« 泣けるユーモア短編集-90- 陽気(ようき) | トップページ | 泣けるユーモア短編集-92- 癖(くせ) »

2018年12月 8日 (土)

泣けるユーモア短編集-91- ご飯(はん)騒動

 朝から市松(いちまつ)家(け)では、ご飯(はん)の炊(た)き加減を巡る一大騒動が勃発(ぼっぱつ)していた。とはいえそれは、某国の内戦のような血生臭(ちなまぐさ)い泣けるような騒動ではなく、飽くまでも口論、人間関係の不和以上のものではなかったのだが…。
 下町の、とある中流家庭である。
「ほんとにっ、父さんはっ!! 入れ歯を入れて下さいよっ! 毎度、毎度! こんな雑炊(ぞうすい)みたいなご飯、嫌ですよっ!」
「なにぃ~~っ!! お前なっ! 文句言うくらいなら、自分で炊けっ!」
 居間では、朝から主人の古太郎(こたろう)と息子の新一(しんいち)の間で、食事を巡る口論が勃発していた。和間の長机(ながづくえ)の上には、妻の和代(かずよ)が作った各種の料理皿が置かれ、長机を囲(かこ)んで家族八人が座っている・・といった構図である。
「まあまあ、お父さん! お食事どきですからっ…」
「そうだよぉ~。お前は、だいたい口煩(くちうるさ)いんだよっ! 誰に似たんだろうねぇ~、いったい!」
 今年、卒寿を迎えた祖母の洋(よう)が茶々(ちゃちゃ)を淹(い)れる。
「母さんは黙ってて下さいっ! これは私と父さんのっ!」
 そこまで新一が言ったとき、新一の子で末っ子の幼稚園児、住也(すみや)が突然、参加した。
「黙って静かに食べましょう・・って先生、言ってたよ!」
「ははは…住也が言うとおりだっ!」
 住也の長兄で中学生の柱(はしら)も加わる。
「そうよっ!」「そうそう!」
 姉の小学生、美柄(みつか)、次兄の梁(はり)も合流した。こうなれば、古太郎と新一は押し黙る以外にはない。いつしか、ご飯騒動は泣けるようなことも起こらず静まった。

         
                   完

|

« 泣けるユーモア短編集-90- 陽気(ようき) | トップページ | 泣けるユーモア短編集-92- 癖(くせ) »