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2019年3月16日 (土)

暮らしのユーモア短編集-89- 品種(ひんしゅ)

 暮らしの中で、物には他(ほか)と区別するため、すべてに名が付けられている。動物は無論のことで、植物もまた然(しか)りである。品種(ひんしゅ)と呼ばれ、便宜上(べんぎじょう)、グループで区分けされている。生物以外の単なる物にも種類別に詳細(しょうさい)な名前が付けられており、入手しやすくなっている。意味的には同じで、品種といえば品種だ。^^
 春遅(はるおそ)い候である。とある園芸店の店先(みせさき)で、老いた冬服姿の紳士が立ち止まり、展示(てんじ)された花鉢(はなばち)をシゲシゲと見ている。
「どうです! 綺麗(きれい)に咲いてるでしょ! ひと鉢、どうですっ!?}
 如雨露(じょうろ)を片手に持ち、水遣(みずや)りに店内から出てきた店主が、元気よく紳士に声をかけた。
「ああ、どうも…。この花は、なんという品種です?」
「ああ! これはチョウゲですっ!」
「? …チョウゲ? どう書くんです?」
「えっ? ああ、それは…どうでしたかね、ははは…」
 店主は分からず、笑って暈(ぼか)した。
「品種はダンチョウゲとか聞きました。三日ほど前、入荷(にゅうか)したんですよっ! うちの家内(かない)なら詳(くわ)しいことを知ってると思うんですが…。奥にいるんで、呼びましょうか?」
「いや、結構です…。いやぁ~、それにしても、この白い小花がなんとも粋(いき)ですなっ!」
「ですよねっ!」
 店主は別にどうも感じていなかったが、客あしらいとして話を合わせた。店主は別のことを考えていた。この暑いのに、冬服とはっ! この紳士、どういう品種なんだろう…と。もちろん、そんな失礼なことを口に出来ないから、思うに留(とど)めて、である。たが、ついに、暑さのせいで本音(ほんね)が出た。
「今日は蒸(む)しますなぁ~!」
 店主は額(ひたい)に噴(ふ)き出した汗を手拭(てぬぐ)いで拭いながら、呟(つぶや)くように漏(も)らした。
「そうですか? 私は、さほど…」
 それを聞いた店主は、この冷性(ひえしょう)の紳士、どういう品種なんだろう・? と、益々(ますます)、知りたくなった。
「あの…日本の方ですよねっ?」
「はい、もちろん!」
「…暑くないんですかっ?」
「ああ! この服ですかっ。ははは…、ほらっ!」
 紳士は背広の裏を垣間(かいま)見せた。背広服の裏には、保冷剤がビッシリと張り詰められていた。
「ああ…」
 店主は、なんだ、ただの同じ品種か…と捨(す)て鉢(ばち)に思った。

       
                   完

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