えた。
「まあまあ…」
 汽笛は格好よく波止場の肩を撫(な)で、咽(むせ)ぶように慰めた。
 効を成しても、見返りは期待しないのがいい。

          
                  完

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2018年11月11日 (日)

泣けるユーモア短編集-64- 恩返し

 受けた恩を返す・・これは、実にぅぅぅ…と泣ける絵になりやすい。演劇、ドラマでも、観る側をして、泣かさずにはおかない。むろん、現実の世界においても言えることは明白である。
 駆けつけた教え子は、師と仰いだ医師の手を取り、よよ・・と泣き崩れた。
「こっ! これで、万分(まんぶん)の一(いち)でも恩返しができました。よかったですっ! 先生っ!!」
「あっ、ありがとう! ぶ、豚川(ぶたかわ)君。ぅぅぅ…」
 患者の手術を終えた直後、急性の病(やまい)に倒れた執刀医の牛岡は、放置できない病と診断され、早期の手術を余儀なくされていた。その一報を受けた地方病院へ異動していた豚川が駆けつけた一場面である。
 この手の話は、ベタであったとしても、人々をして感動させずにはいられないだろう。
「ところで、君に頼んでおいたアレ、まだ届かないんだがね…」
「はっ? …ああ、アレですか。アレ、忘れてましたっ、ははは…。すぐ送らせますっ!」
「腕はいいが、相変わらず君はウスラっぽいねぇ~」
「ウスラっぽい? はいっ! 相変わらず、ウスラっぽく生きてますっ!」
 豚川は牛岡が言った意味を理解できず、暈(ぼか)した。ウスラっぽいとは、ドジまではいかないものの、どこか間抜けている・・といった意味らしい。
 豚川は悪びれて、頭を掻いた。まあ、こうなれば、泣ける話とはならず、笑い話となる。

         
                   完

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2018年11月10日 (土)

泣けるユーモア短編集-63- 分かりましたっ!

 とある片田舎(かたいなか)に、太っ腹(ぱら)で名の通った元原という男がいた。この男、どんな難題(なんだい)でも、『分かりましたっ!』と、引き受けてしまう剛(ごう)の者で、その依頼(いらい)を成し遂(と)げるところから、多くの人々に絶対の信任を得ていた。やがてその名は、大都心の中央政界まで届くまでになった。そしてついに、元原に政府からお呼びがかかったのである。とはいえ、それは飽くまでも裏の極秘事項として処理され、表だって世間に元原の名が轟(とどろ)く・・ということはなかった。悪く考えれば、元原は国にその力を秘密裏(ひみつり)に利用されようとしていた・・といえる。
「…まあ、そういうことでして、何とか、元原様にお願い出来ないものかと…」
 政府から派遣(はけん)された政府要人は、当然、元原が『分かりましたっ!』と言うのを期待していた。その予想は、やはり当たった。
「分かりましたっ! 私が、何とかしてみましょう…」
 そして20年の月日が流れたとき、国は立ち直り、再びの発展を確実なものとしていたのである。政府要人達は、ぅぅぅ…と、思わず泣けるような顔で元原の手を取った。
「いかが、なされました? 泣き顔になられて…。分かりましたっ! なんとかしましょう!」
 泣き崩れていた政府要人達は、元原の一発芸で、一転して笑い転(ころ)げた。
 今の世、分かりましたっ! と、現実に何とかしてくれるヒーローの出現が望まれる。

        
                   完

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2018年11月 9日 (金)

泣けるユーモア短編集-62- ああして、こうして…

 ああして、こうして…とアレコレ考えてから動けば、結構、早く済む。ああして、こうして…と巡らずにやるのが、思いつき・・と言われる動きだ。この場合、巡っていないから、どうなるか分からず、出たとこ勝負となり、大いに危うい。当然、ぅぅぅ…と泣けるようなことにもなりかねない。そこへいくと、ああして、こうして…と巡っている人は、首尾よく思い通りにいかなかったとしても、その逃げ筋(すじ)[将棋]、凌(しの)ぎ筋[囲碁]、安全牌(パイ)[麻雀]などを準備しているから、滅多なことで、ぅぅぅ…と泣けることにはならない。
 旅の途中、ふと思いついてルート変更した二人が、元のルートへ戻ろうとしている。
「大丈夫なんですか? こんなにゆっくりしていて…」
「ははは…大丈夫、大丈夫!」
 陽はすでに西山へと傾き、次第に薄暗さを増していた。二人は、トボトボと元来た道へと急いだ。しかし、行けども行けども、元来た道は現れない。それもそのはずで、二人は別の脇道へと迷い込んでいたのである。
「全然、大丈夫じゃないじゃないですかっ!!」
 従っていた男はリードした男に文句を言った。
「ははは…大丈夫、大丈夫! …じゃないな。これは、怪(おか)しい! 実に怪しいっ!」
「ちっとも怪しくないですよっ! 私ら、道に迷ったんですっ! ・・・折角(せっかく)、私がああして、こうして…と考えてたのにっ!」
「ああして、こうして…?」
「そうですよっ! 夕暮れに宿へ戻(もど)り、温泉に浸(つか)かったあと、いい気分で一杯やりながら美味い料理に舌鼓(したづつみ)をうち、で、カラオケで唄う訳ですよっ!」
 辺りはすでに漆黒(しっこく)の闇(やみ)と化していた。万一を考え、持参した懐中電灯の灯りが、二人の唯一の命綱だった。
「仕方ないじゃないですかっ! ぅぅぅ…」
「泣かなくてもいいでしょうがっ!」
 そのとき、巡回中のパトカーが通りかり、止まった。
「どうされました?」
 警官が訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
「ぅぅぅ…ああして、こうして…がっ!」
「はあ?」
 その後、事情が分かり、二人は無事、温泉宿へと送り届けられた。どうにかこうにか、めでたし、めでたし…。
 ああして、こうして…は、やはり、欠かせないのだ。

       
                   完

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2018年11月 8日 (木)

泣けるユーモア短編集-61- 稽古(けいこ)

 稽古(けいこ)の稽は考える・・という意味だそうで、稽古は過去の知識を紐解(ひもと)き、参考にして今後を考える・・ところから派生した言葉だという。さらにその使用法が多様化され、芸能や武術でも使われるにようになったらしい。要するに稽古とは、技量(ぎりょう)や芸風といった自分の持ち味(あじ)を高めるための練習・・ということになる。
 とある公民館の一室である。休日の午後、賑(にぎ)やかに吟(ぎん)じる声が聞こえる。どうも老人達で結成された詩吟同好会の稽古のようだ。
『♪なんた~らぁぁ~~~~かんたらぁぁ~~ぁぁぁぁ~、どおのぉ~~ぉぉぉ~~~こおぉぉのぉぉぉ~~♪』
 そんな声が外へも響く。偶然、散歩で通りかかった老人が、止まって聞き耳を立てた。
「ほう! やってられるようですなぁ。それにしても、相変わらず泣けるように下手(へた)だっ! さあさあ、退散退散! 体に悪いっ!」
 通りかかった老人は、そう言い捨てると、足早(あしばや)に公民館から遠のいた。外でそんなことを言われているとも知らず、室内の老人は得意満面の笑(え)みでガナっている。周囲の老人達も迷惑この上ない! といった顔つきで聞き入っている。いや、仕方なく聞かされている。それは恰(あたか)も、騒音我慢大会の様相(ようそう)を呈(てい)していた。
 稽古するには、他人の迷惑も省(かえり)みなくてはならない訳だ。

                             完

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2018年11月 7日 (水)

泣けるユーモア短編集-60- 粗製乱造(そせいらんぞう)

 物は作ればいいっ! という性質のものではない。要は、粗製乱造(そせいらんぞう)が弊害(へいがい)を齎(もたら)す・・ということである。そういう物は物とは言わず、単なるモノに他ならない。そういった無益(むえき)でつまらないモノを安易(あんい)に多量に作ったとしても世の中はよくならず、ためにもならない・・と言っても過言ではないだろう。それどころか、有害物へと変化することにもなるから怖(こわ)い。
 老人会で出合った二人の顔(かお)馴染(なじ)みの会話である。
「観(み)たい番組が減りましたなっ、最近!」
「ああ…。フツゥ~~の、どうでもいいドラマが多くなりました。バラエティは面白いのもありますがな…」
「チャンネル数が多すぎて追いつかないから、粗製乱造になるんじゃないんですかな、きっと…」
「はぁ。それに、いい番組でも3ヶ月とか半年とかでしょ? ズゥ~~っと続く番組が減りましたよね」
「そう! 粗製乱造の弊害ですよっ!」
「これも回り回れば、文明が進歩し過ぎた弊害なんでしょうな」
「そうそう! それにしても事件モノが多いですなっ! まあ、演じられる方々に責任はない訳ですが…」
「そうそう、そうそう! 問題は作り手側です。事件モノの粗製乱造は世の中を悪くする・・ってことが作り手側に分かっていないっ!」
「そうそう、そうそう、そうそう! 粗製乱造は世の中を悪くするっ! まあ、視聴率を重く見るスポンサーの有りようもですが…」
「そうそう、そうそう、そうそう、そうそう! いい番組ですよっ!!」
 そのとき、二人に割って入った老女がいた。
「お二人(ふたり)の会話も粗製乱造ですよっ! 五月蝿(うるさ)いったら、ありゃしないっ! なにが、そうそう、そうそうよっ!!」
 注意された二人の老人は、泣けるような顔で押し黙った。

                                完

 ※ 作品が粗製乱造とならないよう、私も注意したいと存じます。^^

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2018年11月 6日 (火)

泣けるユーモア短編集-59- 腹(はら)八分目(はちぶんめ)

 腹(はら)八分目(はちぶんめ)とは上手(うま)く言ったもので、80%の出来がいい・・ということらしい。確かに、100%か100%以上食べ過ぎて腹の調子を悪くすれば、元も子もなくなる訳だ。これは、他の様々(さまざま)なことにも言えそうだ。
 とある証券会社を出ていく投資家二人の会話である。
「ははは…このぶんじゃ、まだまだ株価は上がりますよっ! 私は断固(だんこ)、買い続けますっ!」
「そうですか? 私は降りました。もう随分、儲(もう)けたじゃないですかっ! 腹(はら)八分目(はちぶんめ)、ここらが潮時(しおどき)だと私は思いますよ」
「いやぁ~まだまだっ!」
「そうですか? ぅぅぅ…と泣けることにならなきゃいいんですがね」
 一ヵ月後、である。
「ぅぅぅ…」
「でしょ?!」
 買い続けた投資家は、株価暴落でぅぅぅ…と泣けることになった。
 何事も八分目が大切! という一例である。過ぎたるは及ばざるが如(ごと)し・・なのである。

        
                   完

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2018年11月 5日 (月)

泣けるユーモア短編集-58- 差

 ぅぅぅ…と泣ける慎(つつま)ましさで日々を暮らす人々と、湯水(ゆみず)のように金を好き放題に使い、豪勢に暮らす人々・・この両者の差は、いったい、どこで? どうして? 生まれたのか? を真摯(しんし)に考えて研究する一人の学者がいた。その名を黒髪(くろかみ)という。黒髪は表立っては普通のどこにでもいる教授だったが、研究室に籠(こ)もると尋常(じんじょう)なその姿は一変し、まったくの変人へと化したのである。
「ハハハ…やはりそうかっ! この集積データによれば、この時点でヒヒヒ…と魔に襲われた・・となる。で、その魔力に魅せられ金持ちへ・・か。フフフ…なるほど。ということは、へへへ…魔に襲われないと金持ちになれない・・ということになる。襲われるか、襲われないかの差ということだな。ホッホホホ…」
 黒髪はハヒフヘホを駄洒落(ダジャレ)のように上手(うま)く遣(つか)って嗤(わら)い、結論づけた。
「ということは、教授。魔をいかに我が掌中(しょうちゅう)に取り込めるかの差・・ということですか?」
 助手の白髪(しらが)は少し虚(うつ)ろな目で、黒髪に訊(たず)ねた。
「ああ。まあ、そうなるかな…」
「しかし、発覚してますよっ! その後が哀(あわ)れに…」
「それは君。取り込んだ魔を取り逃がしたのさ。それだけ甘い小者(こもの)ってことさ。魔に見放されちゃ、ぅぅぅ…と泣けてお終(しま)いってことだな」
「なるほど! 魔に逃げられない差ってことですか?」
「そうそう、差、差! あっ! 店屋物の鰻重が早く食わないと冷(さ)めちまって泣けるぜっ! 冷(ひ)えたのとホッカホカの差は大きいっ!」
 差は鰻重の冷たさ暖かさ・・ということらしい。

                           完

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2018年11月 4日 (日)

泣けるユーモア短編集-57- 見えないモノ

 見えるモノは処理しやすいが、見えないモノは、始末(しまつ)が悪い。ガスとか紫外線などといった科学的なモノから霊気を放つ得体の知れないモノまで多々(たた)、存在し、物騒(ぶっそう)この上ない代物(しろもの)なのである。時には、霊気を帯びやすい人の体へスゥ~っと忍び寄り、ぅぅぅ…と泣ける状況を現出する。
 とある演芸場である。多くの客が観入(みい)る中、舞台上では若手芸人二人のコントが演じられている。
「ははは…あの客、妙な客だな。皆(みな)が笑ってるのに、一人、泣いてるぜっ!」
「ああ、確かに…。何かあったんじゃないか」
「何かって、つい今し方まで笑ってたんだぜ。怪(おか)しいじゃないかっ!」
「そういや、そうだな…。お前、訳を訊(き)いてみな」
「いやだよ。お前、訊けよっ!」
「…よし、分かった!」
 話し合っていた二人の男の内の一人が、泣いている男に近づいた。
「あの…どうかされました?」
「ぅぅぅ…よく訊いて下さいました。アレ、私の息子なんです」
「どちらですっ?」
「いえ…あのバックの絵・・ぅぅぅ…」
「バックの絵? ああ、あの景色ですか?」
「はい、私の息子が書いたんです。ぅぅぅ…」
「で、息子さんは、どこに?」
「息子ですか? 息子は出てません」
「…」
 泣ける見えないモノは、いろいろある訳だ。

                            完

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2018年11月 3日 (土)

泣けるユーモア短編集-56- 桜

 花といえば桜! と、こうくる。言わずと知れた春の超有名な季語である。寒気が遠のき、なんとなく浮かれる陽気が辺(あた)りに漂(ただよ)い始めると、待ってましたわっ! とばかりに桜が咲き始める。だが、花の命は・・とかなんとか言われるように、思わずぅぅぅ…と泣けるほど短く儚(はかな)いのだ。
 とある堤防沿いの宵である。満開の桜が灯(とも)された雪洞(ぼんぼり)になんとも優雅に映え、その下では飲めや歌えのドンチャン騒ぎの宴がたけなわである。
「ははは…どうされました、酢川(すがわ)さん? そんな…涙顔(なみだがお)になられて…」
 すっかり酔いが回った赤ら顔の飯岡(いいおか)が泣き始めた酢川を訝(いぶか)しげに見ながら小さく言った。
「ぅぅぅ…この桜ですよっ、この桜っ! ぅぅぅ…」
 泣き上戸(じょうご)なのか、酢川の顔は涙で、はやくもビッショリと濡れていた。
「この桜がどうかしましたか? いやぁ~、実に美しいっ! それが、なにか?」
「あんたねぇ~。分かりませんか? ぅぅぅ…。今はいい! 今はいいんですっ!」
「はあ…」
 飯岡には酢川の言う意味が理解できない。
「十日もしてごらんなさいっ! こんな可愛い娘(こ)がババアだっ!」
「ババアってこたぁ~ないでしょ、せめて姥桜(うばざくら)くらいに。ははは…」
「ぅぅぅ…この先を思うと、ぅぅぅ…泣けるんです」
「確かに…」
 この国の将来が、ふと過(よ)ぎったのか、飯岡も涙を流し始めた。
 桜とは最後に泣ける花なのである。

        
                   完

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2018年11月 2日 (金)

泣けるユーモア短編集-55- 世の中

 世の中では不思議な現象が平然と起こる。正解が必ずしも正解とはならないのだ。だから怖(こわ)いし、実に恐(おそ)ろしい・・というのが世の中ということになる。ただ、そうかといって世の中が不正解でよくなるのか? といえば、決してそうではない。当然、少しずつ悪くなっていく・・と言った方がいいだろう。要は、ぅぅぅ…と泣ける暮らしにくい世の中になるということである。今の世の中である。^^
 退職後、しがない年金暮らしをする年齢となった、とある二人の凡人の会話である。
「年金が満額もらえる年になって喜んでたらさぁ~、泣ける破目(はめ)になったよ」
「増えただろ? 泣ける訳がない」
「それが泣けるんだよ、ぅぅぅ…とな」
「なぜだっ?」
「増えた以上に介護保険料を取られる」
「ああ、アレか…。アレは泣ける」
「だろ? 結果、満額もらえる年までの方が多かったって訳さ」
「可処分(かしょぶん)ってやつだな」
「そう、ソレっ! カショ、カショ! 国も、強(したた)かだ」
「まあ、カショが気にならない水準で暮らせる人には関係ない話だがな」
「そういうランクの人が暮らす世界は、世の中・・って言わないんじゃないか?」
「ははは…天上(てんじょう)の人々か?」
「天上までは無理でも、せめて五合目くらいは俺達も登りたいものだな」
「ああ…」
 世の中は天上まで登れない凡人以下が、ぅぅぅ泣ける世界なのである。

         
                   完

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2018年11月 1日 (木)

泣けるユーモア短編集-54- 名実(めいじつ)ともに

 実力もあり、その名も世に知られている・・こういう状況を、名実ともに・・と人は言う。名だけでは、なんの役にもたたず、微(かす)かに、そうだったのか…と名残(なご)りを留(とど)める程度なのだ。要するに、現実にはまったく意味をなさないのである。例えば、資格は持っているが、どうして取れたのか? と疑うほど、その技量がない・・とかの場合である。資格も何もないただの人が、大病院の医師でも治(なお)せない病気を治せた・・こんな逆の場合だってある。名(めい)はないが、実(じつ)がある・・というケースだ。あんな、へちゃむくれが芸能人? と自分の眼を疑いたくなるようなドブスやイケないメンが活躍しているといったケースもそうで、人の世は、ままならないのである。
 長閑(のどか)な春うらら、ご隠居、二人が公園のベンチに座り、日向(ひなた)ぼっこで語らっている。
「ほらっ! 毛が生(は)えてきましたよ・・アレは本物ですっ! 間違いないっ!」
「ははは…そんな馬鹿なっ! 気のせいでしょ。どれどれ」
「あっ! 確かに…」
「でしょ?! 名実ともにだっ!」
「こりゃ、いい。私もやってみますよっ! まだ、あります?」
「それが、あの名実とも・・いつ現れるか分からないんですよっ!」
 そのご隠居が語るのには、なんでも偶然(ぐうぜん)現れた胡散(うさん)臭(くさ)い薬売りに買わされた・・というものらしい。
「それって、大丈夫なんですか? 薬事法とか、いろいろあるんでしょ?」
「いやぁ~そらそうなんでしょうが、実際に生えてきている訳ですから…」
「名実ともに・・というより、実のみですなぁ~」
「そんなことは、どぅ~でもいいんです、私にゃ。生えさえすればっ!」
「そら、そうですっ! 生えさえすればっ!」
 二人は感(かん)極(きわ)まったのか、泣ける目頭(めがしら)を押さえた。
 分かりよい、名実ともに話(ばなし)である。

        
                  完

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