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2019年1月

2019年1月31日 (木)

暮らしのユーモア短編集-45- 分かれ道

 暮らしていると、さて、どちらを…とか、どちらに…などと、選ぶべき道や方法、物で悩まされることがある。その分かれ道が多岐(たき)に分かれるほど、その悩みは大きくなる訳だ。
 棋院の会館でとある囲碁の棋戦(きせん)が行われている。和間の幽霊の間(ま)には[幽霊幻覚]と書かれた達筆の掛け軸がかかり、なんとなく怖(こわ)そうな雰囲気を辺(あた)りに漂(ただよ)わせる。
「猪掘(いのほり)名人、残りあと6回です…」
 時計係の芋川(いもかわ)二段が朴訥(ぼくとつ)に残り時間を告げる。猪掘は次の一手を、さて、どうしたものか…と悩(なや)みに悩み、熟考(じゅっこう)していた。
 別の大部屋では、全国から選抜された有段者を前に、棋戦の様子が大盤で解説されていた。
「どうなんでしょう?」
 若い女性棋士の千波三段がもう一人の老練な男性棋士の解説者、澤藤九段に訊(たず)ねる。
「ええ…なかなか、悩ましいところです。こういけば、こうなり、こういけば、こうなりますが、出られてサッパリです…」
「では、そちらから、というのは?」
「ああ、そちらからですか…。そちらからですと、こうなって、こうなりますから、当然、石は生き辛(づら)く、苦しくなります」
「苦しいですか?」
「ええ、きつい山道を登るように…。まあ、生きられなくもないですが、(つら)辛いですよね。強烈な努力! これが肝要(かんよう)となりますっ! ただ、生きるだけというのは…。その辛さを避(さ)け、こうですと、こうなり、前の手順で出られます。どちらも一局ですが、この局の勝敗を決める分かれ道でしょう」
 そのとき、対局場では、対戦相手の道山(みちやま)九段が、俄(にわ)かに便意(べんい)を催(もよお)し、トイレへ行くべきか行かざるべきか…の分かれ道に立たされていた。

       
                   完

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2019年1月30日 (水)

暮らしのユーモア短編集-44- 記憶

 暮らしの中で物事の記憶は否応(いやおう)なく必要となる。
 とある老人ホームでね二人の老人がのんびりと庭園を散歩している。
「いい、お天気ですなぁ~!」
「…あの、どちらさんでした?」
「ははは…軽石(かるいし)さん、嫌ですなぁ、私ですよっ!」
「…はて、お見かけしない方ですが? どちらさんで?」
「ははは…、またまたまたっ! ご冗談をっ! 昨日(きのう)もここで、お出会いしたじゃありませんかっ! 重石(おもし)ですよっ、重石っ!」
「重石? はて…? 私は軽石ですが…。なんか他人とも思えません」
「そら、そうですっ! 私とあなたは同室ですから…」
「同室? 誰と誰がっ?」
「私とあなた…」
「ははは…ご冗談をっ! 私はこの老人ホームの管理人ですよっ!」
「二人とも5年前までは確かに…。でも、退職後、ここでお世話になられてるじゃないですかっ!」
「誰がっ!?」
「あなたがっ!?」
「誰と!?」
「私とっ!」
「…そうなんですかっ?」
「そうなんですよっ!」
 そのとき、老人ホームの館長が現れた。
「またですかっ!! ほんとに困りものですなっ! お二人のお家(うち)は前でしょ!!」
 二人の記憶は完全に飛んでいた。記憶は大事である。^^

          
                 完

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2019年1月29日 (火)

暮らしのユーモア短編集-43- 重力加速度

 とある真夏の日のことである。鮭(さ)を獲(と)る訳でもなく、熊崎が川で水浴びをして帰宅すると、こんな番組がテレビから聞こえてきた。
『某国(ぼうこく)から打ち上げられたミサイルは高い弾道を描き、我が国の近海面に落下した模様ですが…』
『ええ、物凄(ものすご)い高さまで上昇して落下しましたから、当然、重力加速度により凄い落下スピードとなり、最新型のミサイル防衛網でも打ち落とせなかったでしょうねぇ~』
 熊崎は、フンッ! 野次馬気取りで気楽なこと言ってらっ! と野次馬的に画面を観聞きしながら思った。
『なんとか、ならないんでしょうか?』
『…あなたは、どう思われます?』
『いや、私には…』
 番組の進行役を務めるアナウンサーは思わず口を噤(つぐ)んだ。
 熊崎は内心で思った。馬っ鹿だなっ! 打ちあげられた直後か、遅くても最高高度到達点までに打ち落とせるシステムを開発すりゃいいだけのことじゃねぇ~か…と。
 確かに熊崎の単純な考えは一理あった。というのも上昇している間のスピードは、重力により、そう早くはならないからである。最高高度に到達するまでに感知して迎撃できる最高精度のシステム開発を秘密裏(ひみつり)に完成させればいい訳である。実弾射撃訓練の費用、その他の不必要な防衛予算を秘密開発へ回せばいいのさ…と偉(えら)そうに熊崎が思いながら家の外へ出たとき、空から小鳥の糞(ふん)が道へビチャッ! と落ちてきた。
「やはり、重力加速度は相当のもんだな…」
 熊崎は重力加速度を実感し、はっきりと口にした。

       
                   完

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2019年1月28日 (月)

暮らしのユーモア短編集-42- スカッ!

 誰しもスカッ! とした気分になりたいものだ。ムシャクシャするような出来事でもあれば、尚更(なおさら)である。それは何も出来事に限ったことではない。暑さに向う季節の外作業や仕事は、どうしても汗が吹き出るから、スカッ! とするには、それ相応の事前工作、早い話、綿密(めんみつ)に練(ね)った用意周到(よういしゅうとう)な行動計画が必要・・ということに他ならない。
 鮨川(すしかわ)食品の営業一課である。
「暑い中を申し訳ないが、鯖味(さばみ)物産までひとっ走(ぱし)りしてくれませんか、飯洲(いいず)さん! そのまま帰ってくれて結構だから…」
「分かりました、課長」
 万年課長の根多(ねた)に頼まれた幹部候補生として新(あら)たに配属(はいぞく)された登路(とろ)は快(こころよ)く引き受けた。登路の脳裏(のうり)には、スカッ! とするための綿密な行動計画が一瞬で浮かんでいたのである。その計画とは、次のようなものだった。
 1.今が4時過ぎ→鯖味物産まで20分だから→4時半には着く→書類を渡して社内の挨拶回りに30分→5時に社を出られる。
 2.帰宅までが30分→風呂でスカッ! と、汗を流す→よく冷えた美味(うま)い生ビール→ツマミは鯖味物産前で買うジュ~シィ~な串カツ
 3.ほろ酔い気分で寛(くつろ)ぎ、完全にスカッ! とする。
 この1.~3.は一見(いっけん)、単純な発想に思えるが、そこはエリート幹部候補生の登路の立てた計画だから抜け目がなかった。
「あっ! 母さん? 俺。5時半頃には帰るから、バスにお湯、張っといてっ!」
『はい! 分かりました…』
 鯖味物産へ向う途中、登路は歩きながら母親へ携帯を入れていた。これも、スカッ! とするための無駄がない登路独自の行動計画の一つだった。
 まあ早い話、スカッ! とするには、それなりの準備工作が必要・・ということだろうか。^^

          
                  完

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2019年1月27日 (日)

暮らしのユーモア短編集-41- 修理

 大工で棟梁(とうりょう)の板岸(いたぎし)は、家を修理中、ふとした弾(はず)みで、脚(あし)を打撲(だぼく)し、急遽(きゅうきょ)、病院へ直行することになった。
「こういうことは、初(はじ)めてですか?」
 医者の釘川(くぎかわ)は、やんわりと外堀(そとぼり)から板岸の診断に取りかかった。
「ははは…いやですよっ、先生! 初めてに決まってるじゃないですかっ! あっしは、そんなウッカリ者じゃありやせんぜっ!」
「いや、そういう意味じゃないんですがねっ!」
「どうなんですっ、先生!」
「まあまあ、そう慌(あわ)てないで…。どれどれ、ここ、痛みますかっ?」
「いいえ、ちっとも…」
「ここはっ!?」
「別に…」
「この辺(あた)りはっ!!?」
 釘川は、これ見よがしに押した。さすがにこれだけ押せば痛いだろっ! とでも言いたげな押しようだった。
「…まあ、痛いといえば、少し…」
「痛いですかっ!?」
「はい、まあ…」
 そら、そうだろっ! と釘川は板岸から一本、取ったようにニンマリと北叟笑(ほくそえ)んだ。
「大したこたぁ~ありませんっ! 軽い打撲(だぼく)、つまり、打ち身ですなっ! 貼(は)り薬と、念のための痛み止めを出しときますっ!」 
「あの…どれくらいで治(なお)りやすかねっ!? 今、家修理の大事なときで…」
「ははは…あなたの修理も大事でしょ?」
「はい、そらまあ…」
「心配いりませんっ! 普通に動けるようでしたら、明日はなんですが、そうですなっ…明後日(あさって)からでも…」 
「ありがとうごぜ~ました」
「あなたの家も、年相応にガタがきてますから、無理しないように…」
「分かりやしたっ!!」
 大きなお世話だっ! と板岸は言おうとしたが、思うに留(とど)めた。 
 家を軽く修理中の棟梁、板岸は、軽く自分の脚を修理することになった。すべての物は使っていると、多かれ少なかれ修理が必要となるのである。

         
                  完

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2019年1月26日 (土)

暮らしのユーモア短編集-40- やらねばっ!

 日々、暮らしていると、どうしてもやらねばっ! と、思うことがある。そのときやっていることがあると、まあ、あとからでもいいか…と気になりながらも後(あと)回しにすることが多い。そうこうして、やっていることが済んだとき、すでに時間がない場合がある。次の生活時間に追われている・・という場合だ。さて、そのとき、どう対処(たいしょ)するかだが、これは人それぞれで、当然、異(こと)なってくる。
 とある家庭の一場面である。
「あなたぁ~~!! ご飯よぉ~~!!」
「分かってるぅ~~!!」
 夫(おっと)は妻(つま)の声がかかる前にキッチンへ向っていたのだが、ふと、やることを思い出し、それをガサゴソと居間でやり出したとき、妻の声が飛んできたのである。夫は、やらねばっ! と意気込むと、そのまま続けた。
「なによぉ~~! ちっとも分かってないじゃないっ!!」
 いっこうキッチンへ来ない夫に業(ごう)を煮(に)やした妻は、プツプツと小言(こごと)を言いながら居間へやってきた。
「それはそうなんだけどな…。お前、ここへ入れておいた小物入れ、知らないかっ?」
 夫は居間の押し入れを開け、四つん這(ば)いの姿勢で頭を暗闇(くらやみ)へ突っ込み、ガサゴソとやりながら言った。
「小物入れぇ~? そんなの、知らないわよっ!」
「そうかぁ~? 妙だなぁ~~?」
「あっ!! 思い出したっ! この前の掃除のとき、外の物置に入れたわっ、確か…」
「なんだっ! そうか…」
 夫は動きを止め、押し入れから出た。さて、その後、夫はどうしたかである。夫のやらねばっ! と食欲の鬩(せめ)ぎ合いが夫の頭の中で錯綜(さくそう)した。結果は水入りのあと、やらねばっ! の浴びせ倒しの勝ち・・であった。まあ、この夫のやらねばっ! は横綱の食欲には、まだまだ・・という程度の強さということになる。やらねばっ! 頑張れっ! と応援したい。^^

       
                   完

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2019年1月25日 (金)

暮らしのユーモア短編集-39- 焦(あせ)る

 ふと、気がつくと、もうこんな時間かっ! と思わず舌打ちすることがある。もちろん、誰が悪い訳でもなく、自分の失態なのだから、小言(こごと)や愚痴を他人に垂(た)れることも出来ず、無性に腹立たしくなる。加えて、忘れていた目的を果たさねばならないから、当然、焦(あせ)ることにもなる。この焦る・・という気持の逼迫(ひっぱく)感は人によって様々(さまざま)で、おっ! こんな時間か…。まあ、遅れたら遅れたらで、そのときだ…的に、そう感じない肝(きも)の座った人もいれば、ぅぅぅ…どうしよう! 首かっ! …的に、ビクついて焦る、肝っ玉の小さい人もいるだろう。人によって千差万別(せんさばんぺつ)ということだが、ただ一つ言えることは、焦ることで物事が上手(うま)くいく・・というものでもないということだ。焦らず、ここは一つ…と、平常心でその先を考えた方が上手くいく・・というケースが多いことも事実なのだ。
 とある会社の営業部長室である。部長の肉尾(にくお)が腕を見ながら美味(うま)そうな赤ら顔で激怒(げきど)している。陽はすでに、とっぷりと暮れようとしていた。
「どうなっとるんだっ、鋤川(すきかわ)君! ちっとも先方から連絡がないじゃないかっ!!」
「はあ…妙ですなぁ~、5時前には・・ということだったのですが…」
「だったのなら、入るだろっ!! 明日の昼だぞっ、役員会はっ! どう説明するんだっ!」
 今年、役員待遇の部長に昇格した肉尾としては、面目躍如(めんもくやくじょ)のはずだった一件だけに、面子(メンツ)が丸潰(まるつぶ)れになることを恐れていたのである。焦りに焦る肉尾の顔からはジュ~シィ~な汗が滴(したた)り落ちた。それに比べ、別にドォ~でもいい気分の鋤川は、葱崎食品の白滝(しらたき)さん、どうしたんだろ? くらいの軽さで、少しも役員会のことなど気にしていなかった。
「部長、なんとかなりますよっ、ははは…」
「わ、笑ったなっ、君っ!!」
「いやいやいや、そういう訳では…」
「も、もういいっ! 帰ってくれたまえっ!!」
「…そうですかぁ? それじゃ、お言葉に甘えて…」
 今夜のスキヤキを思い出した鋤川は、スゥ~っと部長室から消え去った。
 焦れば、美味(おい)しく食べられない・・ということだろうか。^^

         
                    完

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2019年1月24日 (木)

暮らしのユーモア短編集-38- 空(あ)き時間

 妙なことに、日々、暮らしていると、ひょんなことで空(あ)き時間が発生することがある。そんなときに限ってやることがなく、忙(いそが)しいときにアレコレとやることが多発して重なるものだ。これは、暮らしの中で生まれるある種の軋轢(あつれき)、柵(しがらみ)なのかも知れない。この空き時間を有効に使うには、二つばかり手法がある。その一つは、近々、処理しなければならないだろう…ということをメモって計画しておく・・という手法である。そしてもう一つは、とにかく仕事、やることを追う・・という手法だ。思いついたり気づいたことは時と場合を選ばず、やってしまうのである。と、どうなるか? といえば、空き時間が生まれても、やることがない・・というのは手法を考える以前と同じだが、そこには、ゆとり・・という気分が生まれる。すると、不思議なことに、思いもよらなかったやることを思いつく・・という奇妙な閃(ひらめ)きが生まれる。ゆとり・・が生み出す効果、いや有効、いやいや技(わざ)あり、いやいやいや…一本(いっぽん)なのである。
 地方ローカル線の列車旅行を楽しむ二人の旅人が無人駅に降り立った。
「弱ったな…。次の列車まで、まだ2時間もあるぞっ!」
「フフフ…なにも弱られることはありませんよ、砂底(すなそこ)さん。こういうこともあろうかと、事前に考えときました。この蛸墨(たこすみ)駅の前は、いい足湯があり、美味(うま)い味噌(みそ)田楽(でんがく)の店もあります。それを頬(ほお)張りながら冷たい生ビールでキュッ! と一杯やってますと、ほどよく次の列車に約30分となる計算ですっ!」
「緻密(ちみつ)だねぇ~、君(きみ)はっ!!」
「はいっ! これが唯一(ゆいいつ)の僕の取り得(え)ですから…」
 砂底は平目(ひらめ)の言葉に、いいのを連れて来たな…と思った。
 空き時間の有効利用は、人生を有意義に生きることにも繋(つな)がるようだ。^^

                           完

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2019年1月23日 (水)

暮らしのユーモア短編集-37- 心地(ここち)いい

 春ともなれば爽(さわ)やかで気分のいい空気が流れる季節となる。暑くもなく、かといって寒くもない、思わずウトウトするような、恰(あたか)も猫じみた気分にさせる季節である。この気分を、人は心地(ここち)いい・・と表現する。
 二人の老人が、いつものように公園の木漏(こもれ)日の下のベンチで寛(くつろ)いでいる。爽快(そうかい)な風が時折り、二人の頬(ほお)を撫(な)でる。
「なんか、いいですね…」
「はい…心地いいとは、まさにこの気分ですなぁ~」
「はい、確かに…」
「これ、買っときました…」
「おお! 今日は魚フライ・デラックス弁当ですかっ!」
「お気に召(め)しましたかな?」
「ええええ、そらもう…。家(うち)では文句(もんく)が言えませんからな…」
「義父的には食べない訳にも参りません」
「ははは…そういうことです」
 二人はいつも、交互にお気に入りの弁当を買ってきて公園の下で食べるのが日課(にっか)だった。互いに金を請求しないのがルールとなっていた。曇りや雨、それに嵐の日は公園前の市立・憩(いこ)いの里と呼ばれる施設内で食べたが、それが飽(あ)きもせず、日長一日・・いや、日長一年続いていた。これが二人にとって唯一(ゆいいつ)の心地いい習慣だったのである。
 世の中の暮らしの中では、笑えるような心地いい場面が、いろいろと起こる。^^

        
                   完

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2019年1月22日 (火)

暮らしのユーモア短編集-36- 薄味(うすあじ)

 日々、暮らす中で、主婦の方々に言えることだが、料理で薄味(うすあじ)は欠かせない。無論、このことは当然、主夫の方々にも言えることなのだが…。^^
 とある中年夫婦の食事どきの会話である。
「おいっ! コレ、少し濃(こ)いんじゃないかっ!!」
「嫌(いや)なら食べないでよっ! 私が食べるからっ!!」
「そういう意味じゃないっ。もう少し、薄味の方が俺の好みだってことさ…」
 主人は俄(にわ)かの敵の反撃に、撤退(てったい)を余儀(よぎ)なくされた。
「私の好みなんだから、いいじゃないっ!!」
 主婦は、なおも猛攻を続ける。
「…」
 防戦一方となった主人は、ついに押し黙った。
 薄味は、沈黙を呼ぶようである。加えて、ひとつ、これは聞いた話だが、薄味は濃い味より中年以降の健康に、いいらしい。まあ、どうでもいい話だ。^^

         
                  完

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2019年1月21日 (月)

暮らしのユーモア短編集-35- 制(せい)する

 制(せい)する・・という言葉がある。この言葉は相手の行動を制圧(せいあつ)して優位な立場に自(みずから)らが立つことを意味する。ただ戦闘によって相手を征服(せいふく)する征するとは意味が異(こと)なる。外的な主張はなく、要は、自己満足を気分で感じるだけ・・というのが制するなのである。
 とある老人会で語り合う二人の老人の会話である。
「最近、耳が遠くなりましてな。息子が補聴器を買ってくれました」
「ほう! それはようございました」
「それが耳障(みみざわ)りで、余りよくないんですわ」
「耳障り? 聴こえないんですか?」
「いや、そうじゃないんです…」
「? と、言いますと?」
「付け心地(ごこち)が今ひとつ…」
「なるほど…。それはお困りですな」
「はいっ! 態々(わざわざ)、買ってくれた息子の手前、付けない訳にもいかず…」
「息子さんの手前だけでも、ということでどうです?」
「はあ…」
「あっ! 私、用を思い出しましたので、これでっ!」
 不意に立った老人は、尿意を制することが出来ず、足早(あしばや)にトイレへと消えた。
 暮らしの中の諸事では、制する・・ことが多く、厄介(やっかい)である。^^
 
 
                           完

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2019年1月20日 (日)

暮らしのユーモア短編集-34- うるさい

 日々、暮らしていると、うるさい…と思うことがよくある。この、うるさい…と思う気分は、五月蝿(うるさ)いと煩(うるさ)いの二(ふた)通りに区別される。前者は言うまでもなく、騒音めいて喧(やかま)しい…と思う場合で、後者は物事をするのが億劫(おっくう)になる気分である。
 とある家庭の一場面である。勉強部屋で小学校4年になった姉が予習らしきことをしている。その隣(とな)りの居間では、ピッカピカの1年生になった弟が煎餅(せんべい)をバリバリッ! と齧(かじ)りながら畳(たたみ)の上に横柄(おうへい)に寝転(ねころ)び、楽しみにしていた戦隊もののテレビ番組を観ている。
「五月蝿いわねっ!! ちょっと、音、小さくしてよっ!!」
「チェッ! …」
 小さく舌打ちして、弟は不承不承(ふしょうぶしょう)、リモコンの音声を下げる。すっかり集中力を削(そ)がれた姉は、空腹(くうふく)を覚(おぼ)え、予習を続けることが煩くなる。
「ママ、夕飯、まだっ!!」
 言わなくてもいいのに、姉はキッチンへ聞こえるよう、大声を出す。
「五月蝿いわねっ!! もう、出来るわよっ!!」
 母親はヒステリックな声をキッチンから勉強部屋へ返す。姉の声に慌(あわ)てたものだから、母親は炒(いた)めものの惣菜(そうざい)を焦(こ)がしてしまう。一端(いったん)は作り直そう…と思ったものの、母親は煩い…と気分が変わり、携帯で店屋物(てんやもの)を注文する。
「ただ今っ!」
 そこへ、職場の上司に散々(さんざん)、嫌味(いやみ)を言われ、五月蝿いっ! と聞いていた父親が帰宅する。
 人々は、うるさい・・に向かい合って暮らしているのだ。^^

          
                   完

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2019年1月19日 (土)

暮らしのユーモア短編集-33- 軽く出る

 一歩、外へ出れば、世の中の姿はどう変化しているか分からない。買おう! と出たまではよかったが、最近まであった店が消えて空き地になっていたり、建て変わっていたりすれぱ、面食らって困ることになる。まあ、これに限ったことではないが、こういう事態を想定して軽く出る・・という発想と行動こそが大切だ。何がなんでもっ! と力(りき)んで、その目的達成だけを考えていれば、ガックリ! と気落ちしてしまうことになる。
 立鼻(たちばな)は、ずっと考えていた買物に出かけた。しかし、彼は以前の失敗を経験していたから、二の轍(てつ)を踏むことだけは避(さ)けたいと思い、重く出ず、軽く出た。要は、まあ、店が開いていたら、買い物ついでに…くらいの気分である。囲碁の世界だと、こういう気分の劫(コウ)を花見劫と言い、成功すればいいが不成功でも、まあいいさ…的な打ち手になるという。それは兎(と)も角(かく)として、立鼻は家を軽く出ることにしたのである。
 目的のドラッグストアは残念ながら存在しなかった。
『あれっ? 確か2年ほど前はあったが…』
 そう思いながら立鼻は辺(あた)りの店をキョロキョロと見回した。だがやはり目的の店はなく、空き地になっていた。
「まあ、いいか…」
 立鼻はそう軽く呟(つぶや)くと、隣(となり)のスーパーへ軽く歩(ほ)を進めた。こういうこともあろうかと…的に買い物袋は持って出ていたから、なんの不都合もなくスンナリと買い物を終えることが出来た。
『フフフ…まあ、世の中とはこんなものさ…』
 立鼻は人生を達観したようなゆとり気分で偉(えら)そうに北叟笑(ほくそえ)んだ。
 軽く出ると、ゆとりも生まれるようだ。^^

         
                  完

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2019年1月18日 (金)

暮らしのユーモア短編集-32- 勝つということ

 私達が生きる社会では、否応(いやおう)なしに勝ち負けの結果を求められる。表立って勝ち負け・・とは言わないことでも、結果を残せたか否かにより、自ずと表面化するのだから怖(こわ)い。通知簿の成績が2などというのは、明らかに負けのように見える。だがっ! だがっ! である。果たしてそれが本人にとって負けなのかといえば、必ずしも、そう! とは断言(だんげん)できないのだ。それを言い換えれば、必ずしも勝つということではない・・と言える。それほど、勝つということは何をもってそう言えるのかの定義が難しい・・ということに他ならない。多大な犠牲を払って戦争に負けた結果、修羅から解放され、平和な国に暮らせる・・という我が国の現実もあるのだ。勝つということは負けることが許されず、完全に負けるまで戦うことを余儀なくされることを意味し、勝つということでは決してない・・と逆に言える訳だ。人に勝とうとした瞬間、その人は、すでに自(みずか)らに負けている・・と言える。
 新しく結成されたとある町の将棋同好会の一場面である。将棋愛好家の老人達が対峙(たいじ)して将棋を指している。
「いやいやいや…優勝までは昼抜きですっ!」
「そうですかぁ~? それじゃ、私はこれで…。もう負けましたから…」
「ああ、どうぞどうぞっ!」
「では、お先に…」
 一人の老人は早々と負けたことにより、美味(おい)しい肝吸(きもす)い付きの鰻重(うなじゅう)を賞味(しょうみ)し、勝ち続ける老人は、空腹の腹を抱えながら将棋盤に向き合う・・という、なんとも皮肉な時の進行を辿(たど)ることになった。
 勝つということは、実に判断が微妙(びみょう)~~なのである。^^

         
                   完

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2019年1月17日 (木)

暮らしのユーモア短編集-31- 巻き幅(はば)

 とある大学院の経済学研究所に月代(つきしろ)という風変わりな教授がいた。彼は商品学を教授する一介(いっかい)の教授だったが、いつの頃からか妙な発想にとり憑(つ)かれ、今では自宅へも帰らず研究所に入り浸(びた)っては寝泊(ねとま)りするまでになっていた。彼が研究する対象とはトイレット・ぺーパーである。彼は過去数十年に渡るトイレット・ぺーパーの材質、形状、価格を密(ひそ)かにデータ化し、その数値変化のシミュレーションを比較予測することで国力[経済力]の衰微を解き明かそうとしていたのである。
「うむ…。5年前は半径45mmだったものが、今現在は35mmか…。ということはだっ! 単純に考えれば、この5年で35/45=7/9・・ということは…」
 呟(つぶや)きながら、月代は右横に置いた電卓のキーを押し始めた。するとその答えは、たちまち液晶文字となって浮かび上がった。0.7777…である。
「77.8%か…。ということはだっ! 5年前より22%以上も減衰していることになる。これはっ、ゆゆしきことだっ! むろん、もう少し詳しく解析(かいせき)せにゃならんがっ…」
 月代は国の未来を憂(うれ)い、そう呟(つぶや)きながら思わず身震(みぶる)いした。
「これは、捨て置けんぞっ! さっそく論文化し、学会で発表だっ!」
 月代がソワソワし出したそのとき、現れたのが助手の日下(くさか)である。
「どうかしたんですかっ、先生! バタバタされて…」
「ああ、日下君か…。私は、こうはしちゃいられんのだっ! 午後の講義は君が代講してくれっ!」
「ええっ! 僕がですかっ!」
 やってきた思わぬチャンスに、日下は思わず北叟笑(ほくそえ)んだ。そして、加えた。
「そうそう! 先生、研究室のトイレット・ぺーパー、切れてたんで、立て替えて買っときましたっ!」
 日下は片手を月代の前へ突き出し、代金を催促(さいそく)した。
「それそれ! その巻き幅(はば)なんだよっ、君っ!!」
「えっ?」
 日下は意味が分らず、訝(いぶか)しげに月代を見た。
 国力の衰微(すいび)は分りやすいところに潜(ひそ)んでいるようだ。^^

                          完

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2019年1月16日 (水)

暮らしのユーモア短編集-30- 弱い者いじめ

 春の大型連休が終わり、巷(ちまた)では税金の納付(のうふ)が本格化する、人々にとっては惨(みじ)めなシーズンを迎(むか)えていた。
 コンビニで納税を終えた鰯雲(いわしぐも)は季節に合わないような浮かぬ顔、正確に言えば組織的で高度な国家的振り込め詐欺(さぎ)に振り込んだような顔で店を出た。内心には、一年前、軽自動車税が¥7,200から¥12,900に大幅アップされた怒りが渦巻いていた。そして今年も、鰯雲としては大金の¥12,900を振り込み、コンビニを出たのである。そこでバッタリと遭遇(そうぐう)したのが近所の桃花(ももか)だ。桃花は季節に合った陽気な顔で鰯雲に声をかけた。
「どうされました、鰯雲さん? 浮かぬ顔で?」
「税金ですよ、税金っ!」
「ああ、税金ですか…。それが何か?」
「何かもカニかもありませんよっ!!」
 カニは美味(うま)いなぁ…と思いながらも、鰯雲の怒りは燃え盛(さか)る炎(ほのお)のように益々(ますます)、増幅(ぞうふく)されていった。
「…どういうことですっ?」
「弱い者いじめの¥5,700アップですよっ!!」
「はあ…。何がっ?」
「軽自動車税ですよっ!! 累進課税(るいしんかぜい)の税率、なんとかならんのですかねぇ~!」
「…どういうことですっ?」
 桃花は、ふたたび、どういうことですっ? を繰り返した。
「せめて、私ら年間所得が¥200万以下の者は税率を低くして欲しいってことです。¥500万以上の徴収(ちょうしゅう)出来る所帯、あるでしょ!?」
「ええまあ、あるでしょうが、私に言われても…」
「でしょ!!?」
「はあ…」
「なんとかなりませんかっ!!?」
「私に言われても…」
 桃花は、ふたたび、私に言われても…を繰り返した。
 弱い者いじめは続いていくようだ。

          
                   完

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2019年1月15日 (火)

暮らしのユーモア短編集-29- 細々(ほそぼそ)と

 大きくて強く、向かうところ敵なし・・というのが、世の中を生きる私達にとって安心でき、目指すところだろう。押しただけで倒れそうなひ弱な組織はどうしても煙(けむ)たがられる。むろん、健康面においても同様で、頑健(がんけん)な身体であるに越したことはない・・と一般では思われるところだ。ところが、実はそうでもないのである。細々(ほそぼそ)とした身体でありながら長生きしたり、頑健な身体でポックリと早死にする・・といった事例が事実あるのだ。それは組織でも同じで、細々と商(あきな)う老舗(しにせ)が続き、えっ! あの企業が倒産っ! と、耳を疑(うたが)いたくなる大企業が消え去るといった事実が厳然(げんぜん)と存在するのである。
「元久保さん、どうされましたっ!? そんなに、おやつれになって」
「ああ、これは伊井さん! いや、私は至って体調がいいんですよっ!」
「そうなんですか?」
「ええ、見た目とは逆で申し訳ないんですが…」
「ははは…お謝(あやま)りになることはないと思いますがっ。それにしても、細々とされた身体ですが…」
「ええ、太るとダメな体質なんです、私」
「そういや、小遅川(こおそがわ)さん、お悪いとか…」
「ええ~っ!! それは初耳です。先だってお会いしたときは、よく太られて、美味(おい)しそう、…いや、失礼! 健康そうにお見かけしたんですがっ」
「分からないもんですねぇ~」
「はい、確かに…」
 二人は沈黙して頷(うなず)いた。
 細々と・・は、安全の信号[シグナル]なのかも知れない。

        
                   完

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2019年1月14日 (月)

暮らしのユーモア短編集-28- 努力

 とある高校の進路指導室である。担当の教師が一人の生徒と対峙(たいじ)して座り、データらしきファイルを見ながら相談に乗っている。
「…まあ、この偏差値からすればだっ! すればだよ、君。飽くまでも、すればっ! の話だ。するんじゃないよっ! すればだっ!」
「はいっ!」
「うん! すれば、ソノ大学というのは、どうなんだろうねぇ~」
「ダメでしょうか?」
「まあ、努力次第ということもあるからダメとは言わんが。ははは…マグレ、奇跡ってこともあるにはあるしなっ!」
「あるんですかっ?」
「ああ、あるにはあるが、マグレ、奇跡が起こる確率が極(きわ)めて低いっ!… 確率は数3だったな、確か…。まあ、関係はないがっ。そこへいくと、コノ大学だと、ほぼ100%大丈夫なんだがな…」
 生徒は大学もさりながら、この教師、大丈夫かっ! と瞬間、思った。
「分かりました。…考えてみます。どうも有難うございました」
 生徒にとって全然、あり難くなかったが、一応、そう言うと指導室を出た。生徒は努力してソノ大学を受けてみよう…と思った。なんとなく合格しそうな気がした。

         
                   完

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2019年1月13日 (日)

暮らしのユーモア短編集-27- 最大効果

 人間社会では、どのような場合にも言えることだが、最大効果を得る・・というのが、物事を実施する場合の必要不可欠の鉄則(てっそく)となる。確かに、多大の犠牲(ぎせい)を払った挙句(あげく)、ぅぅぅ…と涙するような突破、完成という事態もあるが、はっきり言って、犠牲は最小限にとどめねばならない。
 春とはいえ、五月半ばの日中ともなると、さすがに暑くなってくるから、早朝、夕暮れどきの作業の方が、汗の出が少なくて済む。
 整枝を終えた切り枝が畑に置かれている。昨日の切り枝だから、まだ生々しい。農川は深く考えもせず、草焼機で焼却を始めた。ところがである。11時を回った頃で、すでに辺りの気温は25℃近くにもなろうとしていた。深い考えもなかったから当然、長袖(ながそで)である。最初の数分はよかったが、たちまち身体に汗が出始めた。やがてその汗は、下着を濡らすまでになってきた。このままではビッショリした汗で濡れ鼠(ねずみ)になることは必定だった。農川は体内の全軍に撤退命令を下した。家の中へ入り、とりあえず着替えをした農川は、ふと、巡った。この焼却の最大効果を得るには、1.として、数日、そのまま置いておいて天日(てんび)干(ぼ)しにし、十分に乾燥させる。2.として、早朝や夕方の冷んやりした頃に焼却する・・といった最大効果を得る方法が浮かんだ。これだっ! これを先に思いつかなければ、司令官としては失格だっ! とジェネラル[アメリカの将官]にでもなった気分で偉(えら)そうに思った。汗は掻くわっ、着替えは出るわっ、疲れるわっ・・で農川の体は戦闘で多くの犠牲を出していた。サッパリの農川はジェネラルは無理だな…と思った。ただ、それに気づいたのだから、見込みはあるにはあるのだが…。^^
 このように最大効果を得るには、まず犠牲を最小限に食い止める・・ということが、何よりも必要となる。

 ※ 最近の日本は暮らしにくくなり、野焼きは出来ないそうですから、ご注意をっ! ^^

         
                  完

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2019年1月12日 (土)

暮らしのユーモア短編集-26- 最新情報

 ネット社会となり、最新情報が素早(すばや)く入手できる世の中になった昨今(さっこん)、私達は得た最新情報を利用し、右や左と行動をしている。もはや、最新情報を抜きには語れず、相手を交えた会話にも取り残されてしまう厄介(やっかい)な時代に立ち至っている。個人も企業も国も地方自治体も、さらには情報を得て動く警察、消防、気象etc.最新情報を必要とする人々は枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がない。
 公園の長閑(のどか)な木漏(こも)れ日の中、二人の初老の男がベンチに座り、暇(ひま)そうに話をしている。
「いやぁ~、売り切れならいいんですがね。この駅では販売してませんっ! と、こうですわっ! すみません」
「ははは…そうでしたか。久々の駅弁・・楽しみにしとったんですがねっ!」
「まあ、手ぶら・・というのもなんなんで、コンビニ弁当は買ってきました…」
「腹が膨(ふく)れりゃ、なんでもよかったんですがね。…いや、残念! 駅弁の夢を見たもんで、つい食べたくなりまして…」
「ははは…駅弁が夢に出ましたかっ!」
「はいっ! ははは…駅弁が歩いとりました。それで、起きて早速(さっそく)、ネットで駅販売の確認をしたんですがねっ!」
「どうでしたっ?」
「いや、それが、出ていたことは出ていたんですがね。10年ほど前から更新のないホームページで、こんなことに…」
「なるほどっ! 古い情報でしたか。10年前は売られていたんだ…」
「ええ、まあそのような…。私のうっかりミスでした」
「ははは…最新情報は大事ですなっ!」
 二人はすっかり話に夢中になり、時の経つのを忘れてしまっていた。
「あっ! もうこんな時間か…。食べますかっ?」
「ああ、そうしましょう…」
 二人が食べ始めたそのときである。喉(のど)を潤(うるお)すお茶がないことに二人は気づいた。
「しまった! 弱りましたな…」
「水道の水をフタで…」
 一人の男の提案を詳述(しょうじゅつ)すれば、こうである。コンビニ弁当の人工樹脂のフタをコップがわりにし、水道の水を注(そそ)ぎ入れて飲む・・というものだ。
「そりゃ、いい!」
 二人はニンマリと笑(え)みを浮かべた。が、それは甘かった。水道は、ひと月前から断水していたのである。二人は最新情報を知らなかった。
 最新情報の確認は大事・・ということだ。^^

        
                   完

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2019年1月11日 (金)

暮らしのユーモア短編集-25- 品種

 春の風物詩として、イチゴは欠かせない。
 久しぶりに心地よい風が流れる休日、数人の中年や初老の男達が、とある公園のベンチに座り、暇(ひま)そうに語らっている。
「いや! 断然、あま姫、でしょう!」
「いやいや、世の中、そうは甘くないっ! そこは当然、春ほのか、じゃないとっ!」
「そういや、春ほのかは少し渋(しぶ)めでしたねっ! しかし、私はダントツで豚王(ぶたおう)ですねっ! あれは、いいっ! 実に美味(うま)いっ!」
「いやいやいや、美味いかどうかは知りませんが、豚王・・名が悪いっ! いかにも臭(にお)いそうな…」
「そうかも、知れませんがねっ! 一度食べてみなさいよ、あんたっ! 病(や)みつきになること、請(う)け合いですっ!」
「豚王・・そんなに美味しいですか? 豚の生姜(しょうが)焼きは確かに美味(おい)しいですが…」
「そんなことを言ってるんじゃないっ! イチゴですよ、イチゴっ!」
「ははは…イチゴは分かってますよ。冗談ですよっ、冗談っ!」
「どんな品種でもいいじゃないですかっ! 本人が美味いと感じりゃ。違いますかっ?」
 一同がその男の顔を見た。
「確かに…」
 そして、静かに全員が頷(うなず)いた。
 食べる人が美味いと感じれば、よく知られていても知られていなくても品種は関係ないのである。

         
                   完

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2019年1月10日 (木)

暮らしのユーモア短編集-24- 連休

 どういう訳か、人がザワザワと動き出すのが連休というやつだ。各地の高速道路に渋滞(じゅうたい)が起こり、料金を払って早く目的地へ着けず、いや、それどころか、普通の道路を走っているより遅く着く・・という結果が分かっているにもかかわらず、人々は我先にっ! と、馬鹿のように高速道路へと群(むら)がるのである。この民族はアホなのかっ!? と、思わず首を傾(かたむ)けたくなるような現象だが、懲(こ)りもせず、連休ともなれば毎年、必ず起こるのだから不思議だ。
 お隣(となり)同士の会話である。
「そろそろソワソワする季節ですなっ! 綿岡さん」
「ああ、これは絹川さんっ! ははは…まあ、そういうことです」
「また、高速ですかっ?」
「いや、今年は、のんびり出ようと思っとります」
「と、言われますと?」
「ははは…線路を、ですわっ!」
「なるほど、列車で、ですか。確かに、列車だと眠れますからなっ!」
「そうそう! 安全で確実です…」
「連休に疲れては、元も子もないっ!」
「ええ。それにしても、連休になると動きたくなるというのは、どうなんでしょうな?」
「条件反射・・というヤツじゃないですか?」
「パブロフの犬ですか?」
「まあ、犬に限(かぎ)ったことじゃないとは思いますが…」
「ははは…上手(うま)いっ!」
 連休はダジャレを生む暮らしの一場面でもあるようだ。

        
                   完

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2019年1月 9日 (水)

暮らしのユーモア短編集-23- 期待感

 暮らしの中で日々、過ごしていると、誰にも、ああなって欲しい…とか、こうなって欲しい…とかの期待感が生まれる。ただ、世の中は無情にもその期待感を達成させず、うち砕いたり、無意味にさせたり、ときには失望にも変えてしまうのだから怖(こわ)い。
「いや~、上手(うま)くいくと思っとったんですがね。そうは問屋が卸(おろ)しませんっ!」
「卸さなかったですかっ!」
「ええええ、そらもう、卸さないどころか、入り口に本日は臨時休業の張り紙ですわっ!」
「ははは…そりゃ、お気の毒なことでっ!」
「いやまあ…。お気の毒、と言われるほどの期待感は抱いとりませんでしたが…」
「ダメ元(もと)くらいの?」
「はあ、まあ…」
「それくらいで、よかったですよ。ぅぅぅ…と泣きの涙の期待感もアリますからなっ!」
「はあ。まあ孰(いず)れにしろ、期待感は低い方がよさそうですな」
「確かに…」
 この男の残念だった期待感は20%引きの売れ残りパックの存在だった。
 期待感にはセコいのもアリなのである。^^

        
                  完

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2019年1月 8日 (火)

暮らしのユーモア短編集-22- 長閑(のどか)さ

 どんどんと時代が進んでいくと、小忙(こぜわ)しさが増すのは不思議だ。確かに便利になったり生活水準が高くなったりするメリットはあるが、長閑(のどか)さが消えたり悪い事件が増えたり・・と当然、デメリットも増える。取り分け、ゆったり感がなくなるのは困りものである。
とある喫茶店で語り合う二人の老人の会話である。
「あの頃はよかったですねぇ~川桃(かわもも)さん」
「そうそう、そうでしたな、浦島(うらしま)さん。ゆったりした長閑さがありました」
「貧しかったですがな…」
「はい! 子供の頃は鉄屑(てつくず)や銅線を拾い集めて売ってましたよ」
「そうでしたな…。竿秤(さおばかり)で量(はか)ってもらってね」
「そうでした…。日曜の朝は神社を掃(は)いたあと、お寺を掃いて…」
「そうそう! それから子供会でした」
「車も通りませんでしたな…」
「ははは…あの頃は車なんて高嶺(たかね)の花でしたよ」
「せいぜい、自転車でした…」
「しかし、長閑さが、たっぷりありました」
「そうそう! 時間には追われなかったですなぁ~。遊び道具ものんびりと作れました」
「はい…。不便でも長閑さがあれば、いいのかも知れませんな」
「ははは…だいいち、人が暮らしの中でルーズになりません。自分で考え、自分でするしかないですからなっ!」
「それは言えるっ!」
「工夫して物を活用しますっ! ですから当然、頭を使いますっ!」
「そうなると、工夫することが楽しくなりますっ!」
「そうそう! 結局、長閑さのある生活が一番・・ということですかっ?」
「まあ、そういうことでしょうなっ!」
 二人はウダウダと5時間ばかり話し合った挙句、ようやく溜飲(りゅういん)を下げたのか、残ったコーヒーを啜(すす)り、重い腰を上げた。
 どうも、暮らしやすくするために小忙しく文明を進めるだけが人類にとっての得策(とくさく)ではないようである。長閑さ・・がある暮らし・・これが一番! なのかも知れない。^^

         
                   完

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2019年1月 7日 (月)

暮らしのユーモア短編集-21- 除草効果

 朝早くから田所(たどころ)は伸び始めた裏地の草を小まめに鎌(かま)で除草していた。
「ご精が出ますなっ!」
 そこへ声をかけたのは隣家の主人、沼田(ぬまた)だ。沼田の手には最新式の草刈機が持たれ、その先端部の刃(は)先は轟音(ごうおん)を立てて除草をしていた。
「ああ、これは沼田さん。いやいや、そちらこそ、ご精が出ます」
 お互いに紋切り型の挨拶を終えると、二人は離れて作業を続けた。
『ありゃ、時間がかかるな…』
 沼田はフフッ! と鼻であしらうように田所をチラ見した。
『ありゃ、すぐまた伸びるな…』
 その1分後、田所は田所で、フフッ! と鼻であしらうように沼田をチラ見した。
 確かに双方の発想は、どちらも間違ってはいなかった。ただ、効果として時間と持続性の違いがあった。田所の方は時間がかかりそうだったが、除草効果が長く、沼田の方は短時間で済みそうだったが、除草効果が短かった。
 どちらが、いいとも悪いとも言わないが、二度手間、三度手間・・とかかることを思えば、効果が長い方がいいのかも知れない。^^

       
                   完

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2019年1月 6日 (日)

暮らしのユーモア短編集-20- 能ある鷹(たか)

 諺(ことわざ)に、━ 能ある鷹は爪を隠す ━ というのがある。だが、今の世の中では通用しないのだ。どちらかといえば、━ 能ある鷹は爪を研(と)ぐ ━ と言い直した方がいい時代なのかも知れない。
「いつもご精が出ますね、今釜(いまがま)さん…。私はこれで…」
 労働基準法36条の協定を組合が結んだことで残業の時間が延長され、今釜はいつも帰宅する時間より遅くまで残業していた。いつもなら切りをつけて多少、遅くなっても、6時迄には社を出ていたのである。それが、この日はすでに7時を回っていた。
「ああ、方丈(ほうじょう)さんでしたか。ははは…そんな訳でもないんですがね」
 今釜はニッコリ笑って暈(ぼか)したが、それは態(てい)のよいカムフラージュ[偽装工作]で、能ある鷹の今釜は、密(ひそ)かに爪を研いでいたのである。というのも、二日後に内示される人事異動で今釜は課長代理から課長補佐への昇格の噂(うわさ)が社内で広がっていたのだ。当然、その話は今釜の耳にも入る訳で、爪を研ぐ・・と、まあ、こうなる訳だ。今釜の隣りのデスクに座る多岐田(たきだ)も、そんな今釜を援護(えんご)する訳でもないのだろうが、早々と帰宅していた。
 そして、運命の二日後となった。
「今釜さん、ちょっと…」
 課長の葦刈(あしかり)が今釜を課長席へ呼び出した。今釜としては、ヨッシャ! 気分である。
「実は…」
「はいっ!」
「課長補佐なんだがね…。王田(おうだ)君に決まったよ。君は、このまま、よろしく頼むよ…」
「そうでしたか。分かりました…」
 今釜は使用後から使用前に戻(もど)ったような気落ちした声で呟(つぶや)いた。
「いや~悪いねっ!」
「いいえ…」
 そう口にした今釜だったが、内心では、ほんとに悪い噂だっ!! と怒れていた。今釜以上に爪を研いでいた能ある鷹の王田に今釜は破れ去ったのである。これが世に有名でない、能ある鷹の話である。

         
                   完

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2019年1月 5日 (土)

暮らしのユーモア短編集-19- 活性化

 春ともなれば植物は活(い)き活きと勢(いきお)いを増し、動物・・取り分け、人はムラムラと旺盛(おうせい)な欲を出し始める。動植物とも、総じて活性化する訳だ。食欲の秋・・とか言いながら、春でも都合のいい、食欲の春・・なのである。まあ、新陳代謝が温暖な気候で活性化し、自然と食欲が出るのだろうが、都合のいい話ではある。
 とある老人会の一場面である。うららかな春の陽気に活性化して語り合う二人の老人がいる。
「ほう! 血色のよい顔になられましたなっ、平林さんっ!」
「ありがとうございます。あなたもお元気そうで…。お蔭(かげ)さまで体の調子もすっかり元通りになりました」
「活性化された訳ですなっ!」
「ははは…まあ、そのようなっ! 春先のことですからっ!」
「はあ、そらそうです。そういや、小腹が空(す)いてきましたなっ!」
「ええ、なんか、活性化してきましたっ!」
「いつものあそこで、どうですっ?!」
「そうですなっ! パッと活性化しますかっ!」
「そうそう、活性化、活性化!!」
 二人は老人会をコッソリ抜け出し、いつも馴染(なじ)みにしている食事処へと湿気(しけ)込んだ。
 活性化により、人は目的を果たすためシケ込むようである。^^

        
                   完

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2019年1月 4日 (金)

暮らしのユーモア短編集-18- それはないっ!

 美人やイケメンの俳優さん、女優さん、タレントさん、声優さん・・などに憧(あこが)れ、思わず淡(あわ)い恋心(こいごころ)を抱(いだ)く。さらに高(こう)じて惚(ほ)れてしまい、さらに高じてオッカケとなる人の心は分からないものだ。ただ一つ、言えることは、それがどうなる・・という性質のものではないということである。要は縁遠く、慶事に至る、それはないっ! ということだ。普通の世界で生きる私達人間が芸能の世界に生きる人々とは結びつかない・・ということに他ならない。そうだから・・とはいえ、心が傾いていくことが取り分け悪い・・ということではない。それはないっ! が、否定できるものでもないということだ。本人がそれで得心しているのであれば、赤の他人が、とやかく言う筋合いの話ではない訳である。
 大学の生協食堂で食事をしながら二人の学生が語り合っている。
「かなり彼女に入れあげてるねぇ~、あいつっ!」
「まあ、仕方ないさっ! 結構、可愛(かわい)いタレントだからなっ!」
「そうかな? 俺の好みじゃないんだが…。どちらかといえば、嫌いなブス・タイプだっ」
「ははは…言うねっ! 俺は、いい線いってると思うが、まあ、好みの問題だから…」
「それは、そうだ。…だが、あいつは、彼女を恋愛対象にしてるぜっ。今や、オッカケだからな」
「ははは…馬鹿、いや、アホだよ、それは」
「放送局志望もそれだっ! 入局して、上手くコネをつけて、で、恋愛、結婚へかっ!」
「それはないっ!」
 確かに高い確率で、それはないっ! だろう。^^

          
                   完

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2019年1月 3日 (木)

暮らしのユーモア短編集-17- 閃(ひらめ)き

 私達が日々、過ごしている暮らしの中で、なんの前触(まえぶ)れもなく、ふとした拍子(ひょうし)に閃(ひらめ)きが生じることがある。それが今やっていることと全(まった)く関係がない場合、思わず、さてどうしたものか? と躊躇(ちゅうちょ)させ、手を止まらせることになる。今やっていることと閃きの内容とが頭の中でどちらを優先させるか? と選択を迫(せま)る訳だ。
「よしっ! 先にするかっ!!」
 とある食品生産工場である。場長の蛸原(たこはら)も、閃きが生じたことで迷いに迷っていた。蛸原は他の従業員にそう指示を出した。
「分かりましたっ!」
 一人の副長は指示に従った。
「場長、それでは間に合わないと存じますがっ!」
 もう一人の副長は異議を唱(とな)えた。
「場長が、そうするっ! 言われたんだから、それでいいだろうがっ!」
「なにっ!」
 諍(いさか)いが始まった。以前から二人の副長は仲が悪く、衝突することが多かったのである。
「まあ! 二人ともっ! ともかく、やってみようじゃないか…」
 蛸原が止めに入った。
「分かりました…」
 異議を唱えた副長も渋々(しぶしぶ)、頷(うなず)いた。
 結果はどうだったか? 私としては知らせたくないのだが、ここは、読者のために知らせねばならないだろう。その結果は惨憺(さんたん)たるものだった。ことのほか時を要し、関ヶ原の戦いには間に合わなかったのである。言っておくが、壬申の乱の方ではなく、西暦1600年の例の戦いである。場長、蛸原が先代に叱責(しっせき)を受けたか? までは定かではない。^^

         
                   完

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2019年1月 2日 (水)

暮らしのユーモア短編集-16- 次元考察

 とある公園のベンチである。二人の老いた男が座って語り合っている。
「最近、人を見ることが、めっきり減りましたなっ!」
「ええええ。車や機械はよく動いてますが…」
「そうそう! 車は五月蝿(うるさ)いほど走り回ってますなっ!」
「どうなんです?」
「なにがっ?」
「3次元の車が動いているというのは?」
「3次元の物体が動いているんですから4次元…ですわなっ!」
「ああ! まあ、そうなりますか…」
「ということは、ですよっ! 走る車の中から見える世界は5次元・・ということですか?」
「私に訊(き)かれても…」
「今日は散歩のつもりでこの公園へ歩いて来ましたが、こういう場合は、どうなんですっ?」
「なにがっ?」
「車ではなかったですが、3次元の私達が歩いて動いたってことです」
「それは、あんたっ! 歩き始めた瞬間から、私達は単なる点、要するに3次元物質ではなく1次元物質なんですよっ!」
「ということは、ですよ。歩いている私達が見ている世界は2次元世界ということになりますが…」
「そうそう! おっしゃるとおりっ!」
「ほんと、ですかぁ~?」
「いやまあ…。飽(あ)くまでも一つの考察ですよっ、ははは…」
 訊いた男も笑った男も本当のところは分からなかった。ほぼ停止した春の景色の中を、時間[t]だけが二人の周りを長閑(のどか)に流れていた。これが幸せな次元空間らしい。^^

       
                  完

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2019年1月 1日 (火)

暮らしのユーモア短編集-15- ぞんざい

 ぞんざい・・とは、いい加減なコトの処理に対して叱(しか)る意味で遣(つか)われる言葉である。大雑把(おおざっぱ)もこれに近い表現方法となる。これが程よくぞんざいな場合だと、大まか・・へと変化する。今の時代なら、ザックリなどと言われ、よい意味へ化(ば)けるのだから日本語は不思議で怖(こわ)い。
 とある市役所で市街化計画の策定作業が大詰めを迎えている。町の景観を大きく変化させるもので、A案~C案の3プランが最終プランとして残り、建設部・都市計画課・市街化プロジェクトチームはその決定に苦慮(くりょ)していた。
「君はそう言うがね。B案はダメだよ、B案はっ!! ぞんざい、だよっ!」
「課長はそう言われますがねっ!! 私はザックリした、いい案だと思ってるんですっ!」
 課長補佐の肘机(ひじき)が課長の弘薄(ひろうす)にイチャモンをつけた。ここは言わないとっ! と、意を決しての反発である。
「私がダメだと言っとるんだから、ダメなんだよっ! 大雑把過ぎるよっ! ぞんざい、ぞんざいっ!!」
「すると課長は、どうしてもA案が最善だとおっしゃる訳ですねっ!!」
 肘机も少し意固地(いこじ)になってきた。
「ああ、当然だっ!」
 そこへ割って入らなくてもいいのに割って入ったのが係長の煮漬(につけ)である。
「まあまあ、お二方(ふたかた)。ここは、私のC案で手を打たれてはどうかと…」
 次の瞬間、弘薄も肘机も異口同音(いくどうおん)に口走った。
「ぞんざい、ぞんざいっ!!」「ぞんざい、ぞんざいっ!!」
 煮漬は、いらんことを言った…と自省(じせい)して押し黙り、身を小さくした。煮
自身が、ぞんざいな存在になってしまったのである。

         
                   完

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